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【発明の名称】 傾斜膜の製造方法および装置
【発明者】 【氏名】愛知 靖浩
【住所又は居所】東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キヤノン株式会社内

【要約】 【課題】膜厚方向に連続的または不連続的に組成変化を持つ膜を、低コストで且つ容易に成膜する方法を提供する。

【解決手段】スプレー熱分解法を用いて異種元素の組成変化に対し、噴霧前に複数の原料を混合する方法と噴霧しながら混合するマルチノズルを用いる方法で連続的な組成変化を有する組成傾斜膜や不連続な多層膜を容易に作成した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 二種類以上の異種元素からなり、膜厚方向に対して連続的、または不連続的に組成が変化している組成変化膜をスプレー熱分解法により成膜する方法。
【請求項2】 二種類以上の異種元素からなり、膜厚方向に対して連続的、または不連続的に組成が変化する組成変化膜をスプレー熱分解法により成膜する方法において、異なる組成のスプレー噴霧液をスプレーノズルに導入する前に所望の噴霧量比で混合した後、一つのスプレーノズルから噴霧することにより、傾斜膜の組成を変化させる方法。
【請求項3】 二種類以上の異種元素からなり、膜厚方向に対して連続的、または不連続的に組成が変化する組成変化膜をスプレー熱分解法により成膜する方法において、異なる組成のスプレー噴霧液をそれぞれ異なるスプレーノズルから所望の噴霧量比でスプレーすることにより、傾斜膜の組成を変化させる方法。
【請求項4】 二種類以上の異種元素からなり、膜厚方向に対して連続的、または不連続的に組成が変化する組成変化膜をスプレー熱分解法により成膜する方法において、異なる組成のスプレー噴霧液をスプレーノズルに導入する前に所望の噴霧量比で混合した後、一つのスプレーノズルから噴霧することにより、傾斜膜の組成を変化させるために予め設定した組成比のとおりに噴霧液を混合させる機構を備えたスプレー熱分解装置。
【請求項5】 二種類以上の異種元素からなり、膜厚方向に対して連続的、または不連続的に組成が変化する組成変化膜をスプレー熱分解法により成膜する方法複数のノズルを有し、予め設定した組成比となるように噴霧量を調整する機構を備えたスプレー熱分解装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明方法は、例えば光学素子の表面にコーティングする光学薄膜材料等において、膜厚方向に向かって連続的に膜原料の組成比が変化する、いわゆる組成傾斜膜等において、スプレー熱分解法により行いほぼ無段階に所望の組成比をもつ傾斜膜を作成する方法および装置に関する。また、連続的な組成傾斜のみならず、不連続に変化する組成変化膜の作成も容易に行うことができる。
【0002】
【従来の技術】組成変化膜として連続的に成分組成を変化させる、いわゆる組成傾斜膜の製造方法としては、PVD法がもっとも一般的である。また、ゾルゲル法を用いたウェットプロセスなどもローコスト成膜方法として利用されることがある。その際、特に膜厚方向に特性変化が要求されるような特殊用途における成膜方法としては、特開平06−212410や、特開2000−282233のように、ターゲットへの電子照射の割合を変化させたり、導入ガス比を成膜中に変化させたりすることで、スパッタ法により組成比を変化させた傾斜膜の作成をする方法が一般的である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら反応性スパッタによる方法は、複数種材料のターゲットを用いた場合には、スパッタ率の違う材料のターゲットを個別に制御して、基板上に堆積する組成を調整するが、そのためには、導入パワー、ガス分圧、スパッタ粒子の分布などを考慮しなければならない上に、真空プロセスであるため装置コスト、ランニングコストも非常に高価なものとなってしまう。一方、ディッピングや、スピンコートなどの一般的なウェットプロセスにおいては、PVD法などに用いるターゲットと比較すると、原料コスト的には安価なものになるが、一般にはPVD法に比べて膜性能の信頼性に劣るところがある他、組成傾斜膜の作成に関しては、一度の塗膜厚に規定される段階的な組成変化膜となってしまうため、高度に連続的な勾配を有する組成傾斜膜を作成するためには、塗工厚を極めて小さくする必要があり、それは塗工・加熱の行程の煩雑さを考慮すると、現実的には困難である。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明では、上記の課題を達成するために、スプレー熱分解法を用いた組成変化膜形成技術を提供する。
【0005】スプレー熱分解法は、加熱基板上に成膜したい成分を含んだ溶液を直接噴霧することで、溶媒の蒸発反応と、化合物の熱反応が瞬時に起こり、膜を堆積させる方法であり、特開平10−053418には、酸化錫膜の効果的な成膜方法として紹介されている。
【0006】この方法を用いれば、酸化錫の他にも、酸化チタン、銅、亜酸化銅、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)など主に金属酸化物系の成膜が容易である。このスプレー熱分解法は原料に溶液を用いるウェットプロセスであり、スパッタ等と比較するとターゲットを用いないため直材費も安価である上に、大気雰囲気下での成膜が可能であるため、真空設備を必要とせず、装置コストも安価である。
【0007】また、ウェットプロセスでの課題であった傾斜の連続性に関しても一般的な方法であるディッピングやスピン法よりも有利である。一般に、ディッピングやスピンコート法では、所定の膜厚になるまで塗付と焼成の行程を繰り返すが、その際、操作の煩雑さや基板に対する熱履歴を考慮すると、一度にできるだけ厚く堆積したい、という要望がある。
【0008】ところが、一度の塗付で堆積する膜は、塗付液の組成を変化させられないため、高度に膜厚方向に組成を変化させることが困難である。一方、スプレー熱分解法においては、一般的な成膜条件で、一度の噴霧による膜厚が非常に小さく、数nm〜数十nm程度ずつ堆積していく程度であるため、非常に高度に組成変化する膜を作成できる。
【0009】また、そのナノメートルオーダーの一度の成膜厚さも一度に噴霧する量や原料濃度によって調整することができるため、自由度が高い。さらに、ウェットプロセスでありながら、高温雰囲気下で微粒状態とし、非常に気相に近い反応条件で成膜していくため、膜質の性能も他のウェット成膜に比べて高く、例えばITOのような透明導電性膜においても、PVDと同等レベルの成膜ができることが実験的に確かめられている。
【0010】このように諸特性に優れたスプレー熱分解法を用いれば、図1のように膜厚方向に組成傾斜を持つ膜を作成する際に、予め、それぞれの原料成分を含むLA、LBをスプレータイミングを同期させながら、噴霧量の割合を順次変化させていけば、容易に組成傾斜膜を形成できる。
【0011】この、噴霧液を混合するための方法としては、図2のように、噴霧ノズルの前に複数の噴霧液を混合してもよいし、図3のように、別々の液をそれぞれ別々のノズルから適量噴出してもよい。
【0012】特に、図3のようなマルチノズルによる成膜を行う場合、成膜可能な組成変化膜の中には、組成比が連続的に変化する組成傾斜膜の他、不連続に任意の組成を持つ膜のほか、完全に異なった成分となる多層膜も、非常に容易に成膜することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下に、本発明に基づく実施例を具体的な材料・装置に基づいて説明するが、本発明はこれらの材料・装置に限定されるものではない。
【0014】(第1の実施例)(噴霧液混合型による傾斜膜の組成変化)
組成変化膜として、Corning1737ガラス基板上に、ITO:0.5μmをスプレー熱分解法によって成膜する際に、図4のように錫の含有量を0〜10%まで組成傾斜させた成膜を行った。
【0015】以下にその装置構成および、噴霧液調整の具体例を示す。装置構成の概略は図2のようにした。噴霧液溜め201と202にそれぞれ噴霧液A、Bを入れ制御盤203によって所望の混合比になるように流量調節機204、205で調整し、混合された噴霧液は、電磁弁206と流量調節機207を経て、スプレーノズル208で、0.2MPaのキャリアガスによって微粒子化されて、350℃に設定したホットプレート209上に設置したCorning1737ガラス基板210上に噴霧した。キャリアガスとしては、オイルトラップとダストフィルターを備えた1次圧約0.7MPaの工場エアー211を用い、レギュレーター212によって、0.2MPaとした。これを電磁弁213の開閉を制御盤203で行いスプレーのタイミングおよび、噴霧時間を制御した。
【0016】噴霧液AおよびBについては、0〜10%まで錫の量を変化させるために、錫の含有量のことなる二種類の噴霧液を調整した。Aにはエタノール1000ml中に塩化インジウム(III)n水和物を56.8g加え十分に攪拌したものを用いた。またBにはエタノール1000ml中に塩化インジウム(III)n水和物を56.8gと、塩化錫(II)2水和物を9.02g(In:Sn=100:10)加え十分に攪拌したものを用いた。
【0017】なお、制御盤へのパラメータ入力によりAとBの混合比は任意に調整可能であるが、本実施系では、0.5μm成膜中にA液100%から、B液100%に切り替えるように設定した。噴霧条件は、1.0ml/secの流量となる条件で、ノズル径およびキャリアガス圧力を設定し、20secサイクルで0.5sec噴霧した。
【0018】この条件で、100サイクルの噴霧を行うことで、0.50μmの膜厚となった。この条件で成膜を行った際には、AとBはそれぞれ、N(/100)回目の噴霧時において、X=(101−N)/100Y=(N−1)/100A:Xml/sec、B:Yml/secの流量でスプレー時間と同期(この場合0.5Sec)させながら混合するように流量調整器を制御している。
【0019】これを、SIMSによりエッチングをしながら元素分析を行ったところ、表面の元素は噴霧液混合比に比例し、図5のように錫の濃度変化による組成傾斜膜を作成した。
【0020】(第2の実施例)(マルチノズルによる傾斜膜の組成変化)
実施例1と同様の噴霧液を用い、同様の成膜を行った。以下にその装置構成および、噴霧液調整の具体例を示す。装置構成の概略は図3のようにした。
【0021】噴霧液溜め301と302にそれぞれ実施例1と同じように調整した噴霧液A、Bを入れ制御盤303によって所望の濃度比になるように流量調節機304、305で噴霧量調整し、スプレーノズル306、307で、0.2MPaのキャリアガスによって微粒子化されて、350℃に設定したホットプレート308上に設置したCorning1737ガラス基板309上に噴霧した。
【0022】なお、この際306、307は噴霧領域の重なりを大きくするため、適当な傾きを持たせても良いし、持たせなくても良い。
【0023】本実施系では、図6のようにノズルと基板の垂直方向を300mmとし、それぞれサンプル中心から50mmずつ話した位置から、9.6°のチルト角を持たせて、サンプル基板309上でもっとも重なりが大きくなるように設定した。
【0024】キャリアガス310は、実施例1と同様であり、レギュレーター311、312によって、0.2MPaとした。これを電磁弁313、314の開閉を制御盤303で行いスプレーのタイミングおよび、噴霧時間を制御した。
【0025】制御盤への入力によりAとBの噴霧比は任意に調整可能であるが、本実施系では、0.5μm成膜中にA液100%から、B液100%に切り替えるように設定した。噴霧条件は、A、BそれぞれXml/secおよびYml/secの流量となる条件で選択したノズル径およびキャリアガス圧力(0.2MPa)を設定し、20secサイクルで0.5sec噴霧した。
【0026】この条件で、100サイクルの噴霧を行うことで、0.50μmの膜厚となった。なお、流量調整は実施例1と同様に行った。
【0027】これを、SIMSによりエッチングをしながら元素分析を行ったところ、表面の元素は噴霧液混合比に比例し、図7のように錫の濃度変化による組成傾斜膜を作成した。
【0028】(第3の実施例)(マルチノズルによる多層膜)
組成の大幅に異なる不連続な多層膜の実施例として、図8のようにCorning1737ガラス基板上に、ITO:0.5μmをスプレー熱分解法によって成膜する際に、錫の含有量を0〜10%まで組成傾斜させる際に、0.1μm毎に酸化錫(TO)膜を約80nm挿入しながら成膜を行った。
【0029】以下にその装置構成および、噴霧液調整の具体例を示す。装置構成の概略は図9のようにした。噴霧液溜め901と902にそれぞれ実施例2と同じように調整した噴霧液A、Bを入れ、噴霧液溜め903には、1265ml中に、ジブチル錫ジアセテート4.0gを加え十分に攪拌したものを噴霧液Cとして入れた。
【0030】これらを制御盤904によって所望の濃度比になるように流量調節機905、906、907で噴霧量を調整し、スプレーノズル908、909、910で、0.2MPaのキャリアガスによって微粒子化されて、350℃に設定したホットプレート911上に設置したCorning1737ガラス基板912上に噴霧した。なお、この際908、909、910は噴霧領域の重なりを大きくするため、適当な傾きを持たせても良いし、持たせなくても良い。
【0031】本実施系では、図10のようにノズルと基板の垂直方向を300mmとし、それぞれサンプル中心から半径50mmの円に内接する正三角形の位置にノズルをセットし、それぞれ中心に向けて9.6°のチルト角を持たせて、サンプル基板911上でもっとも重なりが大きくなるように設定した。
【0032】なお、噴霧液の数を増やす場合には同様の考え方に基づき、円に内接する多角形の頂点の位置にノズルをセットして、半径とサンプル距離をTangentにする角度のチルト角を持たせれば、サンプル上でもっとも効率良く重なりを持たせることができる。
【0033】キャリアガス913は、実施例1と同様であり、レギュレーター914、915、916によって、0.2MPaとした。これを電磁弁917、918、919の開閉を制御盤907で行いスプレーのタイミングおよび、噴霧時間を制御した。
【0034】制御盤への入力によりAとBの噴霧比は任意に調整可能であるが、本実施系では、実施例2と同様に0.5μm成膜中にA液100%から、B液100%に切り替えるように設定するが、0.1μm毎に酸化錫膜を挿入する際のN回目の噴霧(N=10M±2、M=1〜9、99、100)時にはA、Bはそれぞれ完全に停止し、Cを0.5ml/secで20secサイクルで4回噴霧により約80nmずつの膜を挿入するように設計し、成膜した。
【0035】これを、SIMSによりエッチングをしながら元素分析を行ったところ、噴霧液混合比に比例し、図11のように錫の濃度変化による組成傾斜膜を作成した。
【0036】
【発明の効果】本発明を用いれば、組成比を連続的に変化させた組成傾斜膜でも、不連続に組成が変化する膜でも、大幅に成分が異なる多層膜でも、容易に成膜することができる。
【出願人】 【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
【住所又は居所】東京都大田区下丸子3丁目30番2号
【出願日】 平成14年1月16日(2002.1.16)
【代理人】 【識別番号】100086818
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 幸雄
【公開番号】 特開2003−205235(P2003−205235A)
【公開日】 平成15年7月22日(2003.7.22)
【出願番号】 特願2002−6942(P2002−6942)