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【発明の名称】 表情ディスプレイ
【発明者】 【氏名】山本 正樹
【住所又は居所】大阪府門真市大字門真1006番地 松下電器産業株式会社内

【要約】 【課題】複雑な動きをする生物の表情を模擬するための表情ディスプレイにおいて,複数自由度のアクチュエータを一括工程により製作することで,製造コストが低く,設計自由度が高く,表現力豊かな構成を提供すること。

【解決手段】予めストレッチされたポリマーフィルム上に柔軟電極の複数のパターンを印刷工程により一括成型する。柔軟電極に印可する電圧を独立に制御することにより,ポリマーフィルムは多自由度の変形を起こすことが可能となり,目や口等の形状・位置を制御することで豊かな表現力を持つ表情ディスプレイを構成できる。更に,自由度が増えても製造プロセスは同じなので,製造コストが上がらないというメリットもある。また、ポリマーフィルムのストレッチは通常平面方向に伸展することで行うが,これを空気吹き出し穴をもったシェルにより代用することで,三次元的な表情ディスプレイを製作することも可能である.
【特許請求の範囲】
【請求項1】 同一平面または曲面内に作り込まれた複数のアクチュエータを協調して駆動することにより,生物の表情を模擬することを特徴とする表情ディスプレイ。
【請求項2】 前記平面あるいは曲面の,全体または一部分が柔軟なポリマーフィルムにより構成されることを特徴とする請求項1記載の表情ディスプレイ。
【請求項3】 前記ポリマーフィルムがその両面を柔軟電極により覆われており,前記柔軟電極間に電圧を加えることにより,フィルムの厚さ方向の圧縮が起こり,ポリマー材料が前記柔軟電極間から押し出されるような形で面方向に変形することを特徴とする請求項2記載の表情ディスプレイ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はコンピュータのヒューマンインターフェースの分野で必要となる,ロボットまたはコンピュータエージェントが,その内部情報をノンバーバルな方法で人間の五感に直接訴えかけるように伝達するための表情ディスプレイ技術に関する。
【0002】
【従来の技術】従来,表情ディスプレイの構成として,東京理科大学の原島らによる方法が知られている(軟生機械におけるソフトメカニクスと機能創出−クラスタロボットと顔ロボット−,日本ロボット学会誌Vol.19,No.7,pp. 39-42)。これは,シリコンゴムにより作られた人型ロボットの顔の皮膚部分を19本のSMAアクチュエータにより駆動し,また,下あご回転用にDCモータを装着することで,驚き,恐怖,嫌悪,怒り,幸福,悲しみの表情を表現するものである。
【0003】まず,6つの基本表情を表出するために,それらに必要な顔の基本動作を解析し,顔上に19個の操作点を設定した。図10に,全部で19個ある操作点101の配置と,その操作点の操作方向102を示す。図11には頭部の内部構造を示している。内部に合計19本のSMA(形状記憶合金)ワイヤより構成されるアクチュエータユニットが配置されており,図示しないSMAワイヤの一端が操作点101に接続されている。SMAワイヤに通電することで温度上昇をおこしSMAワイヤを伸縮させ,制御点101を変位させる。等身大の表情ディスプレイにおいて制御点の変位量は15mm程度あることが望ましい。そこで,SMAワイヤの伸縮率を考慮して,長さ400mmのSMAワイヤを使用している。SMAワイヤは収納のために,図示しないプーリーにまきとられアクチュエータユニット103を構成している。SMAワイヤを強制冷却し,変形の高速化を図るために,冷却ファン104が配置される。この結果,変形時間は0.5〜2秒程度となる。
【0004】次に,同様な表情ディスプレイでDCモータの代わりにポリマーアクチュエータを用いた従来例の制御ブロック図を図12に示す(Y. Bar-Cohen ed.: Electroactive Polymer Actuators as Artificial Muscles, SPIE PRESS, 2001, pp. 553-563)。アクチュエータ105は高電圧を印可することにより,伸展することを特徴とするポリマーアクチュエータである。アクチュエータ105の伸展は頭蓋骨104の一部分の変位につながり,この変位はセンサ107により読みとられてフィードバック制御がなされる。図13に示すように,アクチュエータ105を頭蓋骨104と顎骨106に固定することで,人間の筋肉と等価な機能を発揮し,顎骨106を開閉させることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】以上の従来例は,各種アクチュエータにより,ロボットの表情を制御できる可能性を有するとは言え,以下のような課題を有する。
【0006】つまり,人間の極めて複雑な表情筋の働きを模擬するためには,数多くのアクチュエータが必要である。たとえば,第一の実施例においてはSMAワイヤを使用することでアクチュエータ自体を小型化したものの,等身大の頭部にこのアクチュエータを配置するには19個が限界である。さらに,表情ディスプレイをもったロボットの実用化を考えると,19個のアクチュエータを組み立てるコストは無視できず,極めて高価な製品になる恐れがある。第2の従来例においてもこの問題は同様に課題であり,頭蓋骨にアクチュエータを固定していく作業はきわめて手間のかかる工程となる。
【0007】本発明は,以上の課題を解決し,簡便なアクチュエータ製造・組み立てプロセスにより製作することが可能な表情ディスプレイの構成を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】このような課題を解決するために本発明は,同一面内に複数のアクチュエータ素子を一括プロセスにより作り込むとを可能とし,組み立て作業を経ずして協調して駆動する複数自由度をもったアクチュエータ群を構成する。より具体的には柔軟なポリマーフィルムに柔軟電極を印刷プロセスにより形成する。この際に複数の柔軟電極パターンを一括形成し,それぞれの部分のポリマーフィルムを高速に伸縮させることで,複数の表情筋の動きを模擬することができる。
【0009】ここで,ポリマーフィルムの両面に形成された柔軟電極の働きであるが,この柔軟電極間に電圧をかけることで静電吸引力を発生する。ポリマーフィルムはこの静電吸引力により厚さ方向に圧縮変形させられて,面方向に伸展する。この結果,表情筋が弛緩した時と同じ効果を得ることができる。
【0010】請求項1記載の本発明は,同一平面または曲面内に作り込まれた複数のアクチュエータを協調して駆動することにより,生物の表情を模擬することを特徴とする表情ディスプレイである。このような構成により,単純な製造・組み立てプロセスで複雑な動きをする表情ディスプレイを製作することができる。
【0011】ここで,請求項2記載のように,前記平面あるいは曲面の全体または一部分が柔軟なポリマーフィルムにより構成されることが,柔らかい表情の動きを実現することから好ましい。
【0012】そして,請求項3記載のように,前記ポリマーフィルムがその両面を柔軟電極により覆われており,柔軟電極間に電圧を加えることにより,フィルムの厚さ方向の圧縮が起こり,ポリマー材料が柔軟電極間から押し出されるような形で面方向に変形することが,柔軟電極の複数のパターンに応じて複数自由度の変形を発生できることから望ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】以下,本発明の各実施の形態について,図を用いて詳細に説明をしていく。
【0014】(第一の実施形態)図1は,本発明の一実施の形態に係る表情ディスプレイの構成を示す。
【0015】図1において,1a,1b,1cは柔軟電極であり,ポリマーフィルム2を上下から挟み込むように形成している。1a,1bは表情ディスプレイにおける目を表し,1cは口を表現している。なお,柔軟電極パターンはこれに限定されず,自由にデザインすることができる。ポリマーフィルム2は固定枠3にストレッチした状態で接着固定されており,面内の変形が発生した場合にも面外方向のたわみが発生しないようになっている。柔軟電極1a,1b,1cには独立に図示しない給電線により電圧が印可され,それぞれ独立に変形が発生するようになっている。切断線4でポリマーフィルム2を切断した様子を図2に示す。
【0016】図2において,ポリマーフィルム2の上下を電極1a,1a'が挟み込んでいる。柔軟電極1a,1a'はポリマーフィルム2同様に柔軟性を持った柔軟電極であり,柔軟電極1a,1a'間に電圧を印可すると静電気による吸引力が発生し,この力によりポリマーフィルム2が押しつぶされるように変形し,同時にポリマーフィルムは面方向に伸展する。各柔軟電極の電圧を制御することにより,図1における目,口の伸展具合を独立に制御し,これにより表情を作り出すことができる。なお,柔軟電極1a,1b,1cはスクリーン印刷やリソグラフィプロセスを経て形成されるため,表情の構成要素の数が増えても,製作の手間は変わらない。
【0017】次に,このような表情ディスプレイの製作方法について図3(a)から図3(d)を用いて説明する。製作方法はWWW上で米国SRIより公開されており(http://ndeaa.jpl.nasa.gov/nasa- nde/lommas/eap/EAP- recipe.htm),この方法により作成されるポリマーアクチュエータは,R. Pelrine et al, Applications of Dielectric Elastomer Actuators, Proceedings of SPIE Vol. 4329(2001), p.335-349等に詳しく述べられている。まず,3M社より販売されている強力粘着テープVHBゴム(型番4910)を正方形にカットしたのち(ポリマーフィルム2),これをゴムホルダ6を利用してストレッチ方向7a,b,c,dに等方的にストレッチする。図中ではゴムホルダ6が4つであるが,実際にはできるだけ多くのゴムホルダによって等方的に引っ張りたいので,8個以上が望ましい。ストレッチしたポリマーフィルム2を固定枠3に接着固定して,不要なポリマーフィルム2を取り除くとベースとなるフィルム部分が完成する。さらに,これにスクリーン印刷等の手法を用いて導電性グリース(Circuit Works社 CW7100)を両面塗布し,柔軟電極1とする。柔軟電極1にワイヤ5a,5bを接触させ,これらのワイヤに電圧をかけるとポリマーフィルム2に高電界がかけられる。このとき,フィルムは押しつぶされるように変形し,その面方向の変形量は以下のように計算される。
【0018】ポリマーフィルムにかかる面垂直方向の圧力は,電界をEとしてさらに,ポリマーフィルムのヤング率をYとすると発生する厚み方向の歪みεzは,εz =−p/Yこの結果,発生する面方向の歪みをεx,εyとすると,体積一定の仮定より,(1+εx)・(1+εy)・(1+εz)=1より求めることができる。
【0019】等方的なフィルムの場合εx=εyという仮定のもとで面方向の歪みが定まる。通常,100μm程度の厚みのポリマーフィルムに3kV程度の高電圧をかけた場合,30%程度の長さ歪みを得ることが可能である。30%の長さ歪みは生体の筋肉の変位量とほぼ等価であり,ポリマーフィルムによるアクチュエータは人工筋肉と呼ぶにふさわしい特性を有することがわかる。
【0020】(第二の実施形態)図4は,本発明の第二の実施の形態に係る表情ディスプレイの構成を示す。
【0021】図4において,8a,8b,8cは目および口を表す印刷パターンである。この印刷パターンは後述するカラーフィルム(たとえば皮膚の色を模擬する色)の上に形成されている。このカラーフィルムは第1の実施例で使用したポリマーフィルム2上に製膜されており,ポリマーフィルム2は固定枠3に接着されている。複数の柔軟電極1がカラーフィルムに隠される形で形成されており,これが表情を制御する表情筋をシミュレートした動きをする。
【0022】本実施例の第一実施例に対する特徴は,パターン8a,b,cと柔軟電極1を別要素で実現することにより,デザイン・表情の自由度を高めることが可能な点である。切断線4でポリマーフィルム2を切断した様子を図5に示す。
【0023】図5において,ポリマーフィルム2を挟むように柔軟電極1,1’が形成されている。これらの柔軟電極間に電圧を印可することにより,ポリマーフィルム2の面方向の変位を発生することができる。柔軟電極1を覆い隠すような形で,カラーフィルム9が形成されている。カラーフィルム9の上には,さらにパターン8aが印刷により形成されている。カラーフィルム9は顔料を混入したゴム材料等を塗布したものでも構わないし,また,顔料粉を直接ポリマーフィルム2に振りかけ固定しても構わない。ただし,カラーフィルム9の特性として重要なことは,ポリマーフィルム2の変形を妨げないように,低ヤング率・薄い膜厚を持つことである。
【0024】(第三の実施形態)図6は,本発明の第三の実施の形態に係る表情ディスプレイの構成を示す。
【0025】第二実施例と同様に,パターン8a,8b,8cがカラーフィルム9の上に印刷されている。カラーフィルム9は図示しないポリマーフィルム2と一体化されており,ポリマーフィルム2は固定枠3に接着される。ポリマーフィルム2上の柔軟電極1の働きにより,パターン8a,8b,8cが移動・変形し,表情を変えることができる。ただし,第二実施例と本実施例とを比較すると,ポリマーフィルム2とカラーフィルム9の一体化の構造が異なっている。この様子を切断線4によってポリマーフィルム2を切断した図7により説明する。
【0026】図7において,ポリマーフィルム2を挟み込むように柔軟電極1,1’が形成されている。カラーフィルム9はポリマーフィルム2とは別工程で製作(カラーフィルム9の製膜およびパターン8Aの印刷)されたもので,ポリマーフィルム2との一体化は接続ポスト10によって行う。接続ポスト10は変形したポリマーフィルムの変形力をカラーフィルム側に伝達する働きをもっており,接着剤や両面テープを印刷・転写技術によりカラーフィルム9上またはポリマーフィルム2上に形成したものを用いている。つまり,接続ポスト10自体も一括プロセスにより製作されるため,その個数が増えたとしても製造コストには影響しない。このことは,変形自由度が多いほどリアリティが増す表情ディスプレイにおいては有利な特性となる。なお,本実施例の第二実施例に対する優位性は,カラーフィルム9をポリマーフィルム2と別工程で作ることにより,その製造時の自由度が高まり,より表現力豊かな表情ディスプレイを実現できる可能性を持っている。
【0027】(第四の実施形態)図8は,本発明の第四の実施の形態に係る表情ディスプレイの構成を示す。
【0028】第一〜三の実施例においては,表情ディスプレイは平面に固定されたものであった。これはポリマーフィルム2上に形成された柔軟電極1の伸展が効果的に面内方向に広がるように,固定枠3によりポリマーフィルム2にあらかじめストレッチを与えていたためである。第四の実施例はこのストレッチを固定枠3ではなく立体形状(シェル13)により与え,三次元的な表情ディスプレイを提供することを目的としている。
【0029】図8において,卵形の三次元形状をもったポリマーフィルム2上に柔軟電極1a,1b,1cが形成されている。それぞれの柔軟電極に電圧を印可することにより,表情を変化させることが可能である.切断線4で構造を切断した様子を図9に示す。
【0030】図9において,送風穴12より圧縮空気を吹き込むとシェル13の内部が陽圧となり,メッシュ穴13を通して空気がシェル外部に逃げ出す。シェル13の外側にはポリマーフィルム2がテンションを持ちながら覆い被さっており,この結果,空気はポリマーフィルム2の下面を通りながら,排気穴11へと向かう。空気の薄い層がポリマーフィルム2とシェル13の間にできることにより,エアベアリング構造が実現し,柔軟電極1c,1c’間に電圧を印可することによって生じるポリマーフィルム2の伸展が曲面方向にスムースに発生し,曲面と直交する方向の変位は最小限に抑えられる。シェル13の形状を卵形以外に変化させることで,さまざまな三次元表情ディスプレイを作製することが可能となる。
【0031】
【発明の効果】以上のように本発明によれば,ポリマーフィルムの両面に柔軟電極を印刷工程を用いることで一括形成し,それぞれの柔軟電極にかける電圧を独立に制御することにより複雑な動きをする表情ディスプレイを構成することができる.かかる構成によれば,多自由度のアクチュエータを組み立て工程により組付けていく手間が省け,この結果製造コストが低減でき,さらにアクチュエータの高密度集積によりデザインの自由度も高まるため,表現力豊かな表情ディスプレイを実現できるという効果が得られる.
【出願人】 【識別番号】000005821
【氏名又は名称】松下電器産業株式会社
【住所又は居所】大阪府門真市大字門真1006番地
【出願日】 平成14年2月4日(2002.2.4)
【代理人】 【識別番号】100097445
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 文雄 (外2名)
【公開番号】 特開2003−225470(P2003−225470A)
【公開日】 平成15年8月12日(2003.8.12)
【出願番号】 特願2002−26281(P2002−26281)