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【発明の名称】 Cu−Zn−Sn系制振合金を用いたゴルフクラブ
【発明者】 【氏名】本田 英靖
【住所又は居所】福岡県北九州市小倉北区中島2丁目1番1号 東陶機器株式会社内

【氏名】中村 克昭
【住所又は居所】福岡県北九州市小倉北区中島2丁目1番1号 東陶機器株式会社内

【要約】 【課題】本発明は、打球時の衝撃を吸収し、打球感の優れたゴルフクラブであるとともに、良好な加工性、リサイクル性を有するゴルフクラブを提供することを目的とする。

【解決手段】ゴルフクラブの少なくともヘッドの一部に、マルテンサイト変態が可能なβ相を有し、このβ相の変態双晶に伴い制振特性を有するCu−Zn−Sn系合金であって、Sn含有量が0.5〜20wt%であるCu−Zn−Sn系制振合金を用いたことを特徴とするゴルフクラブとした。また、ヘッドの一部にγ相を析出させることで、強度の向上も図った。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ゴルフクラブの少なくともヘッドの一部に、マルテンサイト変態が可能なβ相を有し、このβ相の変態双晶に伴い制振特性を有するCu−Zn−Sn系制振合金であって、Sn含有量が0.5〜20wt%であるCu−Zn−Sn系制振合金を用いたことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】 前記Cu−Zn−Sn系制振合金の見掛けの上のZn含有量が30〜50%である請求項1記載のCu−Zn−Sn系制振合金を用いたゴルフクラブ。
【請求項3】 前記Cu−Zn−Sn系制振合金は、結晶組織中にα相を有することを特徴とするCu−Zn−Sn系制振合金を用いたゴルフクラブ。
【請求項4】 前記Cu−Zn−Sn系制振合金は、600〜850℃に加熱後急冷することを特徴とする請求項1〜3記載のCu−Zn−Sn系制振合金を用いたゴルフクラブ。
【請求項5】 前記Cu−Zn−Sn系制振合金は、600〜850℃に加熱後急冷し、さらに時効処理を行うことを特徴とする請求項1〜4記載のCu−Zn−Sn系制振合金を用いたゴルフクラブ。
【請求項6】 前記ヘッドの一部にγ相を有していることを特徴とする請求項1記載のCu−Zn−Sn系制振合金を用いたゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ゴルフクラブ、特に、ヘッドの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】ゴルフクラブ、特に、アイアンのヘッドには、様々な材料が用いられているが、ライ角、ロフト角の調整の容易さ、打球感の良さからS25Cなどの低炭素鋼が好まれており、最近では、ゴルフをする年齢層の広がりとともに、フィーリング(打球感)の更なる向上、ゴルフボールを叩いた時の手、腕への衝撃緩和が求めらられている。
【0003】衝撃緩和のひとつの方法として、ヘッドに制振合金を用いたクラブヘッドとして、特開昭51−68328号に示すものが開示され、制振合金として、Mn−Cu系のものが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、Mn−Cu系合金は、打球感は、炭素鋼に比べ、遜色ないが、価格が高い、加工性、特に切削性に劣り、また、Mnベースのため、リサイクル性が悪いとの問題があった。
【0005】本発明は、打球感の優れたゴルフクラブであるとともに、良好な加工性、リサイクル性を有するゴルフクラブを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題に基づきなされたものであって、ゴルフクラブの少なくともヘッドの一部に、マルテンサイト変態が可能なβ相を有し、このβ相の変態双晶に伴い制振特性を有するCu−Zn−Sn系合金であって、Sn含有量が0.5〜20wt%であるCu−Zn−Sn系制振合金を用いたことを特徴とするゴルフクラブとする。
【0007】本発明のCn−Zn−Sn系の合金は、通常の黄銅と略同じ組成を有し、Sn量と熱処理を制御することで、マルテンサイト変態が可能なβ相が、析出される。このβ相は、変態双晶を必ず伴い、双晶境界では、移動が容易に起こるため、この双晶の移動により、音、振動を吸収する制振効果が生じる。Cu、Zn、Sn以外の添加物を加えることなく製造できるため、リサイクル性は、良好である。また、Cu−Zn−Sn系合金は、一般の黄銅系材料と同じように、良好な加工性を有し、しかも、耐食性に劣るβ相中に、Snが固溶することにより、耐食性の向上も見込める。
【0008】見掛けの上のZn含有量を30〜50%とすることで、α、β、γの各相を析出できるようになり、更に、α+β相となる温度域まで加熱し、急冷するような熱処理を施すことにより、γ相を析出させず、α+βの2相とすることができ、耐衝撃性やゴルフボールの食いつきの良さを確保するための延性も制御できるものとなる。なお、「見掛け上のZn含有量」という用語は、AをCu含有量[wt%]、BをZn含有量[wt%]、tを添加した第3元素(例えばSn)のZn当量、Qをその第3元素の含有量[wt%]としたとき、「{(B+t・Q)/(A+B+t・Q)}×100」の意味で用いる。
【0009】また、結晶組織中に延性に優れたα相を有すことで、上記延性を確保でき、その面積比率を調整することで、延性の程度を制御できるものである。また、延性の確保は、ヘッドのフェイスの溝加工を冷間加工でなす場合に有効に寄与できるものである。
【0010】また、ヘッドの例えば、フェイス部分に硬度の高いγ相を微細に析出させるようにすることで、フェイス面の耐摩耗性が向上するようにできる。
【0011】
【発明の実施の形態】本発明の実施形態を以下詳述する。
【0012】まず、本発明に用いるCu−Zn−Sn系の制振合金について、説明する。表1は、本発明実施形態に係わる実施例と比較例の対比である。比較例1は、一般黄銅(JIS C3604)で、比較例2は、Mn−Cu系であり、商品名M2052の市販のもの、比較例3は、低炭素鋼(JIS S25C)を用いた。
【0013】ここで、表1に示す成分のものを鋳造工程、300〜700℃の範囲で熱間押出し工程を経て、熱間押出し後の冷却プロセスの違いにより、表1に示す相比率の棒材を製造し、以下の切削性評価をした。尚、相比率については、実施例1は熱間押出し後、再加熱して700℃に保持し、その後水冷により組織調整した。実施例2は熱間押出し後、再加熱して800℃に保持し、その後水冷により組織調整した。また実施例3〜7も同様に熱間押出し後に実施例3、5は700℃に、実施例4,7は750℃に、実施例6は800℃に保持して水冷して組織調整した。実施例4のようにγ相を析出する場合と他の実施例のようにγ相を析出させない場合は、冷却速度をコントロールすることで、調整する。具体的には、γ相を析出させない方を氷冷水などを用いて冷却速度を早くする。このように、本素材は、同じ成分でありながら、熱処理条件によって、結晶組織を自由に調整できるものであり、アイアンの番定毎に要求される特性やヘッドの各部位にあった特性に結晶制御をすることができる。例えば、後者の特定の部位に異なった組織を作るためには、その部位のみを加熱し、必要な結晶組織を作る熱処理条件で、冷却を施すことにより容易に得られる。なお、制振性を付与するためには、加熱温度としては、600〜850℃にて加熱し、その後、冷却を施すことにより得ることができる。なお、望ましい冷却速度としては、例えば、加熱後のものを氷冷水に投入するなどして、冷却速度を250℃/sec以上の急冷とすることが望ましい。また、Snの添加量が多いほど、硬度の高いγ相が析出しやすく、また、若干耐食性の劣るβ相中に固溶して耐食性を向上させることができるため、硬度を要求する部位、耐食性を要求する部位には、Snをメッキなどの表面処理によって、また、箔などを固着した後、上記のような熱処理を施すことで達成できる。尚、γ相の面積比率が多くなると制振特性が低下するので、上記のようにγ相の特性を要求する部位のみに利用することが望ましい。
【0014】また、実施例は、経時変化により制振特性が劣化していくものが見られたが、マルテンサイト相を安定化させる時効処理、例えば、マルテンサイト相生成温度以下で数時間保持する処理を施すことで経時変化による制振特性の劣化を抑制することができる。
【0015】
【表1】

【0016】切削性の評価は、ノーズ半径0.4mmの超硬工具を用いて、切削速度を100m/min、切り込みを1.0mm、送りを0.16mm/revとして外周切削した時の切削抵抗を、主分力Fc、送り分力Ff、背分力Ftの3分力で測定し、主分力で300Nを超えるものを×、300N以下のものを○とした。実施例のものは、一般黄銅と同じく、切削性に優れていることから、後述するヘッドのシャフトが固定される孔の孔加工や、フェイス部の表面加工などが容易に行えるものである。
【0017】また、制振特性については、前記棒材をΦ15に加工し、その棒材を70mmの長さに切断し、600〜850℃に加熱後、前記同様の相比率に調整したものを供試材として、その一端を紐につるして他端を金属棒で叩き、その時に発生する音を官能評価した。金属音がして高音に響くものを制振特性なし(×)、木材を叩いた時のように鈍い音がするものを制振特性あり(○)とした。また、制振効果があることが分かった供試材で一部、対数減衰率を測定した。対数減衰率は、自由共振法により測定し、共振曲線の半値幅から算出した。一般黄銅に比べ、100倍以上の制振特性が確認された。
【0018】また、変態点はマルテンサイト変態開始温度(Ms)が−100℃以下を×、−100〜0℃までを△、0〜100℃までを○とした。
【0019】また、リサイクル性については、Pb、Mn、Crを添加含有するものは×とした。
【0020】表1からわかるように、実施例は切削性に優れるが、これは、切削の際にβ相中にボイドが発生し易く、切削抵抗を下げたものと思われる。また、変態点については、Snの添加量を加減すること、時効処理の温度、保持時間、水冷前の熱処理温度、冷却速度で、変態点を低温側、若しくは高温側に制御できるものと思われる。Sn量は、0.5〜20wt%の範囲で調整可能で、Snの多くは、β相中に固溶することになる。β相へのSnの固溶は、前記のように変態点を高温側へ移動することに効果があるとともに、耐食性に劣るβ相の耐食性を向上させることができる。
【0021】また、制振特性はβ相のマルテンサイト変態に基づくものであるため、β単相で発現しやすいと考えられていたが、実施例1、3、4、5、7に見られるように、α相が残存していても制振特性が発現した。制振特性はマルテンサイト量と相関があるため、β相比率が高いものほど良好な制振特性が得られると考えられるが、あまりβ相比率が高すぎると延性が低下するため、延性の必要な場合には、相比率の適正化が必要である。結晶相を制御するために、成分の調整、熱処理条件の適正化が必要であるが、本発明では、制振特性及び加工性などの観点より、見掛け上のZn含有量を30〜50%に設定し、その範囲で、析出可能なα相、β相、γ相を熱処理条件で制御している。
【0022】なお、α相を適正量残存させることにより、さらに耐応力腐食割れ性の向上、冷間加工性も優れ、冷間加工による硬度の向上が期待できる。このα相の影響により、炭素鋼と同様に軟質な材料とでき、打球感をソフトな状態にすることできる。
【0023】次に、上記した実施例7の素材を用いて、鍛造により図1に示すヘッド1を製造した。表面の欠陥が少なく、歩留まりの安定している鍛造を用いたが、鋳造、圧延などの方法で、ヘッドを作成してもよい。ホーゼル部2の孔加工は、鍛造で略成形を完了できるが、切削加工で仕上げた。また、フェイス部3の溝4については、冷間鍛造により成形を施した。延性が十分であるので、溝の立ち上げ形状などシャープな形状が確保できた。また、切削性、冷間加工性に優れていることから、成形後に、バック部5に商品名やマークを容易に施すことができる。
【0024】比較例として、比較例1〜3の素材のものを用いて、同様にヘッドを作成した。比較例1は、実施例同様に加工性に優れた素材であるので、成形は容易であったが、比較例2、3のものは、加工性、特に切削性に劣るため、製造には、時間を要した。
【0025】次に、上記のヘッドにシャフトとグリップを取付け、ゴルフクラブとして、完成させた。発明者らで、試打をした際のフィーリングを評価した。実施例のものは、比較例のものに比べ、振動も少なく、良い打球感が得られた。比較例1のものは、手へ振動が伝わり打球感が良くなく、特に、スイートスポットを外した際には、かなりの振動を感じた。また、比較例2のものは、振動は、気にならず、実施例同様の優れた打球感を感じ、表に示した対数減衰率の差の影響は、殆ど感じなかった。比較例3のものは、打球感は良いものの、手への振動が伝わり、特に、スイートスポットをはずした際には、かなりの振動を感じた。
【0026】尚、上記実施例では、ヘッド全てを制振合金で構成したが、例えば、フェイス面に制振合金板を張りつけるなど、ヘッドの一部に施しても良い。また、アイアンだけでなくウッドのフェイス部に適用できること勿論である。
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、一般の黄銅を構成するCu、Zn、Snを利用し、良好な加工性、リサイクル性、制振特性を有するCu−Zn−Sn系制振合金をゴルフクラブヘッドに用いることで、打球感の優れたゴルフクラブヘッドを提供できる。
【出願人】 【識別番号】000010087
【氏名又は名称】東陶機器株式会社
【住所又は居所】福岡県北九州市小倉北区中島2丁目1番1号
【出願日】 平成13年9月14日(2001.9.14)
【代理人】
【公開番号】 特開2003−79771(P2003−79771A)
【公開日】 平成15年3月18日(2003.3.18)
【出願番号】 特願2001−278942(P2001−278942)