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【発明の名称】 抗腫瘍剤
【発明者】 【氏名】澤 智裕

【氏名】赤池 孝章

【氏名】前田 浩

【要約】 【課題】高い腫瘍集積性と有する高分子結合化したD-アミノ酸酸化酵素を主成分とし、その基質(D-アミノ酸)を投与することによって生じる過酸化水素(H2O2)を活性有効成分として制癌作用を発現する制癌剤。

【解決手段】予め投与される、合成高分子化合物と結合されたD−アミノ酸酸化酵素(A)と、その後に投与される基質のD−アミノ酸(B)の両者をセットとする制癌剤。これにより、生体には本来存在せずまた何ら害毒のないD-アミノ酸を投与することによって、抗癌活性を達成することができた。又キサンチンオキシダーゼのPEGやSMAとの結合体に比べ、安定性に優れ、容易に入手可能で安価であり、実用性に富む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 予め投与される、合成高分子化合物と結合されたD−アミノ酸酸化酵素(A)と、その後に投与される基質のD−アミノ酸(B)の両者をセットとする抗腫瘍剤。
【請求項2】 合成高分子化合物がポリエチレングリコール、スチレン−マレイン酸共重合体(SMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピル・メタアクリレート(HPMA)コポリマー、デキストラン、可溶化デンプン、アミロース、ペクチン、ゼラチン、ポリアミノ酸、又はポリ乳酸あるいはこれらの誘導体であることを特徴とする請求項1記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】 D-アミノ酸酸化酵素が動物および微生物由来、あるいはその組み換えDNA由来のものである請求項1又は2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】 D-アミノ酸酸化酵素がヒト、ブタ、ウシ、又はヒツジ由来のものである請求項3に記載の抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明物は、腫瘍局所により選択的に集積する性質を持つことにより、腫瘍局所で活性分子H2O2を産生するため、選択的に抗腫瘍効果を発揮する抗腫瘍剤に関する。
【0002】
【従来の技術】ドキソルビシンやマイトマイシンなどをはじめとする多くの抗腫瘍剤が、その活性酸素生成を介して、抗腫瘍活性を発現していることが、明らかとなている。本発明者の前田、赤池らも同様の知見を報告している(Sato, K. et al.: Jpn.J. Cancer Res., 83.1204-1209, 1992)。また、Yoshikawaらは、キサンチンオキシダーゼ(xanthine oxidase:XO)と、その基質であるヒポキサンチン(hypoxanthine:HX)とを、VX2担癌ウサギの耳静脈および大腿部動脈より、それぞれ、同時に投与すると、産生するスーパーオキサイドが、抗腫瘍効果を発揮することを報告している(Yoshikawa, T. et al.: Cancer Res., 55: 1617-1620, 1995)。
【0003】これらの抗腫瘍剤において、生成した活性酸素種や過酸化水素は、その非常に高い細胞障害性により、癌細胞を殺傷するが、これら薬剤は、腫瘍組織以外の正常臓器・組織にも分布するために、その副作用が問題となる(Yen. H. C. et al: J. Clin. Invest. 98: 1253-1260, 1996)。
【0004】すなわち、キサンチンオキシダーゼ(XO)は、血管内皮細胞に対して、非常に親和性が高く、通常は、血管内皮に結合した形で存在している(T. Adachi, etal.: Biochem J. 289: 523-527, 1993)ので、XOを血中に投与した場合、その多くが、血管内皮に非特異的に吸着し、腫瘍局所への集積量が減ることに加えて、生成するスーパーオキサイドは、血管内皮細胞を障害して、血管障害をもたらすのみならず、血管弛緩因子である一酸化窒素(NO)(Moncada, S. et al.: Pharmacol. Rev. 43: 109-142, 1991)と急速に反応し、それを消去するため(PryorW. A. and G. L. Squadrito.: Am. J. Physiol. 268: 699-722, 1995)に、血圧の上昇をもたらす(Nakazono, K. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 88:10045-10048, 1991)とともに、スーパーオキサイドとNOの反応生成物であるperoxynitrite(ONOO-)は、さらに、血管内皮細胞等を障害すると考えられるなど、いくつかの副作用発現を招来すると考えられ、Yoshikawaらのこの系は、実用化が困難である。
【0005】また、血中には、本来、抗XO抗体が存在すると言われており(Ng Y. L. and Lewis, W. H.: Brit. J. Biomed. Sci. 51: 124-127, 1994)、XOを血中に投与した場合、その抗XO抗体による中和反応が、XO活性を低下させることが懸念される。さらに、XOはその分子形状がヘテロサブユニットから構成され、極めて複雑な分子であり、遺伝子組み換え技術(例: E. coli、フィティア酵母)からの産生が困難であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】これまで用いられてきたほとんどの抗腫瘍剤は、腫瘍細胞以外の正常細胞にたいしても非選択的に毒性を発現するために、その副作用が大きな問題となっている。したがって、その抗腫瘍活性を保持したまま副作用を軽減した薬剤の創製は臨床的に有用である。
【0007】本発明の目的は、高い抗腫瘍活性を有し、かつ腫瘍以外の正常組織・臓器に対する副作用が極めて低い新たな抗腫瘍剤を提供することである。
【0008】副作用を低減し、かつ、効率よく抗腫瘍活性を発現させるためには、用いる薬剤を腫瘍組織へ選択的に送り込むことが必要となる。本発明者らは、生体親和性の高い高分子物質や油質が、正常組織に比べて、選択的に固型腫瘍に集積することを見出している(Enhanced Permeability and Retention effect, EPR効果)(Matsumura, Y. and Maeda, H.: Cancer Res. 46: 6387-92, 1986)(Maeda, H. and Matsumura, Y.: Therap. Drug Carrier Sys. 6: 193-210,1989)。この原理を利用して、薬剤を高分子化することで、非常に効率よく腫瘍局所に選択的の薬剤を集め、さらに、生体内での活性半減期を大幅に改善(延長)可能であり、かつ、副作用を低減できることを明らかにしている(Maeda, H.: J. ControlledRelease, 19: 315-324, 1992)。
【0009】すなわち、腫瘍組織においては、i)新生血管の増生、ii)血管透過性の亢進、iii)高分子物質の腫瘍血管を介する回収の不全、iv)リンパ系を介する高分子物質の回収の欠如、などの結果として、血中へ投与した生体親和性のある高分子結合型薬剤は、腫瘍組織へ選択的に集積するようになる。これをEPR効果という。
【0010】本発明の発明者らはこのEPR効果を利用して、先に高分子化合物で化学修飾されたキサンチンオキシダーゼと、その基質であるキサンチン又はヒポキサンチンとの組合せからなる抗腫瘍剤を開発し、これによって腫瘍局所に選択的に集積して高い抗腫瘍活性を有し、かつ腫瘍以外の正常組織に対する副作用を大幅に軽減することができることを見出した(特願平9−240235号)。
【0011】しかしキサンチンオキシダーゼを用いた場合、その酵素反応性生物には、スーパーオキサイドアニオンラジカル[O2・−]の他に尿酸が含まれる。尿酸の生成は生理濃度以上になると高尿酸血症となり、好ましからざる結果を招来しかねないという問題がある。またキサンチンオキシダーゼは、入手が容易でないことやキサンチンオキシダーゼのPEGやSMAとの結合体の安定性等にも問題があることから、キサンチンオキシダーゼよりも更に実用性の高い抗癌剤の開発が望まれていた。
【0012】本発明者らは、これについて更に研究を重ねた結果、D−アミノ酸酸化酵素(以下DAOと呼ぶ)分子のリジン残基のアミノ基をポリエチレングリコール[poly(ethylene glycol): PEG]等の高分子化合物で化学修飾し、PEG結合DAO(以下PEG-DAOと呼ぶ)やSMA結合DAOとなすことにより、血中滞留性を上昇させ、また血管内皮へのDAOの吸着性を低減させ、その結果、腫瘍局所へのDAOの選択的集積性を著明に向上させることができた。PEG-DAO投与数時間後、DAOの基質であるD-アミノ酸(例えばD-プロリン、D-アラニンなど)を投与すると、腫瘍局所において、H2O2分子が発生し、優れた抗腫瘍効果を発揮することを見い出し、本発明を完成した。
【0013】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、予め投与される、合成高分子化合物と結合されたD-アミノ酸酸化酵素(A)と、その後に投与される基質のD-アミノ酸(B)の両者をセットとする抗腫瘍剤である。
【0014】
【発明の実施の形態】D-アミノ酸酸化酵素(A)は、広範囲の動物の組織、とくに腎臓中に広く分布しており、D-アミノ酸を基質としてα-ケト酸と過酸化水素、それにアンモニアを産生する酵素である。本発明に用いるDAOは、いずれの動物又は微生物由あるいはその組み換えDNA由来来のものでもよいが、特にヒト、ブタ、ウシ、又はヒツジ由来のものが好ましい。
【0015】先に本発明者らが提案したキサンチンオキシダーゼのPEGやSMAとの結合体に比べ、DAOは、単純な構造で、安定性に10倍以上優れ、遺伝子組み換えDNA技術や屠殺場で廃棄されるブタ、ウシなどの腎臓からも大量に安価に抽出でき、はるかに実用性が高いものである。
【0016】本発明で使用される高分子修飾剤としては非免疫原性合成高分子化合物が好ましい。非免疫原性合成高分子化合物として上記したPEGの他に、ポリアスパラギン酸誘導体、D-グルタミン酸とD-リジンの共重合体、スチレンマレイン酸共重合体の各種エステル(SMA)(Maeda, H. et al.: J. Med. Chem, 28: 455-461,1985)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ピラン共重合体、ヒドロキシプロピル・メタアクリレート(HPMA)コポリマー、天然高分子としてデキストラン、可溶化デンプン、アミロース、ペクチン、ゼラチンなどが挙げられ、その他ポリアミノ酸、又はポリ乳酸、ポリグリコール酸等も使用でき、またこれらの高分子化合物を、例えばブロック共重合体やグラフト共重合体のような結合複合物として使用することもできる。
【0017】本発明者らの研究によれば、これらの修飾剤のうち、PEGは、一般的に酵素蛋白質に、非免疫原性と循環系における安定性を付与する性質があり(Maeda, H.et al.: Poly(ethylene glycol)Chemistry: Biotechnical and Biomedical Applications, Harris, J. M., Ed., Plenum: New York, 1992, pp153-169)、本発明に用いるのにふさわしい。
【0018】DAOと高分子化合物との結合は、塩化シアヌルを用いる方法、カルボジイミドを用いる方法、その他の方法として、酸無水物、グルタルアルデヒド、過ヨウ素酸、あるいはN-スクシニイミジル-3-(2-ピリジルチオ)プロピオネートを用いる方法等、公知の方法で実施できる。その際、当該酵素の立体構造を破壊しないような温和な条件(低温、中性pH、水溶液中)で行う。また、当該酵素の機能発現に重要な役割を果たすアミノ酸残基の修飾は、避けなければならない。
【0019】たとえば、式(1)に示すように末端にカルボキシル基を有するPEGとN-ヒドロキシスクシンイミドとを、カルボジイミドを用いて脱水縮合させると、アミノ基と反応する活性化PEGが得られる。この他にも式(2)及び式(3)の反応で塩化シアヌル化PEG及びニトロフェニルフォルメイト活性化体PEGが得られる。
【0020】
【化1】

【0021】本発明の好適な例として、DAOをPEGで修飾する場合について述べる。活性化PEGによるDAOの修飾反応は、常温ないし低温、中性付近のpHで、30〜60分間行う。修飾率は、DAO分子上のリジン残基に対する活性化PEGの量比を変えることにより、調節可能である。本発明においては、リジン残基に対し、1.2〜10倍モル量、好ましくは5〜7倍モル量の活性化PEGを添加することにより、17〜80%、好ましくは30〜50%の修飾率のPEG-DAOが得られる。
【0022】本発明のPEG-DAOは、静脈内投与後、選択的に、腫瘍組織へ集積していることが確認される(図1)。また、血中でのPEG-DAO活性は時間とともに比較的早く減少している(図2)のに対し、固型腫瘍への集積は、時間とともに増加している(図1)。これらのことから、PEG-DAOは、これまで報告された高分子薬剤と同様、EPR効果により固型腫瘍へと集積していることが明らかである。
【0023】本発明の抗腫瘍剤は合成高分子化合物と結合されたD−アミノ酸酸化酵素(A)と、基質のD−アミノ酸(B)の両者がセットされたものであるが、両者を混合して使用するのではなく、PEG-DAOをあらかじめ投与して、腫瘍組織に選択的に集積させ、その後、2〜100時間、好ましくは4〜8時間後に、基質であるD-アミノ酸(例えばD-プロリン)を投与することで、腫瘍組織でのみ活性酸素分子種H2O2を発生させることが可能となり、副作用のない、ユニークな作用機序をもった抗腫瘍剤を提供することができる。
【0024】基質(A)としてはD-アミノ酸であれば特に限定されないが、D−プロリン、D−アラニン、D−バリン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−アスパラギン酸、D−グルタミン酸等を挙げることができる。この中で特にD−プロリンが好ましい。
【0025】図3に培養大腸がん細胞のin vitroのデータを示す。図3Aにおいて○及び●はそれぞれH2O2を消去するカタラーゼの存在、非存在下におけるDAO濃度と腫瘍細胞生残率の関係、図3Bにおいて○はD-プロリン投与群、●はD-アラニン投与群(カタラーゼなし)における基質濃度と生残率の関係である。
【0026】事実PEG-DAOとD-アミノ酸の組み合わせによる治療を施したマウスにおいては、非治療群に比べ、顕著な腫瘍の増殖抑制がみられる(図4)。この結果は、PEG-DAO+D-アミノ酸により生成する過酸化水素が、非常に強い抗腫瘍活性を有していること、および腫瘍組織において、その反応が効率よく進行していることを示している(図4参照)。一方、PEG-DAOの代わりに、未修飾のDAOを用いた場合は、その抗腫瘍効果は、PEG-DAOに比べはるかに弱いものである(図3、図4)。これらの原因として、前記したように、未修飾DAOでは血中半減期が短く、また、生体内での分解と排泄により血中濃度が低くなり、腫瘍への薬剤の送達が少ないと考えられる。いずれにせよ、PEGを結合することにより、DAOの腫瘍局所での到達性(bioavailability)が向上し、より高い抗腫瘍システムの構築が可能となることが、本発明により明らかとなった。SMA結合DAOもほぼ同様の成績である。
【0027】PEG-DAO/D-アミノ酸投与系の毒性については、体重の変動をみる限り、その副作用は、殆どないと考えられる。このとき両者は同時投与せず、PEG-DAO投与の少なくとも2時間以後にD-アミノ酸を投与することが必要である。この原因として、DAOはもともと腎、肝に存在し、またD-アミノ酸は本来無毒性であり、他の正常組織へ夫々単独で分布した場合の副作用はほとんどないためと考えられる。また、この結果は、非毒性化合物の組み合わせによる抗腫瘍活性発現システムが、低副作用の薬剤システムを考える上で有望であることを示している(図4)。
【0028】
【実施例】以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0029】[実施例1] PEG-DAOの合成ウシ・腎臓由来のDAO(シグマ・ケミカル社製、米国ミズリー州)を、分子量3万以下の限外濾過膜を用いてさらに精製し、FAD(フラビンアデニンジヌクレオシド)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し、4℃にて保存した。DAO濃度が、10mg/mlとなるようにリン酸緩衝液(pH7.4)を用いて希釈し、その溶液に、N-スクシンイミドで活性化したPEG(式1)(Shearwater Polymers社製、米国アラバマ州)の粉末を、DAO内のリジン残基(12個)とN末端の計13個アミノ基に対して、1.0〜10倍モル量(好ましくは3.5モル倍)となるように添加し、中性pH、4℃という温和な条件下で、30分間反応させ、それぞれ異なる修飾率のPEG-DAOを得た。反応終了後、分子量3万以下の限外濾過膜を用いて、未反応のPEG及びその他の不純物を取り除いた。得られたPEG-DAOは、0.1mM FADを含むリン酸緩衝液(pH7.4)に分散させて、使用時まで4℃にて保存した。このものの高速液体クロマトグラフィー(ファルマシア・LKB社)FLPCをスーパーローズ4HRカラムを用いて分離することができる(図5)。
【0030】(1)PEG-DAOの化学的・生化学的性状DAOの酵素学的活性は、西洋わさびパーオキシダーゼをその基質として生成するH2O2に対し、D-dianisidineを用いて分光学的に、D-アミノ酸より生成するH2O2を、吸収極大460nmで測定した。その酵素反応は、0.1MのD-アラニンを基質として、0.1Mトリス・HCl緩衝液(pH8.2)中で行った。その1単位は、生成するH2O2の1μモル/分を一単位と定義した。標準検量線は市販のH2O2より調整した。PEGによるDAO分子内のアミノ基の修飾率は、Trinitorobenezenesulfonic acid (TNBS)法により定量した(Fields, R.: Methods Enzymol. 25: 464-468, 1972)。得られたPEG-DAOの分子量は、前述のファルマシア社(ウプサラ、スウェーデン)のFPLCシステムにより測定した。カラムサイズは、(内径10×高さ300 mm)を用いた。PEG-DAOの物理化学的および生化学的性状を表1に示す。
【0031】
【表1】

a; モル比、b; TNBS法により決定、c; TNBS法により決定した分子量より換算【0032】DAO分子中のリジン残基(DAO1分子中12残基)及びN末端基の計13個のアミノ基に対し、3.8倍モル量の活性化PEGを添加することにより、平均で39%のリジン残基にPEGが結合したDAO(PEG-DAO)を得た。今回用いたPEGの平均分子量が5000であることから、その修飾率から求めたPEG-DAOの分子量は、68kDaであった。PEGの結合による分子量の増加は、サイズ排除クロマトグラフィーによっても確かめられた。図5に、それぞれ未修飾のDAO、PEG-DAOのクロマトグラムを示す。PEG-DAOの場合、PEGで修飾することにより、若干の酵素活性の低下が見られたが、この場合でも、もとの酵素の活性の89%は維持されていた。また、得られたPEG-DAOは、1ヵ月以上8℃に保存した場合にも、酵素活性の低下は見られなかった。
【0033】(2)PEG-DAOの血中安定性PEG-DAOを、1.5U/マウスとなるように、生理食塩水を用いて希釈し、その100μlをddYマウス(雄、5週齢、SLC株式会社、静岡)の尾静脈より投与した。経時的に採血し、血中のDAO活性、およびその活性画分の分子量を測定した。すなわち、遠心分離して血球を取り除いた血漿成分を、上記(1)で用いたFPLCシステムにかけ、その各成分を分離し、その溶出液を、1mlずつ分画した。分画中に含まれるDAO活性を、D-アラニンを基質として用いて、その酵素反応産物であるH2O2を加えたパーオキシダーゼによりo-ジアニシジンを発色させ吸収波長460nmで測定したところ、DAOよりも高分子画分にDAO活性を認めた。
【0034】2×10個のS-180腫瘍を皮下に移植したddYマウス尾静脈にPEG-DAO投与後、1分から8時間後に採血したが、DAOの酵素活性は、時間を経るにしたがって減少した。結果を図2に示す。いずれの場合もPEG-DAO(●)は未修飾DAO(○)よりも2.9倍血中濃度が高かった。薬物動力学データは表2に示す。PEG-DAOはこれでもDAOよりも約3倍優れている。
【0035】
【表2】未修飾DAOとPEG-DAOのマウス血中幼態
AUC: 血中濃度下曲線、CL: 体外排泄速度【0036】(3)DAOの腫瘍ならびに正常組織への集積性経時的に、固型腫瘍および各臓器・組織などを摘出し、それぞれ各種蛋白分解酵素阻害剤を含む緩衝液中(Akaike, T. et al.: J. Clin. Invest, 85(3): 739-745, 1990)でホモゲナイズし、その上清中に存在するDAO活性を上記(1)と同様の方法で測定した。その結果を図1に示す。図1Aは固型腫瘍および各臓器・組織における投与後4時間後のDAO活性であり、また図1Bは正常対照との比である相対活性である。正常組織では、腎臓及び肝臓において高値のDAOの活性がみられたが、筋肉には、ほとんど検出されなかった。DAOおよびPEG-DAOの腫瘍部での相対濃度は2.5および7.6倍であった。PEG-DAOを投与しなかったマウスにおいては、内因性の未修飾DAOの分子量に対応する画分に、新たな大きなDAO活性のピークが観察された。この分子量領域は、PEG-DAOのものと完全に一致し、尾静脈より投与したPEG-DAOが、固型腫瘍へ集積したものであることを示している。固型腫瘍におけるPEG-DAOの活性は時間の経過と共に増大した。
【0037】[実施例2] PEG-DAOの抗腫瘍活性ddYマウスの背部皮下に、2×106個のSarcoma 180 腫瘍細胞を移植し、7日間飼育後、5〜9mmの固型腫瘍が形成されたマウスを選び出し、実験に用いた。PEG-DAOを上記量になるように生理食塩水を用いて希釈し、その100μlを、尾静脈より投与した。DAOを投与した2時間後、4時間後に、DAOの基質であるD-プロリンの生理食塩水溶液(1.3mg/ml)を腹腔内へ300μl投与した。この治療スケジュールを移植後6〜12日の6日間連日行った。また、腫瘍の大きさを、ノギスを用いて癌移植後7日〜28日の毎日測定し、常法により腫瘍サイズを測定した。すなわち、腫瘍容積(V)は長径(L)×対巾(W)とすると、V=L×W2/2である。また、治療実験終了後に、固型腫瘍を摘出して、その重量を測定した。対照として、非治療群および未修飾DAO投与による治療群をもうけた。結果を図4に示す。
【0038】図4から明らかなように、未修飾DAO治療群(▲)においては、非治療群(○)に比べ、若干の腫瘍サイズの減少が認められたものの、統計学的な有為差は認められなかった(非治療群に対してp=0.34)。一方、PEG-DAOで治療した群(●)においては、その腫瘍サイズに顕著な抑制効果が見られた。即ち、治療開始8日(癌移植15日目)後の腫瘍重量は、非治療群0.34 +/- 0.11 g、未修飾DAO治療群0.31 +/- 0.03 gに対し、PEG-DAO治療群では、0.22 +/- 0.05 gとなり、治療開始21日後の腫瘍重量を比較すると、非治療群では1.59 +/- 0.32 gであったのに対し、DAO投与群では1.50 +/- 0.15 g、PEG-DAOで治療した群では0.23 +/- 0.08 gとなり、86%以上も抑制されていた(非治療群に対してp<0.001)。非治療群に比べてほぼ完全に腫瘍の増殖が抑制された。このときの体重の推移では、PEG-DAO投与後の体重減少は見られず、その他顕著な毒性を示すデータは認められなかった。
【0039】
【発明の効果】本発明のPEG-DAOとD-プロリン、あるいはD-アラニンとの組み合わせ等、合成高分子化合物と結合されたるD−アミノ酸酸化酵素(A)と、その後に投与される基質のD-アミノ酸(B)とをセットした抗腫瘍剤は、EPR効果により腫瘍局所へDAOがより選択的に集積することにより、非常に高い抗腫瘍活性を示し、かつ副作用の低い有用な医薬品とすることができる。本発明は、腫瘍選択的なドラッグデリバリーと、二つの無毒性化合物との組み合わせによる抗腫瘍活性の発現に基づく全くユニークな抗腫瘍剤を提供するもので、今後、この新しい概念に基づく固型腫瘍の新しい癌治療法システムとして発展が期待される。
【0040】本発明は又、生体には本来存在せずまた何ら害毒のないD-アミノ酸を投与することによって、抗癌活性を達成するという全く新規な発想である。これまで本発明者らが以前に発明したキサンチンオキシダーゼのPEGやSMAとの結合体に比べ、酵素反応生成物による障害もなく、安定性が優れ、また組み換えDNA技術や屠殺場で廃棄されるウシ、ブタの腎に多量に含まれることから、容易に入手可能で製造が安価となり、一段と実用性に富む、より優れているものである。
【出願人】 【識別番号】000201320
【氏名又は名称】前田 浩
【出願日】 平成14年4月3日(2002.4.3)
【代理人】 【識別番号】100070493
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和 (外1名)
【公開番号】 特開2003−292457(P2003−292457A)
【公開日】 平成15年10月15日(2003.10.15)
【出願番号】 特願2002−101168(P2002−101168)