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核酸の選択的修飾のための方法および組成物 - 特開2003−176238 | j-tokkyo
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【発明の名称】 核酸の選択的修飾のための方法および組成物
【発明者】 【氏名】ブドウスキー エドワード アイ.

【氏名】アッカーマン サムエル ケイ

【要約】 【課題】細胞をまたは生体高分子を含む組成物中のウイルスおよびその他の有機体を蛋白質またはその他の生体高分子を大きく変化させることなく不活化する手段および方法の提供。

【解決手段】三量体または四量体のような、選択的エチレンイミンオリゴマーを不活化剤として組成物と接触させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 組成物中の生体高分子の本質的に全ての活性を前不活化レベルで保持し、生体高分子を含む組成物をエチレンイミンオリゴマー溶液に不活化する条件下で接触させることを特徴とする、組成物中の核酸分子を改変することによって生体高分子を含む生物学的組成物中の微生物を不活化する方法。
【請求項2】 生体高分子が蛋白質、炭水化物、および脂質から選択されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】 生物学的組成物が、フィブリノーゲン、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、免疫グロブリン、プレアルブミン、レチノール結合蛋白質、アルブミン、α-グロブリン、γ-グロブリン、補体成分、フィブロネクチン、抗トロンビンIII、ヘモグロビン、インターフェロン、成長因子、プラスミノーゲン活性化因子、成長ホルモン、インスリンおよびエリスロポエチンから選択される一つまたはそれ以上の蛋白質を含むことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】 一つまたはそれ以上の蛋白質を精製することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】 一つまたはそれ以上の精製蛋白質がヒト精製蛋白質であることを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】 生物学的組成物が哺乳類の全血、精製または部分精製血液蛋白質、血液細胞蛋白質、乳汁、唾液、血漿、血小板多血漿、血漿濃縮物、該血漿の任意の画分に由来する沈殿物、該血漿の任意の画分に由来する上清、血清、寒冷沈降物、哺乳類の細胞培養物、胎盤抽出物、発酵産物、および血液細胞中に誘導された蛋白質から選択されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項7】 生物学的組成物が、ヒト全血、精製または部分精製ヒト血液蛋白質、ヒト血液細胞蛋白質、ヒト乳汁、ヒト唾液、ヒト血漿、ヒト血小板多血漿、ヒト血漿濃縮物、該ヒト血漿の任意の各文に由来する沈殿物、該ヒト血漿の任意の各文に由来する上清、ヒト血清、ヒト寒冷沈降物、ヒト寒冷上清、ヒト細胞溶解物、哺乳類細胞培養ヒト産物、非哺乳類細胞培養ヒト産物、ヒト胎盤抽出物、組換えDNA技術によって産生されたヒトの非血液産物、およびヒト血液細胞中に誘導された蛋白質から選択されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項8】 生物学的組成物がヒト全血であることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】 生物学的組成物がヒト血漿であることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項10】 生物学的組成物が、哺乳類細胞または非哺乳類細胞を含むことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項11】 生物学的組成物が白血球濃縮物、赤血球濃縮物、および血小板濃縮物から選択されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項12】 微生物がウイルス、細菌、および寄生虫から選択されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項13】 微生物がエンベロープを持つおよびエンベロープを持たないウイルスから選択されることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】 微生物がエンベロープを持たないウイルスであることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】 微生物が細菌であることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項16】 微生物が寄生虫であることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項17】 微生物が、細胞含有(cell-contained)ウイルス、細胞含有細菌、および細胞含有寄生虫から選択されることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項18】 微生物が細胞に含まれるウイルスであることを特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項19】 微生物が細胞不含(cell-free)ウイルス、細胞不含細菌、および細胞不含寄生虫から選択されることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項20】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン二量体、エチレンイミン三量体、およびエチレンイミン四量体から選択されることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項21】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン二量体であることを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン三量体であることを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項23】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン四量体であることを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項24】 エチレンイミンオリゴマーが置換エチレンイミンオリゴマーであることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項25】 置換エチレンイミンオリゴマーが、一般式β-Hal-(CH2-CH2-NH)nHを有し、Halはハロゲンを意味し、nは2〜10の数を意味することを特徴とする、請求項24記載の方法。
【請求項26】 微生物を選択的に不活化した後に、生物学的組成物が治療的な使用に適することを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25に記載の方法。
【請求項27】 生物学的組成物を、濃度約0.0001 M〜約0.015 Mのエチレンイミンオリゴマーと共に、pH約6.5〜約8.5、約15℃〜約30℃で約1時間〜約500時間インキュベートすることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25に記載の方法。
【請求項28】 組成物を、濃度約0.007 Mのエチレンイミンオリゴマーと共にpH約7.0〜約8.0でインキュベートすることを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項29】 微生物がポックスウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、パルボウイルス、レオウイルス、オルビウイルス、ロタウイルス、αウイルス、ルビウイルス、インフルエンザウイルスA型およびB型、フラビウイルス、コロナウイルス、パラミクソウイルス、モルビリウイルス、ピコルナウイルス、オルソミクソウイルス、ブニヤウイルス、フレボウイルス、ナイロウイルス、ヘパドナウイルス、アレナウイルス、レトロウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、ならびにフィロウイルスを含む群から選択されるウイルスであることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、20、21、22、23、24、または25に記載の方法。
【請求項30】 エチレンイミンオリゴマーが、エチレンイミン二量体、エチレンイミン三量体、およびエチレンイミン四量体から選択されることを特徴とする、請求項1、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19記載の方法。
【請求項31】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン二量体であることを特徴とする、請求項30記載の方法。
【請求項32】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン三量体であることを特徴とする、請求項30記載の方法。
【請求項33】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン四量体であることを特徴とする、請求項30記載の方法。
【請求項34】 エチレンイミンオリゴマーが置換エチレンイミンオリゴマーであることを特徴とする、請求項1、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19記載の方法。
【請求項35】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン二量体であることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項36】 微生物の不活化後に、生物学的組成物が治療的な使用に適することを特徴とする、請求項35記載の方法。
【請求項37】 生物学的組成物を、濃度約0.0001 M〜約0.015 Mのエチレンイミンオリゴマーと共に、pH約6.5〜約8.5、約15℃〜約30℃で約1時間〜約500時間インキュベートすることを特徴とする、請求項36記載の方法。
【請求項38】 生物学的組成物がヒト赤血球濃縮物であることを特徴とする、請求項37記載の方法。
【請求項39】 微生物がウイルスであることを特徴とする、請求項38記載の方法。
【請求項40】 ウイルスがエンベロープを持たないウイルスであることを特徴とする、請求項39記載の方法。
【請求項41】 微生物が細胞含有であり、方法が、生物学的組成物をエチレンイミンオリゴマー溶液に不活化する条件下で接触させる段階を含むことを特徴とする、生物学的組成物中の微生物を不活化する方法。
【請求項42】 生物学的組成物が、全血、血漿、白血球濃縮物、赤血球濃縮物、および血小板濃縮物から選択されることを特徴とする、請求項41記載の方法。
【請求項43】 微生物がウイルスまたは細菌であることを特徴とする、請求項42記載の方法。
【請求項44】 微生物がエンベロープを持たないウイルスであることを特徴とする、請求項43記載の方法。
【請求項45】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン二量体であることを特徴とする、請求項43記載の方法。
【請求項46】 生物学的組成物がヒト赤血球濃縮物であることを特徴とする、請求項45記載の方法。
【請求項47】 生物学的組成物を、濃度約0.0001 M〜約0.015 Mのエチレンイミンオリゴマーと共に、pH約6.5〜約8.5、約15℃〜約30℃で約1時間〜約500時間インキュベートすることを特徴とする、請求項41、42、43、44、45、または46記載の方法。
【請求項48】 微生物を不活化した後に治療的な使用に適する生物学的組成物を、エチレンイミンオリゴマー溶液に不活化する条件下で接触することを特徴とする、細胞を含む生物学的組成物中の微生物を不活化する方法。
【請求項49】 生物学的組成物が、全血、血漿、白血球濃縮物、赤血球濃縮物、および血小板濃縮物から選択されることを特徴とする、請求項48記載の方法。
【請求項50】 微生物がウイルス、細菌、および寄生虫から選択されることを特徴とする、請求項49記載の方法。
【請求項51】 接触させた細胞が、該接触前の該細胞と比較して構造的完全性を保持していることを特徴とする、請求項48記載の方法。
【請求項52】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン二量体、エチレンイミン三量体、およびエチレンイミン四量体から選択されることを特徴とする、請求項48、49、50、または51記載の方法。
【請求項53】 エチレンイミンオリゴマーが置換エチレンイミンオリゴマーであることを特徴とする、請求項48、49、50、または51記載の方法。
【請求項54】 生物学的組成物を、濃度約0.0001 M〜約0.015 Mのエチレンイミンオリゴマーと共に、pH約6.5〜約8.5、約15℃〜約30℃で約1時間〜約500時間インキュベートすることを特徴とする、請求項48、49、50、または51記載の方法。
【請求項55】 エチレンイミンオリゴマーがエチレンイミン二量体であることを特徴とする、請求項52記載の方法。
【請求項56】 生物学的組成物がヒト赤血球濃縮物であることを特徴とする、請求項55記載の方法。
【請求項57】 ウイルスを不活化する条件下で、生物学的組成物を選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤と接触させることを含む、該組成物中の感染性ウイルスを不活化する方法。
【請求項58】 エチレンイミンオリゴマーが三量体、直鎖型四量体または分枝型四量体である、請求項57記載の方法。
【請求項59】 生物学的組成物が生体高分子を含む組成物である、請求項57記載の方法。
【請求項60】 生物学的組成物が細胞を含む組成物である、請求項57記載の方法。
【請求項61】 ウイルスが、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、パルボウイルス、レオウイルス、オルビウイルス、ロタウイルス、αウイルス、ルビウイルス、フラビウイルス、コロナウイルス、パラミクソウイルス、モビリウイルス、肺炎ウイルス、ベシクロウイルス、リッサウイルス、ピコルナウイルス、オルソミクソウイルス、ブニヤウイルス、フレボウイルス、ナイロウイルス、ヘパドナウイルス、アレナウイルス、レトロウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルスおよびフィロウイルスからなる群より選択される、請求項57記載の方法。
【請求項62】 接触工程が、生物学的組成物を、約0.0001 Mから約0.015Mのエチレンイミンオリゴマーと共に、pH約6.5から約8.5、イオン強度約0.1 Mから約0.2 Mの溶液中、約15℃から約30℃で約1時間から約500時間インキュベートすることを含む、請求項57記載の方法。
【請求項63】 接触工程が、組成物を、約0.007 Mのエチレンイミンオリゴマーと共に、pH約7.0から約8.0で、イオン強度約0.15 Mの溶液中でインキュベートすることを含む、請求項57記載の方法。
【請求項64】 生物学的組成物が、哺乳類の全血、精製または部分精製された血液蛋白質、血液細胞蛋白質、乳汁、唾液、血漿、血小板多血漿、血漿濃縮物、該血漿の任意の画分に由来する沈降物、該血漿の任意の画分に由来する上清、血清、寒冷沈降物、寒冷上清、細胞抽出物、哺乳類細胞培養物、胎盤抽出物、発酵産物および血液細胞中に誘導された蛋白質からなる群より選択される、請求項57記載の方法。
【請求項65】 生物学的組成物が、赤血球濃縮物、血小板濃縮物、白血球濃縮物、精液、腹水液、哺乳類細胞、非哺乳類細胞および哺乳類の全血からなる群より選択された、1つまたはそれ以上の成分を含む、請求項57記載の方法。
【請求項66】 生物学的組成物が、フィブリノーゲン、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、免疫グロブリン、プレアルブミン、レチノール結合蛋白質、アルブミン、α-グロブリン、γ-グロブリン、補体成分、フィブロネクチン、抗トロンビンIII、ヘモグロビン、インターフェロン、成長因子、プラスミノーゲン活性化因子、成長ホルモン、インスリンおよびエリスロポエチンからなる群より選択される、1つまたはそれ以上の蛋白質を含む、請求項57記載の方法。
【請求項67】 ウイルスがエンベロープを持つウイルスである、請求項57記載の方法。
【請求項68】 ウイルスがエンベロープを持たないウイルスである、請求項57記載の方法。
【発明の詳細な説明】【0001】発明の背景本発明は、生物有機化学、分子生物学、生化学、免疫学およびウイルス学並びにヒトの医学および獣医学の分野に関する。特に、ヒト血液、血液細胞成分、血漿および血液から精製される血漿生体高分子(アルブミン、凝固因子、免疫グロブリン、フィブリノーゲン等)、ウシ胎仔血清およびブタトリプシンのような細胞培養用成分、各々が本質的に感染性ウイルスの混入がなく、治療または診断に用いるのに適した状態を保っている、正常または癌細胞から製造される非血液性生産物(例えば、組換えDNA技術)のような組成物中に含まれる核酸を、選択的に化学修飾するための方法および組成物に関する。特に、本発明はまた、不活化ワクチンおよびその他の医薬用生産物の調製品中のウイルス、細菌および細胞のゲノムを不活化する方法に関する。
【0002】血液または血液製剤を介したウイルス性疾患の感染(たとえばA型およびB型肝炎、後天性免疫不全症候群(HIV)、サイトメガロウイルス感染症)は、医学における重大な問題である。ドナーの選択基準およびドナー血液のウイルスマーカーに基づくスクリーニングは、レシピエントへのウイルス感染を減少させるのに役立ってはいるが、スクリーニング方法は、ほとんどが2〜3の特定のウイルスだけに対するものであり、しかもその場合でも感受性が不十分であるため、スクリーニングが不完全であるかまたは感受性が100%未満なのである。ドナーの血液または血液製剤中に含まれる有用な成分、例えば赤血球、血小板、白血球および蛋白質、多糖類等の血漿生体高分子等の構造および機能を変化させることなく、その血液または血液製剤中に含まれるすべてのウイルスを不活化することが望ましい。同様に、他の生物学的組成物、例えば哺乳類およびハイブリドーマ細胞株、細胞株産生物、乳汁、初乳および精子等には、感染性ウイルスが含まれている可能性があり、それらの組成物の有用な成分または産生物を保持しつつ該ウイルスを不活化することは、有益であると考えられる。さらに、血液もしくは血液製剤、または哺乳類細胞の産生物が感染性ウイルスを含んでいるか否かが不明なことがしばしばある。この場合、そのような細胞または生体高分子を含む組成物に存在する、どのような感染性ウイルスをも不活化するよう処理するための組成物および方法があれば、有用であると考えられる。
【0003】最大限に安全かつ有効なヒトまたは動物用の不活化ワクチンを製造するには、完全および確実に、生きた微生物、例えばウイルスおよび細菌を非感染性に(「不活化」)し、一方でそれらの免疫源に対する影響を最小限に抑える方法が必要となる。ウイルスワクチンを製造する際に有用な、ウイルスの不活化に用いられる典型的な方法は、一般に、細胞、蛋白質およびその他の抗原の機能および構造を変化させたり、破壊するものである。
【0004】ホルマリン、β-プロピオラクトンおよび紫外線照射を用いる、現行の不活化方法が、基礎化学または構造原理には殆ど立脚せず、経験に基づいて開発されてきた。エチレンイミン単量体は、口蹄疫ウイルスを不活化するために用いられてきた(ロシア特許第 SU 1915956号)。エチレンイミン単量体はまた、マイコプラズマおよびアコレプラズマ(WO 92/18161)およびトリの感染(ルーマニア特許第 RO 101400号)を不活化するためにも用いられてきた。二価のエチレンイミンは、ネコの腸内コロナウイルス、FECVを不活化するために用いられてきた(欧州特許第EP 94200383号)。ポリエチレンイミンは、植物ウイルスの制御剤として用いられてきた(日本国特許第7882735号)。上述した方法および化合物は、ウイルスおよび細菌などの微生物を非特異的に修飾するため、標準化したり、再現性よく適用することが困難である。一般に、現行の不活化剤は、核酸だけでなく蛋白質、炭化水素および脂質をも修飾し、それらの機能を損なうため、例えばウイルスのカプシド蛋白質のような重要な表面抗原決定基を含む、微生物の複数の構成成分に影響を及ぼす。抗原が変化したりまたは生体防御機能に関与する抗原決定基が不活化されたりすると、免疫原性が低下するため、効力が下がったり(例えば不活化ポリオワクチン)、または抗原性が変化するために、疾患を予防する代わりに疾患の免疫増強を招いたりする(例えば、ホルマリン不活化により製造された呼吸合胞体ウイルスおよび不活化麻疹ワクチン)。もう一つの例は、B型肝炎ウイルスのワクチンの調製で、この場合には、通常標品を80℃以上の温度で加熱し、ホルムアルデヒド処理を行う。これらの処理は、ウイルスの感染性を不活化するばかりでなく、蛋白質その他の抗原に損傷を与える。安定剤としてワクチンに加える担体物質もまた、β-プロピオラクトンで不活化された狂犬病ワクチン中のヒト血清アルブミンに起こるように、故意にではなく修飾を受け、アレルギー反応を起こす可能性がある。更に、微生物を非感染性にする化学変化についての知識がないと、その工程を再現性よく行うことが困難である。結果として、不適切な不活化や不活化後の返転が疾患を周期的に惹起する。麻痺性灰白髄炎、口蹄疫およびベネズエラウマ脳炎が大規模に発生したのは、この問題が原因である。
【0005】このため、少なくとも現在までにウイルスゲノムを不活化するために用いられた条件においては、感染性ウイルスを完全に不活化するのに十分選択的でかつそのウイルス粒子の抗原特性を保持する、現在利用可能な不活化ウイルスワクチンの製造に用いられている薬剤は一つもない。
【0006】さらにもう一つの別の問題は、血液またはその他の生物学的液体に混入するウイルスの中には、完全なウイルス粒子、ウイルスDNA断片または宿主ゲノムに組み込まれたウイルス核酸のいずれかのかたちで細胞内に含まれているものがあることである。例えば、HIVウイルスは白血球内部に含まれている。無細胞および細胞内部の両方の形態のウイルスを不活化し、一方で細胞の構造を完全に保つことができることは、特に重要なことである。
【0007】生物学的な混合物中に存在するウイルスを不活化する際の諸問題は、血漿中の蛋白質、炭化水素および糖蛋白質のような有用な生体高分子が共存する為に、ウイルスだけを不活化する際の諸問題とは異なる。ホルムアルデヒドまたは酸化剤のような薬剤を用いてB型肝炎ウイルスを不活化することは可能ではあるが、これらの活性化剤はほとんどが、血漿または血液中の細胞成分に含まれる生体高分子の生物活性を損なわせるため、血液中のウイルスを不活化する際には、これらの方法は適当ではない。紫外線照射を行うと、血小板濃縮物中にあるウイルスを不活化することが示されている。しかしながら、線量を増すと血小板がひどく損傷する。β-プロピオラクトンは、核酸および蛋白質と同程度の割合で反応する;このため、ウイルスを不活化することはできるが、一方で、血漿中に存在する第VIII因子の半分以上が失われてしまう。
【0008】有用な生体高分子を非血液性の原料から調製する際にも、病原性ウイルスが調製物に混入する可能性があるため、問題が生じる可能性がある。これらの原料には、哺乳類の初乳および乳汁、腹水液、血清、唾液、胎盤抽出物、例えば形質転換細胞を含む組織培養細胞株およびそれらの抽出物、ならびに発酵産物が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0009】本発明の目的は、他の有用な生物学的高分子および細胞の存在下において、核酸を選択的に修飾する方法および組成物を提供することである。本発明の方法および組成物によれば、ウイルス、その他の微生物および細胞の核酸を選択的に化学修飾し、一方で非核酸成分の構造および機能を保持することができる。本発明の目的はまた、ウイルス、微生物または細胞を不活化する一方でそれらの免疫原性を保持し、最大限の再現性を達成する、選択的不活化剤を提供することである。本発明のもう一つの目的は、効果的な不活化ウイルスワクチンを産生することである。
【0010】発明の概要エチレンイミンオリゴマー不活化剤が、細胞または生体高分子を含む組成物のような生物学的組成物中に混入したウイルスを、効果的且つ特異的に不活化できることが見出された。本発明は、様々な生体高分子を含む組成物をエチレンイミンオリゴマー不活化剤と接触させることを含む、該組成物中に存在するウイルスまたはその他の微生物の核酸分子を、選択的に修飾する方法を提供する。
【0011】現在利用可能なウイルス不活化剤は、ほとんどが、血液蛋白質である第VIII因子などの生体高分子を変化させ、それらを生物学的に不活化してしまうが、本発明のエチレンイミンオリゴマー不活化剤は、不活化を行う条件下においても、このような影響を与えないことが、見出された。血液細胞蛋白質、血漿、血漿分画沈降物、血漿分画上清、寒冷沈降物、寒冷上清またはそれらの部分もしくは派生物、または、血清または正常もしくは(例えば組換えDNA技術を介した)形質転換細胞由来の非血液産物のような生体高分子を含む組成物を、十分な時間にわたって、エチレンイミンオリゴマー不活化剤と接触させると、それらの組成物中に含まれる蛋白質などの生体高分子に大きな損傷を与えずに、組成物中に存在するウイルスを、所望の程度(ウイルス不活化の測定で少なくとも約6ログ、または計算上少なくとも約20ログ)に不活化できることが見出された。血液蛋白質組成物または濃縮物をエチレンイミンオリゴマー不活化剤と接触させることにより、A型もしくはB型肝炎またはHIVなどのウイルスを、例えば測定可能な不活化度で少なくとも約6ログ以上、または計算上は少なくとも約20桁のオーダーで、所望の程度に不活化することができる。処理した組成物中に含まれる蛋白質、炭化水素および脂質などの生体高分子は、本質的に、不活化前と同じ程度の活性をすべて保持している。
【0012】本発明の不活化剤および方法は、本質的に感染性ウイルスは含まないが、不活化前に存在した蛋白質の活性は本質的に定量的に保持しているような、例えば血液細胞由来物質(例えばヘモグロビン、α-インターフェロン、ヒト成長ホルモン、エリスロポエチン、PDGF、tPA等)、血漿、血漿画分、血漿沈降物(例えば寒冷沈降物、エタノール沈殿上清またはポリエチレングリコール沈殿上清)などの生体高分子を含む組成物を提供する。組成物中のウイルス量は、感染性の力価測定により決定する。
【0013】本発明の工程は、血漿、血漿分画、血漿の濃縮またはそれら由来の成分の処理という点から記述された。しかしながら、本工程はまた、細胞溶解物または細胞の分泌蛋白質を処理する際にも有用である。さらに、血小板、白血球、赤血球、繊維芽細胞由来の画分さらにはインターフェロン、成長ホルモン、tPA、第VIII因子、伝達因子、ヘモグロビン、成長因子、エリスロポエチンおよびDNAアーゼを含む溶液の処理に応用することも考えられる。
【0014】また、新鮮凍結血漿、解凍凍結血漿、凍結血漿由来の寒冷沈降物、寒冷上清または濃縮物について、それら由来の希釈物の場合同様に、本発明の不活化剤および工程を用いて処理することも可能と考えられる。
【0015】本明細書に記載されたものと同じ方法により、正常または形質転換した細胞の産生物中の生体高分子活性を保持しつつ、そのような産生物中に存在するウイルスを不活化することができる。例えば、エチレンイミンオリゴマー不活化剤を用いて、正常または形質転換した細胞を用いて産生した産生物、正常または形質転換した細胞、ハイブリドーマ由来の分泌物、および遺伝子操作により製造し生成物を不活化することができる。そのような処理は、実質的に、特定の蛋白質等の所望の生体高分子に悪い影響を与えることはない。 勿論、非哺乳類細胞と、同様に哺乳類の細胞を所望の蛋白質を産生するのに用いることができる。
【0016】本発明の方法および組成物は、基本的に、試料に含まれる全てのウイルスを不活化する。感染性の程度を決定する方法は、当業者には周知である。例えば、Lennette, E.H.およびSchmidt, N.J.(編)(1985)ウイルス、リケッチアおよびクラミジア感染の診断法(Diagnostic Procedures for Viral, Rickettsial andChlamydial Infections)第62版、American Publisher's Assn., Washington, D.C.参照。本発明によれば、実験的に測定可能なウイルスの不活化は、少なくとも約「6ログ」(6.0 log10)程度に達成される。即ち、未処理の組成物中に、10倍希釈してもウイルスの感染性が検出しうるような濃度でウイルスが存在する場合に、処理後には、ウイルスは、未希釈の試料でも検出できない程度に、感染性検査による測定では完全に不活化される。さらに重要なことは、本明細書に記載するように、不活化工程の正確な動態が得られたため、計算上少なくとも約20桁のオーダーで、ウイルスを含む組成物の感染性を減少させることができる。
【0017】ひとつの態様では、エチレンイミンオリゴマー不活化剤は三量体、直鎖型四量体または分枝型四量体である。好ましい不活化条件には、組成物を約0.0001 Mから約0.010 Mのエチレンイミンオリゴマー不活化剤とともにインキュベートすることが含まれる;この際のpHは、約6.5から約8.5である;溶液のイオン強度約0.01 Mから約0.5 Mである。更に好ましい反応条件は、約6.9から約8.5のpHにおいて、イオン強度約 0.1から約0.5 M未満の溶液中で、組成物を約0.001 Mから約0.01 Mのエチレンイミンオリゴマー不活化剤で処理することである。最も好ましい反応条件は、細胞または生体高分子を含む組成物を、三量体、直線型四量体または分枝型四量体のようなエチレンイミンオリゴマー不活化剤と、約4℃から30℃の範囲の温度で接触させることである。
【0018】本発明はまた、約0.0001 Mから約0.015 Mの単一のエチレンイミンオリゴマーを含み、約0.1 Mから約0.2 Mのイオン強度を有し、pH約6.5から約8.5の、生体高分子の混合物中の核酸を選択的に修飾するための、不活化剤組成物を提供する。
【0019】本発明は更に、生物学的組成物を、有効な濃度の選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤と接触させることを含む、該組成物中に存在する機能しうる核酸の選択的不活化方法を提供する。
【0020】本発明はまた、精製または未精製のウイルスを含む組成物を、ウイルスを不活化する条件下で、選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤と接触させることにより、不活化ワクチンを調製する方法に関する。
【0021】別の態様において、本発明は、有効量、即ち生物に所望の程度の免疫を与えるのに十分な量の不活化ウイルス、および薬学的に許容できる担体を含み、該不活化ウイルスが、ワクチンを患者または動物に治療目的で投与できるように、測定可能な感染性を少なくとも約 6.0 log10(または計算上少なくとも約20ログという望ましい程度まで)減少させるのに有効な、ウイルスを不活化する条件下で、ウイルスを本発明のエチレンイミンオリゴマー不活化剤とインキュベートする工程によって製造される、不活化ワクチンを提供する。
【0022】本発明は、本発明の不活化ワクチンを対象に投与することにより、対象にウイルスに対する免疫を与える治療法を提供する。
【0023】本発明はまた、血液またはそれに由来する画分を採集するための容器を含み、その容器が、そこに採集された血液またはそれに由来する画分中のウイルスを不活化するのに有効な量のエチレンイミン不活化剤を含む、採血装置を提供する。
【0024】もう一つの別な態様において、本発明は、不活化条件のもとで本発明のウイルス不活化剤で処理したウイルスを含む、診断薬および診断用標本に関する。
【0025】発明の詳細な説明1.定義:「選択的不活化剤」とは、一つのアジリジノ基を持ち、例えばポリヌクレオチドのようなポリアニオンに対して、他の生物学的分子よりも特異的に親和性を有するエチレンイミンオリゴマー試薬を指す。本発明の選択的不活化剤は、ウイルスの遺伝物質を含む核酸(一本鎖DNA、二本鎖DNA、またはRNA)に選択的に結合し、不活化条件のもとでは、非可逆的に機能的核酸を修飾してウイルスを不活化する、比較的毒性の低い化合物を含む。
【0026】本発明の「エチレンイミンオリゴマー」とは、一端にアジリジノ基を有し、置換されていてもよいエチレンイミンのオリゴマーを指す。本発明において好ましいエチレンイミンオリゴマーは、少なくとも3個のエチレンイミンユニットを有し、例えば三量体または直鎖型または分枝型の四量体を含む。本発明のエチレンイミンオリゴマーの合成は、当業者に周知の合成法に従って行われる。例えば、Kostyanovskii, R.G.ら(Izvesriya Akademii Nauk SSSR、Seriya Khimicheskaya、11:2566-2577、1988の翻訳文)参照。代表的なエチレンイミンオリゴマーを図1に示す。本発明の方法では、10ユニット未満のエチレンイミンオリゴマーが望ましく、約3から4ユニットのエチレンイミンオリゴマーがより望ましい。
【0027】エチレンイミンオリゴマーはまた、エチレンイミンの本質的な特性を逸しない限りにおいて、置換されていてもよい。一つの態様において、エチレンイミンオリゴマーはハロゲンに置換され、一般式、β-Hal-(CH-CH-NH)H、で表される。しばしばナイトロジェンマスタードと呼ばれるこのような化合物は、塩化水素または臭化水素を用いて、エチレンイミンまたはそのオリゴマーを、β-ハロゲノモノ-またはオリゴ-エチルアミンに定量的に変換することにより、合成される。ナイトロジェンマスタードは強力な求電子体で、直接にまたは対応するアジリジンへの中間的な変換を通して、核塩基の求核基をアルキル化する。エチレンイミンオリゴマーと同様に、β-ハロゲノオリゴ-エチルアミンは、ポリアニオンに対する選択性が高い。このため、これらのエチレンイミンオリゴマーは核酸に対する親和性が高いが、修飾の動態については検討の余地がある。
【0028】不活化剤は、不活化剤と核酸との比較反応速度が、例えば蛋白質、炭化水素または脂質などの他の生物学的分子との反応速度より大きければ、核酸に対する「選択性」を有する、または「選択的に」核酸と反応すると言える。核酸に対する選択性が他のアルキル化剤とおよそ同程度のエチレンイミン単量体については、エチレンイミンオリゴマー不活化剤としてのレベルで、蛋白質より核酸に対する選択性が高いことは、期待できない。
【0029】「核酸」とは、一本鎖および二本鎖の、DNAおよびRNAの両方を指す。
【0030】「生物学的組成物」とは、細胞または生体高分子を含む組成物を意味する。細胞を含む組成物は、例えば、全血、赤血球濃縮物、血小板濃縮物、白血球濃縮物、血液細胞蛋白質、血漿蛋白質画分、精製血液蛋白質、血清、精液、哺乳類の初乳および乳汁、胎盤抽出物、発酵産物、腹水液、ならびに正常または(例えば、組換えDNAまたは単クローン抗体技術を用いて)形質転換した細胞による細胞培養において産生された産生物を含む。「生体高分子」または「生物学的分子」とは、例えば、核酸、ポリペプチド、転写後修飾を受けた蛋白質(例えば糖蛋白質)、多糖類および脂質を含む、生体中に通常認められるすべての種類の有機分子を意味する。生体高分子を含む組成物には、例えば血液細胞蛋白質、血漿、血漿画分沈降物、血漿画分上清、寒冷沈降物、寒冷上清、またはそれらに由来する部分もしくは派生物、血清、または正常もしくは(例えば組換えDNA技術を介して)形質転換した細胞から産生された非血液産生物が含まれる。生物学的組成物は、無細胞系でもあり得る。
【0031】「機能的核酸」とは、複製、転写、翻訳または核酸分子のその他の活性の鋳型として働く配列要素を持つ核酸を意味する。そのような要素には、例えば、核酸分子の複製起点をコードする配列、プロモーター/エンハンサー、転写ターミネーターおよびその他の調節要素などの転写要素;リボソーム結合部位、翻訳開始コドンおよびコーディング配列およびインフレーム終止コドンなどの翻訳要素;およびRNAの触媒活性に関与する配列が含まれる。
【0032】「生体高分子の活性を阻害する」とは、生体高分子の機能または活性を、測定で検出できる程度減少させることを意味する。機能または活性の減少は、特定の生体高分子の活性を測定するのに用いられる標準的なアッセイのいずれによっても測定できる。例えば、ある酵素(蛋白質)または抗原の活性阻害は、酵素反応の速度変化または抗原に対する免疫応答を、一般的なアッセイを用いて測定することによって定量できる。このような阻害の別の例としては、RNAの翻訳阻害が挙げられ、これは適当なインビトロまたはインビボの翻訳系において産生されるRNAがコードする蛋白質の量を測定することにより、定量できる。
【0033】「不活化すること」、「不活化」、または「不活化する」とは、機能的核酸に関する場合には、たとえば、複製、転写またはメッセージの翻訳を行う活性を破壊することにより、DNAまたはRNAの活性を、実質的に除去することを意味する。例えば、あるRNAの翻訳阻害は、適当なインビトロまたはインビボの翻訳系において産生される、一定量のRNAによってコードされる蛋白質の量を測定することにより、決定できる。ウイルスに関する場合には、本用語は、1 mlあたりの感染力価または感染性ウイルス粒子数の減少として測定される、感染性ウイルス粒子数を減少させるまたは除去することを意味する。感染性ウイルス粒子がそのように減少したことは、当業者に周知のアッセイによって、定量する。Lennette, E.H.およびSchmidt, N.J.(編)(1985)ウイルス、リケッチアおよびクラミジア感染の診断法(Diagnostic Procedures for Viral, Rickettsial and Chlamydial Infections)第62版、American Publisher's Assn., Washington, D.C.。
【0034】実験的には、感染性の減少は、細胞または生体高分子を含む組成物中で、少なくとも約「6ログ」まで測定することができる。これは、未処理の血清中に、10倍希釈してもウイルス活性が測定できるような濃度でそのウイルスが存在すると、感染性検査で定量できる程度までウイルスが不活化されているということである。特異的なウイルス力価が10に満たない場合、不活化は、産生されたウイルスの力価に従って、直接定量して測定する。または、このような感染性ウイルス粒子数の減少を、不活化の動態に影響を及ぼす化学的、物理学的および生物学的要因を考慮しつつ、不活化中のウイルス浮遊液の感染性の正確な実験による定量に基づく不活化工程の動態記録によって、少なくとも約「20ログ」の程度まで、本明細書に記述したような計算により定量できる。
【0035】「ウイルスを不活化する条件」とは、ウイルスゲノムを所望の程度まで不活化するための、例えば、処理時間、pH、温度、塩組成および選択的不活化剤の濃度を含む、ウイルス粒子を本発明の選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤ともにインキュベートする条件を指す。ウイルスを不活化する条件は、核酸を選択的に修飾するための条件として以下に記述した条件から選択する。
【0036】「ウイルス」とは、DNAウイルスおよびRNAウイルスの両方を意味する。ウイルスはエンベロープを持つウイルスおよび持たないウイルスの両方、例えばポックスウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、パルボウイルス、レオウイルス、オルビウイルス、ピコルナウイルス、ロタウイルス、αウイルス、ルビウイルス、インフルエンザウイルス、A型およびB型肝炎ウイルス、フラビウイルス、コロナウイルス、パラミクソウイルス、モビリウイルス、肺炎ウイルス、ラブドウイルス、リッサウイルス、オルソミクソウイルス、ブニヤウイルス、フレボウイルス、ナイロウイルス、ヘパドナウイルス、アレナウイルス、レトロウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルスおよびフィロウイルスを含む。
【0037】「ワクチン」とは、生物に必要な程度の免疫を付与するのには有効で、罹病率および死亡率は非常に低いレベルであるような薬剤を意味する、通常の意味で用いる。ワクチンの製造法は、勿論、免疫系の研究および動物またはヒトの疾患の予防に有用である。
【0038】「薬学的に許容できる」とは、化合物を投与される動物にとって、比較的毒性がないを意味する。「薬学的に許容できる担体」には、生理食塩水、水ならびに、油/水または水/油乳剤、および様々なタイプの湿潤剤および/またはアジュバントのような、すべての標準的な薬学的担体、緩衝液および賦形剤が含まれる。
【0039】2.一般事項:本発明は、核酸を修飾する多くの薬剤、特にエチレンイミン単量体(アジリジン)と比較して、三量体および四量体の形のエチレンイミンオリゴマーは、核酸の修飾において、蛋白質などの他の生体高分子の修飾よりも有意に選択的であるという、予期せぬ驚くべき発見に基づいている。エチレンイミンオリゴマーは、エチレンイミン単量体の何桁ものオーダー、それも場合によっては6桁のオーダーで、選択性が高い。核蛋白質またはウイルスのように、核酸が蛋白質と密接に会合している組成物においては、本発明の方法で選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤を用いると、特に効果的である。
【0040】本発明は、細胞または生体高分子を含む組成物をエチレンイミンオリゴマー不活化剤を接触させることを含む、該組成物中の核酸分子を選択的にアミノアルキル化するための方法および条件を提供する。その方法の結果、組成物中の核酸は、他の生物学的分子よりも遥かに速やかに化学修飾される。この方法は、核酸は修飾したいが他の生物学的分子は比較的変化させたくない、いかなる方法においても有用である。例えば、本発明の方法は、例えばマッピング、またはウイルスもしくはその他の生物のゲノムを不活化するために、検出可能な標識(放射活性、蛍光、酵素等)を有するエチレンイミンオリゴマーで優先的に核蛋白質(例えばクロマチンまたはリボソーム)中の核酸を標識するのに有用である。
【0041】本発明のエチレンイミンオリゴマー不活化剤は、プロトン化したアジリジノ基がポリヌクレオチド中の核塩基と反応することにより、核酸を優先的に修飾する。ウイルス不活化剤がポリアニオンと会合する活性は、一部は、分子当たりのプロトン化しうる基の数に、与えられた条件下におけるプロトン化の全体の程度に依存する。修飾は、複数の陽イオンを持つウイルス不活化剤が核酸ポリアニオンと会合する過程を介して起きる。プロトン化の程度は、部分的にはpHに依存する。本明細書に記述したように、アジリジン基のpK値は、ポリマーの長さに従って減少する。しかしながら、エチレンイミンオリゴマー不活化剤が選択的に核酸と会合する活性は、エチレンイミンオリゴマー不活化剤の長さに従って、有意に増加する。従って、生理学的なpHにおいて、効果的および選択的に核酸をアルキル化することができる。
【0042】核酸を選択的にアミノアルキル化する方法の一つの態様には、核酸にpH約6.5から約8.5で、好ましくは、pH約7.0から約8.0で、および最も好ましくはpH約7.5で、約0.0001 M から約0.015 M の選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤を接触させる工程が含まれる。エチレンイミンオリゴマー不活化剤の濃度は、一部はエチレンイミンオリゴマー不活化剤中のプロトン化しうる基の数およびウイルス粒子の安定性のために選択されるpHに依存している。選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤は、好ましくはエチレンイミンの三量体、直鎖型四量体または分枝型四量体である。また別の態様においては、そのアミノアルキル化方法には、約0.1 Mから約0.5 M、好ましくは約0.15 Mのイオン強度を有する溶液中で、核酸を選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤に接触させる工程が含まれる。塩は、ナトリウム、カリウム、リン酸塩または酢酸塩等を含む、生化学において通常使用されるどのような塩でもよい。溶液のpHは、リン酸、酢酸、硼酸、トリス、HEPES、MOPSなどの当技術分野において生体高分子または細胞を取り扱う際に通常用いる、任意の緩衝液を用いて調整することができる。好ましい緩衝液は、MOPSおよびトリスである。高濃度のリン酸を含む緩衝液は好ましくない。所望のpHおよびイオン強度を達成するために、反応条件を調整することが可能である。また、反応物質の濃度、温度、処理時間などの、反応条件および望ましい感染性不活化の程度に依存する他の要因も、調整することが可能である。本明細書で以下に記述するように、速度論的な方法を用いて、核酸をアミノアルキル化して、機能的核酸またはウイルスを予め決めた程度まで不活化する条件を、記載された条件の中から選択するとともに、不活化の終点を決定する必要がある。
【0043】ウイルス核酸のアルキル化の程度は、感受性細胞にウイルスを含む混合液を階段希釈して導入した後、37℃でインキュベートする、細胞培養における細胞傷害効果(CPE)の測定するような、当業者に周知の様々なアッセイを用いて、ウイルス感染性の不活化の程度に基づいて、決定することができる。蛋白質、多糖類および糖蛋白質をエチレンイミンオリゴマーで修飾すると、余分の正電荷を導入することになると考えられる。この生体高分子の修飾程度は、例えば、等電点電気泳動、オートラジオグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLCおよびその他のクロマトグラフィーを含む、当技術分野において周知の手段によって、測定することができる。
【0044】本発明はまた、イオン強度が約0.1 Mから約0.2 M、好ましくは約0.15 M で、pH約6.5から約8.5、好ましくはpH約7.0から約8.0、および最も好ましくはpH約7.5に調整した、約0.0001 M から約0.015 M のエチレンイミンオリゴマー不活化剤を含む、細胞または生体高分子を含む組成物中の核酸を選択的に修飾、すなわちアミノアルキル化するための組成物に関する。エチレンイミンオリゴマー不活化剤は、好ましくは、三量体または四量体で、直鎖型または分枝型のいずれかである。塩および緩衝液は上記のいかなるものでも用いることができる。ひとつの態様においては、その組成物は、機能的な核酸をアミノアルキル化するのに効果的な量のエチレンイミンオリゴマー、イオン強度およびpHを有する。別の態様においては、その組成物は、ウイルスを不活化するのに効果的な量のエチレンイミンオリゴマー濃度、イオン強度およびpHを有する。これらの組成物は、殺菌剤または抗ウイルス剤として、また本明細書に記述された本発明の全ての方法において、有用である。
【0045】本発明はまた、試料を有効量の選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤と接触させることを含む、生物学的試料中の機能的な核酸の活性を、選択的に阻害する方法に関する。これらの方法には、多くの用途がある。機能的な核酸がプラスミドまたはDNA断片のような裸の核酸である場合、それらを阻害することは、例えばトランスフェクションによってそれらを取り込んだ細胞に形質転換を起こすような分子の活性を、減少させるのに有用である。無細胞翻訳系においては、このような阻害はRNAの翻訳を低減させるのに有用である。機能的な核酸が、リボザイムのような触媒活性を持つ核酸である場合には、この方法は、核酸がその標的に働くのを阻害するのに有用である。
【0046】機能的な核酸が感染性ウイルスの一部であるウイルスゲノムの場合、この方法は、ある領域を殺菌したり、全血、血液製剤または細胞培養で産生される蛋白質のような生物学的産物などの、細胞または生体高分子を含む組成物中のウイルスを、不活化または除去して、ウイルスの感染性を所望の程度(例えば本明細書に記述したように、計算上で少なくとも約20ログ)まで不活化するのに有用である。生体高分子を含む組成物としては、例えば、全血から精製した蛋白質;血液製剤(例えば、第VIII因子などの凝固因子、エリスロポエチンなどのホルモン等);細胞抽出液、生物学的分子(例えば、組換え蛋白質)に富む増殖培地などの細胞培養による産生物;血液製剤とともに処理する蛋白質を含む組成物(例えば、ウシ血清と共にインキュベートした組成物)および植物性の産物が含まれる。これらの方法は、組成物中の生物学的産物の重要な生物学的特性を保持しつつ、実験室においても治療においても使用する、これらの産物の純度および安全性を保証する手段として、有用である。
【0047】本発明はまた、血液検体を採集および/または処理し、その中に存在するウイルスを不活化するための、採血装置を提供する。本発明の採血装置は、血液または血液画分を採集する容器、および、そこに採集した血液またはそれに由来する画分中のウイルスを不活化するのに有効な量の、本発明のエチレンイミンオリゴマーの選択的不活化剤を含む。この態様の一つの例としては、エチレンイミンオリゴマー不活化剤を含む、吸引容器のような、停止装置付きの吸引チューブが含まれる。血液検体がチューブに入ると、エチレンイミンオリゴマー不活化剤と接触する。別の例としては、たとえば献血用の採血袋がある。本発明の採血袋は、袋に入れる血液と接触するエチレンイミンオリゴマー不活化剤を含む。
【0048】同様に、機能的な核酸が細菌性またはその他の生物のゲノムの一部である場合には、この方法は、そのような細菌またはその他の生物を殺菌し除去するのに有用である。
【0049】本発明の方法によってウイルスゲノムを修飾すると、ウイルスの再生産が阻害されるため、本発明の不活化ワクチンは感染性を持たない。更に、ウイルス外被蛋白質は同じ程度にまでは修飾されないため、ワクチンは十分に免疫原性を保持している。エチレンイミンオリゴマーは、他の選択的不活化剤と比較すると有意に核酸に対する修飾の選択性が高いため、エチレンイミンオリゴマーを含む本発明の組成物は、現在使用されているより選択性の少ない他の不活化剤に比べて、大きな利点を提供する。
【0050】したがって、本発明はまた、ウイルスを不活化する条件下で、ウイルスを選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤と接触させることを含む、不活化ワクチンの製造方法に関する。ウイルスを不活化する条件は、ウイルス性、細菌性またはその他の生物由来の核酸をアミノアルキル化して不活化するための、上述した方法の中から選択する。一般に、1 ml当たり約10から10ユニットの高力価のウイルスを、pH約6.5から約8.5、イオン強度0.50 M未満の溶液中で、約4℃から約40℃の温度で、エチレンイミンオリゴマーとともにインキュベートする。処理時間(すなわち不活化の終点)は、その特定のウイルスの構造および組成、処理温度、イオン強度、およびエチレンイミンオリゴマー中のプロトン化しうる基の数に依存する。しかしながら、速度論的研究から、pHおよび不活化されるウイルスによって、処理時間は最低2〜3秒から1時間、5時間、50時間、100時間、300時間または500時間にもなりうることが示されている。好ましくは、選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤は、三量体、直鎖型四量体または分枝型四量体である。ワクチン製造の方法は、当技術分野においてはよく知られており、例えば、ワクチン(Vaccines)(Slorein, G. Martance, E.編)第二版、1994、Saunders、Harcourt-Brace、Phil.、Torontoに記載されている。
【0051】ワクチンの用途には、不活化ウイルスを直接ワクチン製剤に用いるか、または、個々のもしくは複数回の投与量の容器中で凍結乾燥し、その後、薬学的に許容できる担体と混合することができる。凍結乾燥した不活化ワクチンは、通常4℃で保存する。
【0052】ワクチンはまた、アジュバント、すなわち抗原とともに用いると免疫反応を引き起こすような物質の中に入れて、投与することもできる。このワクチンは、免疫用量で投与することができる。免疫用量は、免疫反応を惹起または増強するのに必要な、抗原または免疫原の量である。この量は、存在する様々なアジュバントの種類および有効性により、変化しうる。この量は、動物および免疫原もしくは抗原またはアジュバントにより異なるが、一般に、一回の投与量当たり約100mg 未満であると考えられる。免疫用量は、宿主動物で、統計学的に有効な、免疫およびチャレンジに関する研究を行うなど、当業者に周知の方法で、簡単に決定することができる。例えば、臨床免疫マニュアル(Manual of Clinical Immunology)、H.R. RoseおよびH. Friedman、アメリカ微生物学会、Washington D.C.(1980)参照。
【0053】細胞もしくは生体高分子を含む組成物を処理する方法、または不活化ワクチンを産生する方法は、当技術分野において、エチレンイミン単量体およびβ-プロピオラクトンのような他のアルキル化剤により、非可逆的に不活化されることが既に知られているウイルスを不活化する場合に、特に有用である。従って、本発明の薬剤は選択性が高いために、ワクチンを製造するためのウイルスまたは混入物を除去するための生物学的産生物を選択する際に用途がより広いが、部分的には、当技術分野における他の不活化剤に関する経験から、示唆を得ることができる。
【0054】本発明はまた、有効量の不活化ウイルスおよび薬学的に許容できる担体を含み、該不活化ウイルスが、感染性を所望の程度まで(直接測定によれば少なくとも約6ログまで、または本明細書の記述に従った計算によれば少なくとも約20ログまで)減少させるのに有効なウイルス不活化条件下でウイルスを処理する方法により製造される、不活化ワクチンに関する。本発明のワクチンは、動物またはヒトの疾患を予防するために有用である。所望の程度の免疫を惹起することのできるワクチンは、勿論、免疫反応を惹起するのに有効量の不活化ウイルスを含む。これらのワクチンに含まれるウイルスゲノムは、他のワクチンに比し、核塩基の内環の窒素がアルキル化されるが、他のいかなる選択的不活化剤がなし得るよりも、ウイルス粒子内の他の生体高分子より核酸が修飾される相対速度が有意に大きいため、不活化が遥かに効果的であるという事実により、それらのワクチンと実質的に異なっている。不活化ワクチンを産生する際には、ウイルスは不活化するが免疫原性は保持するような量および条件下で、本発明の選択的不活化剤でウイルス標品を処理する。
【0055】適当な薬学的担体およびそれらの剤形は、Martin、レミントン薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)、第19版(Mack Publishing Co.、Easton 1995)に記載されている。そのような組成物は、一般に、患者に適正に投与するための適正な投与形態を調製するために、有効量の化合物とともに適当量の担体を含む。
【0056】本発明は更に、本発明の不活化ワクチンを対象に投与することにより、対象をウイルスに対して免疫する治療方法に関する。投与対象は、ヒトまたはヒト以外の動物である。本発明の治療方法を実施する際には、上述したような、本発明の化合物の有効量が、当技術分野において知られている通常の、および許容できるどの方法によっても、単独または本発明の別の化合物との組み合わせで、投与される。
【0057】本発明の治療方法を実施する際には、対象に投与するワクチンの量は、ウイルスの性質、投与計画、対象の年齢および生理的特性等を含む様々な検討項目に依存する。医学分野で周知の臨床的な手法を用いて、適正な投与量が決定できると考えられる。
【0058】理論に制約を受けたくはないが、選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤の核酸に対する高い特異性は、明らかに、本発明を実施する際に扱う可能性のある、以下の要因に関連する。エチレンイミン単量体およびエチレンイミンオリゴマーは、1個のアジリジノ基を含む(図1)。アジリジンの求電子剤としての反応性は、アジリジン窒素のプロトン化に伴って、劇的に増加する(Van Etten, R.L.およびDolhun, J.J.(1968)J. Org- Chem. 33:3904-3913)が、アルキル化による影響はわずかである(Earley, J.E.ら(1958)J. Am. Chem. Soc. 80:3458-3462)。このため、アジリジノ基がプロトン化された形の化合物のみが、おそらくは唯一の反応型である。アジリジンの通常の求電子反応の速度は、溶液中の、それらのプロトン化型化合物の濃度に比例するはずである。
【0059】図1の化合物I〜Vは、それらのアジリジノ基のpKa値、ならびにアミノ基の数、相対配置、およびpKa値が、相互に有意に異なっている(図1)。このため、アジリジノ基がプロトン化されているこれらの化合物の反応型の分画、およびそれら全体の平均的な正電荷の両方が、pH値に大きく依存している(表2)。
【0060】
【表1】 オリゴエチレンイミンのプロトン化可能な基のpKa値
)二つの第二級アミノ基の平均値**)二つの第一級アミノ基の平均値【0061】アジリジンが蛋白質およびポリヌクレオチドに反応するとアミノ酸残基および核塩基の両方の求核基がアミノアルキル化される(Dermer, O.C.およびHam, G.E.(1969)エチレンイミンおよびその他のアジリジン(Ethyleneimine And OtherAziridines)Acad. Press、NY-London 52:249-285)。他の多くの求電子剤のように、アジリジンは、プリンのN7、N3、およびN1で優先的に、およびピリミジンのN3でははるかに低い程度で、核酸を修飾する(Hemminki, K.およびLudlum,D.B.(1981)J. Natl. Cancer Inst. 73:1021-1027;Musser, S.M.ら(1992)Chem. Res. Toxicol. 5:95-99;Singer, B.およびGrunberger, D.(1983)変異原および発癌物質の分子生物学(Molecular Biology of Mutagens and Carcinogens)、Plenum Press、New York-London;Loveless, A.(1966)アルキル化剤の遺伝的および同類の影響(Genetic and Allied Effects of Alkylating Agents)Butterworths、London;ならびに、Kochetkov, N.K.およびBudowsky, E.I.編(1972)核酸の有機化学(Organic Chemistry of Nucleic Acids)パートB、Plenum Press、London-New york)。鋳型合成は、N7がアルキル化されたプリン、多くの場合はグアニンの、イミダゾール環の開環が相対的に遅いことが主な理由で、アルキル化剤により阻害される(O'Connor, T.R.ら(1988)Nuc. Acids Res. 16:5879-93;Hemminki, K.(1984)Chem.-Biol. Interactions. 48:249-260)。例えば、エチレンイミンはグアノシンを修飾してN7(アミノエチル)-グアノシンを生成するが、これはN7-アルキルグアノシンの場合よりイミダゾール環の開環速度が遥かに速い(Hemmimki, K.(1984)Chem.-Biol. Interactions 48:249-260;Hemmimki, K.ら(1989)Chem.-Biol. Interactions. 70:289-303)。
【0062】
【表2】 オリゴエチレンイミンの総平均正電荷(A)およびそれらのアジリジノ基のプロトン化の程度(B)

【0063】pH7.5においてエチレンイミン単量体(I)がその四量体(IVおよびV)へと変わると、溶液中の平均薬剤濃度に基づいて計算される、ファージの感染性不活化の有効速度定数(k)は、二桁以上のオーダーで増加する(表3)。このような変化の結果、アジリジノ基のpKa値は5桁のオーダーで減少する。従って、このpHでは、この薬剤の反応型画分は、約4桁のオーダーで減少する(表2)。このため、pH7.5における単量体から四量体への変化によって、溶液中の反応型薬剤の平均濃度(k1)に基づいて算出される速度定数は、およそ六桁のオーダーで増加することになる。
【0064】
【表3】 反応型薬剤の総平均濃度(k1、括弧内)に基づき算出された、0.15MNaCl、20℃でのオリゴエチレンイミンの反応による、MS2ファージの感染性不活化(M−1・分−1)の速度定数
速度定数は、生存曲線の最初の部分を用いて計算した。
** 直鎖型および分枝型四量体の等モル組成物【0065】エチレンイミンオリゴマーは、オリゴカチオンとしてポリヌクレオチドに対して高い親和性を有し、このことは、その結合定数に反映されている。静電気的な相互作用に影響を受けるこの結合定数は、オリゴカチオンおよびポリアニオンの体積当たりの電荷密度に比例するため、オリゴカチオンの総平均正電荷に伴って増加する。エチレンイミン単量体がそのオリゴマーへ変化すると、分子の総平均正電荷は、劇的に増加する(表2)。更に、エチレンイミンオリゴマー内でのプロトン付加可能な基同士の間の距離は、ポリヌクレオチド中の異分子間のリン酸基の距離と同程度である。このために、単量体から四量体への変化によって、オリゴエチレンイミンのプロトン付加可能な基の数が増加すると、例えばウイルスRNAのようなポリヌクレオチドに対するそれらの結合が増えることになる(Manning, G.S.(1978)Q. Rev. Biophys. 2:179-246;Thomas, T.J.およびBloomfield, V.A.(1984)Biopolymers 23:1295-1306;および、Stevens, L.S.(1967)Biochem. J. 103:811-815)。
【0066】核酸の修飾に用いられるアルキル化剤の多くは、ポリヌクレオチドに対して、特別な親和性を有しているわけではない。ポリヌクレオチド修飾のpH依存性を、核塩基のpK値と比較すると、pH6.0-8.0の範囲では、アルキル化を受けるのは、主に中性型の核塩基であることがわかる(Budowsky, E.I.およびZalesskaya, M.A.(1991)Vaccine、9:319-325;Singer, B.およびGrunberger, D.(1983)変異原および発癌物質の分子生物学(Molecular Biology of Mutagens and Carcinogens)、Plenum Press、New York-London;Loveless, A.(1966)アルキル化剤の遺伝的および同類の影響(Genetic and Allied Effects of Alkylating Agents)Butterworths、London;ならびに、Kochetkov, N.K.およびBudowsky, E.I.編(1972)核酸の有機化学(Organic Chemistry of Nucleic Acids)パートB、Plenum Press、London-New york)48,50,51)。pHが更に高くなると、より反応性の高い脱プロトン型のグアノシンおよびウリジン画分が増加し、このため、ファージの不活加速度が速くなる。しかしながら、pH8.5におけるファージ感染性の不活化の速度定数は、pH7.5の場合よりも小さくなる(表3)。このため、少なくともこのpHの範囲においては、反応型薬剤画分が不活加速度に及ぼす影響は、核塩基の場合よりも大きい。従って、pH6.0-8.5において感染性不活化の速度定数を算出する場合には、反応型(脱プロトン型)の核塩基画分は、基本的に一定であると仮定する。この結果、ファージMS2をオリゴエチレンイミンで不活化する際には、不活化の速度定数のpH依存性は、主に、反応型画分および不活化剤の総平均正電荷によって決定する。
【0067】pHを8.5から6.5に減少させると、有効不活化速度定数は60倍増加する。このことは、この薬剤の溶液中の反応性画分が増加することと相関する(表2および3)。このため、この場合には、不活化速度に対するpHの影響は、主として溶液中の反応型薬剤の濃度変化によって決まる。しかしながら、三量体および四量体の総平均正電荷のpH依存性は、エチレンイミン単量体の場合よりもはるかに著しく(表1)、このため三量体および四量体によるポリヌクレオチドの修飾速度の方が、単量体および二量体による場合と比べてより多様性が大きいことは、強調されねばならない。
【0068】従来の不活化剤による任意のウイルス構成成分の修飾速度は、通常、溶液中の薬剤の平均濃度の関数と考えられる。しかしながら、分子量の小さい薬剤が特定のポリマーに対して特異的な親和性を有する場合には、このポリマー付近の薬剤の局所濃度は、その薬剤の溶液中の平均濃度よりも高く、そのポリマーからの距離に従って、指数関数的に減少する(Dolar, D.およびPeterlin, A.(1969)J.Chem. Phys.、50:3011-3015)。ウイルスゲノム不活化の選択性は、それらの生体高分子付近の、薬剤の局所濃度の違いに比例するはずである。このため、オリゴエチレンイミンの濃度がゲノム付近で局所的に増加するだけで、その修飾速度は優先的に増加するはずである。しかしながら、上記で考察したように、エチレンイミンのオリゴマーとポリヌクレオチドとの間で形成される複合体は、アジリジノ基のプロトン化の程度を増加させるはずであり、このため、ポリヌクレオチドを修飾する速度定数(k1)をも増加させる。距離にしたがって薬剤濃度は指数関数的に減少するため、そのポリマーから1-2 nm離れると、薬剤の局所濃度は、本質的には、その溶液中の平均濃度と等しい(Dolar, D.およびPeterlin, A.(1969)J. Chem. Phys.、50:3011-3015)。明らかに、この距離での反応型薬剤画分は、溶液中の遊離(非会合)の状態と同じはずである。このため、不活化剤のポリヌクレオチドへの会合とともに、ポリヌクレオチド付近の不活化剤の濃度が増加しても、カプシド構成成分、特に、ウイルス粒子表面に存在するそれらの抗原産生領域の修飾速度には、影響を与えないはずである。従来の不活化剤と比べて、核酸に対して特異的な親和性を有する、本発明の選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤を用いることにより、ウイルスゲノム不活化の選択性が増強される。
【0069】これらのデータおよび考察の全てから、ポリヌクレオチド親和性が高く、ウイルスゲノム修飾の反応速度が速く選択性の高い、エチレンイミン三量体または四量体を、選択することとなる。上記で示したように、このようなオリゴマー化により、少なくとも六桁のオーダーで選択性が増加する。従って、たとえエチレンイミン単量体の選択性が、現在、ウイルス粒子全体を用いた不活化ワクチンの製造に用いられている他の薬剤よりすぐれていないとしても、三量体および四量体の選択性が非常に増加するため、ウイルス粒子構成成分の免疫原性、安定性およびその他のウイルス粒子の特性に対する修飾効果は、無視できるようになる。
【0070】ポリヌクレオチドの修飾に対する選択性を持つ、選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤を用いることにより、安全かつ効率的な不活化抗ウイルスワクチンを製造する新たな機会が提供される。また、同様の方法を、動物組織および細胞培養から単離された医薬品および動物用医薬品の場合と同様に、ドナーの血液および血清中の最も有害な混入物であるウイルスを選択的に不活化するために、用いることができる可能性がある。同様の方法を、細胞または生体高分子を含む組成物に混入する可能性のある、生物学的活性を持つ(例えば形質転換された)DNA断片を選択的に不活化するために用いることもできる可能性がある。
【0071】以下の実施例は、説明の目的で提供するもので、限定のためのものではない。
【0072】実施例1バクテリオファージの不活化速度論的測定バクテリオファージMS2は、通常の方法にしたがって調製した。ポリエチレングリコール(PEG 6000, Serva)による再沈降法またはNaClの直線的濃度勾配(0.02-1.0M,20mM Tris HCl,pH 7.4)によるDEAE-Sephadex A25のクロマトグラフィー法によって精製した。精製したファージは0.15M NaCl溶液に懸濁し(2-10mg/ml)4℃で保存した。ウイルス懸濁液の感染性は、大腸菌CA180と肉-ペプトン寒天を用いた通常の2層法で決定した。
【0073】エチレンイミン(I)、その三量体(II)、および直鎖型(IV)、および分枝型四量体は、Kostyanovskyら(1988)Izv.Akad.Nauk SSSR 11:2566-2575の方法に従って調製した。これらの化合物の純度は、PMRのデータによって95%以上であることが示された。エチレンイミンの溶液は、0.15M NaCl溶液に計算した量の化合物(化合物 I,IIIおよびIV(V)の20℃における比重は、それぞれ0.836、0.945および0.968g・cm−3)を使用直前に加えることによって調製した。
【0074】25℃における0.15M NaCl水溶液中でのエチレンイミンのプロトン化しうる基のpKa値は、サーモスタット付きの小室のある自動滴定機TTT-60(Radiometer)を用いて、HClによる電位測定滴定の結果(図2)に基づいて計算した。pKa値測定の精度は0.05程度である。反応型(アジリジン窒素がプロトン化される)薬剤(Q)画分は以下の式で計算される:
ここで、pKi値はそれぞれの化合物中のアジリジノ基のpKa値である。
【0075】分子の総平均正電荷(p )は以下の式で計算される:
ここで、d・(H・An+)は、そのpH値でのnの正電荷を持つ薬剤画分を示す。
【0076】混合前、ファージを含む組成物および新たに調製した選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤の溶液を20℃に保ち、希釈したNaOHまたはHCl溶液で所望のpHに調節した。20℃に保温した反応液(不活化剤の最終濃度は図3および4の簡単な説明に示す)の一部分を定められた時間間隔で採取し、即座に100倍希釈して感染性(力価)の測定に用いた。感染性不活化の有効速度定数(k)は以下の式で計算される:
ここで、Aは薬剤の濃度(総濃度または反応画分濃度);SおよびSは不活化開始前およびt分後の懸濁液の感染性(力価)を示す。
【0077】電位滴定曲線(図2)は一定の形となり、これはエチレンイミンオリゴマー不活化剤のイオン化状態の変化を反映している。単量体の場合、単一のプラトーはアジリジノ基のプロトン化に対応している。算出されたpKa値(表1)は、文献値(O'Rourke ,C.E.ら、(1956)J.Am.Chem.Soc.,78:2159-2160.)と良く一致している。このほかの化合物については、プラトーはアミノ基およびアジリジノ基のプロトン化に対応している(表1)。オリゴマーIIからVによる酸の消費は、それぞれがpKa5.15-3.0の一つの基を持っていることを示し、これらの分子中に一つのアジリジノ基が存在することに対応している。分子IIからVは、より多数の強い塩基性のアミノ基が分子の総正電荷を増加させ、それによってアジリジノ基のプロトン化を減少させるため、エチレンイミンに対するアジリジノ基のpKaが減少を示す。分子IVとVの間で、pKaの違いが目立たないのは、おそらくこれらの分子の間ではアジリジノ基とアミノ基の相互の配置が異なるためと考られる。化合物IIからIVの場合の最も塩基性のアミノ基をプロトン化するためには1当量の酸が必要だが、化合物Vには2当量が必要である。これらのデータは、最初の3種の化合物ではそれぞれ一つの第1級アミノ基が存在し、Vにはこうした官能基が2つ存在することに対応している。1および2当量の酸を消費することは、1個および2個の第2級アミノ基が存在することに対応しており、化合物IIIおよびIVのイオン転移がそれぞれpH7.35および7.05で起こるために必要である。pH6.4で化合物Vがイオン転移のために1当量の酸が消費されることは、一つの第3級アミノ基が存在することに対応している。これらの化合物では、第1級アミノ基のpKa値が、第2級および第3級アミノ基のものより高いのは、恐らくポリアミン分子の構造と同様に電子効果によるものであろう( M.D.Bratek-Wiewiorowsakら、(1986) Bull. Pol. Ac. Sci., Chem. 34:229-249参照)。これらのデータを用いて、任意のpHにおける化合物IからVの総平均正電荷およびアジリジノ基のプロトン化の程度を計算した(表2)。
【0078】pH7.5において化合物IからVの作用によってファージMS2の感染性が指数関数的に減少していることは、ここで用いた条件下では、これらの化合物の濃度が一定であることを示している。このことから、ここで得られたデータに基づいて感染性不活化に対する有効速度定数(k)を計算することができる。表3に示したように、エチレンイミン単量体からその四量体への変化は、この速度定数を2桁程度増加させる。
【0079】pHを8.5から6.5に減少させると、エチレンイミンによるファージ感染性の不活化の速度は60倍増加する(図4、表3)。この化合物をpH6.5で用いると、生存曲線の形を指数関数的なものから有意に変化させる(図4)。この変化は、化合物IIの濃度の急激な減少が、恐らくこのpHにおける陽イオンの重合によることを示している(Gembitsky,P.A.ら、(1791) Nauka.Moscow参照)。このため、pH6.5での化合物IIに対する不活化速度定数は、生存曲線の最初の部分だけを用いて計算した。不活化の初期段階の速度定数および感染性不活化の最大値を用いて計算したpH6.5での化合物IIの消失の速度定数は、約0.02min−1である(Budowski,E.I. および Zalesskaya, M.A.,(1991) Vaccine、9:319-325参照)。
【0080】実施例2不活化終末点の計算ウイルスを含む組成物の感染性の減少度は、サンプルの体積を(常識的な範囲で)増やしたり、一連の植え継ぎを続けるたとしても、少なくとも6桁程度では実験的に制御できるであろう。しかし、安全な不活化抗ウイルスワクチンを製造するためには、元になるウイルスを含む組成物の感染性は少なくとも20桁程度で減少している必要がある。このため、一般的には、不活化抗ウイルスワクチンの安全性は、実験だけでは決定できず、本明細書で述べる方法に組み込む必要があり、速度論的な方法を用いた計算によってより意義のある評価をすることができる。このためには、本発明による選択的な不活化剤の特徴を考慮に入れた、ウイルスの不活化条件の正確な速度論的説明が必要である。データは生存曲線の(実験的に制御された)初期部分から得ることができる。
【0081】正確な速度論的説明は、不活化の過程におけるウイルス懸濁液の感染性の、正確な測定に基づかねばならない。当業者は、不活化速度定数および選択的な不活化剤の作用が最小限持続する時間(t)が測定できるように、感染性(力価)の測定を高い精度で行うべきである。tの信頼できる値は、特に生存曲線が特定の程度に感染性が減少するまで、十分良く速度論的に描かれている場合には、上記の速度論的な方法によって得ることができる。(DNA修復のような)生物学的な因子によってウイルスゲノムの修飾が歪められないと仮定するなら、および最初の不活化領域の形成が、ウイルス核酸中の位置に依らず、ゲノムの完全な複製を阻害すると仮定するなら、本発明の選択的不活化剤が作用中のウイルスの生存曲線は以下の等式に従う:S = S exp(-Akt)ここで、SおよびSは選択的不活化剤の作用が開始する前および時間t後の、ウイルスを含む組成物の感染力価であり、Aは選択的不活化剤の濃度であり、kは不活化すなわちゲノム当たりの1個のヌクレオチド残基が修飾される速度定数である。
【0082】不活化の過程で、Aおよびkの値が一定であると仮定すれば、生存曲線は指数関数になる。この場合、所定の程度の感染性の減少に必要な不活化の持続時間は、以下の等式に従って計算される:t = [2.3/(Ak)]log(S/S)表3で説明したように実施例1で得られた不活化に対する速度定数を用いて、エチレンイミンオリゴマーの濃度が10−3M(四量体として)、および、表3(pH7.5)に基づいて不活化の速度定数をk=150、log(S/S)を所望の不活化の程度、この場合少なくとも約20と仮定すると、実施例1での感染性の減少のための時間は、20℃で行った場合、15.3分になる。
【0083】本発明によれば、任意のウイルスおよび本発明の任意の選択的不活化剤を用いた場合の不活化の終点は、生存曲線の最初の部分から得られるデータに基づく不活化条件のもとで、計算できる。
【0084】実施例3ピコルナウイルス。一本鎖RNA、プラス鎖、カプシドには蛋白質だけを含むウイルスである、A型肝炎ウイルス(エンテロウイルス属)および口蹄疫ウイルス(アフタウイルス)について調べた。これらのウイルスは、精製および感染性ならびに安定性の測定を含む通常の方法に従って調製した。本発明の選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤を、上記の様に調製した。特定の塩溶液中および特定の温度でのエチレンイミンのpKa値を測定した。ウイルスおよび選択したウイルス不活化剤、即ちエチレンイミンオリゴマーを、表4に示したような各ウイルスごとの条件を用いて、特定のpH ,温度および濃度で混合した。
【0085】
【表4】 20℃におけるエチレンイミン四量体の作用による動物ウイルスの感染性不活化(15-20桁)に要する時間
*)ウイルスの種類および系統、ウイルス精製の方法、および反応液の組成に依存する。
【0086】適当な時間間隔で反応液を採取したサンプルに、チオ硫酸(最終濃度0.1M)を加えて過剰な不活化剤を抑えるために30分間放置し、反応液の感染性力価を上記の方法で測定した。これらのウイルスの感染性を20桁程度減少させるのに要する時間tを、上記の等式を用いて計算した。例えば、不活化の速度定数を約500(当業者に周知であり、実施例1で述べたバクテリオファージMS2とA型肝炎ウイルスのゲノムの長さの比較に基づく)とし、不活化の持続時間を、エチレンイミンオリゴマーの濃度を10−4M(四量体の場合)、および不活化の速度定数をk=500(pH7.5)、およびlog(S/S)を所望の不活化度、この場合少なくとも約20にすると、本実施例での感染性減少に要する時間は、20℃で行うと30分になる。
【0087】実施例4ラブドウイルス。一本鎖RNAウイルスで、脂質で包まれたヌクレオカプシドを持つ、水疱性口内炎ウイルス(VSV)の不活化を調べる。
【0088】VSVはヒトA549細胞で培養する。EMCストックは、マウスL929細胞またはヒトA459細胞で調製する。当業者に既知の方法で培養およびアッセイ方法を行う。VSVの感染性は、10%ウシ胎仔血清を含むDMEM倍地で10倍の階段希釈を行い、終末点で測定する。各希釈ごとに96穴マイクロタイタープレート中のヒトA549細胞8穴ずつに添加する。ウイルスにより誘発された細胞病理学的変化は、37℃、5%CO存在下で72時間培養後、評価する。記録されたウイルスの力価は既知の方法で評価する。
【0089】細胞に付着したVSVは、コンフルエントなヒトA549細胞の単層を、150cmの組織培養用フラスコ中で、5%CO存在下、37℃で1時間、5mlの10ID50/mlのVSVを加えた無血清DMEM中でインキュベートして得る。これらの条件下では、感染価は約2.1TCID50/細胞である。不活化を評価するために、ポリスチレンチューブ内で3mlのDMEM中に含まれる細胞吸着性ウイルスに、選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤を添加する。少量の反応溶液を、一定の時間間隔で採取し、チオ硫酸(最終濃度0.1M)を加えて過剰な不活化剤を抑えるために30分間放置する。細胞は遠心によって除去し、上清および再懸濁したペレットの感染力価を評価する。これらのウイルスの感染性を20桁程度減少させる時間tを、上記の等式を用いて計算する。
【0090】選択的エチレンイミンオリゴマ不活化剤の存在下で全血(5X10赤血球/ml)に加えた無細胞VSVの不活化を評価する。ウイルスの感染性は、本明細書の記述に従って評価する。これらのウイルスの感染性を20桁減少させるのに必要な時間tは上記の等式を用いて計算できる。赤血球の構造と機能を評価する。
【0091】実施例5オルソミクソウイルス科。一本鎖断片化RNA、マイナス鎖、脂質で包まれたカプシドのウイルスである、A型インフルエンザウイルスの不活化を評価する。ウイルスは、精製および感染性ならびに安定性の測定など通常の方法に従って調製する。本発明の選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤を、上記の様に調製する。特定の塩溶液中および特定の温度での、エチレンイミンオリゴマーのpKa値を測定する。A型インフルエンザウイルスおよび選択されたウイルス不活化剤、即ちエチレンイミンオリゴマーは、上記で説明したようなこのウイルスに対する条件下で、特定のpH ,温度および濃度で混合する。ウイルスの感染性は、本明細書に記載した方法で評価する。これらのウイルスの感染性を20桁減少させるのに要する時間tは、上記の等式を用いて計算する。
【0092】実施例6ヒト免疫不全ウイルス(2コピーの一本鎖RNAゲノム、頻繁に変異するカプシド蛋白質)について研究する。無細胞または細胞内型のHIVを、試験管内の全血または赤血球濃縮物に加える。選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤を加えてサンプルを処理した後、HIV抗原を測定する。ウイルスの感染性は、本明細書中に記載した方法で評価する。これらのウイルスの感染性を20桁減少させるのに要する時間tは、上記の等式を用いて計算する。
【0093】前述の説明から、本発明の選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤および方法が、例えば病院、実験室のような様々な状況下で、キットの一部として、細胞または生体高分子を含む組成物に含まれる血液感染性のウイルス、細菌、または寄生生物を不活化するために、用いることができることがわかる。細胞組成物も様々な蛋白質を含むため、本明細書に記載したウイルス不活化の方法は、蛋白質画分、特に、凝固因子(例えば第VIIIおよび第IX因子)、血清アルブミンおよび/または免疫グロブリンなど、これらに限定されることなく、血漿蛋白質画分または精製血液製剤に適応できる。ウイルスおよび細菌の不活化は、本明細書で述べた選択的エチレンイミンオリゴマー不活化剤で、蛋白質画分または精製した蛋白質を処理することで、達成されると考えられる。
【0094】本発明の方法は、さらに他のウイルス不活化の方法と組み合わせることができる。例えば、医薬製品の調製(例えば、pHの低い緩衝液でのクロマトグラフィー、またはカルシウムキレート剤を含む酸性溶液中での赤血球の保存)に用いられる方法には、付随的に、特定の感受性の高いウイルス、通常はエンベロープのあるウイルスに対する不活化工程を含むと考えられる。このようなウイルスの不活化において、エチレンイミンは、このような工程で用いられる薬剤の働きを補足するであろう。
【0095】実施例7周辺の蛋白質濃度と反応速度が無関係であること培養液中の蛋白質濃度が高いと、ウイルスゲノムとの反応速度に有意な影響が認められるかを検討する目的で、3%(30mg/ml)までの濃度の蛋白質の存在および非存在下でのMS2ファージの不活化を測定した。0.15M NaCl中に懸濁したMS2ファージを等量のヒト血清アルブミンに加えた。オリゴエチレンイミン三量体または四量体を、最終濃度それぞれ0.4mMまたは0.2mMでファージ懸濁液に添加し、pH7.0、25℃でインキュベートした。経時的に検体を採取し、残存する感染性(ファージ力価)を分析した。計算した速度定数を表5に示す。
【0096】
【表5】 ヒト血清アルブミン存在下でのファージMS-2 感染性不活化の速度定数
【0097】ウイルスの不活化速度に対する高い蛋白質濃度の効果が明確に認められなかったことは、エチレンイミンとウイルスゲノムの反応は高度に選択性が高いことを支持し、高濃度の蛋白質もしくは他の生体高分子を含む生物学的またはその他の液体中でも、核酸が修飾されることを示している。
【0098】実施例8ファージ感染性の不活化(核酸の修飾)の特異性:エチレンイミンオリゴマーによる蛋白質の非修飾エチレンイミン単量体(25mM)、三量体(0.4mM)および四量体(0.2mM)によるMS2ファージ感染性の不活化を、0.9%ヒト血清アルブミン存在下、0.02Mリン酸緩衝液pH7.0-7.2中で、25℃で、種々の不活性化度となるよう行った。チオ硫酸(最終濃度0.1M)で不活化反応を終了させた後、各培養液から得た検体を、還元条件または非還元条件の12.5%SDS-PAGE法および等電点電気泳動(pH3から7の範囲)で比較した。
【0099】表6に示すように、80桁までの不活化に伴って、還元条件においても非還元条件においてもSDS-PAGE法でアルブミンの変化は検出されず、不活化は蛋白質の大きさに影響を及ぼさないことが示された。
【0100】
【表6】 エチレンイミンオリゴマーによる蛋白質の非修飾、SDS-PAGE分析
還元条件および非還元条件のSDS-PAGEで、主なバンドは約68kDaにあり、約5本のより分子量の大きいかすかなバンドを伴っている。
" 還元条件および非還元条件で変化が見られない。
【0101】しかし、表7で示すように、等電点電気泳動(IEF)によってアルブミン検体を分析すると、エチレンイミン単量体による不活化は、三量体または四量体と異なり、アルブミンの電荷の不均一性を有意に増加させ、より塩基性にする。このことは、エチレンイミン単量体がアルブミンを修飾し、電荷を変化させることを示している。一方、エチレンイミン三量体および四量体は、81桁のまでの同程度の不活化度でも、アルブミンの電荷に対しては検出できる変化を及ぼさない。このことは、エチレンイミンオリゴマーによる不活化反応は核酸に対して非常に選択的であるが、同じ条件下でのエチレンイミン単量体による不活化は核酸と同様に蛋白質も修飾することを示している。
【0102】
【表7】 エチレンイミンオリゴマーによる蛋白質の非修飾、等電点電気泳動分析
一本の主なバンドがpI約5.5にみられる。
" 主に正の電荷が増加する方向(より塩基性)に主なバンドの幅と拡散度が増加している。
【0103】実施例9エンベロープを持つ動物ウイルスの不活化エンベロープを持つ動物ウイルスの不活化を示すために、ヴェネズエラウマ脳炎ウイルス(”VE”)を、0.2%ウシ血清アルブミンを含む0.02 M燐酸緩衝液中で、エチレンイミン三量体(2 mM)または四量体(0.5 mM)で、22℃または37℃で、24時間までインキュベートした。反応溶液から、経時的に検体を取り、残存するウイルス濃度を測定した。不活加速度定数は、最初の7時間のデータから決定した。結果を、以下の表8に示す:【0104】
【表8】 エチレンイミンオリゴマーによるベネズエラウマ脳炎ウイルスの不活化に対する速度定数
【0105】実施例10エンベロープを持つ動物ウイルスの不活化過程における抗原性エピトープの保存エチレンイミンオリゴマーによる不活化の過程で、抗原性を持つエピトープが保存されることを示すために、ベネズエラウマ脳炎ウイルスを、37℃で、エチレンイミン三量体2 mMで、7時間まで不活化した。不活化開始3時間および7時間後、ウイルスの抗原性を、3つの異なる単クローン抗体を用いたELISAアッセイで測定した。終末点の力価を測定し、不活化前のウイルスの力価と比較した。ここで用いた単クローン抗体は、1A1B-9、7A1A-1および7A3A-4であった。1A1B-9抗体は、型特異的抗原を認識し、一方、7A1A-1および7A3A-4抗体は、ウイルスカプシド抗原の伸展に伴って露出される、潜在エピトープを認識する。
【0106】表9に示すように、8桁のオーダー以上の不活化(3時間の不活化)または推定で18.7桁の不活化(7時間の不活化)の後に、抗原の反応性に変化は見られなかった。
【0107】
【表9】 エチレンイミン三量体(2 mM )によるベネズエラウマ脳炎ウイルスの不活化過程における抗原エピトープの保存
【0108】実施例11エチレンイミンオリゴマーの臭化塩によるMS2ファージの不活化速度論エチレンイミンオリゴマーの臭化塩によるMS2ファージの不活化の速度論を決定するために、ファージを、25℃で24時間までの様々な時点で、pH7.0の何種類かの緩衝液中で、エチレンイミン三量体、エチレンイミン四量体、エチレンイミン三量体の臭化水素塩(β-ブロモエチル-ジエチレントリアミン三臭化水素酸塩)またはエチレンイミン四量体の臭化水素塩(β-ブロモエチル-トリエチレンテトラアミン四臭化水素酸塩)とともにインキュベートした。 検体を経時的に採取し、残存する感染性を測定して、感染性の不活化に対する速度定数を求めた。表10に結果を示すように、臭化塩で処理すると、MS2ファージは、それぞれ、エチレンイミンの三量体または四量体に変換されることにより不活化される。対応するエチレンイミンオリゴマーの存在下における不活化と比較して、臭化塩の不活化の速度は幾分遅いが、このことは、この転換が約30〜40%しか完了していないことを示している。にもかかわらず、ハロゲン塩を用いることは、それらの安定性の高さおよび簡便さのために、好ましいと考えられる。これらのデータはまた、燐酸陰イオンがこの反応を阻害することをも示しているが、これは恐らく、核酸とエチレンイミンオリゴマーの相互作用を、強い負の電荷が妨害することによるものと思われる。
【0109】
【表10】 エチレンイミン三量体および四量体および対応する臭化塩によるMS2ファージの不活化速度定数
A : 0.15 M NaClB : 0.075 M NaCl, 0.2 M MOPSC : 0.1 M NaCl, 0.025 M リン酸D : 0.075 M NaCl, 0.2 M リン酸【0110】ウイルスとの関連で述べたように、本発明の方法は、保存血液または血液製剤に見られる、細菌や血液感染性の寄生体を含むいかなる生物学的な混入物を不活化するためにも、一般に有用であることが分かるであろう。
【0111】上述の発明について、理解を明確にする目的で、詳細に記載してきたが、後述する請求事項の範囲の中で、ある種の変更がなされることは明らかであろう。
【0112】この出願で引用した全ての出版物および特許文献はそれら個々の出版物または特許文献が独立に記載されている場合と同程度に、全て参考文献として取り込まれている。
【出願人】 【識別番号】500155774
【氏名又は名称】ブイ.アイ. テクノロジーズ インク.
【出願日】 平成8年8月29日(1996.8.29)
【代理人】 【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志 (外1名)
【公開番号】 特開2003−176238(P2003−176238A)
【公開日】 平成15年6月24日(2003.6.24)
【出願番号】 特願2002−259404(P2002−259404)