| 【発明の名称】 |
呼気検査用試薬、呼気検査用試薬キット、呼気検査用バッグ、呼気検査装置、及び呼気検査方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】梶原 正宏
【氏名】山下 裕人
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| 【要約】 |
【課題】人体に安全であり、呼気検査試薬の投与から呼気の採取までの時間が短く、健常人と肝臓疾患を有する患者とを明確に判定できる呼気検査用試薬、呼気検査用試薬キット、及び呼気検査方法を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも1位の炭素を13Cで標識したチロシンを含む呼気検査用試薬とする。1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む検査用試薬、及び1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンを少なくとも含む呼気検査用試薬、を有する呼気検査用試薬キットとする。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 呼気中に含まれる13CO2存在率を測定することによって肝臓疾患を検査する為の呼気検査用試薬であって、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含むことを特徴とする呼気検査用試薬。 【請求項2】 前記1位の炭素を13Cで標識したチロシンは、アルカリに溶解する形態で与えられることを特徴とする請求項1記載の呼気検査用試薬。 【請求項3】 呼気中に含まれる13CO2存在率を測定することによって肝臓疾患を検査する為の呼気検査用試薬キットであって、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む検査用試薬、及び1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンを少なくとも含む呼気検査用試薬、を有することを特徴とする呼気検査用試薬キット。 【請求項4】 前記1位の炭素を13Cで標識したチロシン及び前記1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンは、アルカリに溶解する形態で与えられることを特徴とする請求項3記載の呼気検査用試薬キット。 【請求項5】 1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む呼気検査用試薬、又は、1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与する前後の呼気を採取、保存、及び排出する呼気検査用バッグであって、前記呼気を収集する袋部分と、該袋部分の内部と外部に両端を有する管状口部と、を有し、該管状口部は、採取した前記空気が前記袋部分から漏出することを防止する手段を有することを特徴とする呼気検査用バッグ。 【請求項6】 請求項5記載の呼気検査用バッグにより採取した前記呼気について、赤外分析計、又はガスクロマトグラフ装置を備えた質量分析計により、13CO2存在率を測定することを特徴とする呼気検査装置。 【請求項7】 1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与した後の呼気に含まれる13CO2存在率を測定することを特徴とする呼気検査方法。 【請求項8】 1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与した後の呼気に含まれる13CO2存在率を測定するステップと、1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与した後の呼気に含まれる13CO2存在率を測定するステップと、を含むことを特徴とする呼気検査方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、呼気検査用試薬、呼気検査用試薬キット、呼気検査用バッグ、呼気検査装置、及び呼気検査方法に関する。 【0002】 【従来の技術】現在、ヒトの肝臓機能の検査として、血漿中のグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ濃度(GPT)やグルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ濃度(GOT)などの測定が行われている。これらの測定は血液検査によるので、患者からの採血を必要とする為に患者にとって痛みを伴う検査である。また、患者がC型感染などの感染性の疾患を有する場合には、血液の採取、検査、及び処理において、検査する医療従事者に感染の危険性が伴う。このような血液検査による肝機能の検査に対して、近年、非観血的で患者にとって無痛であり、医療従事者に感染の危険性が無い検査方法として、ヒトの呼気を検査する呼気検査方法が研究されてきている。 【0003】呼気検査方法とは、肝臓などにより体内で代謝され揮発性物質を生成するような呼気検査用試薬を予め患者に投与し、患者の呼気中に拡散した揮発性物質を検出することにより、体内における代謝の異常を検査する方法である。投与した呼気検査用試薬の代謝の過程において生成した揮発性物質は、血液中に溶解して体内を循環する。肺に到達した揮発性物質は、血中における揮発性成分の蒸気分圧が高くなると、肺の毛細血管から肺胞膜を経て肺胞内に拡散し、呼気として体外へ排出される。ここで投与する呼気検査用試薬を同位体などで適切に標識することによって、投与した試薬の代謝により生成した揮発性物質を標識することができ、内因性の揮発性物質と区別することができる。すなわち、呼気検査用試薬の代謝によって生じる揮発性物質は標識されており、内因性の揮発性物質は標識されてないので、標識された揮発性物質の含有量を測定することによって代謝機能を検査することができる。 【0004】肝臓疾患に関する呼気検査方法の一例として、呼気検査試薬として13C−フェナセチンを用いた方法がある。この方法では、患者に13Cで標識した解熱鎮痛剤の13C−フェナセチンを投与し、一定時間経過後に、患者の呼気を採取し、呼気に含まれる揮発性成分である二酸化炭素について検査する。例えば、100mgの13C−フェナセチンを投与した場合には、投与後1時間30分乃至2時間後に呼気の採取をすることが望ましい。呼気の検査は、具体的には、肝臓において代謝されて生成する揮発性物質の13CO2と内因性揮発性物質である12CO2とのモル数の比(13CO2/12CO2比)を測定する。患者が肝硬変などの肝臓疾患を有する場合には、投与した13C−フェナセチンの代謝(解毒)が健常人より劣るため、13CO2の生成が少なく、呼気における13CO2/12CO2比は、健常人より低くなる。このようにして、13C−フェナセチンを患者に投与して、患者の呼気を採取し、13CO2/12CO2比を測定することで、非観血的、無痛であって、かつ感染の危険性のない肝臓疾患の検査をすることができる。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、13C−フェナセチンは解熱鎮痛剤であるので、解熱や鎮痛の必要の無い患者へ投与することは、安全性の点で好ましくない。また、13C−フェナセチンの投与による呼気の検査では、呼気検査試薬の投与から呼気を採取するまでの時間が長く、患者の時間的負担が多いという問題がある。 【0006】本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、人体に安全であり、呼気検査試薬の投与から呼気の採取までの時間が短く、健常人と肝臓疾患を有する患者とを明確に判定できる呼気検査用試薬、呼気検査用試薬キット、及び呼気検査方法を提供することを目的とする。 【0007】また、本発明は、上記呼気検査用試薬を投与した患者の投与前後の呼気を容易に採取及び排出し長期間保存できる呼気検査用バッグを提供することを目的とする。 【0008】さらに、本発明は、上記呼気検査用バッグにより採取した呼気について13CO2存在率を正確に測定することができる呼気検査装置を提供することを目的とする。 【0009】 【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、呼気中に含まれる13CO2存在率を測定することによって肝臓疾患を検査する為の呼気検査用試薬であって、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含むことを特徴とする。 【0010】請求項1記載の発明によれば、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含むので、人体に安全であり、呼気検査試薬の投与から呼気の採取までの時間が短く、健常人と肝臓疾患を有する患者とを明確に判定できる呼気検査用試薬を提供できる。 【0011】請求項2記載の発明は、請求項1記載の呼気検査用試薬において、前記1位の炭素を13Cで標識したチロシンは、アルカリに溶解する形態で与えられることを特徴とする。 【0012】請求項2記載の発明によれば、前記1位の炭素を13Cで標識したチロシンは、アルカリに溶解する形態で与えられるので、無駄の無い必要十分な呼気検査試薬の投与量で呼気検査を行うことができる。 【0013】請求項3記載の発明は、呼気中に含まれる13CO2存在率を測定することによって肝臓疾患を検査する為の呼気検査用試薬キットであって、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む検査用試薬、及び1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンを少なくとも含む呼気検査用試薬、を有することを特徴とする。 【0014】請求項3記載の発明によれば、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む検査用試薬、及び1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンを少なくとも含む呼気検査用試薬、を有するので、人体に安全であり、呼気検査用試薬の投与から呼気の採取までの時間が短く、健常人と肝臓疾患を有する患者とを明確かつ容易に判定できる呼気検査用試薬キットを提供できる。 【0015】請求項4記載の発明は、請求項3記載の呼気検査用試薬キットにおいて、前記1位の炭素を13Cで標識したチロシン及び前記1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンは、アルカリに溶解する形態で与えられることを特徴とする。 【0016】請求項4記載の発明によれば、前記1位の炭素を13Cで標識したチロシン及び前記1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンは、アルカリに溶解する形態で与えられるので、無駄の無い必要十分な呼気検査試薬の投与量で呼気検査を行うことができる。 【0017】請求項5記載の発明は、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む呼気検査用試薬、又は、1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与する前後の呼気を採取、保存、及び排出する呼気検査用バッグであって、前記呼気を収集する袋部分と、該袋部分の内部と外部に両端を有する管状口部と、を有し、該管状口部は、採取した前記空気が前記袋部分から漏出することを防止する手段を有することを特徴とする。 【0018】請求項5記載の発明によれば、前記呼気を収集する袋部分と、該袋部分の内部と外部に両端を有する管状口部と、を有し、該管状口部は、採取した前記空気が前記袋部分から漏出することを防止する手段を有するので、呼気検査用試薬を投与した患者の投与前後の呼気を容易に採取及び排出し長期間保存できる呼気検査用バッグを提供することができる。 【0019】請求項6記載の発明は、呼気検査装置において、請求項5記載の呼気検査用バッグにより採取した前記呼気について、赤外分析計、又はガスクロマトグラフ装置を備えた質量分析計により、13CO2存在率を測定することを特徴とする。 【0020】請求項6記載の発明によれば、請求項5記載の呼気検査用バッグにより採取した前記呼気について、赤外分析計、又はガスクロマトグラフ装置を備えた質量分析計により、13CO2存在率を測定するので、上記呼気検査用バッグにより採取した呼気について13CO2存在率を正確に測定することができる呼気検査装置を提供することができる。 【0021】請求項7記載の発明は、呼気検査方法において、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与した後の呼気に含まれる13CO2存在率を測定することを特徴とする。 【0022】請求項7記載の発明によれば、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与した後の呼気に含まれる13CO2存在率を測定するので、人体に安全であり、呼気検査用試薬の投与から呼気の採取までの時間が短く、健常人と肝臓疾患を有する患者とを明確に判定できる呼気検査方法を提供できる。 【0023】請求項8記載の発明は、呼気検査方法において、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与した後の呼気に含まれる13CO2存在率を測定するステップと、1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与した後の呼気に含まれる13CO2存在率を測定するステップと、を含むことを特徴とする。 【0024】請求項8記載の発明によれば、1位の炭素を13Cで標識したチロシンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与した後の呼気に含まれる13CO2存在率を測定するステップと、1位の炭素を13Cで標識したフェニルアラニンを少なくとも含む呼気検査用試薬を投与した後の呼気に含まれる13CO2存在率を測定するステップと、を含むので、人体に安全であり、呼気検査用試薬の投与から呼気の採取までの時間が短く、健常人と肝臓疾患を有する患者とを明確かつ容易に判定できる呼気検査方法を提供できる。 【0025】 【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。 【0026】まず本発明の呼気検査用試薬について説明する。 【0027】本発明においては、1位の炭素を12Cの安定同位体である13Cで標識したチロシン、すなわちL[1−13C]チロシンを呼気検査用試薬として用いる。また、本発明では、呼気検査用試薬としてのL[1−13C]チロシンと同じく呼気検査用試薬としてのL[1−13C]フェニルアラニンを呼気検査用試薬キットとして用いる。この呼気検査用試薬キットは、同一患者に一定時間の間隔をおいて投与するものである。 【0028】このような呼気検査用試薬を患者に投与して一定時間が経過すると、投与した呼気検査用試薬であるL[1−13C]チロシンやL[1−13C]フェニルアラニンが肝臓において代謝され、患者の呼気中に13CO2が検出される。呼気中における呼気試験用試薬の代謝に由来する13CO2の量と内因性の揮発性物質である12CO2のモル比(以下、13CO2/12CO2比と表すことにする。)を測定することにより肝臓疾患の有無を判定する。 【0029】発明者は、肝機能の正常な健常人と肝臓疾患を有する患者において、L[1−13C]チロシンと[1−13C]フェニルアラニンを投与した結果、呼気中の13CO2/12CO2比における健常人と肝臓疾患を有する患者との差が、L[1−13C]チロシンを投与した場合の方が[1−13C]フェニルアラニンを投与した場合よりも大きいという事実を得た。すなわち、L[1−13C]チロシンの方が[1−13C]フェニルアラニンよりも健常人と肝臓疾患を有する患者とを判別することに適しており、肝臓疾患の検査に対してより有効な呼気検査用試薬であることを実験的に見出した。 【0030】また、健常人においては、[1−13C]フェニルアラニンの投与とL[1−13C]チロシンの投与との間で、13CO2/12CO2比が異なるが、肝臓疾患を有する患者においては、これらの試薬の間で13CO2/12CO2比に大差がなく、二つのアミノ酸を投与する呼気検査用試薬キットで肝臓疾患の有無を容易に判定できることを実験的に見出し、本発明に至った。 【0031】次に上述の実験結果を、図1に示すL[1−13C]フェニルアラニン及びL[1−13C]チロシンの肝臓における代謝過程と共に説明する。 【0032】L[1−13C]フェニルアラニンは、主として肝臓中でシトクロムP−450と酵素フェニルアラニンヒドロキシラーゼにより酸化されてL[1−13C]チロシンになる。哺乳類においては、この酸化の過程が律速段階であり、また不可逆反応である。次にL[1−13C]チロシンは、酵素チロシンアミノトランスファーゼによりアミノ基転移反応を起し13Cヒドロキシフェニルピルビン酸が形成される。このアミノ基転移反応は、肝臓疾患がある場合には、律速段階となる。更に13Cヒドロキシフェニルピルビン酸は、ドロキシフェニルピルビン酸オキシダーゼにより脱炭酸され、ホモゲンチジン酸を生成する。この際に、13Cヒドロキシフェニルピルビン酸の1位のカルボキシル基から脱炭酸し、13CO2を生じる。ホモゲンチジン酸はさらにTCAサイクルを経て二酸化炭素と水に分解されるが、ここで生じる二酸化炭素は12CO2である。また、L[1−13C]フェニルアラニンが脱炭酸してβ−フェニルアラニンを形成する過程もあり、ここでも1位のカルボキシル基の脱炭酸により13CO2を生成する。この過程は、肝機能の正常な健常人では主要な代謝経路ではないが、肝硬変などの肝臓疾患を有する患者においては、比較的重要な反応経路となる。 【0033】以上の代謝経路をよりL[1−13C]チロシン、又はL[1−13C]フェニルアラニンを患者に投与した場合について説明する。 【0034】L[1−13C]チロシンを患者に投与した場合には、肝機能の正常な健常人では、L[1−13C]チロシンの代謝過程において律速段階が無く、速やかに代謝が進行し、13CO2が呼気中に拡散される。一方、L[1−13C]チロシンを肝硬変などの肝臓疾患を有する患者に投与した場合には、L[1−13C]チロシンのアミノ基転移反応が律速段階となり、代謝の反応が遅くなり13CO2の呼気中への拡散が抑制される。すなわち、L[1−13C]チロシンを投与した場合に、健常人の方が肝臓疾患を有する患者よりも呼気中における13CO2の割合が高くなるという事実を説明できる。 【0035】またL[1−13C]フェニルアラニンを患者に投与した場合には、健常人ではL[1−13C]チロシンに酸化される過程が律速段階となって、L[1−13C]チロシンの生成を通じて代謝され、13CO2が呼気中に拡散される。一方肝臓疾患を有する患者においては、L[1−13C]チロシンへの代謝が抑制されると同時に、L[1−13C]チロシンのアミノ基転移反応も律速段階で、13CO2の呼気への拡散が抑制されるが、L[1−13C]フェニルアラニンから直接脱炭酸する過程が重要になっており、この際に発生する13CO2が呼気中へ拡散される。 【0036】従って、L[1−13C]フェニルアラニンを投与した場合には、L[1−13C]チロシンを投与したときと比較して、健常人と肝臓疾患を有する患者との間の呼気中への13CO2の拡散する量の差が小さくなると考えられ、L[1−13C]フェニルアラニンよりもL[1−13C]チロシンの方が、肝臓疾患の呼気検査用試薬として適していることが説明される。 【0037】また、健常人に関しては、L[1−13C]チロシンでは代謝経路に律速段階は存在しないが、L[1−13C]フェニルアラニンでは律速段階が存在する為に、両方のアミノ酸を投与した場合に13CO2の呼気中に拡散する量に差が出てくる。また、肝臓疾患を有する患者では、L[1−13C]チロシンを投与した際にはアミノ基転移反応が律速段階となって13CO2の呼気中に拡散する量が減少し、L[1−13C]フェニルアラニンを投与した場合には、アミノ基転移反応が律速段階であるのに加えてL[1−13C]チロシンLを経由する代謝経路も抑制されるが、代わりに[1−13C]フェニルアラニンの脱炭酸による13CO2の拡散が生じるので、両試薬において呼気中の13CO2の量に大差はないと考えられる。これにより、本発明の呼気検査用試薬キットを用いて二つの呼気検査用試薬を患者に別々に投与することで、呼気における13CO2の含有量の差を測定することで、健常人と肝臓疾患を有する患者の判定ができることが説明される。 【0038】なお、本発明の呼気検査用試薬であるL−[1−13C]チロシン、L[1−13C]フェニルアラニンについては、1位の炭素の99%が13Cである高純度で標識されたL−[1−13C]チロシン、L[1−13C]フェニルアラニンがそれぞれ商業的に入手可能である。 【0039】次に本発明の呼気検査用試薬の投与について説明する。 【0040】本発明の呼気検査用試薬であるL[1−13C]チロシン、L[1−13C]フェニルアラニンは、共に必須アミノ酸であり通常の食物にも存在するので、過剰な量を投与しなければ人体には無害であり、解熱鎮痛剤である従来の13C−フェナセチンと異なり、検査薬の安全性は高い。 【0041】L[1−13C]チロシンのみを投与する場合には、呼気検査が1回で済み、試薬の1種類であるので、検査が簡便で低コストである。二つのアミノ酸を用いた呼気検査用試薬キットで、呼気検査を行う場合には、呼気における13CO2の割合に関する測定値の差を見ればよいので、判定が明確で容易である。 【0042】本発明の呼気検査用試薬の投与量は、L[1−13C]チロシン、L[1−13C]フェニルアラニンの両方について、50mg以上200mg以下が望ましい。投与量が50mgより少ないと呼気検査用試薬の代謝によって生成する呼気中の13CO2の割合が少なく、検出しにくい。また200mgより多いと、肝臓疾患の疑いのある患者に対する安全性に問題があり、また薬剤のコストが高くなる。 【0043】本発明の呼気検査用試薬を投与する時間は、食後2乃至12時間後であることが望ましい。投与する時間が食後2時間より早いと、呼気中の13CO2の量が少なく、検出しにくい。これはアミノ酸である呼気検査用試薬の血中濃度が高くなり、投与した呼気検査用試薬は、タンパク質合成に使用されてしまい、図1に示す脱炭酸を伴う代謝過程が起こらなくなる為と考えられる。また、投与する時間が食後12時間より遅いと、患者の空腹時間が長くなり患者にとって検査が苦痛となる。 【0044】また、L[1−13C]チロシンとL[1−13C]フェニルアラニンの両方を患者に投与する場合には、両方の薬を投与する時間間隔は24時間以上とすることが好ましい。両方の薬を投与する時間間隔が24時間未満であると、両方の薬の代謝される時間が重なり合い、呼気中にL[1−13C]チロシンの代謝によって発生する13CO2とL[1−13C]フェニルアラニンによる13CO2とが共存して、肝臓疾患の有無に関する判定に支障をきたす可能性がある。 【0045】本発明の呼気検査用試薬を投与する際の呼気検査用試薬剤の形態は、簡便の為に粉末の形態で水と共に投与してもよい。水の温度は、体温に近い37℃程度が呼気検査用試薬の体内への吸収が良いので好ましい。 【0046】また、本発明の呼気検査用試薬であるL[1−13C]チロシン、L[1−13C]フェニルアラニンはアミノ酸であり、これらのアミノ酸は小腸から吸収される。従って、胃のような酸性の環境では溶けずに、小腸のようなアルカリ性の環境において溶けるような、錠剤又はカプセルなどの形態で投与することが望ましい。例えば、酸性では溶けずアルカリ性で溶ける錠剤としては、コーティング剤にヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(第14改正日本薬局方第二部医薬品)を用いればよい。この場合には、本発明の呼気検査用試薬のアミノ酸を含む錠剤又はカプセルが小腸まで搬送されてから溶けるので、本発明の呼気検査用試薬が体内に効率良く吸収される。従って、本発明の呼気検査用試薬による呼気検査において、無駄の無い必要十分な投与量で呼気検査を行うことができる。 【0047】次に、本発明の呼気検査用バッグについて図2を用いて説明する。図2(a)は、呼気検査用バッグの平面図、(b)は側面図であり、それぞれバッグの内部の構造は点線で表した。本発明の呼気検査用バッグは、呼気検査用試薬投与前の呼気、又はL[1−13C]フェニルアラニン若しくはL[1−13C]チロシンを投与した後の患者の呼気を採取することができる呼気検査用バッグである。 【0048】本発明の呼気検査用バッグは、プラスチックフィルム及びアルミホイルの積層シートからなる袋部分1の口部に、穴4の開いた剛性の管状口部3が取り付けられており、脱着自在のキャップ5が装着されている。呼気検査用バッグは、使用前は袋部分1が平坦に折り畳まれており、患者が管状口部3を咥えて呼気を吐き出すことにより、呼気検査用バッグの袋部分1において折り畳まれている底部2が張るように容積が拡大する。この底部2が張ることによって、呼気検査用バッグの底部2が面積を有するようになり、口部を上に向けて呼気検査用バッグを立てて置くことができる。 【0049】管状口部3の袋部分1側の端部は封止されており、呼気は、図2の上側の矢印に示すように、管状口部3の呼気検査用バッグ内に設けられている向い合った2つの穴4を通じてのみ採取、排出される。呼気を袋部分1に採取した際には、呼気検査用バッグの外側から手で管状口部3に設けられている穴4に対応する部分を手で抑えることで、バッグの袋部分1の側面で穴4を塞ぎ、一時的に呼気が呼気検査用バッグから漏れ出さないようにし、キャップ5を締める。ここでは穴4の数は2つであるが、穴4の形状や数は、手で抑えることで一時的に封止できれば、任意の形状と数でよい。 【0050】呼気検査用バッグに採取した患者の呼気を、呼気を採取したときと同様にまず穴4を塞いでキャップ5をし、後述する赤外分析計又はガスクロマトグラフを備えた質量分析計に接続する。このような装置への接続は、管状口部3に接続用アダプターを取り付けて、直接接続してもよい。 【0051】またキャップ5に注射針を通せる弾性密封体を取り付けておき、このキャップ5の弾性密封体に注射器を刺して呼気を必要量だけ抜き取り、この注射器を測定装置に接続するなどしてもよい。 【0052】図2の下側の矢印に示すように管状口部3に設けられた2つの穴4を通じて呼気を呼気検査用バッグの袋部分1から容易に排出することができる。 【0053】また、このような呼気検査用バッグに呼気を採取することで、赤外分析計又はガスクロマトグラフを備えた質量分析計などの呼気検査装置と時間的、空間的に離れていても呼気の採取ができ、患者を時間的、空間的に束縛せずに測定することができる。また呼気検査用バッグは、密閉性が高く、採取した呼気を長期間保管できると共に容易に再検査することができる。 【0054】次に本発明の呼気検査用試薬を投与した患者の呼気に含まれる二酸化炭素の同位体存在比を正確に測定することができる装置である、専用の赤外分析計(以下IR分析計と呼ぶ)及びガスクロマトグラフを備えた質量分析計(以下GC/MS分析計と呼ぶ)について説明する。 【0055】まず、患者の呼気を分析するIR分析計について図3と共に説明する。図3に示すように、IR光源11から発散光として射出される赤外光は、チョッパー12を通り、コリメーターレンズ13で平行光となってリファレンスセル14、サンプルセル15内のガスに照射される。リファレンスセル14内を通過した赤外光は第一のミラー16で反射され、第一のフィルター18を通って第一のゴーレーセル20に入射する。同様にサンプルリファレンスセル15内を通過した赤外光は第二のミラー17で反射され、第二のフィルター19を通って第二のゴーレーセル21に入射する。 【0056】ここで第一のフィルター18は、12CO2による吸収を測定する為のフィルターであり、2380±10cm−1のバンド幅の赤外光を透過させる。また第二のフィルター19は、13CO2による吸収を測定する為のフィルターであり、2280±10cm−1のバンド幅の赤外光を透過させる。すなわち、第一のゴーレーセル20では12CO2による吸収量を、第二のゴーレーセル21では13CO2による吸収を測定する。 【0057】測定する際には、N2ボンベ22からリファレンスセル14内に窒素ガスを流しておき、呼気を測定する前に第3、第4バルブ28、29を開けてサンプルセル15内にも窒素ガスを流す。これにより12CO2、13CO2による赤外光の吸収を測定する為の赤外光強度の基準値を、第一のゴーレーセル20、第二のゴーレーセル21によって得ることができる。 【0058】次に第3バルブ28を閉じ、第1(又は第2)バルブ26(又は27)を開いて第1(又は第2)呼気検査用バッグ23(又は24)の呼気をポンプ25を利用して、サンプルセル15内に流し込む。サンプルセル15内の12CO2、13CO2は、それぞれ2380cm−1、2280cm−1付近の波長の赤外光を吸収する。第一のゴーレーセル20は、12CO2により2380cm−1付近の吸収を受けた赤外光を検出する。上記の赤外光の基準値から12CO2による赤外光の吸収量を算出する。同様に第二のゴーレーセル21は、13CO2により2280cm−1付近の吸収を受けた赤外光を検出する。上記の赤外光の基準値から13CO2による赤外光の吸収量を算出する。以上のようにして赤外光の吸収量から13CO2/12CO2比を算出することができる。 【0059】なお、上記赤外分析計は液体窒素などによる冷却を必要とせず、また赤外線検出器としてゴーレーセルを利用している為に、装置がGC/MS装置と比較して小型かつ軽量である。 【0060】次に、患者の呼気を分析するGC/MS分析計について図4と共に説明する。図4に示すように、まず呼気の分析の前に、リファレンズボンベ39からリファレンスガスである天然の同位体を含む二酸化炭素を用いて、測定値の校正を行う。また、測定試料が二酸化炭素である為、質量分析計はポンプを用いて装置内の空気を除去し、真空にしておく必要がある。呼気検査用バッグに採取した呼気を試験管31に移し、注射針32及びバルブ33を経由しつつ細いキャピラリを通ってガスクロマトグラフ装置34に呼気を通す。呼気が通過する細いキャピラリは、質量分析計の真空状態を維持する。 【0061】ガスクロマトグラフ装置34は、呼気の二酸化炭素が水分に吸収されないように呼気に含まれる水分を除去する。水分を除去した呼気は、開放分岐系35を通り、質量分析計のイオン化−イオン加速装置36に誘導される。この装置内で電子銃により呼気中の二酸化炭素のイオンであるフラグメントが生成し、電場を印可して永久磁石37に向けて二酸化炭素のフラグメントを加速する。加速された二酸化炭素のフラグメントは、永久磁石37によって軌道を曲げられイオン検出器38で検出される。 【0062】ここでフラグメントの質量の違いにより、フラグメントが異なる軌道を通過し、異なるイオン検出器38でそれぞれ質量の異なるフラグメントが検出される。二酸化炭素は主として、炭素原子が12C及び13C、酸素原子が16O及び18Oの同位体があるので、これらの同位体の組み合わせによって生じるフラグメントについて測定できるようになっている。以上のようにして呼気における13CO2と12CO2の量を測定し、13CO2/12CO2比を算出することができる。 【0063】なお、GC/MS装置は、呼気中の13CO2/12CO2比を、赤外分析計よりも高精度に測定できる。 【0064】次に本発明の検査システムにより測定される13CO2/12CO2比について詳細に説明する。 【0065】13CO2/12CO2比の測定は、地球環境分野において古くから用いられていた為、国際的基準が決まっている。国際的基準では、矢じり石(PDB:炭酸カルシウム)を真空中において100%リン酸で処理したときに発生する13CO2/12CO2比を基準としてδ単位(パーミル、‰)で表示する。呼気中の13C存在比は、まず次式でδ単位に変換する。 【0066】δ13C(‰)={(13CO2/12CO2)呼気−(13CO2/12CO2)PDB}/(13CO2/12CO2)PDB×1000本発明の検査試薬を投与しない状態におけるヒトの空腹時の呼気は、δ13C=−20.8パーミル程度である。また存在比99%に濃縮した本発明の呼気検査用試薬を100mg程度投与しても、呼気における13CO2/12CO2比は健常人でも微小な値であり、少なくとも肝機能を有する患者の呼気では、δ13Cの値が通常は負の値となる。 【0067】医療現場では、肝臓疾患をマイナス表示で陽性と判断することは診断の際に混乱を招く恐れがある。したがって、本発明の呼気検査用試薬を投与する前に測定した患者の呼気におけるδ13Cの値δ13C0を基準として、投与後一定時間経過後の呼気におけるδ13Cの値δ13Ctを、評価値が正の値となるように、次式で表される呼気中の13CO2/12CO2比の増加量Δ13Cで表すことが望ましい。 【0068】Δ13C(‰)=13Ct−13C0従って本発明の呼気検査用試薬を使用した肝臓疾患の検査は、健常人と肝臓疾患を有する患者との判別は、実際には以下の実施例に示すように、患者の呼気のΔ13C値を測定することによって行う。 【0069】 【実施例】本実施例において使用した1位の炭素の99%が13CであるL−フェニルアラニン、及び1位の炭素の99%が13CであるL−チロシンを、Cambridge Isotope Laboratories社より入手した。 【0070】本発明の呼気検査試薬(キット)であるL[1−13C]チロシン及びL[1−13C]フェニルアラニンを用いた呼気検査の実施結果を図5に示す。図5の横軸は、L[1−13C]チロシン及びL[1−13C]フェニルアラニンを検査の患者に投与した後の経過時間(分)を示す。また、縦軸は上述した投与前の値を基準としたΔ13C(パーミル)の値である。 【0071】患者の内訳は、L[1−13C]チロシンを投与した健常人が4人、L[1−13C]フェニルアラニンを投与した健常人が15人、L[1−13C]チロシンを投与した肝硬変患者が4人、L[1−13C]フェニルアラニンを投与した肝硬変患者が14人である。 【0072】上記全ての場合において、各呼気検査用試薬の投与量は100mgであり、水100mlと共に、食後7時間後に投与した。まず、投与前の各患者の呼気を呼気検査用バッグに採取し、Δ13C値の基準とした。それぞれ呼気検査用試薬を患者に投与した後、10、15、20、30、45、60分後に、呼気検査用バッグに採取し、上記赤外分析計を使用してΔ13C値を得た。得られたΔ13C値から、投与した呼気検査用試薬と患者とを組み合わせた分類ごとに、Δ13C値の平均値を算出してプロットし、標準偏差を誤差棒として加えた。 【0073】いずれの場合にも、呼気検査用試薬を投与後10乃至20分という短時間でΔ13C値が最大となった。各呼気検査用試薬ごとに見ると、呼気検査用試薬を投与後10乃至20分におけるΔ13C値における健常人と肝硬変患者との差は、L[1−13C]チロシンの方が、L[1−13C]フェニルアラニンよりも大きく、L[1−13C]チロシンの方が呼気検査用試薬として優れることを示している。 【0074】また、健常人、肝硬変患者ごとにΔ13C値の結果を見ると、健常人ではL[1−13C]チロシンとL[1−13C]フェニルアラニンとで呼気検査用試薬を投与後10乃至20分におけるΔ13C値に差が出るが、肝硬変患者では2つの呼気検査用試薬との間でほとんど差がなかった。これよりL[1−13C]チロシンとL[1−13C]フェニルアラニンとを同一患者に別々に投与し、投与後10乃至20分の同一時間に呼気を採取して、Δ13C値の差を見れば患者が健常人であるか肝硬変患者かを判定できることがわかる。 【0075】 【発明の効果】本発明によれば、人体に安全であり、呼気検査試薬の投与から呼気の採取までの時間が短く、健常人と肝臓疾患を有する患者とを明確に判定できる呼気検査用試薬、呼気検査用試薬キット、及び呼気検査方法を提供することができる。 【0076】また、本発明によれば、上記呼気検査用試薬を投与した患者の投与前後の呼気を容易に採取及び排出し長期間保存できる呼気検査用バッグを提供することができる。 【0077】さらに、本発明によれば、上記呼気検査用バッグにより採取した呼気について13CO2存在率を正確に測定することができる呼気検査装置を提供することができる。 【0078】
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| 【出願人】 |
【識別番号】501469663 【氏名又は名称】梶原 正宏 【識別番号】000001959 【氏名又は名称】株式会社資生堂
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| 【出願日】 |
平成13年12月5日(2001.12.5) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100070150 【弁理士】 【氏名又は名称】伊東 忠彦
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| 【公開番号】 |
特開2003−171317(P2003−171317A) |
| 【公開日】 |
平成15年6月20日(2003.6.20) |
| 【出願番号】 |
特願2001−371707(P2001−371707) |
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