トップ :: A 生活必需品 :: A61 医学または獣医学;衛生学




【発明の名称】 歯科用接着性組成物
【発明者】 【氏名】小島 真一
【住所又は居所】東京都板橋区蓮沼町76番1号 株式会社ジーシー内

【氏名】有田 明史
【住所又は居所】東京都板橋区蓮沼町76番1号 株式会社ジーシー内

【要約】 【課題】エッチング処理やプライマー処理などの前処理を必要とせずに歯科用修復材と歯質とを確実に接着し長期に亘ってその接着効果を維持することの可能な1液の歯科用接着性組成物を提供する。

【解決手段】リン酸基を有する重合性モノマー:1〜5重量%,1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマー:10〜40重量%,酸基を有さない重合性モノマーの1種又は2種以上の混合物であって25℃における水の溶解度が25重量%以下である重合性モノマー:20〜40重量%,水:15〜50重量%から成る重合性組成物に、光重合開始剤:前記重合性組成物100重量部に対して0.1〜5.0重量部,平均粒径0.01〜0.05μmである粘度調整剤を配合して粘度を0.1〜1Pa・sとした1液の歯科用接着性組成物とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】(a)リン酸基を有する重合性モノマー:1〜5重量%(b)1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマー:10〜40重量%(c)酸基を有さない重合性モノマーの1種又は2種以上の混合物であって25℃における水の溶解度が25重量%以下である重合性モノマー:20〜40重量%(d)水:15〜50重量%から成る重合性組成物に、(e)光重合開始剤:前記重合性組成物100重量部に対して0.1〜5.0重量部(f)平均粒径0.01〜0.05μmである粘度調整剤が配合されている粘度が0.1〜1Pa・sであることを特徴とする1液の歯科用接着性組成物。
【請求項2】 重合性組成物が更に(g)水溶性で揮発性の有機溶媒を0.1〜35重量%含んでいる請求項1に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項3】 (b)1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマーが、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸,4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物の1種又は2種の混合物である請求項1又は2に記載の歯科用接着性組成物。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、歯質と歯科用修復材とを接着するために用いる歯科用接着性組成物に関するものである。更に詳しくは、歯質のエナメル質及び象牙質に対して、充填用コンポジットレジン,充填用コンポマー,小窩裂溝填塞用のフィッシャーシーラント剤,根面コーティング剤,ライニング材,レジンセメントなどの歯科用修復材を接着する際に用い、従来のように使用時に複数の操作ステップが必要なく且つ1ステップにおいては2種以上の多成分を混和する必要のない簡単な操作で、歯質と歯科用修復材との両者を確実に接着し長期に亘ってその接着効果を維持することの可能な1液の歯科用接着性組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】コンポジットレジンなどの歯科用修復材の普及に伴い、歯質と歯科用修復材との間には操作が簡単で且つ強固な接着効果が得られる歯科用接着性組成物が必要とされている。従来から用いられてきている歯科用接着性組成物とその使用方法は、歯質をリン酸やクエン酸などの酸でエッチングを行った後、接着性を高めるための接着性モノマーや親水性モノマーを含むプライマーによるプライマー処理や、更に接着剤であるボンディング剤で接着する方法が一般的である。しかし、この方法では前述のように接着操作ステップが、エッチング処理→プライマー処理→ボンディング剤塗布処理の3ステップ必要であり操作が煩雑であった。また、この方法はエナメル質への接着性は高いものの、象牙質への接着性は充分とは言えなかった。
【0003】近年、エッチング処理とプライマー処理とを同時に行うセルフエッチングプライマーとボンディング剤で接着する2ステップシステム(セルフエッチングプライマー処理→ボンディング剤塗布処理)が開発された。また、最近エッチング処理やプライマー処理などの前処理を必要とせず、ボンディング剤塗布処理のみの1ステップタイプの接着性組成物が特開2000−159621号公報などで開示されている。しかし、この接着性組成物は基本的にプライマーとして作用するため、実際には別途ボンディング剤が必要である。このように現在市販されている2ステップシステム又は事実上2ステップである1ステップ型と称する歯科用接着性組成物は操作が煩雑であるという欠点があった。
【0004】また、特開平10−245525号公報,特開平11−140383号公報,特開2001−72523号公報にはエッチング処理やプライマー処理などの前処理を必要としない1ステップタイプの接着性組成物が提案されている。しかし、いずれの場合も明確な記載はないものの、必要な接着性を得るために触媒として光重合以外の多成分混合型の触媒を用いる必要性があり、保存安定性の面から実質上2成分又はそれ以上に分けて包装し保存する必要があった。そのため、使用時には各成分を混和する必要があり、接着操作自体は1ステップであっても使用時に混和操作を必要とし、操作が煩雑であるという欠点があった。
【0005】また、特開2001−26511号公報には酸性基を有する重合性化合物,水溶性フィルム形成剤,水及び硬化剤の混合物からなる接着材組成物が開示されており、この接着材組成物はエッチング処理やプライマー処理などの前処理を必要とせず且つ1液である。しかし、この接着材組成物に使用されている2−ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とするフィルム形成剤は生理食塩水に対して混和可能であることを特徴としているが、このような2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性の高い重合性モノマーを多く含む組成物は、実際の臨床で口腔内に長期間経過すると親水性の高い重合性モノマー成分が歯質に浸透する性質によって重合硬化で形成される層いわゆる樹脂含浸層からモノマー重合体の溶出が起こり、辺縁漏洩や脱落が起きるという問題があるため耐久性に問題があった。更に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを多く含む組成物はアレルギーの面からもその使用が懸念されている。このように実用性のある1ステップ且つ1液で使用時に混和操作不要の歯科用接着性組成物は未だ得られておらず、操作が簡便で長期間口腔内での接着効果が安定した信頼性のある新規の歯科用接着性組成物が望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、歯科用修復材の歯質への接着に関してエッチング処理やプライマー処理などの前処理を必要とせず、ボンディング剤塗布処理による接着操作のみの1ステップで使用でき、使用時に2種以上の成分を混和する必要がなく、更に高い接着強さを口腔内で長期に亘って維持することが可能な歯科用接着性組成物を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、1ステップが可能となる組成として、エナメル質に対する接着性向上のためのリン酸基を有する重合性モノマーと、象牙質に対する接着性向上のための1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマーと、接着剤層を補強するための水の溶解度が小さい酸基を有さない重合性モノマーと、歯質への接着性を向上させるための水とから成る重合性組成物において従来光重合のみでは不可能であった接着性を得るため及び樹脂含浸層からモノマー重合体の溶出が起こり辺縁漏洩や脱落が起きる原因である2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性モノマーの含有量を減らすために前記各成分を特定の割合で配合し、この重合性組成物に、前記各種の重合性モノマーを重合させるための光重合開始剤と、更に平均粒径0.01〜0.05μmである粘度調整剤とを配合してその粘度を0.1〜1Pa・sとすることにより混和不要の1液の組成の歯科用接着性組成物にすることが可能であって、この歯科用接着性組成物は優れた歯質及び歯科用修復材に対する接着性を有すること、更に前記重合性組成物には水溶性で揮発性の有機溶媒を含ませても良いことを究明して本発明を完成した。
【0008】
【発明の実施の形態】即ち、本発明に係る歯科用接着性組成物は、(a)リン酸基を有する重合性モノマー:1〜5重量%(b)1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマー:10〜40重量%(c)酸基を有さない重合性モノマーの1種又は2種以上の混合物であって25℃において水の溶解度が25重量%以下である重合性モノマー:20〜40重量%(d)水:15〜50重量%から成る重合性組成物に、(e)光重合開始剤:前記重合性組成物100重量部に対して0.1〜5.0重量部(f)平均粒径0.01〜0.05μmである粘度調整剤が配合されている粘度が0.1〜1Pa・sであることを特徴とする1液の歯科用接着性組成物であり、前記重合性組成物は更に(g)水溶性で揮発性の有機溶媒を0.1〜35重量%含んでいてもよく、また前記(b)1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマーとしては、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸,4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物の1種又は2種の混合物であることが好ましいのである。
【0009】本発明に係る歯科用接着性組成物の重合性組成物に使用する、(a)リン酸基を有する重合性モノマー,(b)1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマー及び(c)酸基を有さない重合性モノマーの1種又は2種以上の混合物であって25℃において水の溶解度が25重量%以下である重合性モノマーは、それぞれ少なくとも一つの不飽和二重結合を分子内に持つメタクリレート又はアクリレートの重合性モノマーである。
【0010】本発明に係る歯科用接着性組成物の重合性組成物に使用する(a)リン酸基を有する重合性モノマーは、1分子中にリン酸基を1個又は複数個有する重合性モノマーであり、リン酸基はカルボキシル基よりも強い酸性を示すことから、歯面のスメアー層の溶解や歯質脱灰の効果が高く、特にエナメル質に対して高い接着性の向上効果を発揮する。この(a)リン酸基を有する重合性モノマーとしては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−ジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5−{2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。中でも10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが接着性及びモノマー自体の安定性の点から特に好ましい。これらのリン酸基を有する重合性モノマーは、単独或いは2種以上を混合して用いても良い。この(a)リン酸基を有する重合性モノマーは、歯科用接着性組成物の重合性組成物中に1〜5重量%含有されていることが必要であり、1重量%未満ではエナメル質に対する接着性が弱くなり、5重量%を超えると象牙質に対する接着性が低下する。
【0011】(b)1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマー中に存在するカルボキシル基は、リン酸基と比較して作用がマイルドであるため象牙質のコラーゲン変性の危険性が少ないので特に象牙質に対して高い接着性の向上効果を発揮する。この(b)1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマーとしては、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸無水物、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸などが挙げられる。これらの1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマーは、単独或いは2種以上を混合して用いても良い。中でも4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸,4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物が接着性の点から特に好ましい。この(b)1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマーは、歯科用接着性組成物の重合性組成物中に10〜40重量%含有されていることが必要であり、10重量%未満では象牙質に対する接着性が低くなり、40重量%を超えると接着性の向上効果がないばかりでなく、歯科用接着性組成物自体の重合硬化性が悪化しエナメル質及び象牙質に対する接着性は共に低下する。
【0012】本発明に係る歯科用接着性組成物の重合性組成物に使用する(c)酸基を有さない重合性モノマーの1種又は2種以上の混合物であって25℃において水の溶解度が25重量%以下である重合性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス[(メタ)アクリロキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル]プロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、1,2−ジヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−{2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロポキシ}フェニル]プロパン等を、また分子中にウレタン結合を有する酸基を有さない重合性モノマーとして、ジ−2−(メタ)アクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート等を例示することができる。
【0013】この(c)酸基を有さない重合性モノマーの1種又は2種以上の混合物であって25℃において水の溶解度が25重量%以下である重合性モノマーが、25℃において水の溶解度が25重量%以下でなければならないのは、25℃における水の溶解度が25重量%を超えるような場合はいわゆる樹脂含浸層の口腔内での長期耐久性に問題が生じると共に、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性モノマーを多く含むため、それ自体の重合性の悪さによって歯科用接着性組成物の歯質接着性が低下するからである。本発明に係る歯科用接着性組成物では、歯質への浸透性と歯科用接着性組成物の重合性とを両立させるため、水酸基を有する2−ヒドロキシエチルメタクリレートのような親水性の重合性モノマーにトリエチレングリコールジメタクリレートやジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメートのような重合性の良い重合性モノマーを混合して、25℃における水の溶解度が25重量%以下となるようにして用いることが好ましい。なお、この(c)酸基を有さない重合性モノマーの1種又は2種以上の混合物であって25℃において水の溶解度が25重量%以下である重合性モノマーは、歯科用接着性組成物の重合性組成物中に20〜40重量%含有されていることが必要であり、20重量%未満では歯科用接着性組成物の重合性が悪化し接着剤層を補強することができず、40重量%を超えると歯質への浸透性が悪くなると同時に必然的に酸基を有する重合性モノマーや水の含有される割合が少なくなるためエッチングの効果が低減し歯質接着性が低下する。
【0014】本発明に係る歯科用接着性組成物の重合性組成物に使用する(d)水は、(a)リン酸基を有する重合性モノマー及び(b)1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマーに歯質脱灰などの作用を行わせるために必須であり、蒸留水,精製水,イオン交換水又は脱イオン水等が好適である。(d)水は歯科用接着性組成物の重合性組成物中に15〜50重量%含有されていることが必要であり、15重量%未満では歯質の脱灰が弱くなり歯質接着性が低下し、50重量部%を超えると歯科用接着性組成物の重合硬化性が悪化するため歯質接着性が低下する。
【0015】本発明に係る歯科用接着性組成物の重合性組成物には、必要により(g)水溶性で揮発性の有機溶媒を配合することができる。この(g)水溶性で揮発性の有機溶媒としては、アセトン,メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール,メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらの水溶性で揮発性の有機溶媒は単独或いは2種以上を混合して用いてもよく、中でもエタノールとアセトンが特に好ましい。この(g)水溶性で揮発性の有機溶媒を重合性組成物中に配合すると、各種重合性モノマー(a),(b),(c)と水(d)とを相溶させることが容易となり透明性の高い歯科用接着性組成物を得ることができる。また、相溶に至らない配合量であっても乳化状態で供給することができる。この際、乳化状態が不安定な場合は、例えば歯科用接着性組成物を収納している容器中に必要に応じてアルミナやジルコニアなどの球状の塊状物を装填して使用前にその容器を適宜振盪して用いることが好ましい。この(g)水溶性で揮発性の有機溶媒は歯科用接着性組成物の重合性組成物中に0.1〜35重量%含有されていることが必要であり、0.1重量%未満では前記効果がなく、35重量%を超えると歯質への接着性が低下する。
【0016】本発明に係る歯科用接着性組成物には、接着界面や接着剤の層をより強固にして歯質接着性を高めるため(e)光重合開始剤を含有させることが必要である。なお、本発明に係る歯科用接着性組成物は前記重合性組成物の組成と配合に加えて(e)光重合開始剤を配合して光重合させることにより充分な接着性を発揮することが可能であり、その結果1液の歯科用接着性組成物を得ることが可能となるのである。(e)光重合開始剤としては、従来から歯科用組成物に使用されている公知の光重合開始剤が使用可能であり、α−ジケトン化合物、ケタール化合物、アントラキノン系化合物、チオキサントン系化合物、ベンゾインアルキルエーテル系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、α−アミノケトン系化合物などが挙げられる。具体的には、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2−メトキシエチル)ケタール、4,4′−ジメチルベンジル−ジメチルケタール、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ニトロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロ−7−トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン−10,10−ジオキサイド、チオキサントン−10−オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4′−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどが挙げられる。これらの光重合開始剤は単独或いは2種以上を混合して用いても良く、特に好ましくはカンファーキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドである。(e)光重合開始剤は前記重合性組成物100重量部に対して0.1〜5.0重量部配合されることが必要である。0.1重量部未満ではその光重合開始剤としての効果を発揮することができず、5.0重量部を超えても光重合開始剤としての効果は向上しない。更に、必要に応じて光重合促進剤を併用することができ、光重合促進剤としては芳香族第3級アミン,脂肪族第3級アミンなどが有効である。具体的には、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、トリエチルアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどが挙げられる。これらの光重合促進剤も単独或いは2種以上を混合して用いても良いのは勿論である。
【0017】そして、本発明に係る歯科用接着性組成物には接着剤層を歯面に馴染ませ強固な歯質接着性を高める目的で重合性組成物に(f)平均粒径0.01〜0.05μmである粘度調整剤を所定量配合する。この(f)平均粒径0.01〜0.05μmである粘度調整剤を配合することにより、本発明に係る歯科用接着性組成物の塗布性,流動性,接着剤層の厚みを制御するのに大きく影響を与える粘度を調整すると共に、コンポジットレジンとの馴染みを良くすることができ、コンポジットレジンの充填操作が非常に容易に行える効果がある。本発明に係る歯科用接着性組成物が乳化状態で供給される場合には、この(f)平均粒径0.01〜0.05μmである粘度調整剤を配合することにより乳化を安定させることもできる。(f)平均粒径0.01〜0.05μmである粘度調整剤としては、アエロジルシリカ,酸化アルミニウム,二酸化チタンなどのような超微粒子無機フィラーが用いられるが、必要に応じてシリカガラス粉末,バリウムガラス粉末等を使用することができ、更にこれらの粘度調整剤はシランカップリング処理を施して使用することもできる。但し、この場合例えばフルオロアルミノシリケートガラスのような酸と反応性のあるガラス粉末は、重合性組成物中の(a)リン酸基を有する重合性モノマーや、(b)1分子中にカルボキシル基を複数個有するか又は水と容易に反応して1分子中にカルボキシル基を複数個生じる重合性モノマーと反応してしまうため使用することはできない。
【0018】(f)平均粒径0.01〜0.05μmである粘度調整剤の配合量は、超微粒子無機フィラーの平均粒径及び表面性状によって大きく異なるため一概に決めることはできないため、歯科用接着性組成物に重合性組成物と共に配合し歯科用接着性組成物全体の粘度が0.1〜1Pa・sとなるように配合する。粘度が0.1Pa・s未満では歯科用接着性組成物の粘性が低く接着の操作性が悪く粘度調整剤による接着剤層の強度が期待できないため歯質接着性が低下し、1Pa・sを超えると歯科用接着性組成物の歯質浸透性が悪く歯質接着性が低下する。
【0019】その他、本発明に係る歯科用接着性組成物には、必要に応じて微量の紫外線吸収剤,着色剤,重合禁止剤などを配合しても良いのは勿論である。
【0020】
【実施例】以下に具体的に例を挙げて本発明に係る歯科用接着性組成物を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<実施例1〜6,比較例1〜4>歯科用接着性組成物として、(a)〜(d)及び(f),(g)の各成分を表1に纏めて示した配合で1液の歯科用接着性組成物を作製し、この歯科用接着性組成物を用いて歯質接着強さ,歯科用接着性組成物の粘度,酸基を有さない重合性モノマーに対する25℃における水の溶解度をそれぞれ測定し、表4に纏めて示した。ここで、(f)平均粒径0.01〜0.05μmである粘度調整剤は、重合性組成物100重量部に対する量を示している。また、(e)光重合開始剤及び光重合促進剤としてカンファーキノン及び4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルを重合性組成物100重量部に対してそれぞれ0.5重量部,1.0重量部で配合した。
【0021】〈歯質接着強さ〉1.牛の新鮮な前歯表面を注水下#600の耐水研磨紙によってエナメル質及び象牙質面を各5個ずつ露出するように研磨した。
2.研磨した象牙質面又はエナメル質面に直径2.5mmの穴の開いたフッ素樹脂テープを貼って被着面積を規定した。この規定した被着面に実施例,比較例の歯科用接着性組成物をエッチング及びプライマー処理を行わずに塗布し、20秒保持した後に中圧エアーで乾燥した。次に歯科用可視光線照射器(製品名:ジーシーニューライトVLII,ジーシー社製)にて10秒間光照射した。
3.内径5.0mmの穴の開いた高さ2.0mmのシリコーンゴム型を接着面に当て、中に光重合型コンポジットレジン(製品名:ユニフィルS,ジーシー社製)を充填し、前記歯科用可視光線照射器にて40秒間光照射し内部のレジンを硬化させた。
4.試験体を37℃水中に1日間浸漬した後、試験体上部に引張り用アクリルロッドを装着し万能試験機(製品名:オートグラフ,島津製作所社製)にてクロスヘッドスピード1.0mm/min.にて引張り試験を行った。
【0022】〈歯科用接着性組成物の粘度〉配合した歯科用接着性組成物の粘度を粘度計(製品名:MODEL DV−III,ブルックフィールド社製)にて測定した。測定条件はスピンドル:SC4−14,温度23℃,剪断速度1/60sec.である。
【0023】〈酸基を有さない重合性モノマーに対する水の溶解度〉実施例,比較例で用いる酸基を有さない重合性モノマーの混合物をサンプル管に10グラム採り、25℃にて蒸留水を少量ずつ添加し1分間攪拌した時に溶液が清澄であるか否かを目視観察する。清澄になった時点の水の濃度を計算し酸基を有さない重合性モノマーに対する水の溶解度とした。
【0024】
【表1】

【0025】本発明に係る歯科用接着性組成物である実施例1〜6に比べ、比較例1〜4はエナメル質への接着強さ及び象牙質への接着強さが低い値を示した。これらの比較例1〜4は実施例1〜4の粘度調整剤の配合がないか又は配合が少ない例であり、何れの歯科用接着性組成物の粘度も0.1Pa・s未満であった。
【0026】<実施例7〜12,比較例5〜7>歯科用接着性組成物として表2に記載の配合を行い、実施例1と同じ試験方法にて各種試験を行ってその結果を表4に纏めて示した。ここで、光重合開始剤及び重合促進剤の種類と配合量は実施例1と同じである。
【0027】
【表2】

【0028】本発明に係る歯科用接着性組成物である実施例7〜12に比べ、比較例5〜7はエナメル質及び象牙質への接着強さが、親水性モノマーである2−ヒドロキシエチルメタクリレートの配合量が多く且つ酸基を有さない重合性モノマーに対する水の溶解度が25重量%を超えているため低く、また口腔内での長期安定性に不安がある。
【0029】<実施例13〜17,比較例8〜11>歯科用接着性組成物として表3に記載の配合を行い、実施例1と同じ試験方法にて各種試験を行ってその結果を表4に纏めて示した。ここで、光重合開始剤として、カンファーキノン及び2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドを重合性組成物100重量部に対してそれぞれ0.5重量部,2.0重量部で配合した。
【0030】
【表3】

【0031】本発明に係る歯科用接着性組成物である実施例13〜17のエナメル質及び象牙質への接着性は高く優れた接着強さを示した。これに対して比較例8〜11は重合性組成物を構成する(a),(b),(c),(d)のうち(a),(b),(c)の何れかの成分が欠けていることから、歯質に対する接着強さが低いことが分かる。
【0032】<比較例12>従来の歯科用接着性組成物(製品名:ユニフィルボンド,ジーシー社製)のエナメル質及び象牙質に対する接着強さ試験を行った。この「ユニフィルボンド」はセルフエッチングプライマーとボンディング剤とから成る2ステップタイプの歯科用接着性組成物であり、接着強さ試験は研磨した象牙質面又はエナメル質面に直径2.5mmの穴の開いたフッ素樹脂テープを貼って被着面積を規定し被着面に対して、セルフエッチングプライマーを塗布し、弱圧エアーで乾燥させた後にボンディング剤を塗布してから歯科用可視光線照射器(製品名:ジーシーニューライトVLII,ジーシー社製)にて10秒間光照射した。その後、前記歯質接着強さ試験の3,4の操作を行って歯質に対する接着強さ試験を行った。このように、セルフエッチングプライマーの塗布操作及び弱圧エアーで乾燥という操作が必要であった。
【0033】
【表4】

【0034】
【発明の効果】以上に詳述したように本発明に係る歯科用接着性組成物は、歯科用修復材の歯質への接着に関してエッチング処理やプライマー処理などの前処理を必要とせず、ボンディング剤による接着操作のみの1ステップで使用でき、使用時に2種以上の成分を混和する必要がなく、更に高い接着強さを口腔内で長期に亘って維持することが可能な歯科用接着性組成物であり、その歯科医療に貢献する価値の非常に大なるものである。
【出願人】 【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
【住所又は居所】東京都板橋区蓮沼町76番1号
【出願日】 平成13年8月30日(2001.8.30)
【代理人】 【識別番号】100070105
【弁理士】
【氏名又は名称】野間 忠之
【公開番号】 特開2003−73218(P2003−73218A)
【公開日】 平成15年3月12日(2003.3.12)
【出願番号】 特願2001−261943(P2001−261943)