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【発明の名称】 腸管感染症予防化合物及びそれを含む飲食物
【発明者】 【氏名】小西 良子

【氏名】天野 富美夫

【要約】 【課題】腸感染症起因菌によって引き起こされる感染症を予防する効果を有する新規化合物、特に、腸管で消化吸収されにくく、効果の持続性が高い感染症予防化合物、及びそれを含む飲食物を提供する。

【解決手段】感染症起因菌の腸管細胞との接着阻害作用を有するオリゴ糖結合ペプチドと、難消化性多糖類が結合されてなる腸管感染症予防化合物及びそれを含む飲食物である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 感染症起因菌の腸管細胞との接着阻害作用を有するオリゴ糖結合ペプチドと、難消化性多糖類が結合されてなる腸管感染症予防化合物。
【請求項2】 オリゴ糖結合ペプチドがシアリルオリゴ糖結合ペプチドであり、難消化性多糖類がセルロースである請求項1記載の化合物。
【請求項3】 請求項1又は2記載の化合物を含む飲食物。
【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、腸管感染症起因菌によって引き起こされる感染症を予防するための腸管感染症予防化合物に関する。より詳しくは、食品成分中のオリゴ糖結合タンパク質をプロテアーゼ処理して得られるオリゴ糖結合ペプチドを難消化性多糖類に化学的及び酵素的方法によって結合させ、腸管感染症起因菌の宿主細胞への接着阻害作用により感染症を予防するための腸管感染症予防化合物に関する。
【0002】 【従来の技術】近年、細胞表面に結合している種々の糖タンパク質の研究から、オリゴ糖類の生物学的意義が明らかになりつつある。そして、腸管感染症起因菌の宿主細胞への接着阻害作用により感染予防効果があり副作用の少ない予防法として使用される可能性がある。例えば、マンノースを含有するオリゴ糖が、サルモネラ菌の宿主細胞接着阻害作用を有することが知られている。
【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、腸感染症起因菌によって引き起こされる感染症を予防する効果を有する新規化合物を提供することを課題とする。特に、本発明の目的は、腸管で消化吸収されにくく、効果の持続性が高い感染症予防化合物を提供することである。
【0004】 【課題を解決するための手段】食品成分由来オリゴ糖結合タンパク質からプロテアーゼによりオリゴ糖結合ペプチドを作製し、化学的又は酵素的反応により難消化性多糖類に結合させる。
【0005】 【発明の実施の形態】本発明において、腸管感染症とは、腸管出血性大腸菌、サルモネラ菌、腸管ビブリオ菌、コレラ菌、カンピロバクター菌など、腸管を経由して、ヒト、家畜、ペットなどに感染する感染症を意味する。Escherichia coli, Vibrio parahaemolyticus, Vibrio cholerae, Campylobacter jejumi, Campylobacter coliなどの細菌類が挙げられる。
【0006】 本発明において、オリゴ糖結合ペプチドとは、オリゴ糖とペプチドが結合したものを指す。さらに、本発明におけるオリゴ糖結合ペプチドは、腸管感染症起因菌の宿主細胞(腸管細胞)への接着阻害作用を有することが必要である。ここで、腸管感染症起因菌の宿主細胞(腸管細胞)への接着阻害作用とは、オリゴ糖結合ペプチド又はこれを含む化合物を添加せずに、腸管感染症起因菌と宿主細胞(腸管細胞)を接着させた場合の接着菌数(陽性対照)に対して、オリゴ糖結合ペプチド又はこれを含む化合物をあらかじめ腸管感染症起因菌とインキュベートした後に宿主細胞(腸管細胞)を接着させた場合の接着菌数の割合を測定することにより得ることができる。
【0007】 本発明において用いられるオリゴ糖結合ペプチドとしては、腸の微繊毛膜において、細菌、ウィルス、原虫、又はそれら由来の毒素が接着する際のレセプターとして知られているオリゴ糖を含むペプチドを用いることができ、感染防止の目的に応じて、選択することができる。それらの例を表1に示す。
【0008】 【表1】

【0009】 また、本発明においては、特に【化1】

の構造を有するシアリルグリコペプチド(以下SGPと称する)は、Salmonellaenteritidisに対して、接着阻害作用を示す。
【0010】 本発明において、オリゴ糖結合ペプチドと結合される難消化性多糖類とは、いわゆる食物繊維の中心的な物質で、植物細胞壁の構造物や細胞内容物起源であり消化されにくいものをさす。植物細胞壁構造物としてはセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどが挙げられる。細胞内容物としては植物ガム、ペクチン、粘質物、海藻多糖類が挙げられる。
【0011】 本発明の化合物は、感染症起因菌の腸管細胞との接着阻害作用を有するオリゴ糖結合ペプチドと、難消化性多糖類が結合されてなる腸管感染症予防化合物であるので、対応するオリゴ糖ペプチド単独で摂取するよりも、腸内で消化吸収されず、腸内の滞留時間が長く、接着阻害作用を発揮する時間が長くなるので、その分、腸管感染症予防効果が高められる。
【0012】 次に、本発明の化合物の製造方法について説明する。まず、オリゴ糖結合タンパク質を調製するが、その方法としては特に限定されるものではなく、周知の方法を用いることができる。一例を挙げれば、まず、タンパク質源となる材料、好ましくはタンパク質含有量の高い、牛乳、卵白、卵黄又はその加工品などから周知の糖タンパク質精製方法により得ることができる。例えば、これらのタンパク質源に、トリクロロ酢酸などを用いてタンパク質画分を沈澱させ、周知の方法により精製した後、糖とレクチンとの親和性を利用したクロマトグラフィーにより糖タンパク質画分を精製する。
【0013】 本発明におけるオリゴ糖結合ペプチドは、この糖タンパク質画分から、腸管感染症起因菌の宿主細胞への接着阻害作用を指標に、接着阻害作用のある糖タンパク質画分を同定し、さらにプロテアーゼ処理して得ることができる。ここで、腸管感染症起因菌の宿主細胞(腸管細胞)への接着阻害作用は、例えば、まず、被検感染症起因菌を、試験管内で培養し、これを感染症起因菌の宿主細胞(ヒト腸管培養細胞など)に一定時間反応させる。その後、細胞に接着しなかった余分な菌を洗浄し、菌と結合した腸管細胞を表面活性剤により溶解する。溶解液を、細菌測定用の寒天培地にまき、生菌数を測定することにより、オリゴ糖結合ペプチド非存在化の接着数を定量的に検出することができる。接着阻害作用は、被検体と菌をあらかじめ反応させた後、感染症起因菌の宿主細胞に接着した菌数を被検体を加えていない菌の接着菌数と比較する。
【0014】 次に、プロテアーゼを作用させる。用いられるプロテアーゼとしては、特に制限されるものではなく、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、コラゲナーゼ、ズブチリシン、カルボキシペプチダーゼなどが挙げられる。プロテアーゼ作用後、周知の方法により、分解物をゲルろ過カラムで分画し、前述の方法を用いて、接着阻害作用を保持する画分を分離し、脱塩後、乾燥させて目的とするオリゴ糖結合ペプチドを得る。
【0015】 こうして得られたオリゴ糖結合ペプチドのアミノ基をこれらの難消化性多糖類に化学的又は酵素的に結合させることによって、難消化性の食中毒菌接着阻害作用をもつでんぷんを調製することができる。オリゴ糖ペプチドと難消化性多糖類の化学的結合は、例えば、難消化性多糖類にあらかじめモノクロロ酢酸と過酸化ソーダを含むメチルアルコールと40℃、5−48時間反応することによってカルボキシメチル基を付加した難消化性多糖類を作成する。アミノ基の存在するオリゴ糖ペプチドとカルボキシメチル基を付加した難消化性多糖類を1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)ハイドロクロライドと酸性化で反応させ、カルボキシメチル基とアミノ基の共有結合を行なう。
【0016】 オリゴ糖ペプチドと難消化性多糖類の酵素的結合は、例えば、難消化性多糖類を過酸化酵素などでカルボキシメチル化させ、カルボキシメチル基を付加した難消化性多糖類を作製する。アミノ基を含むオリゴ糖ペプチドをペプチドシンセダーゼで結合させる。
【0017】 本発明の腸管感染症予防化合物は、賦形剤、増量剤として通常使用される小麦粉、デンプン、デキストリン、ブドウ糖、乳糖、セルロース、トレハロース等と共に使用することができ、糖衣錠やタブレット、シロップ剤もしくはカプセルなどとして使用できる。また各種飲食品、例えば清涼飲料水、乳飲料、果汁飲料、醗酵飲料、ゼリー、プリン、アイスクリーム、ヨーグルト、キャンディー、チューインガム、ビスケット・クッキーなどの焼き菓子、パン・ケーキなどのベーカリー製品、饅頭・団子・和菓子類、ラーメン・うどんなどの麺類、スープ類、惣菜類、育児粉乳など通常の形態の飲食品に配合し、使用することができる。また、家畜、ペットなどの動物飼料に配合して使用することもできる。
【0018】 本発明の化合物の摂取量は特に制限はないが、0.1〜150mg/kg体重/日程度が好ましい。摂取回数は1日1回〜数回程度である。
【0019】 【実施例】(1)オリゴ糖結合タンパク質の調製新鮮な卵黄に等量の水を加えて得られた希釈卵黄液に、フェノール:水混合液(9:1、w/w)を加え激しく攪拌した。得られたエマルジョンにさらに水を加え希釈液を調製し、遠心分離(6000rpm、30分)後、得られた上清を減圧下で濃縮した。更に沈澱を除去し、上清をゲルろ過カラム(Sephadex G-50,0.1M NaCl)に叫し、シアル酸反応陽性画分を分離した。得られた画分は同カラムで同様の操作を繰り返し、夾雑物を除去し精製した。得られた画分を脱塩後、陰イオン交換カラム(DEAE-Toyoperal 650M,5mM Tris-HCl緩衝液、pH8.0)に供した。得られたシアリルオリゴ糖ペプチド画分は分離後、脱塩し凍結乾燥した。
【0020】 (2)腸管感染菌に対するオリゴ糖結合タンパク質の接着阻害作用の検出オリゴ糖タンパク質を適度な濃度0.1〜1mMに調整し、1×108/mlの濃度の腸管感染菌と30分室温で反応させた。その後、プラスチックプレート上に培養したヒト腸管培養細菌の絨毛面に1×102細胞/lで添加し、4℃で1時間反応させた。その後、接着しなかった菌を洗浄後、腸管細胞を0.1%トライトンXで破壊し、腸管細胞に結合した菌数を測定した。オリゴ糖タンパク質と反応させていない菌を陽性対照とし、その菌数と比較し、接着阻害作用を検出した。
【0021】 (3)プロテアーゼ処理と分画糖タンパク質5gを200mlの1mM CaCl2を含む0.05Mホウ酸バッファー(pH7.8)に溶解し、少量のトルエン存在下で、糖タンパク質に対して2%プロナーゼP(100mg)を加え、48時間後、72時間後、各々の1%のプロナーゼPを加えて合計96時間37℃で消化した。消化物を凍結乾燥した後、水に溶解し、Sephadex G-25カラムクロマトグラフィーを行なった。フェノール‐硫酸陽性画分を集めて、同様にプロナーゼ消化を行なった。プロナーゼは糖ペプチドに対して、当初5%、24時間後に5%加えて48時間消化した。消化物は、Sephadex G-50カラムクロマトグラフィーを用いて水で溶出した。糖ペプチド250mgを1mMリン酸バッファー(pH7.0)に溶解し、DEAE- Sephadex A-25カラム(2.1×55cm)にのせ、5mMリン酸バッファー(pH7.0)から20mMリン酸バッファー(pH7.0)まで濃度勾配をかけた。ついで20mMリン酸バッファーから150mMリン酸バッファーまでの濃度勾配の系で溶出した。凍結乾燥後、脱塩し、レクチン‐アフィニティークロマトグラフィーでさらに糖の種類別に分画した。
【0022】 (4)オリゴ糖ペプチドとセルロースとの結合オリゴ糖ペプチドは、オリゴ糖タンパク質にプロテアーゼを反応させ、レクチンとの親和性クロマトグラフィーにより精製した。セルロースはモノクロロ酢酸と過酸化ソーダを含むメチルアルコールと40℃、5〜48時間反応させることによって、カルボキシメチル化セルロースを作製した。カルボメチル化セルロースとオリゴ糖ペプチドをEDC存在下で3時間反応させ、共有結合させた。透析により精製し、乾燥させ、目的のSGPとセルロースが結合した化合物(以下SGP−セルロースという)を得た(250mg)。
【0023】 (5)アシアロSGP−セルロースの調製SGP‐セルロース溶液に同量の0.2N H2SO4を加え、80℃、1時間加熱した後、Sephadex G-25カラムを用いて脱塩し、アシアロSGP-セルロースを得た。これらの化合物の感染症予防効果を確認するために、以下の試験を行なった。
【0024】 (6)腸管滞留試験同位元素14Cを含むセルロースとペプチド部分にクロラミンT法でヨード125Iを結合させたオリゴ糖ペプチドを、マウスに経口投与で同時に投与した。経時的に、尿、分、血液を採取した。また、投与72時間目には殺処分とし、盲腸内容物を採取した。それぞれの検体に含まれる放射性物質のうちヨード125Iはそのまま一定量をガンマーカウンターにより測定した。14Cはサンプルオキシダイザーにより、検体を燃焼させるときに発生する炭素に含まれる放射性物質の量を測定した。投与した放射性物質の量と各検体から検出された放射性物質の量の割合から腸管滞留時間を推定した。
【0025】 得られた結果を図1及び図2に示す。SGPに比較して、本発明の化合物SGP−セルロースは、腸管(盲腸滞留時間を指標とする)に腸時間残存し(図1)、糞中に長い期間排出され続けることが明らかである(図2)。
【0026】 (7)ヒト腸管細胞を用いた接着阻害作用試験プラスチックプレートにヒト腸管細胞を約10日間培養し、腸管上皮細胞と同様の形態を形成させた(腸絨毛、タイトジャンクションなど)。一晩前培養させたサルモネラ菌、大腸菌などを被検体とともに30分室温で反応させた液または菌のみの液を1×102(菌数)/l(細胞)の割合で、培養した腸管の絨毛を有する側(腸管腔側)に添加した。4℃1時間反応させた後、接着しなかった余分な菌を洗浄して取り除き、腸管細胞を0.1%トライトンを用いて破壊し、段階希釈して寒天培地にまき、一昼夜37℃で培養した。この方法で測定した菌数が細胞の表面に結合した菌を表す。被検体と反応させた菌の腸管細胞への結合数と菌のみの腸管細胞への結合数との比率が阻害効果となる。
【0027】 その結果を図3及び図4に示す。ヒト腸管細胞を用いた接着阻害作用もサルモネラエンテリティディスに対しては、オリゴ糖単体と同等に阻害し(図3)、大腸菌に対してはオリゴ糖単体より効果的に阻害していた(図4)。
【0028】 (8)マウスを用いたサルモネラの感染実験4週齢の近交系マウスBalb/cのメスを5匹1群として、オリゴ糖ペプチド結合難消化性多糖類を感染3日前から飲水で与えた。濃度は0.1%であった。対照群には水道水を与えた。感染はLD50の菌数の2分の1である5×105菌/匹のサルモネラエンテリティディスを経口投与した。感染9日後の生死を観察して感染予防効果を測定した。被検体の飲水は感染実験の間継続して飲ませていた。その結果を表2に示す。
【0029】 【表2】

【0030】 マウスを用いたサルモネラの感染実験では、対照群の水のみを飲ませた群で約60%が生存する菌数のサルモネラを経口投与させた場合、SGP‐セルロース(糖鎖を含む難消化性多糖類)を0.1%飲み水で飲ませた群では生存率は100%に高まった。以上、本発明を実施例により説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、感染症起因菌と腸管細胞との接着に対する阻害作用を有しているオリゴ糖結合タンパク質と、難消化性多糖類が結合してなる化合物を全て包含するものである。
【0031】 【発明の効果】本発明は、オリゴ糖ペプチドを難消化性多糖類に結合させ、腸滞留時間を長くし、吸収しにくい形状にすることにより、その感染予防硬化を増強し、かつ安全性を高めることができる。糖鎖ペプチドを結合させた難消化性多糖類は、腸管内の安定性、長時間滞留性、予防効果に優れ、腸管感染症予防生成物として幼児、老人など抗生物質の使用が懸念される人への食事素材として利用価値が高い。糖ペプチドのアミノ基を化工デンプンに共有結合やメイラード反応、酵素反応などで結合させることにより多機能の糖鎖をもつ難消化性の食品素材を創製することが可能となる。
【出願人】 【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
【識別番号】501288204
【氏名又は名称】小西 良子
【識別番号】501288215
【氏名又は名称】天野 富美夫
【出願日】 平成13年7月19日(2001.7.19)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武 (外6名)
【公開番号】 特開2003−34650(P2003−34650A)
【公開日】 平成15年2月7日(2003.2.7)
【出願番号】 特願2001−219680(P2001−219680)