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【発明の名称】 象牙質接着用表面処理剤
【発明者】 【氏名】添野 光洋

【氏名】平 曜輔

【要約】 【課題】象牙質に対して、レジンを強固に接着させるための表面処理剤を提供する.

【解決手段】象牙質表面をリン酸と次亜塩素酸ナトリウムで処理した後、アスコルビン酸と塩化第二鉄を含有する表面処理剤を塗布することによって、カルボン酸モノマー、メタクリル酸メチル、トリブチルホウ素より成る化学重合型レジンと象牙質の間に強固な接着が得られる.
【特許請求の範囲】
【請求項1】ビタミンと金属塩化物を共に水に溶解して成る表面処理剤.
【請求項2】アスコルビン酸と塩化第二鉄を共に水に溶解して成る請求項1の表面処理剤.
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は象牙質とレジンとの接着に用いる表面処理剤に関するものである.
【0002】
【従来の技術】歯質は、エナメル質に比べ象牙質に対する接着が困難であり、臨床上充分に満足できる技術は存在していない.さらに、歯科治療の過程で、被着面となる象牙質表面に付着した知覚過敏処置剤や仮着剤が接着を阻害することがある(日本歯科保存学会雑誌 36巻 1686-1698ページ、1993・日本補綴歯科学会雑誌 40巻 672-681ページ、1996).
【0003】接着性レジンの種類によって、用いられる象牙質の表面処理剤が異なっている.
【0004】接着性レジンは、リン酸エステル系モノマーを含有するリン酸エステル系レジンと、カルボン酸系モノマーを含有するカルボン酸系レジンに大別される.
【0005】カルボン酸系レジンの1つ(4-META/MMA-TBBレジン)は、水分子中の酸素と反応してレジンの重合が開始されるため、接着界面付近のレジンの重合が促進される(歯科材料・器械 9巻 884-887ページ、1990).したがって、接着界面にレジンの重合収縮による悪影響を受けにくく、強固な接着力が得られる.また、当該レジンの硬化体は、コンポジットレジンに比べ粘弾性が高く、修復物に加わる応力が分散され、咬合による衝撃を緩和しやすいという利点をもつ.
【0006】さらに、4-META/MMA-TBBレジンは、10重量%クエン酸と3重量%塩化第二鉄より成る水溶液で表面処理(以下略称10-3処理)した象牙質との間に、帯状の層(樹脂含浸層)を形成すること(歯科材料・器械 1巻 78-81ページ、1982)、樹脂含浸層は、表面処理によって脱灰された象牙質表層にレジンが浸透し、重合した部分であり象牙質よりも耐酸性が高いこと(歯科材料・器械 1巻 78-81ページ、1982)、10-3処理した場合に4-META/MMA-TBBレジンとの間に12-18 MPaの接着強度が得られること(歯科理工学雑誌29巻29-32ページ、1982)、金属との間にも高い接着強度を示すこと(歯科理工学雑誌19巻179-184ページ、1978)が示されている.
【0007】象牙質に対して40重量%リン酸水溶液によるエッチング処理の後に10重量%次亜塩素酸ナトリウムを塗布し、水洗、乾燥する処理(以下略称ADゲル法)により、リン酸エステル系レジンとの間に10 MPa以上の接着強さが得られることが示されている(Journal of Dental Research 72巻 381ページ、1993)当該ADゲル法は、リン酸エッチング処理でスメア層を除去し、続く次亜塩素酸ナトリウム処理により、象牙質表面に露出した有機質までも取り除くため、知覚過敏処置剤や仮着剤の悪影響を受けにくいといった利点がある.
【0008】さらに、10-3処理はADゲル法に比べ、変性した象牙質表層の有機質コラーゲンを除去する効果が低い.また、4-META/MMA-TBBレジンは、10-3処理を行っても、接着界面の象牙質コラーゲンが序々に加水分解されると長期間の接着耐久性が望めない(Dental Materials 12巻 302-307ページ、1996)といった欠点がある.
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ADゲル法は、接着剤にリン酸エステル系レジンを用いた場合のみ有効であり、4-META/MMA-TBBレジンを用いた場合、接着強度が低いことが示されている(日本補綴歯科学会雑誌 42巻 99回 特別号 32ページ、1998).
【0010】有機質コラーゲンを化学的に除去した象牙質表面に対して、カルボン酸系レジンを接着せしめる表面処理剤が存在しない.
【0011】したがって、適用できる接着性レジンの種類が多く、接着力が高く、かつ、接着阻害因子の悪影響を受けにくい象牙質表面処理剤の開発が課題となっている.
【0012】
【課題を解決するための手段】アスコルビン酸と塩化第二鉄を共に水に溶解して成る象牙質表面処理剤を発明した.象牙質をリン酸水溶液、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、本発明の表面処理剤の順に連続して処理することによって、レジンとの間に強固な接着を得ることができる.
【0013】
【発明の実施の形態】以下、実施例により本発明の表面処理剤を具体的に説明するが、本発明は、その実施例によって何ら限定されるものではない.
【0014】
【実施例】実施する前段階として、象牙質表面処理剤の調整を行った.アスコルビン酸を10重量%と塩化第二鉄を5重量%含む水溶液を調整し、これをA液とした.クエン酸を10重量%、塩化第二鉄を3重量%含む水溶液をB液とした.C液としては、塩化第二鉄だけを5重量%含む水溶液を調整した.更に、D液としては、アスコルビン酸だけを10重量%含む水溶液を調整した.
【0015】牛前歯の唇面象牙質を露出させ、注水下で耐水研磨紙400番および600番を用いて研削し、水洗、乾燥した.象牙質表面に40重量%リン酸水溶液を15秒間塗布、水洗、乾燥した.次いで10重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を60秒間塗布し、水洗、乾燥した.次いで、A液を 30秒間塗布し、水洗、乾燥を行った.
【0016】接着試験は、以下の方法により行われた.直径5 mmの穴をあけたマスキングテープで象牙質被着面を規定し、4-META/MMA-TBBレジンから成る接着剤を載せ、サンドブラスト処理したステンレス棒を押し付け、両者を接着した.接着した試料を30分間室温に放置し、37℃水中に24時間浸漬してから、2 mm/min の速さで荷重を加え,破断時の値から引張り接着強さを計算し、試料6個の平均値を求めた.
【0017】(比較例1)実施例においてA液の塗布、水洗、乾燥の一連の操作をしないこと以外は、実施例と同様に行った.
【0018】(比較例2)実施例における次亜塩素酸ナトリウム塗布、水洗、乾燥の後、B液を30秒間塗布し、水洗、乾燥を行った.これ以外は、実施例と同様に行った.
【0019】(比較例3)実施例における次亜塩素酸ナトリウム塗布、水洗、乾燥の後、C液を30秒間塗布し、水洗、乾燥を行った.これ以外は、実施例と同様に行った.
【0020】(比較例4)実施例における次亜塩素酸ナトリウム塗布、水洗、乾燥の後、D液を30秒間塗布し、水洗、乾燥を行った.これ以外は、実施例と同様に行った.
【0021】(比較例5)実施例において、象牙質表面にB液を30秒間塗布するのみで、水洗、乾燥後、実施例と同様の試験を行った.
【0022】以上の試験結果を、下表に示す.
平均値 (単位はMPa)
実施例 10.3比較例1 1.4比較例2 2.2比較例3 1.7比較例4 3.4比較例5 10.5【0023】以上の試験結果より、リン酸水溶液処理に続き次亜塩素酸ナトリウム水溶液処理後の象牙質表面において、実施例における良好な結果が得られた.
【0024】レジンと象牙質との接着界面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察した.結果を図1と図2に示す.
【0025】象牙質を実施例と同様の方法で接着した.接着した試料を接着界面に対して垂直に切断し、得られた断面を1N塩酸水溶液に30秒間浸漬、次いで10%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に1時間浸漬し、水洗、乾燥した表面の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す.レジン(写真上部)と象牙質(写真下部)の界面に樹脂含浸層は認めない.
【0026】象牙質を比較例2と同様の方法で接着した.接着した試料を接着界面に対して垂直に切断し、得られた断面を1N塩酸水溶液に30秒間浸漬、次いで10%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に1時間浸漬し、水洗、乾燥した表面の走査型電子顕微鏡写真を図2に示す.レジンと象牙質の界面に樹脂含浸層が認められる.
【0027】
【発明の効果】次亜塩素酸ナトリウムは、4-META/MMA-TBBレジンと象牙質の接着を阻害する作用をもつことが提示されている(日本補綴歯科学会雑誌 42巻 99回 特別号 32ページ、1998).水溶性ビタミンであるアスコルビン酸が象牙質表面の残留した次亜塩素酸ナトリウムを中和、還元することは公知である.塩化第二鉄は、接着界面におけるレジンの重合を促進する作用がある(歯科材料・器械 9巻 884-887ページ、1990).さらに、本発明の表面処理剤を用いれば、象牙質表面に露出する有機質コラーゲンは極めて少なく、象牙質の石灰質とレジンの直接的な接触や結合の結果、接着力が発現するため、接着界面の有機質コラーゲンが加水分解されることによる接着の劣化は生じにくく、強固で耐久性のある接着が可能となる.本発明は、表面処理剤を4-META/MMA-TBBレジンと組み合わせて用いることによって、ADゲル法による表面処理の利点と4-META/MMA-TBBレジンの接着剤としての利点を生かすことができる.さらに、本発明の表面処理剤と組み合わせて用いることのできる接着剤は、カルボン酸レジンに限定されず、リン酸エステル系レジンを含め、選択範囲が広い.したがって、歯科治療に役立つ.
【出願人】 【識別番号】301034511
【氏名又は名称】添野 光洋
【出願日】 平成13年6月26日(2001.6.26)
【代理人】
【公開番号】 特開2003−12429(P2003−12429A)
【公開日】 平成15年1月15日(2003.1.15)
【出願番号】 特願2001−193410(P2001−193410)