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【発明の名称】 食肉の殺菌方法
【発明者】 【氏名】岩井 一夫

【要約】 【課題】牛肉、豚肉等の食肉の色味、テクスチャを減じさせることなく、しかも作業者が安全に行うことができる食肉の殺菌方法を提供する。

【解決手段】食肉用と殺体を処理して食肉を提供する際に行う殺菌方法において、前記と殺体とヒノキチオール水溶液を接触させる工程を含む。前記接触は、内蔵を嫡出し、整体されたと殺体の洗浄後、冷蔵前に行われてもよいし、冷蔵中に行ってもよいし、と殺体を熟成させた後に行ってもよいし、と殺体を赤肉塊に切り分けた後に行ってもよく、ヒノキチオール水溶液を、前記と殺体に塗布、噴霧、擦り込み、および浸漬からなる群より選ばれる少なくとも1つにより行なわれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 食肉用と殺体を処理して食肉を提供する際に行う殺菌方法において、前記と殺体とヒノキチオール水溶液を接触させる工程を含むことを特徴とする食肉の殺菌方法。
【請求項2】 前記接触は、内蔵を嫡出し、整形されたと殺体の洗浄後、冷蔵前に行われる請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項3】 前記接触は、冷蔵中に行われる請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項4】 前記接触は、と殺体を熟成させた後に行う請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項5】 前記接触は、前記と殺体を肉塊に切り分けた後、行う請求項1に記載の殺菌方法。
【請求項6】 前記接触は、前記ヒノキチオール水溶液を、前記と殺体に塗布、噴霧、擦り込み、および浸漬からなる群より選ばれる少なくとも1つにより行なわれる請求項1〜5のいずれか記載の殺菌方法。
【請求項7】 前記接触は、ヒノキチオール水溶液とエチルアルコールとの混合物を冷蔵室内に噴霧することにより行われる請求項3に記載の殺菌方法。
【請求項8】 前記混合物は、不燃性ガスを用いて高圧噴霧する請求項7に記載の殺菌方法。
【請求項9】 前記不燃性ガスは、窒素ガス及び炭酸ガスよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項8に記載の殺菌方法。
【請求項10】 ヒノキチオール水溶液におけるヒノキチオールの濃度が1から50000ppmである請求項1〜9のいずれかに記載の殺菌方法。
【請求項11】 ヒノキチオール水溶液の濃度のpHが4〜11である請求項1〜10のいずれかにに記載の殺菌方法。
【請求項12】 0〜70℃のヒノキチオール水溶液を用いる請求項2に記載の殺菌方法。
【請求項13】 0〜15℃のヒノキチオール水溶液を用いる請求項3〜5のいずれかに記載の殺菌方法。
【請求項14】 前記ヒノキチオール水溶液には、さらにアロエエキス、熊笹抽出物、緑茶抽出物、及びドクダミ抽出物が含有されている請求項1〜13に記載の殺菌方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、牛、豚、羊、馬、猪、鹿、鯨などの食肉の殺菌方法に関し、特にと殺体から精肉店で販売されるまでの間に好適に行うことができる食肉の殺菌方法に関する。
【0002】
【従来の技術】毎年食肉が主因の食中毒事故が報告されている。食肉食中毒は、主として、病原性大腸菌O157や、サルモネラ菌、キャンピロバクター菌、リステリア菌等の微生物汚染により引き起こされる。米国においては前述のO157といえばハンバーグが連想されるほど有名である。また、2000年に真冬の東部地区で起こったリステリア菌食中毒事故では21人の死者を出した。
【0003】食肉の対象となる牛、豚等の家畜は、サルモネラ菌や病原性大腸菌といった食中毒の原因となる菌を腸管等の臓器内に保菌している。従って、と殺、解体時には、腸内容物が散乱しないように、食道と直腸を結紮処理してから、内臓嫡出を行っている。しかしながら、わずかでも腸管破損等すると、内容物が漏出してしまい、肉部分に付着してしまう。
【0004】牛をはじめとする獣家畜のと殺、解体は、図1に示すような工程に従って行っている。図1に示すように、内臓を嫡出し、背割り、整形した後、血や汚れを落とすために、洗浄し、水切り後、冷蔵して、食肉業者に販売される。食肉の熟成のために、動物の種類にもよるが、豚肉の場合は3〜4日間、牛肉では1週間程度、冷蔵される。
【0005】従って、洗浄したにもかかわらず、わずかでも肉に菌が残存していると、その後の冷蔵、熟成工程で菌が増殖し、食中毒を引き起こす原因となる。特に、リステリア菌では、低温でも生存し続けることができるため、菌由来の食中毒を引き起こす原因となる。
【0006】このため、現在、水に代えて、60〜80℃の湯による洗浄を行ったり、洗浄後、殺菌剤をスプレーしたりしている。殺菌には、次亜塩素酸や次亜塩素酸ソーダ等の塩素系殺菌剤(特許文献1)や、乳酸、酢酸等の有機酸を用いること(特許文献2)が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平2−190141号
【特許文献2】USP5520575【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、次亜塩素酸は不安定で、蛋白質と接触すると濃度が約百分の一程度にまで下がるため、接触時に殺菌効果が認められても、殺菌効果の持続性がない。また、次亜塩素酸は分解して、人体に有害な塩素ガスを発生するため、作業者の安全のために、10〜200ppm程度でしか用いることができない。しかし、この程度の濃度では、満足できる殺菌効果が得られない。pHを調節等することにより、次亜塩素酸の安定性を高め、塩素ガスを出さないようにした塩素系殺菌剤は、殺菌効果が得られるが、牛肉等が本来呈している赤味を退色させて商品価値を低減させるため、実際には採用されていない。
【0009】乳酸は、人体に安全な殺菌剤であるが、肉を茶色に変色させてしまうため、赤身肉の価値を低下させるという点から、使用が好まれない傾向にある。特に高級肉では、色も重要な品質判断の要素とされるため、使えない。酢酸は、塩素系殺菌剤と比べて変色作用は小さく、また有害なガスも発生しないが、上記殺菌剤に比べて殺菌力が劣っている。近年食中毒が問題となっている大腸菌O157に対してあまり効果がないとも言われている。
【0010】食肉の処理工程において、内臓嫡出処理を腸管を破損させないように行い、洗浄殺菌を十分に行った場合であっても、1週間程度の冷蔵中(熟成)の間に、冷蔵室中に浮遊するカビ等の真菌類が着生して、と殺体表面にカビが生じる場合がある。また、冷蔵後、と殺体を、さらにブロック肉に切り分ける工程、運搬流通過程などで作業員や作業所から、雑菌が付着する場合がある。このため、と殺体を洗浄殺菌した後、精肉店頭に陳列、販売されるまでの間に、再度、殺菌することが望まれる。しかし、牛肉等の獣肉の場合、鶏肉と異なり、水分を吸収すると味が低下することから、ブロックに切り分けた後の段階における水洗は好まれない。また、熟成後の段階では、保存期間をできるだけ短くして売り場に供されることになるため、塩素系といった臭いの残る殺菌剤を一切使用することができない。このような理由から、この段階での殺菌には、乳酸、酢酸等の有機酸を用いることができる程度である。しかし、先に述べたように、酢酸は、大腸菌O157に対して、十分な殺菌力を持っていないので、結局、ブロック肉の状態で、殺菌することはほとんどされていないのが現状である。また、乳酸は肉色を変色させるという問題がある。
【0011】本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、食肉が本来呈している赤色を損なうことなく、また殺菌作業者にとって安全で、且つ十分な殺菌効果を得ることができる食肉の殺菌方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の食肉の殺菌方法は、食肉用と殺体を処理して食肉を提供する際に行う殺菌方法において、前記と殺体とヒノキチオール水溶液を接触させる工程を含むことを特徴とする。
【0013】前記接触は、内蔵を嫡出し、整形されたと殺体の洗浄後、冷蔵前に行われてもよいし、冷蔵中に行ってもよいし、と殺体を熟成させた後に行ってもよいし、と殺体を肉塊に切り分けた後に行ってもよい。
【0014】前記接触は、前記ヒノキチオール水溶液を、前記と殺体に塗布、噴霧、擦り込み、および浸漬からなる群より選ばれる少なくとも1つにより行なわれる。冷蔵中に行う場合には、ヒノキチオール水溶液とエチルアルコールとの混合物を冷蔵室内に噴霧することが好ましい。この場合、前記混合物は、不燃性ガス、特に窒素ガス及び炭酸ガスよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いて高圧噴霧することが好ましい。
【0015】前記ヒノキチオール水溶液におけるヒノキチオールの濃度が1から50000ppmであることが好ましく、またpH4〜11であることが好ましい。
【0016】と殺体の洗浄後、冷蔵前に殺菌する場合には、0〜70℃のヒノキチオール水溶液を用いることができ、冷蔵中、又は冷蔵後に行う場合には0〜15℃のヒノキチオール水溶液を用いることができる。
【0017】 また、前記ヒノキチオール水溶液には、さらに、アロエエキス、熊笹抽出物、緑茶抽出物、及びドクダミ抽出物が含有されていることが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】本発明の食肉の殺菌方法は、食肉動物を処理して食肉を製造するに際して、食肉に対しヒノキチオール水溶液との接触処理を行うことを1つの大きな特徴とする。
【0019】ヒノキチオールとの接触は、図1に示す処理工程において、洗浄後冷蔵前、冷蔵中、熟成後、ブロック肉に切り分けるまでの間、切り分けて肉塊とした後の少なくともいずれか1つで行うことができる。
【0020】本発明において、対象とすると殺体は、牛、豚、羊、馬、猪、鹿、鯨等のほ乳動物のと殺体であり、いわゆる食用の赤身肉を供給するものである。
【0021】本発明において使用するヒノキチオールは天然物由来であっても、合成物であってもよい。また、ヒノキチオールは精製物であってもよく、ヒノキチオールを含有する組成物、たとえば、天然の原料植物由来の抽出物としても使用することができる。さらに、ヒノキチオール塩も使用可能である。ヒノキチオール塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましく用いられる。
【0022】ヒノキチオールとは、一般にβツヤプリシンの慣用名として知られているもので、タイワンヒノキや青森ヒバ、ニオイヒバ等の精油中に含まれている。本発明におけるヒノキチオール水溶液にはβツヤプリシンに加え、その他の異性体であるαツヤプリシンとγツヤプリシンを含んでもよい。またヒノキチオールと同じ成分のドラブリンも含んでもよい。
【0023】ヒノキチオール水溶液の媒体としての水の種類は特に限定せず、水道水、蒸留水、イオン交換水など、いずれも使用可能である。
【0024】ヒノキチオール水溶液におけるヒノキチオール濃度は、1〜50000ppmの範囲で用いられ、好ましくは10〜50000ppm、より好ましくは25〜10000ppmであり、より更に好ましくは100〜10000ppmである。ヒノキチオールは天然物由来の成分で、生体に対して安全で、接触処理後の食肉も無毒ないし極めて低毒性であり、食品添加物として許可されており、食品衛生法上も添加量の制限がない。また、分解等して、有害なガスを発生することもないので、高濃度の水溶液を少量用いて、有効に殺菌することができる。従って、上記範囲で、ヒノキチオールの水に対する溶解度、適用対象である食肉のサイズ、適用段階において、適宜選択すればよい。
【0025】本発明で使用するヒノキチオール水溶液は、ヒノキチオール及び水の他に、目的に応じて人体に安全な他の成分を含有させてもよい。例えば、水に対する溶解度の向上、殺菌力の向上等を目的として、アロエエキス、熊笹、緑茶、ドクダミ抽出物等の植物抽出エキスを含有させてもよい。
【0026】本発明で使用するヒノキチオール水溶液は、pH4〜11が好ましく、より好ましくは6〜8である。
【0027】以上のような組成を有するヒノキチオール水溶液は、サルモネラ菌、病原性大腸菌、リステリア菌、カンピロバクターといった食中毒の原因となる細菌及びカビ等の真菌に対して優れた殺菌力を有し、しかも耐性菌を生じにくく、殺菌力に持続性があり、しかも人体に安全であるから、と殺体(食肉)に適用した後、殺菌剤を洗い流したりする必要もない。
【0028】本発明の殺菌方法は、以上のようなヒノキチオール水溶液を、対象となる食肉に接触させる。本発明によれば、ヒノキチオールとの接触は、図1に示す処理工程において、洗浄後冷蔵前、冷蔵中、熟成後、ブロック肉に切り分けるまでの間、切り分けて肉塊とした後の少なくともいずれか1つで行うことができる。
【0029】洗浄後、冷蔵前とは、放出された血や内臓などの汚れを落とした後、水又は湯のシャワーリングで洗浄した後、冷蔵する前段階に該当する。ここで、ヒノキチオール水溶液を適用すると、殺菌持続力があるので、冷蔵熟成の間の菌の増殖、耐性菌の発生を防止できる。また、塩素系や有機酸系殺菌剤のように、変色させないので、熟成によりおいしい、新鮮と感じることができる本来の肉色を保持することができる。
【0030】冷蔵中とは、冷蔵室で熟成させる段階に該当する。ここでは、対象となる動物の種類にもよるが、牛のと殺体の場合には、1週間程度熟成保存されることになるため、冷蔵室中にカビや雑菌が浮遊している場合には、と殺体表面に付着して、カビや雑菌が増殖することになる。冷蔵室内の殺菌を定期的に行っている場合でも、作業者の出入りにより、空気中に浮遊するカビや雑菌が冷蔵室内に侵入して、と殺体表面に付着したりする。この段階での冷蔵は、洗浄殺菌時に殺菌できずに残存していた菌を除くだけでなく、新たに侵入してくるカビや雑菌による汚染を防止する意義がある。
【0031】熟成後ブロックに切り分ける前、さらにはブロックに切り分けた後の段階での殺菌処理は、ヒノキチオール水溶液を使用することにより得られる有利な点である。すなわち、この段階では、最終消費者に販売あるいは調理される直前の工程に近くなるため、臭いが残ったり、変色したりするような殺菌剤を使用することはできない。また、水を使うことも、肉の味、テクスチャの低下になるため、使用することはできない。一方、冷蔵前の殺菌が不十分な場合には、この段階で菌が生存し、リステリア菌のように低温でも生存できる菌が増殖しているおそれもあるため、効果ある殺菌が望まれる。この点、ヒノキチオール水溶液は、安全で肉に接触処理させた後の後処理が不要であり、しかも水分を少なくして殺菌効果を発揮させることができるので、肉本来の味、臭い、テクスチャに影響を及ぼすことなく、殺菌を行うことができるからである。
【0032】食肉との接触処理は、塗布、シャワーリング、噴霧、すり込み、浸漬などにより行うことができる。これらのうち、食肉は、吸水すると品質が低下すること、及び複数のと殺体をまとめて処理するという処理効率の点から、シャワーリング及び噴霧による方法が好ましく用いられる。具体的には、ヒノキチオール水溶液をと殺体に向けてシャワーする態様、ヒノキチオール水溶液のシャワーの下をと殺体を通過させる態様、ヒノキチオール水溶液をと殺体にむけてスプレーする態様、ヒノキチオール水溶液を霧状に充満させた一定区域において一定時間と殺体を維持する態様、ここを通過させる態様等により行うことができる。
【0033】特に、冷蔵中、すなわち冷蔵室内で接触処理を行う場合、ヒノキチオール水溶液を霧状に充満させた一定区域において一定時間と殺体を維持する態様、ここを通過させる態様により、接触処理を行うことが好ましい。と殺体に付着している菌及びカビを殺菌するだけでなく、冷蔵室内に浮遊するカビ等を駆除する効果も得られるからである。さらに、ヒノキチオール水溶液にアルコールを添加混合した混合溶液を冷蔵室内に霧状に充満させることが好ましい。ヒノキチオール水溶液単独の場合と比べて、エチルアルコールとの混合溶液としてスプレーした方が、ヒノキチオール水溶液の空中浮遊時間が長くなって拡散効果が高まり、空中に浮遊するカビ等に対しても有効に殺菌効果を発揮できる上に、冷蔵室内に載置されると殺体の位置にかかわらず、と殺体への生カビ付着防止効果を有効に発揮できるからである。霧状に噴霧させる際に、ヒノキチオール水溶液とアルコールとの混合溶液を、不燃性ガスを噴霧用ガスとして用いて噴霧することが好ましい。例えば、新耕産業株式会社製から販売されている噴射ガン「シャットノクサス(商品名)」を用いて冷蔵室内を噴霧することが考えられる。これにより、ガス圧3〜10kgf/cmで、アルコールとの混合液を噴射すると、広い冷蔵室内であっても、微粒子状のヒノキチオール液滴を、効率よく冷蔵室内全体に充満させることができる。
【0034】ここで、エチルアルコールの濃度は特に限定しないが、ヒノキチオールの微粒子化、拡散効果を得るためには、エチルアルコール濃度下限は30vol%が好ましく、より好ましくは60vol%であり、上限は90vol%が好ましく、より好ましくは85vol%である。ヒノキチオール水溶液とアルコールとの混合物は、ヒノキチオール水溶液とアルコールを混合することにより調製してもよいし、ヒノキチオールの結晶を上記濃度範囲のエチルアルコール水溶液に溶解することにより調製してもよい。
【0035】不燃性ガスとしては、炭酸ガス及び/又は窒素ガスが好ましく用いられる。炭酸ガスは、微生物増殖防止効果を有するので、ヒノキチオール水溶液との接触による殺菌効果及び菌増殖抑制効果を高めることを期待できる。
【0036】処理に使用するヒノキチオール水溶液の温度は、冷蔵前に行う前には0〜70℃で使用することができる。冷蔵中及び冷蔵後に行う場合には、すなわち熟成後、ブロック化した食肉に対して行う場合には、0〜15℃、好ましくは0〜10℃に冷却したヒノキチオール水溶液を用いることが好ましい。噴霧、塗布、すり込みの場合、ヒノキチオール水溶液の適用時間は特に問題とならないが、浸せき処理する場合には、1分以内、好ましくは30秒以内、より好ましくは20秒以内で行うことが好ましい。この程度で十分な殺菌効果が得られる反面、これよりも長い時間の接触は、肉が水分を吸収することになり、食肉の品質、味の低下を招くことになるからである。
【0037】
【実施例】以下、実施例により、さらに本発明を詳細に説明するが、本発明は当該実施例のみに限定されるものではない。
〔ヒノキチオール水溶液の殺菌力〕表1に示す組成を有するヒノキチオール水溶液(ヒノキチオール濃度200ppm,pH6)を調整した。
【0038】
【表1】

当該水溶液を試験液として用いて、ヒノキチオール水溶液の大腸菌、サルモネラ菌、リステリア菌に対する殺菌力試験を行った。試験法は以下の通りである。5つの300gの牛肉塊を1つのグループとして、2グループ準備した。10個/mlの大腸菌(FMK1254)液に、各グループの牛肉塊を浸漬し、24時間放置した。その後、1つのグループの牛肉塊にだけ、上記で調製したヒノキチオール水溶液をスプレー塗布した。1時間後、ヒノキチオールスプレー処理したグループと処理しなかったグループの各牛肉塊表面の任意部分(3cm×3cm)を、栄研器材から販売されている拭取り紙「ふきふきチェック」で、拭取り、それをDIFCO培地に塗り付けて、42℃で24時間培養し、コロニー数をカウントした。測定結果を図2に示す。
【0039】サルモネラ菌(ATCC25923)及びリステリア菌(FMK1256)についても同様にして、測定を行った。各結果を図3及び図4に示す。図2〜4からわかるように、いずれの菌の場合も、ヒノキチオール水溶液をスプレーした方が、殺菌効果があった。
【0040】〔ヒノキチオール水溶液の殺菌力持続効果〕約300gの牛肉塊を滅菌袋にいれ、10cells/mlの大腸菌液を牛肉1gあたり0.1mlとなるように接種し、これを菌接種グループ(B+)とする。大腸菌液に代えて、リン酸バッファー液を、滅菌袋にいれた牛肉1gあたり1mlの割合で添加し、これをコントロールグループ(B−)とした。
【0041】滅菌袋の開口部を輪ゴムで止め、4℃で18時間保持した。上記菌接種グループ(B+)及びコントロールグループ(B−)から、牛肉塊を取り出し、25g切り取って、開始時(initial)の生菌数を下記方法で調べた。
【0042】残った各グループの牛肉塊を、2グループづつに分け、一方には、牛肉1gあたりヒノキチオール水溶液(ヒノキチオール濃度125ppmとなるようにヒノキチオールのナトリウム塩を精製水に溶解)1mlに15秒間浸漬し、水分を切った後、新しい滅菌袋にいれた(B+H+,B−H+)。残りの一方には、ヒノキチオール水溶液に代えて、滅菌水道水を用いて同様に処理した後、滅菌袋に入れた(B−H−,B+H−)。処理後、肉塊を肉眼でコントロールグループと比較観察したところ、外観上(特に色味)、相違点は認められなかった。
【0043】ヒノキチオール水溶液及び滅菌水道水で処理した牛肉塊を、処理(処理時:0time)から1日、2日、4日放置後のそれぞれについて25gづつ切り取り、各サンプルの生菌数を下記方法で調べた。尚、サンプル牛肉の採取に際しては、脂肪と筋肉の比率が3:7となるようにした。
【0044】生菌数の測定は、採取した牛肉25gを滅菌袋に入れ、225mlのバターフィールドリン酸緩衝液(butterfield phosphate buffer)を加えて、ストマッカー装置を用いてホモゲナイズし、ホモゲナイズ液の上清を1000倍希釈した液0.1mlを大腸菌用平板培地に塗布し、24時間培養して、コロニー数をカウントすることにより行った。測定結果を図5に示す。
【0045】図5からわかるように、滅菌水及びヒノキチオール水溶液のいずれで処理しても、処理時(0time)で菌数は減少するが、滅菌水処理では、その後に菌が増殖し、生存し続けている。一方、ヒノキチオール水溶液で処理した場合には、肉内部においても増殖がほとんど認められず、殺菌効果が持続していることがわかった。
【0046】従って、熟成の間、さらに最終消費者の目前に供されるブロック肉の殺菌には、ヒノキチオール水溶液による処理が有効であることがわかる。
【0047】〔ヒノキチオール水溶液の肉色に対する影響〕牛肉の塊(150g)を6つ準備し、1つはコントロールとし、他の5つは、それぞれヒノキチオール水溶液(ヒノキチオール濃度250ppm,500ppm)、次亜塩素酸ソーダ水溶液(次亜塩素酸ソーダ濃度80ppm,250ppm)、乳酸水溶液(1vol%)に15秒間浸漬した後、取り出した。浸せき処理直後及び冷蔵庫内(10℃)で16時間保存した後の肉色を肉眼で観察した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】乳酸で浸せき処理した肉は、コントロールと比べて赤味が退色してやや褐色化し、16時間放置後、この褐色化傾向は進んだ。次亜塩素酸ソーダ水溶液は、80ppm程度の低濃度では、浸せき処理しないコントロールと同じ肉色を保持していたが、濃度を250ppmに上げると、乳酸処理の場合よりも赤味が退色して褐色になった。このことは、次亜塩素酸ソーダ水溶液を用いる場合には、十分な殺菌力確保のために次亜塩素酸ソーダ濃度を上げようとすると、赤身肉の肉色を犠牲にしなければならないことを意味する。
【0050】一方、ヒノキチオール水溶液による浸せき処理では、肉色は変化せず、浸せき処理直後はコントロールと同じ赤味を保持していた。そして、コントロールでは16時間保存により赤味が暗色化していくのに対し、ヒノキチオール水溶液処理をした肉では、初期の赤味を保持していた。従って、ヒノキチオール水溶液による殺菌処理によれば、本来の殺菌効果に加えて、熟成、冷蔵保存期間による商品価値の低下も防止できるという効果が得られることがわかる。
【0051】〔ヒノキチオール・アルコール混合液の拡散及び抗カビ効果〕縦×横×高さが90cm×60cm×150cmの園芸用ビニールハウス内に、図6に示すように、9つのSD培地プレートをほぼ均等に分布するように載置した。但し、C,F,Iのプレートは、床面から高さ50cmの棚上に載置し、その他のプレート(A,B,D,E,G,H)は、床面に直接載置した。以上のようにSD培地をセットしたビニールハウスを8つ(No.1〜8)準備し、密閉した各ビニールハウス内に、黒カビ(Aspergillus niger)を10CFU/mlの割合で含有するように0.85%滅菌生理食塩水で調整した真菌液と、表3に示す組成を有する各噴霧液とを、床面から120cmの高さで図6中の矢印に示す位置から、園芸用スプレーを用いて5秒間噴霧した。密閉した状態で15分間放置後、各ビニールハウスからSD培地プレートを取り出し、25℃で48時間培養して、各SD培地(Sabouraud Dextrose培地)プレートにおけるコロニー数を計測した。結果を表3及び図7に示す。
【0052】尚、表3中、HT液とあるのは、カッコ内で示すヒノキチオール濃度を有するヒノキチオール水溶液であり、HT−AL混合液とあるのは、ヒノキチオール結晶を85vol%エチルアルコール水溶液で溶解してヒノキチオール濃度がカッコ内となるようにしたものである。また、図7中、棚上に載置したプレートのコロニー数は黒三角で示し、その他のプレートのコロニー数は黒菱形で示す。
【0053】
【表3】

【0054】表3の平均コロニー数において、No.1,2と比べてNo.3〜8のコロニー数の方が少なく、ヒノキチオールがカビに対して殺菌効果を発揮することがわかる。図7において、ハウスナンバー3〜5と6〜8を比べると、No.6〜8の方がばらつきが小さいことがわかる。特に、No.3〜5ではばらつきが大きいために、ヒノキチオール濃度を高めた効果が十分現れていないのに対し、No.6〜9ではばらつきが小さく、ヒノキチオール濃度を高めた効果が顕著に表れることがわかる。また、水(No.1)やヒノキチオール水溶液(No.3)を噴霧した場合には、手前のスプレー近傍付近のプレート(A,D,G)や一方の壁際プレート(G,H,I)で殺菌効果が発揮されにくくなっているが、ヒノキチオール・アルコール混合液では殺菌効果が発揮されにくい位置というのはなかった。従って、アルコールとの混合噴霧によりヒノキチオール水溶液が拡散されやすくなり、一定空間内での殺菌効果を全体としてあげることができることがわかる。
【0055】
【発明の効果】本発明の食肉の殺菌方法は、人体に安全で且つ食中毒菌に対して有効に殺菌作用を発揮することができるヒノキチオールを主成分とするヒノキチオール水溶液を用いているので、殺菌作業者にとっても、殺菌後の食肉を食する者にとっても安全である。従って、本発明の方法により有効に殺菌した食肉を提供できる。また、ヒノキチオール水溶液は、肉本来の色を保持することができるので、食品としての価値を損なうことなく、処理量、処理時期を有効に選択して殺菌処理を行うことができる。
【0056】さらに、ヒノキチオール水溶液をアルコールと混合して噴霧することにより殺菌を行うと、十分に拡散して空中に浮遊するカビに対しても有効に殺菌効果を発揮でき、また広い冷蔵室内であっても、と殺体、肉塊の載置位置の影響を受けることなく、万遍なく殺菌効果を期待することができるので、熟成期間が1週間と比較的長い牛肉の熟成期間中、広い冷蔵室,冷凍室内での多量の肉塊の保存中の殺菌に好適である。
【出願人】 【識別番号】593186367
【氏名又は名称】岩井 一夫
【出願日】 平成14年11月28日(2002.11.28)
【代理人】 【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
【公開番号】 特開2003−225049(P2003−225049A)
【公開日】 平成15年8月12日(2003.8.12)
【出願番号】 特願2002−345271(P2002−345271)