| 【発明の名称】 |
生鮮魚介類の鮮度保持剤および鮮度保持方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】小笠原 豊
【氏名】臼井 務
【氏名】齊藤 典行
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| 【要約】 |
【課題】生鮮魚介類の鮮度低下を抑制し、保持するための鮮度保持剤を確立し、当該保持剤を用いる生鮮魚介類の鮮度保持方法を提供すること。
【解決手段】α,α−トレハロースとともに有機酸及び/又はポリフェノールを含有する鮮度保持剤、並びに当該鮮度保持剤を含有する水溶液に生鮮魚介類を浸漬処理する鮮度保持方法を提供する。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 α,α−トレハロースとともに有機酸及び/又はポリフェノールを有効成分として含有する生鮮魚介類の鮮度保持剤。 【請求項2】 α,α−トレハロースに対して、無水物換算で、有機酸を0.5乃至20w/w%及び/又はポリフェノールを0.2乃至20w/w%の範囲で含有することを特徴とする請求項1記載の生鮮魚介類の鮮度保持剤。 【請求項3】 有機酸がクエン酸又はリンゴ酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の生鮮魚介類の鮮度保持剤。 【請求項4】 ポリフェノールが植物より抽出されたもの、又はその糖転移誘導体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の生鮮魚介類の鮮度保持剤。 【請求項5】 鮮度保持剤の形態が固状又は液状であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の生鮮魚介類の鮮度保持剤。 【請求項6】 請求項1乃至5のいずれかに記載の鮮度保持剤を海水又は真水に溶解したときの水溶液のpHが、pH4.0以上、7.0未満の範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の生鮮魚介類の鮮度保持剤。 【請求項7】 請求項1乃至6のいずれかに記載の鮮度保持剤を、α,α−トレハロース量として、1乃至20w/w%含有させた氷の形態にあることを特徴とする生鮮魚介類の鮮度保持用成形物。 【請求項8】 請求項1乃至6のいずれかに記載の鮮度保持剤を、α,α−トレハロース量として、0.1乃至10w/w%含有せしめた冷却された水溶液、又は請求項7記載の鮮度保持用成形物を20w/w%以上、75w/w%未満を含有する冷却された水溶液に生鮮魚介類を浸漬し、必要に応じて、冷蔵又は冷凍保存することを特徴とする生鮮魚介類の鮮度保持方法。 【請求項9】 水溶液が、塩化ナトリウム含有水溶液であることを特徴とする請求項8記載の生鮮魚介類の鮮度保持方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、α,α−トレハロースとともに有機酸及び/又はポリフェノールを含有する生鮮魚介類の鮮度保持剤、及びこの鮮度保持剤を用いる生鮮魚介類の鮮度保持方法に関する。 【0002】 【従来の技術】魚介類は非常に変質、劣化しやすく、これを保存、貯蔵するには、冷蔵、氷蔵、冷凍、塩蔵、乾燥(素乾、塩乾、薫乾、焼乾)、防腐剤を利用するなどの方法があり、商品の目的に応じて、最適な方法が選択されている。生鮮魚介類の鮮度を保持した状態で保存する方法としては、冷蔵、氷蔵または冷凍する方法が用いられる。とりわけ、生鮮魚介類の鮮度を比較的長く保持できるのは冷凍法である。しかしながら、漁獲した直後に生鮮魚介類を冷凍処理するには設備などの問題があり、比較的簡単な方法として冷蔵、氷蔵する方法が広く採用されている。 【0003】一方、鮮度を長く持たせる意味で、比較的魚体が大きいヒラマサ、ブリ、スズキ、ハマチ、タイ、メジナなどでは漁獲直後に“しめる”という処理(活きている魚を適当な器具を用いて傷を付け、殺すとともに、傷口より血抜きを行う)を行った後、冷蔵、氷蔵する方法が採られる。また、比較的魚体の小さいアジ、イワシ、サバ、メバル、カサゴ、カワハギ、アイナメ、カレイなどは、“しめる”という処理を行わず、そのまま冷蔵、氷蔵する方法が採られる。しかし、一般的に生鮮魚介類、とりわけ、“青物”と呼ばれるアジ、イワシ、ニシン、サバなどの魚類は、冷蔵、氷蔵しても短期間しか鮮度が保てなく、変質、劣化を起しやすい欠点があった。 【0004】鮮度保持に薬剤を使用する方法としては、例えば、ニュー フード インダストリー(New Food Industry)1996年39巻6号72頁に記載の技術があり、市販のリンゴポリフェノール含有製剤『アップルフェノン水性製剤』を海水または清水で50倍に希釈し、それにほぼ等量の砕氷を加えた液を作成し、この水溶液に漁獲した直後のマイワシやサケを浸漬し、沖締処理を行った後、凍結保存するという方法が提案されている。この処理を行うことで、冷凍耐性(耐凍性)が付与されることが示されている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、漁獲された生鮮魚介類が冷蔵、氷蔵しても急速な鮮度の低下を起しやすいことから、生鮮魚介類の鮮度低下を抑制し、保持するための手段を提供するものであり、生鮮魚介類の鮮度保持剤を確立することを第一の課題とし、鮮度保持剤を用いて生鮮魚介類の鮮度を保つ方法を提供することを第二の課題とするものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決する目的で、α,α−トレハロースの利用に着目し、併せて、食品衛生上無害である変質抑制作用を有する物質の活用について、鋭意検討を続けてきた。その結果、α,α−トレハロースとともに有機酸及び/又はポリフェノールを含有する冷却された水溶液に生鮮魚介類を浸漬処理することで、鮮度低下が抑制出来ることを新たに見出し、α,α−トレハロースとともに有機酸及び/又はポリフェノールを含有せしめた生鮮魚介類の鮮度保持剤を確立するとともに、これを用いた生鮮魚介類の鮮度保持方法を確立して本発明を完成するに至った。 【0007】 【発明の実施の形態】α,α−トレハロースは、グルコースが2個、α,α−1,1で結合した非還元性の安定な糖質である。本発明に使用するα,α−トレハロースの由来は問わない。例えば、特開平7−246097号公報に記載されている酵母から抽出して得られるα,α−トレハロース、特開昭58−216695号公報に記載されているマルトースからホスホリラーゼ法により得られるα,α−トレハロース、特開平7−170977号公報、特開平7−213283号公報等に記載されている澱粉から酵素糖化法を用いて得られるα,α−トレハロースなど、各種のα,α−トレハロースが適宜採用できる。市販の高純度α,α−トレハロース含水結晶、高純度α,α−トレハロース無水結晶などを使用することも適宜採用できる。例えば、株式会社林原商事が販売している高純度α,α−トレハロース2含水結晶製品(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)を使用することも可能である。生鮮魚介類の浸漬処理に用いる水溶液中のα,α−トレハロース含有量は、低すぎると鮮度保持効果がなく、高すぎると、浸透圧が高くなりすぎてかえって鮮度を下げたり、魚肉に甘味が付いたりするので、通常、0.1乃至10w/w/%(以下、本明細書では特にことわらない限り、w/w%を単に%と略記する)の範囲、望ましくは、0.5乃至5%の範囲が好適である。 【0008】有機酸は、糖質の代謝、発酵の過程で生成される物質であり、広く食品添加物として利用されている。本発明に使用できる有機酸としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸などがあり、とりわけ、クエン酸、リンゴ酸が好適である。クエン酸は、糖蜜、澱粉分解物などの糖質を原料として、クエン酸生産能を持った微生物を用い、発酵させて作られる。食品には、主として、酸味料として使用されている。現在、含水結晶である食品添加物酸味料、クエン酸(結晶)および無水結晶であるクエン酸(無水)が市販されており、生鮮魚介類の鮮度保持剤の成分としては両者とも使用できる。リンゴ酸は、果汁中から抽出したり、麹菌を用いて、糖質を原料として発酵させて作られる。食品には、主として、酸味料、pH調整剤として使われるとともに、無塩醤油の材料としても使われ、現在、結晶粉末である食品添加物酸味料、DL‐リンゴ酸が市販されている。本発明の生鮮魚介類の鮮度保持剤の成分としての有機酸の含有量は、少なすぎると鮮度保持剤を溶解したときのpHが高くなりすぎ、かつ、鮮度保持効果がなくなり、多すぎるとpHが低くなりすぎることから、α,α−トレハロースに対して、無水物換算で、通常、0.5乃至20%の範囲、望ましくは、1乃至10%の範囲が好適である。 【0009】ポリフェノールは、フラボノイド類、タンニン、クロロゲン酸、没食子酸、エラグ酸、フェノール酸など、更には、植物色素であるアントシアニン、ルチン、ヘスペリジン、ナリンジンなどを含む一群の物質の総称であり、植物界には8000種を越える物質が存在するといわれている。本発明で用いるポリフェノールとしては、例えば、茶抽出物、シソ種子抽出物、ブドウ種子抽出物、ブドウ葉抽出物、大豆抽出物、リンゴ抽出物、ブルーベリー抽出物などのポリフェノール含有植物抽出物を例示することができる。また、ルチン、ヘスペリジン、ナリンジン、カテキン類などは、酵素処理を行うことで糖質を転移し、溶解性を高めた誘導体を好適に用いることができる。本発明の生鮮魚介類の鮮度保持剤の有効成分としてのポリフェノールの含有量は、少なすぎると鮮度保持の効果がなく、多すぎるとポリフェノール特有の味覚が発現して好ましくなく、更に、溶解しにくくなることから、α,α−トレハロースに対して、無水物換算で、通常、0.2乃至20%の範囲、望ましくは、1乃至10%の範囲が好適である。 【0010】生鮮魚介類とは、漁獲され、水揚げされた直後、又は水揚げ後数時間以内の、新鮮な未加工の魚介類のことをいう。 【0011】水溶液のpHは、4.0未満になると“酢”に漬けた場合と似た状態となり、変質、劣化は防止できるが、蛋白質が変性を受けて生鮮魚介類としての鮮度はなくなり、7.0以上になると変質、劣化を受け易く、保存性が悪くなる。よって、鮮度保持剤を溶解したときの水溶液のpHは、通常、pH4.0以上、7.0未満の範囲が好適である。 【0012】鮮度保持剤の形態が固状とは、市販されているα,α−トレハロース、有機酸及び/又はポリフェノールを粉末の状態で、一定の割合で配合し、均一に混合して製剤とした粉末状のものをいう。更に、各種の添加剤を加えた粉末状のもの、及び鮮度保持剤を含有する粉末を加工成形したものも含む。液状とは、上記のようにして調製した鮮度保持剤、又は添加剤を含む鮮度保持剤に少量の液体を加えてペースト状にしたもの、多量の液体を加えて完全に溶解したもの、又は鮮度保持剤の成分であるα,α−トレハロース、有機酸、ポリフェノールのいずれか/又は全てに液状品を使って調製した溶液状の製剤をいう。 【0013】鮮度保持用成形物とは、鮮度保持剤を二次加工して成形したものであり、例えば、鮮度保持剤を含有する水溶液を凍らせて氷の状態にしたものなどをいい、特に、これに限定されるものではない。 【0014】浸漬処理とは、鮮度保持剤を含有する水溶液、又は鮮度保持剤を含有する溶液を凍らせて調製した氷などの鮮度保持用成形物を入れた水溶液に、生鮮魚介類を完全に漬けるか、その一部を漬けることをいう。浸漬処理に使用する鮮度保持剤を含有する水溶液は、氷を用いて冷却しても、冷凍機を利用して冷却してもよく、冷却方法は特に限定しない。また、浸漬処理に使用する容器は、少量の生鮮魚介類を処理するには保温性のある小型の容器、例えば、発泡スチロール容器やクーラーボックスを使用すればよく、大量に処理する場合は専用のタンク、生鮮魚介類輸送用タンク、漁船の船底内の部屋などの大容量の容器を使用すればよい。鮮度保持剤を溶解するには、浸漬処理用の容器を使用しても、又は別の容器を用いてもよい。本発明を採用することにより、従来とは違って、魚介類を前もって切り身、すり身、むき身などに加工処理することなく、丸のままで、鮮度保持処理が出来る利点がある。 【0015】鮮度保持用成形物を含有する水溶液を調製するとき、当該鮮度保持用成形物の添加量が少なすぎると当該鮮度保持用成形物から溶解して溶け出す鮮度保持剤の量が少なくて所望の鮮度保持効果が得られず、逆に多すぎると鮮度保持剤の量が多くなりすぎてα,α−トレハロース、ポリフェノールなどを多く添加することとなり好ましくない。よって、添加量としては、通常、20%以上、75%未満の範囲、望ましくは、40%乃至60%の範囲が好適である。 【0016】塩化ナトリウム含有水溶液とは、塩化ナトリウムを、通常、0.1%乃至6%の範囲、望ましくは、2乃至4%の範囲が好適である。更には、天然の海水を利用することも好適である。 【0017】以下、実験により、本発明の生鮮魚介類の鮮度保持剤、及び当該鮮度保持剤を使用する鮮度保持方法を説明する。 【0018】 【実験1】〈アジの脂質過酸化物生成におよぼすα,α−トレハロース、有機酸、及びポリフェノールの影響〉アジの脂質過酸化物生成におよぼすα,α−トレハロース、有機酸、及びポリフェノールの影響を調べるために、表1に示した混合組成比で、市販のα,α−トレハロース2含水結晶製品(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)、クエン酸(結晶)(昭和化学工業株式会社製食品添加物酸味料)、及びポリフェノール(ブドウ種子から抽出したプロアントシアニジンを主成分とするポリフェノール、インデナ社製、商品名『ロイコシアニジン』)をそれぞれ計量し、発泡スチロール容器に入った海水2Lに加え、完全に溶解した。これに細かく砕いた市販の氷1kgを入れて冷却させた水溶液を調製し、実験に用いた。これらの水溶液に、生け簀から取り出した、活きたアジをそれぞれ2匹ずつ浸漬処理し、5時間後にアジを浸漬溶液から取り出し、5℃の冷蔵庫に保存した。翌日、アジの内臓を取り除いた後、更に冷蔵庫に保存し、3日間、経時的に魚肉をサンプリングし、魚肉中に生成する脂質過酸化物の含有量を測定し、脂質過酸化物生成の進行状況を調べた。脂質過酸化物生成量の経時変化を図1に示した。図中の凡例の数値は表1のテストNo.を、縦軸は脂質過酸化物の生成に伴って増加する吸光度値を表している。 【0019】魚肉中の脂質過酸化物の生成量の測定は、チオバルビツール酸(TBA)測定法を用い、以下の操作方法に従って行った。冷蔵庫で保存しているアジから経時的に魚肉5gを採取し、ミキサーを用いてミンチにした後、10mL容量のスクリューキャップ付き試験管に入れ、TBA溶液1.4mL、20%酢酸(pH3.5)700μLを加えて混合し、遮光して室温に5時間放置した。これに1−ブタノール:ピリジン=15:1(v/v)の混合溶液4mLを添加し、反応を停止させるとともに、赤色色素を抽出した。この試料液を遠心分離機を用いて、4,000rpmで10分間遠心分離し、上清を回収し、1cmのセルを用いて、溶液の532nmにおける吸光度(A532nm)を測定した。なお、TBA溶液は、8.1%ラウリル硫酸ナトリウム、0.8%チオバルビツール酸、0.8%ジブチルヒドロキシトルエン(酢酸溶液)から成る混合溶液である。 【0020】 【表1】
【0021】α,α−トレハロースに加えて、クエン酸およびポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.1)、α,α−トレハロースおよびクエン酸を含有する水溶液(テストNo.2)、又はα,α−トレハロースおよびポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.3)、クエン酸およびポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.4)で浸漬処理したアジは、いずれも、脂質過酸化物の生成抑制が見られた。とりわけ、α,α−トレハロースに加えて、クエン酸およびポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.1)で浸漬処理したアジは脂質過酸化物の生成抑制効果が大きく、クエン酸のみを含有する水溶液(テストNo.5)、又は何も含有しない水溶液(比較実験)(テストNo.6)で浸漬処理したアジに比べて、脂質過酸化物の生成量が、保存期間3日間を通じて、常に約半分に抑制された。一方、α,α−トレハロースおよびクエン酸(テストNo.2)、又はα,α−トレハロースおよびポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.3)で浸漬処理したアジは、1日目では脂質過酸化物の生成抑制効果が大きかった。しかし、2日目、3日目になると脂質過酸化物の生成抑制効果が小さくなった。クエン酸およびポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.4)で浸漬処理したアジは、それぞれトレハロースを含有するもの(テストNo.1乃至3)に比べ、脂質過酸化物の生成抑制効果は劣っていた。この結果から、α,α−トレハロースに加えて、クエン酸及び/又はポリフェノールを含有する水溶液に浸漬処理すると、長期にわたって生鮮魚介類の鮮度を保持できることが明らかとなった。 【0022】また、保存1日目でのアジ鰓の外観(鰓の色とヒダの形状)を観察した結果、浸漬する溶液の違いにより、大きな差が見られ、α,α−トレハロースに加えて、クエン酸およびポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.1)で浸漬処理したアジは、鰓の赤色が鮮明で、ヒダの形態もしっかりとしていた。α,α−トレハロースおよびクエン酸を含有する水溶液(テストNo.2)、又はα,α−トレハロースおよびポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.3)で浸漬処理したアジではほとんど差は見られず、α,α−トレハロースに加えて、クエン酸およびポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.1)で浸漬処理したアジよりも鰓はやや褐色に変色していたものの、鰓のヒダの形態はしっかりとしていた。クエン酸とポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.4)で浸漬処理したアジの鰓はやや褐色に変色し、鰓のヒダの形態は少し崩れ始めていた。クエン酸のみを含有する水溶液(テストNo.5)、又は何も含有しない水溶液(比較実験)(テストNo.6)で浸漬処理したアジの鰓は褐色に変色し、ヒダの形態も部分的に崩れていた。鰓の鮮度の観察結果は、TBA測定法で求めた脂質過酸化物の生成量が多いもの程鮮度が劣るという関係で、よく対応している。 【0023】 【実験2】〈イワシの鮮度保持におよぼすα,α−トレハロース、有機酸、及びポリフェノールの影響〉イワシの鮮度保持におよぼすα,α−トレハロース、有機酸、及びポリフェノールの影響を調べるために、表2に示した混合組成比で、市販のα,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)、クエン酸(結晶)(昭和化学工業株式会社製食品添加物酸味料)またはDL‐リンゴ酸(昭和化学工業株式会社製食品添加物酸味料)、及びポリフェノール(インデナ社製、商品名『ロイコシアニジン』)をそれぞれ計量し、発泡スチロール容器に入った海水または水道水1Lにそれぞれ加え、完全に溶解した。これに細かく砕いた市販の氷1kgを入れて冷却させた水溶液を調製し、実験に用いた。これらの水溶液に水揚げした直後の新鮮なイワシをそれぞれ1匹ずつ浸漬処理した。16時間後にイワシを浸漬溶液から取り出し、鰓および体表の鮮度を観察し、結果を表2に示した。イワシを取り出す時の浸漬溶液の温度はいずれも−2℃であった。 【0024】 【表2】
【0025】α,α−トレハロースに加えて、クエン酸またはリンゴ酸、及びポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.1乃至6、No.12、13、及びNo.16)、α,α−トレハロースおよびクエン酸(テストNo.9)、又はα,α−トレハロースおよびポリフェノール(テストNo.10)を含有する水溶液で浸漬処理したイワシの鰓は赤く、漁獲直後の新鮮さを留めており、特にポリフェノールの含有比率の高いものほど鮮明であった。クエン酸またはリンゴ酸、及びポリフェノールを含有する水溶液(テストNo.11および21)、又は何も含有しない水溶液(比較実験)(テストNo.22)で浸漬処理したイワシが最も鮮度低下を引起こし、鰓は白っぽく変色していた。一方、α,α−トレハロースに加えて、クエン酸またはリンゴ酸及び/又はポリフェノールを溶解する液に水道水を使用したもの(テストNo.5乃至8、及びNo.16乃至19)では、海水を使用したものに比べてイワシの鰓の変色がやや大きく、表面にぬめりが発生し、より大きい鮮度低下が認められた。 【0026】これらのことから、有機酸としては、クエン酸またはリンゴ酸のいずれを用いても生鮮魚介類の鮮度保持に有効ではあるが、両者を比較した場合、クエン酸の方がその効果はやや高い。また、有機酸の種類が変わっても、生鮮魚介類の浸漬処理に用いる鮮度保持剤の溶解液は、海水を使用する方が良好な結果が得られた。 【0027】実験1および実験2を通じて、α,α−トレハロースに加えて、有機酸としてクエン酸またはリンゴ酸及び/又はポリフェノールを一定の割合で混合した鮮度保持剤を含有する水溶液に浸漬処理することが、生鮮魚介類の鮮度保持に有効なことが明らかとなった。 【0028】 【実験3】〈アジの鮮度保持におよぼす鮮度保持剤の形態の違いによる影響〉アジの鮮度保持におよぼす鮮度保持剤の形態の違いによる影響を調べるため、鮮度保持用成形物および固状の鮮度保持剤を用いて試験を行った。鮮度保持用成形物である鮮度保持剤を含有する氷は、市販のα,α−トレハロース(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)、クエン酸(結晶)(昭和化学工業株式会社製食品添加物酸味料)、及びポリフェノール(インデナ社製、商品名『ロイコシアニジン』)を含有する鮮度保持剤(α,α−トレハロース:クエン酸:ポリフェノールを無水物換算重量で50:1:1の割合で混合し、調製した固状のもの)100gを10Lの真水に溶解し、製氷機を用いて凍らせて調製した。 【0029】上記の鮮度保持用成形物である氷3.2kgを、細かく砕き、発泡スチロール容器に入った海水5Lに入れて水溶液を調製し、テストNo.1に使用した。また、発泡スチロール容器に入った海水5Lに、上記記載の固状の鮮度保持剤を25g加え、完全に溶解した後、細かく砕いた市販の氷3.2kgを入れて水溶液を調製し、テストNo.2に使用した。発泡スチロール容器に入った海水5Lに細かく砕いた市販の氷3.2kgを入れた水溶液を調製し、テストNo.3(比較実験)に使用した。 【0030】これらの水溶液に、生け簀から取り出したアジをそれぞれ5匹ずつ浸漬処理した。8時間後にアジを浸漬溶液から取り出し、冷蔵庫で更に2日間放置した。アジを取り出す時の浸漬溶液の温度はいずれも−2℃であった。これを3枚におろして、半身それぞれを、「刺身」または「塩焼き」に料理し、5人により、外観、食感、臭いについて官能評価を行った。評価結果を表3に示した。 【0031】評価は(a)外観(b)食感(c)臭いの3項目について実施した。パネラー5人で、刺身および塩焼きを食して、3段階で評価した。評価基準は、(a)外観について:光沢がある、変色が全く見られない、ドリップがない、肉質にしまり感がある、(b)食感について:弾力がある、歯ごたえがある、舌触りが良い(c)臭いについて:異臭が感じられない、臭気が少ないなどにより、良好と感じたら3点、(a)外観について:光沢がない、変色が見られる、ドリップがある、肉質にしまり感がない、(b)食感について:弾力がない、歯ごたえがない、舌触りが悪い、(c)臭いについて:生臭く感じる、異臭がする、臭気が強いなどで劣ると感じたら1点とし、普通と感じた場合は2点とした。パネルテストを実施して得られた各項目について、5名の評価点の合計を求めて、最終評価値とした。 【0032】 【表3】
【0033】鮮度保持用成形物を含有する水溶液(テストNo.1)、又は固状の鮮度保持剤を溶解した水溶液(テストNo.2)に浸漬処理したアジの刺身は、使用した鮮度保持剤の形態の違いにかかわらず、外観、食感、臭いともに、鮮度保持剤を含有しない水溶液(比較実験)(テストNo.3)で浸漬処理したものに比べ、新鮮な魚の特長を有しており、鮮度保持剤の効果が認められた。更に、塩焼きにした場合も、刺身の場合と同様に、鮮度保持用固形物を含有する水溶液、又は固状の鮮度保持剤を溶解した水溶液(テストNo.1,2)を用いて浸漬処理したアジの方が、鮮度保持剤を含有しない水溶液(比較実験)(テストNo.3)で浸漬処理したものに比べ、身が引き締まって歯ごたえがあり、より好ましい食感を保持していた。この結果より、鮮度保持剤の形態の違いにかかわらず、鮮度保持剤の効果が認められた。 【0034】以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例Aは鮮度保持剤または鮮度保持用成形物の調製方法を、実施例Bは鮮度保持剤または鮮度保持用成形物を用いた鮮度保持方法の例を記した。 【0035】 【実施例A−1】〈鮮度保持剤〉無水物として、市販のα,α−トレハロース2含水結晶(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)50重量部、クエン酸(結晶)(昭和化学工業株式会社製食品添加物酸味料)1重量部、ポリフェノール(インデナ社製、商品名『ロイコシアニジン』)3重量部を均一に混合し、粉末製品を得た。本品を溶解した水溶液に生鮮魚介類を浸漬処理することで、鮮度保持剤として有利に利用できる。 【0036】 【実施例A−2】〈鮮度保持剤〉無水物として、市販のα,α−トレハロース2含水結晶(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)50重量部、クエン酸(無水)(昭和化学工業株式会社製食品添加物酸味料)2重量部、ポリフェノール(インデナ社製、商品名『ロイコシアニジン』)1重量部を均一に混合し、粉末製品を得た。本品を溶解した水溶液に生鮮魚介類を浸漬処理することで、鮮度保持剤として有利に利用できる。 【0037】 【実施例A−3】〈鮮度保持剤〉無水物として、市販のα,α−トレハロース2含水結晶(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)100重量部、DL‐リンゴ酸(昭和化学工業株式会社製食品添加物酸味料)5重量部、茶葉から抽出したポリフェノール(三井農林株式会社販売、商品名『ポリフェノン』)3重量部を均一に混合し、粉末製品を得た。本品を溶解した水溶液に生鮮魚介類を浸漬処理することで、鮮度保持剤として有利に利用できる。 【0038】 【実施例A−4】〈鮮度保持剤〉市販のα,α−トレハロース2含水結晶(株式会社林原商事販売、登録商標『トレハ』)100重量部、クエン酸(結晶)(昭和化学工業株式会社製食品添加物酸味料)10重量部、酵素処理ルチン(株式会社林原商事販売、登録商標『αGルチン』)1重量部を均一に混合し、粉末製品を得た。本品を溶解した水溶液に生鮮魚介類を浸漬処理することで、鮮度保持剤として有利に利用できる。 【0039】 【実施例A−5】〈鮮度保持剤〉実施例A−2で調製した鮮度保持剤100重量部に対して、150重量部の水を加えて溶解し、液状の鮮度保持剤を得た。本品を希釈した水溶液に生鮮魚介類を浸漬処理することで、鮮度保持剤として有利に利用できる。 【0040】 【実施例A−6】〈鮮度保持用成形物〉実施例A−1で調製した鮮度保持剤を水1Lに対して20g溶解した。実施例A−3で調製した鮮度保持剤を水1Lに対して30g溶解した。実施例A−4で調製した鮮度保持剤を水1Lに対して50g溶解した。それぞれの水溶液は、製氷器を用いて凍らせ、鮮度保持用成形物である鮮度保持剤を含有する氷を得た。この鮮度保持用成形物を含有する水溶液に生鮮魚介類を浸漬処理することで、鮮度保持剤として有利に利用できる。 【0041】 【実施例B−1】〈鮮度保持方法〉実施例A−1の方法で得た鮮度保持剤400gを、35L容の発砲スチロール容器に入れた海水10Lに完全に溶解し、更に、細かく砕いた市販の氷を5kg入れて冷却した。この水溶液に、漁港で水揚げした直後のアジ5kgを購入し、浸漬処理したのち家に持ち帰った。7時間後に家に着き、アジを浸漬溶液から取り出し、鰓および体表を観察したが、水揚げ直後とほとんど変わらない外観を保っていた。これをラップにくるんで、冷凍庫に入れて7日間放置した。解凍して魚体を観察したが、体表には全く変化が起きず、新鮮な状態を保っていた。 【0042】 【実施例B−2】〈鮮度保持方法〉実施例A−2の方法で得た鮮度保持剤150g、及び市販の氷6kgを25L容のクーラーボックスに入れて、船釣りに出かけた。釣りを始める前に、氷を取り出し、クーラーボックスに海水を10L入れ、持ってきた鮮度保持剤を完全に溶解した。次いで、氷を細かく砕いて入れて冷却した。アジ、小サバ、ママカリ、カワハギなどの釣れた魚を順次クーラーボックスに入れ、浸漬処理した。釣りを終え、家に持ち帰り、魚の状態を観察した。各魚種の鰓や体表の色は鮮明であり、釣れた直後の新鮮さを保っていた。 【0043】 【実施例B−3】〈鮮度保持方法〉実施例A−4の方法で得た鮮度保持剤10g、食塩を60g、20L容のクーラーボックスに入れた小川の水2Lに完全に溶解し、更に、細かく砕いた市販の氷を2kg入れて冷却した。この水溶液に、養魚場で山女を10匹購入し、浸漬処理した。6時間後に家に持ち帰り山女を浸漬溶液から取り出し、状態を観察したが外観上の変化は全く認められなかった。 【0044】 【実施例B−4】〈鮮度保持方法〉実施例A−5の方法で得た液状の鮮度保持剤500gを、35L容の発砲スチロール容器に入れた海水10Lに加えて希釈し、更に、細かく砕いた市販の氷を10kg入れて冷却した。この水溶液に、漁港で水揚げした直後のイワシ10kgを購入し、浸漬処理した。5時間後に浸漬溶液から取り出し、更に、冷蔵庫で1日放置した。イワシの鰓および体表を観察したが、購入直後とほとんど変わらない外観を保っており、新鮮な状態を保っていた。 【0045】 【実施例B−5】〈鮮度保持方法〉実施例A−6の方法で得た各種の鮮度保持用成形物6kgを細かく砕き、50L容の発砲スチロール容器に入れた海水10Lに、それぞれ入れた。この水溶液に、養殖場で購入したハマチをそれぞれ1匹ずつ浸漬処理した。8時間後に浸漬溶液から取り出し、ハマチの鰓および体表を観察したが、いずれの鮮度保持用成形物を用いて浸漬処理したものも全く変わらず、新鮮な状態を保っていた。更に、保存用の水溶液を除いた発砲スチロール容器に入れ、冷蔵室で2日間静置したが、いずれのハマチも、外観の変化は起こらず、新鮮な状態を長く保てた。 【0046】 【実施例B−6】〈鮮度保持方法〉実施例A−1の方法で得た鮮度保持剤3gを、20L容のクーラーボックスに入った海水3Lに完全に溶解し、更に、細かく砕いた市販の氷を1kg入れて冷却した。この水溶液に、海岸で採取したアサリを入れた。8時間後に家に持ち帰り、アサリの様子を観察したが、足及び水管を延ばし、活発に呼吸していた。アサリを浸漬溶液から取りだし、冷蔵庫に入れ3日間静置し、貝の状態を観察したが、鮮度保持剤で浸漬処理した貝は死亡後のドリップ発生、変色、異臭の発生がほとんど見られなかった。 【0047】 【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、生鮮魚介類を、α,α−トレハロースに加えて、食品衛生上無害である変質抑制作用を有するクエン酸、リンゴ酸及び/又はポリフェノールを用いて調製された鮮度保持剤を含む水溶液に浸漬処理することで、これまでは冷蔵、氷蔵しても急速な鮮度の低下を生じていたのを防止し、非常に簡単に、鮮度を保って保存することが可能となった。 【0048】従って、本発明の確立は、新規な生鮮魚介類の鮮度保持のための製剤を提供し、この方法を利用して生鮮魚介類の鮮度保持を簡単に行えることから、水産漁業およびその流通関係に携わる業者などに止まらず、釣り愛好家に与える意義も極めて大きい。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000155908 【氏名又は名称】株式会社林原生物化学研究所 【識別番号】390003609 【氏名又は名称】株式会社クニムネ
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| 【出願日】 |
平成14年2月1日(2002.2.1) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100108486 【弁理士】 【氏名又は名称】須磨 光夫
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| 【公開番号】 |
特開2003−225047(P2003−225047A) |
| 【公開日】 |
平成15年8月12日(2003.8.12) |
| 【出願番号】 |
特願2002−26058(P2002−26058) |
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