| 【発明の名称】 |
相変化物質製造方法および相変化物質ならびにこれを用いた保存・輸送技術 |
| 【発明者】 |
【氏名】ダニエル イー.グルーエンバーグ
【氏名】山下 利夫
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| 【要約】 |
【課題】水産物をより長い時間鮮度維持して、安全かつ経済的に保存および輸送することのできる、新しい保存・輸送技術を提供する。
【解決手段】水産物の保存最適温度にて相変化する相変化物質を製造する方法であって、単純イオン構成の溶質を溶媒水に混合する。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 水産物の保存最適温度にて相変化する相変化物質を製造する方法であって、単純イオン構成の溶質を溶媒水に混合することを特徴とする相変化物質製造方法。 【請求項2】 溶質の陽イオンは一つの陽電荷である請求項1記載の相変化物質製造方法。 【請求項3】 陽電荷はNa+,K+,Li+,Ca+2,Mg+2のいずれかである請求項2記載の相変化物質製造方法。 【請求項4】 溶質の陰イオンはF-,Cl-,CO3-,SO3-のいずれかである請求項1ないし3のいずれかに記載の相変化物質製造方法。 【請求項5】 混合する溶質の重量モル濃度を、m=1.86(a)/(f)Tm:重量モル濃度a:イオンの原子価f:修正要素T:相変化温度により求める請求項1ないし4のいずれかに記載の相変化物質製造方法。 【請求項6】 氷結点降下を基に陽イオンと陰イオンの組合せを決めた後、所望の相変化温度Tを実現するように重量モル濃度mおよび修正要素fをお互いに調整しながら決定する請求項5記載の相変化物質製造方法。 【請求項7】 溶質が重量モル濃度mにおいて溶解性があるかを確かめる請求項6記載の相変化物質製造方法。 【請求項8】 溶媒水としてゲル水を用いる請求項1ないし7のいずれかに記載の相変化物質製造方法。 【請求項9】 請求項1ないし8のいずれかに記載の相変化物質製造方法により製造される、水産物の保存最適温度にて相変化することを特徴とする相変化物質。 【請求項10】 ゲル状である請求項9記載の相変化物質。 【請求項11】 請求項9または10記載の相変化物質が入れられていることを特徴とする温度維持パック。 【請求項12】 水産物の保存または輸送のためのコンテナーであって、請求項11記載の温度維持パックがコンテナー内に備えられていることを特徴とする保存・輸送コンテナー。 【請求項13】 水産物の保存または輸送のためのコンテナーに用いられる真空断熱体であって、ステンレス製の一対の板状体もしくはシート状体間に真空部が設けられていることを特徴とする真空断熱体。 【請求項14】 水産物の保存または輸送のためのコンテナーであって、請求項13記載の真空断熱体が備えられている、またはそれとともに請求項11記載の温度維持パックが備えられていることを特徴とする保存・輸送コンテナー。 【請求項15】 水産物の保存または輸送のためのコンテナー内の温度を調整するシステムであって、コンテナーに配設される冷却剤配管と、コンテナー内の温度を検出する温度センサーと、コンテナー内の温度を保存最適温度に維持するために必要な冷却剤の流量を制御する冷却剤流量制御手段とを有していることを特徴とする温度調整システム。 【請求項16】 水産物の保存または輸送のためのコンテナーであって、請求項15記載の温度調整システムが備えられていることを特徴とする保存・輸送コンテナー。 【請求項17】 請求項12、14、16のいずれかに記載の保存・輸送コンテナーにて水産物である魚を保存または輸送する方法であって、魚を加工状態にすることを特徴とする保存・輸送方法。 【請求項18】 魚の水分蒸発を抑える処理を施す請求項17記載の保存・輸送方法。 【請求項19】 魚の表面に抗菌活性化合物を吹き付ける請求項17または18記載の保存・輸送方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】この出願の発明は、水産物の低温保存および低温輸送に有用な相変化物質製造方法および相変化物質、ならびにこれを用いた各種保存・輸送技術に関するものである。 【0002】 【従来の技術とその課題】海洋、河川、湖沼などから漁獲される魚貝類や海藻類などの水産物にとって、新鮮さは消費者から最もシビアに要求される一つのパラメータであり、このことは生で消費される食品において特に顕著である。 【0003】従来、漁獲地と販売・消費地との間における新鮮さを保つために、rapid deepfreezingやmodified atmosphere storageなど、様々な技術が開発され、実現されている。しかしながら、冷凍を要するいかなる従来技術も、細胞膜へのダメージが不可避であり、品質と風味の低下という付随の結果を招く。 【0004】また、完全冷凍を要しないチルド保存技術も開発されており、これによれば、冷凍保存による上記問題は回避できるが、代謝過程、微生物活動、乾燥などにより、通常は貯蔵期間が数日程度に制限されてしまう。 【0005】一方で、冷凍やチルド等の保存処理を行わずに、生きたままの水産物を輸送することもしばしば行われている。しかしながら、この場合では、水産物を海水等に入れて運ぶ必要があり、そのための大型水槽を搭載した専用トラックが必須で、しかも目的地までに100%が生き残ることは稀であり、効率があまり良くないという問題がある。 【0006】したがって、安全かつ経済的に水産物を保存し輸送する技術の実現が切望されているのである。ところで、水産物を保存する場合の最適温度は、水産物の種類等によって異なるが、0℃から−5℃程度であると知られている。「氷温貯蔵の科学−食味・品質向上の革新技術−」(山根昭美著、社団法人農山漁村文化協会発行、1997年2月5日第3版)によれば、氷結点(freezing point:凝固点とも呼ばれる)よりほんの少し上の温度が適温であるとも説明されている。なお、氷結点は、イオン構成やosmologic構成等に起因する氷結点降下(freezing point depression)によって0℃未満となる。実験室の条件下においては、この最適温度が新鮮さの延命、風味の向上、そして微生物活動・成長の減少をもたらすことが明らかにされてきた。 【0007】しかしながら、このような研究成果は実際の流通における実用化がなされていないのが現状である。それというのも、上記最適温度を長時間維持することができる技術が存在しないのである。たとえば、海水氷を用いる動きが若干あるが、この方法では、海水の複雑な混合のために、最適温度を長時間安定して維持できない。 【0008】そこで、この出願の発明は、以上の事情に鑑み、従来技術の問題点を解消し、最適温度を長時間安定して維持でき、当該最適温度にて水産物を安全かつ経済的に保存し輸送することのできる、新しい相変化物質製造方法および相変化物質ならびにこれを用いた保存・輸送技術を提供することを課題としている。 【0009】 【課題を解決するための手段】この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、水産物の保存最適温度にて相変化する相変化物質を製造する方法であって、単純イオン構成の溶質を溶媒水に混合することを特徴とする相変化物質製造方法(請求項1)を提供し、この製造方法において、溶質の陽イオンが一つの陽電荷であること(請求項2)、陽電荷がNa+,K+,Li+,Ca+2,Mg+2のいずれかであること(請求項3)、溶質の陰イオンがF-,Cl-,CO3-,SO3-のいずれかであること(請求項4)、混合する溶質の重量モル濃度を、m=1.86(a)/(f)Tにより求めること(請求項5)、氷結点降下を基に陽イオンと陰イオンの組合せを決めた後、所望の相変化温度Tを実現するように重量モル濃度mおよび修正要素fをお互いに調整しながら決定すること(請求項6)、溶質が重量モル濃度mにおいて溶解性があるかを確かめること(請求項7)、溶媒水としてゲル水を用いること(請求項8)をも提供する。 【0010】また、この出願の発明は、上記相変化物質製造方法により製造される、水産物の保存最適温度にて相変化することを特徴とする相変化物質(請求項9)をも提供し、この相変化物質がゲル状であること(請求項10)をも提供する。 【0011】さらにまた、この出願の発明は、上記相変化物質が入れられていることを特徴とする温度維持パック(請求項11)や、水産物の保存または輸送のためのコンテナーであって、上記温度維持パックがコンテナー内に備えられていることを特徴とする保存・輸送コンテナー(請求項12)や、水産物の保存または輸送のためのコンテナーに用いられる真空断熱体であって、ステンレス製の一対の板状体もしくはシート状体間に真空部が設けられていることを特徴とする真空断熱体(請求項13)や、水産物の保存または輸送のためのコンテナーであって、上記真空断熱体が備えられている、またはそれとともに上記温度維持パックが備えられていることを特徴とする保存・輸送コンテナー(請求項14)や、水産物の保存または輸送のためのコンテナー内の温度を調整するシステムであって、コンテナーに配設される冷却剤配管と、コンテナー内の温度を検出する温度センサーと、コンテナー内の温度を保存最適温度に維持するために必要な冷却剤の流量を制御する冷却剤流量制御手段とを有していることを特徴とする温度調整システム(請求項15)や、水産物の保存または輸送のためのコンテナーであって、上記温度調整システムが備えられていることを特徴とする保存・輸送コンテナー(請求項16)をも提供する。 【0012】さらにまた、この出願の発明は、上記保存・輸送コンテナーにて水産物である魚を保存または輸送する方法であって、魚を加工状態にすることを特徴とする保存・輸送方法(請求項17)を提供し、この方法において、魚の水分蒸発を抑える処理を施すこと(請求項18)、魚の表面に抗菌活性化合物を吹き付けること(請求項19)をも提供する。 【0013】 【発明の実施の形態】この出願の発明は、上記のとおり、前述の保存最適温度、つまり0℃未満に下げられた氷結点よりほんの少し上の温度(0℃から−5℃程度)を容易に長時間安定して維持することのできる相変化物質、保存最適温度での容易な保存および輸送を実現することのできる冷却/断熱技術、さらに、氷結点降下を減少させることのできる水産物に対する特殊加工方法に関連している。 【0014】[1.相変化物質]安定した保存最適温度は、たとえ実験室の条件下においても維持することが難しい。多くの実験用孵化器は+/−1℃にて履歴現象を報告するようになっており、+/−0.1℃から0.01℃の間での細かな温度制御が困難なためである。もちろん、コンマ数度・コンマ零数度というオーダーでの温度制御が可能な高価で複雑な設備もあるが、スペースや資金に富む研究・実験レベルならまだしも、実際の保存・輸送現場における実用レベルには全く達し得ない。 【0015】そこで、この出願の発明の発明者等は、自らの取り組みを、各水産物特有の保存最適温度にてその温度をほぼ一定に保ったまま相変化を行う物質、つまり保存最適温度にて等温相変化(isothermal phase-change)性を持つ物質の設計と製造に集中させ、従来にはない全く新しい相変化物質を実現したのである。 【0016】まず、氷結点降下は溶質のモル数に比例し、理論上、溶媒水1kg当たり溶質各1モルにおいて、氷結点は1.86℃降下する。しかしながら、実際的に有用な相変化物質の設計は困難である。この困難にはいくつかの要因があげられる。 【0017】第一に、蔗糖のような非イオン混合物や、アミノ酸のような弱イオン群を含むいくつかの合成物などは等温相変化性がない。これは水晶浄化(crystal purification)によるものであると考えられている。水晶浄化とは、水素結合を通じて起こる低エネルギー水晶体内の水分子整列であり、それにより、高重量モル濃度溶質の局所的な島(local islands)および比較的純粋な氷水を組織全体にわたって残す。その結果、等温相変化とは対照的に、固体・液体間の状態変化によって潜熱が吸収され、温度が徐々に変化してしまう。 【0018】第二に、多種多様なイオン対生成の相互作用によって、海水などの複雑なイオン混合物も安定した相変化温度がない。イオン対生成は陰と陽のイオンが互いに接近するとき起こり、その間、二つの微粒子は氷結点降下の計算に対してひとつであるようにふるまう。 【0019】第三に、単純なイオン混合物は安定した相変化温度を生み出すことが解かっているが、保存最適温度では、食品安全性、あるいはイオン対生成および溶解性の問題があり、この単純イオン混合物の実用は制限される。水産物の保存・輸送用の相変化物質として選ばれる素材には、食物性成分のみが使われるべきであることは当然である。 【0020】したがって、溶媒水に混合する溶質の選択は以下のように演繹される。 <I>溶質は単純イオン構成でなければならない。単純イオン構成とは、二種類のタイプ(陽イオンA+/陰イオンB-)のみへ溶解することを意味する。 <II>高い電荷は高濃縮にてイオン対生成効果を悪化させるので、陽イオンはひとつの陽電荷であるべきである。 <III>陽電荷としては、たとえばNa+,K+,Li+が選択できる。特定の状況下ではCa+2,Mg+2なども使える。もちろんこれらに限定はされない。 <IV>陰イオンとしては、たとえばF-,Cl-,CO3-,SO3-が選択できる。もちろんこれらに限定はされない。 <V>混合する溶質の重量モル濃度は以下の式によって導かれる。 【0021】m=1.86(a)/(f)Tm:重量モル濃度a:イオンの原子価f:イオン対生成などに対する修正要素T:所望の相変化温度<VI>修正要素fは、正確な数値を首尾よく予測するに足りる理論的な計算が存在しないので、実験に基づいて決定されなければならない。fがより1に近づくほど、相変化物質を製造するために加えられる溶質はより少なくて済む。一般的に一原子価のイオンは二原子価あるいは高電荷のイオンよりも高いf値をもたらすと言われているが、これは大雑把な指針にすぎない。したがって、実際の氷結点降下を基にいったん所望する陽/陰イオンの組合せを決め、その組合せにおいて、所望の相変化温度Tを実現するように重量モル濃度mおよび修正要素fをお互いに調整しながら実験的に決めるようにする。一度それらの数値が決まれば、対象とした水産物に対する相変化物質を製造する際の溶質は、決めた数値をもって選択、混合すればよい。 <VII>なお、溶質が決定された重量モル濃度mにおいて十分な溶解性を有するかを確かめる必要はもちろんある。 【0022】この出願の発明の相変化物質製造方法によれば、以上<I>〜<VII>に基づいて溶質を選択し、溶媒水と混合させることにより、各種水産物毎に、その保存最適温度にて相変化する相変化物質を容易に製造することができるのである。 【0023】[2.保存・輸送形態]以上により製造された相変化物質は、実際の水産物の保存および輸送に際しては、ゲル状にして用いることが一つの好ましい実施形態である。ゲル状の相変化物質は、たとえば溶媒水としてゲル水を用いることで実現できる。 【0024】そして、たとえば、このゲル状相変化物質をプラスチックフィルム製等の何らかの容器に入れて温度維持パックとし、水産物の保存または輸送のためのコンテナーに取り付けることで、コンテナー内の温度変化を効果的に抑制して、水産物を保存最適温度に長時間安定して、且つ容易に維持できるようになる。 【0025】図1はコンテナーへの取付けの一例を示したものであり、コンテナー(10)の内壁ほぼ全面に沿って温度維持パック(1)を取り付けている。この他にも、たとえば、水産物自体を柔軟形状の温度維持パック(1)により覆ったり、温度維持パック(1)により構成された容器内に水産物を入れ、それをコンテナー(10)内に置いたりしてもよい。 【0026】[3.真空断熱体]ところで、この出願の発明は、コンテナー内外の熱移動を効果的に抑制することのできるコンテナー用の断熱体をも提供する。 【0027】この断熱体は、たとえば図1に例示したように、ステンレス製の、好ましくは磨いたステンレス製の一対の板状体(21)もしくはシート状体間に真空部(22)を設けたものである。これを真空断熱体(2)と呼ぶこととする。 【0028】より具体的には、たとえば、一対の板状体(21)もしくはシート状体間に複数の中空ガラスビーズなどの空間維持手段(23)を一様に配設して空間を形成し、縁周部を溶接などして密閉した後、その空間内の空気を真空ポンプ等で吸い出す。このようにして作られた真空断熱体(2)は、表面積単位当たりの熱移動が極めて低くなっている。 【0029】したがって、この真空断熱体(2)をコンテナー(10)の壁面(外壁もしくは内壁またはその両方)に取り付けることで、コンテナー(10)内の温度をより長く安定して維持できるようになる。 【0030】そして、この真空断熱体(2)とともに、上述したようにコンテナー(10)内に温度維持パック(1)を設けることで、保存最適温度の維持をより効果的に実現することができる。この場合では、たとえば、コンテナー(10)の外壁に真空断熱体(2)を、内壁に温度維持パック(1)を取り付ければよい。 【0031】[4.温度調整システム]この出願の発明はさらに、冷却剤を利用した温度調整システムをも提供する。この温度調整システム(3)は、たとえば図2に例示したように、コンテナー(10)に配設される冷却剤配管(31)と、コンテナー(10)内の温度を検出する温度センサー(図示していない)と、コンテナー(10)内の温度を保存最適温度に維持するために必要な冷却剤の流量を制御する冷却剤流量制御手段(図示していない)とを有している。 【0032】冷却剤配管(31)は、たとえば、銅製のものを用い、コンテナー(10)の適当な個所(たとえば底部や壁部や天井部)に適当な間隔で配設する。図2の例では、コンテナー(10)の天井部に配設されている。また、その一端は冷却剤が封入されている冷却剤容器(32)に接続し、他端はコンテナー(10)の外に開放する。冷却剤としては、たとえば、液体窒素や高圧二酸化炭素(液体・気体状態を問わない)などを用いることができる。 【0033】温度センサーとしては、たとえば、コンテナー(10)内の小さな温度変化を的確に検出することのできる、具体的には好ましくは温度分解度が0.1℃、より好ましくは0.05℃、さらに好ましくは0.01℃、最も好ましくは0.001℃もしくはそれ以下であるものを用いる。 【0034】冷却剤流量制御手段としては、たとえば、温度センサーにより検出されたコンテナー(10)内の温度変化に従って、コンテナー(10)内を保存最適温度に維持するために必要な冷却剤の流量を制御可能なアナログもしくはデジタルの制御装置、たとえばコンピュータ等、を用いる。この場合より具体的には、コンテナー(10)内からは窒素の蒸発量と冷却剤配管(31)の熱交換効率との積で与えられる熱量が吸収されることとなるので、保存最適温度の維持に必要な熱吸収を行う冷却剤の流量を算出する。そして、算出された適量の冷却剤を、冷却剤配管(31)と冷却剤容器(32)との間に設けられた開閉弁(図示していない)を自動制御することで、冷却剤容器(32)から冷却剤配管(31)へ流す。 【0035】このような温度調整システム(3)をコンテナー(10)に組み込むことで、コンテナー(10)内の微妙な温度変化に的確に対応して、保存最適温度をより正確に維持できるようになる。 【0036】もちろん、上述した温度維持パック(1)や真空断熱体(2)と併せてコンテナー(10)に取り付けてもよいことは言うまでもない。図2の例は、温度調整システム(3)および真空断熱体(2)を用いた場合のものであるが、温度維持パック(1)を図1の例と同様にコンテナー(10)内に取り付けることもできる。 【0037】[5.魚の加工状態]ところで、この出願の発明の発明者等は、魚を保存、輸送する場合では、拮抗筋が相互運動できないように加工した状態とすることで、何も加工していない丸ごと状態の場合よりも鮮度をより長く維持できることをも見出した。この加工状態にするとATP(アデノシン三リン酸)レベルをより長く維持できるのである。これは、■筋小胞体にかかるテンションが減少することで、細胞膜の透過性・浸透性が低下するとともに細胞内のカルシウム濃度が高く維持されて、ATP分解速度が低下すること、および、■細胞内の重量モル浸透圧濃度(osmolarity:重量オスモル濃度とも呼ばれる)が高く維持されて、collagative 氷結点降下が低くなり、上記保存最適温度を維持し易いこと、に起因すると考えられる。 【0038】したがって、上述した温度維持パック(1)や真空断熱体(2)や温度調整システム(3)を備えたコンテナー(10)で保存および輸送する際には、魚を加工状態にすることが好ましい。 【0039】なお、拮抗筋が相互運動できない加工状態としては、たとえば、少なくとも背骨を取り除いた状態や、内蔵をも取り除いた状態、切り身とした状態、鮨・刺身用にさらに切り分けた状態などがある。また、加工度が高いほどより好ましい。 【0040】[6.水分維持処理]また、切り身等の加工状態では露出した組織の含水量が蒸発により低下するので、水分の蒸発を抑える処理を施すことがより好ましい。たとえば、真空パック、濡れ紙、濡れ新聞紙、不透過性のプラスチックポリマーシートなどによって加工状態の魚を覆うことで、水分の蒸発を抑えることができる。 【0041】[7.抗菌活性化合物]さらにまた、低温保存の前に、加工状態の魚の表面に抗菌活性化合物を吹き付けることも好ましい。もちろんこの抗菌活性化合物は人体摂取が安全なもの、たとえばみかん抽出物や昆布抽出物など、とする。 【0042】 【実施例】[実施例1]ここでは、実際に魚を対象として相変化物質を製造した一例について説明する。用いた魚は養殖の真鯛(Pagrus major)である。 【0043】<ステップ1>氷結点の決定まず、養殖真鯛を、■何も加工していない丸ごと状態、■H&G状態、■皮付きの切り身状態、■皮なしの切り身状態とし、それぞれの場合の氷結点を求める。 【0044】具体的には、各状態のものを3匹ずつ用意し、3匹の結果を平均した。各温度は分解能1mK(ミリケルビン)のサーミスターを用いて計測し、また水の三重点(triple point of water )方式のカリブレーション装置を用いて手動で校正を行った。装置の反復誤差は0.0001℃以内である。表1は、このようにして得られた氷結点を示したものである。 【0045】 【表1】
【0046】この表1から明らかなように、切り身状態■■とすることで氷結点は著しく低下している。 <ステップ2>相変化物質の生成保存最適温度は、氷結点よりほんの少し上の温度、つまり冷凍させずに維持することが可能な最低限の温度であるべきである。この温度が水産物の氷結点付近に維持されればされるほど、安定した温度が長時間保たれ、より長い間新鮮さを維持することできる。 【0047】そこで、本実施例では、上記のとおりに求められた皮なし切り身状態■の氷結点−3.25℃に標準偏差+0.08℃を加え、−3.17℃を保存最適温度と設定した。 【0048】次いで、この保存最適温度を目指し、前述の<I>〜<VII>に基づいて、純水1リットル当たり89.3gのNa2SO3を使用することを決定し、この純水およびNa2SO3の混合物を注意深く混ぜて相変化物質を作り、それを2つの500ml容量の熱封じ可能な袋に封入して−10℃に冷凍した。これが温度維持パックである。なお、本実施例では、封入袋に穴があいてしまった際の漏洩防止を図るために、混合物に対して1リットル当たり3gの膠化媒介を加えている。 【0049】他方、生きた約1kgの真鯛は殺して二枚の切り身に加工し、それぞれ別々に、真空密閉できるポリマー製の袋に密封する。つまり切り身の真空パックである。 【0050】内壁15mmと厚く、幅350mm×奥行き250mm×高さ120mmの発泡スチロール製の箱の中に上記温度維持パックの一つを置き、その上に新聞紙、切り身真空パック、新聞紙、さらに上記温度維持パックのもう一つを順に積み重ねて、蓋をする。新聞紙は、切り身の局部冷凍を避けるために上下の温度維持パックとの間に敷いている。二つの切り身真空パックは、下側の新聞紙上に並べて置いている。 【0051】そして、この発泡スチロール箱を4.5+/−0.05℃に調整された孵化器の中に約48時間配置し、温度変化を監視した。温度変化の監視は、発泡スチロール内の二つの真空パックの間にサーミスターの温度短針を置いて、校正済みのコンピュータシステムにより行なった。 【0052】温度は、保存開始時は10℃を示し、10時間後には保存最適温度−3.17℃に近い−3.15℃に落ち着き、48時間後まで安定したままであった。したがって、保存最適温度が長時間安定して維持されていることがわかる。 【0053】以上の条件下で48時間保存した真鯛の切り身を、氷水で同時間保存した切り身と、生き締めされた直後の切り身と比較したところ、下記表2のように、他のいずれよりも風味が著しく優れており、においも硬さも遜色なく、鮮度を維持することができた。 【0054】したがって、この出願の発明によれば、真鯛の保存最適温度を長時間安定して維持でき、真鯛をより長い時間鮮度維持して保存および輸送することができるのである。 【0055】 【表2】
【0056】[実施例2]この出願の発明の発明者等は、様々な水産物の保存最適温度に関する幅広い研究を行う中で、あらゆる魚類について、内臓を取り除いたり、背骨をそれ以外の筋組織から取り除いたりしたときに、氷結点降下温度が顕著に低下するという全く新しい発見をした。 【0057】たとえば、脊椎動物については、脳髄に近い神経を切断し、背骨を取り除く加工によって、氷結点降下温度が低下する。一例として、学名Pagrus major,Seriola sp.,Paralichthys sp.に対して神経切断および背骨除去を行った場合の氷結点降下温度を表3に示す。この表3からも明らかなようにいずれについても氷結点降下が著しく低下しているのがわかる。 【0058】 【表3】
【0059】また、無脊椎動物についても、筋組織と脳髄間の神経接続を切断することで、氷結点降下が低下する。たとえば、学名paneid shrimpの氷結点降下は、頭部除去により−0.9℃から−2.5℃まで低下することが認められた。 【0060】さらにまた、エビやカニなどの甲殻類動物では、エビの頭部除去やカニの脚部除去によって、筋組織と脳髄間の神経接続が完全に切断され、氷結点降下温度を低下させることができる。 【0061】以上の現象はこれまで調査したすべての種類で確認できた。したがって、魚(甲殻類を含む)を保存・輸送する場合には、少なくとも筋組織と脳髄間の神経接続を切断するように加工することが、鮮度維持に極めて有効なのである。前述の[5.魚の加工状態]にて説明した「拮抗筋が相互運動できないように加工した状態」とは、この「筋組織と脳髄間の神経接続を切断するように加工した状態」と同じことである。すなわち、後者の加工により前者が必然的に生じるのである。 【0062】[実施例3]図3は、純水500ccにNa2SO3, Na2HCO3, Na2CO3, NaFをそれぞれ混合して作った4種類の相変化物質を内部温度=+4.5℃に維持した保存庫に入れ、時間経過に伴う温度変化の測定結果の一例を示したものである。比較のために、従来公知の海水氷およびリシンについての測定結果も表示している。 【0063】この図3から明らかなように、いずれの相変化物質も、数十時間に渡ってほぼ一定の温度を安定して維持しており、海水氷およびリシンに比べて非常に優れた温度維持効果を実現していることがわかる。 【0064】なお、Na2CO3およびNa2HCO3については、純水500ccへの混合量を35g、50g、70gとした場合を測定したが、いずれの混合量でも維持温度および維持時間は変わらなかった。 【0065】もちろん、この出願の発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能である。 【0066】 【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によれば、保存最適温度を長時間安定して維持でき、水産物をより長い時間鮮度維持して、安全かつ経済的に保存および輸送することができるようになる。
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| 【出願人】 |
【識別番号】591124008 【氏名又は名称】西南自動車工業株式会社 【識別番号】501465171 【氏名又は名称】ダニエル イー.グルーエンバーグ
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| 【出願日】 |
平成13年11月30日(2001.11.30) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100093230 【弁理士】 【氏名又は名称】西澤 利夫
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| 【公開番号】 |
特開2003−164256(P2003−164256A) |
| 【公開日】 |
平成15年6月10日(2003.6.10) |
| 【出願番号】 |
特願2001−367371(P2001−367371) |
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