| 【発明の名称】 |
パン酵母及びその製造方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】小野 昌志
【氏名】大宅 甲三
|
| 【要約】 |
【課題】パン酵母の開発に際し、従来の方法、すなわち天然物からの分離法、従来菌株の変異処理法、従来菌株同士の交雑育種法などが多大な人手と時間とを要するという問題の解決、即ち、容易にかつ単純な方法により、安定的に取得できるパン酵母とその製造方法を提供すること。
【解決手段】2種類以上の酵母菌株を含有するパン酵母。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 2種類以上の酵母菌株を含有するパン酵母。 【請求項2】 パン酵母に含有される酵母菌株が、一つまたは二つ以上の品質項目において機能が異なることを特徴とする請求項1記載のパン酵母。 【請求項3】 品質項目が、インベルターゼ活性、マルトース発酵能、低温感受性、低温非感受性、冷凍耐性、冷凍感受性、パンの風味からなる群のうちの一つまたは二つ以上であることを特徴とする請求項2記載のパン酵母。 【請求項4】 2種類以上の酵母菌株のうち1種類の酵母菌株が少なくともパン酵母中で10重量%以上であることを特徴とする請求項1記載のパン酵母。 【請求項5】 各酵母菌株を単独で純粋培養を行った後に、酵母懸濁液の状態で2種類以上の酵母菌株を混合し、濾過することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のパン酵母の製造方法。 【請求項6】 各酵母菌株を単独で純粋培養を行い、酵母懸濁液にした後にそれぞれ単独で濾過を行った後、2種類以上の酵母菌株を混合することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のパン酵母の製造方法。
|
【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、製パンに用いられるパン酵母及びその製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】製パン業界では常に新しいパン及び製パン法が開発され、これに合わせてパン酵母についても、低温感受性や冷凍耐性、耐糖性などの新しい機能を持ったパン酵母が常に要求され続けている。 【0003】従来、パン酵母の製造は1種類の酵母菌株を培養して一つのパン酵母製品とするのが常識であった。このような新しいパン酵母を開発するには、果物や花などの植物や鳥類、昆虫などの動物、土壌や岩石などの鉱物から新規な酵母菌株を単独分離する方法、従来の酵母菌株を変異処理して性質を変えることによって新規な酵母菌株を取得する方法、従来の酵母菌株に胞子を形成させて胞子株同士を交雑することで新規な酵母菌株を取得する方法などがとられていた。つまり、新規なパン酵母を取得するためには、このような酵母菌株の取得法を用いて新しい酵母菌株を取得することが必要であった。 【0004】しかし、このような新しい酵母菌株の取得法には大きな問題がそれぞれあった。たとえば動植物や鉱物などの天然物からの分離には、他の微生物の汚染を防ぐために特殊な抗生物質や抗カビ剤などを用いる必要があり、かつ天然物の収集にも多大の経費と時間がかかるし、こうして取得した酵母菌株も発酵力が低かったり培養時の増殖速度が遅かったりするというケースがほとんどでそのままパン酵母として使用できる菌株を取得できる頻度が非常に低く、例えば数百株から数万株を取得してようやく実用可能な菌株を1株得られるようなケースが多いという問題があった。 【0005】従来の酵母菌株に変異処理を加えて新しい酵母菌株を取得する方法については、一般のパン酵母は2倍体が多いため、2倍体のままでは変異の頻度が低いという問題があり、この問題の解決のためには胞子である1倍体を取得してから変異処理を加えるという手段を講じる必要があった。しかし、実験室で一般に用いられる酵母菌株に比べてパン酵母の実用菌株は胞子形成培地での胞子形成率が低かったり、せっかく胞子を形成させても胞子からの出芽率が低かったりして1倍体を取得するにも多大の困難を克服する必要があった。また中には4倍体の酵母菌株も存在しており、4倍体の場合は胞子を形成させて2倍体を取得し、これら2倍体から胞子を形成させて1倍体を取得する必要があり、さらに難易度が高かった。 【0006】変異処理を行うにも、UV照射や放射線照射などの方法、エチルメタンスルフォネート、ニトロソグアニジンなどの薬剤処理を行う方法などがあるが、照射には特殊な装置が必要であり、薬剤処理の場合も処理後の薬剤の処理など困難な作業が必要であった。また、照射法の場合、予め死滅率を酵母菌株毎に測定して、照射時間やその時の菌濃度、UV管からの距離などを決める必要があったし、薬剤処理法の場合も、前培養条件の検討や、薬剤の濃度、処理時間の検討など非常に複雑な操作が必要であった。 【0007】従来の酵母菌株に胞子を形成させて胞子株同士を交雑することで新規な酵母菌株を取得する方法についても、胞子形成培地での胞子形成率が低かったり、せっかく胞子を形成させても胞子からの出芽率が低かったりするという問題は変異処理法と同様であったし、交雑の段数も1段交雑だけでは目的機能を得られずに、何回も交雑を繰り返し行う必要があったなど、複雑で時間のかかる方法であった。 【0008】このように、新たにパン酵母を開発するには、人手と時間がかかり、早くでも半年、長ければ数年かかるケースがほとんどで、多大なエネルギーを要していた。 【0009】特開2001−258466には複数種の乳酸菌を有する乳酸菌群と、複数種の酵母を有する酵母群とを有するパン種が例示されているが、「発酵食品であるパンは、古来より、複数種の乳酸菌を有する乳酸菌群、および複数種の酵母(イースト)を有する酵母群をいずれも有するパン種と、パン用原料である小麦粉と、水とを十分に混捏することによってパン生地とし」とあるように、パン種には複数種の酵母を有する酵母群が含有されていることは常識であるが、自然に発酵して得られるものであるため、製パン工程に至るまでに時間と手間がかかり、且つ、一定品質のパン種を得るには熟練を要していた。また、パン酵母には、複数の酵母菌株を有するというものは、今まで、まったくなかった。 【0010】 【発明が解決しようとする課題】本発明においては、新たな性質を有するパン酵母の開発に際し、従来の方法、すなわち天然物からの分離法、従来菌株の変異処理法、従来菌株同士の交雑育種法などが多大な人手と時間とを要するという問題の解決を目的とする。すなわち、容易にかつ単純な方法により、安定的に取得できるパン酵母とその製造方法を提供することにある。 【0011】 【課題を解決するための手段】本発明らは鋭意検討の結果、従来の手法とは全く異なり、パン酵母中に2種類以上の酵母菌株を含有せしめることで容易に上記の課題が解決できることを発見し本発明の完成に至った。 【0012】即ち、本発明の第1は、2種類以上の酵母菌株を含有するパン酵母に関する。好ましい実施態様としては、(1)パン酵母に含有される酵母菌株が、一つまたは二つ以上の品質項目において機能が異なる、(2)品質項目が、インベルターゼ活性、マルトース発酵能、低温感受性、低温非感受性、冷凍耐性、冷凍感受性、パンの風味からなる群のうちの一つまたは二つ以上である、(3)2種類以上の酵母菌株のうち1種類の酵母菌株が少なくともパン酵母中で10重量%以上である、を特徴とする上記記載のパン酵母に関する。 【0013】本発明の第2は、上記記載のパン酵母の製造方法に関する。好ましい実施態様としては、(1)各酵母菌株を単独で純粋培養を行った後に、酵母懸濁液の状態で2種類以上の酵母菌株を混合し、濾過する、(2)各酵母菌株を単独で純粋培養を行い、酵母懸濁液にした後にそれぞれ単独で濾過を行った後、2種類以上の酵母菌株を混合する、ことを特徴とする上記記載のパン酵母の製造方法に関する。 【0014】 【発明の実施の形態】本発明のパン酵母においては、2種以上の酵母菌株を含有することが必要である。使用できる酵母菌株としては、一般にパンの製造に供されるものであれば得に限定はなく、多用されている、サッカロミセス・セルビシエや、他にも、サッカロミセス・ウバウム、サッカロミセス・エクシギューズやトルラスポラ属等が挙げられる。異なる属種を含有することは勿論、同属種間でも1つまたは2つ以上の品質項目が異なる酵母菌株を含有することが好ましい。 【0015】酵母菌株の品質項目としては、特に限定はなく、パン酵母として要求されるすべての品質項目が、2種類以上の酵母菌株の組み合わせの対象となりうる。具体的には、インベルターゼ活性、マルトース発酵能、低温感受性、低温非感受性、冷凍耐性、冷凍感受性、耐食塩性、高温発酵性、キラー性、フラクトオリゴ糖非発酵性、糖資化性、グルタチオン含量、耐酸性、高温耐性、耐浸透圧性、アルコール耐性、乳酸生成能、パンの風味、耐久性、生育速度、白色度、ろ過性、溶解性、製パンでの生地まとまり速度、製パンでの生地の機械耐性、乾燥耐性などがあげられるが、中でも、インベルターゼ活性、マルトース発酵能、低温感受性、低温非感受性、冷凍耐性、冷凍感受性、パンの風味が、要求される品質項目として多いため、好ましい。2種類以上の酵母菌株の組み合わせは下記のような例が例示される。 【0016】一つの品質項目について、機能が異なる2種類以上の酵母菌株の組み合わせとしては、マルトース発酵能が高い酵母菌株(以降、高マルトース発酵菌株)とマルトース発酵能が低い酵母菌株(以降、低マルトース発酵菌株)、低温感受性の酵母菌株と低温非感受性の酵母菌株、インベルターゼ活性が高い酵母菌株(以降高インベルターゼ酵母菌株)とインベルターゼ活性が低い酵母菌株(以降低インベルターゼ酵母菌株)、冷凍感受性酵母菌株と冷凍耐性酵母菌株、等の組み合わせが例示できる。 【0017】二つの品質項目について、機能が異なる2種類以上の酵母菌株の組み合わせとしては、低温感受性かつ非冷凍耐性を有する酵母菌株と低温非感受性かつ冷凍耐性を有する酵母菌株、低温感受性かつ低マルトース発酵菌株と低温非感受性かつ高マルトース発酵菌株、等の組み合わせが例示できる。 【0018】三つ以上の品質項目について、機能が異なる2種類以上の酵母菌株の組み合わせとしては、低温感受性かつ冷凍感受性かつ低風味菌株と低温非感受性かつ冷凍耐性かつ低風味菌株と低温非感受性かつ冷凍感受性かつ高風味菌株、等があり、例挙にいとまがない。 【0019】2種類以上の酵母菌株のパン酵母中での比率は、特に限定はないが、2種類以上の酵母菌株のうち1種類が少なくともパン酵母中で10重量%以上の比率となることが好ましく、より好ましくは20重量%以上、最も好ましくは30重量%以上である。10重量%に満たない場合、目的とする機能の改良に対して効果がない場合がある。 【0020】本発明のパン酵母の製造方法としては、2種類以上の酵母菌株を均一に分散させることができれば特に限定はなく、例えば、異なる2種類以上の酵母菌株を同一の培地で一緒に培養する、いわゆる混合培養を行った後濾過する方法、それぞれの酵母菌株を単独で純粋培養を行った後に、酵母懸濁液の状態で2種類以上の酵母菌株を混合した後濾過する方法、各酵母菌株を単独で純粋培養を行い、酵母懸濁液にした後にそれぞれ単独で濾過を行い、その後の圧搾酵母や乾燥酵母のような固形物の状態で2種類以上の酵母菌株を混合する方法、各酵母菌株を単独で純粋培養を行い得た酵母懸濁液に、別途純粋培養して濾過・乾燥させて得られた乾燥酵母を添加する方法、などが挙げられるが、好ましくは、各酵母菌株を単独で純粋培養を行った後に、酵母懸濁液の状態で2種類以上の酵母菌株を混合した後濾過する方法、又は、各酵母菌株を単独で純粋培養を行い、酵母懸濁液にした後にそれぞれ単独で濾過を行い、その後の圧搾酵母や乾燥酵母のような固形物の状態で2種類以上の酵母菌株を混合する方法が、得られるパン酵母の機能を調整することが容易であるため好ましい。 【0021】本発明でいう各種の品質項目はそれぞれ下記の通り定義され、測定方法が開示される。これらの測定に供される酵母菌株は、通常のパン酵母の製造条件で培養されたものを用いればよい。一般的には糖蜜を主原料とし、副原料として硫酸アンモニウムなどの窒素源、リン酸アンモニウムやリン酸などのリン源が用いられるが、YPD培地と称されるグルコースを主原料とし、ポリペプトン、酵母エキスを副原料とする培地でもよい。通常は培養後に、遠心分離されて水洗、ろ過されて生酵母を得る。乾燥酵母とする場合は、生酵母をさらに一般の乾燥手段によって乾燥を行えばよい。乾燥手段としては、流動層乾燥法やスプレードライ法、凍結乾燥法などが用いられる。 (1)マルトース発酵能マルトース発酵能とは、マルトースを発酵する能力を意味し、下記の方法で測定される。マルトース(和光純薬(株)製、特級)4%、リン酸2水素カリウム0.25%、リン酸1水素2アンモニウム0.25%の溶液50mlを100ml三角フラスコにとり、イースト2gをこの発酵液に懸濁して、発酵液入り三角フラスコの重量を測定する。30℃5時間静置で発酵後、発酵液入り三角フラスコの重量を測定し、発酵前の発酵液入り三角フラスコの重量から発酵後の発酵液入り三角フラスコの重量を減じて差(mg)をマルトース発酵能とする。 【0022】すなわち、マルトース溶液を30℃5時間発酵させた時に生成、揮散する炭酸ガス量をもってマルトース発酵能という。100mg以上の酵母菌株を高マルトース発酵酵母菌株とし、100mg未満の酵母菌株を低マルトース発酵酵母菌株とする。 【0023】高マルトース発酵酵母菌株は特に砂糖を添加しないフランスパンなどの無糖生地で小麦粉由来のマルトースを発酵できる能力が高いため、このような糖がないか、または糖が少ない生地において有用である。しかし、一般的には高マルトース発酵酵母菌株はインベルターゼ活性も高い傾向があるため、前述の様に砂糖を大量に添加する菓子パンのような生地においては発酵が遅れるという欠点も有する。 (2)インベルターゼ活性インベルターゼ活性とはシュクロースをグルコースとフルクトースとに分解する酵素活性を意味し、以下の方法によって測定されるグルコース濃度から次式に従って算出する。イースト2gを50ml純水で懸濁し、15%シュクロース液5mlを試験管にとりイースト懸濁液1mlを加える。ウォーターバス中で30℃30分保温した後、あらかじめ準備しておいた熱湯に8分浸漬し反応を停止する。別の試験管に4mlずつ純水を分注し、これに反応停止液を1mlずつ分注する。グルコースBテストワコー(和光純薬(株)製)の緩衝液3mlを分注しておいた試験管に希釈液を20μl分注後、37℃ウォーターバス中で20分保温する。505nmの吸光度を測定し、希釈液中のグルコース濃度A(mg/100ml)を求める。 −計算式−インベルターゼ活性(mgグルコース/分/gイースト) =A(mg/100ml)÷100(mlに換算)×5(希釈倍率)×6(イースト糖液)×2(グルコース+フルクトースに換算)×(50/2)(イースト量)÷30(分換算) =A(mg/100ml)×0.5300mgグルコース/分/gイースト以上の酵母菌株を高インベルターゼ酵母菌株とし、300mgグルコース/分/gイースト未満の酵母菌株を低インベルターゼ酵母菌株とする。 【0024】高インベルターゼ酵母菌株は、高マルトース発酵酵母菌株と同様に、特に砂糖を添加しないフランスパンなどの無糖生地で小麦粉由来の少糖類をインベルターゼで分解して発酵できるため、糖がないか、または糖が少ない生地において有用である。しかし、前述の様に砂糖を大量に添加する菓子パンのような生地においてはインベルターゼによって砂糖から生成したグルコースとフルクトースのために生地中の浸透圧が高くなるため、発酵が遅れるという欠点も有する。 (3)低温感受性・低温非感受性低温感受性とは、特開平7−79767に例示されているように、低温で発酵が抑制される機能を、低温非感受性とは低温で発酵が抑制されない機能を意味し、表1の配合・工程を経た生地を用いて測定する。 【0025】 【表1】
表1で得た生地を目盛り付きの底なしシリンダーに入れてあらかじめスタート時の生地量を測定しておき、5℃、24時間発酵させたときの生地量とスタート時の生地量との差を5℃低糖生地発酵力とする。 【0026】また、上記と同配合にて生地を捏上温度30±1℃にて捏上げ、この生地を目盛り付きの底なしシリンダーに入れてあらかじめスタート時の生地量を測定しておき、30℃、80分発酵させたときの生地量とスタート時の生地量との差を30℃低糖生地発酵力とする。5℃低糖生地発酵力が100ml以下であり、かつ30℃低糖生地発酵力が240ml以上である酵母を低温感受性酵母菌株とする。 【0027】低温非感受性酵母菌株とは、5℃低糖生地発酵力が100ml以上であり、かつ30℃低糖生地発酵力が240ml以上である酵母菌株を意味する。 【0028】低温感受性酵母菌株は、クロワッサンやデニッシュのようなペストリー類、即ち油脂をロールインするパン類において、生地を冷却するリタード工程で発酵が抑制させるため、パンの内相がきれいになるという利点がある。ペストリー類以外の一般のパン類でも、生地を冷蔵保管する冷蔵生地法や、低温長時間中種法のように低温で生地を熟成させる製法でも生地を過発酵させないという意味で特徴を発揮する。 【0029】しかしパンの場合は必ず生地を冷蔵後に昇温させて発酵を行って最終的には窯で焼成する必要があり、これら低温感受性菌株の場合は昇温の過程や最終発酵のホイロの段階で低温非感受性菌株に比べて発酵が遅れるという宿命的な欠点も合わせて有する。 (4)冷凍耐性冷凍耐性とは冷凍保存後発酵力を有することを言い、表2の配合・工程を経た生地を用いて測定する。 【0030】 【表2】
解凍後、38℃120分間のガス発生量をファーモグラフ((株)アトー社製)にて測定する。 【0031】この解凍後のガス発生量が100ml以上のものを冷凍耐性菌株とし、100ml未満のものを冷凍感受性菌株とする。 【0032】冷凍耐性菌株は、生地を冷凍するいわゆる冷凍生地法においてその特徴を発揮する。 (5)パンの風味【0033】パンの風味とは、特開2001−252071に開示されている通り、下記の配合によって焼成したパンにおいて、エチルアルコール量に対するイソアミルアルコール量の割合が0.5重量%以下及び/またはエチルアルコール量に対するイソブチルアルコール量の割合が0.5重量%以下である菌株を高風味酵母菌株とし、エチルアルコール量に対するイソアミルアルコール量の割合が0.5重量%以上かつエチルアルコール量に対するイソブチルアルコール量の割合が0.5重量%以上の菌株を低風味酵母菌株と定義する。表3に風味成分測定のための製パン方法を示す。 【0034】 【表3】
パン焼成後、1日目に以下の方法で風味成分の分析を行う。パンのクラム部を適量とり、ミキサーにてパン粉状に粉砕し、20gを200ml容量の三角フラスコに入れる。n−ブチルアルコールを内部標準として、0.2%溶液1ml添加する。三角フラスコの口を栓で密封し、60℃の湯にほとんどフラスコ全体が浸るようにして、60分放置する。シリンジにて栓を密封したまま、フラスコ内の上部気相をサンプリングし、2mlをガスクロマトグラフィーで分析する。 −ガスクロマトグラフィー測定条件−・カラムオーブン温度 :100℃・インジェクション部温度:140℃・検出部温度 :150℃・カラム :3.2mmφ×1.1m・カラム充填剤 :ポリエチレングリコール20Mなお、本願のパン酵母の場合、定法により、適宜希釈後、YPD寒天培地などにまいて30℃48時間後にコロニーを10〜50株程度モノコロニーし、各菌株の性質を調べることによって容易に確認が可能である。 【0035】 【実施例】次に実施例をあげて説明する。 (実施例1〜4、比較例1,2)砂糖が対粉7〜12%の食パンや菓子パンを製造するのに適したパン酵母を製造した。 【0036】高マルトース発酵菌株でかつ高インベルターゼ菌株である菌株(商品名:カネカイーストNB、鐘淵化学工業(株)製、以下、NBと称す)がある。NBは高マルトース発酵菌株でかつ高インベルターゼ菌株であるため、砂糖を添加しないフランスパンや対粉2〜3%の砂糖、グルコースなどを添加するパン粉の製造などで特徴が発揮されるが、砂糖が対粉7〜12%程度の食パンや菓子パン類では発酵力が弱くパンにならない酵母菌株である。 【0037】一方、低マルトース発酵菌株でかつ低インベルターゼ菌株である菌株(商品名:カネカイーストグリーン、鐘淵化学工業(株)製、以下、グリーンと称す)は、砂糖が対粉12%以上の菓子パン類では強い発酵力を発揮するが、砂糖が対粉12%に満たない食パンなどでは発酵力が弱くパンにならない。 【0038】これらのNBとグリーンについて、パン酵母製品の状態すなわち培養終了後、ろ過された固形物の状態で、NB対グリーンの比率を20%きざみでボウルにそれぞれはかりとり、サジで均一になるようによく混合してそれぞれのサンプルを得た。表4、表5に示す配合及び工程で砂糖が対粉7%の食パン及び砂糖が対粉12%のバターロールを作成した。NBとグリーンの混合比率を表4に製パン条件を表5にそれぞれ示す。 【0039】 【表4】
【0040】 【表5】
評価結果を表6に示す。 【0041】 【表6】
対照例として、一般的に砂糖が対粉7〜12%の食パンや菓子パンを製造するのに汎用されている菌株(商品名:カネカイーストレッド、鐘淵化学工業(株)製、以下、レッドと称す)用いて同様に製パンを行った結果を合わせて示す。 【0042】NG、グリーン、レッドの各パン酵母製品は、所望の性質を備えた単一の菌株からなっているパン酵母であり、それぞれ前述のように多大な労苦・時間を経て得られた既存のパン酵母菌株である。 【0043】表6から明らかなとおり、比較例1及び2のグリーン単独、NB単独では、食パン、バターロールどちらかで商品性が低いものであったが、実施例では食パン、バターロールともに満足できるパンができた。 (実施例5〜7、比較例3,4)次に、低温下で適度な発酵力を示すパン酵母を製造した。 【0044】低温感受性菌株である商品名カネカイーストAL(鐘淵化学工業(株)製、以下AL)と、低温非感受性菌株であるカネカイーストSG(鐘淵化学工業(株)製、以下SG)とを、培養終了後それぞれ単独で水洗分離して懸濁液状態で混合した後、ろ過した実験を行った。混合比率は25%きざみとした。表7に混合比率を、表8にペストリーの配合及び条件を示す。 【0045】 【表7】
【0046】 【表8】
結果を表9に示す。 【0047】 【表9】
比較例3及び4のSG単独、AL単独では、比容積、内相、風味のいずれかに問題があったが、実施例では比容積、内相、風味のいずれも良好で満足できるパンができた。 (実施例8、比較例5〜7)冷凍耐性と適度な低温感受性を有し、且つ、風味の良好なパン酵母を製造した。低温感受性かつ冷凍感受性かつ低風味菌株(商品名:カネカイーストホワイト、鐘淵化学工業(株)製、以下、WYと称す)と、低温非感受性かつ冷凍耐性かつ低風味菌株(商品名:カネカイーストSG、鐘淵化学工業(株)製、以下、SGと称す)と、低温非感受性かつ冷凍感受性かつ高風味菌株であるサッカロミセス・セレビシエFERM P−17691(特開2001−252071記載、以下、P−17691と称す)の3種類を用い、それぞれ単独で純粋培養を行った後に、酵母懸濁液の状態で混合したのち、濾過してパン酵母製品を作成した。混合比率はWY 30重量部、AL 30重量部、P−17691 40重量部とした。表10に示す配合及び工程にて冷凍生地法のペストリーを作製した。 【0048】 【表10】
結果を表11に示す。 【0049】 【表11】
WYは低温感受性かつ冷凍感受性かつ低風味菌株であるため比容積、内相、風味とも好ましくなく、SGは低温非感受性かつ冷凍耐性かつ低風味菌株であるため、比容積は良好であるが、内相、風味が不良であり、P−17691は低温非感受性かつ冷凍感受性かつ高風味菌株であるため比容積、内相、風味とも不良であるが、3者を混合した実施例8では比容積、内相、風味とも良好であった。 【0050】 【発明の効果】パン酵母を開発するにあたり、従来の煩雑で困難な育種法によらずに、既存の酵母菌株を2種類以上混合するという容易な手段によってパン酵母の製造が可能となる。
|
| 【出願人】 |
【識別番号】000000941 【氏名又は名称】鐘淵化学工業株式会社
|
| 【出願日】 |
平成13年11月30日(2001.11.30) |
| 【代理人】 |
|
| 【公開番号】 |
特開2003−164252(P2003−164252A) |
| 【公開日】 |
平成15年6月10日(2003.6.10) |
| 【出願番号】 |
特願2001−366145(P2001−366145) |
|