| 【発明の名称】 |
ヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】田口 信洋
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| 【要約】 |
【課題】ヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法を提供する。
【解決手段】燻蒸雰囲気の相対湿度と燻蒸温度とを特定範囲に調整するヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法である。燻蒸効果を増強させることができ、従来の燻蒸処理の時間を短縮することができる。該相対湿度の調整は、加湿器などによって簡便に行うことができる。本発明で使用する燻蒸剤は、ヨウ化アルキルのなかでもヨウ化メチルが好ましい。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法であって、該燻蒸雰囲気の相対湿度を下記(i)〜(vi)のいずれかの範囲に調整することを特徴とする、ヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法。 (i) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が5℃以上10℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を95RH%以上に設定する、(ii) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が10℃以上15℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を80RH%以上に設定する。 (iii) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が15℃以上20℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を60RH%以上に設定する、(iv) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が20℃以上25℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を50RH%以上に設定する、(v) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が25℃以上30℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を45RH%以上に設定する、(vi) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が30℃以上35℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を25RH%以上に設定する。 【請求項2】 燻蒸雰囲気の相対湿度を調整してヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸処理の時間を短縮することを特徴とする燻蒸方法。 【請求項3】 前記湿度の設定が、加熱式もしくは超音波式の加湿器によって行うものである、請求項1または2記載の燻蒸方法。 【請求項4】 前記湿度および温度の設定が、保湿・冷却機能をもつ気密型の燻蒸装置内において、密閉後の燻蒸装置内の温度を保湿・冷却機能を用いて調整するものである、請求項1〜3のいずれかに記載の燻蒸方法。 【請求項5】 該燻蒸雰囲気におけるヨウ化アルキル濃度が、10〜150g/m3である請求項1〜4のいずれかに記載の燻蒸方法。 【請求項6】 前記ヨウ化アルキルが、炭素数1〜4のアルキルモノヨードである請求項1〜5のいずれかに記載の燻蒸方法。 【請求項7】 燻蒸処理時間が少なくとも30%短縮される、請求項1〜6のいずれかに記載の燻蒸方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法に関し、より詳細には燻蒸雰囲気の相対湿度が特定の範囲で燻蒸することを特徴とする、燻蒸効率に優れるヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法に関する。 【0002】 【従来の技術】人の生活は多種多様な生物との調和の中で営まれているが、時としてある種の生物は人の活動に害をなすことで有害生物と呼ばれている。有害生物の排除は、生活や産業活動維持の為に不可欠となっていて、その対策として殺生物性の薬剤が利用されることが多い。そのような薬剤の使用形態としては、散布、塗布、設置または燻蒸が一般的で、中でも燻蒸は、薬剤ガスで行うために燻蒸物への影響が少ない、残留がほとんど無い、大量で迅速な処理が可能、および通常の梱包状態であればそのまま処理できるなどの点から最も多用される技術である。燻蒸が行われる分野としては、建屋・土壌の消毒、医療器具の殺菌、植物検疫および文化財保護などがある。例えば文化財分野での利用の状況とその意義を述べてみる。 【0003】文化財を保存し活用することは、国民の文化的向上に資するとともに,世界文化の進歩に貢献する。絵画、彫刻、工芸品、典籍、古文書その他の有形の文化的所産である文化財は、国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国語研究所、日本芸術院、東京・京都・奈良の国立博物館、東京・奈良の国立文化財研究所等の各所で、その保存維持作業の一環として防虫、防黴を目的とする燻蒸処理がなされている。 【0004】このような文化財に使用する燻蒸剤としては文化財に薬害を及ぼさず、文化財に吸着されず、拡散浸透性に優れ、引火爆発性が少なく、害虫の成虫、蛹、幼虫、卵への効果が強く、かつ人畜に対し低毒性であること等の要件を満たすものとして臭化メチル・エチレンオキシド合剤が特に広く使用されてきた。しかしながら、臭化メチルによるオゾン層破壊の問題に鑑み、その使用が制限されている。 【0005】一方、文化財以外の燻蒸対象物として輸入木材がある。特開2000−212006号公報には、ヨウ化アルキルを含有する燻蒸剤で燻蒸する文化財の燻蒸方法が開示されている。該方法によれば、ヨウ化アルキル単独、またはこれにクロルピクリン、二硫化炭素、フッ化サルフリル、臭化メチル、青酸などの殺虫剤や、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、メタアクロレイン、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、アリルアルコール、ブチルアルコールおよび過酸化水素などの殺菌剤を併用して、文化財への汚染などを発生させずに、有効に防虫、妨菌効果が得られるとしている。該方法の対象は、文化財保護法第2条第1号に規定する有形文化財や第3号に規定する民俗文化財であり、特に文化財保護の観点から至適な燻蒸条件が規定されている。 【0006】また、特開平10−152408号公報には、メチルイソチオシアネートを液化高圧ガスに溶解してなる木材害虫殺虫用くん蒸剤が開示されている。常温で固体であり気温が低い場合はガス化しにくいMITC(融点:35〜36℃、沸点119℃)を炭酸ガスなどの液化高圧ガスに溶解させ、この溶解液を液化高圧ガスの圧力を利用し、高圧容器(ガスボンベ)から燻蒸被覆内に噴霧し、輸入木材等の燻蒸剤として使用するものである。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】燻蒸の対象が、文化財などの保存に対する依存性の高いものであるか輸入木材のようにその後の加工が予定されているか否かを問わず、害虫などの殺虫・防黴処理の効果を有効なものとするため、または簡便に殺虫・防黴処理するために、施設全体を一度に処理することが極めて有効かつ効率的である。もちろん、一部の展示品を個別に燻蒸処理したり施設の一部を燻蒸処理する場合でも同様であるが、ヨウ化アルキルの一つであるヨウ化メチルを用いた燻蒸では、温度10〜40℃、投薬量100g/m3の標準的な燻蒸条件での一般的な燻蒸時間は3日間とされている。このため、上記した美術館や博物館、その他の文化財研究所等などでは燻蒸処理のための3日間を確保しなければならず、利用者の便宜に反する結果となっている。その一方、黴などの生息条件は生物によって異なるものの、次々に繁殖して被害が急速に増大し、早期の処理が肝心であり、定期的な燻蒸処理が必要とされる現実もある。このため、燻蒸効率の向上、短期間での効率的な燻蒸方法が要求される。 【0008】一方、燻蒸期間を短くするために薬液量を増加する方法がある。しかしながら、ヨウ化アルキルの製造原料のヨウ素は貴重な地下資源であり、その採集地域も限定され、その供給量は全世界でも年間16,000トン程である。現に、ヨウ化メチルは化学合成時のメチル化試薬として僅かに市場に流通しているにすぎず、燻蒸剤として使用するには価格が高い。普及に関しては、製造量の問題と有効性を高めるための手段を検討し、いかに少量で効果を発揮できるかの技術の確立が不可欠である。特に、使用量を低減できれば燻蒸処理後の燻蒸成分の残存も少なく、燻蒸処理取扱者その他への薬剤の影響も少なく有利である。 【0009】また、燻蒸効果を増すために燻蒸温度を上昇させる方法がある。ヨウ化アルキルも高温処理ほど殺生物性が高いが、高温条件では燻蒸剤の有無にかかわらず被燻蒸対象物の破損や劣化などを招く虞れがある。このため、特に被燻蒸対象物が文化財の場合には、対象物や施設に対する薬害の発生を回避するため40℃を超える温度での燻蒸処理は一般に行われていないのが実情である。したがって、現状の投薬量でも処理時間を短縮することができればコスト、濃度維持への労力低減等の経済性のみならず人や燻蒸物への安全性向上等でもその効用は計り知れない。なお、文化財等が主に保存されている収蔵庫や展示室では長期保存による劣化を防止するために温度・湿度・照明環境が一定範囲に保持されることが好まれ、収蔵庫や展示室では空調システムのみならず壁や床を木質にするなどの副次的工夫がなされている。木質構造の特質は、空調を止めても数日間は環境を保ち、特に湿度保持に関してその効果は顕著にみられる。これら収蔵庫や展示室はまた燻蒸処理の場所でもあるが、短時間の燻蒸時間に対しても長期保存を目的とした環境設定が継続される傾向がある。 【0010】また、我国に輸入される農林産物は植物防疫の観点から必ず検査され、必要に応じて燻蒸等により有害な動植物を駆除することが義務付けられており、日本国内に生息しない有害動植物の侵入繁殖の防止が図られている。また、被燻蒸対象物が文化財であっても、その対象物の特性によって、たとえば土中に深く長期にわたって埋蔵されていた土器、木片、諸外国で発掘された埋蔵品などの場合には、未知の病害虫の殺菌、黴類の殺黴を目的としてより強力な燻蒸処理が必要であり、このような場合においても燻蒸剤の使用量を削減し、しかも短時間で大規模の処理ができることが好ましい。特にこのような場合には、強力な燻蒸効果の確保とともに、被燻蒸対象物の変質を防止する必要性が高い。上記特開平10−152408号公報に記載された燻蒸剤は、本来常温で固体のイソチオシアネートを使用するものであるから、木材などのその後の加工が予定されている被燻蒸対象物の燻蒸には適するが、そのままの保存形態を維持する必要性の高いものへの燻蒸にはその使用の適正が不明である。 【0011】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、詳細に検討したところヨウ化アルキル燻蒸剤の殺カビ性が燻蒸の温度における相対湿度に大きく影響されることを見出した。その結果、単に燻蒸雰囲気の相対湿度を特定範囲に維持するだけで極めて効率的に燻蒸効果を向上させ、このため燻蒸時間を短縮できることを見出し本発明を完成させた。すなわち本発明は、以下の(1)〜(7)を提供するものである。 【0012】(1) ヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法であって、該燻蒸雰囲気の相対湿度を下記(i)〜(vi)のいずれかの範囲に調整することを特徴とする、ヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法。 【0013】(i) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が5℃以上10℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を95RH%以上に設定する、(ii) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が10℃以上15℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を80RH%以上に設定する。 【0014】(iii) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が15℃以上20℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を60RH%以上に設定する、(iv) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が20℃以上25℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を50RH%以上に設定する、(v) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が25℃以上30℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を45RH%以上に設定する、(vi) 該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が30℃以上35℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を25RH%以上に設定する。 【0015】(2) 燻蒸雰囲気の相対湿度を調整してヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸処理の時間を短縮することを特徴とする燻蒸方法。 【0016】(3) 前記湿度の設定が、加熱式もしくは超音波式の加湿器によって行うものである、上記(1)または(2)記載の燻蒸方法。 【0017】(4) 前記湿度および温度の設定が、保湿・冷却機能をもつ気密型の燻蒸装置内において、密閉後の燻蒸装置内の温度を保湿・冷却機能を用いて調整するものである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の燻蒸方法。 【0018】(5) 該燻蒸雰囲気におけるヨウ化アルキル濃度が、10〜150g/m3である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の燻蒸方法。 【0019】(6) 前記ヨウ化アルキルが、炭素数1〜4のアルキルモノヨードである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の燻蒸方法。 【0020】(7) 燻蒸処理時間が少なくとも30%短縮される、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の燻蒸方法。 【0021】 【発明の実施の形態】本発明は、ヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法であって、該燻蒸雰囲気の相対湿度を、(i)該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が5℃以上10℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を95RH%以上、(ii)該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が10℃以上15℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を80RH%以上、(iii)該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が15℃以上20℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を60RH%以上、(iv)該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が20℃以上25℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を50RH%以上、(v)該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が25℃以上30℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を45RH%以上に、(vi)該燻蒸雰囲気の燻蒸温度が30℃以上35℃未満のとき、該燻蒸雰囲気の相対湿度を25RH%以上に調整することを特徴とする、ヨウ化アルキル燻蒸剤による燻蒸方法である。 【0022】ヨウ化アルキル自体は、アルキル化剤として使用されるほど反応性の高い化合物であるが、燻蒸条件によって有効かつ効果的に防黴、防虫効果を奏することが確認されている。さらに、ヨウ化アルキルを燻蒸剤として用いて殺生物性、環境への影響など詳細にわたり調査したところ、燻蒸雰囲気の相対湿度を、燻蒸雰囲気温度に対応させて25RH%以上でヨウ化アルキルで燻蒸処理を行うと、被燻蒸対象物の変色や変質などを及ぼさず、従来よりも短期間で防虫・防黴作用を奏することが判明した。防虫・防黴効果を短時間で達成するには薬液量の増加が簡便であるが、本発明によればこのような薬液量の増加なしに単に相対湿度を調整することのみで燻蒸効果を増大できる。これにより貴重な資源であるヨウ素含有化合物の使用量を減少させつつ燻蒸処理ができる。被燻蒸対象物が文化財である場合には、漆器や絵画など乾燥により激しく損傷するものがあり湿度管理は欠かすことができない。この点、本発明の燻蒸雰囲気内の相対湿度範囲では、湿気とヨウ化アルキルとの反応による文化財の着色もなく、かつ同相対湿度範囲内で文化財に与える危険性も少なく、極めて環境保全および文化財保護にも優れている。以下、本発明を詳細に説明する。 【0023】本発明ではヨウ化アルキル燻蒸剤を使用する。ヨウ化アルキルとしては、炭素数1から4のアルキルモノヨード、例えばヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ノルマルプロピルが好ましい。これらは、文化財を含む被燻蒸対象物に用いられる素材全般にわたって腐蝕等の作用が比較的少なく、殺生物効果が確実であり、沸点以下でも揮発性が高く効果が確実な濃度で揮発し液化せず、優れた防虫性や抗菌性に優れる。特に好ましくヨウ化メチルである。凝固点−66.45℃、沸点42.50℃で気化しやすく、燻蒸に適しているからである。ヨウ化アルキル燻蒸剤としては、ヨウ化アルキルをそのまま燻蒸剤としてもよく、一般にはヨウ化アルキルを5〜100質量%含有するものである。燻蒸雰囲気内のヨウ化アルキル濃度が後記する所定範囲内にあれば有効な燻蒸が達成できるため、ヨウ化アルキル燻蒸剤に含まれるヨウ化アルキルの濃度には特に制限はないが、ヨウ化アルキル燻蒸剤に含まれるヨウ化アルキル濃度が上記範囲内にあれば、一般の気化器によって簡便にヨウ化アルキルを気化できるため好ましい。 【0024】燻蒸処理は、被燻蒸対象物を収納する隔離容器、隔離部屋、隔離家屋などの燻蒸処理の間、燻蒸剤の遺漏を防止できる程度の気密性を有する燻蒸設備内で行うことが一般的である。隔離設備としては、樹脂フィルムやシートで密封性が保持されるよう燻蒸物をくるむ場合(被覆燻蒸または包み込み燻蒸)、樹脂フィルムやシートを粘着剤等を用いて張り合わせて作成した容器に文化財を収納する場合であってもよい。燻蒸設備としては、さらにチャンバーや燻蒸室、燻蒸専用倉庫などの燻蒸専用施設であってもよく、燻蒸の準備面からはチャンバーや燻蒸室の使用が好ましい。また、被燻蒸対象物を上記燻蒸設備内に収納するほか、博物館や美術館の展示室をそのまま燻蒸の対象とすることもでき、このような場合には施設内の燻蒸雰囲気が外部に留出しないように目張りし、または外部に留出した燻蒸雰囲気を空調を使用して循環させ、該展示室などを被燻蒸対象物であると同時に燻蒸装置とすることができる。 【0025】一方、本発明の燻蒸方法の特徴は上記燻蒸装置等の使用のいかんを問わず、燻蒸雰囲気の相対湿度を調整する。この際、燻蒸温度に対応させて相対湿度を調整すると、特に防虫、防菌、防カビ効果に優れることが判明した。すなわち、燻蒸温度が5℃以上10℃未満のときには、該燻蒸雰囲気の相対湿度を95RH%以上とする。また、燻蒸温度が10℃以上15℃未満のときには、該燻蒸雰囲気の相対湿度を80RH%以上とする。同様に、燻蒸温度が15℃以上20℃未満のときは、該燻蒸雰囲気の相対湿度を60RH%以上、燻蒸温度が20℃以上25℃未満のときには、該燻蒸雰囲気の相対湿度を50RH%以上、燻蒸温度が25℃以上30℃未満のときには、該燻蒸雰囲気の相対湿度を50RH%以上、燻蒸温度が30℃以上35℃未満のときには、該燻蒸雰囲気の相対湿度を25RH%以上に設定して燻蒸を行う。本発明の燻蒸方法において、上記範囲への燻蒸温度および相対湿度の調整は、燻蒸処理の全工程において保持されることが好ましいが、その一方、同一条件に固定される必要はない。例えば、燻蒸温度を5℃以上10℃未満のときに相対湿度を95RH%以上とし、その後、温度を10℃以上15℃未満に上昇し、かつ相対湿度を80RH%以上に調整し、更に燻蒸温度を15℃以上20℃未満に上昇させかつ相対湿度を60RH%以上に調整するなど、上記範囲の1以上を組み合わせて燻蒸してもよい。その際の温度や相対湿度の調整は、燻蒸装置内に加湿器や温度調節器を配備すればよい。なお、一般的な燻蒸条件である常圧下では相対湿度が100RH%を超えることはないが、100RH%を超えるほどの湿度を燻蒸雰囲気に供給して過飽和状態にすると被燻蒸物に接触した際にただちに水分が結露し、被燻蒸対象物が水分によって破損する場合がある。従って、95RH%以上とは、95RH%〜100RH%である。一方、湿度25RH%を下回ると、防虫、防菌の効果が急速に低下し不利である。なお、本願における相対湿度は、常圧における相対湿度である。 【0026】上記範囲内の相対湿度でヨウ化アルキル燻蒸剤の効果が増加する理由については定かでないが、上記相対湿度は従来の燻蒸条件における湿度条件よりも水分子が多く、該水分子の被燻蒸対象物への付着または移動に伴ってヨウ化アルキルが移動しかつ被燻蒸対象物への浸透性が増加したためと考えられる。しかしながら詳細は不明である。なお、ヨウ化アルキルを燻蒸剤とした場合の燻蒸雰囲気の相対湿度の変化と燻蒸効果との関係は従来全く知られておらず、相対湿度は、被燻蒸対象物の保存性の観点でのみ考慮されていた。これを具体的に説明する。 【0027】文化財は、地球上の生命、文化の足跡を自然な状態で保存し、将来への持続的な研究開発の礎として人々に知的啓発を行う施設であり、資料の保存環境として繊細な条件が求められている。特に湿度に関しては展示と収蔵という2種類の機能空間に分けられ、これらの空間の間で環境条件が大きく異なると保存状態を良好に保てず、両者は連続した環境と考えるべきであり、収蔵は展示の予備措置とも認識されている。このため、保存環境の相対湿度条件は厳しく、文化財に乾燥や加湿による破損を防止するための保存のための好適な湿度条件として、各文化財ごとに細かく区分されている。たとえば、本、紙、切手などは45〜65RH%、羊皮紙は55〜60RH%、貴重出版物は45RH%、粘土、毛皮、家具、レザー、エッチング、彫刻などは45〜63RH%、じゅうたん、衣装、織物、昆虫、動植物の標本は50〜63RH%、絵画は55〜63RH%、油絵、木製パネルなどで傷みのひどいものは58RH%、デッサン庫は65RH%、博物館ケースは50〜55RH%、美術品の収蔵は50RH%、剥製品は50RH%などといわれている。一方、このような文化財の保存性を低下させる害虫やカビなどに関しては、害虫の多くは20〜30℃、60〜80RH%が良好な生育条件であり、カビの繁殖しやすい条件は、20℃で70〜90RH%である。このため、展示室の温湿度はカビや病害虫の発生の少ない22〜25℃に設定され、50RH%を超える湿度に制御することは一般の展示状態では稀である。また、資料の移動、移設は必ず発生する事柄であり、保存物自体も環境変化に対応させる必要もあることから、変温・恒湿(相対湿度)が基本と考えられている。 【0028】このような状況下において、燻蒸雰囲気の相対湿度を変化させて燻蒸処理を行うことは全く行われていない。そもそも、燻蒸温度と相対湿度との調整によって燻蒸効果が増強されることが知られていなかったために当然であるが、一般には、長期保存による劣化を防止するため、燻蒸の対象となる文化財保護施設の壁や床を木質にするなどの工夫が行われているに過ぎない。この木質構造の特質は、空調を止めても湿度などが数日間は保たれ、特別の手段を用いて管理しなければ特定の相対湿度に変更されない。このため、燻蒸効果を増強させる目的で、本発明で特定する燻蒸温度と相対湿度の範囲に制御されることはなく、特に冬場の乾燥時では、相対湿度が低いために本発明で特定する温度と湿度との範囲で燻蒸処理がなされることがない。すなわち、新規な燻蒸剤であるヨウ化メチルにおいて、従来の燻蒸条件を基準として、一般的な投薬量における燻蒸時間は72時間と設定してあった。しかも、実際の燻蒸においては、相対湿度が温度の変動に伴って変化するため、燻蒸開始時に防カビに適する湿度および温度であっても、その後の温度変化によって相対湿度も変化し、燻蒸効果が低下する場合もあった。例えば、燻蒸当初にその雰囲気温度20℃、相対湿度が55RH%でも、温度25℃になれば38RH%となり、防カビ効果が低下する。特に、燻蒸温度15℃を超える高い温度域では、飽和水蒸気量が大きくなるため、その傾向は一段と著しい。ゆえに、一時的に上記範囲内の相対湿度で燻蒸される場合があったとしても、その相対湿度が燻蒸処理の全行程に渡って維持されることはなかった。このことは、従来から燻蒸時間が、燻蒸雰囲気内の燻蒸剤濃度のみを基準として定められていたことと符号する。しかしながら本発明によれば、燻蒸雰囲気の相対湿度を燻蒸温度に対応させて調整することで燻蒸効果を向上することができ、このため燻蒸時間を短縮することができるのである。このような効果は、特に対象となる被燻蒸対象物が文化財を収納し、または展示する博物館や美術館などでは燻蒸処理期間のための閉館期間を短縮できるため、好ましいことである。また、燻蒸時間の短縮は、上記文化財に限るものでなく、輸入木材、一般家屋を含む建築物等の燻蒸においても、作業員の拘束時間を短縮でき好ましい。 【0029】このような燻蒸雰囲気の相対湿度の調整方法に関する制限はない。燻蒸装置内に加湿器を設置して燻蒸前に稼動させて上記範囲内の相対湿度へ調整することによって簡便に行うことができる。該加湿器は、加熱式でも超音波式であってもよい。また、燻蒸装置に設備した空調装置によって燻蒸前および燻蒸中の燻蒸雰囲気の相対湿度を上記範囲内に制御してもよい。もちろん相対湿度の調整方法はこれに限らず、燻蒸装置内に予め相対湿度を上記範囲に調整した空気を供給して燻蒸装置内の雰囲気を該空気と置換してもよく、燻蒸剤とともに上記範囲の相対湿度に調整した空気を燻蒸装置内に導入してもよい。 【0030】このような相対湿度の調整による燻蒸効果の増強作用は、燻蒸雰囲気の温度5℃以上35℃未満の範囲で発揮され、かつ燻蒸雰囲気内の温度に依存して燻蒸効果が変化する。上記温度範囲内で同じ温度であれば相対湿度を上げることで燻蒸効果を増強でき、同じ相対湿度の場合には温度を上げることで燻蒸効果を増強でき、短時間で燻蒸を完了することができる。本願において該温度は、常圧における温度である。35℃以上であると被燻蒸対象物の中には変形したり変質する場合があり不利である。その一方5℃を下回ると気化が困難となり不利となる。なお、被燻蒸対象物が文化財などのように変質や変性を回避すべき要請が高い場合には、燻蒸雰囲気の温度は被燻蒸対象物の安定性の観点から好ましい範囲が選択され、一般には被燻蒸対象物の通常状態における温度に近似することが好ましい。温度変化による影響が少ないからである。従って、燻蒸雰囲気の温度は燻蒸の目的、被燻蒸対象物の特性、被燻蒸対象物の状態等に鑑みて選択可能であり、むしろ被燻蒸対象物の特性などによって至適な範囲で行うべきである。たとえば、美術館や博物館などでは通常展示物の管理温度である10〜30℃の範囲内で燻蒸し、輸入原木などのようにその後の加工が予定されているものや温度による変質や変形が少ないものは5℃で処理すれば、燻蒸時間を短縮できて有利である。また、未知の微生物が存在する可能性のある被燻蒸対象物など、特に微生物による汚染を防止する必要性の高い場合にはより高温、たとえば燻蒸雰囲気の温度25℃の範囲で燻蒸処理することもできる。 【0031】このような温度調整方法としては、滅菌域内のガス成分の引火性等に注意しつつ、好ましくは燻蒸設備内に配設された空調設備を使用して至適な温度に調整し、または燻蒸装置自体を予め上記範囲の温度に調整した保温庫などに収納して行い、または上記範囲に温度調整された燻蒸ガスを燻蒸装置内に導入する方法など、その他の方法で調整できる。なお、本発明では、燻蒸雰囲気温度が低い場合に相対湿度が高く、該温度の上昇につれて相対湿度を下げることができる。このため、燻蒸雰囲気温度の日内変化に伴う相対湿度の調整については、燻蒸開始時に各温度における燻蒸に適した相対湿度に調整すると、一般に燻蒸雰囲気は密封されているため、絶対湿度がその後も保持され、その結果、燻蒸温度の低下にともなって相対湿度が上昇し、本発明で規定した燻蒸温度および相対湿度の範囲内に保持される。また、温度が上昇した場合には相対湿度が低下するため、本発明で規定した燻蒸温度および相対湿度の範囲内に保持される傾向が強い。なお、このような範囲を超えて温度が変化する場合には、現実的な管理として、燻蒸庫内に加湿器を設置して燻蒸開始時にその温度での燻蒸に有効な湿度に相対湿度を調整し、補完的な手段として温度変化にともなう加湿を行えばよい。 【0032】ヨウ化アルキルの燻蒸には、気化器を使用して燻蒸することが好ましい。簡便に燻蒸できて燻蒸時間の短縮に効果的だからである。このような気化器としては従来公知の気化器を使用する事ができ、燻蒸用の加熱温度や、送付速度などは使用するヨウ化アルキルの種類に応じて適宜選択することができる。このような気化器を使用すれば、ヨウ化アルキルが液体の場合にもヨウ化アルキルが直接被燻蒸対象物に接触せず、汚染を回避できるため好ましい。なお、燻蒸時間は対象とする文化財の種類や燻蒸剤の種類により適宜選択できるが、一般には、12〜72時間、より好ましくは12〜48時間、特に好ましくは12〜24時間である。この燻蒸処理時間の短縮は、後記する実施例で示すように、各温度において、燻蒸3日目のカビ死滅率80%を有効とした場合に、湿度を調整することによって、燻蒸2日目からカビ死滅率80%以上を達成でき、燻蒸温度の上昇に対応して相対湿度を低下させても、燻蒸1日目からカビ死滅率80%以上を達成できる。この点で、本発明によれば、燻蒸処理時間を2/3、すなわち約30%以上、条件によっては1/3、すなわち60%以上に短縮することができる。 【0033】燻蒸雰囲気内のヨウ化アルキル濃度は、10〜150g/m3、好ましくは20〜140g/m3、より好ましくは80〜120g/m3である。10g/m3、を下回ると効果がなくなるし、あまりに長期の燻蒸では有害生物に薬剤耐性を誘導するようなものである。また、150g/m3を超えるような条件では燻蒸後の薬剤回収に時間と手間が掛かり不利である。なお、燻蒸雰囲気内のヨウ化アルキル濃度は、被燻蒸対象物の材質などを考慮して適宜上記範囲内で選択することができる。 【0034】本発明では、燻蒸剤としてヨウ化アルキル単独使用の他に、他の殺菌剤や殺虫剤をヨウ化アルキルと共に使用することができる。使用できる殺菌剤としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、メタアクロレイン、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、アリルアルコール、ブチルアルコール、過酸化水素がある。これらはヨウ化アルキルとの併用が可能であると共に、併用においても他の殺菌効果が損なわれない。本発明では、これら殺菌剤の1種を併用する場合の他2種以上を併用してもよい。 【0035】さらに本発明では、殺虫剤をヨウ化アルキルと共に燻蒸することができる。殺虫剤としては、クロルピクリン、二硫化炭素、フッ化サルフリル、臭化メチルおよび青酸が例示され、本発明では、これらの1種を併用する場合の他、2種以上を併用することもできる。本発明では、これら殺虫剤のなかでもフッ化サルフリル、臭化メチルを使用することが好ましい。これらは、被燻蒸対象物への影響が比較的少ないからである。なお、本発明では、ヨウ化アルキルと共に、上記殺菌剤の1種以上にさらに上記殺虫剤の1種以上を併用することもできる。これにより、環境保全に留意しつつ殺虫および殺菌効果に優れる燻蒸が可能だからである。 【0036】本発明の燻蒸方法が適用できる害虫としては、例えば、サツマイモネコブセンチュウ、土壌センチュウ、メセンチュウ、ネグサレセンチュウ、マツノザイセンチュウ等の線虫類;コクゾウ虫等の長ゾウ虫類の害虫;シロイチモジヨトウ、コブノメイガ、ハスモンヨトウ、カブラヤガ、ヨトウガ、タマナギンウワバ、ニカメイガ、サンカメイガ、ナシオオシンクイ、ハイマダラメイガ、マメノメイガ、イネツトムシ、ワタアカミムシ、ジャガイモガ、モンシロチョウ、ノシメマダラメイガ、チャノコカクモンハマキ、キンモンホソガ、ミカンハモグリガ、ブドウホソハマキ、ナシヒメシンクイ、マメシンクイガ、モモシンクイガ、ブドウスカシバ、チャノホソガ、コナガ、イガ等の鱗し目の害虫;タバココナジラミ、オンシツコナジラミ、ミカントゲコナジラミ、ワタアブラムシ、ユキヤナギアブラムシ、リンゴワタムシ、モモアカアブラムシ、ダイコンアブラムシ、ニセダイコンアブラムシ、マメアブラムシ、コミカンアブラムシ、ミカンクロアブラムシ、ブドウネアブラムシ、ムギミドリアブラムシ、ジャガイモヒゲナガアブラムシ、チャノミドリヒメヨコバイ、フタテンヒメヨコバイ、ヒメトビウンカ、トビイロウンカ、セジロウンカ、ツマグロヨコバイ、タイワンツマグロヨコバイ、シロオオヨコバイ、ルビーロウムシ、オリーブカタカイガラムシ、サンホーゼカイガラムシ、リンゴカキカイガラムシ、アカマルカイガラムシ、アカホシマルカイガラムシ、ヤノネカイガラムシ、クワコナカイガラムシ、ミカンコナカイガラムシ、イセリアカイガラムシ、リンゴキジラミ、ミナミアオカメムシ、ホソヘリカメムシ、ナシグンバイ等の半し目害虫;イネミズゾウムシ、イネドロオイムシ、キスジノミハムシ、コロラドハムシ、テンサイトビハムシ、コクゾウムシ、クリヤケシキスイ、ニジュウヤホシテントウ、インゲンマメゾウムシ、アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシ、ドウガネブイブイ、ヒメコガネ、マメコガネ、ゴマダラカミキリ、タバコシバンムシ、ヒメマルカツオブシムシ、コクヌストモドキ、ヒラタキクイムシ等の鞘し目害虫;アカイエカ、チカイエカ、シナハマダラカ、ヒトスジシマカ、イネハモグリバエ、ダイズサヤタマバエ、イネカラバエ、イネミギワバエ、イエバエ、クロキンバエ、タマネギバエ、ウリミバエ、ミカンコミバエ等の双し目害虫;ネギアザミウマ、カキクダアザミウマ、ミナミキロアザミウマ、イネアザミウマ、チャノキイロアザミウマ等のアザミウマ目昆虫;クロゴキブリ、ヤマトゴキブリ、ワモンゴキブリ、チャバネゴキブリ、コバネイナゴ、トノサマバッタ等の直し目害虫;カブラハバチ等の膜し目害虫;ナミハダニ、カンザワハダニ、ミカンハダニ、リンゴハダニ、チャノホコリダニ、ミカンサビダニ、ニセナシサビダニ、イエダニ、ツツガムシ類、ケナガコナダニ等のダニ目害虫;その他、イヌノミ、アタマジラミ、ヤマトシロアリ、ヤケヤスデ、ゲジ等が例示できる。 【0037】本発明の燻蒸方法が有効な殺菌、殺カビの対象としては、黒コウジカビ、サツマイモの立枯れ病、つる割れ病、紫紋羽病、黒あざ病;ジャガイモのそうか病、黒あざ病;ウリ類の苗立枯れ病、つる割れ病、疫病;メロンの黒点根腐れ病;ナスの半身萎凋病、青枯れ病;トマトの白絹病、萎凋病、半身萎凋病、青枯れ病;イチゴの疫病、萎黄病;ホウレンソウの立枯れ病、萎凋病、根腐れ病;アブラナ科野菜の根こぶ病、根くびれ病、萎黄病、黄化病;ニンジンの根腐れ病、乾腐病;エンドウの根腐れ病;インゲンの白絹病;セルリーの萎黄病、黄化病;パセリの萎凋病;タバコの立枯れ病、疫病、黒根病、矮化病;カーネーションの立枯れ病、萎凋病等の糸状菌、細菌によって起こる病害があり、さらには各種のウィルス病、センチュウ類、ハリガネムシ、ネキリムシ、ケラ等がある。 【0038】本発明の燻蒸方法では、単に燻蒸雰囲気の相対湿度を調整するだけでヨウ化アルキルの燻蒸効果を増大させることができるため、被燻蒸対象物としてはヨウ化アルキルによる燻蒸が好ましいとされる従来からの燻蒸対象物のすべてに適用できる。したがって、たとえば文化財保護法第2条に規定する第1号に規定する有形文化財および第3号に規定する民俗文化財を本発明によって燻蒸することができる。その他、家屋その他の建築物、野菜、果物、穀類、切花、除草等の燻蒸にも適する。さらに、土壌、樹木、木材、竹材、穀物、青果、切り花、倉庫、家具、機器、器具、資材、家屋、ビニールハウス、衣類、洞窟、文化財、コンテナ、船舶、航空機、自動車、紙、書籍、絵画、玩具、貨幣、動物舎などに適用できる。 【0039】なお、本発明において、文化財とは文化財保護法第2条第1号に規定する有形文化財および第3号に規定する民俗文化財であって、建築物を除いたものをいう。具体的には、絵画、彫刻、工芸品、書籍、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で、歴史上または芸術上価値の高いもの、考古資料およびその他の学術上価値の高い歴史資料および衣食住、生業、信仰、年中行事などに関する風俗習慣、民族芸能に用いられる衣服、器具その他の物件で、国民の推移の理解のために欠くことのできないものが対象となる。より具体的には、土器、石器、木器、骨角牙器、玉、銅鐸、銅鉾、宮殿や寺院跡などからの出土品、被服、装身具、飲食容器、光熱用具、家具調度品、農具、漁猟具、工匠用具、紡織用具、計算具、看板、鑑札、刑罰用具、奉納物、偶像類、呪術用具、暦類、占い用具、医療用具、楽器、面、人形、玩具、産育用具、冠婚葬祭用具、正月用具、節供用具、盆用具などが例示できる。 【0040】次に、博物館や美術館において展示室を燻蒸する場合を一例として本発明の燻蒸方法を説明する。 【0041】一般には、博物館や美術館は、(i)見学者や所員の出入りのための玄関・ロビー、(ii)展示エリア、ユーティリティスペース、(iii)収蔵エリア、(iv)資料の移設搬入前処理のための慣らし室等が存在し、展示室内の気流は、資料の変質、劣化を抑制するために極力抑えられ、器具吐出風速は1m/s未満に調整されている。また、資料の酸化を防止するため、新鮮外気取り入れ量が極力抑制され、コンクリートから揮発されるアルカリ性ガス等の汚染物質除去のために設備の室内給気系統には活性炭フィルターなどの空気処理清浄装置が設備されている。 【0042】このような博物館や美術館などにおいて展示室を燻蒸する場合には、まず(i)ガス漏れを防ぐために気密性を確保する。展示室内の燻蒸雰囲気が外部に漏れないようにダクトのシール、貫通部処理を行う。(ii)次いで、相対湿度を調整する。たとえば、燻蒸前に55RH%であった展示室内の相対湿度を70RH%にするには、展示室内に配置した加湿器によって加湿し、または温度を低下させればよい。なお相対湿度は燻蒸雰囲気の温度変化に応じて変動するため、同じ水分量が燻蒸装置内に含まれていても温度によって相対湿度が異なる。このため、燻蒸雰囲気内の相対湿度と温度との調整は実際には温度の調整を先に行うことが簡便であり、または両者を同時に調整することが好ましい。このような燻蒸雰囲気の温度と湿度との同時制御は、燻蒸設備内に設備された空調と加湿器によって行えばよい。なお、展示室内の雰囲気を外部に出さないようにするため、空気は該展示室内を循環させることが好ましい。なお、展示室を構成する壁が厚い場合や、展示室が建築物の内部に存在するため温度変化を受けにくい場合には、空調による温度制御は不要である。(iii)次いで、少なくとも相対湿度を所定範囲に調整した燻蒸雰囲気にヨウ化アルキル燻蒸剤を気化して導入する。一般には、気化器によって燻蒸ガスを展示室内に導入する。(iv)燻蒸後には、空調設備等によって展示室内の燻蒸雰囲気を外部に排出させ、燻蒸処理ガスを回収すれば燻蒸ガスを環境中に排出させることがない。 【0043】また、上記のような展示室全体の燻蒸でなく、燻蒸庫などの燻蒸装置を使用して、被燻蒸対象物にもっとも至適な相対湿度に設定して個別に燻蒸処理を行うこともできる。たとえば、本、紙、切手などは45〜65RH%の範囲内、たとえば60〜65RH%で燻蒸し、貴重出版物は45RH%の範囲内、たとえば40〜45RH%で燻蒸し、じゅうたん、衣装、織物、昆虫、動植物の標本は50〜63RH%の範囲内、たとえば60〜63RH%で燻蒸する。また、被燻蒸対象物が穀類、種子では30〜50RH%、果物、苗木、樹木、切花では60〜90RH%、木材、竹材、稲わら40〜90RH%、機器、器具、資材、家屋、衣類、コンテナ、船舶、航空機、自動車、畜舎では30〜50RH%、家具、家屋、書類、書籍、絵画、玩具、貨幣では50〜70RH%などといった湿度が好ましい。このように保存に至適な相対湿度の範囲内で最も効果的な燻蒸処理行うために、該相対湿度に対応する燻蒸雰囲気温度に選択する。例えば、穀類、種子の燻蒸では、燻蒸温度を30℃とし、相対湿度を30〜50RH%に調整すれば、燻蒸効果を増強でき、燻蒸処理時間の短縮や薬液量の低減を図ることができる。 【0044】さらに、被燻蒸対象物の中には、未知の微生物を付着する場合があり、しかもその拡散を防止する必要性の高いものもある。このような場合、被燻蒸対象物の特性に応じて、燻蒸雰囲気内の相対湿度を調整し、必要に応じて燻蒸温度を調整することで、従来と同様の燻蒸剤の使用量を用いながらより強力な燻蒸処理を行うことができる。特に、被燻蒸対象物の薬剤による汚染が懸念される場合には、同量の薬剤量で、短時間に燻蒸効果が得られる。たとえば、燻蒸雰囲気におけるヨウ化アルキル濃度を100〜150g/m3、湿度70〜95RH%、温度25℃以上30℃未満で48〜72時間燻蒸処理する。 【0045】 【実施例】以下、本発明の実施例により具体的に説明する。なお、本発明では、黒コウジカビ(Aspergillus niger)を燻蒸効果判定の指標生物として使用した。 【0046】まず、密封系作製の手順を以下(1)〜(5)に示す。 【0047】(1)ポテトデキストロース寒天平板培地で27℃、5日間培養し得た黒コウジカビ(Aspergillus niger)のコロニーの一部を、滅菌した生理食塩水に懸濁した。その一部を無菌的に所定倍率に希釈して、各希釈液を再びポテトデキストロース寒天平板培地に塗抹した。残りの懸濁液は4℃で保存した。 【0048】(2)塗抹をしたポテトデキストロース寒天平板培地を27℃、3日間培養し、出現したコロニーの数から保存中の懸濁液の菌数を算出した。懸濁液中の生菌濃度は、2×107CFU/mlであった。 【0049】(3)保存中の懸濁液の0.1mlを10mm径の滅菌したペーパーディスクにしみ込ませ、クリーンベンチ内で4時間風乾燥した。乾燥後のペーパーディスクをガラス製サンプル管に入れ、内径1mm長さ60mmの中空なガラス管を中央に貫通させたゴム栓で蓋をし、供試菌とした。 【0050】(4)投薬口を設けた内容量3Lのガラス製デシケータ内にある陶器製の中板上に上記供試菌を入れ、蓋の接面をシリコングリスを塗布し密封性を確保した。 【0051】(5)ゴム製のシリンジ差し込み栓を装着したガラス管を貫通させたゴム栓で上記(4)の投薬口を密封した。 【0052】(実施例1)予め供試菌を配置した密封系(デシケーター)内の温度を表1に示す温度に調整し、次いで湿度を試験に用いるデシケーターをエアポンプを介して乾燥剤入りもしくは底部に水を張った別のデシケーターとゴム管で連結して表1に示す湿度に調整した。次いで、該密封系に、ヨウ化メチルの145μL(330mg)をシリンジで秤量し、投薬口のシリンジ差し込み栓にシリンジの針を内部まで貫通させたのち注入し72時間放置し、温度、湿度の相違による燻蒸効果を評価した。 【0053】結果の判定は、黒コウジカビの殺菌効果を試験したペーパーデイスクをポテトデキストロース寒天平板培地上に移しその後7日間の増殖の確認において行い、有効性の判断は試供した菌の致死率をもって有効とし、ヨウ化メチルの燻蒸効果を評価検討した。結果を表1に示す。なお、表1において「−」は、未測定を示す。 【0054】表1に示すように、ヨウ化メチル燻蒸では相対湿度が高いほど殺黴力が強く各温度別では所定の湿度以上において殺黴の達成(死滅率80%以上)が認められた。すなわち、燻蒸温度5℃では相対湿度95RH%以上、燻蒸温度10℃では相対湿度70RH%以上、燻蒸温度15℃では相対湿度60%RH以上、燻蒸温度20℃では相対湿度50RH%以上、燻蒸温度25℃では相対湿度45RH%以上、燻蒸温度30℃では相対湿度25RH%以上である。絶対湿度における25℃以上30℃未満における減少は多くの黴が25℃あたりに発芽開始温度を持つ温度域であることから休眠状態で抵抗性がある生命形態から生育状態で薬剤感受性が高い生命形態に変化することが原因と考えられ病原菌あるいは未同定の菌などを完全殺菌するためには25℃以上の条件で燻蒸することが望ましいといえる。 【0055】 【表1】
【0056】(実施例2)予め供試菌を配置した密封系(デシケーター)内の温度を表2および表3に示す温度に調整し、次いで湿度を試験に用いるデシケーターをエアポンプを介して乾燥剤入りもしくは底部に水を張った別のデシケーターとゴム管で連結して表2および表3に示す湿度に調整した。次いで、該密封系に、ヨウ化メチルの145μL(330mg)をシリンジで秤量し、投薬口のシリンジ差し込み栓にシリンジの針を内部まで貫通させたのち注入し、24時間、48時間、72時間放置による湿度、温度、燻蒸期間の相違による燻蒸効果を評価した。 【0057】結果の判定は、黒コウジカビの殺菌効果を試験したペーパーデイスクをポテトデキストロース寒天平板培地上に移しその後7日間の増殖の確認において行い、有効性の判断は試供した菌の致死率をもって有効とし、ヨウ化メチルの燻蒸効果を評価検討した。結果を表2および表3に示す。なお、表2および表3において「−」は、未測定を示す。 【0058】表2および表3に示すように、燻蒸温度5℃では相対湿度は95RH%以上でカビ死滅率80%以上を達成する48時間以内の燻蒸が可能であった。同様に、燻蒸温度10℃では相対湿度80RH%以上、燻蒸温度15℃では相対湿度65RH%以上、燻蒸温度20℃では相対湿度65RH%以上、燻蒸温度25℃では相対湿度60RH%以上、燻蒸温度30℃では相対湿度50RH%以上の各条件においてカビ死滅率80%以上を達成する48時間以内の燻蒸が可能であった。 【0059】このことは、燻蒸3日目のカビ死滅率80%を有効とした場合に、湿度を調整することによって、燻蒸2日目からカビ死滅率80%以上を達成でき、燻蒸温度の上昇に対応して相対湿度を低下させても、燻蒸1日目からカビ死滅率80%以上を達成できることを意味するものである。 【0060】なお、本発明では、湿度管理、特に加湿器などの簡単な装置を用いることで文化財や建屋の燻蒸場面への導入あるいは低温管理ができるチャンバーでの燻蒸では仕込み後に温度低下させて湿度を確保するなどの方法で実用化が可能であった。ただし、相対湿度85RH%を超えるような条件は僅かの環境変化によって結露を招きやすく逆に黴の生育場を作り出す場合があるため注意を要する。 【0061】 【表2】
【0062】 【表3】
【0063】 【発明の効果】本発明の燻蒸方法は、特定範囲の相対湿度条件で確実な殺虫・殺黴効果を奏する。至適な燻蒸条件は、燻蒸雰囲気の相対湿度を25RH%以上、好ましくは、多くの燻蒸が実施される15℃以上25℃未満において60RH%以上を超える湿度を確保することであり、より好ましくは、各温度範囲で最も至適な相対湿度に調整してヨウ化メチル燻蒸を実施する。このような燻蒸雰囲気は従来の施設を用いて簡便に調整することができる。しかも、燻蒸後は燻蒸雰囲気に含まれる湿度はそのまま廃棄することができ、環境保全の点でも極めて優れている。該相対湿度において燻蒸剤が効果的に作用するため、燻蒸時間を短縮することができる。本発明による燻蒸雰囲気の相対湿度範囲内では、将来に渡って適切な保存状態を維持することがきわめて重要な文化財に対して、短時間で効果的な燻蒸ができるため、文化財保護環境下で文化財を変質などすることもない。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000227652 【氏名又は名称】日宝化学株式会社
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| 【出願日】 |
平成14年3月18日(2002.3.18) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100072349 【弁理士】 【氏名又は名称】八田 幹雄 (外4名)
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| 【公開番号】 |
特開2003−267803(P2003−267803A) |
| 【公開日】 |
平成15年9月25日(2003.9.25) |
| 【出願番号】 |
特願2002−74780(P2002−74780) |
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