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【発明の名称】 文化財殺虫処理用装置
【発明者】 【氏名】安岡 憲二

【要約】 【課題】水の補充や交換を必要とせず、周囲環境の相対湿度に応じたレベルにまで殺虫性気体を加湿するのに適し、文化財を有効に保存維持するのに適した展示ケースや燻蒸庫として利用可能な装置を提供する。

【解決手段】文化財8を密閉状態にて収容可能な処理部2を有し、処理部の内部に殺虫性のある気体を導入して使用される装置であって、処理部の流入路側には、導入される気体を加湿するための加湿手段1として、中空糸水分透過膜が配置されている。本発明では、処理室の少なくとも一部を、透明性を有する部材にて構成することで、処理室内の文化財を外部から視認でき、処理室が展示ケースとしての機能を有したものとすることができ、又、処理部が金属で構成された箱状体や、プラスチックシートで構成された袋状体である場合には、処理室が燻蒸庫としての機能を有したものとなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 文化財を密閉状態にて収容可能な処理部を有し、当該処理部の内部に殺虫性のある気体を導入して殺虫処理を行うのに使用される装置であって、前記装置における前記処理部の流入路側に、導入される気体を加湿するための加湿手段として、中空糸水分透過膜が配置されていることを特徴とする文化財殺虫処理用装置。
【請求項2】 前記処理部が、その少なくとも一部が透明性を有する部材によって構成された室であり、当該室内に収容された文化財が外部から視認できることによって、当該室が展示ケースとしての機能を有することを特徴とする請求項1に記載の文化財殺虫処理用装置。
【請求項3】 前記処理部が、金属によって構成された箱状体、又はプラスチックシートによって構成された袋状体であることを特徴とする請求項1に記載の文化財殺虫処理用装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、美術品や工芸品などの文化財に対して変質等の悪影響を及ぼすことなく、殺虫処理(防虫処理、燻蒸処理)を行うのに適した殺虫処理用装置に関するものであり、詳しくは殺虫効果のある窒素ガスや燻蒸ガスを、所定のレベルにまで加湿した後、文化財が収容された処理部内に導入することで、文化財の変質等を防止しつつ殺虫処理が行え、長期間に渡って文化財を有効に保存維持するのに適した展示ケースや燻蒸庫や保存袋として利用可能な装置に関する。
【0002】
【従来の技術】空気中から窒素濃縮気体を直接分離する窒素濃縮気体装置が開発されて以来、使用時の利便性、保守管理の容易さから窒素PSA法、又は中空糸分離法として次第に普及するようになってきている。ところが、この圧力変動吸着法、又は中空糸分離膜法により生成された窒素濃縮気体は、ほぼ完全に近い乾燥状態にあるために、このような気体を、文化財が展示又は収蔵された展示ケースや薫蒸庫内に導入すると、湿度の影響によって文化財が害されるという問題があり、導入時に加湿を行う必要がある。
【0003】このような不具合を解消する加湿装置としては、密閉された容器中に水を入れて、その水中に窒素濃縮気体をバブリングさせるタイプの加湿器と、その水面上に窒素濃縮気体を通過させることにより、蒸発した水分で加湿するタイプの蒸発式加湿器があるが、これらの加湿器にあっては、定期的に加湿器内の水を補充したり、交換したりすることが必要であり、手間がかかると同時に、加湿器着脱部から気体が漏れるなどの問題が起こることがある。又、これらの加湿器では、原料窒素濃縮気体の流量が少なく、気温変動の大きい場合に、窒素濃縮気体の湿度が大きく影響を受け、乾燥した窒素により文化財が害されたり、逆に水分が過剰となって結露を発生し、文化財を害するなどの問題があった。
【0004】一方、美術品や工芸品などの文化財の保存維持においては、密閉可能な燻蒸空間(燻蒸室)内に文化財を収容した後、この室内に気体の状態で燻蒸剤を導入し、一定時間所定のガス濃度を保持させて燻蒸処理することが行われてきている。しかしながら、文化財はその材質によって処理時の湿度を適宜調節する必要があるにもかかわらず、これまで燻蒸処理装置においては安定した加湿機能を有するものは提案されておらず、例えば上述の加湿器を接続して燻蒸を行う場合には、一定時間ごとに水の補充や交換を行う必要がある上、気温変動の影響を受け易く、安定して周囲環境の相対湿度に応じたレベルにまで加湿が行うことは困難である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の文化財展示用ケースや文化財殺虫処理用燻蒸庫にて生じる種々の問題を解決して、水の補充や交換を必要とせず、周囲環境の相対湿度に応じたレベルにまで加湿された窒素濃縮気体や燻蒸気体を供給する機能を有したメンテナンス・フリーな文化財殺虫処理用装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の文化財殺虫処理用装置は、文化財を密閉状態にて収容可能な処理部を有し、当該処理部の内部に殺虫性のある気体を導入して殺虫処理を行うのに使用される装置であって、前記装置における前記処理部の流入路側に、導入される気体を加湿するための加湿手段として、中空糸水分透過膜が配置されていることを特徴とする。
【0007】又、本発明は、上述の特徴を有した装置において、前記処理部が、その少なくとも一部が透明性を有する部材によって構成された室であり、当該室内に収容された文化財が外部から視認できることによって、当該室が展示ケースとしての機能を有することを特徴とするものでもある。
【0008】更に本発明は、上述の特徴を有した装置において、前記処理部が、金属によって構成された箱状体、又はプラスチックシートによって構成された袋状体であることを特徴とするものでもある。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、図面を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は、展示用ケースとしての本発明の文化財殺虫処理用装置の一例における構成を示す概略図であり、図2は、燻蒸庫(燻蒸処理装置)としての本発明の文化財殺虫処理用装置の一例における構成を示す概略図であり、この図における処理部2は、金属によって構成された箱状体であっても、プラスチックシートによって構成された袋状体であっても良い。尚、図1及び図2には、殺虫性気体を発生させるための手段(装置)7と共に使用する際の状態が点線で示されており、殺虫性気体は窒素濃縮気体であっても、臭化メチル等の燻蒸気体であっても良い。
【0010】図1に例示した本発明の殺虫処理用装置においては、展示台部3の上に、少なくとも一部が透明性を有する部材によって構成された処理室(展示室)2が、展示ケース部として設けられており、処理室2の下方には、点線で表示された殺虫性気体発生部7から送られてくる殺虫性気体を処理室2へ誘導するための流路が形成されており、殺虫性気体を導入するための殺虫性気体導入口4から加湿気体導入口5までの流路の途中には、殺虫性気体を所望の湿度にまで加湿するための加湿手段1として、中空糸水分透過膜を利用して加湿可能な加湿器が配置されている。これにより、気体発生部7からの殺虫性気体は、加湿手段(加湿器)1にて所望の湿度にまで加湿された後、文化財8が陳列された処理室2内へ送られる。もちろん、本発明では、加湿された殺虫性気体が加湿ガスホルダーに供給されて備蓄された後で処理室2に送られる構造であっても良い。
【0011】本発明の装置では、気体発生部7から発生した殺虫性気体が、流量制御された後、中空糸水分透過膜を通じて、当該中空糸水分透過膜の外部(周囲)に存在する大気中の水分を取り込み、殺虫性気体の湿度が中空糸水分透過膜の周囲環境湿度と実質的に同じレベルに追従することで、当該湿度とほぼ同レベルにまで加湿された殺虫性加湿気体が製造され、このような加湿気体を、文化財8が陳列された処理室2内へ導入することで、文化財に悪影響を及ぼさない状態での殺虫処置を行うことができる。本発明では、殺虫性気体の発生源である気体発生部7として、空気供給手段(コンプレッサー)から供給される圧縮空気を、窒素より酸素を選択的に吸着する吸着剤(例えば活性炭系吸着剤)が内部に充填された一つ以上の吸着タンクへ供給して窒素濃縮気体が発生させ得る構造を有した窒素濃縮気体発生装置(窒素発生器)を使用することができるが、このような装置の代わりに市販の窒素ガスボンベを利用しても良い。又、文化財の燻蒸に適した燻蒸気体(例えば臭化メチルなど)を発生可能な装置を気体発生部7として使用することもできる。
【0012】尚、図1に例示した装置においては、処理室2の加湿気体導入口5と反対側の位置には、処理室2内を通過した気体を外部へ排出するための気体排出口6が設けられており、加湿器1の流入側に、殺虫性気体の流量を調節するための流量調節弁が設けられているが、気体導入口4へ導入される殺虫性気体の流量が予め調節される場合(例えば気体発生部7が送出流量調節機構を有するものである場合)には、この流量調節弁は存在しなくても良い。又、使用する殺虫性気体が加湿窒素ガスである場合には、気体排出口6から気体をそのまま装置外部に排出しても良いが、殺虫性気体(燻蒸気体)として臭化メチル等を使用する場合には、気体排出口6に気体処理装置(図示されていない)を接続し、処理後に外部に排気する必要がある。
【0013】一方、図2に示した本発明の装置は、処理部2が金属によって構成された箱状の燻蒸処理室や、プラスチックシートによって構成された袋状の燻蒸処理袋などの密閉状態で使用されるものであり、この装置では、密閉状態にて文化財8を収容した処理部2の流入路側に、気体発生部7から送出される気体を加湿するための加湿手段1として、中空糸水分透過膜モジュールが配置され、切換弁9と排気装置(一般的には減圧ポンプ)10によって処理部2の内部を燻蒸気体により置換でき、文化財8の燻蒸処理が行えるようになっている。本発明では、処理部2が燻蒸処理袋である場合、その材質が特に限定されるものではなく、単層フィルムにより構成された袋状体であっても、積層加工されたシートより構成された袋状体であっても良く、このような燻蒸処理袋が処理部(処理室)2である本発明の装置の場合には、文化財8が収容された処理部2内を殺虫性加湿気体で充填した後、開口部側を密封して一定時間保存し、処理が終了した後、文化財8を取り出すことができ非常に便利である。
【0014】図3には、本発明における加湿手段の好ましい一具体例として、チューブ状の中空糸水分透過膜モジュールが複数本(図3の場合には3本)並列に配置された構造のものを示しているが、本発明における加湿手段はこれに限定されるものではなく、殺虫性気体の使用流量に応じて、図3に示される中空糸透過膜モジュールの並列使用本数や、長さを変えることにより、殺虫性気体への水分透過率を高めて、流体圧力損失の軽減を計ることができる。中空糸膜の水分透過原理としては、水蒸気分圧差を利用して水分を透過する非多孔質の溶解拡散膜と、分子篩作用を採用した水蒸気分子を選択透過する微多孔質膜があるが、本発明における中空糸水分透過膜モジュールとしては、強度や水分透過効率の点で、フッ素系樹脂膜が好適であり、特に水蒸気分圧差を利用して水分を透過する非多孔質のフッ素樹脂系溶解拡散膜(例えば、デュポン社の商品名NAFION、その他)を使用するのが好ましい。但し、このような物性を有する樹脂系材料であれば、フッ素系樹脂膜に限定されるものではない。
【0015】本発明の加湿装置にあっては、図3に示されるようにして、加湿手段に、水分透過性中空糸膜モジュールの使用環境温度及び使用環境湿度を調整するためのファン(加熱・冷却ファン)が設けられていることが好ましく、これは、水分透過率の温度依存性が大きく、使用環境温度及び使用環境湿度を高めることにより瞬時に目標の加湿度を得ることが可能となるためである。本発明では、短時間のうちに所望の湿度の殺虫性気体が得られるように、ファンによって(使用環境温度+約5℃)の温度の風を、水分透過性中空糸膜モジュールに吹き付けて加湿するのが一般的であるが、温度条件はこれに限定されるものではない。
【0016】図4は、本発明における中空糸水分透過膜モジュールとして好ましいNAFIONチューブ(デュポン社製、モデルME−110)の水透過性能曲線であり、この製品の透過係数は128×106 cm3 ・cm/cm2 ・sec・cmHgである。長さ50cmのNAFIONチューブ(ME−110)3本を、図3のようにして並列に接続した際の加湿テスト結果を以下の表1に示す。表1のテストAには、並列に配置された3本のNAFIONチューブ間のバラツキが示されており、テストBには、高湿度下での水分透過量が示されている。
【0017】
【表1】

【0018】図5には、図3に示される内部構造の加湿装置(中空糸水分透過膜モジュールとして、長さ50cmのNAFIONチューブ(ME−110)が3本、並列に配列されている)を有する本発明の殺虫処理用装置を用いて、2種類の周囲環境下で窒素濃縮気体(市販のPSA式窒素ガス発生器を用いて得られたもの、酸素濃度0.15%)の流量を変化させた場合の窒素濃縮加湿気体(殺虫性加湿気体)の加湿度が示されている。図5の試験結果は、本発明の殺虫処理用装置を用いることによって、環境湿度近くまで加湿された窒素濃縮気体を処理室内に導入できることを示している。そして、上記にて得られた湿度約70%の加湿窒素気体を、孵化して1週間以内のアズキゾウムシ(約30〜50匹)を入れた処理室(内容積約3リットル)内に導入して30℃で殺虫効果を確認したところ、48時間の保存後にはアズキゾウムシの生存割合は0%であることが確認された。
【0019】
【発明の効果】加湿手段として中空糸水分透過膜モジュールが使用された本発明の殺虫処理用装置においては、一定時間ごとに水を補給したり交換する必要がなく、水分供給源として中空糸水分透過膜の周囲環境の水分を利用して、周囲環境湿度に近いレベルにまで窒素濃度気体を加湿することができ、加湿後の気体を、文化財を収容した処理室内に導入することで、文化財に損傷を与えることなく有効に害虫から文化財を保護することができる。特に、展示ケースの形態である本発明の装置の場合には、殺虫処理をした状態のままで展示及び収蔵を行うことができ、文化財の材質に応じた最適湿度に加湿された殺虫性気体を導入することによって文化財の乾燥を防止でき、しかも、文化財を出し入れする必要がないので、文化財が損傷を受けにくいという利点もある。又、本発明の装置では、プラスチック製の袋などを処理室として利用することもできるので文化財を個別に殺虫処理し易くて便利であり、ガスバリヤー性のあるフィルムを含む積層シートより成る袋を使用して殺虫処理後に密封した場合には、文化財の乾燥を防止した状態で長期保存することもできる。
【出願人】 【識別番号】591264429
【氏名又は名称】コフロック株式会社
【出願日】 平成14年3月1日(2002.3.1)
【代理人】 【識別番号】100068032
【弁理士】
【氏名又は名称】武石 靖彦 (外2名)
【公開番号】 特開2003−252701(P2003−252701A)
【公開日】 平成15年9月10日(2003.9.10)
【出願番号】 特願2002−55373(P2002−55373)