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【発明の名称】 有害物質の処理材およびその製造方法
【発明者】 【氏名】加藤 真示

【氏名】渡邉 裕和

【氏名】黒部 久徳

【氏名】近藤 庸市

【氏名】岩田 美佐男

【氏名】山口 晃史

【要約】 【課題】二酸化チタン膜にて効率良く有害物質を不活性化できる有害物質の処理材を提供する。

【解決手段】二酸化チタン膜5は、血漿成分などの被処理体に混入するおそれのある大腸菌やHIVなどの有害物質2を光触媒機能にて不活性化する。特定の有害物質2のみを保持する特異性を有した保持物質8を単分子の架橋分子7にて二酸化チタン膜5の表面に並列に架橋する。架橋分子7の膜厚が薄くなる。保持物質8が保持した有害物質に対する二酸化チタン膜5の光触媒機能による不活性化を架橋分子7が阻害しにくい。二酸化チタン膜5による光触媒機能により保持物質8が保持した有害物質2を効率良く不活性化できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 液相および気相の少なくともいずれか1つの形態を採る被処理体に混入または混入するおそれのある特定の有害物質のみを保持する特異性を有した保持物質と、この保持物質にて保持した前記有害物質を光触媒機能により不活性化する遷移金属酸化物と、この遷移金属酸化物の表面に並列に形成され前記保持物質を前記遷移金属酸化物に架橋させる単分子の架橋分子とを具備していることを特徴とした有害物質の処理材。
【請求項2】 架橋分子は、無機的な結合にて遷移金属酸化物の表面に形成されていることを特徴とした請求項1記載の有害物質の処理材。
【請求項3】 架橋分子は、遷移金属酸化物の表面における法線方向に沿っていることを特徴とした請求項1または2記載の有害物質の処理材。
【請求項4】 液相および気相の少なくともいずれか1つの形態を採る被処理体に混入または混入するおそれのある有害物質を光触媒機能により不活性化する遷移金属酸化物の表面に単分子の架橋分子を並列に形成し、この架橋分子を介して特定の前記有害物質のみを保持する特異性を有した保持物質を前記遷移金属酸化物に架橋させることを特徴とする有害物質の処理材の製造方法。
【請求項5】 遷移金属酸化物の表面に無機的な結合にて架橋分子を形成することを特徴とする請求項4記載の有害物質の処理材の製造方法。
【請求項6】 シランカップリング剤を備えた架橋分子を、シランカップリング反応により遷移金属酸化物の表面に単分子のみ形成することを特徴とする請求項4または5記載の有害物質の処理材の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ウィルスや細菌、毒素などの特定の有害物質を不活性化する有害物質の処理材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、この種の有害物質の処理材としては、特願2000−321552号に記載のものが提案されている。
【0003】この特願2000−321552号に記載の処理材は、光触媒作用を有する遷移金属酸化物としての二酸化チタン膜の表面に、血液や血漿、血液製剤、体液などに含まれる生物学的危険性のある有害物質としてのウィルスや病原細菌などの生物および毒素を選択的に吸着する保持物質としての受容体などの抗体を、シランカップリング剤としてのアミノアルキルエトキシシランである3−アミノプロピルトリエトキシシラン(AminoPropylTriEthoxySilane:APTES)およびグルタルアルデヒドにて構成された架橋部としての架橋分子を介して架橋させている。
【0004】そして、この処理材の抗体に吸着されたウィルスや病原細菌などの生物および毒素を、二酸化チタン膜が持つ高い酸化力によって不活性化させている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の特願2000−321552号に記載された処理材では、二酸化チタン膜の表面にAPTESを導入する際に、このAPTESの膜構造を制御していないため、このAPTESが二酸化チタン膜の表面に膜状になって存在している。また、この二酸化チタン膜の表面に導入されたAPTESに、架橋分子であるグルタルアルデヒドを導入する際に、このグルタルアルデヒドも過剰にAPTESに結合してしまう。
【0006】この結果、二酸化チタン膜の表面に導入された膜状のAPTESおよびグルタルアルデヒドにより、例えばHIVなどの有害物質への二酸化チタン膜による光触媒作用が阻害されてしまい、この二酸化チタン膜による有害物質の不活性化が効率良くできないという問題を有している。
【0007】本発明は、このような点に鑑みなされたもので、遷移金属酸化物にて効率良く有害物質を不活性化できる有害物質の処理材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の有害物質の処理材は、液相および気相の少なくともいずれか1つの形態を採る被処理体に混入または混入するおそれのある特定の有害物質のみを保持する特異性を有した保持物質と、この保持物質にて保持した前記有害物質を光触媒機能により不活性化する遷移金属酸化物と、この遷移金属酸化物の表面に並列に形成され前記保持物質を前記遷移金属酸化物に架橋させる単分子の架橋分子とを具備しているものである。
【0009】そして、液相および気相の少なくともいずれか1つの形態を採る被処理体に混入または混入するおそれのある有害物質を光触媒機能により不活性化する遷移金属酸化物の表面に、特定の有害物質のみを保持する特異性を有した保持物質を、単分子の架橋分子にて並列に架橋させる。この結果、架橋分子の膜厚がより薄くなるから、保持物質が保持した有害物質の遷移金属酸化物の光触媒機能による不活性化が、架橋分子により阻害されにくくなる。よって、この遷移金属酸化物による光触媒機能により保持物質が保持した有害物質が効率良く不活性化可能となる。
【0010】請求項2記載の有害物質の処理材は、請求項1記載の有害物質の処理材において、架橋分子は、無機的な結合にて遷移金属酸化物の表面に形成されているものである。
【0011】そして、遷移金属酸化物の表面に無機的な結合にて架橋分子を形成することにより、この架橋分子が受ける遷移金属酸化物による光触媒作用の影響が少なくなるとともに、遷移金属酸化物の表面からの保持物質および架橋分子の離脱が防止可能となる。
【0012】請求項3記載の有害物質の処理材は、請求項1または2記載の有害物質の処理材において、架橋分子は、遷移金属酸化物の表面における法線方向に沿っているものである。
【0013】そして、遷移金属酸化物の表面における法線方向に沿って架橋分子をこの遷移金属酸化物の表面に形成することにより、この遷移金属酸化物の表面に単分子の架橋分子により保持物質をより複数架橋できる。このため、この保持物質による特定の有害物質の保持がより効率良くなるから、遷移金属酸化物の光触媒機能による有害物質の不活性化がより効率良くなる。
【0014】請求項4記載の有害物質の処理材の製造方法は、液相および気相の少なくともいずれか1つの形態を採る被処理体に混入または混入するおそれのある有害物質を光触媒機能により不活性化する遷移金属酸化物の表面に単分子の架橋分子を並列に形成し、この架橋分子を介して特定の前記有害物質のみを保持する特異性を有した保持物質を前記遷移金属酸化物に架橋させるものである。
【0015】そして、液相および気相の少なくともいずれか1つの形態を採る被処理体に混入または混入するおそれのある有害物質を光触媒機能により不活性化する遷移金属酸化物の表面に架橋分子を単分子のみ形成し、この架橋分子を介して特定の有害物質のみを保持する特異性を有した保持物質を遷移金属酸化物に架橋させる。この結果、架橋分子の膜厚がより薄くなるから、保持物質が保持した有害物質の遷移金属酸化物の光触媒機能による不活性化が、架橋分子により阻害されにくくなる。よって、この遷移金属酸化物による光触媒機能により保持物質が保持した有害物質が効率良く不活性化可能となる。
【0016】請求項5記載の有害物質の処理材の製造方法は、請求項4記載の有害物質の処理材の製造方法において、遷移金属酸化物の表面に無機的な結合にて架橋分子を形成するものである。
【0017】そして、遷移金属酸化物の表面に無機的な結合にて架橋分子を形成することにより、この架橋分子が受ける遷移金属酸化物による光触媒作用の影響が少なくなるとともに、遷移金属酸化物の表面からの保持物質および架橋分子の離脱が防止可能となる。
【0018】請求項6記載の有害物質の処理材の製造方法は、請求項4または5記載の有害物質の処理材の製造方法において、シランカップリング剤を備えた架橋分子を、シランカップリング反応により遷移金属酸化物の表面に単分子のみ形成するものである。
【0019】そして、シランカップリング剤を備えた架橋分子を、シランカップリング反応により遷移金属酸化物の表面に単分子のみ形成すれば、この架橋分子の遷移金属酸化物の表面への単分子形成が容易になる。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の一形態の有害物質の処理装置の構成を図面を参照して説明する。
【0021】図2において、1は処理装置本体で、この処理装置本体1は、例えばウィルスや細菌、毒素などで特に特異的な結合性もしくは、抗原性を示す構成蛋白を有した有害物質2が混入あるいは混入のおそれがあり、液相および気相の少なくともいずれか1つの形態を採る被処理体が内部に流入される複数の処理室3を備えている。
【0022】ここで、菌体において強い抗原性を示す部位は、表1に示すように主に3通りあり、菌種によって抗原性が異なる。例えば、細菌である大腸菌O−157は、O抗原の157番目を示す。これら特異的な抗原性を示すいずれの細菌が対象となる。また、ウィルスとしては、例えば表2に示すように、構成蛋白の中で強い結合性を示す蛋白を有するいずれのウィルスが対象となる。さらに、毒素としては、例えば表3に示す各種細菌産生の毒素の他に、ふぐ毒(テトロドトキシン)、蛇毒、サソリや蜂、クモなどの昆虫の毒など、特定の抗原性を示すいずれの毒素が対象となる。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】そして、処理装置本体1の各処理室3の両側には、面方向が互いに平行に離間された矩形平板状の処理材4がそれぞれ配設されている。これら処理材4は、光触媒機能を有する光触媒材料としての遷移金属酸化物である二酸化チタン(TiO)膜5が成膜、すなわちコートされた矩形平板状の基材6の表面に、架橋部としての架橋分子7を介して特定の有害物質2のみと結合する特異性を有した選択的受容体である保持物質8が結合されている。ここで、各基材6は、紫外線を透過し、図示しない光源からの光を導光する二酸化シリコン(SiO)にて成形されたシート状のガラスである。また、二酸化チタン膜5は、基材6の表面に常圧CVD(Chemical Vapor Deposition)法、すなわち化学蒸着法により成膜されている。
【0027】さらに、保持物質8の結合は、図1に示すように、例えば二酸化チタン膜5の表面に結合する水酸基にシランカップリング剤としてのアミノアルキルエトキシシランである3−アミノプロピルトリエトキシシラン(AminoPropylTriEthoxySilane:APTES)11が単分子のみ結合され、この結合されたAPTES11のアミノ基にグルタルアルデヒド12が単分子のみ結合され、この結合されたグルタルアルデヒド12の末端のアルデヒド基に蛋白質である保持物質8のアミノ基が結合され、シッフ塩基の還元、すなわち保持物質8を結合した後にAPTES11およびグルタルアルデヒド12間の結合およびグルタルアルデヒド12および保持物質8間の結合の二重結合を還元して結合される。
【0028】なお、この保持物質8としては、表1に示す細菌の特異的な抗原性に対する特異抗体、表2に示すウィルスの特異的な強い結合性を示す構成蛋白に対する受容体(レセプタ)、表3に示す毒素の抗体など、有害物質2のみと結合する特異性を有したアミノ基を有するものや特異性を有した蛋白質など、有害物質2を特異的に保持するものが用いられる。ここで、有害物質2の保持とは、吸着などの物理的な結合や化学結合などの化学的な結合など、有害物質2を留めておくいずれの形態をいう。
【0029】また、処理装置本体1には、処理室3内の処理材4に光を照射する図示しない光源を備えている。この光源は、例えばピーク波長が約600nmの可視光を照光する蛍光ランプや、波長が300nm以上420nm以下にピークを有するブラックライト、略185nmでもピークを有しオゾンを生成可能な低圧水銀ランプなどの紫外線を照射する紫外線ランプなどが用いられる。
【0030】なお、可視光から赤外線以上の長波長の光では、二酸化チタン膜5が励起されなくなって光触媒機能が得られなくなり、また、波長が短すぎると光により被処理体の構成成分や処理材4を損傷するおそれがあることから、可視光から紫外線の領域である略150nm以上略600nm以下にピーク波長を有する光源が用いられる。
【0031】次に、上記一実施の形態の処理材の製造方法を説明する。
【0032】まず、図3(a)に示すように、SiOガラスにて成形された基材6(縦10cm×横10cm×厚さ0.5mm)の片側の表面のみに、常圧CVD法にて二酸化チタン膜5をコートする。このとき、この二酸化チタン膜5により被処理体中における血漿成分などが変性されず、光触媒活性に必要な紫外線が吸収でき、十分な抗菌性を持ちつつ、この二酸化チタン膜5が基材6から剥離しない最適な膜厚となるように、この二酸化チタン膜5の膜厚を制御する。
【0033】この後、図3(b)に示すように、この二酸化チタン膜5が成膜された基材6を、架橋分子7の一部を構成するAPTES11を含有する脱水トルエン溶液の蒸気相内に設置し、シランカップリング反応による化学結合により、APTES11を二酸化チタン膜5の表面に固定化させる。
【0034】そして、このAPTES11が表面に固定化された基材6を、脱水エタノール、脱水トルエン、1mM NaOH水溶液、および1mM HNO水溶液を用いて数回洗浄した後、最後に超純水で洗浄し、窒素ガスを用いて乾燥させる。
【0035】ここで、基材6の二酸化チタン膜5の表面に固定化したAPTES11の膜厚を分光エリプソメトリーにて測定したところ、1.1±0.1nmと測定できた。この値は、APTES11単分子の長さ寸法1.1nmに一致するため、このAPTES11単分子のみが二酸化チタン膜5の表面上に、この二酸化チタン膜5の表面における法線方向に向かって規則的に配列していると推察できる。
【0036】次に、図3(c)に示すように、APTES11単分子が二酸化チタン膜5の表面に固定化された基材6に、0.1M リン酸カリウム緩衝液で濃度3.0%に調整したグルタルアルデヒド12溶液を添加して、室温にて十分に撹拌混合する。
【0037】さらに、図3(d)示すように、0.1M リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)にて十分に撹拌洗浄した後、蛋白質である保持物質8、例えばHIV(Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウィルス)が結合する受容体としてのT細胞表面の蛋白成分であるCD4([Cys(Bzl)]84-Fragment 81-92 シグマアルドリッチ社製)を添加して、4℃で24時間撹拌する。このとき、このCD4のアミノ基を架橋分子7のアルデヒド基に結合させ、基材6にCD4を保持させる。
【0038】この後、グルタルアルデヒド12がAPTES11に結合された基材6を脱水した後、この基材6を1M Tris HCl緩衝液(pH7.5)にて懸濁して、室温で1時間反応させ、グルタルアルデヒド12のアルデヒド基を不活化する。
【0039】さらに、図3(e)に示すように、この基材6にNaBHを添加して、この基材6のグルタルアルデヒド12のシッフ塩基を還元して安定化させて医科学用バイオリアクターである処理材4を調製する。
【0040】次に、上記一実施の形態の被処理体の処理動作を説明する。
【0041】まず、例えば血液や血液成分、血液製剤などの液体や空気などの気体である被処理体からの除去対象となる有害物質2が示す特異的な抗原性に対する保持物質8を有した処理材4を基材6の表面に設け。この基材6を処理装置本体1の各処理室3内に設置する。
【0042】この後、これら各処理室3それぞれの内部に被処理体を所定の流量で流入させるとともに、光源を照光する。
【0043】このとき、この被処理体の流入により、被処理体内に混入する有害物質2が処理材4の保持物質8に吸着などにて結合して保持されることにより不活性化され、この有害物質2が被処理体から除去される。
【0044】さらに、保持物質8に保持されて不活性化された有害物質2は、光源から光が照射された二酸化チタン膜5の光触媒機能による強い酸化力にて分解される。
【0045】すなわち、光源からの光が照射された二酸化チタン膜5の表面に付着する水分(H2O)や空気中の水分がこの二酸化チタン膜5に衝突することによりヒドロキシラジカル(OH)を生成する酸化反応が生じるとともに、酸素が衝突することによりスーパーオキサイドアニオン(2-)が生成する還元反応が生じる光触媒作用が起こる。
【0046】この光触媒作用により、被処理体が浄化され、例えば有害物質2による発病などが確実に防止される。
【0047】次に、上記一実施の形態の処理材の作用を実験例を参照して説明する。
【0048】(実験例1)まず、処理材4による抗HIV評価について実験した。
【0049】上述の処理材の製造方法にて作製した基材6の二酸化チタン膜5を上方に向けた状態で、この基材6を図示しないウェルプレート(24ウェル)内に置き、HIV溶液を500μl加えた。
【0050】このとき、このHIV溶液の調整は、培養液(RPMI-1640 MEDIUM ,SIGMA CHEMICAL CO.)中に、HIV(HIV−1)を添加して、p24タンパク濃度が100μg/mlとなるようにする。
【0051】この後、内部に基材6が設置されたウェルプレートを図示しない振盪培養器に設置して、この振盪培養器にてウェルプレートを振盪させながら、波長300〜400nmの紫外線(ブラックライト使用)を15、30、60分間それぞれ照射した。このとき、基材6の二酸化チタン膜5に照射される紫外線強度を350±20μW/cmとした(紫外線測定器 UM−360 ミノルタ株式会社製)。
【0052】さらに、紫外線を所定時間照射した後、ウェルプレートからHIV溶液を取り出して宿主細胞であるH9細胞と混和し、37℃、5%COのインキュベーターにて14日間培養した後、感染細胞より量産される培養上清中のp24抗原量を測定し、処理後の残存感染性ウィルス量を間接的に測定した。
【0053】
【表4】

【0054】この結果、表4および図4に示すように、二酸化チタン膜5に架橋分子7を単分子のみ固定化させた処理材4は、基材6の表面に二酸化チタン膜5を成膜した処理材、および二酸化チタン膜5の表面に複数の架橋分子7が直列に固定化された処理材4それぞれに比べ、紫外線照射時間に対する二酸化チタン膜5によるHIVの不活性化効率が向上することが確認できた。
【0055】(実験例2)次に、円筒形の基材6の内面に二酸化チタン膜5、架橋分子7および保持物質8を導入した処理材4による抗HIV評価について実験した。
【0056】内径2mmφ、厚み0.5mm、長さ200mmの基材6としての石英ガラス管の内面に、市販のTiOコーテイング液(ST−K01 石原産業株式会社製)を塗布し、大気雰囲気にて500℃、30分間保持の条件で二酸化チタン膜5を焼き付けた。
【0057】そして、APTES11の脱水トルエン溶液の蒸気相をつくり、この蒸気相を予め石英ガラス管に繋いでおいたチューブからこの石英ガラス管の内部に送り込み、この石英ガラス管の内部に焼き付けた二酸化チタン膜5の表面にAPTES11の単分子膜を形成した。
【0058】さらに、APTES11の脱水トルエン溶液の蒸気相の石英ガラス管内への送り込みが完了した後、脱水エタノール、脱水トルエン、1mM NaOH水溶液、および1mM HNO水溶液を用いて数回洗浄した後、最後に超純水で洗浄し、窒素ガスを用いて乾燥させる。
【0059】ここで、APTES11が単分子膜となっていることを検査するために、石英ガラス管の内面において分光エリプソメトリーにてAPTES11の膜厚を測定したところ、1.1±0.2nmであると確認できた。この値は、APTES11単分子の長さ寸法1.1nmに一致するため、この石英ガラス管の内部に形成したAPTES11が単分子膜であることが確認できた。
【0060】この後、この石英ガラス管の内部に形成したAPTES11にグルタルアルデヒド12を化学的に結合させた後、このグルタルアルデヒド12にCD4を結合させた。
【0061】次いで、内部に焼き付けられた二酸化チタン膜5に架橋分子7にてCD4が固定化された石英ガラス管である試料の一端に滅菌済みの図示しないディスポーザブルチューブを取り付け、図示しない輸液ポンプにて200ml/hrの速さでHIV液を送った。
【0062】ただし、試料としての石英ガラス管には、予め培養液(RPMI-1640 MEDIUM ,SIGMA CHEMICAL CO.)を充填しておき、この石英ガラス管内の二酸化チタン膜5およびCD4を常時湿らせておき、この石英ガラスの流出側には、滅菌済みの図示しない採取容器を設置しておく。
【0063】さらに、輸液ポンプを作動させると同時に、石英ガラス管に波長300nm〜400nmの紫外線を強度350±20μW/cmで照射した(紫外線測定器UM−360 ミノルタ株式会社製)。
【0064】そして、試験開始から30分経過した後に、採取容器に溜まった液体から、500μlずつ10検体サンプリングし、これら10検体それぞれに宿主細胞であるH9細胞を混和し、37℃、5%COのインキュベーターにて14日間培養した後、感染細胞より量産される培養上清中のp24抗原量を測定し、処理後の残存感染性ウィルス量を間接的に測定した。
【0065】この結果、10検体すべてにおいて、HIVが不活化していることが判明した。
【0066】(実験例3)次に、架橋分子7の膜厚による二酸化チタン膜5の光触媒作用について実験した。
【0067】石英ガラスにて板状(縦10mm×横10mm×厚さ0.5mm)に成形された基材6の片面に、常圧CVD法にて二酸化チタン膜5を成膜し、この二酸化チタン膜5の表面に複数の架橋分子7が直列的に接続されこれら架橋分子7にCD4が固定化された処理材4と、上述の処理材4の製造方法にて作製した処理材4とのそれぞれに波長300nm〜400nmの紫外線を強度2000μW/cm、120分間の条件で500μlの超純水中で照射した。
【0068】この後、この超純水から取り出したそれぞれの処理材4それぞれを、タンパクの染色剤であるクマシーブリリアントブルー(CBB)液に浸漬した。
【0069】この結果、複数の架橋分子7が直列的に二酸化チタン膜5の表面に固定化された処理材4は、CBB液に染色されなかったのに対し、単分子の架橋分子7を並列に二酸化チタン膜5の表面に固定化した処理材4は、CBB液によって染色されることが確認できた。
【0070】すなわち、単分子の架橋分子7を並列に二酸化チタン膜5の表面に固定化した処理材4は、上記条件の比較的強い紫外線を照射しても、この処理材4の二酸化チタン膜5の表面からCD4が離脱しないことを示唆している。
【0071】これは、図1に示すように、二酸化チタン膜5の表面にAPTES11による単分子膜が形成され、このAPTES11と二酸化チタン膜5との界面がSi−O結合、すなわち無機的な結合で結ばれているため、架橋分子7が受ける二酸化チタン膜5による光触媒作用の影響が少なくなるとともに、この二酸化チタン膜5からの架橋分子7およびCD4の離脱が起こらなかったものと推察できる。
【0072】上述したように、上記一実施の形態によれば、図5のAFM(Atomic Force Microscope)像に示す処理材4の二酸化チタン膜5の表面に、架橋分子7の一部を構成するAPTES11を単に導入させると、図6に示すAFM像のように、このAPTES11が明らかに多分子膜となって二酸化チタン膜5の表面に固定化されている。
【0073】さらに、図7に示すAFM像のように、二酸化チタン膜5の表面に多分子膜として導入されたAPTES11の表面に架橋分子7の一部を構成するグルタルアルデヒド12を化学的に結合させると、このグルタルアルデヒド12自体の厚みにより、二酸化チタン膜5の表面に固定化させた架橋分子7の厚みがさらに増すこととなる。
【0074】したがって、この二酸化チタン膜5の表面に多分子膜状のAPTES11およびグルタルアルデヒド12を導入させた後に、図8に示すAFM像のように、このグルタルアルデヒド12に保持物質8としてのCD4を結合させると、APTES11およびグルタルアルデヒド12自体の厚みにて紫外線が二酸化チタン膜5に透過しにくくなるから、CD4が保持した有害物質2としてのHIVなどのウィルスに対する殺菌作用、すなわち二酸化チタン膜5の光触媒活性が低下してしまう。
【0075】そこで、二酸化チタン膜5の表面における法線方向に沿った状態で、この二酸化チタン膜5の表面に単分子のAPTES11を並列に導入させて固定化させた後、これら単分子構造のAPTES11それぞれに単分子のグルタルアルデヒド12を化学的に結合させ、これら単分子構造のグルタルアルデヒド12それぞれにCD4を結合させて、これらAPTES11およびグルタルアルデヒド12にてCD4を二酸化チタン膜5の表面に架橋させる。
【0076】すると、APTES11およびグルタルアルデヒド12による架橋分子7の厚みが可能な限り薄くなるから、二酸化チタン膜5への紫外線の透過を架橋分子7が阻害しにくくなるとともに、二酸化チタン膜5とCD4との間隔が狭くなるので、二酸化チタン膜5の光触媒作用によるCD4が保持したHIVの不活性化および無毒化効率を向上できる。また、APTES11へのグルタルアルデヒド12の過剰な結合を抑制できるから、これらAPTES11およびグルタルアルデヒド12による架橋分子7の膜厚を均一化できる。
【0077】さらに、図1に示すように、二酸化チタン膜5の表面に無機的な結合にてAPTES11が結合されているから、これら二酸化チタン膜5とAPTES11との結合界面が無機化される。この結果、このAPTES11が受ける二酸化チタン膜5による光触媒作用の影響が少なくなるとともに、この二酸化チタン膜5の光触媒作用によるAPTES11の劣化を抑制できるから、二酸化チタン膜5の表面からのAPTES11やグルタルアルデヒド12、CD4などの離脱を防止できる。
【0078】また、処理材4の二酸化チタン膜5の表面にシランカップリング剤であるAPTES11をシランカップリング反応による化学的な結合により導入させることにより、単分子のAPTES11のみが二酸化チタン膜5の表面に導入されるから、この二酸化チタン膜5の表面への単分子構造のAPTES11の導入を容易にできる。
【0079】なお、上記一実施の形態では、有害物質2としてウィルスであるHIVを対象として実験したが、表2に示すように、ウィルスは、特異的な受容体結合性もしくは抗原性を有し、これらに対する特異的な受容体もしくは抗体が存在し、このような特異的な結合性を示す蛋白質の保持物質8が存在するいずれのウィルスをも対象とできる。
【0080】また、表1および表3に示すように、細菌、毒素は特異的に抗原性を有し、この抗原性に対する特異的な抗体が存在し、この抗体に対して特異的に抗原性を示す蛋白質の保持物質8が存在するいずれの細菌、毒素をも対象とできる。
【0081】すなわち、このようなウィルス、細菌および毒素は、光触媒機能を有した二酸化チタン膜5に架橋分子7を介して所定の保持物質8を結合させることにより、この保持物質8にて容易に保持され、処理材4の二酸化チタン膜5による光触媒機能に特定の有害物質2の選択保持機能を付与できる。
【0082】そして、保持物質8としては、蛋白質に限らず架橋分子7の末端のアルデヒド基に結合するアミノ基を有するいずれの保持物質8でも適用できる。なお、蛋白質であればアミノ基を有するため、特異的な結合性もしくは、抗原性を有する構成蛋白を有したウィルス、細菌および毒素を対象とすれば、この構成蛋白を選択的に保持する受容体もしくは抗体も蛋白質であり、比較的に保持物質8を容易に調製できる。
【0083】さらに、APTES11をシランカップリング剤としてシランカップリング反応による化学結合により、処理材4の二酸化チタン膜5の表面に単分子の架橋分子7を導入したが、この二酸化チタン膜5の表面に単分子の架橋分子7が並列に導入できれば、APTES11以外のシランカップリング剤でも、さらにはどのような構成の架橋分子7でもよい。
【0084】また、光触媒機能を有する遷移金属酸化物として二酸化チタンを用いたが、光照射により強い酸化力を示すいずれの遷移金属酸化物でもできる。なお、上述のように、二酸化チタンは、光触媒機能が極めて強い酸化力を示すとともに安定性が高く、さらには常温空気存在化で表面に架橋分子7が結合するための水酸基を有することから、他の遷移金属酸化物より好ましい。また、他の遷移金属酸化物を用いる場合や表面に水酸基があまり存在しない二酸化チタンを用いる場合には、例えば酸により処理して表面に水酸基を形成させてから架橋分子7を結合させる。
【0085】さらに、架橋分子7としては、APTES11およびグルタルアルデヒド12を用いたものに限らず、保持物質8を二酸化チタン膜5の表面に結合できるいずれの構成でもよい。
【0086】そして、処理する被処理体に混入する有害物質2が複数存在する場合には、例えばそれぞれに対応する保持物質8を基材6に保持させたり、それぞれ異なる特定の有害物質2に対応する保持物質8を保持した処理材4にて処理すればよい。
【0087】さらに、被処理体を処理材4に接触させつつ光を照射して保持した有害物質2を不活性化する連続処理に限らず、光を照射することなく被処理体を処理材4と接触させて有害物質2を保持物質8に保持させ、被処理体の処理材4との接触を終了させてから光を照射して、予め保持して捕捉した有害物質2を不活性化する間欠処理でもできる。なお、この間欠処理では、光触媒作用による被処理体の構成成分の変性を確実に防止できるとともに、分解された有害物質2の一部の構成成分が剥離などして被処理体に再び混入することをも確実に防止できる。
【0088】そして、保持物質8を二酸化チタン膜5に結合させたが、例えば図示しないガラスビーズなどの表面に二酸化チタン膜5を設け、この二酸化チタン膜5の表面に保持物質8を結合させてもよい。
【0089】また、被処理体の構成成分が処理材4の二酸化チタン膜5に接触できない密な状態となるように、この処理材4の二酸化チタン膜5に架橋分子7や保持物質8を設けて、この二酸化チタン膜5を覆うなどしてもよい。この結果、被処理体の構成成分が二酸化チタン膜5に接触しない構成となるから、確実に被処理体の構成成分の変性を防止できる。
【0090】さらに、実験例2のように、チューブ状の石英ガラス管の内面に処理材4を結合させれば、この石英ガラス管自体が処理材4となるので、製造性が容易で軽量小型化が容易にできるとともに、汎用性を向上できる。
【0091】
【発明の効果】請求項1記載の有害物質の処理材によれば、単分子の架橋分子にて保持物質を遷移金属酸化物の表面に並列に架橋させれば、この架橋分子の膜厚がより薄くなるから、保持物質が保持した有害物質の遷移金属酸化物の光触媒機能による不活性化が架橋分子により阻害されにくくなるので、この遷移金属酸化物による光触媒機能にて保持物質が保持した有害物質を効率良く不活性化できる。
【0092】請求項2記載の有害物質の処理材によれば、請求項1記載の有害物質の処理材の効果に加え、遷移金属酸化物の表面に無機的な結合にて架橋分子を形成すれば、この架橋分子が受ける遷移金属酸化物による光触媒作用の影響が少なくなり、遷移金属酸化物の表面からの保持物質および架橋分子の離脱を防止できる。
【0093】請求項3記載の有害物質の処理材によれば、請求項1または2記載の有害物質の処理材の効果に加え、遷移金属酸化物の表面における法線方向に沿って架橋分子をこの遷移金属酸化物の表面に形成すれば、この遷移金属酸化物の表面に単分子の架橋分子により保持物質をより複数架橋できるので、この保持物質による特定の有害物質の保持、および遷移金属酸化物の光触媒機能による有害物質の不活性化それぞれをより効率良くできる。
【0094】請求項4記載の有害物質の処理材の製造方法によれば、遷移金属酸化物の表面に架橋分子を単分子のみ形成し、この架橋分子を介して保持物質を遷移金属酸化物に架橋させれば、架橋分子の膜厚がより薄くなるから、保持物質が保持した有害物質の遷移金属酸化物の光触媒機能による不活性化が架橋分子により阻害されにくくなるので、この遷移金属酸化物による光触媒機能により保持物質が保持した有害物質が効率良く不活性化できる。
【0095】請求項5記載の有害物質の処理材の製造方法によれば、請求項4記載の有害物質の処理材の製造方法の効果に加え、遷移金属酸化物の表面に無機的な結合にて架橋分子を形成すれば、この架橋分子が受ける遷移金属酸化物による光触媒作用の影響が少なくなり、遷移金属酸化物の表面からの保持物質および架橋分子の離脱を防止できる。
【0096】請求項6記載の有害物質の処理材の製造方法によれば、請求項4または5記載の有害物質の処理材の製造方法の効果に加え、シランカップリング剤を備えた架橋分子を、シランカップリング反応により遷移金属酸化物の表面に単分子のみ形成すれば、この架橋分子の遷移金属酸化物の表面への単分子形成を容易にできる。
【出願人】 【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
【識別番号】595167591
【氏名又は名称】山口 晃史
【出願日】 平成13年10月18日(2001.10.18)
【代理人】 【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄 (外2名)
【公開番号】 特開2003−128502(P2003−128502A)
【公開日】 平成15年5月8日(2003.5.8)
【出願番号】 特願2001−321168(P2001−321168)