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【発明の名称】 忌避剤組成物、これを用いた忌避塗料及び忌避方法
【発明者】 【氏名】先納 靖陛

【要約】 【課題】環境への負荷がほとんどなく、かつ、長期にわたって防汚効果を持続でき、広範囲の海洋生物に対する忌避効果を十分発揮しうる忌避剤組成物、忌避塗料及び忌避方法を提供することを課題とする。

【解決手段】忌避剤組成物にゲルマニウムホウ酸系ガラスを含有する。特にGeO−B−RO(RはLi、Na、K)系ガラスとする。また、上記の忌避剤組成物を含有する忌避塗料、さらに、当該忌避塗料を船舶等の表面に塗布し、塗膜を形成して海水中の海洋生物が船舶等に付着しないようにする忌避方法をも提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】ゲルマニウムホウ酸系ガラスを含有することを特徴とする忌避剤組成物【請求項2】GeO−B−RO系ガラスを含有することを特徴とする請求項1に記載の忌避剤組成物【請求項3】前記RはLi、Na、Kのうちいずれか1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の忌避剤組成物【請求項4】海洋生物に対して忌避効果あるいは抗菌効果を有する元素を含有することを特徴とする請求項1〜3に記載の忌避剤組成物【請求項5】前記元素は、Ag、Cu、Zn、Ti、Cr、Co、Ni、Cd、Sn、Pbのうちいずれか1種以上であることを特徴とする請求項4に記載の忌避剤組成物【請求項6】SiO、MgO、CaO、Alのうちいずれか1種以上をガラス中に含有することを特徴とする請求項1〜5に記載の忌避剤組成物【請求項7】請求項1〜6に記載の忌避剤組成物を含有することを特徴とする忌避塗料【請求項8】請求項7に記載の忌避塗料を、海水と接触する船舶、海洋構造物、魚網等の表面に塗布し、塗膜を形成することにより被覆することを特徴とする船舶、海洋構造物、魚網等の忌避方法
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、忌避剤組成物、忌避塗料及び忌避方法に関し、特に珪藻や褐藻などの藻類等の海洋生物が船舶の船底等に付着するのを防止するための忌避剤組成物、忌避塗料及び忌避方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、船舶の底面や、港湾施設・橋梁・テトラポッドなど海洋構造物の海水に接触する壁面、あるいは魚網等に、上記のような藻類あるいはフジツボなどの貝類が付着し、■船舶の底面に付着した場合には、船舶の海水摩擦抵抗が増大することにより燃料費が嵩む等の経済的損失、■海洋構造物の壁面に付着した場合には、損傷や資材の強度低下等が生じ構造物の保全上の多大な損失、■魚網に付着した場合は、網目の目詰まりにより網の中で魚が多量死する等の問題を起こしていた。そこで、このような付着を防ぐため、船舶の船底等にこれらの海洋生物を忌避しうる忌避剤、主にトリブチルスズやトリフェニルスズなどの有機スズ化合物を含有した船底忌避塗料を塗膜する方法が用いられた。しかし、忌避剤として有機スズ化合物を含有した塗料は毒性が強く、環境汚染や食物連鎖の悪化等を招くという問題点があったため、近年では使用禁止へ向け規制がなされている。そこで、このような有機スズ化合物に代わるものとして、亜酸化銅や亜鉛を忌避剤として配合する忌避塗料などの開発がなされたが、これもまた環境汚染につながるものであり、また、忌避効果が長期間持続しない等の問題点もあった。このような問題を解決したものとして、一価の銅を含有する溶解性ガラスを用いた防汚剤(特開昭62−158202号公報)および防汚塗料(特開昭63−48366号公報)が提供された。
【0003】一方、人工漁礁関係の分野においては、海洋中の藻類の増殖を制御するものとして増殖材を使用する技術が用いられている。藻類などの増殖には、海洋中の窒素、リン、ケイ素、鉄などの成分が必要であり、これらを含有した増殖材を海中に沈め、これらの成分を溶出させることにより、藻類は栄養分を得て増殖しやすくなる。このような増殖材としては、従来より用いられている鋼材、石材、木材などに加え、ガラス質材料を用いることも公知である。また、技術論文によれば、植物プランクトンが異常に増殖したために海水が変色する現象である赤潮被害を低減するため、ガラス質材料に種々の元素を包含させて植物プランクトンの増殖への影響を調査した結果、種の違いによって、鉄やリンを包含させると増殖促進効果がみられるが、ゲルマニウムを包含させると主に珪藻類の増殖抑制効果がみられたことが報告されている(生物工学会誌第76巻、第4号、153−157、1998)。ここでは、ゲルマニウムを溶出させる増殖材としてGeO−SiO−NaO系のガラスを用いることが公知となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記の一価の銅を含有する溶解性ガラスを用いた防汚剤は、防藻効果に優れ、長期的に効果が持続されるが、環境への負荷が依然あり、かつ、単独でも併用しても特定の海洋生物の付着防止にしか効果がないという新たな問題があった。一方、上記のゲルマニウム溶出材としてGeO−SiO−NaO系ガラスを用いて藻類の増殖を抑制させることはできるが、これは栄養分であるケイ素を含むものであるので、抑制効果は未だ好ましくないことがわかった。そこで、本発明は、重金属化合物に代わる忌避剤であって環境への負荷がほとんどなく、かつ、長期にわたって忌避効果を持続でき、広範囲の海洋生物に対する忌避効果を十分発揮しうる忌避剤組成物、忌避塗料及び忌避方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の忌避剤組成物は、ゲルマニウムホウ酸系ガラスを含有することを特徴とする。前述のように、藻類等の海洋生物は海水中の窒素、リン、ケイ素、二価の鉄、マンガンなどを栄養分として増殖している。一方、ゲルマニウムはケイ素と同族元素であるため、その性質がよく似ている。本発明の忌避剤組成物では、ゲルマニウムを包含したガラスを用いており、海水中においてガラスからゲルマニウムが溶出されることにより、藻類はゲルマニウムとケイ素の区別がつかず体内に取り込んでしまうことになる。が、ゲルマニウムは栄養とはならないため藻類は枯渇してしまい、これにより、増殖を抑制することができるものである。
【0006】また、ガラス組成としてホウ酸(ホウ素)を含めることとしたのは、ケイ素はガラスを生成し易い酸化物の1つでありガラスの主成分となるものであるが、前述のように藻類のような海洋生物にとっては栄養分となるため、これを含めたのでは増殖を抑制するには効果的でない。この点、ホウ素はケイ素と異なり藻類にとって栄養分とならず、かつ、ホウ素自身が海洋生物に対する忌避効果あるいは抗菌効果を有しているため、忌避剤として用いるのに最適だからである。したがって、ゲルマニウムホウ酸系ガラスは、GeO−SiO−NaO系のガラスと異なり、ケイ素(Si)を含まないので、藻類の増殖を抑制する効果が大きい。加えて、珪藻類のみならず、貝類等の海洋生物に対しても忌避効果が認められることがわかっている。
【0007】ここで、ゲルマニウムを忌避剤に含めるのにガラスの成分として含めることとしたのは、海水に水溶液で散布すると、拡散してしまうため忌避効果を長期的に担保することが困難で、この点、ガラスの成分として構成させるとその緩効的な溶出性能により忌避効果を長期に持続させることが可能だからである。すなわち、ガラスは、ガラス成分の組成比によってその溶解を制御することができるため、溶解しやすいガラスを使用することにより、ゲルマニウムの溶出を促進することができる。ガラスは、一般にSiO、B、Pなどの網目形成酸化物と、NaO、KO、CaOなどの網目修飾酸化物とから形成される。SiOを多く含むガラスは、網目形成元素であるケイ素の全てが酸素と強く結びついた共有結合による網目構造であり、化学的耐久性が強く、溶解しにくい。これに対して、Bを多く含むガラスは、同様に網目構造を作るが、化学的耐久性が弱く、溶解しやすい。また、NaO、KO、CaOを多く含むガラスは、網目修飾元素であるナトリウムやカリウム、カルシウムと酸素との結びつきが弱く、海水に浸漬すると水のOH基と結合しNaOHやKOHを形成してSiO等の共有結合を徐々に切断し、このように水との反応によって共有結合がなくなっていくため、ガラス成分が溶解しやすいものである。したがって、このようなガラスの溶解性を利用し、ガラスにゲルマニウムを含めることにより、ゲルマニウム成分も他のガラス成分の溶解に応じてガラス表面から徐々に溶出してくることになり、これにより忌避効果を長期にわたって持続させることができる。
【0008】上述したように、ケイ素(SiOとして)はガラスに多く含むと溶解しにくいガラスになってしまうが、ホウ素(Bとして)は多く含んでも溶解しやすい。また、ホウ素自身に忌避効果があるため、多く含んだ方が忌避効果が増す。この結果、ゲルマニウムは非常に高価であるため忌避剤に用いることは実用的でないと考えられてきたが、ガラスにケイ素ではなく、ホウ素を含めることによって、ゲルマニウムの重量%を少なくすることができ、実用化することが可能となった。ガラス組成としてホウ素を含めることによってはじめて、ゲルマニウムを含むガラスを忌避剤として利用することが可能となったのである。
【0009】忌避剤組成物としてゲルマニウムホウ酸系ガラスを単独で使用してもよいし、後述する忌避効果元素(Ag、Cu、Znなど)の他、たとえば、公知の忌避材料である亜酸化銅系ポリマーやシリコーン樹脂等を混合して使用しても良い。他の物質と混合する場合のゲルマニウムホウ酸系ガラスの割合は、忌避剤組成物全体に対して、0.5〜50%、好ましくは1〜20%とするのが望ましい。少なすぎるとゲルマニウムホウ酸系ガラスの効果が発現し難く、逆に多すぎると混合がうまくいかないからである。
【0010】本発明の忌避剤組成物は後述するように塗料に添加して使用するほか、テトラポッドや橋梁などの海洋構造物に直接貼り付けたり、海洋構造物自体の原料の中に含めて使用したりすることもできる。ゲルマニウムホウ酸系ガラスは、ビー玉状、おはじき状、シート状などの定形のものや、カレットのような不定形のもの、微粉末状にまで粉砕したもの等どのような形態であっても良い。たとえば、塗料に添加する場合は10μm程度以下の微粉末状にしたものが適しており、また、テトラポッドのような海洋構造物に直接貼り付ける場合にはシート状に成形するのが適している。さらに、数mm程度の粒状にしてセメントに混ぜ合わせ、これを使用して海洋構造物自体を作り上げることも可能である。
【0011】また、本発明は、GeO−B−RO系ガラスを含有することを特徴とする。この成分比は、GeOは1〜40重量%、Bは30〜80重量%、ROは5〜60重量%とするのが望ましい。GeOがこれ以上だと、価格的に実用化になじまず、BとROはこの範囲で組成を調節し、ガラスの溶解性を制御することができる。
【0012】さらに、前記RはLi、Na、Kのうちいずれか1種以上であることが好ましい。ガラスには一般に、融点及び粘性を引き下げる等の目的でアルカリ性の混合物を含有するが、上記以外のアルカリ成分、たとえば、RbO(酸化ルビジウム)、CsO(酸化セシウム)などは高価であり、一般的・実用的でないからである。
【0013】また、ガラスの化学的耐久性を制御する目的で、SiO、MgO、CaO、Alのうちいずれか一種以上をガラス中に導入しても良い。ガラスを微粉末状等にした場合にガラス組成によっては吸湿性が激しく室内保管も困難である場合があるので、吸湿性あるいは耐水性等の化学的耐久性を改善するために導入するものである。この場合、SiOを導入する場合は0.5〜20重量%の範囲で、MaO及び/又はCaOを導入する場合は1〜20重量%の範囲で、Alを導入する場合は0.5〜20重量%の範囲とするのが望ましい。なお、SiOは耐水性の向上やGeOの含有率の相対的な低下が見込めるので導入するのが好ましいが、一方で海洋生物にとって栄養分とならない程度の微量であることも望まれるため、上記の範囲とするのがよい。
【0014】上述してきた本発明の忌避剤組成物には、海洋生物に対して忌避効果あるいは抗菌効果を有する元素(以下「忌避効果元素」という)を含むこともできる。これにより、海洋生物の付着を防止する効率があがり、また、従来の重金属化合物を忌避剤として使用するものに比べると、有害物質が少量で足りるため、環境への負荷を少なくすることができる。また、これにより、さらに広範囲の海洋生物に対しての忌避効果が期待できる。前記忌避効果元素は、Ag、Cu、Zn、Ti、Cr、Co、Ni、Cd、Sn、Pbのうちいずれか1種以上であることが望ましい。これらの元素は、海洋生物への忌避効果が高いからである。これらの忌避効果元素はガラス中に含有させ、ガラスの溶解とともにこれら忌避効果元素を放出するのが好ましい。これらの忌避効果元素をガラスに含有させず別個に忌避剤組成物に混合する場合、AgOやAgCl、CuO等の一般的な化合物状態では緩効的な溶出が期待できず、緩水溶性材料にすればコストアップに繋がってしまうからである。
【0015】本発明の忌避塗料は、上述のような忌避剤組成物を含有することを特徴とする。さらに、本発明の忌避方法は、上記のような忌避塗料を海水と接触する船舶、海洋構造物、魚網等の表面に塗布し、塗膜を形成することにより被覆することを特徴とする。このような忌避塗料は、船舶の船底や橋梁・テトラポッドなどの海洋構造物の壁面、魚網などに使用することができる。海水と接触するこれらの表面に本発明の忌避塗料を塗布することにより、ガラスが溶解してガラス中のゲルマニウムが海水中に溶出される。このゲルマニウムを藻類等が栄養分と間違えて体内に摂取し、栄養不足により枯渇する。また、忌避剤に含まれるホウ素あるいは忌避効果元素も同様に海水中に溶出されることにより、その忌避効果により海洋生物の付着防止を促進することができる。塗料に含有する場合は、忌避剤組成物は微粉末状、特に10μm以下の粒度に調整することが好ましい。塗料としたときにはスプレーで塗布する方法が一般的であるが、スプレーノズルに詰まらず、かつ、凹凸無く仕上げられるガラス粒度が必要だからである。
【0016】本発明の忌避剤を添加する塗料の組成物としては、通常使用されている塩化パラフィン等の可塑剤、有機系・無機系の各種顔料、脂肪族系・芳香族系等の各種溶剤などを用いることができる。また、水溶性の塗料が望ましい。忌避塗料は、塗料の成分が海水中に溶出することにより、海洋生物の付着を防止するという効果を発揮することができるからである。
【0017】塗料組成物は、当該塗料製造分野において公知の方法、すなわち適量に配合された上記の組成物を攪拌・混合することにより製造する。忌避塗料に、本発明の忌避剤組成物を含有する割合は、塗料組成物全体に対して1〜20%とすることが望ましい。ゲルマニウムは高価であるため、塗料への添加率は効果が発揮できる限界まで引き下げることが望ましいからである。
【0018】
【発明の実施の形態】
【実施例】以下、実施例をあげて本発明をさらに説明する。本発明の忌避剤組成物であるゲルマニウムホウ酸系ガラスの忌避効果を調べる実験を行った。
<実施例>実施例の忌避剤組成物として、GeO−B−NaO系ガラスのガラス片を使用した。この形状は、厚さ10mm、直径50mmの円形板状ガラスである。成分比は、GeOが27.7重量%、Bが60.0重量%、NaOが12.3重量%である。
<比較例>比較例として、ゲルマニウムケイ酸系ガラス、リチウムケイ酸系結晶、ほう珪酸系分相ガラスのガラス片を使用した。この形状は実施例と同じである。それぞれの成分比は、以下の通りである。
<ゲルマニウムケイ酸系ガラス>GeOが58.6重量%、SiOが33.7重量%、NaOが7.7重量%である。
<リチウムケイ酸系結晶>LiOが19.9重量%、SiOが80.1重量%である。このリチウムケイ酸系結晶は、先に同じ成分比となるガラス質材料を作成した後に、600℃にて1時間熱処理することで2SiO−LiOの結晶相を析出させた。
<ほうケイ酸系分相ガラス>SiOが49.9重量%、Bが15.9重量%、NaOが5.0重量%、KOが2.2重量%、CaOが17.4重量%、Alが17.4重量%である。このほうケイ酸系分相ガラスは、上記の成分比となるよう原料を調合し、1450℃で溶融してガラス化した。このガラス質材料を、800℃で1時間熱処理をし、SiOリッチ相とB−NaOリッチ相とに分相した分相ガラスを得た。
【0019】上記のような実施例と比較例とをそれぞれ藻類が存在する海水を入れた容器に3ヶ月間浸漬して、藻類の付着の程度について観察した。3ヶ月後には、表1に示すような結果が得られた。表1にあるように比較例はいずれも、ガラス片が見えなくなるくらいの藻類の付着が見られた(効果△)。これに対して実施例はガラス片にごくわずかな付着が見られる程度であった(効果◎)。この実験により、ゲルマニウムホウ酸系ガラスは、他の比較例と比べ忌避効果が著しく優れていることがわかった。
【表1】

【0020】
【発明の効果】本発明によれば、船舶の船底等に藻類等の海洋生物が付着するのを防止することができ、かつ、従来のような環境汚染の心配がない。すなわち、■栄養分ではないゲルマニウムを使用することによりこれを摂取する藻類等を枯渇させることができると同時に、■ホウ素を用いることで栄養分を溶出させないので一層の忌避効果があり、かつ、ホウ素自身が有する忌避効果をも利用でき、■これらをガラスとして忌避剤に含有することで、このような従来にない忌避効果を長期にわたって持続させることができる。加えて、■藻類のみならず貝類も忌避することができ、さらに、一般的な忌避効果元素をガラス中に含有することもできるので、より広範囲の海洋生物に対しても忌避効果が期待できる。
【出願人】 【識別番号】000222222
【氏名又は名称】東洋ガラス株式会社
【出願日】 平成13年10月11日(2001.10.11)
【代理人】 【識別番号】100088823
【弁理士】
【氏名又は名称】神戸 真 (外1名)
【公開番号】 特開2003−119103(P2003−119103A)
【公開日】 平成15年4月23日(2003.4.23)
【出願番号】 特願2001−313580(P2001−313580)