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【発明の名称】 植物病害防除方法
【発明者】 【氏名】湊 莞爾

【氏名】茂田 勝美

【氏名】駒場 雅彦

【要約】 【課題】環境保全上有効で、防除効果が長続きし、しかも防除対象となる病害の範囲が広く、更に、播種前に種子を保存する場合でも安定して病害防除効果を持続するような取り扱い性に優れた植物病害の防除方法を提供する。

【解決手段】植物病害の病原体に対し拮抗性を持つ有効微生物と、植物の全身獲得抵抗性を誘導する誘導物質とで、種子を処理する。有効微生物としては種子から分離されたものが好ましく、全身獲得抵抗性誘導物質としては、アミノ酪酸、含硫アミノ酸、ケイ素、オリゴサッカライド、リン酸、脂肪酸、フェノール化合物、エリスリトール、ステビオール、サッカリン、ジャスモン酸などが挙げられる。これらの種子への処理方法としては、水溶液への浸漬、フィルムコーティング、ペレット造粒、プライミング処理などが挙げられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】植物病害の病原体に対し拮抗性を持つ少なくとも一種類の有効微生物と、植物の全身獲得抵抗性を誘導する少なくとも一種類の誘導物質とで、種子を処理することを特徴とする植物病害防除方法。
【請求項2】前記有効微生物が種子からスクリーニングされたものであることを特徴とする請求項1記載の植物病害防除方法。
【請求項3】前記有効微生物と前記誘導物質の種子への処理方法が、水溶液への浸漬、フィルムコーティング、ペレット造粒およびプライミング処理よりなる群から選択された少なくとも1種の種子処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物病害防除方法。
【請求項4】前記有効微生物が、トリコデルマ(Trichoderma)属、グリオクラジューム(Gliocladium)属、ペニシリウム(Penicillium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、パントエア(Pantoea)属、レクレルシア(Leclercia)属、セラチア(Serratia)属およびタラロマイセス(Talaromyces)属よりなる群から選択された少なくとも1種類の微生物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の植物病害防除方法。
【請求項5】前記誘導物質が、アミノ酪酸、含硫アミノ酸、ケイ素、オリゴサッカライド、リン酸、脂肪酸、フェノール化合物、エリスリトール、ステビオール、サッカリンおよびジャスモン酸よりなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の植物病害防除方法。
【請求項6】防除する植物病害が種子病害である請求項1〜5のいずれかに記載の植物病害防除方法。
【請求項7】請求項1〜6のいずれかに記載の植物病害防除方法で処理された種子。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、植物病害の防除に関するものである。
【0002】
【従来の技術】野菜や草花などの園芸生産に使用する種子は、播種、育苗後に圃場や温室、ビニールハウス内の土壌あるいは水耕栽培用の培地に定植されたり、直接前述の土壌や培地に播種され栽培される。これらの播種される種子が十分な発芽力を持っていたとしても、播種前に病害に感染している場合がある。これらの種子に感染している病害は種子伝染性病害と呼ばれ、病害に感染した採種母本から種子に伝染したものである(農林種子学総論、161-183、中村俊一郎著、養賢堂、1985年;Seed Quality Basic Mechanisms and Agricultural Implications,160-171,Amarjit S.Basra ed.,Food Products Press,1995年;種子伝染性病の生態と防除、大畑寛一等編、社団法人日本植物防疫協会、1999年)。種子伝染性病害に感染した種子を園芸生産に利用すると、これらの病害感染種子から発病するのはいうまでもなく、育苗、栽培期間中に感染源となって本来無病であった苗、植物体にも病害が伝染し、園芸生産上極めて大きな損失となりやすい。また、圃場、温室、ビニールハウスの土壌や施設に病原菌や感染した作物残さが残ると、その後の栽培でも発病が見られることが多い。
【0003】以上のように園芸作物の種子が発芽し、生育する過程では様々な種子伝染性病害が発病する危険性があるため、実際現場では播種前の種子に熱や殺菌剤などの物理的、化学的な種子処理をしているのが現状である。また、種子の発芽後に土壌伝染性や空気伝染性の植物病害に感染、発病する場合もあることは言うまでもない。
【0004】上記のような種子に対する消毒処理や殺菌剤処理は、種子伝染性病害の防除に効果があるものの、以下のような欠点を有する。
【0005】つまり、・熱や強力な消毒剤の使用は、種子の発芽力に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0006】・熱や強力な消毒剤の使用は、種子表面あるいは内在する病原菌も含めてほとんどの微生物を死滅させるため、播種後の環境条件の中で、種子周囲の微生物相に影響を及ぼすことになり、種子外部からの病原菌の寡占を招きやすい。
【0007】・種子伝染性病のために処理される殺菌剤は、防除対象となる病原菌が特定されるため、防除対象以外の病害には効果が低い。複数の殺菌剤の混用も実施されているが、近年の環境保全への動きの中で過度な殺菌剤施用は好ましくない。また病原菌に薬剤耐性が生まれる可能性がある。
【0008】・種子伝染性のウイルス防除に対しては熱や強力な消毒剤が使用されているが、発芽への悪影響が懸念される。
【0009】・種子病害や発芽直後の苗立枯病の防除には効果があるものの生育後に感染する土壌伝染性病害や空気伝染性病害の防除効果が低い。
【0010】近年、作物の病害防除法として、環境保全に向けて従来の化学合成殺菌剤による処理とは異なる方法が研究、考案され、その一部として以下の方法が実施されている。
【0011】(1)バイオコントロールと称して、植物には病原性を持たないが病原菌に拮抗性を持つ有効微生物を作物や栽培培土に施用することで病害防除する方法(特許第2660317号「蛍光性細菌の活性維持法及び保存法並びにこの培養物からなる微生物資材」;特許第2614101号「新規微生物及びそれを用いた植物病害防除方法」;特許第2732905号「ウリ科作物の病害防除微生物および病害防除法」;特許第2939467号「ナス科植物の生育促進効果及び青枯病防除効果を示す細菌並びに栽培方法」;病害防除の新戦略、141-188、駒田旦・稲葉忠興他編、全国農村教育協会、1992年;農業環境を守る微生物技術、家の光協会、1998年;Seed Technology,Vol.20,2,198-208,1998年;微生物農薬、山田昌雄編、全国農村教育協会、2000年;微生物の資材化 研究の最前線、128-139、鈴井孝仁等編、ソフトサイエンス社、2000年)。
【0012】(2)全身獲得抵抗性(SAR;systemic acquired resistance)誘導と称して、植物本来の耐病性を非病原性の微生物や外生の物質で誘導する方法。ここで、全身獲得抵抗性とは、植物体の一部にストレスが与えられたときに、そのストレスに対する新たな抵抗性が全身に誘導させる現象をいい、植物の自己防御機構の1つである。そして、これらの全身獲得抵抗性を誘導する物質自体には病原菌に対する殺菌効果はないことが知られている(特許第2964144号「病気に対して植物体を免疫性にするための方法及び組成物」;特開平10−236909号;特開平11−29412号「ファイトアレキシン誘導剤」;特開2000−95609号;Horticultural reviews,Jules Janick ed.,John Wiley & Sons,Inc.,247-271,1997年;Induced Resistance to Disease in Plants,RaymondHammerschmidt, Joseph Kuc ed.,Kluwer Academic Publishers,1995年)。
【0013】上記(1)のバイオコントロールは、従来の植物病害防除法に比べて、もともと自然界に生息している微生物を利用しているため環境保全に有効である。また、有効微生物の拮抗性は特異的なものであること、有効微生物の菌株によっては免疫作用により植物に誘導抵抗性をもたらすことが知られている。これらの病害防除に利用される有効微生物は化学合成農薬とは違い、自らが増殖するので防除効果を長続きさせることができる。
【0014】作物収穫を目的とした農園芸生産における上記有効微生物の利用技術は、広く知られている(特開平5−51305号;特開平6−253827号;特開平7−25716号;特開平7−75562号;特開平9−224655号;特開平10−203917号;特開平11−4606号;特開平11−253151号;米国特許第4886512号;Annual Review of Phytopathology 31,53-80,Cook,R.J.,1993年;HortTechnology,2(3),345-349,M.B.Bennett,V.A.Fritz,N.W.Callan,1992年)。
【0015】また、上記(2)の植物の全身獲得抵抗性誘導では、防除対象となる病害の範囲が広く、生育した植物のウイルス感染に対しても防除できる可能性が高く、全身獲得抵抗性の誘導活性を高めた化学合成農薬の実用化も始められている。
【0016】しかしながら、植物病害防除に上記(1)、(2)の方法を利用しようとした場合には、以下のような問題がある。
【0017】(1)のバイオコントロールは、微生物間の相互作用を利用したものであるので、合成農薬のように劇的に植物病害を抑制しにくい。また、生きた微生物を利用しているだけに有効微生物の生存可否が重要であることは自明であるが、種子処理した場合、播種に供される種子の播種前の貯蔵、保管条件が有効微生物の生存条件と大きく異なる場合が多く、有効微生物の処理後に種子を貯蔵、保管した場合、有効微生物の生存率が低下しやすい。そのため、有効微生物を種子処理し、植物病害防除の目的で利用する場合、該微生物を処理した種子の保管にあたっては、湿度や温度等、従来の種子に比べて特別な取り扱いが必要で、貯蔵、保管期間も限定されるものと考えられている。
【0018】また、有効微生物自体に植物への免疫誘導力がある場合は、病原菌拮抗性によるよりも広範囲の植物病害防除に有効である可能性は高いが、先に述べた理由で有効微生物を処理した種子を長期間貯蔵、保管した後には有効微生物の生存率が低下し、期待した効果が得られないことになる。
【0019】さらに、有効微生物と従来の合成殺菌剤を併用する方法では、殺菌剤が有効微生物の生存率、活性を低下させるばかりではなく、もともとのバイオコントロール本来の目的が果たせないことになる。
【0020】(2)の全身獲得抵抗性を誘導する物質を利用する方法では、専用に化学合成され、高度に全身獲得抵抗性誘導の活性を持つ農薬や物質(今月の農薬、1999年、6月号、33-42)を種子処理し、植物病害防除に使用しようとした場合、すでに生長した植物体への茎葉散布施用とは異なり、植物組織としては未熟な幼根、子葉等に作用するために、発芽や初期生育に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0021】また、特開平6−239880号、特開平10−236909号、特開平11−29412号等には、全身獲得抵抗性誘導物質を使用し植物病害を防除する技術が開示され、特許第2717097号(植物を病気から保護するための組成物)、特開平3−133304号、特開平5−331016号、特開2000−95609号(植物病害の予防用組成およびその使用方法)、特開平8−104602号(植物の生体防御増強剤)、特開平5−331016号(ファイトアレキシンの誘導剤)等には、全身獲得抵抗性誘導物質で種子を処理し、植物病害を防除しようとする技術は開示されているが、全身獲得抵抗性誘導物質と前述の有効微生物を組み合わせて相乗的に植物病害を防除しようとする技術はなかった。
【0022】以上のように環境保全に留意し、従来の化学合成された殺菌剤処理とは異なる方法で種子を処理し、播種前に貯蔵、保管した場合でも安定して植物病害防除効果を長く持続するような有効な方法がないのが実情である。
【0023】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、環境保全上有効で、防除効果が長続きし、しかも、防除対象となる病害の範囲が広い植物病害の防除方法を提供するものであり、より好ましい態様として、播種前に種子を保存する場合でも安定して病害防除効果を持続するような取り扱い性に優れた植物病害の防除方法を提供するものである。
【0024】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記の点に鑑みて環境保全上有効な植物病害の防除方法を鋭意検討した結果、植物病害をもたらす病原菌に対して拮抗作用を持つ有効微生物、とりわけ種子から分離した有効微生物と、植物の全身獲得抵抗性を誘導する物質とを組み合わせて、種子処理することにより、所望の効果が得られることを見い出し、本発明に至った。
【0025】すなわち、本発明の植物病害防除方法は、植物病害の病原体に対し拮抗性を持つ少なくとも一種類の有効微生物と、植物の全身獲得抵抗性を誘導する少なくとも一種類の誘導物質とで、種子を処理するものである。
【0026】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0027】本発明で使用できる有効微生物としては、園芸作物の植物病害をもたらす病原体に対して拮抗性を持っているものであれば特に限定されないが、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属、グリオクラジューム(Gliocladium)属、ペニシリウム(Penicillium)属、タラロマイセス(Talaromyces)属などの糸状菌類、シュードモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、パントエア(Pantoea)属、レクレルシア(Leclercia)属、セラチア(Serratia)属、などの細菌類等が挙げられる。特に好ましくは、採種された野菜や草花などの種子から分離、即ちスクリーニングした有効微生物を使用することである。これらの有効微生物は、野菜や草花の栽培あるいは採種条件の中で増殖してきたものと考えられる。採種後に通常の条件で保存しておいた種子から分離した有効微生物は、播種を目的とする種子の通常の貯蔵、保管条件で長期間貯蔵、保管した後でも生存できる可能性が高く、また、発芽後の栽培環境下でも生存、増殖する可能性が高いことから、好ましい。
【0028】本発明ではまた、2種以上の複数の有効微生物を使用することも、有効微生物の病原菌に対する拮抗性を低下させない限り可能である。
【0029】特定の植物病害に対して拮抗性を持つ有効微生物は以下のようにして得ることが出きる。すなわち、種子や土壌などから単一に分離された糸状菌および細菌(以下、候補菌という。)を、防除の対象とする植物病害の病原菌と同一の培地上にて対峙もしくは交差するように塗抹し、病原菌の生育適温下にて数日間培養する(対峙培養)。培養後、双方の生育を観察して、病原菌の生育が候補菌によって明らかに抑制されているものを、拮抗性を持つ有効微生物として選択する(植物病原性微生物研究法、459−474、脇本哲監修、ソフトサイエンス社、1993年)。
【0030】例えば、本出願人は、特願2000−172313号(無病種子の生産方法)、特願2000−187893号(種子病害防除方法)において種子から採取した有効微生物が植物病害防除に有効であることを開示しているが、これらの有効微生物は、元々通常の貯蔵、保管条件で長期間貯蔵、保管されていた種子から採取されているため、播種に供される種子の通常の貯蔵、保管条件で長期間、生存でき、植物病害に対する拮抗性を維持できるものである。
【0031】本発明で使用できる全身獲得抵抗性誘導物質としては、種子に処理することにより植物の全身獲得抵抗性を誘導できるものであれば、特に限定されない。好ましくは、上記の有効微生物の病原菌に対する拮抗性を低下させず、種子の発芽や初期生育に悪影響、つまり発芽速度や発芽率の低下、初期生育の減退を招かない全身獲得抵抗性誘導物質を使用することである。このような全身獲得抵抗性誘導物質としては、アミノ酪酸、含硫アミノ酸、ケイ素、オリゴサッカライド、リン酸、脂肪酸、フェノール化合物、エリスリトール、ステビオール、サッカリン、ジャスモン酸等が挙げられる。アミノ酪酸としてはα−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸等が挙げられ、含硫アミノ酸としてはメチオニン、システイン等が挙げられる。ケイ素としてはシリカゲル、シリカゾル等が挙げられる(特開平10−114588号「肥料及びその使用方法」;特開平11−314986号「肥料及びその使用方法」)。脂肪酸としてはアラキドン酸、エイコサペンタエン酸等が挙げられ、フェノール化合物としてサリチル酸、サリチル酸ナトリウム、リグニン等が挙げられる。ステビオールには、その配糖体であるステビオシドも含まれる。サッカリンには、サッカリンナトリウム等のサッカリンアルカリ金属塩も含まれる。ジャスモン酸には、ジャスモン酸メチルの他、フェニルアラニン結合型ジャスモン酸、ロイシン結合型ジャスモン酸、イソロイシン結合型ジャスモン酸等のアミノ酸結合型ジャスモン酸も含まれる。
【0032】上記の全身獲得抵抗性誘導物質の処理量は、使用する物質の種類、対象とする種子の種類、処理方法等により異なり一概には言えないが、予め処理試験をすることで容易に決定できる。また、2種以上の全身獲得抵抗性誘導物質を使用することも、本発明の効果を妨げない限り可能である。
【0033】次に、本発明における有効微生物と全身獲得抵抗性誘導物質の種子への処理方法であるが、種子表面に有効微生物と全身獲得抵抗性誘導物質の両方を付着させるか、種子内部に吸収させるなど、何らかの方法で播種前に種子へ処理できれば良い。
【0034】該処理方法としては、例えば、(1) 水溶液への浸漬、(2) フィルムコーティング、(3) ペレット造粒、(4) プライミング処理などが挙げられる。これらの処理方法は、種子への悪影響が認められない限り、適宜に組み合わせても、あるいは複数回処理してもよい。より具体的には、上記方法(1)では、有効微生物と全身獲得抵抗性誘導物質を混合した水溶液に種子を浸漬すればよい。上記(2)の方法では、公知の方法(特許第2520309号)で種子をペレット加工する際に、タルク等の造粒材中に目的とする有効微生物と全身獲得抵抗性誘導物質を混合してもよく、あるいはまた、予め有効微生物の培養液へ種子を浸漬した後、全身獲得抵抗性誘導物質の溶液を使用して造粒してもよい。上記(3)の方法では、公知の方法(特開平11−146707号)でフィルムコーティングする際にコーティング液中に有効微生物と全身獲得抵抗性誘導物質を混合すればよい。上記(4)の方法では、公知の方法(特開平9−220002号)で発芽改善処理(プライミング処理)をする際に、有効微生物を含んだ水溶液を使用して、該水溶液を吸収させた担体に種子を接触させて吸水処理を行うと、該吸水処理中に有効微生物が増殖して種子の表面や内部に良く付着するので、該吸水処理の終了後に、種子に全身獲得抵抗性誘導物質を処理すればよい。
【0035】なお、本発明の植物病害防除方法においては、本発明の効果を妨げない範囲で、殺菌剤、殺虫剤、植物生育調節剤等の農薬、肥料を併用してもよい。
【0036】本発明が利用できる園芸作物は、特に限定されないが、例えばタマネギ、ネギ等のユリ科作物、ニンジン、セルリー、ミツバ等のセリ科作物、キャベツ、ブロッコリ、ハクサイ、ダイコン、カブ等のアブラナ科作物、レタス、サラダナ、シュンギク、ゴボウ等のキク科作物、ホウレンソウ、フダンソウ、テンサイ等のアカザ科作物、トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ、トルバム、アカナス、タバコ等のナス科作物、キュウリ、メロン、スイカ、カボチャ、カンピョウ等のウリ科作物、スィートコーン等のイネ科作物、エンドウ、ソラマメ、インゲン、ダイズ等のマメ科作物等の食用園芸作物およびパンジー、ペチュニア、アフリカホウセンカ、ユーストマ、ナデシコ、ハボタン、ストック、プリムラ、ヒマワリ、ジニア、マリーゴールド、アスター、キンギョソウ、シクラメン、バーベナ等の草花類の種子をあげることができる。
【0037】本発明で防除できる植物病害は特に限定されないが、例えばキャベツの黒斑病(Alternaria brassicae)、黒すす病(Alternaria brassicicola)、べと病(Peronospora brassicae)、黒斑細菌病(Pseudomonas syringae p.v. maculicola)、黒腐病(Xanthomonas campestris p.v. campestris)、根朽病(Phoma lingam)やダイコンの黒斑病(Alternaria japonica, Alternaria brassicae)、萎黄病(Fusarium oxysporum f.sp.raphani)、黒腐病(Xanthomonas campestris p.v. campestris)、ハクサイの黒斑病(Alternaria brassicae)、黒腐病(Xanthomonas campestris p.v. campestris)、黄化病(Verticillium dahliae)、ニンジンの黒葉枯病(Alternaria dauci)、黒斑病(Alternaria radicina)、斑点細菌病(Xanthomonas campestris p.v.carotae)、セルリーの葉枯病(Septoria apii)、菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)、葉枯細菌病(Pseudomonas syringae p.v. apii)、タマネギの黒斑病(Alternaria porri)、灰色腐敗病(Botrytis allii)、菌糸性腐敗病(Botrytisbyssoidea)、乾腐病(Fusarium oxysporum f.sp.cepae)、べと病(Peronospora destructor)、ホウレンソウのべと病(Peronospora farinosa)、萎凋病(Fusarium oxysporum f.sp.spinaciae)、炭そ病(Colletotrichum dematium)、トマトの輪紋病(Alternaria solani)、かいよう病(Clavibacter michiganensis subsp. michiganensis)、斑点細菌病(Xanthomonas campestris p.v.vesicatoria)、ナスの褐斑病(Alternaria solani)、褐紋病(Phomopsis vexans)、キュウリの黒斑病(Alternaria cucumerina)、斑点細菌病(Pseudomonas syringae p.v.lachrymans)、褐斑細菌病(Xanthomonas campestris p.v.cucurbitae)や、草花類では例えばジニアの黒斑病(Alternaria znniae)、斑点細菌病((Xanthomonas campestris p.v. znniae)、ヒマワリの菌核病(Sclerotinia sclerotiorum)、黒斑病(Alternaria helianti)やハボタンの黒腐病(Xanthomonas campestris p.v. campestris)等の種子伝染性病害があげられる。さらに、苗立枯病(Rhizoctoria属菌、Pythuium属菌)、萎凋病(Fusarium属菌、Verticillium属菌)、立枯病(Gaeumannomyces属菌)、アブラナ科野菜根こぶ病(Plasmodiphora brassicae)、べと病(Pernospora属菌)、疫病(Phytophthora属菌)、青枯病(Pseudomonas solanacearum)、軟腐病(Erwinia carotovora)、根頭がんしゅ病(Agrobacterium tumefaciens)、白紋羽病(Rosellinia necatrix)、白絹病(Sclerotiumrolfsi)、立枯病(Aphanomyces)等やSphaerotheca属菌、Erysiphe属菌、Uncinula属菌、Phyllactinia属菌、Podosphaera属菌、うどんこ病(Microsphaera属菌)、灰色カビ病(Botrytis属菌)、炭そ病菌(Colletotrichhum属菌)、つる割病(Fusarium属菌)、各種ウィルスによるモザイク病等の植物病害も本発明による植物病害防除の対象にあげられる。
【0038】
【実施例】以下に実施例をあげて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0039】〔有効微生物のスクリーニング〕実施例で使用した有効微生物は、本出願人による特願2000−172313号及び特願2000−187893号に記載したとおり、以下のようにしてスクリーニングされた。
【0040】(1)バチルス属細菌3K−11ニンジン黒斑病菌(Alternaria radicina)及び黒葉枯病菌(Alternaria dauci)に汚染されたニンジン種子(向陽二号、タキイ種苗株式会社製)を、細菌用培地(キングB培地)と糸状菌用培地(モルツアガー培地)上に並べて、アルタナリヤ属菌の発育適温(25.0℃)に保った。すると、ほとんどの種子からアルタナリヤ属菌が両培地に発生したが、中にはアルタナリヤ属菌が発生せず、細菌または糸状菌が発生した種子が特にキングB培地において低率ながら見られた。これらの発生した菌からアルタナリヤ属菌に拮抗性のある菌をスクリーニングした。すなわち、病原性アルタナリヤ属菌(ニンジン黒斑病菌、黒葉枯病菌)をそれぞれ7〜10日間25℃でモルツアガー培地に平板培養した。発育した菌そうの一部をコルクボーラーで一定量採取し、モルツアガー平板培地の中心部に置き、25℃で2日間培養した後、検定する細菌をアルタナリヤ属菌の菌そうから約3cm離して画線培養した。さらに25℃で7〜10日間培養した後、画線培養した細菌により、アルタナリヤ属菌の生育阻害帯が明確に形成された場合、その細菌を拮抗性細菌と判定した。分離細菌中に占める拮抗性細菌の比率は12%であった。
【0041】得られた拮抗性細菌は3K−11を含む6菌株であった。3K−11株は、下記表1に示す分類学的性状よりバチルス属細菌(Bacillus sp.)と同定され、受託番号FERM P−17874にて独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。
【0042】
【表1】

(2)レクレルシア属細菌TK−151,パントエア属細菌TK−185キャベツ種子(一号、早秋、春ひかり七号、若峰、ウィナーおよび1488、いずれもタキイ種苗株式会社製)、ブロッコリ種子(アンフリー747およびドシコ、ともにタキイ種苗株式会社製)、カリフラワー種子(バイオレットクィーンおよびスノーミスティーク、ともにタキイ種苗株式会社製)、ハクサイ種子(耐病六十日、ともにタキイ種苗株式会社製)、ダイコン種子(耐病総太り、タキイ種苗株式会社製)およびカブ種子(スワンおよび耐病ひかり、ともにタキイ種苗株式会社製)をそれぞれ種子重量当り2.5倍量の生理食塩水(蒸留水にNaClを0.85重量%溶解)中で2.5時間振盪した。振盪後の溶液をアルブミン寒天培地に均一に塗抹した。塗抹後約6日後に、出現したコロニーを単分離して各々ポテト・デキストロース・ブロス寒天培地(Difco社製)上にて黒腐病菌(Xanthomonas campestris p.v. campestris)と交差するように塗抹し、25℃で培養した。培養3日後に黒腐病菌の生育を抑制しているものを拮抗性細菌として選抜した。
【0043】その結果、TK−151とTK−185を含む3菌株が得られた。下記表2に示す分類学的性状より、TK−151株はレクレルシア アデカルボキシラータ(Leclercia adecarboxylata)と同定され、受託番号FERM BP−7617にて独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。また、TK−185株はパントエア属細菌(Pantoea sp.)と同定され、受託番号FERM BP−7618にて同特許生物寄託センターに寄託されている。
【0044】
【表2】

〔試験1:キャベツ黒腐病に対する拮抗菌TK−151、TK−185とサッカリンナトリウム、シリカゲル処理の効果〕
(1)試験概要有効微生物としてアブラナ科黒腐病菌に拮抗性を持つTK−151及びTK−185を使用し、全身獲得抵抗性誘導物質としてサッカリンナトリウム及びシリカゲルを使用した。黒腐病菌に汚染されているキャベツ種子(品種:サボイエース、タキイ種苗株式会社製)に対し、表3に記載した試験区で処理を行った。処理は、有効微生物と全身獲得抵抗性誘導物質とを含むコーティング液を作製し、種子へフィルムコーティングすることにより行った。また、比較例として、有効微生物のみを含むコーティング液、全身獲得抵抗性誘導物質のみを含むコーティング液、有効微生物と全身獲得抵抗性誘導物質のいずれも含まないコーティング液についても、同様にコーティング処理を行った。
【0045】(2)コーティング種子の作製コーティング液に使用する菌液として、有効微生物TK−151、TK−185をYPG培地で24時間培養し、菌濃度を約2.0×10cfu/mlに調整した。また、TK−151とTK−185の併用処理の場合には、作製した菌液を等量ずつ混合して使用した。全身獲得抵抗性誘導物質の水溶液として、シリカゲル(商品名:イネルギー、富士シリシア社製)の飽和水溶液と、サッカリンナトリウム(和光純薬製)の0.1重量%水溶液を使用した。また、シリカゲルとサッカリンナトリウムの併用処理の場合には、シリカゲル溶液にサッカリンナトリウムを溶解させて使用した。
【0046】上記の菌液と全身獲得抵抗性誘導物質の水溶液を等量混合した後に、特開平11−146707号に開示されている所定量のメチルセルロースと酸化チタンを混合してコーティング液を作製した。そして、作製したコーティング液を常法にしたがって、上記の黒腐病菌に汚染されているキャベツ種子にコーティング処理した。
【0047】(3)発芽、発病調査コーティングした各試験区の種子を深底シャーレに入れた滅菌土壌に播種し、約25℃で発芽させて、発芽率及び播種後14日目に黒腐病の発病率、発病度を調査した。試験区当たりの播種種子数は25粒/シャーレとし、1区当り5シャーレ(150粒/区)で行った。発芽率は国際種子検査規定に準じて調査し、発病率は黒腐病が発生した個体の全発芽個体数に対する割合、発病度は発病個体の発病程度(0:無発病、1:葉脈が褐変化、2:葉面積の約10%以下が黄化、3:葉面積の約10〜50%が黄化、4:葉面積の約50%以上が黄化または枯死)の試験区内の平均値である。以上の調査結果を表4に示す。
【0048】また、作製したコーティング種子を防湿製の種子袋に密封し、25℃の恒温室内で4ケ月間貯蔵し、貯蔵後に前述の発芽、発病調査を行った。その結果を表4に示す。
【0049】
【表3】

【表4】

表4から明らかなように、本発明による実施例1−1〜1−9は、比較例に比べて、発病率、発病度とも低く、植物病害防除効果が高く、貯蔵後も該防除効果は維持された。
【0050】〔試験2:ニンジン黒斑病に対する拮抗菌3K−11とメチオニン及びエリスリトール処理の効果〕
(1)試験概要有効微生物としてニンジン黒斑病菌に拮抗性を持つ3K−11を使用し、全身獲得抵抗性誘導物質としてメチオニン、エリスリトールを使用した。ニンジン黒斑病に汚染されているニンジン種子(品種:向陽二号、タキイ種苗株式会社製)に対し、有効微生物と全身獲得抵抗性誘導物質を用いて、表5に記載した試験区でペレット加工を行った。
【0051】(2)ペレット種子の作製有効微生物3K−11をV8ジュース培地(野菜のジュース培地)で振とう培養し、菌濃度1〜2×10cfu/mlに調整した菌液に、上記のニンジン黒斑病に汚染されているニンジン種子を2時間浸漬した後、通風乾燥した。つぎに公知の方法(特許第2520309号)でペレット加工する際に使用する水にメチオニン(ナカライテスク社製)0.1重量%またはエリスリトール(商品名:パルスィート、味の素株式会社製)0.1重量%を溶解させて、ペレット種子を作製した。メチオニンとエリスリトールの併用処理の場合には、混合水溶液を作製したが、その濃度は両物質とも0.1重量%にした。比較例として、菌液と全身獲得抵抗性誘導物質を使用していないペレット種子、菌液浸漬のみで全身獲得抵抗性誘導物質を使用していないペレット種子、及び、全身獲得抵抗性誘導物質のみで菌液を使用していないペレット種子を作製した。
【0052】(3)発芽、発病調査作製したペレット種子を滅菌した培土を充填した育苗トレイ(200穴)に播種し(200種子/試験区、1種子/穴)、20℃で発芽させ、発芽率、立枯率、健全株率を調査した。発芽率は国際種子検査規定に準じて調査し、立枯率は発芽後に黒斑病で立枯れた個体の全発芽個体中の割合、健全株率は播種した種子に対する健全に生育した株数の割合であり、その調査結果を表6に示す。
【0053】また、作製したペレット種子をポリエチレン製の種子容器に入れ、約20℃の恒温室内で貯蔵し、6ケ月後に前述と同様な発芽、発病調査を行った。その結果を表6に示す。
【0054】
【表5】

【表6】

表6から明らかなように、本発明による実施例2−1〜2−3は、比較例に比べて発芽後の立枯率が低く、また健全株率は高く、植物病害防除効果が顕著であり、処理種子を貯蔵した後も該効果は維持された。
【0055】〔試験3:ハクサイ根こぶ病に対する有効微生物3K−11とジャスモン酸及びγ−アミノ酪酸処理の効果〕
(1)種子の処理有効微生物3K−11をV8ジュース培地(野菜のジュース培地)で振とう培養し、菌濃度1〜2×10cfu/mlに調整した菌液と、全身獲得抵抗性物質としてジャスモン酸(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)0.01ppm及びγ−アミノ酪酸(ナカライテスク株式会社製)0.1%の水溶液を使用して、公知の方法(特開平11−146707号)にしたがって、表7に記載する試験区でコーティング液を作製し、ハクサイ種子(品種:無双、タキイ種苗株式会社製)へコーティング処理した。各試験区の種子量は約1000種子/区である。
【0056】(2)育苗、汚染土壌への移植育苗トレイ(200穴)7枚に育苗培土(商品名:たねまき培土、タキイ種苗株式会社製)を充填し、各試験区のコーティング種子及び無処理種子を一育苗トレイ/一試験区で播種した後、慣行の育苗方法で本葉4枚まで育苗した。本葉4枚の段階では試験区の間で苗生育に差異は見られなかった。
【0057】次に該ハクサイ苗を試験区ごとに20株ずつアブラナ科根こぶ病菌で汚染させた土壌を入れた温室内のプランターに移植した。プランターに移植40日後、各試験区ごとにハクサイ植物体10株を土壌から抜き取り、水洗して根部の根こぶ病発生状態を観察、調査した。結果を表8に示す。またコーティング処理した種子を試験区ごとに防湿性の種子袋に密封し、約20℃で3ヶ月間貯蔵した後、前述と同様に根こぶ病発生状態調査を行った、その結果を表9に示す。
【0058】発病状態は、発病指数0〜4(0:無発病、1:側根に少量のこぶ、2:側根に大こぶ、3:根鉢内主根にこぶ、4:根鉢内主根に大こぶ又は枯死)の5段階で評価した。表8、9には、観察した10株の発病指数の分布とその平均値を示している。また、発病率は、観察した10個体中で発病の見られた(発病指数1以上の)個体の比率であり、重発病率は、観察した10個体中で発病指数3又は4の個体の比率である。
【0059】
【表7】

【表8】

【表9】

表8、9に示すように、本発明による実施例3−1〜3−3は、比較例に比べ、根こぶの発病を明らかに抑制し、土壌伝染性植物病害であるアブラナ科根こぶ病を防除できた。また、処理種子を貯蔵後も該防除効果を維持できた。
【0060】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、環境保全上有効であり、また、病害の防除効果が長続きし、かつ、防除対象となる病害の範囲が広い、植物病害防除効果に優れる種子を得ることができる。また、有効微生物として種子から分離したものを用いることにより、播種に供される種子の通常の貯蔵、保管条件で長期間にわたり、植物病害に対する防除効果を維持することができる種子を得ることができる。
【出願人】 【識別番号】594003104
【氏名又は名称】株式会社テイエス植物研究所
【出願日】 平成13年7月17日(2001.7.17)
【代理人】 【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子 (外1名)
【公開番号】 特開2003−34607(P2003−34607A)
【公開日】 平成15年2月7日(2003.2.7)
【出願番号】 特願2001−217298(P2001−217298)