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【発明の名称】 野生ランの大量生産方法
【発明者】 【氏名】松山 秀明

【氏名】大谷 考一

【氏名】野手 啓行

【氏名】橋本 季正

【要約】 【課題】自然界では実生(種子から発芽した苗)が成立し難い野生ランの絶滅危惧種等の増殖に関して、遺伝的多様化を保持した大量生産方法を提供する。

【解決手段】花粉を柱頭に付けて交配を施して子房内で種子を完熟するまで生長せしめ、完熟した種子から野生ランを大量に生産する野生ランの大量生産方法において、上記完熟した種子に含まれている発芽阻害物質を除去処理および種子表面の殺菌処理を施す前処理工程(A)と、前処理した種子を発芽促進剤を入れた培地に播種せしめて培養する第一の培養工程と該種子が発芽した後に発根促進剤を入れた培地で培養する第二の培養工程とを設けて苗に生長させる培養工程(B)と、培養した苗を培地から培養土に移し替えて馴化し育苗させる工程(C)とを備えたことを特徴とする野生ランの大量生産方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 花粉を柱頭に付けて交配を施して子房内で種子を完熟するまで生長せしめ、完熟した種子から野生ランを大量に生産する野生ランの大量生産方法において、上記完熟した種子に含まれている発芽阻害物質を除去処理および種子表面の殺菌処理を施す前処理工程(A)と、前処理した種子を発芽促進剤を入れた培地に播種せしめて培養する第一の培養工程と該種子が発芽した後に発根促進剤を入れた培地で培養する第二の培養工程とを設けて苗に生長させる培養工程(B)と、培養した苗を培地から培養土に移し替えて馴化し育苗させる工程(C)とを備えたことを特徴とする野生ランの大量生産方法。
【請求項2】 請求項1に記載の野生ランの大量生産方法において、種子に含まれている発芽阻害物質をアルカリ溶液または粉末状の活性炭で除去処理を施し、かつ該種子を酸化剤を含む溶液で種子表面の殺菌処理して播種せしめることを特徴とする野生ランの大量生産方法。
【請求項3】 請求項1に記載の野生ランの大量生産方法において、第一の培養工程の発芽促進剤はタンパク質分解物、第二の培養工程の発根促進剤は植物生長調整物質であることを特徴とする野生ランの大量生産方法。
【請求項4】 請求項1に記載の野生ランの大量生産方法において、培養した苗を培地から培養土に移し変える際に苗周囲の湿度を最初は100%近傍に保ち、その後漸次または段階的に週当たり10〜30%の割合で湿度減少を施して馴化し育苗させることを特徴とする野生ランの大量生産方法。
【請求項5】 請求項2〜4に記載するいずれかを組み合わせてなることを特徴とする野生ランの大量生産方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、野生ランの大量生産方法に関し、特に、自然界では実生(種子から発芽した苗)が成立し難い野生ランの絶滅危惧種等の増殖に関して、遺伝的多様性を保持した大量生産方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、野生ランの自然環境下での実生成立は難しい。種子から成株になるものは、数万分の一から数百万分の一と言われている。この生育の難しい点を以下に説明する。ランの種子は「さく果」と呼ばれる実の中に数百から数百万粒もの種子を形成し、その大きさは極めて微小なものである。この微小な種子は、他の植物と違い、胚乳等の養分貯蔵組織はなく、胚とそれを包む種皮だけで構成されている。このために、野生ランの種子は自力では発芽することが出来ない。自然環境下では、ラン菌と呼ばれる内生菌の一種との共生により発芽する。発芽時点では、芽分化等は行われず、球状の幼植物体(プロトコーム)の時期を経て、芽、根の分化が生じランの形態を示すまでに至る。
【0003】自然状態では、ランの種子とランの菌との遭遇は極めて稀であり、発芽する種子は僅かである。発芽して生育しても極めて少数であり、発芽してから、開花するまで数年から数十年もかかる。一方、野生ランは、花の形や色の変化に富んでいて目を見張るものがあるので、園芸植物としても珍重されている。園芸植物として生育させるのに、種子から生育させると、個体にばらつきが出るため、種子ではなく組織細胞を培養するクローン技術で行っている。組織細胞を培養するクローン技術では、野生ランの中で園芸家が好みそうな花の形や色のものを選択して、同一遺伝子での大量生産を行っている。すなわち、同一遺伝子であるため、ランの花の形や色は全く同一である。
【0004】野生ランを種子から発芽させて生育させる技術と、組織細胞を培養するクローン技術との違いについて述べる。文献「我が国における保護上重要な植物種の現状」(財団法人自然保護協会、1998年3月発行)の第2頁に野生植物の種の保護の必要性の中で、第11行目以降に遺伝的多様性の保護について述べられている。同頁第18行〜20行目に「野生種が保有する遺伝的多様性は、限られた数の有用植物の種が保有する遺伝的多様性に比べれば膨大なものである。このように遺伝的多様性の保全のためには、種の保護が最低限必要とされる条件である。」と記載されている。野生種が保有する遺伝的多様性は、同一種内においては、種子から発芽させて生育したときに成立し、同一遺伝子を大量に増殖するクローン技術では成し得ない。野生植物の種を保護するとは、種の遺伝的多様性の保全であり、さらに種内の遺伝的多様性の保全のためには、クローン技術ではできず、種子から発芽させて生育させる技術によって始めて出来るものである。
【0005】野生ランを種子から発芽させて生育させる技術は、今後、絶滅の危惧に瀕している種に対して、絶滅を免れる有効な技術となっていく。絶滅の恐れのある種については、文献「改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物・植物I(維管束植物)」(環境庁自然保護局野生生物課2000年7月発行)で、絶滅の恐れのある種として1665種を上げている。その内野生ランは198種ある。これらは、絶滅危惧にある野生ランで、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いものとして分類されている。
【0006】絶滅危惧IA類では、アキザキナギラン、ヘツカラン、カンラン、等、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いものとして分類される。絶滅危惧IB類では、キエビネ、ミツモリソウ、キバナノセッコク等、絶滅の危険が増大しているものとして分類される。絶滅危惧II類では、エビネ、サギソウ、フウラン等が指定されている。しかしながら、これらの絶滅危惧種が指定されても、どのように絶滅危惧種の減少を防止し、将来的に増殖していくかの技術開示は未だにされていないのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明では、環境庁で編集された絶滅危惧種等の近い将来、野生における絶滅の危険性が高い野生ランに対して、積極的に大量に増殖していく技術を提供するものである。土地開発、乱穫等により減少した野生ランに対し、わずかな残存個体からでも、その植物の生長に最小限の影響で、種子から苗を大量生産できる技術を如何に開示するかが最大の課題である。この技術は、遺伝的多様性を維持したまま、野生ランを大量生産できることに特色があり、例えば、自生地復元等に使用する苗の供給に最適である。野生ランの植物体から組織培養によって増殖させるクローン技術では、同一な遺伝子を持つ個体しか生産できないので、絶滅危惧種等の増殖、自生地の復元には向かない。
【0008】例えば、特開平5−260868号公報に示す「野生ランの人工培養方法」がある。この方法は、野生のランの球根から、茎頂部組織の一部を摘出して培養するものである。これは、種子からではなく、植物体の一部を組織培養する生長点培養方法であるため、同一な遺伝子を持つ個体しか生産できないから、絶滅危惧種の増殖、自生地の復元には向かない。また、特公平3−47811号公報での「エビネの増殖方法」も、エビネの植物体の一部である新芽を用い、組織培養する生長点培養方法である。同公報の第3頁第3欄第3行〜4行目に「均一な遺伝形質を有するエビネを大量に増殖させる」と記載されているように、同じ遺伝子を持つ個体を大量に作るクローン技術であるから、絶滅危惧種の増殖、自生地の復元には向かない。
【0009】上記の2つの従来技術では、組織培養による均一な遺伝形質を有する野生ラン(エビネを含む)を大量に増殖させることはできても、野生ランが自然の状態で増殖する形態とは程遠い。その理由としては、組織培養では、同一の遺伝子を有する個体しか生産されず、つまり、増殖されたランは全て同一の遺伝形質を表し、ほぼ同じ形状(花の色、花の大きさ等)で病気に対する耐病性もほぼ同じである個体しか大量生産できないからである。自然の状態とは、様々な形質(花の色、花の大きさ等)で病気に対する耐病性も違うのである。従って、上記の従来技術では、本発明の解決しようとする課題である、遺伝的多様性を維持したまま、野生ランを大量生産できない。
【0010】一方、種子から大量に発芽させる技術として特開平5−148115号公報の「ランの簡便な播種・発芽方法および移植方法」がある。この方法は、無菌処理されていないランの種子を、市販の園芸用肥料の入った培地に播種し、後から次亜塩素酸ナトリウム水溶液を吹き付けて、殺菌して培養するものである。ランの種子を殺菌する工程を省く分、殺菌されない割合が高くなるため、発芽効率は悪い。この方法の課題は、殺菌処理されてないランの種子を市販の園芸用肥料の入った培地に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を後から入れて培養するため、発芽時と発芽して生長する段階での苗は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液によって発芽や生長が阻害される。生長が阻害される理由としては、発生する塩素による毒性が種子、苗に作用するためである。
【0011】また、上記公報の実施例では、シランについて述べているが、シランはもともと発芽率が極めて高く、苗の生育も旺盛であるので、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸った状態でも発芽生長に至るが、シラン以外の殆どの野生ランでは、種子が次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸った状態で発芽にまで至ることはできない。その理由は、種によっては種子の状態が様々で、長時間の漂白に胚が耐え切れず、壊死しまうからである。本発明は、自生地復元に用いる野生ランの大量生産技術を示すことで、従来技術の課題を有利に解決するものであって、地域毎の遺伝子の重要性、遺伝的多様性を維持できる方法であり、育苗までを一貫して、簡便に大量生産する方法を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、自然の状態に近い形で野生ランを大量に生産することを目的とし、上述した課題を解決するものである。その発明の要旨とするところは、(1)花粉を柱頭に付けて交配を施して子房内で種子を完熟するまで生長させ、完熟した種子から野生ランを大量に生産する野生ランの大量生産方法において、上記完熟した種子に含まれている発芽阻害物質を除去処理および種子表面の殺菌処理を施す前処理工程(A)と、前処理した種子を発芽促進剤を入れた培地に播種せしめて培養する第一の培養工程と該種子が発芽した後に発根促進剤を入れた培地で培養する第二の培養工程とを設けて苗に生長させる培養工程(B)と、培養した苗を培地から培養土に移し替えて馴化し育苗させる工程(C)とを備えたことを特徴とする野生ランの大量生産方法。
【0013】(2)前記(1)に記載の野生ランの大量生産方法において、種子に含まれている発芽阻害物質をアルカリ溶液または粉末状の活性炭で除去処理を施し、かつ該種子を酸化剤を含む溶液で種子表面の殺菌処理して播種せしめることを特徴とする野生ランの大量生産方法。
(3)前記(1)に記載の野生ランの大量生産方法において、第一の培養工程の発芽促進剤はタンパク質分解物、第二の培養工程の発根促進剤は植物生長調整物質であることを特徴とする野生ランの大量生産方法。
【0014】(4)前記(1)に記載の野生ランの大量生産方法において、培養した苗を培地から培養土に移し変える際に苗周囲の湿度を最初は100%近傍に保ち、その後漸次または段階的に週当たり10〜30%の割合で湿度減少を施して馴化し育苗させることを特徴とする野生ランの大量生産方法。
(5)前記(2)〜(4)に記載するいずれかを組み合わせてなることを特徴とする野生ランの大量生産方法である。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明について図面に従って詳細に説明する。図1は、完熟種子から野生ランを大量に生産するプロセスを示す図である。まず、前提条件となる完熟種子について説明する。完熟種子とは、花粉を柱頭に付けて交配を施し、子房内の種子が完熟するまで生長したものである。子房が肥大生長し、内部に種子の入った実を「さく果」というが、完熟状態とは、内部の種子が胚発生完了し、休眠状態もしくは休眠準備状態にあるものを指し、さく果が黄色く変色することもある。完熟するまでの期間は、ランの種類によって大きく変わり、早いもので約1ケ月、遅いものになると約12ケ月かかる。
【0016】次に、完熟種子の発芽阻害物質を除去処理および殺菌処理を施す前処理工程(A)を説明する。完熟した種子は、発芽阻害物質が蓄積されている。発芽阻害物質とは、フェノール性配糖体類等である。野生ランを培地上で、完熟種子から発芽させるためには、発芽阻害物質の除去処理を行い、さらに、殺菌処理を施して、始めて播種条件が整うことになる。発芽阻害物質は、フェノール性配糖体類等、弱アルカリ性物質が多いので、発芽阻害物質を除去処理する具体的な手法として、アルカリ溶液で中和するか、または粉末状の活性炭で吸着させる。
【0017】上記した方法は、種皮の透水性、通気性を良くして、発芽阻害物質を中和溶解または吸収して除去処理する。例えば、濃度0.1〜10mol/LのKOH溶液を用いる。KOH溶液の濃度が0.1mol/L未満であると、除去の効果が得られず、濃度10mol/Lを超えると、効果は期待されるものの浸透性が低下するので、この範囲が適切である。また、粉末状の活性炭を0.1〜10g/Lでも、発芽阻害物質を除去処理することができる。粉末状の活性炭は、種子に含まれている発芽阻害物質を活性炭内部に吸着して除去処理を行うものである。粉末状の活性炭が、0.1g/L未満であると、発芽阻害物質の吸収が不充分であり、10g/Lを超えると、発芽阻害物質の吸収よりも、他の栄養分も吸収してしまうので、上記の範囲が適切である。
【0018】アルカリ溶液、または粉末状の活性炭を含む溶液に種子を浸す場合、そのまま浸すだけでなく、超音波処理を施す方が発芽率を向上させることが出来る。この理由は、超音波処理によって、種皮とアルカリ溶液、または粉末状の活性炭を含む溶液との接触性がよくなるためである。また、種皮を破壊し、胚との親水性を高める。具体的には、1〜50kHzの超音波で、数分間かけるのが良い。超音波1kHz未満であると、種皮との接触性、種皮の破壊が単に浸した場合に比べて改善されず、超音波50kHzを超えると、胚に損傷を与えるので、上記の範囲が適している。
【0019】次に、発芽阻害物質の除去処理を施した後に殺菌処理して播種することについて述べる。完熟種子は、外気と触れている場合もあるので、種皮表面の雑菌を殺菌する必要がある。種皮表面の雑菌を殺菌する具体的な手法としては、酸化剤の過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムの溶液がよく、濃度0.01〜5mol/Lの溶液に1〜5分程度浸す。濃度0.01mol/L未満であると、殺菌効果がなくなる。また、濃度5mol/Lを超えると、胚にダメージを与えるので上限とする。
【0020】上記の溶液に浸す時間は、1分未満であると、完全に殺菌状態に出来ないので下限とし、10分を超えると胚にダメージを与えるので上限とする。なお、上記の殺菌処理を施す工程からは、クリーンベンチ内でその後の工程を行うことが望ましい。クリーンベンチとは、密閉体の内部と出入り口にエアーカーテンを施し、絶えず微細な塵、ほこり、胞子等をフィルターで除去してクリーンな空間を作る装置である。殺菌処理した後の種子は、酸化剤の入った溶液が付着していると胚にダメージを与えるため、十分に減菌水で洗っておくことが必要である。
【0021】次に、播種せしめた種子を発芽促進剤を入れた培地で培養する第一の培養工程と該種子が発芽した後に発根促進剤を入れた第二の培養工程とを設けて苗に生長させる培養工程(B)を説明する。最初に、発芽促進剤を入れた培地で種子を培養する第一の培養工程について説明する。ガラス製またはポリカーボネート(PC)製等容器内に、発芽促進剤の入った発芽用培地を入れ、殺菌処理した種子を播種し、密封する。発芽用培地は、固体培地として、水1Lに対して、寒天5〜20g/L、またはジェランガムを1〜5g/L、市販の園芸用肥料を1〜5g/L、糖分10〜50g/L、粉末状の活性炭0.5〜5g/Lの割合で溶かしたものを用いる。市販の園芸用肥料を入れる理由は、種子が発芽して生長する際に必要な養分となる。そのために、上記の範囲は、発芽した幼苗の生長に必要な量である。炭素源としてはショ糖等が用いられ、幼苗の生長のエネルギーになる。
【0022】一方、活性炭を入れる理由は、種子が培地内で発芽阻害物質を発生させても、その物質を吸収する効果が期待できるからである。なお、活性炭は微粉末状のもので、0.5g/L未満であると、発芽阻害物質の吸収が不十分であり、5g/Lを超えると発芽阻害物質を吸収しても他の養分も吸収してしまうので、上記の範囲が適切である。発芽促進剤としては、タンパク質分解物、例えば、ペプトン、トリプトンを1〜5g/Lを上記の固体培地の中に入れる。このタンパク質分解物は、1g/L未満であると、野生ランの種類による違いはあるももの、添加した効果がなくなるので下限とし、5g/Lを超えると、生長機能を阻害するので、水1Lに対して、1〜5g/Lが最適である。さらに、この第一の培養工程は、0〜10℃で1〜3ケ月冷蔵処理を行うことで、発芽率の向上、発芽時期の均一化がなされる。冷蔵処理の温度は、5℃以下で発芽の効果が最も期待できる。0℃未満であると、種子の活性が殆ど止まってしまい、また、10℃を超えると種子の処理効果がなくなるので、上記の範囲が最適である。
【0023】次に、発根促進剤を入れた第二の培養工程について説明する。種子が発芽して、プロトコームが肥大した段階で、培地を発根用培地に切り替えて、継続して培養する。発根用培地としては、凝固剤として水1Lに対して寒天5〜20g/Lまたはジェランガムを1〜5g/Lの割合で混ぜる。発根促進剤としては、植物生長調整物質である、例えばα−ナフチル酢酸を水1Lに対して、0.01〜1mg/Lを入れる。α−ナフチル酢酸は0.01mg/L未満であると、添加した効果は弱く、1mg/Lを超えると、生長阻害を起こす種類もあり、上記の範囲が適切である。
【0024】さらに、上記α−ナフチル酢酸に加えて、植物生長調整物質として、ベンジルアミノプリンを1〜10mg/L入れると、その効果が増す種類もある。ベンジルアミノプリンは1mg/L未満であると、添加した効果は弱く、10mg/Lを超えると、生長阻害を起こす種類もあり、上記の範囲が適切である。発芽後、発根生長が盛んになると、根の養分吸収力が高まり、地上部の生長も高まる。他の、バクトトリプトンを1〜5g/L、メネデールを10〜50ml、市販の園芸用肥料を1〜5g/L、糖分10〜50g/L、微粉末状の活性炭0.5〜5g/L、鉄源、例えばキレート化した硫酸鉄溶液を0.01〜0.05mol/Lの割合で入れる。前述した、第二の培養工程は、10〜30℃で生育が最も良く、1〜6ケ月の培養で殆どのプロトコームが幼苗にまで生長する。培養温度が10℃未満であると、生長に著しい遅れが生じ、30℃を超えると、生長量よりも呼吸量の方が上まって、生長が著しく悪くなる種もあるので、上記の範囲が適切である。
【0025】次に、培養した苗を培地から培養土に移し変えて馴化し育苗させる工程(C)を説明する。馴化とは、幼苗の生長に伴い、幼苗をガラス製またはPC製等容器から出し、外気中での培養に移行するための準備期間である。馴化前では容器の中は密封状態であり、湿度は100%近くに保たれている。馴化し育苗する工程(C)は幼苗が生長した段階で、外気中で行われる。外気中では、温度、湿度の調整が難しいため、ビニールトンネルを設置し、温度は適温に保ち、湿度は当初100%近くから、漸次または段階的に減少させるのが適切である。培養した苗を培地から土壌に移し変える際に苗周囲の湿度を当初70〜100%の範囲で生長させ、漸次または段階的に週当たり10〜30%の割合で湿度減少させることが重要である。
【0026】培養器中では、湿度100%近くに保たれているので、気孔は開いた状態のままでいる。これを急激に70%未満にすると、蒸発散のバランスが崩れて乾燥により枯れてしまう。そこで、当初70〜100%の範囲で生長させ、以降は段階的に週当たり10〜30%の割合で徐々に湿度を下げる。週当たり10%未満の湿度の減少では、乾燥に対する馴化が遅れ、週当たり30%を超える湿度の減少では、蒸発散のバランスが崩れて乾燥により枯れてしまう。そこで、幼苗は、週当たり10〜30%の割合で徐々に湿度を下げることによって、外気中で栽培が可能となる。
【0027】
【実施例】以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
(実施例1)表1は、本発明に係るエビネの生産方法を比較例と共に説明したものである。表1のNo.1、2は本発明例であり、No.3〜6は比較例である。先ず最初に、エビネを生産するにあたっての前提として、種子を得る交配を説明する。交配は、花から花粉塊を採取して、この花粉塊を柱頭に付ける。受粉後、種子が完熟するまで、さく果を病害虫から防除し、完熟したらさく果を採取する。さく果中の種子は数万個入っている。前処理工程Aでは、最初にさく果から完熟種子を取り出し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液、または粉末状の活性炭を減菌水に入れた溶液に種子を入れる。この状態で超音波処理を行って、発芽阻害物質を除去処理を施す。
【0028】表1のNo.1、2は、各々、KOH溶液濃度1mol/L、粉末状活性炭5g/Lの溶液に種子を入れ、超音波処理を5分間施す。KOH溶液、粉末状活性炭の濃度は、各々、0.1〜10mol/L、0.1〜10g/Lの範囲である。発芽阻害物質の除去処理を終えてから、種子に付着しているKOH溶液を減菌水で十分に洗浄して落とす。次に、殺菌処理として、表1のNo.1、2は、各々、次亜塩素酸ナトリウムの濃度0.15mol/L、0.10mol/Lの溶液に種子を1〜10分程度浸す。表面殺菌後、種子を減菌水でよく濯ぐ。次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲であれば、同じ効果が得られる。次亜塩素酸ナトリウムの代わりに、次亜塩素酸カリウム、過酸化水素等の酸化剤を用いても同じ効果が得られる。殺菌処理後は、雑菌が新たに付かないように、クリーンベンチ、無菌箱で種子を取り扱った方が望ましい。
【0029】次に、培養工程Bでは、最初に第一の培養工程として、ガラス、ポリカーボネート等の容器内に、発芽促進剤の入った発芽用培地を入れ減菌処理しておき、殺菌処理した種子を播種して密封する。発芽用培地としては、市販の園芸用肥料(粉末ハイポネックス)3g、ショ糖35g、その他に活性炭1.5g/L、寒天9g/Lまたはジェランガム2g/Lを水1Lの割合で混ぜたものを用いる。本発明では、表1のNo.1、2は、各々、発芽促進剤としてアミノ酸化合物として具体的には、ペプトンを2g/L、1g/Lで上記培地の中に入れた状態で種子を培養する。このアミノ酸化合物は、1〜5g/Lの範囲であれば、同じ効果が得られる。上記培地に種子を播いて、培養器を0〜10℃で冷蔵処理する(期間は約2ケ月)。その後、10〜30℃で人工光で調整しながら発芽するまで管理する。
【0030】次に、第二の培養工程として、種子が発芽後に、発根促進剤を入れた培地で培養する。培地は、市販の園芸用肥料(粉末ハイポネックス)2.5g/L、バクトトリプトン1.3g/L、キレート化した硫酸第二鉄溶液2mg/L、ショ糖20g/L、粉末状の活性炭1.5g/L、寒天7.2g/L、または、ジェランガム2g/L、メネデール25ml/Lを水1Lの割合で混ぜる。発根用培地には、発根促進剤として、植物生長調整物質のα−ナフチル酢酸を0.02mg/L入れる。本発明での表1のNo.1、2は、各々、α−ナフチル酢酸を入れて培養する。この植物生長調整物質は、0.01〜1mg/Lの範囲であれば、同じ効果が得られる。この第二の培養工程では、10〜30℃で温度管理する。
【0031】次に、馴化し育苗する工程Cでは、幼苗が5〜10cm程度の生長した段階で、培養器から苗を取り出し、よく培地を洗い落とし、培養土に植え込む。ここからは、温室で培養する。温室内にビニールトンネルを設け、当初、温度は10〜30℃、湿度は100%近くに保ち、散水は日に1回行う。幼苗の新葉が伸長してきた段階で、密封状態のビニールトンネルのビニールに小穴を開けて、湿度を徐々に下げて行く。平均湿度は週当たり10〜20%下がるレベルでコントロールする。
【0032】その後、平均湿度が、外気と同じレベルになってから、ビニールトンネルは全て開放し、温室内で温度と散水のコントロールを施す。この時期には、通常の有機肥料を用いて生長を促す。本発明では、表1のNo.1で、発芽率が約70%、播種後15ケ月目で、苗1株当たり生長した葉の平均面積が39.5cm2 /株、生存率が99%に達する。表1のNo.2で発芽率が約60%、播種後15ケ月目で、苗1株当たり生長した葉の平均面積が37.2cm2 /株、生存率が98%に達する。
【0033】図2は、本発明に係るエビネの培養日数と平均緑葉面積との関係を示す図である。ここで、平均緑葉面積とは、1株当たりの緑色の葉の平均面積を示す。図中の曲線No.1、No.2は、表1のNo.1、No.2と同じである。前処理工程Aを完了し、培養工程Bで発芽促進剤を入れた培地に播種せしめて培養する第一の培養工程の起点を播種始めとして、培養日数を0とする。第一の培養工程中に4℃で2ケ月間、冷蔵処理を行う。冷蔵処理後、24℃で培養すると、約3ケ月で発芽が始まる。さらに、1ケ月経つと芽が伸長してくるので、生長した幼苗を発根促進剤を入れた培地で培養する第二の培養工程で培養する。第二の培養工程では、順調に苗は生長していき、播種してから、12ケ月後に、平均緑葉面積が約12.5cm2 /株まで生長する。この時点から馴化し、育苗する工程Cに入る。
【0034】図6は、馴化日数と空中湿度との関係を示す。エビネの場合、馴化し育苗する工程Cでは、No.1、2共に、当初の湿度は約100%、馴化の湿度は、週当たり20%減少させる。図2では、No.1、2共に、馴化後も順調に生長を続け、播種してから、約14ケ月後に、平均緑葉面積が20cm2 /株を超え、さらに、1ケ月後は、平均緑葉面積が約39.5cm2 /株まで生長し、出荷状態となる。図2に示す、No.5は比較例であり、表1のNo.5の条件、培養工程Bで発芽が完了しても、発根促進剤を入れた培地で培養する第二の培養工程を行わないもので、発芽しても、引続き第一の培養工程で培養するものである。種子を播種してから約12ケ月後に馴化する時点で、平均緑葉面積が、No.1、No.2に比べて、約60%程度(具体的には7.5cm2 /株)である。図5は、播種してからの日数と生育段階の関係である。本発明では、約15ケ月目で出荷可能になるのに対して、比較例No.5は破線状に生長するため、約17ケ月を要する。従って、比較例No.5は、本発明より出荷が約2ケ月後になるため、総合判定では、不適(×)である。
【0035】図2に示す比較例No.6は、表1のNo.1の条件で、馴化し育苗する工程(C)の条件を本発明と変えたものである。比較例No.6は、馴化の湿度を最初から大気中と同じ湿度30〜60%にしたものである。他の条件は本発明No.1と同じである。湿度が急激に下がったために、蒸発散のバランスが崩れて乾燥により葉が枯れてしまうため、平均緑葉面積が、12.5cm2 /株から2.5cm2 /株に急激に下がる。これは、約80%の葉が枯れたことになる。枯れても、新しい葉が生長して、播種してから約15ケ月後に、7.5cm2 /株まで生長するが、出荷条件の30cm2 /株を超える条件は満足しないので、比較例No.6は、総合判定では、不適(×)である。
【0036】図2では示していないが、表1に示す比較例No.3は前処理工程(A)で、発芽阻害物質の除去処理と種子表面殺菌を行わず、培養工程(B)で発芽促進剤を入れた培地に播種せしめて培養する第一の培養工程から始まる。この状態では雑菌に汚染されて発芽することがない。前処理工程(A)での発芽阻害物質の除去処理と殺菌処理を施さない状態では、いくら培養しても発芽に至らないため、総合判定は不適(×)である。さらに、図2では示していないが、表1に示す比較例No.4は、本発明のNo.1と工程B第一の培養工程以外は、同じ条件で培養する。比較例No.4は、第一の培養工程で発芽促進剤ではなく、発根促進剤を入れた培地で培養する。具体的には、α−ナフチル酢酸0.02mg/Lを培地に入れて培養する。比較例No.4は、発芽率が約30%まで下がり、播種後15ケ月目で、苗1株当たり生長した葉の平均緑葉面積が、0.6cm2 /株、生存率が50%まで下がり、出荷条件の30cm2 /株に達しないので、総合判定では、不適(×)である。
【0037】
【表1】

【0038】(実施例2)表2は、本発明に係るシュンランの生産方法を比較例と共に説明したものである。表2のNo.7、8は本発明例であり、No.9〜12は比較例である。先ず最初に、シュンランを生産するにあたっての前提として、種子を得る交配を説明する。交配は花から花粉塊を採取して、この花粉塊を柱頭に付ける。受粉後、種子が完熟するまで、さく果を病害虫から防除し、熟成したさく果を採取する。さく果中の種子は数万個入っている状態である。前処理工程Aでは、最初にさく果から完熟種子を取り出し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液、または粉末状の活性炭を減菌水に入れた溶液に種子を入れる。この状態で超音波処理を行って、発芽阻害物質の除去処理を施す。
【0039】表2のNo.7、8は、各々、KOH溶液濃度1mol/L、粉末状活性炭5g/Lの溶液に種子を入れ、超音波処理を5分間施す。KOH溶液、粉末状活性炭の濃度は、各々、0.1〜10mol/L、0.1〜10g/Lの範囲である。発芽阻害物質の除去処理を終えてから、種子に付着しているKOH溶液を減菌水で十分に洗浄して落とす。次に、殺菌処理として、表2のNo.7、8は、各々、次亜塩素酸ナトリウムの濃度0.15mol/L、1.50mol/Lの溶液に種子を1〜10分程度浸す。表面殺菌後、種子を減菌水でよく濯ぐ。次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲であれば、同じ効果が得られる。次亜塩素酸ナトリウムの代わりに、次亜塩素酸カリウム、過酸化水素等の酸化剤を用いても同じ効果が得られる。殺菌処理後は、雑菌が新たに付かないように、クリーンベンチ、無菌箱で種子を取り扱った方が望ましい。
【0040】次に、培養工程Bでは、最初に第一の培養工程として、ガラス、ポリカーボネート等の容器内に、発芽促進剤の入った発芽用培地を入れ減菌処理しておき、殺菌処理した種子を播種して密封する。発芽用培地としては、市販の園芸用肥料(粉末ハイポネックス)3g、ショ糖35g、その他に活性炭1.5g/L、寒天9g/Lまたはジェランガム2g/Lを水1Lの割合で混ぜたものを用いる。本発明では、表2のNo.7、8は、各々、発芽促進剤としてアミノ酸化合物として具体的には、トリプトンを2g/L、1g/Lで上記培地の中に入れた状態で種子を培養する。このアミノ酸化合物は、1〜5g/Lの範囲であれば、同じ効果が得られる。上記培地に種子を播いて、培養器を0〜10℃で冷蔵処理する(期間は約2ケ月)。その後、10〜30℃で人工光で調整しながら発芽するまで管理する。
【0041】次に、第二の培養工程として、種子が発芽後に、発根促進剤を入れた培地で培養する。培地は、市販の園芸用肥料(粉末ハイポネックス)2.5g/L、バクトトリプトン1.3g/L、キレート化した硫酸第二鉄溶液2mg/L、ショ糖20g/L、粉末状の活性炭1.5g/L、寒天7.2g/L、または、ジェランガム2g/L、メネデール25ml/Lを水1Lの割合で混ぜる。発根用培地には、発芽促進剤として、植物生長調整物質のα−ナフチル酢酸を0.02mg/L入れる。本発明での表2のNo.7、8は、各々、α−ナフチル酢酸を0.02mg/L入れて培養する。この植物生長調整物質は、0.01〜1mg/Lの範囲であれば、同じ効果が得られる。この第二の培養工程では、10〜30℃で温度管理する。
【0042】次に、馴化し育苗する工程Cでは、幼苗が5〜10cm程度の生長した段階で、培養器から苗を取り出し、よく培地を洗い落とし、培養土に植え込む。ここからは、室温で培養する。温室内にビニールトンネルを設置し、当初、温度は10〜30℃、湿度は100%近くに保ち、散水は日に1回行う。幼苗の新葉が伸長してきた段階で、密封状態のビニールトンネルのビニールに小穴を開けて、湿度を徐々に下げて行く。平均湿度は週当たり10〜20%下がるレベルでコントロールする。
【0043】その後、平均湿度が、外気と同じレベルになったら、ビニールトンネルは全て開放し、温室内で温度と散水のコントロールを施す。この時期には、通常の有機肥料を用いて生長を促す。本発明では、表2のNo.7で、発芽率が約30%、播種後15ケ月目で、苗1株当たり生長した葉の平均面積が6.0cm2 /株、生存率が99%に達する。表2のNo.8で発芽率が約20%、播種後15ケ月目で、苗1株当たり生長した葉の平均面積が5.0cm2 /株、生存率が98%に達する。
【0044】図3は、本発明に係るシュンランの培養日数と平均緑葉面積との関係を示す図である。図中の曲線No.7、No.8は表2のNo.7、No.8と同じである。第一の培養工程中に4℃で2ケ月間、冷蔵処理を行う。冷蔵処理後、20℃で培養すると、約2ケ月で発芽が始まる。さらに5ケ月、リゾームを伸長させたところで、発根促進剤を入れた培地で培養する第二の培養工程で培養する。第二の培養工程で出芽し、12ケ月後に平均緑葉面積が約2.3cm2 /株まで生長する。この時点から馴化し、育苗する工程Cに入る。
【0045】馴化し育苗する工程Cでは、No.7、No.8共に、当初の湿度は約100%、馴化の湿度は週当たり20%減少させる。図3では、No.7、No.8共に馴化後も生長を順調に続け、播種してから約15ケ月に平均緑葉面積が5cm2 /株以上に生長し、出荷状態となる。図3に示すNo.11は比較例であり、表2のNo.11の条件、培養工程(B)で発芽が完了しても、発根促進剤を入れた培地で培養する第二の培養工程を行わないもので、発芽しても、引続き第一の培養工程で培養するものである。種子を播種してから約12ケ月後に馴化する時点で、平均緑葉面積が0であり、緑葉の生長に至っていない。この比較例No.11は、播種後15ケ月経っても、生存率としては78%あっても、図5に示すように緑葉の生長に至っていない。緑葉のない苗は出荷出来ないので、比較例No.11は、総合判定では、不適(×)である。
【0046】図3に示す比較例No.12は、表2のNo.12の条件で、馴化し育苗する工程(C)の条件を本発明と変えたものである。比較例No.12は、馴化の湿度を最初から大気中と同じ湿度30〜60%にしたものである。他の条件は本発明No.7と同じである。湿度が急激に下がったために、蒸発散のバランスが崩れて乾燥により葉が枯れてしまうため、平均緑葉面積が、2.3cm2 /株から0.2cm2 /株に急激に下がる。これは、約90%の葉が枯れたことになる。枯れても、新しい葉が生長して、播種してから約15ケ月後に、0.8cm2 /株まで生長するが、出荷条件の3cm2 /株を超える条件は満足しないので、比較例No.12は、総合判定では、不適(×)である。
【0047】図3では示していないが、表2に示す比較例No.9は、前処理工程(A)で、発芽阻害物質の除去処理と種子表面殺菌を行わず、培養工程(B)で発芽促進剤を入れた培地に播種せしめて培養する第一の培養工程から始まる。この状態では雑菌に汚染されて発芽することがない。前処理工程(A)での発芽阻害物質の除去処理と殺菌処理を施さない状態では、いくら培養しても発芽に至らないため、総合判定では、不適(×)である。さらに、図3では示していないが、表2に示す比較例No.10は、本発明のNo.7と工程B第一の培養工程以外は、同じ条件で生産する。比較例No.10は、第一の培養工程で発芽促進剤ではなく、発根促進剤を入れた培地で培養する。具体的には、α−ナフチル酢酸0.5mg/L、ベンジルアミノプリン5mg/Lを培地に入れて培養する。比較例No.10は、発芽率が約10%まで下がり、播種後15ケ月目で、苗1株当たり生長した葉の平均葉面積が、0.4cm2 /株、生存率が30%まで下がることが判り、出荷条件の3cm2 /株に達しないので、総合判定では、不適(×)である。
【0048】
【表2】

【0049】(実施例3)表3は、本発明に係るヘツカランの生産方法を比較例と共に説明したものである。表3のNo.13、14は本発明例であり、No.15〜18は比較例である。先ず最初に、ヘツカランを生産するにあたっての前提として、種子を得る交配を説明する。交配は、花から花粉塊を採取して、この花粉塊を柱頭に付ける。受粉後、種子が完熟するまで、さく果を病害虫から防除し、完熟したらさく果を採取する。さく果中の種子は数万個入っている。前処理工程Aでは、最初にさく果から完熟種子を取り出し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液、または粉末状の活性炭を減菌水に入れた溶液に種子を入れる。この状態で超音波処理を行って、発芽阻害物質を除去処理を施す。
【0050】表3のNo.13、14は、各々、KOH溶液濃度0.1mol/L、粉末状活性炭0.5g/Lの溶液に種子を入れ、超音波処理を5分間施す。KOH溶液、粉末状活性炭の濃度は、各々、0.1〜10mol/L、0.1〜10g/Lの範囲である。発芽阻害物質の除去処理を終えてから、種子に付着しているKOH溶液を減菌水で十分に洗浄して落とす。次に、殺菌処理として、表3のNo.13、14は、各々、次亜塩素酸ナトリウムの濃度0.15mol/L、0.075mol/Lの溶液に種子を1〜10分程度浸す。表面殺菌後、種子を減菌水でよく濯ぐ。次亜塩素酸ナトリウムの濃度、0.01〜5mol/Lの範囲であれば、同じ効果が得られる。次亜塩素酸ナトリウムの代わりに、次亜塩素酸カリウム、過酸化水素等の酸化剤を用いても同じ効果が得られる。殺菌処理後は、雑菌が新たに付かないように、クリーンベンチ、無菌箱で種子を取り扱った方が望ましい。
【0051】次に、培養工程Bでは、最初に第一の培養工程として、ガラス、ポリカーボネート等の容器内に、発芽促進剤の入った発芽用培地を入れ減菌処理しておき、殺菌処理した種子を播種して密封する。発芽用培地としては、市販の園芸用肥料(粉末ハイポネックス)3g、ショ糖35g、その他に活性炭1.5g/L、寒天9g/Lまたはジェランガム2g/Lを水1Lの割合で混ぜたものを用いる。本発明では、表3のNo.13、14は、各々、発芽促進剤としてアミノ酸化合物として具体的には、ペプトンを2g/Lを上記培地の中に入れた状態で種子を培養する。このアミノ酸化合物は、1〜5g/Lの範囲であれば、同じ効果が得られる。上記培地に種子を播いて、培養器を10〜30℃で人工光で調整しながら発芽するまで管理する。
【0052】次に、第二の培養工程として、種子が発芽後に、発根促進剤を入れた培地で培養する。培地は、市販の園芸用肥料(粉末ハイポネックス)2.5g/L、バクトトリプトン1.3g/L、キレート化した硫酸第二鉄溶液2mg/L、ショ糖20g/L、粉末状の活性炭1.5g/L、寒天7.2g/L、または、ジェランガム2g/L、メネデール25ml/Lを水1Lの割合で混ぜる。発根用培地には、発芽促進剤として、植物生長調整物質のα−ナフチル酢酸を0.02mg/L入れる。本発明での表3のNo.13、14は、各々、α−ナフチル酢酸を入れて培養する。この植物生長調整物質は、0.01〜1mg/Lの範囲であれば、同じ効果が得られる。この第二の培養工程では、10〜30℃で温度管理する。
【0053】次に、馴化し育苗する工程Cでは、幼苗が5〜10cm程度の生長した段階で、培養器から苗を取り出し、よく培地を洗い落とし、培養土に植え込む。ここからは、温室で培養する。温室内にビニールトンネルを設置し、当初、温度は10〜30℃、湿度は100%近くに保ち、散水は日に1回行う。幼苗の新葉が伸長してきた段階で、密封状態のビニールトンネルのビニールに小穴を開けて、湿度を徐々に下げて行く。平均湿度は週当たり10〜20%下がるレベルでコントロールする。
【0054】その後、平均湿度が、外気と同じレベルになったら、ビニールトンネルは全て開放し、温室内で温度と散水のコントロールを施す。この時期には、通常の有機肥料を用いて生長を促す。本発明では、表3のNo.13で、発芽率が約80%、播種後15ケ月目で、苗1株当たり生長した葉の平均面積が7.0cm2 /株、生存率が99%に達する。表3のNo.14で発芽率が約70%、播種後15ケ月目で、苗1株当たり生長した葉の平均面積が6.0cm2 /株、生存率が98%に達する。
【0055】図4は、本発明に係るヘツカランの培養日数と平均緑葉面積との関係を示す図である。図中の曲線No.13、No.14は、表3のNo.13、No.14と同じである。第一の培養工程で20℃で培養すると、約4ケ月で発芽が始まる。さらに、1ケ月経つと芽が伸長してくるので、生長した幼苗を発根促進剤を入れた培地で培養する第二の培養工程で培養する。第二の培養工程では、順調に苗は生長していき、種子を播種してから、12ケ月後に、平均緑葉面積が約3.2cm2 /株まで生長する。この時点から馴化し、育苗する工程Cに入る。
【0056】馴化し育苗する工程(C)では、No.13、14共に、当初の湿度は約100%、馴化の湿度は、週当たり20%減少させる。図4では、No.7、8共に馴化後も順調に生長を続け、播種してから、約14ケ月後に、平均緑葉面積が5.0cm2 /株を超え、さらに、1ケ月後は、約6.0cm2 /株まで生長し、出荷状態となる。図4に示す、No.17は比較例であり、表3のNo.17の条件、培養工程(B)で発芽が完了しても、発根促進剤を入れた培地で培養する第二の培養工程を行わないもので、発芽しても、引続き第一の培養工程で培養するものである。種子を播種してから約12ケ月後に馴化する時点で、平均緑葉面積が本発明のNo.13、No.14に比べて、60%程度(具体的には1.4cm2 /株)である。
【0057】図5は、播種してからの日数と生育段階の関係である。本発明では、約15ケ月目で出荷可能に対して、比較例No.17は破線状に生長するため約17ケ月を要する。従って、比較例No.17は、本発明より出荷が約2ケ月後になるため、総合判定では、不適(×)である。図4に示す比較例No.18は、表3の本発明に係るNo.13の条件で、馴化し育苗する工程Cの条件を本発明と変えたものである。比較例No.18は、馴化の湿度を最初から大気中と同じ湿度30〜60%にしたものである。他の条件は本発明No.13と同じである。湿度が急激に下がったために、蒸発散のバランスが崩れて乾燥により葉が枯れてしまうため、平均緑葉面積が、0.5cm2 /株から0.1cm2 /株に急激に下がる。これは、約80%の葉が枯れたことになる。枯れても新しい葉が生長して、種子を播種してから、約15ケ月後に、1.3cm2 /株まで生長するが、15ケ月後でも出荷条件の5.0cm2 /株を超えないので、比較例No.18は、総合判定では、不適(×)である。
【0058】図4では示していないが、表3に示す比較例No.15は、前処理工程(A)で、発芽阻害物質の除去処理と種子表面殺菌を行わず、培養工程(B)で発芽促進剤を入れた培地に播種せしめて培養する第一の培養工程から始まる。この状態では雑菌に汚染されて発芽することがない。前処理工程Aでの発芽阻害物質の除去処理と殺菌処理を施さない状態では、いくら培養しても発芽に至らないため、総合判定では、不適(×)である。
【0059】さらに、図4では示していないが、表2に示す比較例No.16は、本発明のNo.13と工程B第一の培養工程以外は、同じ条件で生産する。比較例No.16は、第一の培養工程で発芽促進剤ではなく、発根促進剤を入れた培地で培養する。具体的には、α−ナフチル酢酸0.02mg/Lを培地に入れて培養する。比較例No.16は、発芽率が約30%まで下がり、播種後15ケ月目で、苗1株当たり生長した葉の平均緑葉面積が、0.4cm2 /株、生存率が40%まで下がり、出荷条件の5cm2 /株に達しないので、総合判定では、不適(×)である。
【0060】
【表3】

【0061】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によって、土地開発、乱穫等により減少した野生ランに対し、僅かな残存個体からでも、その植物の生長に最小限の影響で、種子から苗を大量生産できることが可能になった。この技術は、種子の持つ遺伝的多様性を維持したまま、野生ランを大量生産できることに特徴があり、例えば自生地復元等に使用する苗の供給に最適である。さらに、本発明では、環境庁で編集された絶滅危惧種等の近い将来、野生における絶滅の危険性が高い野生ランに対して、積極的に大量に増殖していくことが可能になるという極めて優れた効果を奏するものである。
【出願人】 【識別番号】000156581
【氏名又は名称】環境エンジニアリング株式会社
【出願日】 平成13年12月27日(2001.12.27)
【代理人】 【識別番号】100074790
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 彊 (外1名)
【公開番号】 特開2003−189750(P2003−189750A)
【公開日】 平成15年7月8日(2003.7.8)
【出願番号】 特願2001−396810(P2001−396810)