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【発明の名称】 キノコの子実体の栽培方法
【発明者】 【氏名】守谷 栄樹
【住所又は居所】愛知県名古屋市緑区大高町字北関山20番地の1 中部電力株式会社エネルギー応用研究所内

【要約】 【課題】良質な子実体および/または収量の大きい子実体を得ることのできる、キノコの栽培方法を提供する。

【解決手段】培養基の培養工程、芽出し工程、および生育工程のうち、1工程あるいは2工程以上の工程において、異なる温度条件による栽培温度工程を有する栽培サイクルを繰り返し実施することによりキノコを栽培する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】キノコの子実体の栽培方法であって、培養基の培養工程、芽出し工程、および生育工程のうち、1工程あるいは2工程以上の工程において、異なる温度条件による栽培温度工程を有する栽培サイクルを繰り返し実施することを特徴とする、方法。
【請求項2】前記異なる温度条件の栽培温度工程のうち少なくとも1つの栽培温度工程は、実質的に一定温度工程である、請求項1記載の方法。
【請求項3】前記異なる温度条件の栽培温度工程のうち少なくとも1つの栽培温度工程は、昇温工程である、請求項1記載の方法。
【請求項4】前記異なる温度条件の栽培温度工程のうち少なくとも1つの栽培温度工程は、冷却工程である、請求項1記載の方法。
【請求項5】前記栽培サイクルにおける異なる栽培温度工程間の温度較差は、4℃以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】前記栽培サイクルの1単位は24時間に設定される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】前記栽培サイクルは、第1の温度での一定温度の栽培温度工程と、第1の温度から第2の温度への昇温工程の栽培温度工程、とを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】前記キノコは、ヒラタケ属ヒラタケ科のエリンギである、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】キノコの栽培装置であって、異なる温度条件による栽培温度工程を有する栽培サイクルを繰り返し実施する温度調節手段を有する、装置。
【請求項10】前記温度調節手段は、氷蓄熱型空調機器を備える、請求項9記載の装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エリンギを含むキノコの子実体を栽培する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】現在、市場に出回っている食用キノコ(例えば、ヒラタケ、ブナシメジ、エノキタケ、ナメコ、エリンギなど)の子実体の多くは、人工栽培して得られたものである。なかでもエリンギは、ヒラタケ属ヒラタケ科の食用キノコであり、次の様な特徴を有する。すなわち、傘の大きさは5〜10cm、傘色は灰褐色から浅黄色、形は丸型から扁平型で後に漏斗状となる。菌柄の長さは3〜10cm、太さは1〜2cmであり、上下は略同形であり、肉質は中実で堅い。また、日本には自生せず、南ヨーロッパ、ロシア南部、中央アジア等で自生し、Eryngium属やFerula属のセリ科草本植物の枯死した根部などに発生する。そして、ヨーロッパ等においては、歯触りが良く、美味であり、しかも、日持ちすることから、食用キノコとしての人気が高い。
【0003】子実体は、通常、以下に示す工程で栽培される。
培養基の調製工程↓培養基の容器への充填・殺菌工程↓菌種の接種工程↓培養基の培養工程(通常、35日程度)
↓菌掻き処理工程↓原基形成(芽出し)工程(通常、10〜12日程度)
↓生育工程(通常、7〜10日程度)
【0004】良質で収量の高い子実体を得るには、これらの一連の栽培工程が良好に行われることが必要である。なかでも、従来、芽出し工程が子実体の収量減少や品質低下の原因であるとされており、この工程において各種の試みがなされてきている。
【0005】従来の芽出し工程は、一般に以下の方法で行われる。菌掻きをした栽培容器を、芽出室と呼ばれる部屋に搬入する。適切な温度で、換気条件を調整しながら、芽出室を加湿する。芽出室の湿度は、90〜95%RHに維持する。発芽してキノコ子実体原基が形成されたら、栽培容器を生育室に移動する。
【0006】ここに、例えば、特開平7−184473号公報には、エリンギの人工栽培方法として、菌糸蔓延が完了し菌掻きした瓶口にキャップをして、菌床を室温15〜19℃で湿度80〜90%の環境下で芽出しする方法が開示されている。しかしながら、この方法では、菌糸の再生に伴う呼吸水の影響により瓶内部の湿度が90%以上と高くなるため、気中菌糸の過剰発生による発芽不良、高湿度環境に伴う発芽過多症状および病害発生、瓶内炭酸ガス濃度の上昇による原基形成弊害などの問題が生じ、発生が安定しないという欠点があった。
【0007】一方、特開平9−140285号公報においては、新菌株の作出方法および栽培方法として、芽出し工程の環境湿度を55〜85%と広くし、しかも、菌床表面の乾燥を防止するため、有孔ポリシートや新聞紙などの通気性シートにより栽培容器の上部を覆う様にした方法が開示されている。しかしながら、この方法でも、栽培容器内の閉鎖空間の湿度が高値で一定化する傾向にあるため、発生が安定し難く、更に、発芽が不揃いの場合は通気性シートの取り外し時期の判断が難しいという問題がある。
【0008】さらに、特開2000−69845号公報においては、キノコの子実体の効率的な栽培は、キノコの子実体の奇形ひいては芽出し工程での雑菌汚染が原因と推測して、芽出し工程を、菌掻き後の栽培容器に、キノコの子実体原基の形成に有効な湿度を当該栽培容器内で維持するに適切な量の水分を添加し、当該栽培容器に蓋をして芽出し工程を実施することを開示している。しかしこの方法では、菌掻き後の水分添加量や栽培容器の密閉状態さらには芽出し室の温度状況によっては、先の開示技術と同様に高湿による問題が発生し得る。
【0009】一方、芽出し工程を含めた培養工程や生育工程における温度管理は、従来、経験のみに頼って行われており、芽出し工程を含めた温度管理に着目した検討は、通常は経験のみに頼って行われており、具体的な検討がなされていないのが現状である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、良質な子実体および/または収量の大きい子実体を得ることのできる、キノコの栽培方法および装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、従来、ほとんど着目されていなかった、培養基の培養工程、芽出し工程、および/または生育工程の温度管理に着目して検討したところ、従来、培養工程、芽出し工程、および/または生育工程においては、通常、一定温度を少なくとも数日間は継続して行うとされてきた温度条件を、異なる温度条件の栽培温度工程を有する栽培サイクルを繰り返し実施することにより、従来に比して、良質の子実体を、収量よく、しかも短期間に取得できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0012】(1)キノコの子実体の栽培方法であって、培養基の培養工程、芽出し工程、および生育工程のうち、1工程あるいは2工程以上の工程において、異なる温度条件による栽培温度工程を有する栽培サイクルを繰り返し実施することを特徴とする、方法。
(2)前記異なる温度条件の栽培温度工程のうち少なくとも1つの栽培温度工程は、実質的に一定温度工程である、(1)記載の方法。
(3)前記異なる温度条件の栽培温度工程のうち少なくとも1つの栽培温度工程は、昇温工程である、(1)又は(2)記載の方法。
(4)前記異なる温度条件の栽培温度工程のうち少なくとも1つの栽培温度工程は、冷却工程である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記栽培サイクルにおける異なる栽培温度工程間の温度較差は、4℃以上である、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記栽培サイクルの1単位は24時間以内に設定される、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記栽培サイクルは、第1の温度での一定温度の栽培温度工程と、第1の温度から第2の温度への昇温工程の栽培温度工程、とを含む、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記キノコは、ヒラタケ属ヒラタケ科のエリンギである、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)キノコの栽培装置であって、異なる温度条件による栽培温度工程を有する栽培サイクルを繰り返し実施する温度調節手段を有する、装置。
(10)前記温度調節手段は、氷蓄熱型空調機器を備える、(9)記載の装置。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明のキノコの子実体の栽培方法は、培養基の培養工程、芽出し工程、および生育工程のうち、1工程あるいは2工程以上の工程において、異なる温度条件による栽培温度工程を有する栽培サイクルを繰り返し実施することを特徴とするものである。以下、本明細書において、このような異なる温度条件による栽培期間を有する栽培サイクルを変温栽培サイクルといい、また、変温栽培サイクルを繰り返し実施することを変温栽培工程という。本発明の技術は、上記した変温栽培工程を実施することにより、良質な子実体、収量の増加、および/または収穫期間の短縮を達成することができる。これは、変温処理により、菌糸成長が促進されるとともに、奇形や病害の発生率が低下し、安定的な生育が確保されたためであると推測されるが、本発明は当該推測に拘束されるものではない。
【0014】子実体の品質については、子実体の大きさが増大、特に、菌柄径の増大、子実体密度の低下、水分率の低下という効果が得られる他、肉質が柔らかく甘味が強いという食味上の効果も得られている。なお、水分率が低いことにより、収穫後の長期保存性が向上される。さらに、本変温栽培工程を実施することは、すなわち、昇温工程においては、温度調節手段(空調機器)を作動させずにあるいはその作動を最小限にすることができるため、従来の低温を維持する栽培工程に比して空調コストを低減することができる。また、収量の増量や収穫期間の短縮により、栽培コストを低下することができる。変温栽培工程の実施のための温度調節手段としては、種々の空調機器を用いることができる。特に、氷蓄熱型空調機器を用いることにより、著しく空調コストを低減することができる。氷蓄熱型空調機器は、夜間時間帯の電力を有効に利用して冷却できるので、変温栽培工程(特に1サイクル24時間の変温栽培工程)のための温度調節手段として適している。
【0015】(キノコ)本明細書において、キノコとは、菌床栽培が可能でかつ子実体を形成し得る菌類であれば、いずれの種に属する菌類であってもよい。キノコの例としては、Pleurotus属、Lentinus属、Flammulina属、Hypsizigus属、Grifola属、Pholiota属、Auricularia属、Agrocybe属、Hericium属、Agaricus属、Lyophyllum属、Tricholoma属、Rhizopagon属、またはTuber属に属する菌が挙げられる。好ましくは、エリンギ(Pleurotus eryngii)、シイタケ(Lentinus edodes)、エノキダケ(Flammulina velutipes)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シロタモギダケ(Hypsizigus ulmarius)、マイタケ(Grifola frondosa)、ナメコ(Pholiotanameko)、キクラゲ(Auricularia auricula)、マッシュルーム(Agaricus bisporus)、ヤナギマツタケ(Agrocybe cylindracea)、ヤマブシタケ(Hericiumerinaceum)、アガリクス(Agaricus blazei)、ホンシメジ(Lyophyllum shimeji)、マツタケ(Tricholoma matsutake)、バカマツタケ(Tricholoma bakamatsutake)、トリュフ(Tuber melanosporum)、またはショウロ(Rhizopagon rubescens)であり、より好ましくは、エリンギ、ヒラタケ、エノキタケ、またはナメコである。
【0016】(培養基の調製・充填・殺菌)本発明において使用する培養基の組成は、特に限定されず、従来、各種キノコの栽培のために開発されたか、または使用されるいずれの培地であっても使用し得る。培養基は、一般に、広葉樹および針葉樹の少なくとも一方の木材から得られるオガクズまたは木材チップ;アワ、ヒエ、キビ、イネ、サトウキビ、トウモロコシ、ムギ(例えば、コムギ、オオムギおよびライムギ)などの穀物の成分(例えば、米ヌカ、トウモロコシヌカ、コーンコブ、コーンブラン、ムギヌカ、オオムギ粉砕物、フスマ、ワラ、もみがら、およびサトウキビバガス);腐葉土;牛フン堆肥、鶏フン堆肥、バーク堆肥などの堆肥;、オカラ、豆皮、コーヒーかす、酒かすなどの食品製造副産物;リグニン;綿実ハルブラン;ココナッツピート;苔類;園芸用土;石灰;牡蛎殻;糖蜜;植物用液体肥料などを任意に組み合わせて使用し得る。
【0017】Pleurotus属のキノコ(例えば、エリンギ)の栽培には、培養基は、通常、オガコと穀類糠に水を加えて形成される。オガコとしては、針葉樹オガコ、特にスギオガコが好適であるが、広葉樹オガコも使用することが出来る。また、3ケ月以上堆積したオガコが好適であるが、新鮮なオガコも使用することができる。オガコと共にコーンコブミールを使用することもできる。その場合、オガコ:コーンコブミールの乾燥重量比で5:5〜7:3程度とする。好ましくは、6:4程度である。一方、穀類糠としては、米糠、フスマ、大麦糠、トウモロコシ糠などが使用される。好ましくは、コメヌカとフスマである。また、両者を使用する場合の比率は、約1:1であることが好ましい。穀類糠は、出来る限り新鮮なものが好ましい。培養基総重量に対し、穀類糠の使用割合は、通常10〜20重量%、好ましくは15〜18重量%(1瓶当たり90〜100g)の範囲とされる。含水率は、通常55〜75重量%、好ましくは66〜70重量%の範囲とされる。例えば、オガコ、米ヌカ、およびフスマを含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガコ100重量部に対して、米ヌカ約10〜約30重量部およびフスマ約10〜約30重量部である。
【0018】Lentinus属のキノコ(例えば、シイタケ)の栽培には、例えば、オガクズ、木材チップ、米ヌカ、およびフスマの少なくとも1種を含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガクズ100重量部に対して、木材チップ約10〜約30重量部、米ヌカ約10〜約30重量部、およびフスマ約10〜約30重量部である。
【0019】Flammulina属のキノコ(例えば、エノキダケ)の栽培には、例えば、オガクズ、コーンコブ、米ヌカ、および乾燥オカラの少なくとも1種を含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガクズ100重量部に対して、コーンコブ約10〜約20重量部、および米ヌカ約20〜約50重量部である。
【0020】Hypsizigus属のキノコ(例えば、シロタモギダケ)の栽培には、例えば、オガクズ、コーンコブ、米ヌカ、およびフスマの少なくとも1種を含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガクズ100重量部に対して、米ヌカ約10〜約50重量部、およびフスマ約10〜約50重量部である。
【0021】Grifola属のキノコ(例えば、マイタケ)の栽培には、例えば、オガクズ、コーンブラン、フスマ、およびオカラの少なくとも1種を含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガクズ100重量部に対して、コーンブラン約10〜約50重量部、およびフスマ約10〜約50重量部である。
【0022】Pholiota属のキノコ(例えば、ナメコ)の栽培には、例えば、オガクズ、米ヌカ、フスマ、およびトウモロコシヌカの少なくとも1種を含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガクズ100重量部に対して、米ヌカ約10〜約50重量部、およびフスマ約10〜約30重量部である。
【0023】Auricularia属のキノコ(例えば、キクラゲ)の栽培には、例えば、オガクズ、コーンコブ、米ヌカ、およびフスマの少なくとも1種を含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガクズ100重量部に対して、コーンコブ約5〜約10重量部、および米ヌカ約20〜約50重量部である。
【0024】Agrocybe属のキノコ(例えば、ヤナギマツタケ)の栽培には、例えば、オガクズ、米ヌカ、フスマ、コーンコブ、およびコーンブランの少なくとも1種を含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガクズ100重量部に対して、米ヌカ約10〜約30重量部、およびフスマ約10〜約30重量部である。
【0025】Hericium属のキノコ(例えば、ヤマブシタケ)の栽培には、例えば、オガクズ、米ヌカ、フスマ、コーンコブ、およびコーンブランの少なくとも1種を含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガクズ100重量部に対して、米ヌカ約10〜約30重量部、およびフスマ約10〜約30重量部である。
【0026】Agaricus属のキノコ(例えば、アガリクス)の栽培には、例えば、オガクズ、米ヌカ、堆肥、およびアワの少なくとも1種を含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガクズ100重量部に対して、米ヌカ約20〜約40重量部、および堆肥約10〜約20重量部である。
【0027】Lyophyllum属、Tricholoma属、Rhizopagon属、Tuber属のキノコ(例えば、ホンシメジ、マツタケ、ショウロ、トリュフ)の栽培には、例えば、オガクズ、腐葉土、米ヌカ、フスマ、およびリグニンの少なくとも1種を含む培地を使用し得る。代表的な組成は、オガクズ100重量部に対して、腐葉土約20〜約100重量部、米ヌカ約20〜約35重量部、フスマ約20〜約35重量部、およびリグニン約0〜7重量部である。各種キノコに適切な培地組成は、当業者に公知である。
【0028】組成に基づいて配合された培養基の成分は、当業者に周知の方法により、所定水分量になるように水が添加され混合されて、培養基に調製される。培養基は、通常、栽培容器に充填して使用される。栽培容器としては、滅菌処理に耐え得るものであれば、形状や大きさ、材質を問わないで使用できる。例えば、ポリプロピレン製栽培容器が好適であり、その大きさは、800〜1000cc程度とすることができる。例えば、キノコ栽培で最も一般的に用いられる容量850ml、口径58mmのビンを使用してもよいし、他の栽培容器、例えば袋栽培用の袋を使用することもできる。
【0029】培養基の栽培容器への充填は、充填機の使用により簡便に行うことが出来る。栽培容器に充填された培養基の中央部には、菌糸の蔓延を良好にするため、直径が10〜20mmであり、底部に到達する接種孔を設けるのが好ましい。
【0030】栽培容器に培養基を充填後は、当業者に周知の方法により、栽培容器および培養基に対して滅菌処理が施される。滅菌手段は、特に限定しないが、通常、高圧殺菌釜を利用して行われる。培養基温度が約120℃に到達した後、この温度状態を1時間程度維持することにより、完全滅菌させることができる。滅菌処理後の培養基は、無菌的に冷却される。なお、培養基の滅菌処理は、培養容器に充填前に実施することもできる。
【0031】(菌種の接種)滅菌した培養基には菌種を接種する。接種のための菌種は、天然または人工栽培のキノコの子実体のいずれから菌糸または胞子を採取して培地で増殖させて用いてもよいし、あるいは微生物寄託機関および研究機関などで保存されている菌株の菌糸を培地で増殖させて用いてもよい。得られた種菌と滅菌処理後の培地を混合することにより、接種を行う。種菌と培地の容積比は、特に限定されないが、約1:100〜約1:25であることが好ましい。
【0032】例えば、エリンギの菌種を接種する場合には、接種量は、800〜850cc程度の大きさの栽培瓶の場合、通常、1瓶当たり10〜20cc程度とし、瓶口全面に接種するのが好ましい。本発明において使用するのに好ましいエリンギの菌種は、(株)キノックスより販売されている「EG−8号菌」を使用することができる。なお、当該菌は、「EG−8」として、平成10年10月23日から、工業技術院生命工学工業技術研究所おいて「FERM P−17028」として寄託されている。
【0033】キノコの栽培装置は、培養工程、芽出し工程および生育工程に応じて、それぞれ培養室、芽出し室、生育室などの栽培室を備えており、これらの各種栽培室には、それぞれ温度調節手段が備えられている。なお、各栽培室は、兼用されることもある。
【0034】(変温栽培工程)キノコの子実体を栽培により得るためには、培養基に接種した菌種の培養を行い、菌糸を増殖させて、培養基全体に菌糸の蔓延した菌床を形成させる培養工程を実施し、好ましくは菌掻き処理を行った後、子実体の原基を形成させる芽出し工程を実施し、さらに、子実体を生育させる生育工程を実施する。本発明技術では、これらの工程のいずれか1以上の工程において、変温栽培工程を実施する。変温栽培工程は、これらの工程のうちいずれか1工程において実施されればよい。1つの工程において実施するのであれば、好ましくは、生育工程において実施し、さらに好ましくは、培養工程において実施する。生育工程において実施すると収量増加と水分率低下に効果的であり、培養工程で実施すると菌廻りの期間短縮に効果的である。より好ましくは、これらのうちいずれか2つの工程において実施する。例えば、培養工程および生育工程、培養工程および芽出し工程、芽出し工程および生育工程、で実施する。より好ましくは、これらの全工程において変温栽培工程を実施する。
【0035】なお、変温栽培工程を実施しない培養工程、芽出し工程および生育工程における培養条件は、各種栽培対象のキノコについて当該分野において公知である適切な栽培条件によって実施することができる。また、変温栽培工程における温度以外の栽培条件、例えば、湿度、光、CO2濃度などの条件は、各種栽培対象キノコについての各種工程において、当該分野において公知である適切な条件を採用することができる。
【0036】変温栽培工程は、異なる温度条件による栽培温度工程を有する栽培サイクルを繰り返し実施する工程である。栽培サイクルは、温度に関して少なくとも2種の条件があり、それぞれの条件下での栽培温度工程を有している。なお、温度条件が異なっていれば、その他の栽培条件は一致していても相違していてもよい。本発明において、温度条件が異なるとは、栽培温度工程において設定される温度プロセスが異なることをいう。具体的には、開始温度と到達温度のいずれかが異なること、あるいは、栽培温度工程における温度制御が異なること、すなわち、一定温度工程か、昇温工程か、あるいは冷却工程かの点で異なることなどが該当する。なお、栽培温度工程を一定温度で実施しようとする場合には、その一定に制御される温度が開始温度および到達温度である。本明細書においては、2種類以上のn個の栽培温度工程からなる栽培サイクルにおいて、栽培サイクルにおける温度較差とは、栽培サイクルに含まれる各工程の各開始温度および各到達温度から選択される最低温度と最高温度の較差を意味している。なお、第1の栽培温度工程の開始温度あるいは到達温度を第1の温度といい、第2の栽培温度工程の開始温度あるいは到達温度を第2の温度ということがある。以下、栽培温度工程の順番に応じて当該工程の開始温度あるいは到達温度を第nの温度ということがある。
【0037】栽培サイクルは、各栽培温度工程の開始温度と到達温度と温度状態(一定温度、昇温、冷却)と時間とを組み合わせることによって構成することができる。例えば、図1に示すように、一定温度工程と一定温度工程(図1(a))とを組み合わせることができる。一定温度工程を複数組み合わせることにより段階的な昇温あるいは冷却工程を有する一つの昇温工程ないしは冷却工程を構成することもできる。また、昇温工程と冷却工程とからなる栽培サイクル(図1(b))とすることもできる。また、ある温度で一定温度状態の工程と、さらに高温への昇温工程あるいはさらに低温への冷却工程とを組み合わせることができる(図1(c))。また、一定温度工程〜昇温工程〜冷却工程とすることもできる(図1(d))。
【0038】なお、上記各種の形態では、サイクル内(例えば、第1の栽培温度工程と第2の栽培温度工程との間)やサイクル間(第2の栽培温度工程と次のサイクルの第1の栽培温度工程との間)には、実質的に急激な昇温ないし冷却状態が必然的に存在する場合がある。例えば、図1(a)および(c)の場合である。工程の終了温度と次の工程の開始温度に温度較差がある場合には、急激な昇温ないし冷却状態を本質的に内包している。このような本質的でありかつ必然的に付随する温度変化状態は、上記した(b)〜(d)中の昇温工程や冷却工程とは区別される。通常、このような昇温状態や冷却状態は1〜2時間以内に終了するように制御されるべきである。3時間を超えるときは、別途冷却ないし昇温工程として規定される。このような栽培温度工程間の温度条件が違うことに伴う温度変化状態は、連続する栽培温度工程間のいずれかの工程内に含まれることになる。
【0039】栽培サイクルの形態としては、各種採用することができるが、2つの栽培温度工程からなることが好ましい。例えば、図に示すように、第1の温度での一定温度状態の栽培温度工程と、第2の温度で一定温度の栽培温度工程とを有する場合(図2(a))、第1の温度での一定温度の第1の栽培温度工程と、第1の温度から第2の温度への昇温工程である第2の栽培温度工程とを有する場合(図2(b))、第1の温度での一定温度の第1の栽培温度工程と、第1の温度から第2の温度への冷却工程にある第2の栽培温度工程とを有する場合(図2(c))と、第1の温度へ昇温工程(なお昇温開始温度は第2の温度となる)の第1の工程と、第1の温度から第2の温度への冷却工程にある第2の工程とを有する場合(図2(d))等がある。特に、これらの各種形態において、図2(c)の形態が好ましい。これは、自然界における温度変化に近いためであると推測される。
【0040】なお、図2(b)の形態においては、第2の栽培温度工程と次のサイクルの第1の栽培温度工程との間には、事実上付随する冷却状態が存在し、図2(c)の形態においては、第2の栽培温度工程と次のサイクルの第1の栽培温度工程との間には、付随する昇温状態が存在することになる。これらの冷却状態や昇温状態は、どちらかの栽培温度工程内に含まれるようにする。
【0041】本発明では、このような各種形態の栽培サイクルを2回以上繰り返して実施する。栽培サイクルのサイクルタイムは、約12〜約48時間であることが好ましいが、より好ましくは、約22〜約25時間、さらに好ましくは、生物時間に合致させる観点等から約23〜約26時間である。最も好ましくは約24時間である。
【0042】異なる温度条件の栽培温度工程における温度状態には各種の組み合わせがあるが、栽培サイクル内における温度較差は、約4℃以上であることが好ましく、より好ましくは約5℃〜約8℃であり、さらに好ましくは約5℃〜約7℃である。例えば、約6℃が最も好ましい。4℃未満の温度較差の場合には、温度較差が小さすぎて、変温栽培工程の影響が出にくくなる。また、8℃を超えると、キノコに対するストレスが大きくなりすぎる。
【0043】(培養)培養工程において、変温栽培工程を実施する場合には、キノコの種類に応じて栽培サイクル内における温度較差(最低温度と最高温度との較差)を設定できるが、培養工程における温度較差は、好ましくは、5℃以上8℃以下である。より好ましくは、5℃以上7℃以下とする。また、温度変化に関しては、好ましくは、第1の温度で一定温度の第1の栽培温度工程と、第1の温度から第2の温度への昇温工程の第2の栽培温度工程とする(以下、このような変温栽培サイクルを、一定/昇温サイクルともいう。)。好ましくは、一定温度工程における到達温度(開始温度でもある)が昇温工程の開始温度となるようなサイクルとする。サイクル内での最低温度および最高温度は、キノコの種類に応じて設定することができる。また、これらの工程はサイクルで実施されるので、結果として、一定温度工程と昇温工程との順番は逆でもよい。また、栽培サイクルは、第1の栽培温度工程と第2の栽培温度工程の2工程で24時間とすることが好ましい。また、第1の工程が温度一定工程で、第2の工程が昇温工程の場合には、第1の工程は、約8〜約15時間であり、第2の工程は、約16〜約9時間であることが好ましく、より好ましくは、それぞれ約11〜約15時間、および約13〜約9時間である。最も好ましくは約13時間および約11時間である。
【0044】以下、キノコの種類に応じた培養工程における適切な温度範囲と最適温度(好ましい温度として記載してある。)とを例示する。例示される適切な温度範囲内に少なくとも最低温度を包含するようにすることが好ましい。最高温度は、この適切な温度範囲内に包含されうるが、この温度範囲の上限を超えることがある。また、各キノコの培養工程で実施する栽培サイクルにおける最低温度は、各キノコの培養温度の最適温度に対して、マイナス約2℃およびプラス約4℃とし、最高温度は、最低温度から約4〜約7℃高い温度に設定することが好ましい。
【0045】例えば、Pleurotus属に属する菌(特にエリンギ)の培養工程において適切な温度範囲は、一般には、約12℃以上約28℃以下、好ましくは、約20℃である。かかる培養工程において、変温栽培工程を実施する場合、好ましくは、最低温度を約18℃以上約24℃以下として、最高温度を最低温度よりも約4℃以上約7℃以下とする。例えば、約22℃以上約29℃以下とする。より好ましくは、最低目標温度を約23℃とし、最高目標温度を約29℃とする。また、より好ましくは、一定/昇温サイクルで、第1の一定温度工程の到達温度を約23℃とし、第2の昇温工程の到達温度を約29℃とする。
【0046】なお、当該温度条件下において、好ましくは、湿度は、約50%RH以上約80%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下である。より好ましくは、湿度は約60%RH以上約75%RH以下、CO2濃度は、約2500ppm以下である。さらに好ましくは、湿度約65%RH以上約75%RH以下、CO2濃度約2000ppm以下である。
【0047】Lentinus属に属する菌の培養に適切な条件は、一般に、温度範囲は、約12℃以上約26℃以下、湿度範囲は、約50%RH以上約80%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下である。好ましくは、温度約22℃、湿度約65%RH以上約70%RH以下、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0048】Flammulina属に属する菌の培養に適切な条件は、一般に、温度範囲は、約10℃以上約22℃以下、湿度範囲は、約50%RH以上約80%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下である。好ましくは、温度約18℃、湿度約65%RH以上約70%RH以下、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0049】Hypsizigus属に属する菌の培養に適切な条件は、一般に、温度範囲は、約10℃以上約26℃以下、湿度範囲は、約50%RH以上約80%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下である。好ましくは、温度約20℃、湿度約65%RH以上約70%RH以下、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0050】Grifola属に属する菌の培養に適切な条件は、一般に、温度範囲は、約15℃以上約28℃以下、湿度範囲は、約50%RH以上約80%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下である。好ましくは、温度約23℃、湿度約70%RH以上約75%RH以下、CO2濃度約2000ppm以下である。
【0051】Pholiota属に属する菌の培養に適切な条件は、一般に、温度範囲は、約12℃以上約28℃以下、湿度範囲は、約50%RH以上約80%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下である。好ましくは、温度約20℃、湿度約65%RH以上約70%RH以下、CO2濃度約2000ppm以下である。
【0052】Auricularia属に属する菌の培養に適切な条件は、一般に、温度範囲は、約15℃以上約30℃以下、湿度範囲は、約50%RH以上80%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下である。好ましくは、温度約20℃、湿度約65%RH以上約70%RH以下、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0053】Agrocybe属に属する菌の培養に適切な条件は、一般に、温度範囲は、約18℃以上約30℃以下、湿度範囲は約50%RH以上約80%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下である。好ましくは、温度約24℃、湿度約60%RH以上約65%RH以下、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0054】Hericium属に属する菌の培養に適切な条件は、一般に、温度範囲は、約13℃以上約25℃以下、湿度範囲は約50%RH以上約80%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下である。好ましくは、温度約20℃、湿度約65%RH以上約70%RH以下、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0055】Agaricus属に属する菌の培養に適切な条件は、一般に、温度範囲は、約15℃以上約30℃以下、湿度範囲は約50%RH以上約75%RH以下、CO2濃度は、約2500ppm以下である。好ましくは、温度約25℃、湿度約60%RH以上約70%RH以下、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0056】Lyophyllum属、Tricholoma属、Rhizopagon属、Tuber属などに属する菌根菌の培養に適切な条件は、一般に、温度は、約20℃以上約26℃以下、湿度は、約50%RH以上約75%RH以下、CO2濃度は、約2000ppm以下である。好ましくは、温度約23℃、湿度約60%RH以上約70%RH以下、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0057】菌廻りにかかる時間は、培養に用いる容器の容量(培地の容量)によって変動するが、培養工程において変温栽培工程を実施することにより、菌糸の成長が促進されて菌廻りまでの期間が短縮される。また、熟成期間を省略あるいは短縮することもできる。なお、培養工程において変温栽培工程を実施する場合には、光照射が実施されないことが好ましい。
【0058】(菌掻き処理)次いで、菌糸の蔓延した菌床の表面を5〜20mmの深さに菌掻き処理する。かかる菌掻き処理により、接種した菌種が掻き取られると共に菌床表面の菌糸に物理的刺激が与えられる。本発明において、菌掻き処理は、発芽を揃え、その数を抑制し、菌床の接種孔周辺部に子実体を集中させるため、通常よりやや深く行うことが好ましい。菌掻き処理の深さは、好ましくは10〜15mmで実施される。
【0059】(芽出し〜生育)菌掻き処理後、芽出し工程に移行する。栽培容器を倒立または正立状態において、適切な湿度および光環境下において、芽出し工程を実施する。栽培容器の口は、開放状態、密閉状態、あるいは半開放状態等のいずれであってもよいが、本発明における変温栽培工程の効果を妨げない範囲に解放状態を調節するようにする。なお、必要あれば、菌掻き後の菌床表面に、散水または噴霧すること等によって水分を付与することができる。
【0060】芽出しの際は、栽培容器内の温度を、通常、上記培養で菌糸を培養した温度から約0〜約10℃低い温度に維持しながら菌床を培養し、キノコの子実体原基を形成させる。各種キノコに適切な芽出し温度範囲および好ましい温度は、当業者に公知である。
【0061】芽出し工程において、変温栽培工程を実施する場合には、キノコの種類に応じて温度較差を設定できるが、芽出し工程における温度較差は、好ましくは、約5℃以上約8℃以下である。より好ましくは、約5℃以上約7℃以下とする。また、温度変化に関しては、好ましくは、一定/昇温サイクル(工程順序が逆の場合も含む。)とすることが好ましい。好ましくは、一定温度工程における温度が昇温工程における開始温度となるようなサイクルとする。最低温度および最高温度は、キノコの種類に応じて設定することができる。栽培サイクルは、時間に関しては、第1の栽培温度工程と第2の栽培温度工程の2工程で24時間とすることが好ましい。また、第1の工程を一定温度工程とし、第2の工程を昇温工程とする場合、第1の工程は、約8〜約15時間であり、第2の工程は、約16〜約9時間であることが好ましく、より好ましくは、それぞれ約11〜約15時間、および約13〜約9時間である。最も好ましくは約13時間および約11時間である。
【0062】以下、キノコの種類に応じた芽出し工程における適切な温度範囲と最適温度(好ましい温度として記載してある。)とを例示する。例示される適切な温度範囲内に少なくとも最低温度を設定することが好ましいが、最高温度は、この適切な温度範囲内にある場合の他、当該温度範囲を超えることがある。また、各キノコの芽出し工程における最低温度は、各最適温度に対して、プラスマイナス約2℃とし、最高温度は、最低温度から約4〜約7℃高い温度に設定することが好ましい。
【0063】例えば、Pleurotus属に属する菌(特にエリンギ)の芽出し工程において適切な温度範囲は、一般に、温度範囲は、約10℃以上約20℃以下、好ましくは約15℃である。かかる培養工程において、変温栽培工程を実施する場合好ましくは、最低温度を約13℃以上約17℃以下として、最高温度を最低温度よりも約4℃以上約7℃以下とする。例えば、約14℃以上約21℃以下とする。さらに好ましくは、最低温度を約15℃、最高温度をを約21℃とする。より好ましくは、一定/昇温サイクルで、第1の温度を約15℃とし、第2の温度を約21℃とする。
【0064】Lentinus属に属する菌の芽出し温度は、通常、約10℃以上約20℃以下、好ましくは約15℃である。
【0065】Flammulina属に属する菌の芽出し温度範囲は、通常、約8℃以上約18℃以下、好ましくは約13℃である。
【0066】Hypsizigus属に属する菌の芽出し温度範囲は、通常、約10℃以上約18℃以下、好ましくは約15℃である。
【0067】Grifola属に属する菌の芽出し温度範囲は、通常、約12℃以上約24℃以下好ましくは約22℃である。
【0068】Pholiota属に属する菌の芽出し温度範囲は、通常、約10℃以上約18℃以下、好ましくは、約14℃である。
【0069】Auricularia属に属する菌の芽出し温度範囲は、通常、約18℃以上約27℃以下、好ましくは約22℃である。
【0070】Agrocybe属に属する菌の芽出し温度範囲は、通常、約15℃以上約22℃以下、好ましくは約19℃である。
【0071】Hericium属に属する菌の芽出し温度範囲は、通常、約13℃以上約20℃以下、好ましくは約17℃である。
【0072】Agaricus属に属する菌の芽出し温度範囲は、通常、約20℃以上約30℃以下、好ましくは約25℃である。
【0073】Lyophyllum属、Tricholoma属、Rhizopagon属、Tuber属に属する菌根菌の芽出し温度範囲は、通常、約14℃以上約20℃以下、好ましくは約18℃である。
【0074】芽出し工程では光照射を行うことが好ましい。芽出し工程で変温栽培工程を実施する際の光照射は、連続的あるいは断続的に光照射を行うことができる。温度条件との関係では、例えば、温度一定の栽培温度工程中に連続的に、あるいは断続的に、あるいは、スポット的に照射することができる。この場合、一定温度栽培温度工程の最初と最後に、それぞれ一定時間、例えば1時間程度照射することができる。照度は、200〜500ルクス程度でよい。また、例えば、明条件(約50〜100Lux)12時間暗条件12時間の日周期条件とすることもできる。
【0075】芽出し工程では、通常、菌掻き処理後7〜10日間で原基が形成される。芽出し期間は、通常、子実体が1cm程度に成長するまで行われる。
【0076】芽出しが完了したら栽培容器を解放し(例えば、栽培容器がビンであればキャップをはずし)、生育工程へと移行する。
【0077】生育工程における栽培条件は、キノコが生育可能な条件であれば、特に限定されない。この際、環境湿度は、通常70%以上、好ましくは85〜95%の範囲とされる。各種キノコについて適切な生育条件は公知である。
【0078】生育工程で変温栽培工程を実施する場合には、キノコの種類に応じて温度較差を設定できるが、生育工程における温度較差は、好ましくは、約5℃以上約8℃以下である。より好ましくは、約5℃以上約7℃以下とする。また、温度変化に関しては、好ましくは、一定/昇温サイクル(工程順序が逆の場合も含む)を採用する。好ましくは、一定温度工程における温度が昇温工程における開始温度となるようなサイクルとする。この場合の最低温度および最高温度は、キノコの種類に応じて設定することができる。また、栽培サイクルは、第1の栽培温度工程と第2の栽培温度工程の2工程で24時間とすることが好ましい。また、第1の工程が一定温度工程で、第2の工程が昇温工程の場合、第1の工程は、約8〜約15時間であり、第2の工程は、約16〜約9時間であることが好ましく、より好ましくは、それぞれ約11〜約15時間、および約13〜約9時間である。最も好ましくは約13時間および約11時間である。なお、芽出し工程と生育工程との双方において変温栽培工程を実施する場合には、芽出し工程と生育工程との変温栽培条件を一致させることもできる。この場合、芽出し工程の条件に一致させることが好ましい。
【0079】以下、キノコの種類に応じた生育工程における一般的に適切とされる温度範囲と最適温度(好ましい温度として記載してある。)とを例示する。少なくとも、最低温度は、例示される適切な温度範囲内に設定することが好ましいが、最高温度が、この適切な温度範囲内にある場合の他、当該温度範囲を超えることがある。 生育工程における最低温度は、各キノコの生育温度の最適温度に対して、プラスマイナス約2℃とし、最高温度は、最低温度から約7〜約9℃高い温度に設定することが好ましい。
【0080】Pleurotus属(特にエリンギ)については、一般に、適切な温度範囲は、約10℃以上約20℃以下、湿度範囲は約80%RH以上約100%RH以下、CO2濃度は、約2000ppm以下、好ましくは、温度約16℃、湿度約90%RH、CO2濃度約1000ppm以下である。かかる生育工程において、変温栽培工程を実施する場合、好ましくは、最低温度を約14℃以上約18℃以下として、最高温度を最低温度よりも約4℃以上約7℃以下とする。例えば、約15℃以上約22℃以下とする。より好ましくは、最低温度を約15℃とし、最高温度を約21℃とする。また、より好ましくは、一定/昇温サイクルで、一定温度工程の温度を約15℃とし、昇温工程の到達温度を約21℃とする。
【0081】Lentinus属については、一般に、適切な温度範囲は、約10℃以上約20℃以下、湿度範囲は約80%RH以上約100%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下、好ましくは、温度約14℃、湿度約90%RH、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0082】Flammulina属については、一般に、適切な温度範囲は、約4℃以上約10℃以下、湿度範囲は、約80%RH以上約100%RH以下、CO2濃度は、約4000ppm以下、好ましくは、温度約7℃、湿度約90%RH、CO2濃度約2000ppm以下である。
【0083】Hypsizigus属については、一般に、適切な温度範囲は、約10℃以上約18℃以下、湿度範囲は約80%RH以上約100%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下、好ましくは、温度約15℃、湿度約90%RH、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0084】Grifola属については、一般に、適切な温度範囲は、約14℃以上約20℃以下、湿度範囲は約85%RH以上約100%RH以下、CO2濃度は、約2000ppm以下、好ましくは、温度約17℃、湿度約93%RH、CO2濃度約1000ppm以下である。
【0085】Pholiota属については、一般に、適切な温度範囲は、約10℃以上約18℃以下、湿度範囲は約85%RH以上約100%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下、好ましくは、温度約14℃、湿度約95%RH、CO2濃度約2000ppm以下である。
【0086】Auricularia属については、一般に、適切な温度範囲は、約18℃以上約27℃以下、湿度範囲は約85%RH以上約100%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下、好ましくは、温度約22℃、湿度約93%RH、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0087】Agrocybe属については、一般に、適切な温度範囲は、約15℃以上約22℃以下、湿度範囲は約80%RH以上約100%RH以下、CO2濃度は、約3000ppm以下、好ましくは、温度約19℃、湿度約90%RH、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0088】Hericium属については、一般に、適切な温度範囲は、約13℃以上約20℃以下、湿度範囲は約85%以上約100%RH以下、CO2濃度は、約2000ppm以下、好ましくは、温度約17℃、湿度約93%RH、CO2濃度約1000ppm以下である。
【0089】Agaricus属については、一般に、適切な温度範囲は、約20℃以上約30℃以下、湿度範囲は約75%RH以上約95%RH以下、CO2濃度は、約2500ppm以下、好ましくは、温度約25℃、湿度約90%RH、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0090】Lyophyllum属、Tricholoma属、Rhizopagon属、Tuber属に属する菌根菌については、一般に、適切な温度範囲は、約14℃以上約20℃以下、湿度範囲は、約75%RH以上約95%RH以下、CO2濃度は、約2000ppm以下、好ましくは、温度は、温度約18℃、湿度約90%RH、CO2濃度約1500ppm以下である。
【0091】生育工程では、光照射が必要となることが多い。光照射は、好ましくは、約50Lux以上約500Lux以下で1日あたり約1時間以上約8時間以下、さらに好ましくは、約100Lux以上約300Lux以下で1日あたり約1時間以上約6時間以下、さらにより好ましくは、約100Lux以上約200Lux以下で1日あたり約2〜約3時間である。所望の形態の子実体を得るためには、光照射およびCO2濃度を、適切にコントロールする。
【0092】生育を行う日数は、キノコの生育条件によって変化し得る。キノコの子実体が所望の大きさに生育したら、子実体の収穫を行う。
【0093】以上のような変温栽培工程は、従来公知の雰囲気温度調節手段よって栽培室内の温度制御を実施することによって達成することができる。一定温度工程、昇温工程、冷却工程のいずれもこのような温度調節手段によって温度条件を調節制御することができるが、栽培室外部温度に応じて温度調節手段の作動時間を調節して省コスト化を図ることができる。
【0094】したがって、本発明によれば、異なる温度条件による栽培期間を有する栽培サイクルを繰り返し実施する温度調節手段を有する、キノコの栽培装置が提供される。
【0095】このようなキノコの栽培方法およびキノコの栽培装置においては、一定温度工程と、昇温工程あるいは冷却工程とを組み合わせた栽培サイクルとすることにより、エネルギーコストを低減することができる。すなわち、一定温度工程には温度制御を行い、昇温工程あるいは冷却工程においては、温度制御を行わず、栽培室外部の温度に応じて栽培室の温度が昇温しあるいは冷却することができる。特に、第1の温度で温度一定の第1の栽培温度工程と、第1の温度から第2の温度への昇温工程にある第2の栽培温度工程とからなる栽培サイクルを実施する場合、第1の栽培温度工程においてのみ温度調節手段を作動させ、第2の栽培温度工程では、栽培室外部の温度(気温)が高い場合には、自然に栽培室内温度が昇温していくのを利用して温度調節手段による昇温制御時間を短縮し加温レベルを低下することができる。特に、温度調節手段として氷蓄熱型空調機器を採用すれば、一定温度工程と昇温工程(あるいは冷却工程)とを組み合わせた栽培サイクルを低コストで実施することができる。すなわち、本発明における変温栽培工程における温度較差および最低温度ならびに最高温度を考慮すると、例えば、日本等を含む温帯地方から熱帯地方にかけては、本発明における温度調節手段としては、冷却手段を含む構成が好ましい。氷蓄熱型空調機器は、夜間(だいたい22時〜8時程度)に、電力を用いて氷を形成させ、昼間(だいたい8時〜22時程度)においては、氷あるいは氷に加えて空冷式ヒートポンプ等を備える冷却装置である。氷蓄熱機によれば、冷却手段を作動させることのできる昼間に低温側工程を配し、冷却手段を作動させることのできない夜間に高温側工程を配することにより、夜間電力を有効利用できる。
【0096】
【実施例】以下に、本発明の実施例を説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0097】(実施例1:エリンギの変温栽培試験)本実施例では、Pleurotus eryngii(以下、エリンギ)の子実体の栽培について記載する。培養基の材料として、スギオガ粉と、コーンコブミールを乾燥重量で6:4で混合したものを110g準備し、フスマとコメヌカを重量比で1:1で混合したものを90g準備して、これらを混合して培養基とした。この培養基に対して、水分含有率が68wt%になるように水分を添加したものを、口径58mmで容量850mlの栽培容器に約90g充てんした。栽培容器は変温栽培区用に144本、対照区用に144本準備した。なお、常法に従って、培地中央に直径18mmのホールをあけ、キャップをはめた。これらの容器は、高圧殺菌釜を用いて120℃で1時間滅菌した。その後、清浄な室内で培地温度が18℃となるまで一晩冷却した。
【0098】種菌は、株式会社キノックス製のEG−8号菌を使用した。種菌を、常法に従って滅菌後の容器に1ビンあたり約9.4ml接種した。次いで、これらの容器を栽培室へ移動させ、培養工程、芽出し工程、生育工程を実施した。いずれの工程においても、温度調節手段として、氷蓄熱型空調機器を用いた。
【0099】(培養工程)変温栽培区と対照区につき、表1および図3に示す条件で培養工程を実施した。なお、光については両区につき暗黒条件とした。なお、変温栽培区では、第1の温度を23℃、第2の温度を29℃として、第1の栽培温度工程を一定温度工程とし、第2の栽培温度工程を23℃から29℃への昇温工程とした。具体的には、第1の栽培温度工程を、9時〜22時までの、13時間とし、氷蓄熱型空調機器により温度調節(冷却)し、第2の栽培温度工程を、22時〜9時までの11時間とすることにより、特に温度調節を施すことなく外気温を利用して温度上昇させて良好に昇温制御が達成できた。なお、本変温栽培区では、第2の栽培温度工程内において次の第1の栽培温度工程の目標一定温度である23℃にまで戻すように、第2の栽培温度工程の最後の一時間にのみ急冷を実施した。なお、実施例で用いた氷蓄熱型空調機器は、氷と空冷式ヒートポンプとを併用して冷却を実施するものであった。
【0100】
【表1】

【0101】この結果、変温栽培区では、対照区に比較して、菌糸の成長が早く、培養開始からおおよそ16日目で充分な菌廻りを確認でき、容器全体において菌糸が蔓延した状態となった。これに対して、対照区では、16日目では、変温栽培区の2/3程度の菌廻りの状態に留まり、20日目において充分な菌廻りを確認できた。変温栽培区では、平均して22日で培養工程を終了し、対照区では平均して24日で培養工程を終了した。
【0102】(菌掻き処理)次に、それぞれの区において培養工程を終了したものについて菌掻き処理を実施した。菌掻きは、深掻きとし、種菌とともに菌床表面を10〜15mm掻き取った。
【0103】(芽出し工程)ついで、容器の開口部を下方に向けて倒立させて、芽出し工程を実施した。芽出し工程における、温度条件を、表1および図4に示す。変温栽培区では、第1の温度を15℃、第2の温度を21℃として、第1の栽培温度工程を一定温度工程とし、第2の栽培温度工程を15℃〜21℃への昇温工程とした。第1の栽培温度工程では、氷蓄熱型空調機器により温度制御し、第2の栽培温度工程では、特に温度制御を施すことなく、外気温を利用して温度上昇させることにより良好に昇温制御が達成できた。なお、本変温栽培区では、第2の栽培温度工程内において次の第1の栽培温度工程の目標一定温度である21℃にまで戻すように、第2の栽培温度工程の最後の一時間において急冷を実施した。光環境については、両区について、第1工程の0〜1時間目と11〜12時間目にかけての計2時間行った。光強度はそれぞれ200ルクスとした。
【0104】(生育工程)原基が1cm程度となったことを確認した時点で芽出し工程を終了し、その後容器を反転させて正立状態でその場で継続して生育工程を実施した。両区について、生育工程における温度条件と光環境は芽出し工程と同条件で行った。生育工程は、キノコの傘の中央と端の部分が水平になる前まで行い、収穫した。
【0105】(評価)変温処理区と対照区で得られた子実体について、収穫までの日数(芽出し〜生育日数(併せて発生日数))、1容器あたりの終了、子実体の水分率、子実体形状測定、子実体密度を測定し、食味検査も実施した。子実体形状の測定部位と密度計算式を図5に示す。また、水分率は赤外線水分計によって測定し、算出した。食味検査は、子実体を電子レンジ(ワット数:500W)で2分間加熱(ラップで子実体を被着した状態とした)した後、9名の熟練したパネラーが食することによって、肉質の軟らかさと風味について評価した。表2に、発生日数、収量、水分率、子実体本数(容器あたり)の測定結果について示し、表3に、子実体の傘径ごとの子実体密度の測定結果を示す。また、図6に、子実体の菌傘直径を比較したグラフ図を示し、図7には、収穫した子実体の典型例を示す。図7(a)には対照区の、図7(b)には変温栽培区の子実体を示す。
【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

【0108】表2に示すように、変温栽培区は、対照区に比較して平均して約2日間の発生日数の短縮と、約30gの増収が観察された。発生日数の短縮と増収は、培養工程において観察されたように、菌糸成長の促進に引き続き、原基の形成や子実体の成長も促進された結果であると考えられる。また、変温栽培区の水分率は、対照区よりも低かった。
【0109】収穫されたエリンギの1本あたりの大きさについては、変温栽培区と対照区とでは大きな差はないようであった。しかしながら、傘径の大きな子実体の割合が増加しており、また、菌柄は、全体として太い傾向にあった。子実体密度については、2cm以上の傘径のものについては、変温栽培区の方が対照区に比較していずれも低い結果となった。
【0110】食味検査では、全てのパネラーについて、変温栽培区の子実体は対照区に比較して肉質が軟らかく、しかも甘味が優れているという結果であった。子実体密度が食感に関連していることが推測された。
【0111】以上のことから、エリンギの本実施例における変温栽培は、栽培日数の短縮、増収、品質向上の全てについて好ましい結果を得ることができた。
【0112】
【発明の効果】本発明により、変温栽培工程を含むキノコの栽培方法および栽培装置が提供される。
【出願人】 【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
【住所又は居所】愛知県名古屋市東区東新町1番地
【出願日】 平成13年12月6日(2001.12.6)
【代理人】 【識別番号】100064344
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 英彦 (外2名)
【公開番号】 特開2003−169540(P2003−169540A)
【公開日】 平成15年6月17日(2003.6.17)
【出願番号】 特願2001−373365(P2001−373365)