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【発明の名称】 斜め入射に備えた電磁波吸収体
【発明者】 【氏名】筒井 和久

【氏名】遠藤 博司

【要約】 【課題】斜め入射、すなわちシート面に垂直な方向に対して傾斜した方向から入射する電磁波を、ある範囲内の傾斜の場合であれば、垂直入射と同様に吸収するシート状の電磁波吸収体を提供する。

【解決手段】軟磁性金属の粉末をゴムまたはプラスチックのマトリクス中に分散させたものをシート状に成形する。軟磁性金属の粉末としてFe−13Cr合金の粉末を使用し、塩素化ポリエチレンゴムに分散させて、吸収ピーク周波数5.8GHzとする場合、軟磁性金属粉末の粒子形状、充填率およびシートの厚さを次のように調節する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 軟磁性金属の粉末をゴムまたはプラスチックのマトリクス中に分散させたものをシート状に成形してなる電磁波吸収体において、軟磁性金属粉末の粒子形状、充填率およびシートの厚さを調節することにより、シート面に垂直な方向に対し60度以内の傾斜した方向からの電磁波の入射に備えた電磁波吸収体。
【請求項2】 軟磁性金属粉末として金属溶湯のガス噴霧により得た球状粉末を使用した電磁波吸収体であって、下式(2)で表される反射減衰量が最大となるように、その透磁率(μ)、誘電率(ε)およびシート厚さ(d)を選択した請求項1の電磁波吸収体:反射減衰量(dB)=20×log|Γ|ただし、Γ=(Zin−Z0)/(Zin+Z0)
Zin=Zc・tanh(γc・d)
Zc=(Z0/cosθt)√(μ/ε)
γc=j・(2π/λ)√(μ・ε)cosθtsinθi/cosθt=√(μ・ε)
ここで、θi:電磁波が電磁波吸収体に入射する角度(垂線に対する傾き)
θt:入射した電磁波が屈折して電磁波吸収体内を進行する角度Zin:電磁波の入射側から終端を見込んだインピーダンスZ0:自由空間(大気中)での電磁波に対するインピーダンス【請求項3】 軟磁性金属の粉末としてFe−13Cr合金の粉末を、マトリクス材料として塩素化ポリエチレンを使用した請求項1または2の電磁波吸収体。
【請求項4】 充填率Fを15〜20容積%、シートの厚さを3.5〜4.0mmの範囲から選んで、5.8GHzの電磁波に対し、50度以内の入射角度で入射する5.8GHzの電磁波に対し、少なくとも−15dBの反射減衰を確保した請求項3の電磁波吸収体。
【請求項5】 充填率Fを16〜25容積%、シートの厚さを0.8〜1.0mmの範囲から選んで、50度以内の入射角度で入射する76GHzの電磁波に対し、少なくとも−15dBの反射減衰を確保した請求項3の電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シート状の電磁波吸収体において、斜め入射すなわちシート面に垂直な方向に対して傾斜した方向から入射する電磁波を吸収する性能がすぐれている電磁波吸体に関する。
【0002】
【従来の技術】電子機器に対する外部からの電磁波による干渉を防ぎ、またその機器自身からノイズ電磁波を放射することを抑制するため、軟磁性金属、たとえばパーマロイの粉末を、ゴムまたはプラスチックのマトリクス材料中に分散させてシート状に成形したものが、電磁波吸収体として広く使用されている。
【0003】このような電磁波吸収シートの用途が拡大するにつれて使用の態様がさまざまに展開したため、吸収性能を十分に発揮できない場面があることが経験された。その一例に、電磁波の斜め入射がある。後記する比較例が示すように、シート面に対して垂直な方向から入射する電磁波をよく吸収して減衰させる電磁波吸収シートが、傾斜した方向から入射する電磁波に対して低い吸収能しか示さない、という問題である。
【0004】たとえば、将来の普及が確実視されている高速道路の料金自動収受所の関連装置に使用する電磁波吸収シートは、スペースや他の設備との兼ね合いで、ノイズ電磁波の入射する可能性が高い方向に向けて設置できるとは限らない。逆に考えれば、電磁波吸収シートを取り付ける方向が定められていて、それに対して入射するノイズ電磁波の方向が限られている場合は、一定の傾斜角の電磁波に対する吸収性能の高い電磁波吸収シートがあれば、効果的に対処できることになる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記のような問題を解決し、シート状の電磁波吸収体において、斜め入射、すなわちシート面に垂直な方向に対して傾斜した方向から入射する電磁波を、ある範囲内の傾斜の場合であれば、垂直入射と同様に吸収する性能をもつ電磁波吸体を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】この目的を達成する本発明の電磁波吸収シートは、軟磁性金属の粉末をゴムまたはプラスチックのマトリクス中に分散させたものをシート状に成形してなる電磁波吸収体において、軟磁性金属粉末の粒子形状、充填率およびシートの厚さを調節することにより、シート面に垂直な方向に対し60度以内の斜め入射に備えた電磁波吸収体である。
【0007】
【発明の実施形態】一般に電磁波吸収シートは、外部からのノイズ電磁波を遮断するシールド目的で使用する場合も、シールドの対象となる電子機器の動作周波数のノイズを吸収することが第一の任務であり、従って、吸収特性はそれに合わせて、動作周波数に吸収のピークが位置するように設計する。
【0008】ピーク吸収の周波数を決定する因子は、軟磁性金属粉末の粒子形状および平均粒子径、マトリクス材料中への充填率、およびシートの厚さなど多くの因子が知られていて、実際はそれらを適宜組み合わせて設計し、必要により若干の試行錯誤により最適な使用を定めている。そこで、本発明の実施に当たっては、とくに高い周波数領域において使用する電磁波吸収シートを製造するには、粒子形状が一定しやすく、かつ粒径のコントロールが比較的容易な、軟磁性金属溶湯のガス噴霧により得た球状粉末を使用することが推奨される。
【0009】上記した諸因子の選択について、よりどころとなる理論を示せば、つぎのとおりである。いま、図1に示すように、金属板で裏打ちした厚さ(d)の電磁波吸収体に対し、角度(θi)で電磁波が入射した場合を考えると、この電磁波は表面で屈折して角度(θt)で進行する。このとき、電磁波の入射側から終端を見込んだインピーダンス(Zin)は、つぎの式(1)で表される:Zin=Zc・tanh(γc・d) (1)
ただし、Zc=(Z0/cosθt)√(μ/ε)
γc=j・(2π/λ)√(μ・ε)cosθtsinθi/cosθt=√(μ・ε)
ここで、Z0:自由空間(大気中)での電磁波に対するインピーダンスλ:波長である。このときの反射減衰量(Reflection Loss)は、 反射減衰量(dB)=20×log|Γ| (2)
ただし、Γ=(Zin−Z0)/(Zin+Z0)
したがって、入射角(θi)に対し、式(2)で表される反射減衰量が最大になるように、電磁波吸収体の透磁率(μ)、誘電率(ε)およびシート厚(d)を選択すればよい。これらの値を最適化するには、軟磁性粉末の充填率、粒径などのパラメータを変化させてみる、若干の施行錯誤を必要とするであろう。
【0010】本発明の電磁波吸収シートの製造に当たっては、この分野において既知の技術はいずれも利用できる。たとえば軟磁性金属の粉末は、前記したパーマロイのほか、Fe−Cr合金、Fe−Al−Si合金、Fe−Ni合金またはFe−Si合金の粉末が、好適に使用できる。同様にマトリクス材料も、塩素化ポリエチレンゴムやアクリルゴムなどが有用である。
【0011】
【実施例】[比較例1]Fe−13Cr合金の溶湯をガス噴霧することにより、平均粒径8μmの粉末を製造した。この粉末を塩素化ポリエチレンに配合し、ロール圧延を行なって、充填率:21.0体積% シート厚さ:3.3mmの電磁波吸収シートを製造した。この電磁波吸収シートは、5.8GHzに吸収のピークが位置するように設計されたものである。
【0012】この電磁波吸収シートに対し、種々の角度から5.8GHzの電磁波を入射させて、反射減衰を測定した。測定には自由空間法を採用し、アジレント・テクノロジー社製の「ネットワーク・アナライザーHP8510C」を使用した。得られた反射減衰と入射角度との関係をプロットして、図2のグラフを得た。図において「入射角度」は、垂直方向に対する傾きの度合いを意味する。図2は、入射角度が垂直方向に対し±20度までの傾斜であれば、電磁波吸収性能はほとんど変わらないが、それより大きな傾斜になると、傾斜の増大につれて吸収性能が著しく低下することを示している。
【0013】[実施例1]比較例1と同じ材料を使用し、同じ操作により、充填率:17.5体積% シート厚さ:3.6mmの電磁波吸収シートを製造した。この電磁波吸収シートもまた、5.8GHzに吸収のピークが位置するが、入射角度は30度に備えるよう設計されたものである。
【0014】この電磁波吸収シートに対し、種々の角度から5.8GHzの電磁波を入射させて、反射減衰を測定した。得られた反射減衰と入射角度との関係は、図3のグラフに示すとおりである。図3から、入射角度が(30±20)度までの傾斜であれば、−15dB以上の反射減衰が確保できること、また垂直方向を中心にみれば、±50度の範囲にわたって−15dB以上の反射減衰が達成できることがわかる。
【0015】つぎに、電磁波の入射角度は30度の一定方向に固定したまま、周波数を5.0GHzから7.0GHzの範囲で変化させて、反射減衰を測定することによって、吸収性能の周波数による変化を調べた。その結果を、比較例1の電磁波吸収シートのそれ(入射角度を30度にした)とあわせて、図4に示す。ピークの位置する5.8GHz付近における吸収性能が、比較例1は−23dBであるのに対し、実施例1は−30dB以上と、格段に異なっている。
【0016】[実施例2]比較例1と同じ材料を使用し、同じ操作により、充填率:15.0体積% シート厚さ:3.9mmの電磁波吸収シートを製造した。この電磁波吸収シートもまた、5.8GHzに吸収のピークが位置するが、入射角45度に備えるよう設計されたものである。
【0017】この電磁波吸収シートに対し、種々の角度から5.8GHzの電磁波を入射させて、反射減衰を測定した。得られた反射減衰と入射角度との関係は、図5のグラフに示すとおりである。図5から、入射角度が55度までの傾斜であれば、−15dB以上の反射減衰が確保できることがわかる。垂直方向を中心にみれば、±55度の範囲にわたって、−15dB以上の反射減衰が達成されている。
【0018】この電磁波吸収シートについても、電磁波の入射角度は45度の一定方向として、周波数を5.0〜7.0MHzの範囲の反射減衰を測定した。結果を、比較例1の電磁波吸収シートのデータ(入射角度を45度にした)とあわせて、図6に示す。ピークの位置する5.8MHz付近における吸収性能が、比較例1は−15dBに止まるのに対し、実施例2は−28dBに達している。
【0019】[比較例2]比較例1で製造したFe−13Cr合金の粉末を使用し、マトリクスとなるゴムにはアクリルゴムを選び、混練およびロール圧延を行なって、充填率:25.0体積% シート厚さ:0.95mmの電磁波吸収シートを製造した。この電磁波吸収シートは、76GHzに吸収のピークが位置するように設計されたものである。
【0020】この電磁波吸収シートに対して、種々の角度から76GHzの電磁波を入射させて、反射減衰を測定した。得られた反射減衰と入射角度との関係をプロットして、図7のグラフを得た。図7を図2と対比すると、より高い周波数領域においては、入射角度の増大に伴って、吸収性能が速やかに低下することがわかる。
【0021】[実施例3]比較例2と同じ材料を使用し、同じ操作により、充填率:21.0体積% シート厚さ:0.95mmの電磁波吸収シートを製造した。この電磁波吸収シートもまた、76GHzに吸収のピークが位置するが、入射角度30度に備えるよう設計されたものである。
【0022】この電磁波吸収シートに対し、種々の角度から76GHzの電磁波を入射させて、反射減衰を測定した。得られた反射減衰と入射角度との関係は、図8のグラフに示すとおりである。図8から、入射角度が(30±20)度までの傾斜であれば、−15dB以上の反射減衰が確保できること、また垂直方向を中心にみれば、±45度の範囲にわたって−15dB以上の反射減衰が達成できることがわかる。
【0023】つぎに、電磁波の入射角度は30度の一定方向に固定したまま、周波数を70GHzから80GHzの範囲で変化させて、反射減衰を測定した。その結果を、比較例2の電磁波吸収シートのそれ(入射角度を30度にした)とあわせて、図9に示す。図9は、比較例2の電磁波吸収シートは、吸収のピークが、僅かであるが設計値から移動して、77GHz付近にある。反射減衰も比較例2は−17dB〜−18dBに止まるのに対し、実施例3は−28dBの高い値を実現していることを示す。
【0024】[実施例4]比較例1と同じ材料を使用し、同じ操作により、充填率:16.0体積% シート厚さ:1.0mmの電磁波吸収シートを製造した。この電磁波吸収シートもまた、76GHzに吸収のピークが位置するが、入射角度45度に備えるよう設計されたものである。
【0025】この電磁波吸収シートに対し、種々の角度から76GHzの電磁波を入射させて、反射減衰を測定した。得られた反射減衰と入射角度との関係は、図10のグラフに示すとおりである。図10から、入射角が垂直方向に対し55度までの傾斜であれば、−15dB以上の反射減衰が確保できることがわかる。垂直方向を中心にみれば、±55度の範囲にわたって−15dB以上の反射減衰が達成されている。
【0026】この電磁波吸収シートについても、電磁波の入射角度は45度の一定方向に固定したまま、周波数を70GHzから80GHzの範囲で変化させて、反射減衰を測定した。その結果を、比較例2の電磁波吸収シートのそれ(入射角度を45度にした)とあわせて、図10に示す。図10により、比較例2の電磁波吸収シートは、吸収のピークが78GHzであって、設計値76GHzからは外れた位置にあり、反射減衰も−10dBに達しないのに対し、実施例4は−27dBの高い値に到達していることがわかる。
【0027】
【発明の効果】本発明により、軟磁性金属粉末をゴムまたはプラスチックのマトリクス中に分散させ、シート状に成形してなる電磁波吸収シートにおいて、シートに対して垂直方向から傾斜した方向で入射する電磁波を吸収する能力が改善されたものが実現した。これにより、電子機器を外部電磁波の干渉から保護し、また電子機器から放射される電磁波を抑制するために電磁波吸収シートを使用するに当たって、機器の形状や寸法、あるいは設置場所の都合により、予想される電磁波の進行方法がシートの面に対して垂直方向から傾斜していても、効果的な電磁波吸収をおこなうことができる。
【出願人】 【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
【出願日】 平成12年12月18日(2000.12.18)
【代理人】 【識別番号】100070161
【弁理士】
【氏名又は名称】須賀 総夫
【公開番号】 特開2002−185180(P2002−185180A)
【公開日】 平成14年6月28日(2002.6.28)
【出願番号】 特願2000−383671(P2000−383671)