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【発明の名称】 電波吸収体及び電波吸収方法
【発明者】 【氏名】笹田 雅昭

【要約】 【課題】広い周波数帯域において優れた電波吸収特性を有すると共に、耐環境性にも優れたものとする。

【解決手段】表面121が非平面形状とされ、電磁波が入射される表面側に配設される第1の層である損失誘電体12と、この損失誘電体12の底面側に配設される第2の層である磁性体14と、この磁性体14の底面側に配設される導電反射層16とを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面で反射される電磁波と表面から入射して底面で反射される電磁波とが表面側で互いに打ち消されることで反射波が低減されるように構成された電波吸収体であって、電磁波が入射される表面側に配設され、その表面が非平面形状とされた損失誘電体層と、この損失誘電体層の底面側に配設される磁性体層とを備えたことを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】 前記損失誘電体層は、誘電性素材に導電性付与素材を分散させて混入することにより得たものからなることを特徴とする請求項1記載の電波吸収体。
【請求項3】 前記損失誘電体層は、前記誘電性素材として多孔質材を用いるようにしたものであることを特徴とする請求項2記載の電波吸収体。
【請求項4】 前記磁性体層は、誘電性素材に磁性付与素材を分散させて混入することにより得たものからなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項5】 前記磁性体層は、誘電性素材として多孔質材を用いるようにしたものであることを特徴とする請求項4記載の電波吸収体。
【請求項6】 前記磁性体層の底面に電磁波を反射させる導電反射層を設けたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項7】 前記導電反射層は可撓性を有する部材で構成されていることを特徴とする請求項6記載の電波吸収体。
【請求項8】 前記可撓性を有する部材は導電布であることを特徴とする請求項7記載の電波吸収体。
【請求項9】 底面側に導電反射層が設けられた損失誘電体層を用い、表面で反射される電磁波と表面から入射して底面で反射される電磁波とが表面側で互いに打ち消されることで反射波が低減されるようにする電波吸収方法において、前記損失誘電体層の表面を非平面形状にすることにより電磁波の入射位置により当該損失誘電体層の厚みが異なるようにすると共に、前記損失誘電体層と前記導電反射層との間に磁性体層を配設し、この磁性体層により前記導電反射層近傍の磁界成分を吸収させるようにすることを特徴とする電波吸収方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電磁波の吸収や電磁波の反射防止に用いられる電波吸収体に関し、例えば自動車の自動運行システムや衝突防止レーダ等における電波吸収壁材として用いるのに好適な電波吸収体及び電波吸収方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、大気よりも密度の高い絶縁材は、波動インピーダンスが大気よりも低いことから入射する電磁波を反射することになる。また、高い波動インピーダンスを有する導体であっても電磁波の反射が生じる。このため、電磁波の反射防止を必要とする場合、例えば図6に示すような電波吸収体が用いられていた。
【0003】すなわち、図6に示す電波吸収体100は、第1の損失誘電体101と第2の損失誘電体102とを積層すると共に、底面に導電反射板103を設けて構成したもので、表面側の第1の損失誘電体101の厚みd1を吸収すべき電磁波の周波数の1/4波長(電気長)に相当する値に設定すると共に、底面側の第2の損失誘電体102の厚みd2を両者の加算した厚みd3が吸収すべき別の電磁波の周波数の1/4波長(電気長)に相当する値になるように設定したものである。
【0004】これにより、電波吸収体100に入射した電磁波の少なくとも一部は第1,第2の損失誘電体101,102の内部で熱エネルギに変換されて吸収される一方、入射面となる表面における電磁波の反射成分Vi1と、表面から入射した電磁波の第1の損失誘電体101の底面における反射成分Vt1とが反射成分Vt1の位相が180°反転されることで表面側において相殺されると共に、入射面となる表面における別の電磁波の反射成分Vi2と、表面から入射した電磁波の導電反射板103における反射成分Vt2とが反射成分Vi2の位相が180°反転されることで表面側において相殺されることになる。
【0005】この積層構造のものでは、表面側の第1の損失誘電体101は、多孔質材を用いたり比較的少量の損失材を混入したりすることにより入射波があまり反射されないようにする一方、第2の損失誘電体102は、第1の損失誘電体101よりも損失材の混入量を多くしたものが用いられることになる。
【0006】なお、第1,第2の損失誘電体101,102は、それぞれ複素誘電率εがε=ε′−jε″で表わされるもので、右辺の実数項は誘電率を示し、虚数項はカーボン微粉末等の損失材を混入することによる損失を示すものである。因みに、誘電損失(tanδ)は、ε″/ε′で表わされる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記の電波吸収体100においては、第1の損失誘電体101の厚みd1、及び、第1の損失誘電体101の厚みd1と第2の損失誘電体102の厚みd2とを加算した厚みd3がそれぞれ1/4波長(電気長)となる周波数の電磁波、あるいはその奇数倍の周波数の電磁波に対しては優れた電波吸収体として機能することになるが、それ以外の周波数の電磁波に対しては吸収効率が低下することになり広い周波数帯域に亘って優れた吸収特性を有する電波吸収体としては使用できないという問題があった。
【0008】また、表面側から底面側に向けて損失抵抗が徐々に低くなるようにして損失誘電体を3層以上に積層することにより電磁波を吸収する周波数帯域を広げるようにすることも行われているが、このようにしても大きく帯域が広がることはなく、しかも不可避的に厚みが厚くなって大型化してしまうという別の問題が生じる。さらには、電磁波の入斜面である第1の損失誘電体101の表面に水滴や塵埃等が付着すると共振点が移動することになって電波吸収特性が劣化し、良好な電波吸収体として使用できなくなるという問題もある。
【0009】本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、広い周波数帯域において優れた電波吸収特性を有すると共に、耐環境性にも優れた電波吸収体及び電波吸収方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1の発明は、表面で反射される電磁波と表面から入射して底面で反射される電磁波とが表面側で互いに打ち消されることで反射波が低減されるように構成された電波吸収体であって、電磁波が入射される表面側に配設され、その表面が非平面形状とされた損失誘電体層と、この損失誘電体層の底面側に配設される磁性体層とを備えたことを特徴としている。
【0011】この構成によれば、損失誘電体層の表面から内部に入射された電磁波の少なくとも一部は損失誘電体層及び磁性体層の内部で熱エネルギに変換される一方、表面で反射された電磁波と、損失誘電体層の底面で反射された電磁波及び磁性体層の底面に設けられる導電反射層で反射された電磁波とが表面側で互いに打ち消されて反射波が低減される。
【0012】この場合、電磁波の入射面となる表面が非平面形状とされることで厚みが電磁波の入射位置によって異なったものとなっているため、厚みの厚い位置では薄い位置よりも低い周波数の電磁波の反射波が効率的に低減され、厚みの薄い位置では厚い位置よりも高い周波数の電磁波の反射波が効率的に低減されることになる。また、表面で反射波が散乱されることにより入射方向への反射成分が減少されること、表面の入射位置により生じる厚み方向の距離差により反射成分がベクトル合成され、平面のような単純加算にならないこと等からも入射方向に対する反射波が効率的に低減されることになる。
【0013】このため、広い周波数帯域に亘って電磁波を効果的に吸収することができるようになると共に、表面に水滴や塵埃等が付着して共振点が移動したとしても必要とする周波数帯域における電波吸収特性が低下しないようになり、耐環境性にも優れた電波吸収体を得ることができる。
【0014】また、導電反射層に近接した領域では電界成分よりも磁界成分の方が大きいため、この磁界成分が磁性体層により効率的に吸収されることになる結果、反射波が効果的に低減されることになる。
【0015】また、請求項2の発明は、請求項1に係るものにおいて、前記損失誘電体層は、誘電性素材に導電性付与素材を分散させて混入することにより得たものからなることを特徴としている。
【0016】この構成によれば、損失誘電体層の複素誘電率の虚数項の値を大きくすることができ、誘電損失を大きくすることができるようになる結果、電波吸収体に用いるのに好適な損失誘電体層とすることができる。
【0017】また、請求項3の発明は、請求項2に係るものにおいて、前記損失誘電体層は、前記誘電性素材として多孔質材を用いるようにしたものであることを特徴としている。
【0018】この構成によれば、内部に空気層が形成されて複素誘電率の実数項の値を小さくすることができ、誘電損失を大きくすることができるようになる結果、電波吸収体に用いるのに好適な損失誘電体層とすることができる。
【0019】また、請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかに係るものにおいて、前記磁性体層は、誘電性素材に磁性付与素材を分散させて混入することにより得たものからなることを特徴としている。
【0020】この構成によれば、所定の誘電率と共に適切な透磁率を有するものとなり、電波吸収体に用いるのに好適な磁性体層とすることができる。
【0021】また、請求項5の発明は、請求項4に係るものにおいて、前記磁性体層は、誘電性素材として多孔質材を用いるようにしたものであることを特徴としている。
【0022】この構成によれば、内部に空気層が形成されて複素誘電率の実数項の値を小さくすることができ、誘電損失を大きくすることができるようになる結果、電波吸収体に用いるのに好適な磁性体層とすることができる。
【0023】また、請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかに係るものにおいて、前記磁性体層の底面に電磁波を反射させる導電反射層を設けたことを特徴としている。
【0024】この構成によれば、損失誘電体層の表面から内部に入射された電磁波の少なくとも一部は熱エネルギに変換されて吸収される一方、内部で吸収されなかった電磁波は損失誘電体層の底面及び底面の導電反射層で安定した状態で表面側に反射されることになる結果、電波吸収特性の安定した電波吸収体を得ることができる。すなわち、磁性体層の底面に導電反射層が設けられていない場合、内部で吸収されなかった電磁波は電波吸収体を取り付ける壁面等の被取付面で反射されることになる結果、被取付面の材質等により反射状態が変動して電波吸収特性が安定しないことになる。
【0025】また、請求項7の発明は、請求項6に係るものにおいて、前記導電反射層は可撓性を有する部材で構成されていることを特徴としている。
【0026】この構成によれば、電波吸収体は、可撓性を有する部材からなる導電反射層側が壁面等の被取付面に貼着等の手段で取り付けられることになる。このため、被取付面が少し湾曲する等していてもその湾曲面に沿って電波吸収体を安定した状態で取り付けることができる。
【0027】また、請求項8の発明は、請求項7に係るものにおいて、前記可撓性を有する部材は導電布であることを特徴としている。
【0028】この構成によれば、電波吸収体は、可撓性を有する導電布側が壁面等の被取付面に貼着等の手段で取り付けられることになる。このため、被取付面が少し湾曲する等していても電波吸収体を導電布を介して被取付面に安定した状態で取り付けることができる。
【0029】また、請求項9の発明は、底面側に導電反射層が設けられた損失誘電体層を用い、表面で反射される電磁波と表面から入射して底面で反射される電磁波とが表面側で互いに打ち消されることで反射波が低減されるようにする電波吸収方法において、前記損失誘電体層の表面を非平面形状にすることにより電磁波の入射位置により当該損失誘電体層の厚みが異なるようにすると共に、前記損失誘電体層と前記導電反射層との間に磁性体層を配設し、この磁性体層により前記導電反射層近傍の磁界成分を吸収させるようにすることを特徴としている。
【0030】この方法によれば、損失誘電体層の厚みの厚い位置では薄い位置よりも低い周波数の電磁波の反射波が効率的に低減され、厚みの薄い位置では厚い位置よりも高い周波数の電磁波の反射波が効率的に低減されることになる。また、表面で反射波が散乱されることで入射方向への反射成分が減少されること、表面の入射位置により生じる厚み方向の距離差により反射成分がベクトル合成され、平面のような単純加算にならないこと等からも入射方向に対する反射波が効率的に低減される。また、導電反射層の近接領域における磁界成分が磁性体層により吸収されるため、表面で反射された電磁波と、損失誘電体層の底面で反射された電磁波及び導電反射層で反射された電磁波とが表面側で互いに打ち消されることと相俟って損失誘電体層の表面から入射する電磁波が効率的に低減されることになる。
【0031】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の一実施形態に係る電波吸収体10を示す図で、(a)は正面図、(b)は平面図である。この電波吸収体10は、電磁波の入射面となる表面121が非平面形状を有し、底面122が平面形状を有する第1の層を形成する損失誘電体(損失誘電体層)12と、この損失誘電体12の底面122に配設された平板形状を有する第2の層を形成する磁性体(磁性体層)14と、この磁性体14の底面に配設された導電布等からなる導電反射層(導電反射板)16とを備えたものである。これらの損失誘電体12、磁性体14及び導電反射層16は、貼着等の適宜の取付手段により互いに取り付けられて一体化されている。
【0032】損失誘電体12は、誘電性素材である発泡スチロールに所定量の導電性付与素材であるカーボン粉末を分散して混在させ(本実施形態では、発泡スチロール1リットル当たり6グラムのカーボン粉末を混入)、所定の複素誘電率(ε=ε′−jε″)が得られるようにしたものである。このように損失誘電体12は、誘電性素材として発泡スチロールが用いられることで内部に多量の空気を包含した多孔質のものとなることから複素誘電率の実数部を1に近づけることができ、誘電損失(tanδ=ε″/ε′)が増大されて電磁波の吸収効率を向上させることができる。
【0033】また、この損失誘電体12は、本実施形態では、底辺100mm×100mmで高さ40mmの大きさの四角錘形状としたものである。この四角錘形状は、例えば、底辺の寸法、高さの寸法、使用材質の複素誘電率等をパラメータとし、これらパラメータのうち所定のパラメータの値を予め設定し、残りのパラメータの値を磁性体14の厚さを考慮して所定の計算式に基づいて算出することで必要とする周波数帯域の電波吸収特性を有する大きさのものとすることができる。また、磁性体14の厚さを考慮し、経験値等に基づいて試行錯誤により必要とする周波数帯域の電波吸収特性を有するものを求めるようにすることもできる。
【0034】磁性体14は、本実施形態では、磁気テープの生産工程で不可避的に生じる切れ端等の廃材を利用して構成したものである。すなわち、熱可塑性の合成樹脂からなるテープ状の基材表面にフェライト等の軟磁性体の微粉末を塗布して構成される録音テープや録画テープ等の種々の磁気テープの生産工程で生じる廃材(すなわち、熱可塑性の合成樹脂と軟磁性体とを含んだもの)を細かく切断し、この切断物を厚さが20mmの平板形状となるように加熱成型したものを100mm×100mmの四角形状に切断したものである。
【0035】このようにして得られた磁性体14は、テープ状の基材が加熱成型時にカールすることから多孔質のものとなる結果、合成樹脂中に空気と磁性体微粒子粉とが混在したもの(磁性体ポリマー)となり、所定の複素透磁率(μ=μ′−jμ″)と複素誘電率(ε=ε′−jε″)とを有するものとなっている。すなわち、この磁性体14は、発泡性の誘電性素材にフェライト等の軟磁性体からなる所定量の磁性付与素材を分散させて混入することにより得たものと実質的に同一のものである。従って、例えば、誘電性素材である発泡スチロールや発泡ウレタン等の発泡性の合成樹脂材料に所定量のフェライト微粉末等の磁性付与素材を混在させることにより多孔質のものとして得るようにしてもよい。なお、この磁性体14の厚さは、損失誘電体12の厚さを考慮して必要とする周波数帯域の電波吸収特性を有するように所定の計算式により求めたり、経験値等に基づいて試行錯誤により求めたりすればよい。
【0036】図2は、このように構成された電波吸収体10の1GHz〜18GHzの周波数帯域における反射減衰量を損失誘電体12の厚みを40mmの平板形状にしたものと比較して示すグラフである。すなわち、この図2において、符号Aで示すものが損失誘電体12を四角錘形状とした本実施形態のもの、符号Bで示すものが損失誘電体12を平板形状としたものを示している。
【0037】この図から明らかなように、符号Aで示すものは広い周波数帯域において20〜30dBの反射減衰量(一部の共振点では30dBを超える反射減衰量を有している。)を有しているのに対し、符号Bで示すものは広い周波数帯域ではあっても10〜15dBの反射減衰量しか有していない(但し、一部の共振点では30dBあるいは30dBを超える反射減衰量を有している。)。但し、いずれのものでも広い周波数帯域において一定値以上の反射減衰量を有することは、表面に水滴や塵埃等が付着して共振点がずれたとしても反射減衰量には大きな影響を及ぼさない優れた電波吸収特性を有していることを示している。なお、図6に示す従来例のものでは、一部の共振点では大きな反射減衰量を呈しても共振点を外れると反射減衰量は大きく減少してしまうことになる。
【0038】このように、損失誘電体12と磁性体14とを組み合わせることで、損失誘電体12表面の形状が非平面形状でも平面形状であっても広い周波数帯域において一定値以上の反射減衰量を呈するようになるのは次のような理由による。すなわち、図3(a)に示すように、電磁波の電界成分は導電反射層16に近づくにつれて小さくなり、導電反射層16面でゼロとなる。一方、図3(b)に示すように、電磁波の磁界成分は導電反射層16に近づくにつれて大きくなり、導電反射層16面で最大となる。
【0039】このため、従来例のように損失誘電体を磁界成分が多くを占める導電反射層に近い位置に配設しても電磁波の吸収効果が高められることはないのに対し、本発明のように磁界成分が多くを占める導電反射層に近い位置に磁性体を配設した場合はその領域の電磁波が磁性体により効果的に吸収されることになる。従って、本発明のように、導電反射層16側に磁性体14を配設するようにしたものでは、広い周波数帯域において一定値以上の反射減衰量を呈するものとなるのである。
【0040】しかも、磁界成分は導電反射層16側に近いほど大きな値を有しているので、磁性体14の厚さが薄くても大きな吸収効果を呈することになる。このため、高い周波数領域で大きな反射減衰量を得るには電波吸収体の全体の厚さを波長に対応させて薄くしなければならならないため、従来例のように損失誘電体しか用いないものでは実現に困難を伴うが磁性体14を用いることで容易に実現可能となる。
【0041】因みに、磁性体及び損失誘電体の各入力インピーダンスZiは、素材の特性インピーダンスZc及び伝播定数γを与えると、磁性体については数1の式で示すことができ、損失誘電体については数2の式で示すことができる。
【0042】
【数1】

【0043】
【数2】

【0044】ここで、λは波長、tは素材の厚さ、Zoは大気の波動インピーダンスをそれぞれ示している。
【0045】すなわち、これらの数1及び数2に示す式から明らかなように、透磁率が1である損失誘電体に比べ、透磁率μがμ>1で、誘電率εがε>1である磁性体では特性インピーダンスZiは略一定となり、損失誘電体のように低くはならない。例えば、軟磁性体の微粉末を誘電性素材に混入させた磁性体(厚み10mm)の背面に導電反射層を設けたものの0.1〜10GHzの周波数範囲における入力インピーダンスを数1の式から求めると共に、発泡スチロール1リットル当り6グラムのカーボン粉末を混入させた損失誘電体(厚み10mm)の背面に導電反射層を設けたものの0.1〜10GHzの周波数範囲における入力インピーダンスを数2の式から求め、これらの入力インピーダンスを図4に示す。この図4において、符号Cが磁性体を示し、符号Dが損失誘電体を示している。
【0046】この図4からも明らかなように、符号Cで示す磁性体は低域から高域に亘る広い周波数帯域において一定値以上の入力インピーダンスを呈しているのに対し、符号Dで示す損失誘電体は2GHz付近までは入力インピーダンスが略ゼロとなっている。このことは、磁性体を用いることにより広い周波数帯域において電磁波を効果的に吸収することができることを示している。なお、磁性体では伝播定数γは損失誘電体に比べて大きく増大する(すなわち、厚みが増えたことと実質的に同一となる。)ので、高い周波数領域で大きな反射減衰量を得るにはより薄くてよいことになる結果、電波吸収体の小型化を促進することができる。また、損失誘電体12が平板形状のものの反射減衰量については、非平面形状のものに比べて反射減衰量が少なくなっているが、損失誘電体12及び磁性体14の材料特性を改善することで高くすることが可能である。
【0047】また、損失誘電体12と磁性体14とを組み合わせると共に、損失誘電体12の表面の形状を非平面形状(本実施形態では、四角錘形状)とした場合に、広い周波数帯域において大きな反射減衰量を呈するようになるのは次のような理由による。
【0048】すなわち、損失誘電体12の表面121から内部に入射された電磁波の少なくとも一部は損失誘電体12及び磁性体14の内部で熱エネルギに変換されて吸収される一方、内部で吸収されなかった電磁波は損失誘電体12の底面及び導電反射層16で損失誘電体12の表面121側に反射されることになる。この表面121側に反射された電磁波のうち、損失誘電体12の厚みと所定の関係にある周波数の電磁波(厚みの値が1/4波長(電気長)となる周波数の電磁波、あるいはその奇数倍の周波数の電磁波)については位相が180°反転されたものとなるため、表面121で反射された電磁波と相殺されることになる。
【0049】また、表面121側に反射された電磁波のうち、損失誘電体12の厚みと磁性体14の厚みとを加算した厚みと所定の関係にある周波数の電磁波(厚みの値が1/4波長(電気長)となる周波数の電磁波、あるいはその奇数倍の周波数の電磁波)については位相が180°反転されたものとなるため、表面121で反射された電磁波と相殺されることになる。
【0050】このように、本発明に係る電波吸収体10では、損失誘電体12の表面121が非平面形状とされているため、表面121における電磁波の入射位置により損失誘電体12の厚みと、損失誘電体12の厚みに磁性体14の厚みを加算した厚みが異なることになる。このため、厚みの厚い位置(例えば、図1のt1で示す位置)では薄い位置よりも低い周波数の電磁波の反射波が効率的に相殺されて低減され、厚みの薄い位置(例えば、図1のt2で示す位置)では厚い位置よりも高い周波数の電磁波の反射波が効率的に相殺されて低減されることになる結果、表面121の全体では吸収すべき電磁波の周波数が分散され、広い周波数帯域における電磁波を効果的に吸収することができることになる。
【0051】また、損失誘電体12の表面121が非平面形状とされているため、表面で反射波が散乱される(図1の入射波Piと反射波Pr)ことにより入射方向への反射成分が減少されること、表面の入射位置により生じる厚み方向の距離差δ(図1の例えばt1とt2における差)により反射成分がベクトル合成され、平面のような単純加算にならないこと等の理由から広い周波数帯域に亘って大きな入射減衰量を呈することになる。
【0052】この事実は、耐候性(耐環境性能)を向上させるために電波吸収体の表面に塗装を施しても(これにより共振点が周波数の低い側に移動する)、本発明に係る電波吸収体10では何ら問題の生じないことを示している。また、塗装を施していない電波吸収体の入射面に水滴や塵埃が付着した場合には塗装を施した場合と同様に共振点が周波数の低い側に移動することになるが、その場合でも本発明に係る電波吸収体10では何ら問題が生じないことを示している。
【0053】このように構成された電波吸収体10は、例えば、自動車の自動運行システムや衝突防止レーダ等において、自動車から発射された電波を反射させないようにする必要のある壁面等に取り付けることにより、自動車の自動運行システムや衝突防止レーダ等を正常に機能させることが可能になる。なお、損失誘電体12及び磁性体14の厚み等の寸法については、使用周波数帯域に応じて適宜変更するようにすればよい。例えば、本発明に係る電波吸収体10を67.5GHzの周波数帯を利用した自動車の自動運行システムに利用するには、その電磁波の波長に対応して損失誘電体12及び磁性体14の厚みを薄くするようにすればよい。
【0054】本発明の実施形態に係る電波吸収体10は、上記のように、電磁波が入射される表面側に配設され、表面が非平面形状とされた第1の層である損失誘電体12と、この損失誘電体12の底面側に配設される第2の層である磁性体14とを備えているので、広い周波数帯域において優れた電波吸収特性を有すると共に、耐環境性にも優れたものとなる。
【0055】なお、本発明は、上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、以下に述べるような種々の変形態様を採用することができる。
【0056】(1)上記実施形態では、損失誘電体12は、誘電性素材として発泡スチロールを用いたものであるが、これに限るものではない。例えば、発泡ウレタンや発泡ポリエステル等の他の発泡プラスチックを用いるようにしたものでもよい。また、発泡プラスチックを用いることで多孔質のものとすることができるが、必ずしも多孔質のものに限るものではない。また、導電性付与素材としてカーボン粉末を用いているが、これに限るものではない。例えば、黒鉛、導電性金属等の他の粉末材料を用いるようにしてもよい。
【0057】(2)上記実施形態では、損失誘電体12は単層で構成されたものであるが、これに限るものではない。例えば、複素誘電率の虚数項の値が異なる(すなわち、損失抵抗が異なる)複数の損失誘電体を積層した多層構造からなるものであってもよい。この場合、複素誘電率の虚数項の値が大きい(すなわち、損失抵抗が低い)損失誘電体を底面側(下層)に配置し、複素誘電率の虚数項の値が小さい(すなわち、損失抵抗が高い)損失誘電体を表面(上層)に配置するようにすればよい。このようにすると、電磁波は表面での反射が抑制されて内部に入射され易くなる一方、内部に入射された電磁波は複素誘電率の虚数項の値が大きい部分で熱エネルギに効率的に変換されることになる。このため、電波吸収特性のより優れた電波吸収体が実現される。
【0058】(3)上記実施形態では、損失誘電体12の表面121を四角錘からなる非平面形状としているが、これに限るものではない。例えば、非平面形状として、球面等の曲面形状(楕円形状や他の湾曲形状を含む)、三角錐形状等の種々の角錐形状、円錐形状、台形形状、楔形状等としてもよい。すなわち、電磁波の入射位置によって損失誘電体12の厚み及び損失誘電体12の厚みに磁性体14の厚みを加算した厚みが異なるようにされた非平面形状となっておればよい。このように非平面形状とすることによって、電磁波の入射位置による電波吸収体の厚みが連続的に異なることになる結果、広い周波数帯域に亘って電磁波を効果的に吸収することができることになる。
【0059】また、どのような非平面形状であっても、表面で反射波が散乱されることにより入射方向への反射成分が減少される点、表面の入射位置により生じる厚み方向の距離差δにより反射成分がベクトル合成され、平面のような単純加算にならない点等はすべて同様であり、これにより広い周波数帯域に亘って電波吸収特性の優れたものとすることができる。
【0060】また、ここでいう非平面形状とは、損失誘電体12の厚みが連続的に異なるようにされたものだけはなく、表面に段差が形成されて厚みが不連続に異なるようにされているものも含むものである。また、非平面形状は電磁波の入射方向に対し凸状に形成されたものだけではなく、凹状に形成されていても凸状の場合と同様の優れた電波吸収特性を有するものとなる。
【0061】なお、図5は、損失誘電体12の表面を曲面にした場合の一例を示すものである。このように表面を曲面にした場合には、平面視したときの形状は損失誘電体12、磁性体14及び導電反射層16共に円形にするようにすればよい。但し、平面視三角形や平面視四角形等にすると、多数の損失誘電体12及び磁性体14を互いに密着させた状態で縦横に並べて配設することができ、損失誘電体12及び磁性体14の欠落した空隙部をなくすことができる結果、電波吸収特性のより優れた電波吸収体を実現することができる。
【0062】(4)上記実施形態では、磁性体14は、磁気テープの廃材等を利用するようにした多孔質のものであるが、これに限るものではない。例えば、非発泡性の合成樹脂材料等の誘電性素材にフェライト等の磁性付与素材を分散させた非多孔質のものを用いるようにしてもよいし、フェライト等の軟磁性体そのものからなるものを用いることもできる。また、磁気テープの廃材等を利用する場合でも、熱可塑性の合成樹脂からなるテープ状の基材表面にγ酸化鉄、二酸化クロム等の硬磁性体の微粒子粉を塗布したり、蒸着等の手段で金属強磁性薄膜を形成したりして構成したものを用いることも可能である。
【0063】この場合、発泡スチロールや発泡ウレタン等の発泡性の合成樹脂材料等からなる誘電性素材に所定量のγ酸化鉄、二酸化クロム等の硬磁性体の微粒子分からなる磁性付与素材を分散させて混在させることにより多孔質のものとして得ることもできる。また、非発泡性の合成樹脂材料等からなる誘電性素材にγ酸化鉄、二酸化クロム等の硬磁性体の微粒子分からなる磁性付与素材を分散させた非多孔質のものを用いるようにしてもよい。損失誘電体12についても同様に非多孔質のものを用いることが可能である。
【0064】(5)上記実施形態では、導電反射層16として可撓性を有する導電布等を用いているが、これに限るものではない。例えば、鉄、黄銅、ニッケル、亜鉛めっき鉄板等の可撓性を有しない金属反射板からなるものでもよい。また、鉄、黄銅、ニッケル、亜鉛めっき鉄板等を用いる場合に蒸着等の手段で膜状に形成するようにすると、金属材料であっても可撓性を有するものとすることができる。
【0065】導電反射層16として、可撓性を有するものを用いた場合には、電波吸収体10を壁面等の取付面に貼着等の手段で取り付ける場合に取付面が多少湾曲していたり、凹凸が存在していたりしても湾曲面や凹凸面に沿って容易に取り付けることができることになる。また、本実施形態では、導電反射層16を個々の損失誘電体12及び磁性体14毎に設けるようにしているが、縦横に並べた損失誘電体12及び磁性体14の多数の積層体に所定の大きさの導電反射層16を貼着するようにすると、壁面等の取付面に取り付ける場合にその取付け作業性が向上することになる。
【0066】また、電波吸収体の取付面が金属板等で構成されている場合には、金属板等が導電反射層として機能するため、電波吸収体としては導電反射層16を備えている必要はない。
【0067】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1の電波吸収体によれば、電磁波が入射される表面側に配設され、その表面が非平面形状とされた損失誘電体層と、この損失誘電体層の底面側に配設される磁性体層とを備えているので、厚みが電磁波の入射位置によって異なったものになると共に、磁性体層の底面側に設けられる導電反射層の近傍領域の磁界成分が磁性体層により効果的に吸収されることになる結果、広い周波数帯域において優れた電波吸収特性を有すると共に、耐環境性にも優れたものとなる。
【0068】また、請求項2の電波吸収体によれば、損失誘電体層は、誘電性素材に導電性付与素材を分散させて混入することにより得たものからなるものであるので、誘電損失を大きくすることができるようになる結果、電波吸収体に用いるのに好適なものとすることができる。
【0069】また、請求項3の電波吸収体によれば、損失誘電体層は、誘電性素材として多孔質材を用いるようにしたものであるので、誘電損失を大きくすることができるようになる結果、電波吸収体に用いるのに好適なものとすることができる。
【0070】また、請求項4の電波吸収体によれば、磁性体層は、誘電性素材に磁性付与素材を分散させて混入することにより得たものからなるものであるので、所定の誘電率と共に適切な透磁率を有するものとなり、電波吸収体に用いるのに好適なものとすることができる。
【0071】また、請求項5の電波吸収体によれば、磁性体層は、誘電性素材として多孔質材を用いるようにしたものであるので、誘電損失を大きくすることができるようになる結果、電波吸収体に用いるのに好適なものとすることができる。
【0072】また、請求項6の電波吸収体によれば、磁性体層の底面に電磁波を反射させる導電反射層を設けるようにしているので、電波吸収特性の安定した電波吸収体を容易に得ることができる。
【0073】また、請求項7の電波吸収体によれば、導電反射層は可撓性を有する部材で構成されているので、壁面等の被取付面が多少湾曲する等している場合でも電波吸収体を安定した状態で取り付けることができる。
【0074】また、請求項8の電波吸収体によれば、導電反射層を構成する可撓性を有する部材は導電布であるので、磁性体に容易に取り付けることができると共に、電波吸収体を壁面等の被取付面に安定した状態で取り付けることができる。
【0075】また、請求項9の電波吸収方法によれば、損失誘電体層の表面を非平面形状にすることにより電磁波の入射位置により損失誘電体層の厚みが異なるようにすると共に、損失誘電体層と導電反射層との間に磁性体層を配設し、この磁性体層により導電反射層近傍の磁界成分を吸収させるようにするものであるので、広い周波数帯域において電磁波が効果的に吸収されると共に、導電反射層の近傍領域の磁界成分が磁性体層により効果的に吸収される結果、広い周波数帯域において優れた電波吸収特性を呈するようになる。
【出願人】 【識別番号】597077654
【氏名又は名称】株式会社イー・エム・テクノ
【出願日】 平成12年12月5日(2000.12.5)
【代理人】 【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司 (外2名)
【公開番号】 特開2002−176285(P2002−176285A)
【公開日】 平成14年6月21日(2002.6.21)
【出願番号】 特願2000−370511(P2000−370511)