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【発明の名称】 三次元形状キャビティ及びその製造方法
【発明者】 【氏名】佐野 正美

【氏名】坂上 貴志

【要約】 【課題】従来の板金半田接合法や電鋳一体成型法に比べて、適正なコストで、安定且つ信頼性の高いキャビティを製造する。

【解決手段】キャビティ形状に対応する三次元形状データを作成し、該三次元形状データを、ボールエンドミルの加工座標データに置き換え、一体ブロック材を、前記ボールエンドミルにより三次元加工する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】一体ブロック材が、ボールエンドミルにより三次元加工されてなる、一体型の三次元形状キャビティ。
【請求項2】キャビティ形状に対応する三次元形状データを作成し、該三次元形状データを、ボールエンドミルの加工座標データに置き換え、一体ブロック材を、前記ボールエンドミルにより三次元加工することを特徴とする、一体型の三次元形状キャビティの製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、三次元形状キャビティ及びその製造方法に係り、特に、サイクロトロンの高周波システムの空洞共振回路を構成する、複雑な三次元形状を有するキャビティを、適正なコストで製造し、且つ、高安定性、高信頼性を確保することが可能な、三次元形状キャビティ及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】サイクロトロンの高周波システムの空洞共振回路を構成する三次元形状を有する高周波(RF)キャビティ(以下、単にキャビティと称する)は、サイクロトロンの高性能化に伴う磁極形状の複雑化に伴い、近年複雑な形状となっている。特に、図1(一部を切欠いた斜視図)及び図2(上電磁石を外した状態の平面図)に示すような、高磁場コンパクト型サイクロトロン10においては、その電磁石12を構成する磁極14の形状が、ビームの収束性をもたせるために、磁場としての性能に最適化された結果、図3に示す如く、ヒル及びバレーと呼ばれる、磁極ギャップの狭い丘の部分14Hと広い谷の部分14Vを持つ大変に複雑な形状となっている。例えば、出願人による製造実績のある陽子235MeV加速用のサイクロトロンでは、ヒル部のギャップは、中心から外径に向かって、断面が短軸96mmとなるような楕円形状となっている。したがって、キャビティ20は、バレー部14Vの部分に、複雑な磁極の形状に適合させながら、性能上有効なスペースを保って配置されなければならない。
【0003】図において、16は、電磁石12のヨーク、22は、該ヨーク16の内側に配置されたメインコイル、24は、ビームの通路を真空に保つための真空槽、26は、サイクロトロン10の中心部に先端が挿入された、ビームの診断を行うラジアルプローブ、28は、ヨーク16を上下するためのヨークリフト装置、30は引き出しビームダクト、32は、共振周波数調整用の容量チューナである。
【0004】前記キャビティ20は、図4(斜め上から見た斜視図)及び図5(斜め下から見た斜視図)に示すように、電磁石12の形状に合わせた階段部20Sを有する、舟型の非常に複雑な三次元形状を有しており、キャビティに必要な高い形状精度、高周波入熱に対する損失の最小化、放電耐性に対する高い信頼性を確保する一方で、なお且つ経済的なコストを実現することは、従来より大変困難とされてきた。
【0005】以下、図6(平面図)、図7(図6のVII−VII線に沿う横断面図)及び図8(図6のVIII−VIII線に沿う縦断面図)を参照して、キャビティ20の機能を説明する。共振器構造体は、ディー電極40とカウンターディー(以下CDと略する)42の間の加速ギャップA間に、高周波電場を発生させる。この高周波電場は、当然ビームの回転位相に合致させて発生させるのであるが、ビームは、この加速ギャップAを通過する毎にエネルギを獲得し、軌道を半径方向に拡げながら進行していく。
【0006】前記ディー電極40への電力供給は、回路的に容量結合(Cカップリング)により、カプラ44を通じて行われる。ディー電極40は、水冷された円柱体(ピラーと称する)46、48により支持されている。更に、ディー電極40全体を周囲から包むような形で、前記CD42と、斜円錐の一部の曲面形状であるサイドウォール(以下SWと略する)50と、ボトムアースプレート(以下BEPと略する)52と、フロントウォール(以下FWと略する)54と、電磁石の形状に合わせた階段状のリヤウォール(以下RWと略する)56で構成される舟形の箱が形作られ、これをキャビティと称している。キャビティの分解した形状を図9に示す。
【0007】このキャビティ20に要求される仕様は次のとおりである。
【0008】(1)高周波電流が内部表面を走る(10〜50A/cm、表皮厚10μm以下)ため、パワーロスを減らす目的で、高電導度の材質、及び、表皮抵抗の少ない粗度の小さい表面構造を要する。
【0009】(2)高周波加熱を効果的に冷却できる高熱伝導性の材質が要求される。
【0010】(3)磁場に対する影響を無くすために、非透磁性の材質が要求される。
【0011】(4)所定の共振器周波数とQ値(共振回路のピーク尖鋭度)の確保のために、高い形状精度が要求される。
【0012】(5)耐放電性のある形状、構造が要求される。
【0013】(6)サイクロトロンの市場価格に見合った、そのユニットとしての適正なコストが要求される。
【0014】上記(1)〜(6)の全てに関連して、材質は従来より銅が最適とされている。
【0015】したがって従来は、銅を用いて、板金半田接合法、又は、電解鋳造(電鋳と略す)一体成形法により製造されていた。
【0016】前者の板金半田接合法では、CD42とBEP52を、厚銅板より弧形状をもつ外形に機械加工する。
【0017】そして、このCD42とBEP52を、正規の位置に置き、治具代わりとして、図10に示す如く、形を合わせるために薄い銅板とされたFW54、RW56、そしてSW50を板金成形しながら合わせていく。特に、SW50は、三次元的な曲面形状を有するので、形状形成には、この方法が非常に有効である。
【0018】次いで、板金部品の接合部分B1〜B4を、図11に例示する如く、ビス又はリベット58で固定した後、半田付け接合する。半田材料は、性能上高融点を必要とするため、融点230°のAg−Sn系のものが使用される(通常のPb−Sn半田では融点は160°位である)。ここで、銀鑞付や溶接による接合方法を選択しない理由は、作業時の多大な入熱による熱変形の問題(高い形状精度が確保できない)を防ぐためである。
【0019】一方、後者の電鋳一体成形法は、例えば図12に示すような電鋳装置を用いて、電解めっきを厚くめっきすることにより、キャビティを一体成形するものである。図12において、60は、例えば硫酸銅の水溶液が充満された電鋳槽、62は整流器、64は弱電解槽、66はろ過機、68はポンプ、70はフィルタ、72はフローメータである。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前者の板金半田接合法では、半田接合面を直接高周波電流が流れるため、局部的に高温になる部分が避け得ず、次のような問題点を有していた。
【0021】(1)まず、半田から蒸発ガスが発生して局部的に真空度を悪化させ、放電現象を誘引する(パッシェンの法則により、中途半端な真空度では、大気状態や高真空状態よりも、かなり放電耐圧が低下する)。
【0022】(2)一度発生した放電現象等により、半田自身が局部的に高熱となって溶出すると、更に接合部分の電流密度を上昇させ、局部的に高温になるという悪循環が生み出される。
【0023】(3)半田接合作業中にも、作業管理の問題で温度を上げ過ぎて、素材のなまりや熱歪みの発生を完全に抑え切ることができず、形状精度の確保が困難となり、磁極への組付け寸法変化による組立性の困難化の現象が発生する。
【0024】(4)製造の構造上、RW56、SW50、FW54等は、肉厚の薄い銅板(1〜2mm厚)の使用が回避できず、この部分の高周波発熱に対する冷却効果が悪く、表面の高温化につながる。これは、熱変形、長期的な材料の強度低下、そして前述の半田部分の溶融現象を助長する。
【0025】一方、後者の電鋳一体成形法は、前記板金半田接合法のような問題点を生ずることなく、キャビティのような複雑な形状を実現することが可能であるが、次のような理由で、製造費用が高くなり、且つ、製作期間も長くなるという問題点を有していた。
【0026】(1)電鋳用の母型が複雑な三次元加工形状となり、設計製作の多大な手間を要する。又、加工性と精度確保のために、通常、アルミ製のマスター(電鋳型)が選ばれるが、型外し作業時は溶解されるので、毎回、本型の製作をする手間が発生する。
【0027】(2)電鋳の厚みが、母型の形状を初めとする様々な要因でばらつくので、この凹凸の修正加工と再電鋳の工程を繰り返さなければならない。
【0028】(3)元々製法として製作期間が長く、本キャビティ形状で8mm程度の厚みシェルをもつ電鋳を行うと、約2ヶ月を要する。
【0029】因みに製作費を比較すれば、この電鋳一体成形法では、前記板金半田接合法の場合の約4〜5倍のコストを要する。
【0030】本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、従来の板金半田接合法や電鋳一体成形法と比べて、適正なコストで、安定、且つ、信頼性の高いキャビティを得ることを課題とする。
【0031】
【課題を解決するための手段】本発明は、三次元形状キャビティを、一体ブロック材が、ボールエンドミルにより三次元加工されてなる、一体型として、前記課題を解決したものである。
【0032】又、このような一体型の三次元形状キャビティを、キャビティ形状に対応する三次元形状データを作成し、該三次元形状データを、ボールエンドミルの加工座標データに置き換え、一体ブロック材を、前記ボールエンドミルにより三次元加工して、得るようにしたものである。
【0033】本発明は、キャビティに要求される性能を、適正なコストと製作期間で達成できる方法として、キャビティを、一体三次元加工により製造するようにしたものである。
【0034】
【発明の実施の形態】以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0035】本実施形態におけるキャビティの製造手順を図13に示す。
【0036】まずステップ100で、三次元コンピュータ支援設計(CAD)装置(図示省略)により、キャビティ形状に対応する三次元形状のCADデータを作成する。
【0037】次いでステップ102で、該CADデータを、例えば数値制御(NC)ボールエンドミルの加工座標データに置き換える。
【0038】次いでステップ104に進み、例えば無酸素銅の一体ブロック鍛造品を、前記ボールエンドミルにより三次元加工することによって粗加工及び仕上げ加工を行う。
【0039】次いでステップ106で、例えば紙やすりにより表面研磨を行い、キャビティ内側を仕上げ、凹凸を滑らかにする。
【0040】次いで、ステップ108で、洗浄を行って、キャビティ全体の加工/半田/仕上げによる汚れを落とし、製品を完成させる。
【0041】次いでステップ110で、冷却用の配管を、例えば半田により接合する。
【0042】本製法により製造した、下半分のロアキャビティを、図14(斜め上方から見た斜視図)、図15(同じく斜め上方の異なる角度から見た斜視図)、図16(斜め下方から見た斜視図)、図17(同じく斜め下方の異なる角度から見た斜視図)に示す。
【0043】なお、前記実施形態においては、三次元加工する一体ブロック材として、無酸素銅の一体ブロック鍛造品が用いられていたが、一体ブロック材の種類はこれに限定されない。又、冷却用配管の接合方法も半田に限定されない。
【0044】適用対象も、医療用サイクロトロンのキャビティに限定されず、他の用途の加速器のキャビティにも同様に適用可能である。形状も、複雑な三次元形状を有するものに限定されず、簡素な形状であってもよい。
【0045】
【発明の効果】本発明によれば、キャビティが一体で成型されるため、接合部分が無く、板金半田接合法のように、半田ろうの真空蒸発や高温溶出の問題が皆無となる。又、機械加工により成型を行うため、材質の強度低下や、処理後の熱歪み発生の恐れが無い。更に、板金半田接合法で問題とされてきた、薄肉部の冷却性の悪さによる局所的な高温化が無い。即ち、高発熱密度部分も、それなりの肉厚(実施例では約6mm)が確保でき、同じ発熱密度条件と同じ冷却配管配置の条件では、肉厚の逆比で温度上昇が抑えられる。更に、キャビティ自身に剛性があって自立するため、磁極への固定箇所が最小限に抑えられ、取付組立が、より簡便になる。又、一度加工プログラムが設定されれば、複数(実施例では4つ)のキャビティを同じ段取りで加工できるため、従来の電鋳一体成型法に比べて、製造期間が短縮される(1台の加工機で4つのキャビティを加工する期間は、実績で粗加工込みで1ヶ月である)。更に、形状精度に優れ、実績でも、内表面の輪郭精度が最終状態で設計値から0.5mm以内のずれで抑えることができた(従来の板金半田接合法では、ところによって5mm位のずれが出ているものもあった)。
【0046】従って、このようにしてキャビティの性能的な信頼性が向上することで、サイクロトロン等の加速器の安定運転が可能になり、キャビティのRF放電によるサイクロトロンのフォールトダウンの危険性が無くなる。又、形状精度確保により、加速器の組付性の向上と共振周波数の合わせ込み容易化やQ値の向上に結びつく。更に、経済的なコストでキャビティが作れるので、加速器としての機能を確保しながらコストを縮減するバリューエンジニアリング(VE)を実現することができる等の優れた効果を有する。
【出願人】 【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
【出願日】 平成13年2月14日(2001.2.14)
【代理人】 【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭 (外2名)
【公開番号】 特開2002−246198(P2002−246198A)
【公開日】 平成14年8月30日(2002.8.30)
【出願番号】 特願2001−36654(P2001−36654)