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【発明の名称】 周回集束型電子線照射装置
【発明者】 【氏名】小野 勝弘

【要約】 【課題】解決しようとする課題は、極めて細い被照射体に電子線を照射して表面に塗布した樹脂の硬化処理等を行う場合に、電子線の被照射体への命中率を向上させて処理効率を高めることができる電子線照射装置を提供することである。

【解決手段】本発明では、高真空状態に維持された真空領域内に設けられた陰極から放出された電子を、電子通過孔を有する陽極との間で加速して、前記の真空領域の外部に取り出す為の電子透過窓を透過させ、透過した電子を被照射体の周囲を周回させながら周回軌道の半径を小さくすることによって、多くの電子を被照射体に衝突させるようにしている。又電子線透過窓における電子密度を小さくして電子線透過窓が過熱されるのを防止して信頼性を向上させている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 真空領域を構成する真空容器と、被照射体を通過させる為の被照射体通路と、前記の真空領域の中に在って電子を放出する陰極と、この陰極から放出された電子を加速する電子加速手段と、この加速された電子を前記の被照射体の周囲で周回させながら周回半径を小さくして前記の被照射体に衝突させる電子集中手段とを設けたことを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】 前記の電子集中手段が前記の被照射体通路の中心軸に平行な方向に電子の速度を減衰させる機能を合わせ持っていることを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】 前記の被照射体通路が前記の真空容器を貫通して設けられていることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項4】 前記の電子加速手段によって加速された電子を透過させて前記の真空領域の外部に取り出す為の電子透過窓を、前記の電子加速手段と前記の電子集中手段の間に位置して設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項5】 前記の陰極又は前記の電子透過窓又は前記の電子集中手段の少なくとも1つは前記の被照射体通路と同軸的に設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項6】 前記の被照射体通路は、前記の電子集中手段に入射する電子の進行方向に対して傾斜して設けられたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項7】 前記の電子加速手段によって加速された電子を前記の電子透過窓の位置で小密度化する電子分散手段を有することを特徴とする請求項4から6のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項8】 前記の電子加速手段と前記の電子集中手段との間に位置して、前記の被照射体通路よりも内径が大きい電子線照射室が前記の被照射体通路の途中に設けられたことを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項9】 前記の電子集中手段は、前記の被照射体通路に同軸的に設けられており、前記の陰極の方向に開口した磁極を有する磁石であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項10】 前記の電子加速手段によって加速された電子の進行方向は、その延長線が前記の電子集中手段よりも前記の陰極に近い位置において前記の被照射体通路の中心軸と交わるように構成されたことを特徴とする請求項1から9のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項11】 前記の電子加速手段は、前記の陰極と、この陰極に対して相対的に高電位に設定されており前記の被照射体通路と同軸的に設けられた貫通孔を有する陽極とを有して構成されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項12】 前記の被照射体通路又は前記の電子線照射室の内面に鉄よりも原子番号が小さな材質で出来た電子吸収層が設けられていることを特徴とする請求項1から11のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項13】 前記の電子集中手段は、前記の被照射体通路に沿った方向に傾斜して分布する磁束を生じることを特徴とする請求項1から12のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項14】 前記の陰極は前記の被照射体通路の周りに設けられた実質的に環状の構造であることを特徴とする請求項1から13のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項15】 前記の電子集中手段は、前記の被照射体通路の中心軸に平行な方向に電子を減速する第1の力と、前記の被照射体通路の中心軸に電子を向かわせる第2の力とを生じ、この第2の力が、電子が前記の被照射体通路の中心軸にいたるまで、電子の進行とともに大きくなるように構成されていることを特徴とする請求項1から14のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項16】 前記の加速された電子は、前記の被照射体通路の中心軸に対して周方向の速度成分を持って前記の電子透過窓に入射することを特徴とする請求項4から15のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項17】 前記の電子透過窓は前記の電子集中手段の影響が存在する位置に設けられたことを特徴とする請求項4から16のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項18】 前記の電子集中手段は、前記の被照射体通路と同軸的に設けられた第1の環状の磁極と、この第1の環状の磁極と同軸的に設けられた第2の環状の磁極とを有しており、この第1の環状の磁極と第2の環状の磁極との開口は、電子を透過させる電子透過窓と対向していることを特徴とする請求項4から17のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項19】 前記第1の環状の磁極の内径は前記の電子透過窓の中心半径よりも小さいことを特徴とする請求項18に記載の電子線照射装置。
【請求項20】 前記の陰極又は前記の陽極又は前記の電子透過窓のいずれかは、前記被照射体通路の中心軸の周りに、1個又は複数個に分割して構成されていることを特徴とする請求項請求項1から19のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【請求項21】 前記の被照射体通路内における被照射体の移動速度を検出する手段と、前記の電子透過窓で吸収された電子の量又は前記の電子透過窓を通過した電子の量を検出する手段とを有して構成されており、前記の被照射体の移動速度に応じて前記の陰極から放出される電子の量を制御するようになっていることを特徴とする請求項1から20のいずれか1つに記載の電子線照射装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、細長い線状の物体の表面に塗布した樹脂の硬化、改質、架橋等を行うためにこれらの被照射体を回転することなく全周囲方向から多量の電子を被照射体に集中して照射する装置であって、特に、細長い被照射体に照射する電子線の照射密度を増して処理速度を大幅に増したことを特徴とする電子線照射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の電子線照射装置は、公開特許公報、特開平11−19190号に記載されているように、固定されたドラム管状の真空容器の中に直線状の金属フィラメントを取付け、これを通電加熱することによって放出される熱電子を500KV以下の電圧で加速し、薄い金属箔で出来た平板状の透過窓を透過させて、大気中にある被照射体に電子線を照射するようになっている。特開平11−19190号公開特許公報に記載の装置の概略の横断面図を図19に示している。図19において、1001は真空容器であり、1003は電子銃構造体であり、1002は電子銃構体1003等を支持するターミナルであり、1004は陰極フィラメントであり1005はグリッドであり1006は電子を透過させる電子透過窓である。陰極フィラメント1004から放出された電子がグリッド1005に印加された電位差で加速され、更に電子透過窓1006との間に印加された500KV以下の電位差で加速されて電子透過窓1006を透過する。透過した電子線B01は照射室内にある被照射体1011に照射される。この装置は大型であり、電子線の照射方向が一定となっているのでシート状の被照射体に電子線を照射する場合には適するが、立体形状の物体に電子線を照射するのには適さない。このような場合には、例えば、特開平11−19190号公開特許公報に記載の装置では、図19に示すように、立体構造体である被照射体1011は2本のワイヤ1009、1010で回転させながら移動させられて前記の照射窓1006を透過してきた電子線B01が照射されるようになっている。このように被照射体を回転させながら移動させたり、特開平10−268100号公開特許公報に記載のように被照射体を傾斜面上で転がしたり、特開平10−268099号公開特許公報に記載のように被照射体を裏返す機構を設けたり、特開平9−68600号公開特許公報に記載のように被照射体の周囲に反射板を置いて電子線を被写体の周囲に一様に照射する努力が払われている。上記の従来例はいずれの場合も装置が大型になり、立体形状の被照射体に全周囲方向から照射するのが難しいだけでなく、処理能率が悪いと言う問題があった。
【0003】特に、被照射体が小型の物体である場合や細長い線状の物体である場合には、上記の例では被照射体の周囲に万遍無く高密度の電子線を照射するのは不可能に近い。又照射される電子線の密度が大きく出来ないので、照射能率が極めて悪いと言う問題がある。細い線状の被照射体の照射処理速度を高める為には命中率が極めて低くなるので多量の電子線を被照射体に向かって入射させる必要がある。しかるに、真空中で発生した電子線を加速した後、真空容器の外部に取り出す為には真空の壁を形成しながら電子を通過させる電子透過窓を通過させる必要があり、この電子透過窓で電子が吸収されるのでここで発熱するだけでなく、透過した電子は大きく散乱される為に前記の線状の被照射体に入射する電子は1%以下の少量に過ぎない。このために、電子透過窓を不活性ガスなどを吹き付けたり、周囲のフレームを水冷したりして冷却しても前記の電子透過窓の中央が高温になりすぎて十分な量の電子線を線状の被照射体に照射することができなかった。このために、電子線照射装置の処理能力を高めることが出来なかった。
【0004】例えば、前記の電子透過窓と1.5cm離れた位置にある直径が0.2mmの線状の被照射体に電子線を照射する場合を考える。この場合、電子透過窓を通過した電子の0.4%程度が被照射体に照射されるに過ぎない。更に、10μmの厚みのチタニュームで出来た電子透過窓における電子の透過率は50%程度であり、電子透過窓に入射する電子のエネルギーが110KeVで、入射する電流を30mAとすると電子透過窓において1650Wが吸収されることになり、電子透過窓の面積を20cmとすると、入射パワー密度は165W/cmであり、これは許容値をはるかに超えており、電子透過窓が焼損する。しかるに、仮に照射できたとしても、この場合に被照射体に吸収される電流は60μA程度に過ぎず、被照射体の処理速度は極めて低い状態に限定される。また、電子透過窓の面積を大きくして電子をその表面に均一に分散させた場合には細い被照射体に照射される電子の割合が更に小さくなるので被照射体に吸収される電流を増やす効果は極めて小さい。一方で、樹脂の硬化処理に電子線照射を採用して十分な量の電子線を照射すると樹脂と電子との反応により樹脂が瞬時に硬化する特性があるので、多量の電子線を集中して線状の被照射体に照射することによって処理能率を高めることができる電子線照射装置の実現が待望されていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】解決しようとする課題は、細長い線状の形状を有する物体の表面に塗布した樹脂の硬化、改質、架橋等の処理を行うために電子線を照射する場合に、被照射体を回転することなく被照射体の周囲から被照射体に高密度の電子線を命中して照射することができる電子線照射装置を提供することである。特に、従来は線量不足の為に実現できなかった極めて細い被照射体への大線量電子線照射ができる様にして、十分に高速度の電子線照射処理ができる電子線照射装置を提供することである。真空領域と大気領域との境界を形成しつつ電子線を透過させる電子透過窓の温度上昇を防ぐとともに、電子透過窓によって散乱されて分布が広げられた電子線を前記の被照射体に集中して被照射体に命中させることによって被照射体に照射される電子の量を極端に増加して電子線処理能力を画期的に改善するとともに、前記の電子透過膜の過熱を防止して信頼性が高い電子線照射装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明では、高真空状態に維持された真空領域内に設けられた陰極から放出された電子を、電子通過孔を有する陽極との間で加速した後に、前記の真空領域の外部に取り出す為の電子透過窓を透過させ、透過した電子を被照射体の周囲で周回させながら周回半径を縮小させる電子集中手段を用いることにより、結果的に被照射体通路内を隈なくスキャンして極めて細い被照射体に電子を衝突させて、電子線の被照射体への命中率を極端に改善している。薄い金属で出来た電子透過窓を通過する時や、大気中を走行するときに電子は散乱するが、これらの散乱した電子も、電子集中手段を用いて強制的に周回させながら周回半径を縮小することによって被照射体通路内を横断してスキャンさせて、多量の電子を被照射体に衝突させられるようになっている。
【0007】上記の電子集中手段の一つとして前記の被照射体通路と同軸的に配設した磁石用いることにより、被照射体通路に平行な磁束密度成分と被照射体通路の中心軸に向かう磁束密度成分とを有する空間を形成し、この空間に電子を走行させて、これらの磁束密度成分と電子との相互作用により、電子が走行するに従って強い回転力を受けるとともに被照射体通路の中心軸に近づくようになっている。従って、前記したように電子透過窓を通過する場合に散乱によって初期的に逆方向の回転力を与えられた電子も前記の磁束との相互作用で正方向に強制回転させられて半径を小さくするように運動させられる。
【0008】前記の被照射体は例えば3000m/分の高速度で移動している場合でも、電子の走行速度ははるかに大きいので被照射体が少し移動する間に被照射体に衝突し、被照射体に均一に照射されることになる。電子がそれぞれ進行方向にばらばらの軌道をもって運動して被照射体に衝突する位置がずれていても、被照射体の軸方向の移動によって結果的に軸方向に平均化されるので電子線照射処理としては問題とならない。
【0009】前記の電子透過窓においては電子の密度が小さくなるように予め均一に広がった電子分布になった状態で電子が前記の電子透過窓に入射され、電子透過窓を通過した後で被照射体に命中するように電子の軌道が電子集中手段によって強制されるようになっているので、電子透過窓の発熱が抑えられ、多量の電子が被照射体に照射されるようになっている。
【0010】本発明の特許請求項1に係わる電子線照射装置は、真空領域を構成する真空容器と、被照射体を通過させる為の被照射体通路と、前記の真空領域の中に在って電子を放出する陰極と、この陰極から放出された電子を加速する電子加速手段と、この加速された電子を前記の被照射体の周囲で電子を周回させながら周回半径を小さくして前記の被照射体に衝突させる電子集中手段とを設けたことを特徴とするものである。これによって、電子が被照射体通路内を隈なくスキャンすることにより細い被照射体への命中率を飛躍的に向上させた電子線照射装置を実現できる。
【0011】本発明の特許請求項2に係わる電子線照射装置は、特許請求項1に記載の装置において、前記の電子集中手段が前記の被照射体通路の中心軸と平行な方向に電子の速度を減衰させる機能を合わせ持っていることを特徴とするものである。これによって、前記の電子の周回半径を縮小させる効果が増大した電子線照射装置を実現できる。
【0012】本発明の特許請求項3に係わる電子線照射装置は、特許請求項1又は2に記載の装置において、前記の被照射体通路が前記の真空容器を貫通して設けられていることを特徴とするものである。これによって、細くて極めて長い被照射体に全周方向から極めて効率良く電子線が照射され、且つ装置全体がコンパクトである電子線照射装置を実現させることができる。
【0013】本発明の特許請求項4に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から3のいずれかに記載の装置において、前記の電子加速手段によって加速された電子を透過させて前記の真空領域の外部に取り出す為の電子透過窓を、前記の電子加速手段と前記の電子集中手段の間に位置して設けたことを特徴とするものである。これによって、電子が電子透過窓の近傍に至るまでは周回運動することなく移動し、電子透過窓を通過後に電子が前記の被照射体の周囲を螺旋状に周回しながら周回半径を小さくして被照射体に命中させられるようになっており、電子透過窓で散乱された電子も同様に被照射体に命中させられるようになった電子線照射装置を実現できる。この場合被照射体は大気中で処理できるので取り扱い易いというメリットもある。電子透過窓の前記真空領域側の表面が前記の電子加速手段の一部を構成する場合も本発明に含まれる。
【0014】本発明の特許請求項5に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から4のいずれかに記載の装置において、前記の陰極又は前記の電子透過窓又は前記の電子集中手段の少なくとも1つは前記の被照射体通路と同軸的に設けられていることを特徴とするものである。これによって、簡単な構造でありながら被照射体の周囲における電子線の均一度を高めた電子線照射装置を実現できる。
【0015】本発明の特許請求項6に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から5のいずれかに記載の装置において、前記の被照射体通路は、前記の電子集中手段に入射する電子の進行方向に対して傾斜して設けられたことを特徴とするものである。これによって、加速された電子が前記の被照射体の中心軸に平行な速度成分と被照射体の中心軸に直交する速度成分の両方を有した状態で前記の電子集中手段に近づくので、電子が被照射体の中心軸に向かって移動する作用が増大した電子線照射装置を実現できる。前記の電子加速手段によって電子を加速した後で電子を偏向させることによって、前記の電子集中手段に入射する電子の進行方向を前記の被照射体通路に対して傾斜させた場合も本発明に含まれる。
【0016】本発明の特許請求項7に係わる電子線照射装置は、特許請求項4から6のいずれかに記載の装置において、前記の電子加速手段によって加速された電子を前記の電子透過窓の位置で小密度化する電子分散手段を有することを特徴とするものである。これによって、電子透過窓における過熱を防止して信頼性を高めるとともに被照射体に命中する電子を増した電子線照射装置を実現することができる。
【0017】本発明の特許請求項8に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から7のいずれかに記載の装置において、前記の電子加速手段と前記の電子集中手段との間に位置して、前記の被照射体通路よりも内径が大きい電子線照射室が前記の被照射体通路の途中に設けられたことを特徴とするものである。これによって、電子を前記の被照射体通路を隈なくスキャンさせることが出来、被照射体への電子の命中率を高め、特に、電子の軌道半径が一旦広がった電子も電子線照射室の壁に衝突することなく前記の電子集中手段によって集束されて被照射体に命中させることができる電子線照射装置を実現している。
【0018】本発明の特許請求項9に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から8のいずれかに記載の装置において、前記の電子集中手段は、前記の被照射体通路に同軸的に設けられており、前記の陰極の方向に開口した磁極を有する磁石であることを特徴とするものである。これによって、電子線を被照射体の周りを周回させながら被照射体に命中させる簡単な構造の電子集中手段を有する電子線照射装置を実現できる。
【0019】本発明の特許請求項10に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から9のいずれかに記載の装置において、前記の電子加速手段によって加速された電子の進行方向は、その延長線が前記の電子集中手段よりも前記の陰極に近い位置において前記の被照射体通路の中心軸と交わるように構成されたことを特徴とするものである。これによって、単純な構造でありながら、電子が進行するにつれて前記の被照射体通路の中心に集中する作用を増大させた電子線照射装置を実現できる。
【0020】本発明の特許請求項11に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から10のいずれかに記載の装置において、前記の電子加速手段は、前記の陰極と、この陰極に対して相対的に高電位に設定されており前記の被照射体通路と同軸的に設けられた貫通孔を有する陽極とを有して構成されていることを特徴とするものである。これによって、被照射体の周囲における電子線の均一度を高めた電子線照射装置を実現できる。
【0021】本発明の特許請求項12に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から11のいずれかに記載の装置において、前記の被照射体通路又は前記の電子線照射室の内面に鉄よりも原子番号が小さな材質で出来た電子吸収層が設けられていることを特徴とするものである。これによって、X線の発生を防止して、X線の影響を受けやすい被照射体に照射されるX線を減少した電子線照射装置を実現できる。また、X線の遮蔽が容易になって安価な装置となる。
【0022】本発明の特許請求項13に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から12のいずれかに記載の装置において、前記の電子集中手段は、前記の被照射体通路に沿った方向に傾斜して分布する磁束を生じることを特徴とするものである。これによって、前記の被照射体に平行な磁束密度成分とこれに垂直な磁束密度成分とが生じることになり、電子を被照射体の周囲で周回させながら周回半径を縮小させる効果を生じる電子線照射装置を実現できる。
【0023】本発明の特許請求項14に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から13のいずれかに記載の装置において、前記の陰極は前記の被照射体通路の周りに設けられた実質的に環状の構造であることを特徴とするものである。これによって、被照射体の周囲における電子線の均一度を高めた単純な構造の電子線照射装置を実現できる。
【0024】本発明の特許請求項15に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から14のいずれかに記載の装置において、前記の電子集中手段は、前記の被照射体通路の中心軸に平行な方向に電子を減速する第1の力と、前記の被照射体通路の中心軸に電子を向かわせる第2の力とを生じ、この第2の力が、電子が前記の被照射体通路の中心軸に至まで電子の進行とともに大きくなるように構成されていることを特徴とするものである。これによって、電子を被照射体の周囲で周回させながら周回半径を縮小させ、電子を被照射体に命中させることができる電子線照射装置を実現できる。
【0025】本発明の特許請求項16に係わる電子線照射装置は、特許請求項4から15のいずれかに記載の装置において、前記の加速された電子は、前記の被照射体通路の中心軸に対して周方向の速度成分を持って前記の電子透過窓に入射することを特徴とするものである。これによって、電子透過窓を透過してきた電子の内の発散する方向に移動する電子の数を減少させ、被照射体に命中する電子の量を増した、より好ましい電子線照射装置を実現することができる。
【0026】本発明の特許請求項17に係わる電子線照射装置は、特許請求項4から16のいずれかに記載の装置において、前記の電子透過窓は前記の電子集中手段の影響が存在する位置に設けられたことを特徴とするものである。これによって、電子透過窓を透過してきた電子の内で発散する方向に移動する電子の数を減少させ、被照射体に命中する電子の量を増した電子線照射装置を実現することができる。
【0027】本発明の特許請求項18に係わる電子線照射装置は、特許請求項4から17のいずれかに記載の装置において、前記の電子集中手段は、前記の被照射体通路と同軸的に設けられた第1の環状の磁極と、この第1の環状の磁極と同軸的に設けられた第2の環状の磁極とを有しており、この第1の環状の磁極と第2の環状の磁極との開口は、電子を透過させる電子透過窓と対向していることを特徴とするものである。これによって、前記の被照射体に平行な磁束密度成分とこれに垂直な磁束密度成分とが生じるとともに、これらの大きさは電子の進行とともに増大することになり、電子を被照射体の周囲で周回させながら周回半径を縮小させる効果を生じる、簡単な構造の電子線照射装置を実現することができる。
【0028】本発明の特許請求項19に係わる電子線照射装置は、特許請求項18に記載の装置において、前記第1の環状の磁極の内径は前記の電子透過窓の中心半径よりも小さいことを特徴とするものである。これによって、電子を前記の被照射体通路を隈なくスキャンさせる効果が増大し、被照射体への電子の命中率を高めた電子線照射装置を実現できる。
【0029】本発明の特許請求項20に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から19のいずれかに記載の装置において、前記の陰極又は前記の陽極又は前記の電子透過窓のいずれかは、前記被照射体通路の中心軸の周りに、1個又は複数個に分割して構成されていることを特徴とするものである。これによって、被照射体の周方向における電子線の分布の均一性がさほど重要視されない被照射体の処理に適し、製造が容易で安価な電子線照射装置を実現できる。
【0030】本発明の特許請求項21に係わる電子線照射装置は、特許請求項1から20のいずれかに記載の装置において、前記の被照射体通路内における被照射体の移動速度を検出する手段と、前記の電子透過窓で吸収された電子の量又は前記の電子透過窓を通過した電子の量を検出する手段とを有して構成されており、前記の被照射体の移動速度に応じて前記の陰極から放出される電子の量を制御するようになっていることを特徴とするものである。これによって、被照射体の長手方向における電子照射密度の均一性が極めて高いことを必要とする電子線照射に適した電子線照射装置を実現できる。
【0031】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態である周回集束型電子線照射装置の縦断面図であり、図2は図1のAA’における横断面図、図3は図1のBB’における横断面図、図4は図1のCC’における横断面図、図5は本発明の主要構成要素である電子集中手段としての電磁石の構造と磁束の分布の例を表す断面図、図6から図8までは本発明の原理を説明する原理図、図9から図12までは本発明の作用を説明する為の電子の軌道を計算した結果を表す図面、図13から図17までは本発明の効果を表すグラフ、図18は他の変形した実施形態を示す縦断面図、図19は従来の電子線照射装置を示す横断面図である。同じ部分は同じ番号を付与している。簡略化の為に断面のハッチングは部分的に省略している。
【0032】図1において、1は真空容器であり、排気管16に接続された図示しない真空ポンプによって排気されて常時10−6〜10−8Torr程度の真空度に保たれた真空空間101を形成している。真空空間101内において真空容器1の壁に絶縁筒13が取り付けられており、絶縁筒13の他端には環状の電子銃取付台14が固定されている。電子銃取付台14には環状の取付金具17を介して環状の陰極2と環状の集束電極3が同軸状に取り付けられている。環状の陰極2はバリウム含浸型カソードであり、内部に取り付けられたヒーターによって加熱されて熱電子を放出する。環状の陰極2及び図示しないヒーター及び集束電極3には高電圧リード線15からー110KV程度の負の高電圧が印加される。高電圧リード線15は図示しない高電圧端子を介して外部の図示しない高電圧電源に接続されている。集束電極3は陰極1に対して正のバイアス電圧が印加され、このバイアス電圧は前記の高電圧電源によって可変でき、電子の分布状態を制御できるるようになっている。
【0033】前記の陰極2に対向した位置に環状の電子通過孔401を形成する陽極構体4と陽極リング5が同軸状に設けられており、前記の陰極2と組み合わせて電子加速手段を形成している。陽極構体4の一部である平板部402は真空容器1の一部を形成している。陽極構体4の中心軸には、陽極構体4を貫通した状態で大気圧になった被照射体通路10が設けられている。図1に示した陽極構体4の平板部402のAA’における横断面図を図2に示している。図2に示すように、平板部402には放射状に設けられた多数の窪み405があり、その一部は前記の電子通過孔401と繋がっており電子通路406を形成している。前記の窪み405の間には隔壁407があり、機械的強度を保っている。窪み405の近傍には冷却水路403と404が設けられており、強制冷却されるようになっている。
【0034】図1に示すように、前記の平板部402の表面に電子透過窓構体6が取り付けられている。電子透過窓構体6の中央には貫通した穴があり、被照射体通路10の一部を形成している。前記の平板部402と電子透過窓構体6との間はO―リングなどによって気密に接続されている。電子透過窓構体6のBB’における横断面図を図3に、CC’における横断面図を図4に示している。図3及び図4に示すように、電子透過窓構体6には多数の窪み601と、これと連通した部分を有する環状の溝602が設けられている。これらの近傍に環状の冷却水路603,604が設けられており、強制冷却されるようになっている。多数の窪み601の間には隔壁605があり、機械的強度を保つようになっている。図1に示すように、電子透過窓構体6の環状溝602の端部には環状の電子透過窓7が電子ビーム溶接等により気密に取り付けられており、真空容器の一部を形成して真空空間101を高真空状態に保っている。電子透過窓7は厚みが10μm程度のチタニューム箔で出来ており、110KeVのエネルギーを持って入射した電子のおよそ50%を透過することができる。
【0035】電子透過窓7の外側にはアルミニューム等の原子番号が鉄よりも小さい材質で出来た照射室壁11があり、前記の被照射体通路10よりも大きな半径を有する照射室空間111を形成している。前記の電子透過窓7から一定距離離れた位置で照射室壁11の外側に取り付けられた、電子集中手段としての電磁石8が設けられている。電磁石8は、被照射体通路10と同軸的に設けられた環状の第1の磁極802と、これと同軸的に設けられており、第1の磁極802よりも大きな径を持った環状の第2の磁極801と、この間に巻かれたコイル803とを有しており、電子集中手段を構成している。第2の磁極801の先端部分には半径が小さい磁極804が設けられている。
【0036】電磁石8の磁束805の分布の例を図5に示している。図5に示すように、前記の第1の磁極802、第2の磁極801の形状により、電子透過窓7に近い側にコーン状に広がった磁束分布を呈している。前記環状の陰極2の表面の中央を示す円と前記環状の電子通過孔401の中央を示す円とを結んでできるコーン状の面と前記の被照射体通路10の中心線との交点9よりも電子透過窓7から遠い位置に最小の径を持つ曲線に沿って磁束は分布している。前記の第1の磁極802の内径は電子透過窓7の内径よりも小さくなっており、第2の磁極801の内径は電子透過窓7の外径よりも大きく成っている。
【0037】図1に示すように、電磁石8の外側には遮蔽体12が設けられており、X線の遮蔽をするとともに被照射体通路10の一部を構成している。被照射体通路10は装置全体を貫通しており、この内部に細長い被照射体100が高速度で移動されるようになっている。被照射体100が前記の照射室空間111を通過した時に多量の電子が細長い被照射体100に集中して照射されるので、細長い被照射体100が高速度で移動しても照射処理に必要な十分な照射線量を得ることができる。以下において、電子透過窓7を透過した電子が被照射体通路10内に集中される電子集中手段の作用について図6から図8を参照して述べる。
【0038】被照射体通路10の中心軸と同軸的に配設された環状の電子透過窓7を拡大して図6に模式的に示している。ここで、Z軸は被照射体通路10の中心軸と一致しており、図1の右側が正の座標になっており、R軸は半径方向を表している。図6に示すように任意の点の座標を円柱座標(r、θ、z)で表す。電子透過窓7上の点P(r1、θ1、z1)において、半径方向に角度φだけZ軸に対して傾斜して、真空領域に在る環状の溝602から電子が入射した場合を考える。入射した電子は電子透過窓7内でエネルギーを減少するとともに散乱されて図6に示すようP(r1、θ1、z1)とZ軸を含む平面内、及びこれと直交する面の方向に立体的に分布した広い指向性を持った速度分布を有して電子透過窓7の外側の大気圧領域に進入する。
【0039】図6の点P(r1、θ1、z1)とZ軸を含む平面における断面図を図7−aに、これと直角な方向の断面図を図7−bに示している。図7−aの角度φはRZ平面内における電子の散乱角度を示しており、半径方向散乱角と呼ぶ。図7−bにおける角度φはRZ平面に垂直でZ軸に平行な面内における電子の散乱角度を示しており、接線方向散乱角と呼ぶ。110KeVの運動エネルギーを持って初速度vで角度φだけ傾斜して電子透過窓7に入射した電子は、30KeV程度のエネルギーを減少されて透過した電子の初速度が幾分減少する。これをvとすると、透過電子のR,θ、Z方向の速度成分v、vθ、vは、それぞれ、v=v・sin(φ−φ)・cos(φ)、vθ=―v・cos(φ−φ)・sin(φ)、v=v・cos(φ−φ)・cos(φ)で表される。
【0040】一方、環状の電子透過窓7の外側には電子集中手段としての前記の電磁石8が、その中心軸がZ軸に一致するように設けられており、電子透過窓7の内側の近傍及び外側では図5に示すように半径方向の磁束密度成分B,Z軸方向の磁束密度成分Bをもった磁束が存在するので、この領域に入った電子は概略e(v−v)の回転力を与えられることになる。ここで、vとvは電子のZ方向速度成分とR方向速度成分を、eは素電荷をそれぞれ表している。電子が電磁石8に近づくに従って強い回転力を与えるように磁束密度の各成分B,Bの空間分布を与えておくと、電子は電磁石8に近づくにつれて強い正方向回転力を受けてZ軸の周りで正方向に回転する。図8−aには、正方向回転している電子が磁束密度成分、B,Bによって受ける力の方向を模式的に示している。この場合には電子は正方向に回転しながらZ軸方向に減速され、半径が縮小する方向に強く集束されることになる。図8−bには、負方向に回転している電子が磁束密度成分、B,Bによって受ける力を示している。この場合には電子は負方向に回転しながらZ軸方向に加速され、R軸の方向に発散されることになる。電子透過窓7を透過した直後の電子のθ方向速度vθが図7−bにおける負方向である場合には正方向回転が強調され、電子は強い集束作用を受けて図6の実線B1で示す軌道をたどってZ軸に到達する。一方、初速度vθが図7−bにおける正方向である場合には初期的には負方向回転となるが、電子の進行とともに前記の磁束密度に起因する正方向回転力が電子の進行とともに大きくなり、電子は正方向回転を行うようになって集束作用を受けて図6の破線B2に示す軌道をたどってZ軸に到達する。
【0041】前記のように電子透過窓7によって接線方向散乱角φをもって散乱されてvθの初速度で逆回転させたれた電子も磁束密度B,Bの影響で正方向回転させられるので強い集束力を受けることになり、電子透過窓7を透過した電子の大部分がZ軸と交差することになる。半径方向散乱角φをもって散乱され、R方向の速度成分vを持って透過した電子は、速度成分v、vと磁束密度成分B,Bの値が電子の軌道の違いによって異なるので、与えられる回転力が半径方向散乱角φによって異なるが、多くの電子が前述の効果を受けて半径方向散乱角φがゼロの場合と類似の軌道を描いて電子が移動することになる。これらの電子軌道をコンピュータで計算した結果の例を軸対称な断面図で図9、10、11、12に示している。これらの図において、電極4及び5の形状の内で特性に影響しない部分は、計算の都合上図1の実施例と異なっているが電子の軌道には影響を与えていない。30は等電位曲線を示している。図9は、−110KVの電圧が印加された環状の陰極2から放出されて−108KVが印加された集束電極3によって均一な電子密度をもって集束されて、環状の電子通路401を有し、接地電位に設定された陽極4、5とで形成された電子加速手段によって加速された電子ビーム20が環状の電子透過窓7を透過して80KeVの運動エネルギーをもって接線方向散乱角φがー40度、半径方向散乱角φが0度で散乱された電子の軌道の例を示している。電子透過窓7を透過した直後に電子集中手段によって正方向回転してZ軸に向かって強く集束しているとともにZ軸方向に減速されていることが判る。図10は、図9と同様に電子加速手段によって加速されて、環状の電子透過窓7を透過して80KeVの運動エネルギーを持って接線方向散乱角φが+40度、半径方向散乱角φが0度で散乱された電子の軌道の例を示している。電子透過窓7を透過した直後に負方向回転してR軸方向に発散しながら移動し、途中で電子集中手段の影響で逆方向に回転してZ軸に近づくように強く集束しているとともにZ軸方向に減速されていることが判る。この場合にも電子は被照射体100に衝突することになる。
【0042】図11には、電子透過窓7を透過後に半径方向散乱角φが0度、接線方向散乱角φが0度で散乱された電子の軌道を表しており、一部の電子は電子集中手段の集束作用を受けてZ軸に交錯する軌道を移動するが、一部の電子は発散してZ軸から遠ざかっていることがわかる。これは、磁束密度B,Bの空間分布と電子の速度成分v、vとの関係の違いによって生じる異差である。これらの電子は、電子集中手段の一部である前記第2の磁極801の半径を20mm程度大きくすればZ軸に交錯する軌道になることが判っている。図12は、電子透過窓7を透過後に半径方向散乱角φが+60度、接線方向散乱角φが+80度で散乱された電子の軌道を表しており、電子集中手段としての電磁石による磁束密度B,Bの分布の影響を受け難い軌道を通過している為にZ軸と交差することなく発散していることがわかる。この場合も、電子集中手段の一部である前記第2の磁極801の半径を20mm程度大きくすれば一部分の電子がZ軸に交錯する軌道になることが判っている。図12に示した軌道をもつ電子はごく一部であり、大部分の電子は電子透過窓7を通過した後で被照射体通路10を周回しながら横断してZ軸と交差する。従って、被照射体通路10にある細長い被照射体100に大部分の電子が衝突する。言い換えると、真空中で加速された電子が真空隔壁である電子透過窓7を透過して散乱されるにもかかわらず、大部分の電子が極めて細い被照射体100に命中して照射されることになる。従って、以下に述べるように、電子線の照射効率が従来の50倍以上に向上し、被照射体100を従来の50倍以上の高速で走行させて照射処理することが出来、処理能率を大幅に改善することができる。被照射体100が被照射体通路10内で半径方向に移動しても、電子は被照射体通路10内を周回しながら横断しているので照射効率は低下することはない。又電子透過窓7を透過した電子は大気中のガスによって散乱されるが、この領域では磁束密度B,Bの影響下にあり上記と同様の作用で強力に集束されるので電子線の照射効率は殆んど低下しない。
【実施例】次に本発明の周回集束型電子線照射装置の作用及び効果について実施例を用いて説明する。図1の構造の周回集束型電子線照射装置において、外径30mm、厚み10μmの環状電子透過窓7を透過した電子線の内、直径8mmの被照射体通路10を完全に横断する電子の割合を電子計算機で計算した結果を図13から図17に示している。図13は、電子透過窓7を透過後に接線方向散乱角φが−50度、半径方向散乱角がφだけ偏向されて出発した電子の内、被照射体通路10の断面を完全に横断する電子数の百分率を、半径方向散乱角φの関数として表している。これによると、電子の入射方向に対してー50度から+50度だけ半径方向に散乱した電子は、被照射体100がいくら細くても全ての電子が被照射体100に衝突することを示している。半径方向散乱角φが+50度よりも大きい場合にはZ軸に交差しない電子が増えてくるが、これは、電子の軌道周辺の磁束密度B,Bの分布が好ましくない為である。電磁石の直径を大きくするなどの改善によってこの状況は改善されることがわかっているが、本実施例で十分に大きな照射効率を得ている。
【0043】図14は、電子透過窓7を透過後に接線方向散乱角φが−30度、半径方向散乱角がφだけ偏向されて出発した電子の内、被照射体通路10の断面を完全に横断する電子数の百分率を、半径方向散乱角φの関数として表している。これによると、電子の入射方向に対してー20度から+30度だけ半径方向に散乱した電子は、被照射体100がいくら細くても全ての電子が被照射体100に衝突することを示している。同様に、図15は、電子透過窓7を透過後に接線方向散乱角φが0度、半径方向散乱角がφで偏向されて出発した電子の内、被照射体通路10の断面を完全に横断する電子数の百分率を、半径方向散乱角φの関数として表している。同様に、図16は、電子透過窓7を透過後に接線方向散乱角φが+20度、半径方向散乱角がφで偏向されて出発した電子の内、被照射体通路10の断面を完全に横断する電子数の百分率を、半径方向散乱角φの関数として表している。同様に、図17は、電子透過窓7を透過後に接線方向散乱角φが+60度、半径方向散乱角がφで偏向されて出発した電子の内、被照射体通路10の断面を完全に横断する電子数の百分率を、半径方向散乱角φの関数として表している。これらの図から判るとおり、接線方向散乱角φが小さいほど強く集束されて電子線照射効率が高いことが判る。図17の場合には、ほぼ50%の電子がZ軸と交差するに過ぎない。
【0044】上述のとおり、電子透過窓7で接線方向散乱角φが負の大きな値で散乱された電子線は図8(a)の正方向の回転力を得る為に磁束から受ける集束力が大きいことが原因している。反対に、接線方向散乱角φが正の大きな値で散乱された電子は図8(b)の負方向の回転力を得る為に初期的に集束力が小さく、この間に磁束密度B,Bの分布が好ましくない領域に至ることが原因している。しかしながら、いずれの場合でも、半径方向散乱角φがー40度から+50度の範囲において被照射体通路10を完全に横断する電子の数が50%を下る事はない。図示していない他の場合においても同様の状態になっており、電子透過窓7を透過した電子の50%以上の電子が高速度で周回しながら被照射体通路10の断面を横断して、被照射体通路10を通過する被照射体に必ず衝突する。つまり、被照射体がいくら細くても電子線の照射効率が50%以上となる。
【0045】前記の軌道計算の例では電子透過窓の外径は30mm、内径は10mmの場合を示しているが、これらの径を大きくしても上述と同様又はより好ましい電子集束の状況が得られる。そこで、電子透過窓7は、厚みが10μm、外径が50mmで内径15mmの環状薄膜であり、表面積は17.8cmに電子が均一に広がって入射するの場合について述べる。このような薄膜に一般的に許容される電子入射密度は10W/cm程度であるので、本実施例で許容される入力は178Wである。入射電子のエネルギーが110KeVである場合には、1.6mAの電流に相当する。入射した電子のおよそ50%が電子透過窓7で吸収され残りのおよそ50%程度が運動エネルギー80KeVをもって透過する。上記のように、透過した電子の50%以上が被照射体100に照射されるので照射電流は0.4mA以上である。被照射体の断面積が4x10−4cmであり、その密度が1.2g/cm、被照射体の移動速度が2000m/分(=3333cm/秒)、被照射体の効果処理に必要な線量が20kGy(=20J/g)とすると、被照射体に照射すべき電子線のパワーは32Wとなる。電子のエネルギーが80KeVであるので必要な電流は0.4mAでよいことになる。つまり、目的の電子線照射量を得られることを示している。更に処理能率を高める必要があれば、電子透過窓7の面積を大きくして電子透過窓7に入射する電子の分布を広げ、電子透過窓7における電子密度を小さくした状態で電子透過窓を透過させ、透過した電子を電子集中手段で被写体に命中させることによって容易に達成できる。電子の分布を広げることは、例えば電子分散手段としての集束電極3のバイアス電圧を高めることによって容易に実現できる。
【0046】本実施例では、電磁石の起磁力は20AT程度であるが、電磁石8の位置や形状に従って他の値であっても良い。電磁石8の磁極801の先端は電子透過窓7から15mm離れた状態で同心状に取り付けられている。しかしながら、電磁石8の磁極801の先端を電子透過窓7から5mmの位置まで近づけても、電磁石8の起磁力を1/4程度に減少すると同様の効果を得ることができる。電磁石8の磁極801の先端を電子透過窓7から25mmの位置まで遠ざけても、電磁石8の起磁力を増すことによって同様の効果が得られる。電磁石8を、第2の磁極801の先端と第1の磁極802の先端がZ軸方向に同じ位置になるような構造にしても、第2の磁極801の先端が第1の磁極802の先端よりもZ軸方向に沿って電子透過窓7から遠ざかる位置になるような構造にしても、第2の磁極801の径を大きくすれば第1の磁極802の近傍では図5と同様の磁束密度分布が得られ、上述と同様の効果が得られることがわかっている。しかしながら電子透過窓7の位置で磁束密度B,Bが存在しない場合又は弱すぎる場合には散乱した電子線の十分な集束が得られず、電子線の照射効率を高めることは困難である。また、電子が進行するに従って磁束密度が大きくなっていることが照射効率を高める上で必要である。又電子透過窓7の直前から磁束密度B,Bが存在するようにしておくと、電子が正方向に回転しながら周方向の速度成分を持った状態で電子透過窓7に入射するので電子透過窓7を透過後の指向性は正方向回転が増える方向に改善され、集束する電子のか数が増加する。
【0047】上記の実施形態及び実施例では、電子銃は環状の陰極2を有しており、その中心軸は被照射体通路10の中心軸と同心状に取り付けられているが、直径が4mm程度の円形の陰極を多数個環状に配列して構成しても良いことは勿論である。この場合には既存の陰極を採用できるメリットが生じる。電子銃の集束電極3も同様に多数個に分割されて配設されても良いことは勿論である。電子透過窓7も、多数に分割されたセグメントで環状に構成されていても良いことは勿論である。
【0048】照射室空間111には図示しない不活性ガスの導入口があり、電子透過窓7に吹き付けて強制冷却するようになっている。電子透過窓7を透過した電子が照射室空間111の壁に衝突した場合にX線の発生を少なくする様にアルミニユームの様な原子番号が鉄よりも小さい物質で作られている。また、前記の被照射体通路内における被照射体の移動速度を検出する手段と、前記の電子透過窓で吸収された電子の量又は前記の電子透過窓を通過した電子の量を検出する手段とを有して装置を構成しておき、前記の被照射体の移動速度に応じて前記の陰極から放出される電子の量を制御するようにしておくと被照射体の長手方向の照射の均一度を高めることができる。
【0049】次に、変形された実施形態について図18を用いて説明する。図18の実施形態の例では、電子銃は独立した2個が被照射体通路10の中心軸に対して対称に設けられている。これらの電子銃は円形の小型カソード2−1、2−2と、独立の集束電極3−1、3−2を有して構成されており、それぞれの電子銃は支持金具17−1、17―2によって絶縁物で出来た図示しない高電圧端子に取り付けられている。それぞれの陰極2−1,2−1から放出された円形の断面を有する電子ビームは前述と同様にして加速されてそれぞれの軌道をたどって電子透過窓7に到達する。電子透過窓7は環状構造ではなく、独立した2個の円形の薄膜で構成されている。この電子透過窓7を透過した電子は前述と同様に電子集中手段としての磁石8の磁束によって周回しながら集束作用を受けるので細長い被照射体100に効率良く照射される。この場合には、被照射体100の周方向の電子線分布の均一性が低下するが、電子が周回運動を行うので周方向の均一性の劣化の程度はさほど大きくない。更に、2個の電子銃に独立した別個の高電圧電源から電圧を供給することにより、一方の動作が不安定になった場合でも他方が正常に作動するので装置の信頼性が向上する。又どちらか一方の電子銃を省略しても好ましくはないが概ね類似の特性を得ることができる。
【0050】本発明を実施形態及び実施例に関連して説明したが、本発明は、ここに例示した実施形態及び実施例の構造及び形態に限定されるものではなく、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、いろいろな実施形態が可能であり、いろいろな変更及び改変を加えることができることを理解されたい。例えば、電子透過窓7の外側を真空にした状態で被照射体100に電子線を照射できることは勿論である。電子透過窓を省略した場合でも本発明を採用することにより被照射体への電子の集中効果が得られる。また、電子集中手段としての電磁石8は永久磁石でも良いことは勿論である。更に、図18の実施形態において、電子銃の方向をRZ平面に垂直な方向に傾斜させることにより、電子透過窓を透過した電子の接線方向散乱角φを改善することができる。電子集中手段は、複雑な構造になるが、複数個の磁石を組み合わせて構成しても、高電界を発生する電極と磁石とを組み合わせて構成しても実現できる。本発明は、細長い被照射体の電子線照射に適するが、前記の被照射体通路及びこれを取り巻く部分を大きくすることにより、太い立体形状の被照射体の全周方向から電子線を照射できる電子線照射装置を提供できることは当然である。前記の電子加速手段による加速エネルギーが500KeV以下の範囲で上記実施形態の例と異なった場合も本発明に含まれる。前記の被照射体が絶縁物のみで出来ている場合も導電性の材質を含む場合も本発明に含まれる。
【発明の効果】以上説明したように本発明の周回集束型電子線照射装置を採用すると、細長い形状の被照射体に効率良く電子線を照射することができ、従来不可能であった極細形状の被照射体に集中して十分な線量の電子線を照射するこが出来、照射効率を極端に高めた電子線照射装置を提供することができる。電子線透過窓を通過した電子の多くを被照射体に命中できるので、電子線透過窓に入射する電子の数を相対的に減少させることが出来、電子線透過窓の過度の発熱が防止されて信頼性が大幅に改善される。また、電子線透過窓の面積を小さくできるので装置全体が小さくなるだけでなく、電子は被照射体の周囲を周回しながら被照射体に衝突するので周方向における照射処理の均一性が向上する。
【出願人】 【識別番号】399116102
【氏名又は名称】小野 勝弘
【出願日】 平成13年1月16日(2001.1.16)
【代理人】
【公開番号】 特開2002−214399(P2002−214399A)
【公開日】 平成14年7月31日(2002.7.31)
【出願番号】 特願2001−7684(P2001−7684)