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【発明の名称】 粒子線発生装置
【発明者】 【氏名】竹内 一浩

【氏名】川久保 幸雄

【氏名】岡崎 隆司

【氏名】真木 紘一

【氏名】森 利克

【要約】 【課題】装置の小型化及びコスト低減が可能な粒子線発生装置を提供することにある。

【解決手段】重水素が吸蔵されたターゲット5を真空容器1内に配置し、イオン源3から出力された3He のイオンビームをターゲット5に照射することによって陽子線8を発生させる。この構成では、重水素がターゲット5に固定されているために重水素同士の核反応は起こらず、中性子線は発生しない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】真空容器内に配置され、かつ重水素が吸蔵されたターゲットと、前記ターゲットに照射される3He のイオンビームを発生するイオン源とを備えたことを特徴とする粒子線発生装置。
【請求項2】前記真空容器内に重水素を供給する手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の粒子線発生装置。
【請求項3】前記ターゲットは、非金属の水素吸蔵物質であることを特徴とする請求項1及び2のいずれかに記載の粒子線発生装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、核反応を利用して陽子線等の粒子線を発生させる粒子線発生装置に関する。
【0002】
【従来の技術】粒子線発生装置の一つとして、慣性静電閉じ込め装置が知られている。慣性静電閉じ込め装置は、球形の陽極と陽極の内部に設置された格子状で球形の陰極との間に高電圧を印加することによって、燃料ガスの放電によりイオンを生成すると共に生成したイオンを陰極に向けて加速し、格子状の陰極内部でイオン同士が衝突することによる核反応を用いて中性子や荷電粒子を発生させる。慣性静電閉じ込め装置については、「プラズマ・核融合学会誌,第73巻,第10号,第1080頁〜1085頁」に詳しく記載されている。
【0003】この慣性静電閉じ込め装置において、燃料ガスとして重水素ガスを用いると、重水素同士の衝突により(数1)及び(数2)で示される核反応が起こり、陽子線及び中性子線が発生する。
【0004】
D+D→T(1.01〔MeV〕)+p(3.03〔MeV〕) …(数1)
D+D→3He(0.82〔MeV〕)+n(2.45〔MeV〕)…(数2)
ここで、D:重水素、T:三重水素、p:陽子(質量数1の水素)、n:中性子であり、( )内の数値は各粒子が持つエネルギーを示す。
【0005】また、燃料ガスとして重水素と三重水素の混合ガスを用いると、(数1)及び(数2)の反応に加えて、重水素と三重水素との衝突により(数3)で示される核反応が起こり、(数2)の反応で発生する中性子線よりも高エネルギーの中性子線が発生する。
【0006】
D+T→4He(3.52〔MeV〕)+n(14.06〔MeV〕)…(数3)
なお、4He は質量数4のヘリウムである。
【0007】更に、燃料ガスとして重水素と3He (質量数3のヘリウム)の混合ガスを用いると、(数1)及び(数2)の反応に加えて、重水素とヘリウム−3との衝突により(数4)で示される核反応が起こり、(数1)の反応で発生する陽子よりも高エネルギーの陽子が発生する。
【0008】
D+3He→4He(3.62〔MeV〕)+p(14.67〔MeV〕)
…(数4)
一方、慣性静電閉じ込め装置とは異なる方式の粒子線発生装置として、加速したイオンビームを金属ターゲットに衝突させることによって(数1)〜(数3)の核反応を起こし、中性子線及び陽子線を発生させる粒子線発生装置が知られている。このような粒子線発生装置については、「レビュー・オブ・サイエンティフィック・インスツルメンツ,第71巻,第2号,2000年2月,第1064頁〜第1068頁」に詳しく記載されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、従来技術では陽子線と中性子線の両方が発生するため、陽子線のみを利用する場合でも、陽子線に比べて遥かに物質を透過しやすい中性子線に合わせて遮蔽設備を設けなければならない。一例として、慣性静電閉じ込め装置を用いて重水素と3He の混合ガスにより陽子線を発生させる場合を考えると、(数4)の反応による14.67〔MeV〕の陽子線と共に、(数2)の反応による2.45〔MeV〕の中性子線が発生する。この14.67〔MeV〕の陽子線は0.5〔mm〕の鉄板を通過できないが、2.45〔MeV〕の中性子線の強度を一桁下げるには約30〔cm〕のコンクリートが必要となる。このように、従来技術では、陽子線のみを利用する場合であっても、中性子線に合わせて膨大な遮蔽設備を設けなければならず、装置の大型化及びコスト上昇を招いていた。
【0010】本発明の目的は、装置の小型化及びコスト低減が可能な粒子線発生装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明の特徴は、真空容器内に配置され、かつ重水素が吸蔵されたターゲットと、ターゲットに照射される3He のイオンビームを発生するイオン源とを備えたことにある。
【0012】重水素が吸蔵されたターゲットに3He のイオンビームを照射することにより(数4)の核反応が起こって陽子線が発生するが、重水素はターゲットに固定されているために相対エネルギーを持たず、重水素同士の核反応である(数2)の反応は起こらない。つまり、中性子線は発生しない。このように、中性子線の発生を抑制しつつ陽子線を発生させることができるため、陽子線のみを利用する場合には陽子線に合わせて遮蔽設備を設けることができる。従って、装置を小型化することができ、かつコストを低減することが可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
(実施例1)図1は、本発明の好適な一実施例である粒子線発生装置の構成を示す。図1において、まず、燃料ガスである3He が燃料ガスタンク6からイオン源3に供給される。次に、高圧電源7によって真空容器1内に設置されたターゲット5とイオン源3との間に約100〔kV〕の高電圧が印加され、イオン源3とターゲット5との電位差によってイオン源3から3He のイオンビーム4が引き出されて、引き出されたイオンビーム4はターゲット5に向かって加速される。なお、このとき真空容器1内は真空排気装置2によって10〔Pa〕以下の真空に保たれる。
【0014】ターゲット5に向かって加速されたイオンビーム4は、ターゲット5に衝突するが、本実施例ではターゲット5を水素を吸蔵させたチタンで構成するため、イオンビーム4の3He とターゲット5の重水素による(数4)の核反応によって14.67〔MeV〕 の陽子線8が発生する。発生した陽子線8は、真空容器1上部に設けられた薄膜9を通して真空容器1外に取り出される。この薄膜9は、大気圧に耐えられる強度と陽子線を通過させるための薄さを併せ持つ必要があるため、本実施例では約30〔μm〕のチタンの薄膜を用いる。なお、(数4)の核反応によって発生するもう一つの粒子である3.62〔MeV〕 の4He は、薄膜9を通過できない。
【0015】上述のように、本実施例では、重水素をターゲット5に固定しているために重水素は相対エネルギーを持たず、よって重水素同士の核反応である(数2)の反応は起こらない。従って、中性子線は発生しない。このように、本実施例によれば、中性子線の発生を抑制しつつ陽子線を発生させることができるため、陽子線のみを利用するような場合には、陽子線に合わせて遮蔽設備を設けることができる。よって、従来のように中性子線に合わせて遮蔽設備を設ける場合と比較して、装置を小型化することができ、かつコストを低減することが可能となる。
【0016】なお、ターゲット5の重水素は核反応により減少するため、所定時間運転する毎にターゲット5の交換を行う。
(実施例2)本発明の他の実施例である粒子線発生装置について図2を用いて説明する。本実施例の粒子線発生装置は、ターゲットへの重水素の吸蔵を真空容器内で行う点で実施例1と異なる。以下、実施例1と異なる点について説明する。
【0017】本実施例の粒子線発生装置では、初めにチタンからなるターゲット5を真空容器1内に配置し、タンク10から真空容器1内に重水素を供給する。このとき、燃料ガスタンク6からイオン源3への3He の供給は停止させておき、また、真空排気装置2及び高圧電源7も停止させておく。このようにして真空容器1内に重水素を充満させた状態を10〔Pa〕以上の圧力にて所定時間保持することにより、ターゲット(チタン)5に重水素が吸蔵される。このターゲット5にイオンビーム4を照射して陽子線を発生させるための動作は、実施例1と同様である。なお、前述の通り、ターゲット5の重水素は核反応によって減少するため、所定時間運転する毎に陽子線の生成を停止し、真空容器1内に重水素を供給してターゲット5への重水素の吸蔵を行う。
【0018】このように、本実施例によれば、真空容器1内に重水素を供給するためのタンク10を設けたことにより、真空容器1内でターゲット5に重水素を吸蔵させることができ、ターゲット5の交換が不要となる。
【0019】以上説明した実施例1及び2では、ターゲット5として水素吸蔵金属を用いたが、カーボンナノチューブ等の水素吸蔵材を用いてもよい。
(実施例3)本発明の好適な一実施例である粒子線発生装置を用いた同位体製造システムについて図3を用いて説明する。本実施例の同位体製造システムは、陽子線源及び中性子線源を用いて、比較的半減期の短い短半減期同位体(C,N,O)、比較的半減期の長い長半減期同位体(Tc)、及び短半減期同位体よりも半減期が長く長半減期同位体よりも半減期が短い中半減期同位体(F)を製造するものである。また、本実施例の同位体製造システムによって製造される同位体は、昼間にPET(Positron Emission Tomography:陽電子放出断層撮影)やSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography:単光子断層撮影)に用いられる。
【0020】図3において、陽子線源11a,11bは実施例1或いは2で説明した粒子線発生装置であり、陽子線源11aで発生した陽子線は短半減期同位体の製造に利用するために短半減期同位体製造装置13に入力される。短半減期同位体製造装置13では、陽子線源11aから出力された陽子線を用いて(数5),(数6),(数7)の反応により短半減期同位体である11C(半減期:20.4分),13N(半減期:9.96分),15O(半減期:122秒)を製造する。
【0021】
14N+p→11C+4He …(数5)
16O+p→13N+4He …(数6)
15N+p→15O+n …(数7)
短半減期同位体製造装置13にて製造された短半減期同位体は、PETに用いられる。
【0022】また、陽子線源11bにて発生した陽子線は、中半減期同位体の製造に利用するために中半減期同位体製造装置14に入力される。中半減期同位体製造装置14では、陽子線源11bから出力された陽子線を用いて(数8)の反応により中半減期同位体である18F(半減期:110分)を製造する。
【0023】
18O+P→18F+n …(数8)
中半減期同位体製造装置14にて製造された中半減期同位体は、短半減期同位体と同様にPETに用いられる。
【0024】一方、中性子線源12にて発生した中性子線は、長半減期同位体の製造に利用するために長半減期同位体製造装置15に入力される。長半減期同位体製造装置15では、中性子線源12から出力された中性子線を用いて(数9)の反応により99Mo(半減期:66時間)を製造し、それが崩壊してできる娘核種である99mTc(半減期:6.04時間)を製造する。
【0025】
98Mo+n→99Mo→99mTc …(数9)
長半減期同位体製造装置15にて製造された長半減期同位体(99mTc)は、SPECTに用いられる。なお、中性子線源12としては、「プラズマ・核融合学会誌,第73巻,第10号,第1080頁〜第1085頁」或いは「レビュー・オブ・サイエンティフィック・インスツルメンツ,第71巻,第2号,2000年2月,第1064頁〜第1068頁」に記載されている中性子線源を用いればよい。
【0026】上述の陽子線源11a,11b及び中性子線源12には高電圧の電力を供給するための高圧電源が必要であるが、本実施例では1台の高圧電源16を陽子線源11a,11b及び中性子線源12で共用する。すなわち、切替装置17により高圧電源16から出力される電力の供給先を切り替える。前述のように、短半減期同位体の半減期は非常に短いため、PETによる診断を行う直前に製造する必要がある。よって、高圧電源16から陽子線源11aへの電力の供給は、短半減期同位体を用いたPETの直前(昼間)に行う。一方、長半減期同位体の半減期は他の同位体と比較して長いため、長半減期同位体の製造はPETやSPECTによる診断が行われない夜間に行う。よって、高圧電源16から中性子線源12への電力の供給は夜間に行う。また、中半減期同位体は長半減期同位体ほど半減期が長くなく、夜間に製造したのでは昼間の診断に利用できなくなってしまうので、中半減期同位体の製造は短半減期同位体の製造と同様に昼間に行う。よって、高圧電源16から陽子線源11bへの電力の供給は昼間に行う。
【0027】このように、本実施例によれば、陽子線源11a,11b及び中性子線源12で1台の高圧電源16を共用することによって、各々独立に電源を設ける場合に比べて電源の設備費を3分の1にすることができる。また、半減期の比較的短い短半減期同位体や中半減期同位体の製造を診断が行われる時間帯(本実施例では昼間)に行い、半減期の長い長半減期同位体の製造を診断が行われない時間帯(本実施例では夜間)に行うことによって、電源を共用化した場合でも各同位体を有効に利用することが可能となる。
【0028】なお、本実施例では、陽子線源11a,11bとして実施例1或いは2の粒子線発生装置を用いているが、実施例1或いは2の粒子線発生装置に限らず、「プラズマ・核融合学会誌,第73巻,第10号,第1080頁〜第1085頁」或いは「レビュー・オブ・サイエンティフィック・インスツルメンツ,第71巻,第2号,2000年2月,第1064頁〜第1068頁」に記載されている陽子線源を用いてもよい。
(実施例4)本発明の他の実施例である粒子線発生装置を用いた同位体製造システムについて図4を用いて説明する。本実施例の同位体製造システムは、短半減期同位体製造装置と中半減期同位体製造装置とで1つの陽子線源を共用する点で実施例3と異なる。なお、本実施例の同位体製造システムでは、短半減期同位体を製造中は中半減期同位体の製造を停止する。以下、実施例3と異なる点について説明する。
【0029】図4に示されるように、短半減期同位体製造装置13と中半減期同位体製造装置14に対して1つの陽子線源11が設けられており、陽子線源11から発生する陽子線は短半減期同位体製造装置13及び中半減期同位体製造装置14のいずれか一方にて利用される。なお、短半減期同位体の方が中半減期同位体よりも半減期が短いため、基本的には短半減期同位体の製造を優先させるとよい。また、短半減期同位体製造装置13及び中半減期同位体製造装置14における陽子線源11の切り替えは、短半減期同位体製造装置13及び中半減期同位体製造装置14に移動装置(図示せず)を設けて、同位体の製造を行う方を陽子線源11からの陽子線を入力可能な位置に移動させるようにすればよい。
【0030】このように、本実施例によれば、短半減期同位体製造装置13と中半減期同位体製造装置14とで1台の陽子線源11を共用することによって、各々独立に陽子線源を設ける場合に比べて陽子線源の設備費を2分の1にすることができる。
【0031】以上説明した実施例3及び4の中半減期同位体製造装置14では、陽子線を用いて中半減期同位体(18F)を製造しているが、中性子線を用いて(数10)及び(数11)の2段の反応により18Fを製造してもよい。
【0032】
6Li+n→4He+T …(数10)
16O+T→18F+n …(数11)
この場合、中半減期同位体製造装置14には中性子源が設けられる。従って、実施例4において、短半減期同位体製造装置と中半減期同位体製造装置とで1台の陽子線源を共用する代りに、中半減期同位体製造装置と長半減期同位体製造装置とで1台の中性子源を共用することができる。
【0033】
【発明の効果】本発明によれば、装置の小型化及びコスト低減が可能となる。
【出願人】 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【出願日】 平成13年1月12日(2001.1.12)
【代理人】 【識別番号】100075096
【弁理士】
【氏名又は名称】作田 康夫
【公開番号】 特開2002−214398(P2002−214398A)
【公開日】 平成14年7月31日(2002.7.31)
【出願番号】 特願2001−4373(P2001−4373)