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【発明の名称】 ヨウ素除去フィルタ及びヨウ素除去装置
【発明者】 【氏名】藤原 邦夫

【氏名】武田 収功

【要約】 【課題】原子力発電所や使用済み核燃料再処理施設等で発生する各種化学形態の放射性ヨウ素(I、HI、CHI)を、同時に且つ確実に捕集することのできるヨウ素除去フィルタを提供する。

【解決手段】本発明に係るヨウ素除去フィルタは、有機高分子基材の主鎖上に、少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基とを有するグラフト重合体側鎖を有する高分子素材を具備することを特徴とするものである。また、本発明は、かかるヨウ素除去フィルタを組み込んだことを特徴とするヨウ素除去装置にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ヨウ素を吸着除去する高分子素材を具備するヨウ素除去フィルタであって、前記高分子素材は、有機高分子基材の主鎖上に、少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基とを有するグラフト重合体側鎖を有するものであることを特徴とするヨウ素除去フィルタ。
【請求項2】 前記グラフト重合体側鎖が、放射線グラフト重合法を用いて有機高分子基材の主鎖上に導入されたものである請求項1に記載のヨウ素除去フィルタ。
【請求項3】 前記高分子素材が、有機高分子基材の主鎖上に、ハロゲン化アルキル基をベンゼン環上にもつスチレン系化合物から誘導されたグラフト重合体側鎖を有し、該グラフト重合体側鎖上に、少なくとも2つの3級アミノ基を有するポリアミン化合物から誘導される官能基が導入されているものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のヨウ素除去フィルタ。
【請求項4】 前記ポリアミン化合物が、トリエチレンジアミン、ジアザビシクロウンデセン、ヘキサメチレンテトラミンから選択される請求項3に記載のヨウ素除去フィルタ。
【請求項5】 前記高分子素材の形状が、単繊維、単繊維の集合体である織布又は不織布又はそれらの加工品より選択される請求項1〜4のいずれかに記載のヨウ素除去フィルタ。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載のヨウ素除去フィルタを組み込んだことを特徴とするヨウ素除去装置。
【請求項7】 請求項1〜5のいずれかに記載のヨウ素除去フィルタを、ヨウ素除去素材として、活性炭、活性炭素繊維、薬剤添着活性炭、薬剤添着活性炭素繊維、ゼオライト、薬剤添着ゼオライト、シリカゲル、薬剤添着シリカゲルより選択される素材を用いるヨウ素除去装置を設置したダクトの下流側に設置したことを特徴とするヨウ素除去装置。
【請求項8】 マスク又は防護装置の表面又は内部に請求項1〜5のいずれかに記載のヨウ素除去フィルタを組み込んだことを特徴とするヨウ素除去装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、空気中のヨウ素又は液中のヨウ素を除去するヨウ素除去フィルタ及びヨウ素除去装置に関し、特に、原子力発電所及び使用済み核燃料再処理設備等の原子力施設から放出される129Iや131Iを効果的に除去するのに好適なヨウ素除去フィルタ及びヨウ素除去装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】原子力発電所、特に原子炉の排気系において、核燃料棒にピンホール等の破損があると、129Iや131Iの核分裂生成物が排出される。このうち、129は半減期が107年と極めて長いが、排出量が少量で且つエネルギーも低いという特徴がある。一方、131Iは半減期が8日と短いが、排出量が多く、エネルギーが高いという特徴を有している。したがって、原子炉の排気系において最も危険な核分裂生成物核種は、131Iで、原子力施設における測定評価の対象となっている。
【0003】また、使用済み核燃料再処理設備においては、原子炉施設から使用済みの核燃料が運び込まれるまでには長い日時が経過しており、半減期の短い131Iは減衰して殆ど存在しないが、半減期の長い129Iは多量に存在する。
【0004】放射性ヨウ素の主たる化学形態は、ヨウ素(I2)、ヨウ化水素酸(HI)、ヨウ化メチル(CH3I)の3種類と言われている。この中で、非イオン性のヨウ化メチルが、最も除去しにくい。
【0005】従来、原子炉施設から排出される放射性ヨウ素を除去する方法としては、次の方法が用いられている。
■ヨウ化カリウム(KI)を添着した添着活性炭を大量に使用して、放射性ヨウ素である131Iを非放射性のヨウ素と同位体交換することによって捕集する;
■ヨウ素含有気体又は液体を、トリエチレンジアミン(TEDA)を添着した添着活性炭に接触させて、3級アミノ基とヨウ化メチルとを反応させることによって除去する;
■ヨウ素含有気体又は液体を、銀ゼオライトに接触させて、ヨウ化銀として捕集する。
【0006】このうち、ヨウ化メチルの除去については、上記■及び■の除去技術が適用される。また、ヨウ化水素酸は酸性であるので、アルカリ添着活性炭や強塩基性アニオン交換体で除去することができる。更に分子状のヨウ素(I2)を除去する方法としては、KIに吸収させる方法や、本発明者らが提案したポリビニルピロリドンをグラフト重合した高分子素材を用いる方法などがある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記に示すヨウ化カリウムやTEDAを添着した添着活性炭を使用する方法は、大量の活性炭を必要とするためにコストが高くなると同時に、使用した後の活性炭の処理が問題となる。また、銀ゼオライトを使用する方法は、銀ゼオライトが高価であると同時に、脱水や150℃での加熱が必要なことなど、プロセスが複雑で、且つ放射性ヨウ素の除去率が満足できるものではなかった。
【0008】更に大きな問題は、ヨウ素(I2)やヨウ化水素酸などのイオン性物質とヨウ化メチルのような非イオン性物質とは、除去方法が全く異なり、これらが混在する系から放射性ヨウ素を完全に除去するためには、両方の技法を組合せて用いなければならず、除去方法が複雑になるという点であった。
【0009】本発明は上記の問題点を解決すべく完成されたもので、原子力発電所や使用済み核燃料再処理設備等において発生する放射性ヨウ素(129I、131I)を、確実に捕集することができるヨウ素除去フィルタ及び該ヨウ素除去フィルタを用いたヨウ素除去装置を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、ヨウ素を吸着除去する高分子素材を具備するヨウ素除去フィルタであって、前記高分子素材は、有機高分子基材の主鎖上に、少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基とを有するグラフト重合体側鎖を有するものであることを特徴とするヨウ素除去フィルタに関する。
【0011】以下に本発明の各種態様について詳細に説明する。本発明のヨウ素除去フィルタを製造するための有機高分子基材としては、ポリオレフィン系の有機高分子基材が好ましく用いられる。ポリオレフィン系の有機高分子基材は、放射線に対して崩壊性ではないので、後述する放射線グラフト重合法によってグラフト重合体側鎖を導入する目的に用いるのに適している。本発明のヨウ素除去フィルタを製造するための有機高分子基材として好適に用いることのできるポリオレフィン系高分子材料の具体例としては、ポリエチレン及びポリプロピレンに代表されるポリオレフィン類、PTFE、塩化ビニル等に代表されるハロゲン化ポリオレフィン類、エチレン−四フッ化エチレン共重合体及びエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVA)等に代表されるオレフィン−ハロゲン化オレフィン共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】また、かかる有機高分子基材の形状としては、高分子素材単繊維やその集合体である織布や不織布、またはそれらの加工品などを好適に用いることができる。従来のビーズ状イオン交換樹脂は、処理−再生のサイクルを頻繁に繰り返し、少ない再生剤量で1サイクルの処理液量をできるだけ大きくすることを目標としていたため、充填塔あたりのイオン交換容量と再生効率とが重要であった。これに対して、本発明に係るヨウ素除去フィルタは、特に放射性ヨウ素除去フィルタとして用いる場合には、事故時の安全フィルタとして、或いは汚染区域で非定常の作業をする際の作業者の被爆低減を目的として使用されることを主として意図しているため、非再生使用を念頭においている。このような使用形態では、除去性能が良いこと、重量物でないこと、成形加工が容易であること、装着性がよいこと、焼却などの廃棄処理が容易であること、搬送などの移動性がよいこと、などが重視される。これらの点から、本発明における基材としては、高分子素材単繊維やその集合体である織布や不織布、またはそれらの加工品などが好ましい。更に、これらの形態の高分子は、表面積が大きく、ヨウ素の除去速度を大きくすることができる。また、織布/不織布基材などには、それ自体で濾過機能等を有するものがあり、このような機能を有する基材に所定の官能基を導入することによって、ヨウ素の除去材としてだけでなく、微粒子等も同時に除去することができるので、複合機能材料を形成することができる。また、織布/不織布材料は、放射線グラフト重合用の基材として好適に用いることができ、また軽量でフィルタ状に加工することが容易である。
【0013】本発明に係るヨウ素除去フィルタにおいては、上記のような有機高分子基材の主鎖上に、少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基とを有するグラフト重合体側鎖が導入されている。上記に示すように、ヨウ素(I2)、ヨウ化水素酸(HI)、ヨウ化メチル(CH3I)の3種類の形態を取る放射性ヨウ素を1級〜3級アミノ基及び4級アンモニウム基のアニオン交換基を有するイオン交換体を用いて吸着除去しようとする場合、ヨウ化水素酸及びヨウ化メチルのイオン性物質(酸性ガス)は、上記いずれのアニオン交換基によっても吸着除去できるが、非イオン性物質であるヨウ化メチルは3級アミノ基でしか吸着除去することができない。これは3級アミノ基が4級アンモニウム化してCH3Iと結合するという反応機構によるものである。一方、1級〜3級アミノ基はいずれも弱塩基性アニオン交換基であり、イオン性物質(酸性ガス)に対する吸着能は有しているものの、その吸着力が弱く、これらの基のみではヨウ素やヨウ化水素酸の除去速度が遅くなってしまい、実用には問題がある。そこで、本発明者は、有機高分子基材上のグラフト重合体側鎖に、3級アミノ基と、強塩基性アニオン交換基である4級アンモニウム基とを混在させることにより、ヨウ化メチルに対する除去能と、ヨウ素及びヨウ化水素酸に対する優れた除去力の両方を確保することができることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0014】即ち、本発明に係るヨウ素除去フィルタにおいて、グラフト重合体側鎖上に存在する少なくとも1つの3級アミノ基は、ヨウ化メチルの形態のヨウ素を吸着除去する機能を有し、少なくとも1つの4級アンモニウム基は、ヨウ素及びヨウ化水素酸の形態のヨウ素を迅速に吸着除去するという機能を有している。
【0015】本発明において、少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基とを有するグラフト重合体側鎖を有機高分子基材の主鎖上に導入する手段としては、少なくとも1つの3級アミノ基を有する重合性モノマーと、少なくとも1つの4級アンモニウム基を有する重合性モノマーとを混合して、高分子基材に対してグラフト重合を行う方法と、或いは、3級アミノ基及び4級アンモニウム基に変換可能な官能基を有する重合性モノマーをまず高分子基材に対してグラフト重合し、次に3級アミノ化用の薬品と4級アンモニウム化用の薬品とを混合して反応させる方法とが考えられる。前者の例を挙げると、3級アミノ基を有する重合性モノマーとして、ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなど、4級アンモニウム基を有する重合性モノマーとして、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの4級アンモニウム化物などを用い、これらを混合してグラフト重合を行うことによって、本発明に係る、有機高分子基材の主鎖上に少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基とを有するグラフト重合体側鎖を有する素材を得ることができる。また、後者の例を挙げると、重合性モノマーとして、スチレン、クロロメチルスチレン、メタクリル酸グリシジルなどを用いてグラフト重合を行って、有機高分子基材の主鎖上にグラフト重合体側鎖を形成した後に、3級アミノ化薬品としてジメチルアミンと、4級アンモニウム化薬品としてトリメチルアミンとの混合物を反応させることにより、容易に3級アミノ基及び4級アンモニウム基を導入することができる。更には、別法として、例えばまずグラフト重合体側鎖に3級アミノ基のみを導入した後に、一部の3級アミノ基を4級アンモニウム化することによっても、本発明に係る、有機高分子基材の主鎖上に少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基とを有するグラフト重合体側鎖を有する素材を得ることができる。例えば、高分子基材にメタクリル酸グリシジルをグラフト重合し、ジメチルアミンで3級アミノ化を行った後に、塩化ベンジルなどを用いて3級アミノ基の一部を4級アンモニウム化することができる。
【0016】なお、本発明に係るヨウ素除去フィルタは、少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基以外に、更に1以上の1級〜3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム基を有していてもよく、その製造において用いる薬剤としても、上記に示した基に加えて更に1以上のアミノ基やアンモニウム基を有していてもよい。
【0017】本発明において、有機高分子基材の主鎖上に、グラフト重合体側鎖を導入する手段としては、放射線グラフト重合法を好ましく用いることができる。放射線グラフト重合法は、有機高分子基材に放射線を照射してラジカルを生成させ、それにグラフトモノマーを反応させることによって、所望のグラフト重合体側鎖を基材に導入することのできる方法であり、グラフト鎖の数や長さを比較的自由にコントロールすることができ、また、各種形状の既存の高分子材料に重合体側鎖を導入することができるので、本発明の目的のために用いるのに最適である。
【0018】本発明の目的のために好適に用いることのできる放射線グラフト重合法において、用いることのできる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができるが、本発明において用いるのにはγ線や電子線が適している。放射線グラフト重合法には、グラフト用基材に予め放射線を照射した後、重合性単量体(グラフトモノマー)と接触させて反応させる前照射グラフト重合法と、基材とモノマーの共存下に放射線を照射する同時照射グラフト重合法とがあるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。また、モノマーと基材との接触方法により、モノマー溶液に基材を浸漬させたまま重合を行う液相グラフト重合法、モノマーの蒸気に基材を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、基材をモノマー溶液に浸漬した後、モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法などが挙げられるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。
【0019】上述したように、繊維や繊維の集合体である織布/不織布は本発明のヨウ素除去フィルタを製造するための有機高分子基材として用いるのに適した素材であるが、これはモノマー溶液を保持し易いので、含浸気相グラフト重合法において用いるのに適している。
【0020】更に、本発明のより好ましい態様においては、ハロゲン化アルキル基をベンゼン環上にもつスチレン系化合物を用いてグラフト重合体側鎖を形成し、これに、少なくとも2つの3級アミノ基を有するポリアミン化合物を反応させることによって、本発明に係る、有機高分子基材の主鎖上に少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基とを有するグラフト重合体側鎖を有する素材を得ることができる。即ち、本発明の好ましい態様は、上述のヨウ素除去フィルタであって、高分子素材が、有機高分子基材の主鎖上に、ハロゲン化アルキル基をベンゼン環上にもつスチレン系化合物から誘導されたグラフト重合体側鎖を有し、該グラフト重合体側鎖上に、少なくとも2つの3級アミノ基を有するポリアミン化合物から誘導される官能基が導入されているものであることを特徴とするヨウ素除去フィルタに関する。なお、このポリアミン化合物についても、上記に説明したのと同様に、少なくとも2つの3級アミノ基を有していればよく、それ以外に更に1以上の1級〜3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム基を有していてもよい。
【0021】以下、この本発明のより好ましい態様について説明する。なお、以下の説明において、「ハロゲン化アルキル基をベンゼン環上にもつスチレン系化合物」は、便宜上、「ハロゲン化アルキル置換スチレン」と称する。
【0022】本発明のより好ましい態様に係るヨウ素除去フィルタは、上記に説明したような有機高分子基材の主鎖上に、ハロゲン化アルキル置換スチレンから誘導されるグラフト重合体側鎖を形成し、その側鎖上にアニオン交換基が導入されている高分子素材を具備することを特徴とする。
【0023】本発明のより好ましい態様に係るヨウ素除去フィルタにおいて、有機高分子基材の高分子主鎖上に導入されるグラフト重合体側鎖は、ハロゲン化アルキル置換スチレンから誘導される。かかる重合体側鎖は、有機高分子基材の主鎖上にハロゲン化アルキル置換スチレンをグラフト重合することによって導入される。本発明のより好ましい態様において好ましく用いられるハロゲン化アルキル置換スチレンの一例としては、次式:【0024】
【化1】

【0025】で示されるハロゲン化n−アルキル置換スチレンを挙げることができる。中でも特に好ましく用いられるものとしては、次式:【0026】
【化2】

【0027】で示されるクロロメチルスチレンや、次式:【0028】
【化3】

【0029】で示されるブロモエチルスチレンが挙げられる。これらの中でも特にクロロメチルスチレンが好ましく用いられ、ポリアミン化合物の導入率を大きくすることができ、また化学的耐久性も大きい。更には、ビニル基とクロロメチル基とがパラ位に存在するp−クロロメチルスチレンを用いてヨウ素除去フィルタを形成すると、ヨウ素の除去性能に優れたフィルタを得ることができ、本発明の用途に最適である。
【0030】また、高分子基材に導入するグラフト重合体側鎖としては、ハロゲン化アルキル置換スチレンと他の重合性単量体との共グラフト重合体側鎖も採用することができる。例えば、クロロメチルスチレンとアクリルアミドのような親水性の重合性単量体を、有機高分子基材に共グラフト重合することにより、基材に他の機能を付与したり、ポリアミン化合物の導入率を高くすることができる。
【0031】本発明のより好ましい態様に係るヨウ素除去フィルタにおいては、上記のようにして導入されたグラフト重合体側鎖を有する有機高分子基材に、少なくとも2つの3級アミノ基を有するポリアミン化合物を反応させることによって、かかるポリアミン化合物から誘導される官能基がグラフト重合体側鎖上に導入されている。本発明のかかる態様において用いることのできるポリアミン化合物としては、例えば、次式:【0032】
【化4】

【0033】で表されるトリエチレンジアミン、次式:【0034】
【化5】

【0035】で表される1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデ−7−エン(以下、通称に従って「ジアザビシクロウンデセン」と称する)、次式:【0036】
【化6】

【0037】で表されるヘキサメチレンテトラミンなどのような環状又は多環式ポリアミンなどを特に好ましいものとして挙げることができる。特に上記の化学式に示すもので例示されるポリアミン化合物は、ブリッジヘッドと呼ばれる孤立電子対を有し、反応性に富む。したがって、4級アンモニウム化が容易な上に、グラフト重合体側鎖との結合に供されなかったアミノ基も非常に反応性に富んでいる。
【0038】ハロゲン化アルキルスチレンから誘導されたグラフト重合体側鎖に、少なくとも2つの3級アミノ基を有するポリアミン化合物を反応させると、3級アミノ基の1つが4級アンモニウム化されて、この部位で結合が起こる。しかしながら、ポリアミン化合物中に含まれる他の3級アミノ基(及び、ポリアミンがこれ以外にも更に1以上の1級〜3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム基を有している場合にはこれらの基)は未反応のままとなる。即ち、ハロゲン化アルキルスチレン1分子に対して少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基、並びに場合によっては更に1級〜2級アミノ基が共に導入される。したがって、得られる高分子素材は、2種類以上の官能基を有しており、ヨウ素除去フィルタとして、化学形態の異なるヨウ素に対して同時除去性能を示す。
【0039】従来のビーズ状のイオン交換樹脂においてもポリアミン化合物を導入することは可能であるが、導入率やイオン交換容量の増加率が本発明にかかるグラフト重合体側鎖を有する有機高分子基材と比べてかなり小さかった。これは、ビーズ状のイオン交換樹脂では、基材の架橋構造のためにポリアミン化合物が樹脂の内部にまで進入しづらいことや、ポリアミン化合物自体が架橋してしまうためであると考えられる。これに対して、本発明に係る高分子素材においては、有機高分子基材のグラフト重合体側鎖にポリアミン化合物を導入しているので、ポリアミン化合物が導入された部位がより大きな電荷を有してお互いに反発するために、グラフト重合体側鎖間の距離が広がって、ポリアミン化合物が進入しやすくなるためであると考えられる。このため、ポリアミン化合物の導入率が大きくなるばかりでなく、架橋も生じにくく、非常に大きなイオン交換容量を有するイオン交換体を得ることができる。なお、従来のビーズ状のイオン交換樹脂では、イオン交換基の導入に伴う母材の物理的強度の劣化を補うために高分子主鎖同士を架橋しているが、本発明にかかる高分子素材においては、有機高分子基材の高分子主鎖上に、アニオン交換基を含む重合体鎖の形態の側鎖を配置させることによって、高分子主鎖の物理的強度をそのまま保持しながら、高いアニオン交換容量を基材に付与することが可能となった。なお、本発明に係る高分子素材においては、主鎖が物理的強度の維持や形状の保持の役割を担う。
【0040】本発明に係るヨウ素除去フィルタは、ヨウ素除去装置におけるヨウ素除去素材として用いることができる。即ち、本発明の更なる態様は、ヨウ素除去素材として、上記に記載の本発明に係るヨウ素除去フィルタを用いたヨウ素除去装置に関する。かかるヨウ素除去装置は、放射性ヨウ素である129Iや131Iが放出される可能性のある、原子力発電所又は核燃料再処理設備における排気ダクトに取り付けることができる。
【0041】また、本発明に係るヨウ素除去装置は、ヨウ素除去剤として、活性炭、活性炭素繊維、薬剤添着活性炭、薬剤添着活性炭素繊維、ゼオライト、薬剤添着ゼオライト、シリカゲル、薬剤添着シリカゲルなどを用いる従来のヨウ素除去装置と組み合わせて用い、従来のヨウ素除去装置を設置したダクトの下流側に本発明に係るヨウ素除去装置を配置することができる。このような複合装置を構成すると、1段目のヨウ素除去装置(従来のヨウ素除去装置)から流出するヨウ素を本発明に係るヨウ素除去フィルタで完全に除去することができ、従来のヨウ素除去剤の十分でない除去性能を補って、安全性を更に向上させることができる。
【0042】また、本発明に係るヨウ素除去フィルタは、マスク又は防護装置の表面又は内部に組み込んで用いることもできる。
【0043】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係るヨウ素除去フィルタは、高分子素材の有機高分子基材の主鎖上に、少なくとも1つの3級アミノ基と少なくとも1つの4級アンモニウム基とを有するグラフト重合体側鎖を有することを特徴としており、ヨウ素(I2)、ヨウ化水素酸(HI)、ヨウ化メチル(CH3I)の種々の形態のヨウ素を同時に除去することができる。また、物理的強度が高く、空気中のみならず水中においてもヨウ素を除去することができる。したがって、本発明に係るヨウ素除去フィルタ及びヨウ素除去装置を用いれば、原子力発電所、核燃料再処理設備等の原子力関連施設から放出される可能性のある放射性ヨウ素を効率よく除去することができ、これらの施設内作業における放射性ヨウ素に起因する被爆の防止、及び施設外への放射性ヨウ素の放出を排除することができる。また、本発明のより好ましい態様によれば、グラフト重合体側鎖上に、少なくとも2つの3級アミノ基を有するポリアミン化合物から誘導される官能基が導入されているので、素材の強度を低下させることなくアニオン交換基の導入率を高くすることができ、除去性能をより一層増大させることができる。更に、従来の手法ではアミン導入率を高めるとアミン臭が激しくなるという問題があったが、本発明はこの問題をも解決する。これは、本発明で用いている1分子中に2個以上の3級アミノ基を有する化合物は、官能基の数が多くなるほど沸点が高く、蒸気圧が低くなるため、アミン臭の発生が抑えられるためであると考えられる。更に、本発明に係るヨウ素除去フィルタは、焼却等の処理が簡単で、より軽量かつ安価にヨウ素除去材を得ることができる。
【0044】以下、本発明の実施の種々の形態例を、図面を参照しながら説明する。これらの記載は、本発明を限定するものではない。
【0045】
【実施例】実施例1ヨウ素除去フィルタの製造高分子基材として、繊維径約17μmのポリエチレン(鞘)/ポリプロピレン(芯)の複合繊維よりなる目付55g/m2、厚さ0.35mmの熱融着不織布を用いた。この不織布基材に、電子線を窒素雰囲気中で150kGy照射した。クロロメチルスチレン(セイミケミカル社製、商品名:CMS−AM)を活性アルミナ充填層に通液することにより重合禁止剤を取り除いた後、窒素曝気して脱酸素を行った。このクロロメチルスチレン溶液中に、照射済みの不織布基材を浸漬し、50℃で6時間反応させた。溶液から不織布を取り出し、トルエンに3時間浸漬してホモポリマーを除去した。乾燥した後に重量増加に基づいてグラフト率を算出したところ、161%であった。
【0046】このグラフト不織布を、トリエチレンジアミンの10%水溶液中に浸漬し、80℃で3時間反応させた。反応後の不織布基材を水洗した後、5%水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬して再生した。得られた不織布の中性塩分解容量及び総交換容量は、それぞれ1.67meq/g、3.43meq/gであった。即ち、中性塩分解能力のある4級アンモニウム基は1.67meq/g、未反応の3級アミノ基は総交換容量と中性塩分解容量との差である1.76meq/gであった。したがって、4級アンモニウム基と3級アミノ基の量がほぼ等しいことから、トリエチレンジアミンが架橋されずに導入されたことが分かる。また、重量変化から、グラフト重合したクロロメチルスチレンに対するポリアミンの導入率を算出したところ94%と高い導入率であった。
【0047】この不織布を、水酸化ナトリウム溶液で再生し、乾燥した後、チャック付きのポリ袋に入れて保管した。1カ月後に袋を開封したが、全くアミン臭が観じられなかった。
【0048】ヨウ化メチルの除去試験上記で得られたアニオン交換不織布を5cm角に切断し、50Lのテドラバッグ内に入れた。次に、ヨウ化メチルを約50ppmの濃度となるようにマイクロシリンジでテドラバックに注入した後、テドラバック内のヨウ化メチル濃度の経時変化を調べた。結果を表1に示す。未処理の不織布基材を用いた場合の結果も併記した。表1の結果より、本発明のヨウ素除去フィルタは、空気中のヨウ化メチルを除去する能力が高いことが分かった。ヨウ化メチルは、各種形態のヨウ素の中でも最も除去しづらいものであり、本発明のヨウ素除去フィルタの優れた性能が示された。
【0049】
【表1】

【0050】ヨウ素の除去試験上記のヨウ化メチル除去試験終了済のフィルタを、別の50Lテドラバック内に封入した。次に、テドラバック内にヨウ素(I2)の蒸気を約50ppmの濃度となるように注入し、1時間後にヨウ素の存在を確認したところ、ヨウ素は全く検出されなかった。なお、ヨウ素の検出は、別のアニオン交換不織布にヨウ化ナトリウムを含浸させたものをテドラバック内に配置して、その黄変の有無を視認することによって行った。未処理の不織布基材を用いて同様の試験を行ったところ、アニオン交換不織布は1時間後も黄変し、ヨウ素の存在が確認された。この結果から、本発明のヨウ素除去フィルタは、空気中のヨウ素を除去する能力にも優れていることが分かった。
【0051】実施例2実施例1で製造したクロロメチルスチレングラフト不織布を、トリメチルアミン5%、ジメチルアミン5%の混合水溶液に浸漬し、50℃で4時間反応させてアミノ化したところ、中性塩分解容量1.03meq/g、総交換容量2.23meq/gの、3級アミノ基と4級アンモニウム基とを有するアニオン交換不織布が得られた。この不織布を水酸化ナトリウム水溶液で再生し、乾燥した。
【0052】このアニオン交換不織布を用いて、実施例1と同様に、ヨウ化メチル及びヨウ素(I2)の除去試験を行った。ヨウ化メチル除去試験では、1.5時間後にテドラバック内のヨウ化メチルが検出されなかった。また、ヨウ素(I2)の除去試験においては、1時間後にヨウ素は検出されなかった。いずれの形態のヨウ素についても高い除去性能が認められた。
【0053】実施例3実施例1で製造したクロロメチルスチレングラフト不織布を、ジメチルアミン10%水溶液に浸漬し、50℃で4時間反応させてアミノ化したところ、総交換容量2.96meq/gの、3級アミノ基を有する弱塩基性アニオン交換不織布が得られた。この不織布を、ヨウ化メチル溶液に浸漬して30℃で25分間反応させることによって、3級アミノ基の一部を4級アンモニウム化した。この結果、中性塩分解容量1.12meq/gの、強塩基性アニオン交換基(4級アンモニウム基)と弱塩基性アニオン交換基(3級アミノ基)とが共存するアニオン交換不織布が得られた。この不織布を水酸化ナトリウム水溶液で再生し、乾燥した。
【0054】このアニオン交換不織布を用いて、実施例1と同様に、ヨウ化メチル及びヨウ素(I2)の除去試験を行った。実施例1とほぼ同等の結果が得られ、いずれの形態のヨウ素についても高い除去性能が認められた。
【0055】比較例1実施例1で製造したクロロメチルスチレングラフト不織布をトリメチルアミン10%水溶液に浸漬し、50℃で4時間反応させてアミノ化して、中性塩分解容量2.23meq/gの、アニオン交換基として4級アンモニウム基のみを有する強塩基性アニオン交換不織布を得た。この不織布を水酸化ナトリウム水溶液で再生し、乾燥した。
【0056】このアニオン交換不織布を用いて、実施例1と同様にヨウ化メチル及びヨウ素(I2)の除去試験を行った。ヨウ化メチル除去試験では、1.5時間後にテドラバック内にヨウ化メチルが32ppm検出され、除去効率が極めて悪かった。
【出願人】 【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
【出願日】 平成13年5月25日(2001.5.25)
【代理人】 【識別番号】100089705
【弁理士】
【氏名又は名称】社本 一夫 (外5名)
【公開番号】 特開2002−350588(P2002−350588A)
【公開日】 平成14年12月4日(2002.12.4)
【出願番号】 特願2001−156944(P2001−156944)