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【発明の名称】 音声認識システム
【発明者】 【氏名】瀬尾 尋

【氏名】駒村 光弥

【氏名】外山 聡一

【要約】 【課題】乗法性歪と加法性雑音に対してロバストな音声認識システムを提供する。

【解決手段】乗法性歪を有する音声HMM10と加法性雑音の初期雑音HMM17から、初期合成HMM16を生成すると共に、ヤコビアン行列算出部19によりヤコビアン行列〔J〕ijを算出しておく。実際に発話された発話音声から求めた乗法性歪の推定値Ha^(cep)と、非発話期間に得られる加法性雑音Na(cep)と、初期雑音HMM17の加法性雑音Nm(cep)とを合成した雑音変動分Namh(cep)にヤコビアン行列を乗算し、その乗算結果と初期合成HMM16を合成して、適応HMM26を生成する。こうすることにより、実際の発話音声から生成される観測値系列RNa(cep)と整合性のとれた適応HMM26を予め生成しておくことができ、観測値系列RNa(cep)と適応HMM26とを照合して音声認識を行う際に、乗法性歪と加法性歪の影響を相殺して、クリーンな音声だけで音声認識を行ったのと等価な効果が得られ、ロバストな音声認識システムが実現される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 予め収集した乗法性歪を含んだ音声から生成された音声モデルと、予め収集した加法性雑音から生成された雑音モデルと、前記音声モデルに含まれる前記乗法性歪を推定する第1の推定手段と、前記音声モデルと、前記第1の推定手段で推定された前記乗法性歪の第1の推定値と、前記雑音モデルの加法性雑音とを合成処理することによって得られる雑音付加音声に基づいて生成された合成音声モデルと、前記雑音モデルの加法性雑音と前記雑音付加音声とからヤコビアン行列を算出する算出手段と、発話音声に含まれる乗法性歪を推定する第2の推定手段と、非発話期間に生じる加法性雑音と、前記雑音モデルの加法性雑音と、前記第2の推定手段で推定された前記乗法性歪の第2の推定値とを合成処理することで雑音変化分を求めると共に、前記雑音変化分に前記算出手段で算出されたヤコビアン行列を乗算する第1の演算手段と、前記演算手段の求めた乗算結果と前記合成音声モデルとを合成処理することによって生成された適応モデルと、発話音声と前記第2の推定手段で推定された前記乗法性歪の第2の推定値とを合成処理することにより観測値系列を生成する第2の演算手段とを備え、前記観測値系列と前記適応モデルとを照合することにより音声認識を行うことを特徴とする音声認識システム。
【請求項2】 前記演算手段は、ケプストラム領域において、前記加法性雑音から、前記雑音モデルの加法性雑音と、前記第2の推定手段で推定された前記雑音の第2の推定値とを減算することにより、前記合成処理を行うことを特徴とする請求項1記載の音声認識システム。
【請求項3】 予め収集した乗法性歪を含んだ音声から生成された音声モデルと、予め収集した加法性雑音から生成された雑音モデルと、前記音声モデルに含まれる前記乗法性歪を推定する第1の推定手段と、認識結果に基づいて前記音声モデルに含まれる発話音声毎の誤差を含んだ前記乗法性歪を推定する第2の推定手段と、前記雑音モデルの加法性雑音と前記第1の推定手段で推定された前記乗法性歪に第1の推定値を合成する第1の演算手段と、前記第1の演算手段の合成結果と前記音声モデルとを合成処理することによって得られる雑音付加音声に基づいて生成された合成音声モデルと、前記第1の演算手段の合成結果と前記雑音付加音声とからヤコビアン行列を算出する算出手段と、発話音声に含まれる発話音声毎の誤差を含んだ乗法性歪を推定する第3の推定手段と、非発話期間に生じる加法性雑音と、前記第1の演算手段の合成結果と、前記第2の推定手段で推定された前記発話音声毎の誤差を含んだ前記乗法性歪の第2の推定値と、前記第3の推定手段で推定された前記発話音声毎の誤差を含んだ前記乗法性歪の第3の推定値とを合成処理することで雑音変化分を求めると共に、前記雑音変化分に前記算出手段で算出されたヤコビアン行列を乗算する第2の演算手段と、前記第2の演算手段の求めた乗算結果と前記合成音声モデルとを合成処理することによって生成された適応モデルと、発話音声と前記第3の推定手段で推定された前記発話音声毎の誤差を含んだ前記乗法性歪の第3の推定値とを合成処理することにより観測値系列を生成する第3の演算手段とを備え、前記観測値系列と前記適応モデルとを照合することにより音声認識を行うことを特徴とする音声認識システム。
【請求項4】 前記演算手段は、ケプストラム領域において、前記加法性雑音に対し、前記第2の推定手段で推定された前記発話音声毎の誤差を含んだ前記乗法性歪の第2の推定値を加算すると共に、前記第1の演算手段の合成結果と前記第3の推定手段で推定された前記発話音声毎の誤差を含んだ前記乗法性歪の第3の推定値とを減算することにより、前記合成処理を行うことを特徴とする請求項3記載の音声認識システム。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、雑音や、伝送系等の歪みに対してロバスト(頑健)な音声認識システムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、例えば車載用ナビゲーション装置等の電子機器では、マンマシンコニュニケーション等を可能にする音声認識システムが注目され、図3に示すような情報処理アルゴリズムに基づいて構成された音声認識システムが知られている。
【0003】この音声認識システムは、隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model:HMM)を用いて単語やサブワード(音素、音節など)単位の音響モデル(音声HMM)を予め生成しておき、認識すべき音声Raが発話されると、その発話音声Raのケプストラムの時系列である観測値系列Ra(cep)を生成して、観測値系列Ra(cep)と音声HMMとを照合し、最大尤度を与える音声HMMを選んでこれを認識結果として出力する。
【0004】より具体的に述べると、この音声認識システムには、HMM法によって上記の音声HMMを生成する音声HMM生成部5が備えられ、この音声HMM生成部5は、音声データベース1とフレーム化部2とケプストラム演算部3及び学習部4を備えて構成されている。
【0005】音声データベース1に実験的に収集して記憶しておいた被験者の大量の音声データRmをフレーム化部2が10〜20msec程度のフレーム単位に区分けし、各フレーム単位のデータをケプストラム演算部3が順次にケプストラム(Cepstrum)演算することにより、ケプストラムの時系列Rm(cep)を求める。
【0006】更に、学習部4がこのケプストラムの時系列Rm(cep)を音声の特徴量(特徴ベクトルとする)として学習処理し、音響モデル(音声HMM)のパラメータに反映させることで、単語やサブワード単位の音声HMM6を予め生成している。
【0007】実際に発話が行われると、その発話音声のデータRaをフレーム化部7がフレーム化部2と同様のフレーム単位で区分けして入力し、各フレーム単位の発話音声データをケプストラム演算部8が順次にケプストラム演算することによってケプストラムの時系列である観測値系列Ra(cep)を生成する。
【0008】そして、照合部9が観測値系列Ra(cep)と音声HMM6とを単語やサブワード単位で照合し、観測値系列Ra(cep)と最も尤度の高い音声HMMを音声認識結果として出力する。
【0009】ところが、図3の音声認識システムでは、音声HMM6を生成するための音声データRmを収集する際、マイクロフォンや電気伝送系等における乗法性歪の影響を受けた音声データRmが収集されてしまい、精度の良い音声HMM6を生成することが困難になるという問題があった。
【0010】更に、認識すべき発話音声Raが発話された際、室内雑音や背景雑音等の加法性雑音と、口元からマイクロフォンまでの空間的伝達特性、マイクロフォンや電気伝送系等における乗法性歪などが観測値系列Ra(cep)に悪影響を及ぼすことになり、音声認識率の低下を招来するという問題があった。
【0011】こうした問題のため、加法性雑音と乗法性歪の影響を受け難い音声認識システム、すなわちロバスト(robust)な音声認識システムの構築が重要な課題となっていた。
【0012】本願発明者は、上記のような課題に対処すべく、加法性雑音に対してはHMM合成法、乗法性歪に対してはケプストラム平均正規化法(Cepstrum Mean Normalization:CMN)を適用することにより、ロバストな音声認識システムの実現を試みた。
【0013】図4は、その音声認識システムの構成を示すブロック図である。この音声認識システムは、音声HMM10と初期雑音HMM17と初期合成HMM16及び適応HMM26を備え、認識すべき音声が発話されると、その発話音声から求めたケプストラム時系列である観測値系列RNa(cep)と適応HMM26とを単語やサブワード単位で照合部29が照合し、観測値系列RNa(cep)と最も尤度の高い適応HMMを音声認識結果として出力する。
【0014】更に、HMM合成法を適用すると演算量が多くなることから、その演算量を削減して処理の高速化を実現するために、テイラー展開に基づくモデル適応法が用いられている。すなわち、ヤコビアン行列Jと呼ばれるテイラー展開の一次微係数行列を算出するヤコビアン行列算出部19を設けることによって、演算量の削減を行うこととしている。
【0015】上記の音声HMM10は、実験的に収集した加法性雑音を含まない発話音声Rmを用いてHMM法により予め生成される音響モデルである。すなわち、音声HMM10は、図3に示した音声HMM生成部5と同様なHMM法の処理によって予め生成されている。
【0016】尚、無響室内などで被験者の発話音声Rmを実験的に収集することにより、加法性雑音の影響の無い音声HMM10を生成しているが、マイクロフォンや電気伝送系等における乗法性歪の影響は除去されないため、音声HMM10は乗法性歪の影響が残された音響モデルとなっている。
【0017】したがって、実験的に収集した発話音声Rmを、クリーンな音声(加法性雑音及び乗法性歪を有さない音声)Smと乗法性歪Hmとからなるものとして、線形スペクトル領域(lin)で表記すれば、クリーンな音声Smと乗法性歪Hmとの線形スペクトルの積Rm(lin)=Sm(lin)Hm(lin)で表され、また、ケプストラム領域(cep)で表記すれば、クリーンな音声Smと乗法性歪Hmとのケプストラムの和Rm(cep)=Sm (cep)+Hm(cep)で表される。
【0018】更に、音声HMM10を線形スペクトル領域(lin)で表せば、Rm(lin)=Sm(lin)Hm(lin)で表され、また、ケプストラムル領域(cep)で表せば、Rm(cep)=Sm (cep)+Hm(cep)で表される。
【0019】上記の初期雑音HMM17は、非音声区間の音(加法性雑音に相当する)を初期雑音データNmとして収集し、その初期雑音データNmを用いて学習される音響モデルであり、図3に示した音声HMM生成部5と同様な処理によって予め生成されている。したがって、初期雑音HMM17を線形スペクトル領域(lin)で表せばNm(lin)となり、また、ケプストラム領域(cep)で表せば、Nm(cep)となっている。
【0020】初期合成HMM16は、次の処理によって生成されている。音声HMM10から平均演算部11と減算器12へ、ケプストラム領域(cep)での音声(音響モデル)Rm(cep)=Sm(cep)+Hm(cep)を供給し、平均演算部11がCMN法によって、音響モデル学習用の音声データベース内の特徴ベクトルを平均することや音声HMMの平均ベクトルの平均をとること等によって乗法性歪の推定値Hm^(cep)を求めて、減算器12へ供給するようになっている。これにより、減算器12では、Rm(cep)−Hm^(cep)の演算が行われ、乗法性歪の推定値Hm^(cep)が除かれた音声Sm'(cep)を出力する。
【0021】ここで、推定値Hm^(cep)と乗法性歪Hm(cep)とがほぼ等しいと近似することで、乗法性歪の無い音声Sm'(cep)が得られたとしている。
【0022】次に、逆ケプストラム変換部13がケプストラム領域の音声Sm'(cep)を線形スペクトル領域の音声Sm'(lin)に変換して加算器14に供給すると共に、逆ケプストラム変換部18が初期雑音HMM17から出力されるケプストラム領域の初期雑音(初期雑音の音響モデル)Nm(cep)を線形スペクトル領域の初期雑音Nm(lin)に変換して加算器14に供給する。これにより、加算器14は、線形スペクトル領域の音声Sm'(lin)と合成雑音Nm(lin)とを加算することにより、加法性雑音付加音声Rm'(lin)=Sm'(lin)+Nm(lin)を生成し、ケプストラム変換部15に供給する。
【0023】そして、ケプストラム変換部15が加法性雑音付加音声Rm'(lin)をケプストラム領域の加法性雑音付加音声Rm'(cep)に変換し、初期合成HMM16を生成することとしている。
【0024】従って、初期合成HMM16は、加法性雑音付加音声Rm'(cep)によって特徴付けられた音響モデルとなっており、次式(1)のように表される。
【0025】
【数1】

尚、上記式(1)中の、cep〔 〕は、ケプストラム変換部15で行われるケプストラム変換、cep-1〔 〕は、逆ケプストラム変換部13,18で行われる逆ケプストラム変換を表している。
【0026】次に、ヤコビアン行列算出部19の機能を説明する。上記したように、演算量を削減するために、ヤコビアン行列算出部19が設けられており、実使用環境における加法性雑音Na(cep)と初期雑音HMM17からの初期雑音のスペクトルNm(cep)との間の変動ΔNm(cep)=Na(cep)−Nm(cep)は小さいと仮定し、テイラー展開を用いてその雑音スペクトルの変動分ΔNm(cep)に対応する合成モデルの変動分を求め、求めた変動分に応じて初期合成モデル16を補償し、その補償によって求めた音響モデルを適応HMM26としている。
【0027】より詳細に述べれば、仮に、乗法性歪及び加法性雑音を含まないクリーンな音声Smの線形スペクトルをSm(lin)、乗法性歪は重畳しないが加法性雑音の重畳した音声Rmの線形スペクトルをRm(lin)、加法性雑音Nmの線形スペクトルをNm(lin)とすると、線形スペクトルRm(lin)は、【数2】

となる。更に、加法性雑音の重畳した音声Rmをケプストラム領域で表すと、【数3】

となる。ここで、IDCT〔 〕は、離散逆コサイン変換、DCT〔 〕は、離散コサイン変換、log( )は、対数変換、exp( )は、指数変換である。
【0028】上記式(3)において、仮にクリーンな音声Smは変動せず、加法性雑音NmがNaに変動した場合の音声Rmcを考えることとし、その音声RmcとRmとのケプストラム領域での変動ΔRm(cep)と、変動後の音声のケプストラムRmc(cep)をテイラー展開の一次微分項のみで見ると、次式(4),(5)の関係が得られる。
【数4】

【数5】

【0029】そこで、ヤコビアン行列算出部19は、テイラー展開の一次微係数J=∂Rm(cep)/∂Nm(cep)に、加算器14からの線形スペクトル領域の加法性雑音付加音声Rm'(lin)と逆ケプストラム変換部18からの線形スペクトル領域の初期雑音Nm(lin)とをそれぞれケプストラム領域に変換して適用することにより、次式(6)で表されるi行j列のヤコビアン行列〔J〕ijを予め算出しておき、実際の発話環境で生じる加法性雑音のモデルに基づいて初期合成HMM16を適応的に補償して適応HMM26を生成する際に、加法性雑音の変動分にヤコビアン行列〔J〕ijを乗算するだけで、合成モデルの変動分が求まり、この合成モデルの変動分を初期合成モデルに加えることで適応モデルを簡単に生成することができるようにしている。
【0030】
【数6】

尚、上記式(6)中のFikは、コサイン変換行列、Fkj-1 は、逆コサイン変換行列である。
【0031】次に、適応HMM26の生成工程を説明する。この音声認識システムに設けられている発話開始スイッチ(図示省略)をユーザーがオン操作すると、マイクロフォン(図示省略)によって発話音声を収集すると共に、フレーム化部20が収集した発話音声のデータRaを所定時間毎にフレーム化し、更にケプストラム演算部21がケプストラム領域(cep)の発話音声データRa(cep)にして、音声認識の処理を行うようになっている。
【0032】まず、ユーザーが上記の発話開始スイッチをオン操作すると、実際に発話が開始されるまでの非発話期間内に、スイッチ素子22が接点a側に切り替わるようになっている。従って、ユーザーが発話しようとする環境内の背景雑音等(加法性雑音)NaのケプストラムNa(cep)がスイッチ素子22を介して減算器23に供給される。
【0033】減算器23は、背景雑音NaのケプストラムNa(cep)から初期雑音HmのケプストラムNm(cep)を減算し、その減算結果Na(cep)−Nm(cep)を掛け算器24に供給し、掛け算器24は、上記の減算結果Na(cep)−Nm(cep)にヤコビアン行列〔J〕ijを乗算し、その乗算結果J〔Na(cep)−Nm(cep)〕を加算器25に供給し、加算器25は、乗算結果J〔Na(cep)−Nm(cep)〕と初期合成HMM16の音響モデルRm^(cep)を単語やサブワード単位で加算する。これにより、実際の発話環境における背景雑音Naによって適応的に補償された適応HMM26が生成される。つまり、適応HMM26をケプストラム領域(cep)で表すと、【数7】

となる。尚、式(7)中のcep〔 〕はケプストラム変換を表している。
【0034】こうして、適応HMM26の生成が行われると、スイッチ素子22が接点b側に切り替わり、認識すべき発話音声Raをケプストラム領域の発話音声Ra(cep)として入力する。ここで、発話音声Raはクリーンな音声Saと乗法性歪Haと加法性雑音Naの各線形スペクトルSa(lin)とHa(lin)とNa(lin)の成分を含んでいるものとすると、ケプストラム領域の発話音声Ra(cep)は、Ra(cep)=cep〔Sa(lin)Ha(lin)+Na(lin)〕で表される。
【0035】そこで、平均演算部27がCMN法によって乗法性歪Ha(cep)の推定値Ha^(cep)を求め、減算器28が発話音声Ra(cep)から推定値Ha^(cep)を減算し、その減算結果Ra(cep)−Ha^(cep)を観測値系列RNa(cep)として照合部29に供給している。
【0036】そして、照合部29が、観測値系列RNa(cep)と適応HMM26とを単語やサブワード単位で照合し、観測値系列RNa(cep)と最も尤度の高い適応HMMを認識結果として出力する。すなわち、観測値系列RNa(cep)は、【数8】

となり、この式(8)で表される観測値系列RNa(cep)と上記式(7)で表される適応HMM26の特徴ベクトルRadp(cep)とを照合することで、音声認識を行っている。
【0037】
【発明が解決しようとする課題】ところで、図4に示した本願発明者が提案した音声認識システムでは、適応HMM26と発話音声の観測値系列RNa(cep)とを照合することで音声認識を行うことにしているが、適応HMM26が観測値系列RNa(cep)に対して適切な照合対象として未だ十分にモデル化されていないという問題があった。
【0038】すなわち、上記式(7)と(8)を対比すると、適応HMM26は、クリーンな音声の線形スペクトルSm(lin)に加法性雑音の線形スペクトルNa(lin)を加算し、それをケプストラム変換することで特徴付けられているのに対し、観測値系列RNa(cep)は、クリーンな音声の線形スペクトルSa(lin)に、加法性雑音の線形スペクトルNa(lin)と乗法性歪の線形スペクトルHa^(lin)との比Na(lin)/Ha^(lin)を加算し、それをケプストラム変換することで特徴付けられている。
【0039】したがって、適応HMM26は、乗法性歪の影響を除くことが可能な十分なモデルとはなっておらず、このため、適応HMM26と観測値系列RNa(cep)とを照合部29が照合した場合に、観測値系列RNa(cep)と最も尤度の高い適応HMM26を求めることができない場合が発生し、ひいては音声認識率の向上を図ることができなくなる場合があるという問題があった。
【0040】本発明は、上記従来の問題点を克服すると共に、加法性雑音と乗法性歪に対してロバストな音声認識システムを提供することを目的とする。
【0041】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本発明の音声認識システムは、予め収集した乗法性歪を含んだ音声から生成された音声モデルと、予め収集した加法性雑音から生成された雑音モデルと、上記音声モデルに含まれる上記乗法性歪を推定する第1の推定手段と、上記音声モデルと上記第1の推定手段で推定された上記乗法性歪の第1の推定値と上記雑音モデルの加法性雑音とを合成処理することによって得られる雑音付加音声に基づいて生成された合成音声モデルと、上記雑音モデルの加法性雑音と上記雑音付加音声とからヤコビアン行列を算出する算出手段と、発話音声に含まれる乗法性歪を推定する第2の推定手段と、非発話期間に生じる加法性雑音と、上記雑音モデルの加法性雑音と、上記第2の推定手段で推定された上記乗法性歪の第2の推定値とを合成処理することで雑音変化分を求めると共に、上記雑音変化分に上記算出手段で算出されたヤコビアン行列を乗算する第1の演算手段と、上記演算手段の求めた乗算結果と上記合成音声モデルとを合成処理することによって生成された適応モデルと、発話音声と上記第2の推定手段で推定された上記乗法性歪の第2の推定値とを合成処理することにより観測値系列を生成する第2の演算手段とを備え、上記観測値系列と上記適応モデルとを照合することにより音声認識を行うことを特徴とする。
【0042】かかる構成の音声認識システムによると、乗法性歪を有する音声モデルと、第1の推定手段で推定された雑音(乗法性歪)の第1の推定値と、雑音モデルの加法性雑音とを合成処理することによって雑音付加音声が生成され、その雑音付加音声から合成音声モデルが生成されている。
【0043】また、雑音変化分は、非発話期間に生じる加法性雑音と、雑音モデルの加法性雑音と、第2の推定手段で推定された雑音(乗法性歪)の第2の推定値とを合成処理することによって生成される。
【0044】また、ヤコビアン行列は、雑音モデルの加法性雑音と、雑音付加音声(すなわち、乗法性歪を有する音声モデルと、第1の推定手段で推定された雑音(乗法性歪)の第1の推定値と、雑音モデルの加法性雑音とを合成処理することによって求められる音声)とから算出される。
【0045】適応モデルは、雑音変化分とヤコビアン行列との乗算結果と、合成音声モデルとを合成処理することで生成される。すなわち、適応モデルは、合成音声モデルと雑音変化分とヤコビアン行列との情報を有するモデルとなる。
【0046】発話がなされると、第2の演算手段が、乗法性歪及び加法性歪みを含んだ発話音声に、上記第2の推定手段で推定された雑音(乗法性歪)の第2の推定値を合成処理することにより観測値系列を生成する。
【0047】そして、観測値系列と適応モデルとを照合することで音声認識が行われる。
【0048】ここで、観測値系列と照合される適応モデルは、観測値系列に含まれる雑音成分と整合性のとれた雑音成分が含まれる。このため、上記の観測値系列と適応モデルとの照合を行うと、雑音成分の影響を相殺して、音声モデルのクリーンな音声と発話されたクリーンな発話音声との照合を行ったのと同等の効果が得られる。このため、乗法性歪と加法性歪に対してロバストで、適切な音声認識が実現される。
【0049】また、上記目的を達成するため本発明の音声認識システムは、予め収集した乗法性歪を含んだ音声から生成された音声モデルと、予め収集した加法性雑音から生成された雑音モデルと、上記音声モデルに含まれる上記乗法性歪を推定する第1の推定手段と、認識結果に基づいて上記音声モデルに含まれる発話音声毎の誤差を含んだ上記乗法性歪を推定する第2の推定手段と、上記雑音モデルの加法性雑音と上記第1の推定手段で推定された上記乗法性歪に第1の推定値を合成する第1の演算手段と、上記第1の演算手段の合成結果と上記音声モデルとを合成処理することによって得られる雑音付加音声に基づいて生成された合成音声モデルと、上記第1の演算手段の合成結果と上記雑音付加音声とからヤコビアン行列を算出する算出手段と、発話音声に含まれる発話音声毎の誤差を含んだ乗法性歪を推定する第3の推定手段と、非発話期間に生じる加法性雑音と上記第1の演算手段の合成結果と上記第2の推定手段で推定された上記発話音声毎の誤差を含んだ上記乗法性歪の第2の推定値と上記第3の推定手段で推定された上記発話音声毎の誤差を含んだ上記乗法性歪の第3の推定値とを合成処理することで雑音変化分を求めると共に、上記雑音変化分に上記算出手段で算出されたヤコビアン行列を乗算する第2の演算手段と、上記第2の演算手段の求めた乗算結果と上記合成音声モデルとを合成処理することによって生成された適応モデルと、発話音声と上記第3の推定手段で推定された上記発話音声毎の誤差を含んだ上記乗法性歪の第3の推定値とを合成処理することにより観測値系列を生成する第3の演算手段とを備え、上記観測値系列と上記適応モデルとを照合することにより音声認識を行うことを特徴とする。
【0050】かかる構成の音声認識システムによると、適応モデルは、雑音変化分とヤコビアン行列との乗算結果と、合成音声モデルとを合成処理することで生成される。すなわち、適応モデルは、合成音声モデルと雑音変化分とヤコビアン行列との情報を有するモデルとなる。
【0051】そして、発話がなされると、第3の演算手段が、乗法性歪及び加法性歪みを含んだ発話音声に、上記第3の推定手段で推定された雑音(乗法性歪)の第3の推定値を合成処理することにより観測値系列を生成し、その観測値系列と適応モデルとを照合することで音声認識が行われる。
【0052】ここで、観測値系列と照合される適応モデルは、観測値系列に含まれる雑音成分と整合性のとれた雑音成分が含まれる。このため、上記の観測値系列と適応モデルとの照合を行うと、雑音成分の影響を相殺して、音声モデルのクリーンな音声と発話されたクリーンな発話音声との照合を行ったのと同等の効果が得られる。このため、乗法性歪と加法性歪に対してロバストで、適切な音声認識が実現される。
【0053】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。尚、図1は本発明の音声認識システムの第1の実施の形態の構成を示すブロック図、図2は第2の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【0054】まず、これら第1,第2の実施形態を説明するに当たり、符号の説明をする。
【0055】後述する音声HMM10を生成するために用いられる時間領域の音声をRm、初期雑音HMM17を生成するために用いられる時間領域の加法性雑音をNm、実際に発話された時間領域の発話音声をRaとする。
【0056】また、上記の音声Rmは、予め実験的に収集され、雑音を含まないクリーンな音声Smに乗法性歪Hmが重畳したものとする。また、発話音声Raは、雑音を含まないクリーンな発話音声Saに乗法性歪Haと加法性雑音Naが重畳したものとする。また、実際に発話が行われていないときの室内雑音等の背景雑音も符号Naで示すこととする。
【0057】更に、線形スペクトル領域の情報には(lin)、ケプストラム領域の情報には(cep)を付加して示すこととする。例えば、初期雑音HMM17の音響モデルのケプストラム領域での表記をNm(cep)、線形スペクトル領域での表記をNm(lin)のようにして示すこととする。
【0058】(第1の実施の形態)第1の実施形態を図1を参照して説明する。尚、図1中、図4と同一又は相当する部分を同一符号で示している。
【0059】この音声認識システムには、音声HMM10と、初期雑音HMM17、初期合成HMM16、適応HMM26及び、適応HMM26を生成する際の演算量を大幅に削減するためのヤコビアン行列算出部19が備えられ、認識すべき音声が発話されると、その発話音声から求めたケプストラム時系列である観測値系列RNa(cep)と適応HMM26とを単語やサブワード単位で照合部29が照合し、観測値系列RNa(cep)と最も尤度の高い適応HMMを音声認識結果として出力する。
【0060】音声HMM10は、実験的に収集した加法性雑音を含まない音声Rmを用いてHMM法により予め生成された音響モデルである。ただし、無響室内などで被験者の音声Rmを実験的に収集することにより、加法性雑音の影響の無い音声HMM10を生成しているが、マイクロフォンや電気伝送系等における乗法性歪の影響は除去されないため、音声HMM10は乗法性歪Hmの影響が残された音響モデルとなっている。
【0061】したがって、音声HMM10を線形スペクトル領域(lin)で表記すれば、クリーンな音声Smと乗法性歪Hmとの線形スペクトルSm(lin),Hm(lin)の積Rm(lin)=Sm(lin)Hm(lin)で表され、ケプストラム領域(cep)で表記すれば、クリーンな音声Smと乗法性歪HmとのケプストラムSm(cep),Hm(cep)の和Rm(cep)=Sm(cep)+Hm(cep)で表される。
【0062】初期雑音HMM17は、上記の実験によって非音声区間の音(加法性雑音に相当する)を初期雑音データNmとして収集し、その初期雑音データNmを用いてあらかじめ学習された音響モデルである。したがって、初期雑音HMM17を線形スペクトル領域(lin)で表せばNm(lin)となり、また、ケプストラム領域(cep)で表せばNm(cep)となっている。
【0063】初期合成HMM16は、音声HMM10と初期雑音HMM17との音響モデルを線形スペクトル領域で加算し、更にその加算結果をケプストラム領域の音響モデルに変換することによって予め生成されている。
【0064】つまり、実際に音声認識すべき音声が発話される前に、音声HMM10から平均演算部11と減算器12へ、ケプストラム領域(cep)での音声(音響モデル)Rm(cep)=Sm(cep)+Hm(cep)を供給し、平均演算部11がCMN法によって乗法性歪Hm(cep)の推定値Hm^(cep)を求め、更に、減算器12がRm(cep)−Hm^(cep)の演算を行うことによって、乗法性歪の推定値Hm^(cep)を除いた音声Sm'(cep)を生成する。更に、逆ケプストラム変換部13がケプストラム領域の音声Sm'(cep)を線形スペクトル領域の音声Sm'(lin)に変換すると共に、逆ケプストラム変換部18が初期雑音HMM17からのケプストラム領域の初期雑音(初期雑音の音響モデル)Nm(cep)を線形スペクトル領域の初期雑音Nm(lin)に変換し、更に、加算器14が線形スペクトル領域の音声Sm'(lin)と初期雑音Nm(lin)とを加算することにより、加法性雑音付加音声Rm'(lin)=Sm'(lin)+Nm(lin)を生成する。そして、ケプストラム変換部15が加法性雑音付加音声Rm'(lin)をケプストラム領域の加法性雑音付加音声Rm'(cep)に変換し、初期合成HMM16を生成する。
【0065】したがって、初期合成HMM16は、上記式(1)で表記されるように、加法性雑音付加音声Rm'(cep)によって特徴付けられた音響モデルとなっている。
【0066】ヤコビアン行列算出部19は、逆ケプストラム変換部18にて生成される初期雑音Nm(lin)と加算器14にて生成される加法性雑音付加音声Rm'(lin)とを入力し、これら線形スペクトル領域の初期雑音Nm(lin)と加法性雑音付加音声Rm'(lin)とをケプストラム領域に変換して上記式(6)に導入することにより、テイラー展開の一次微係数行列であるヤコビアン行列J=∂Rm'(cep)/∂Nm(cep)を各サブワード合成HMM毎に予め作成する。
【0067】適応HMM26は、本音声認識システムに設けられている発話開始スイッチ(図示省略)をユーザーがオン操作し、ユーザーが実際に発話を開始するまでにマイクロフォン(図示省略)で集音される加法性雑音に相当する背景雑音Naに応じて、初期合成HMM16を適応的に補償することによって生成される音響モデルであり、上記した実際の発話開始前に予め生成されるようになっている。
【0068】更に、フレーム化部20と、ケプストラム演算部21、スイッチ素子22、加減算器23、掛け算器24、加算器25、平均演算部27、減算器28が備えられている。
【0069】フレーム化部20は、上記の発話開始スイッチがオン操作されて上記のマイクロフォンが集音状態となると、そのマイクロフォンから出力されアナログデジタル変換された背景雑音(加法性雑音に相当する)Naや発話音声Raを入力し、所定時間ずつのフレーム単位に区分けして出力する。
【0070】ケプストラム演算部21は、フレーム単位の背景雑音Naや発話音声Raをケプストラム演算することにより、背景雑音Naや発話音声RaのケプケプストラムNa(cep),Ra(cep)を生成して出力する。
【0071】スイッチ素子22は、上記発話開始スイッチがオン操作されて実際に発話が行われるまでの非発話期間内に接点a側に切り替わることで、背景雑音のケプストラムNa(cep)を加減算器23側へ供給する。また、実際に発話が行われる期間では接点b側に切り替わり、発話音声のケプストラムRa(cep)を平均演算部27及び加算器28側へ供給する。
【0072】平均演算部27は、発話音声のケプストラムRa(cep)をCMN法によって平均演算し、そのケプストラムRa(cep)に含まれている乗法性歪Haのケプストラムの推定値Ha^(cep)を求める。
【0073】尚、平均演算部27には、推定値Ha^(cep)を記憶する半導体メモリ等の記憶部(図示省略)が備えられており、発話開始スイッチが操作される毎に、前回発話されたときに求めた推定値Ha^(cep)を出力すると共に、今回の発話の際に求めた推定値Ha^(cep)に更新して記憶するようになっている。
【0074】加減算器23は、ケプストラム領域での演算により、背景雑音Na(cep)から乗法性歪の推定値Ha^(cep)と初期雑音Nm(cep)とを減算する。これにより、次式(9)で表される加法性雑音ケプストラム変化分Namh(cep)を求めて、掛け算器24に供給する。
【数9】

掛け算器24は、加法性雑音ケプストラム変化分Namh(cep)にヤコビアン行列Jを乗算し、その乗算結果J〔Namh(cep)〕=J〔Na(cep)−Ha^(cep)−Nm(cep)〕を加算器25に供給する。
【0075】加算器25は、上記の乗算結果J〔Namh(cep)〕と初期合成HMM16の音響モデルRm'(cep)を単語やサブワード単位で加算する。これにより、実際の発話環境における背景雑音Naによって適応的に補償された適応HMM26を生成する。つまり、適応HMM26をケプストラム領域(cep)で表すと、【数10】

となる。尚、上記式(10)のcep〔 〕は、ケプストラム変換を表している。
【0076】次に、かかる構成の音声認識システムの動作を説明する。まず、上記したように、実際の音声認識を開始する前に、音声HMM10と初期雑音HMM17と初期合成HMM16が予め作成され、更にヤコビアン行列算出部19によってヤコビアン行列Jが作成される。
【0077】次に、ユーザーにより発話開始スイッチがオン操作されると、図示しないマイクロフォンが集音状態になり、実際に発話が開始される前の非発話期間に、スイッチ素子22が接点a側に切り替わり、背景雑音Naを入力する。これにより、フレーム化部20とケプストラム演算部21及びスイッチ素子22を通じて、背景雑音NaのケプストラムNa(cep)が加減算器23に供給される。更に、加減算器23には、平均演算部27から前回の発話時に求めた乗法性歪の推定値Ha^(cep)が供給されると共に、初期雑音HMM17から初期雑音Nm(cep)が供給される。
【0078】そして、加減算器23が上記式(9)で表される加法性雑音ケプストラム変化分Namh(cep)を求め、掛け算器24が加法性雑音ケプストラム変化分Namh(cep)にヤコビアン行列Jを乗算し、更に、加算器25がその乗算結果J〔Namh(cep)〕と初期合成HMM16を単語やサブワード単位で加算することにより、適応HMM26を生成する。
【0079】次に、適応HMM26の生成が終了すると、スイッチ素子22は接点b側に切り替わる。そして、ユーザーが実際に発話すると、フレーム化部20及びケプストラム演算部21がその発話音声Raをケプストラム領域の発話音声Ra(cep)にし、スイッチ素子22を介して平均演算部27と減算器28に供給する。
【0080】これにより、平均演算部27が、CMN法によって発話音声Ra(cep)に含まれている乗法性歪Haのケプストラム領域での推定値Ha^(cep)を新たに生成して記憶すると共に、その新たに生成した推定値Ha^(cep)を加減算器28に供給する。
【0081】そして、加減算器28が、発話音声Ra(cep)から推定値Ha^(cep)を減算することで、乗法性歪を除いた観測値系列RNa(cep)=Ra(cep)−Ha^(cep)を生成し、照合部29が、観測値系列RNa(cep)と適応HMM26とを単語やサブワード単位で照合し、最大尤度の得られる適応HMMを音声認識結果として出力する。
【0082】ここで、観測値系列RNa(cep)は、上記式(8)に示したように、クリーンな音声の線形スペクトルSa(lin)に、加法性雑音の線形スペクトルNa(lin)と乗法性歪の線形スペクトルHa^(lin)との比Na(lin)/Ha^(lin)を加算し、それをケプストラム変換することで特徴付けられている。一方、適応HMM26は、上記式(10)に示したように、クリーンな音声の線形スペクトルSm(lin)に、加法性雑音の線形スペクトルNa(lin)と乗法性歪の線形スペクトルHa^(lin)との比Na(lin)/Ha^(lin)を加算し、それをケプストラム変換することで特徴付けられている。
【0083】つまり、適応HMM26と観測値系列RNa(cep)の雑音のスペクトルが共にNa(lin)/Ha^(lin)となることから、適応HMM26は、観測値系列RNa(cep)に対して整合性のとれた音響モデルとなっている。
【0084】更に、照合部29が観測値系列RNa(cep)と適応HMM26を照合する際、雑音のスペクトルが共にNa(lin)/Ha^(lin)であることから、これら適応HMM26と観測値系列RNa(cep)の雑音(加法性雑音と乗法性歪)の影響を実質的に相殺して、クリーンな音声Sm(cep)とクリーンな発話音声Sa(cep)とを照合することになるため、音声認識率を向上することができる。
【0085】このように、本実施形態の音声認識システムによれば、適応HMM26を実際の発話の際に求まる観測値系列RNa(cep)に対して整合性のとれた音響モデルとすることができると共に、加法性雑音と乗法性歪に対処した構成としているため、加法性雑音と乗法性歪に対してロバストで音声認識率の向上を図ることができる。更に、ヤコビアン行列を適用するための適切な構成を実現しており、音声認識に要する時間の大幅短縮が可能となっている。
【0086】(第2の実施の形態)次に、第2の実施形態の音声認識システムを図2に基づいて説明する。尚、図2中、図1と同一又は相当する部分を同一符号で示している。
【0087】図2において、第1の実施形態との相違点を述べると、本実施形態の音声認識システムでは、2つの平均演算部11a,11bと、加算器12a、減算器23a、加算器30が備えられている。
【0088】尚、図1中の加算器12は設けられておらず、音声HMM10のケプストラム領域の音声Rm(cep)が逆ケプストラム変換部13に直接供給されるようになっている。
【0089】第1の平均演算部11aは、音声HMM10の平均ベクトルの全平均を求める等、大量な音声HMMの情報量の平均を求めることにより、乗法性歪の推定値Hm1^(cep)を求める。
【0090】第2の平均演算部11bは、1つ前の発話時においてHa^(後述)推定に使用された発話音声区間(過去数発話分)の、認識結果に対応するサブワード音声HMMの平均ベクトルを平均することで、真の乗法性歪Hm(cep)に発話音声に応じて異なる乗法性歪の誤差分Hme(cep)を含んだ形の、推定値Hm1^(cep)とも推定値Hm^(cep)とも異なる新たな乗法性歪の推定値Hm2^(cep)=Hm(cep)+Hme(cep)を生成する。
【0091】加算器12aは、初期雑音HMM17からの初期雑音Nm(cep)と第1の平均演算部11aからの推定値Hm1^(cep)とを加算し、その加算結果Nmh(cep)=Nm(cep)+Hm1^(cep)を加減算器23a及び逆ケプストラム変換部18に供給する。
【0092】加減算器23aは、上記の加減算器23aからの加算結果Nmh(cep)の他、第2の平均演算部11bからの推定値Hm2^(cep)が供給され、更に非発話期間中に、平均演算部27からの推定値Ha^(cep)と背景雑音Na(cep)が供給される。これにより、加減算器23aでは、次式(11)で表されるように、適応HMM26を生成するために用いる加法性雑音ケプストラム変化分Namh'(cep)が生成される。
【数11】

【0093】本実施形態の初期合成HMM16は、図示するように、加算器12aで生成される加算結果Nmh(cep)と、音声HMM10からの乗法性歪Hmの除かれていない音声Rm(cep)とによって予め生成されている。すなわち、乗法性歪Hmの除かれていない音声Rm(cep)を逆ケプストラム変換部13が線形スペクトル領域の音声Rm(lin)に変換し、逆ケプストラム変換部18が上記の加算結果Nmh(cep)を線形スペクトル領域の加算結果Nmh(lin)に変換する。そして、加算器14がRm(lin)とNmh(lin)を加算し、その加算演算によって生成される加法性雑音付加音声Rmh(lin)=Rm(lin)+Nmh(lin)をケプストラム変換部15がケプストラム領域の加法性雑音付加音声Rmh(cep)に変換することにより、初期合成HMM16が生成されている。したがって、初期合成HMM16は、次式(12)で表される。
【数12】

尚、式(12)中のcep〔 〕はケプストラム変換を表している。
【0094】本実施形態の平均演算部27は、発話期間中に発話音声RaのケプストラムRa(cep)がスイッチ素子22の接点bを経由して供給されると、Ra(cep)に含まれている真の乗法性歪Ha(cep)に、発話音声に応じて異なる乗法性歪の誤差分Hae(cep)が含まれた形となり、乗法性歪の推定値はHa^(cep)=Ha(cep)+Hae(cep)と表される。
【0095】したがって、図1に示した第1の実施形態の平均演算部27は、乗法性歪Ha(cep)の時間平均をHa^(cep)としているのに対し、図2に示す本実施形態の平均演算部27は、上記Ha(cep)+Hae(cep)をHa^(cep)としている点が異なっている。ここで、Haeは発話内容によって変動する乗法性歪推定値の誤差である。発話内容は認識結果が正しければ認識結果に一致する。Hm2^推定時にも認識結果を用いてHa^推定時の発話内容を対応させている。よって、Hae≒Hmeとなり発話音声に応じて異なる乗法性歪の誤差の対応が取れることになる。
【0096】本実施形態のヤコビアン行列算出部19は、逆ケプストラム変換部18にて生成される雑音Nmh(lin)と加算器14にて生成される加法性雑音付加音声Rmh(lin)とを入力し、これら線形スペクトル領域の雑音Nmh(lin)と加法性雑音付加音声Rmh(lin)とをケプストラム領域に変換して上記式(6)に導入することにより、テイラー展開の一次微係数J=∂Rmh(cep)/∂Nmh(cep)をヤコビアン行列Jとして予め作成する。
【0097】そして、掛け算器24が、このヤコビアン行列Jと加減算器23aからの加法性雑音ケプストラム変化分Namh'(cep)とを乗算することにより、その乗算結果J〔Namh'(cep)〕を加算器25に供給し、更に加算器25が乗算結果J〔Namh'(cep)〕と初期合成HMM16を加算することで、適応HMM26を生成する。
【0098】尚、乗算結果J〔Namh'(cep)〕は、上記式(11)の関係から、J〔Na(cep)+Hm2^(cep)−Ha^(cep)−Nm(cep)−Hm1^(cep)〕となり、適応HMM26は、【数13】

となる。
【0099】加算器30は、発話時に加減算器28から供給される発話音声Ra(cep)と推定値Ha^(cep)との差Ra(cep)−Ha^(cep)に、第2の平均演算部11bからの推定値Hm2^(cep)を加算することで、観測値系列RNah(cep)=Ra(cep)−Ha^(cep)+Hm2^(cep)を生成して照合部29に供給する。したがって、観測値系列RNah(cep)は、次式(14)で表記されるように、【数14】

となる。
【0100】次に、かかる構成の本音声認識システムの動作を説明する。まず、上記したように、実際の音声認識を開始する前に、音声HMM10と初期雑音HMM17と初期合成HMM16が予め作成され、更にヤコビアン行列算出部19によってヤコビアン行列Jが作成される。
【0101】次に、ユーザーにより発話開始スイッチがオン操作されると、図示しないマイクロフォンが集音状態になり、実際に発話が開始される前の非発話期間に、スイッチ素子22が接点a側に切り替わり、背景雑音Naを入力する。これにより、フレーム化部20とケプストラム演算部21及びスイッチ素子22を通じて、背景雑音NaのケプストラムNa(cep)が加減算器23aに供給される。更に、加減算器23aには、平均演算部27から前回の発話時に求めた乗法性歪の推定値Ha^(cep)が供給されると共に、加算器12aからの雑音Nmh(cep)と、第2の平均演算部11bからの推定値Hm2^(cep)が供給される。Hm2^(cep)は1つ前の発話時においてHa^(後述)推定に使用された発話音声区間(過去数発話分)の、認識結果に対応するサブワード音声HMMの平均ベクトルを平均することで、推定される。
【0102】そして、加減算器23aが上記式(11)で表される加法性雑音ケプストラム変化分Namh'(cep)を求め、掛け算器24が加法性雑音ケプストラム変化分Namh'(cep)にヤコビアン行列Jを乗算し、更に、加算器25がその乗算結果J〔Namh'(cep)〕と初期合成HMM16を単語やサブワード単位で加算することにより、適応HMM26を生成する。
【0103】次に、適応HMM26の生成が終了すると、スイッチ素子22は接点b側に切り替わる。そして、ユーザーが実際に発話すると、フレーム化部20及びケプストラム演算部21がその発話音声Raをケプストラム領域の発話音声Ra(cep)にし、スイッチ素子22を介して平均演算部27と減算器28に供給する。
【0104】これにより、平均演算部27が、乗法性歪Haのケプストラム領域での推定値Ha^(cep)を新たに生成して記憶する。加減算器28には1つ前の発話時に推定した、更新前のHa^(cep)を供給する。
【0105】そして、加減算器28が、発話音声Ra(cep)から推定値Ha^(cep)を減算することで、乗法性歪を除いた観測値系列RNah(cep)=Ra(cep)−Ha^(cep)を生成し、照合部29が、観測値系列RNah(cep)と適応HMM26とを単語やサブワード単位で照合し、最大尤度の得られる適応HMMを音声認識結果として出力する。
【0106】ここで、観測値系列RNah(cep)は上記式(14)で表され、適応HMM26は上記式(13)で表される。すなわち、観測値系列RNah(cep)と適応HMM26の雑音スペクトルが共にNa(lin)Hm2^(lin)/Ha^(lin)となることから、適応HMM26は、観測値系列RNa(cep)に対して整合性のとれた音響モデルとなっている。
【0107】更に、照合部29が観測値系列RNa(cep)と適応HMM26を照合する際、雑音のスペクトルが共にNa(lin)Hm2^(lin)/Ha^(lin)であることから、クリーンな音声Sm(cep)に乗法性歪Hm(cep)が重畳した音声Sm(cep)Hm(cep)とクリーンな発話音声Sa(cep)に乗法性歪Ha(cep)が重畳した音声Sa(cep)Ha(cep)とを照合することになる。このため、Na(lin)Hm2^(lin)/Ha^(lin)の影響を実質的に相殺して照合することが可能となり、更に、乗法性歪Hm(cep)とHa(cep)の影響を実質的に相殺して照合することが可能となる。つまり、加法性雑音と乗法性歪みとの両者の影響を実質的に相殺することが可能となり、クリーンな音声Sm(cep)とクリーンな発話音声Sa(cep)とを照合することになるため、音声認識率を向上することができる。
【0108】このように、本実施形態の音声認識システムによれば、適応HMM26を実際の発話の際に求まる観測値系列RNah(cep)に対して整合性のとれた音響モデルとすることができると共に、加法性雑音と乗法性歪に対処した構成としているため、加法性雑音と乗法性歪に対してロバストで音声認識率の向上を図ることができる。更に、ヤコビアン行列を適用するための適切な構成を実現しており、音声認識に要する時間の大幅短縮が可能となっている。
【0109】尚、以上の第1,第2の実施形態の説明では、音声と雑音との加算や、音声から雑音を減算する等の演算処理を、スペクトル領域又はケプルトラム領域において行うこととしているが、これらの加算と減算の演算処理は、音声と雑音等をスペクトル領域又はケプストラム領域にて合成することを意味している。例えば、図2中の加減算器28が、発話音声Ra(cep)から推定値Ha^(cep)を減算することで、それらの差Ra(cep)−Ha^(cep)を求めているが、かかるケプストラム領域での減算は、Ra(cep)とHa^(cep)とを合成することを意味している。また、図2中の加算器30が、加減算器28からの差Ra(cep)−Ha^(cep)に第2の平均演算部11bからの推定値Hm2^(cep)を加算することで、観測値系列RNah(cep)を求めているが、かかるケプストラム領域での加算は、差Ra(cep)−Ha^(cep)と推定値Hm2^(cep)とを合成することを意味している。
【0110】
【発明の効果】以上説明したように本発明の音声認識システムによれば、音声モデルと雑音モデルから合成音声モデルを生成すると共に、その合成音声モデルを基準のモデルとして乗法性歪と加法性雑音の情報を予め含んだ適応モデルを生成しておき、実際に発話がなされると、発話音声から生成する観測値系列と適応モデルとを照合することで音声認識を行う構成とし、更に、適応モデルを観測値系列と整合性のとれる構成にしたので、乗法性歪と加法性歪に対してロバストで、適切な音声認識を行うことが可能な音声認識システムを提供することができる。
【0111】また、ヤコビアン行列を適用して演算量の大幅低減を実現するのに好適な構成の音声認識システムを提供することができ、よって、高速な音声認識システムを提供することができる。
【出願人】 【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
【出願日】 平成12年9月18日(2000.9.18)
【代理人】 【識別番号】100063565
【弁理士】
【氏名又は名称】小橋 信淳
【公開番号】 特開2002−91485(P2002−91485A)
【公開日】 平成14年3月27日(2002.3.27)
【出願番号】 特願2000−282349(P2000−282349)