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【発明の名称】 光電流増幅現象等を利用したガス検知方法及びガスセンサー
【発明者】 【氏名】平本 昌宏

【氏名】横山 正明

【氏名】吉田 学

【要約】 【課題】ガス検知の感度を向上させ、かつ応答速度も速くする。

【解決手段】銅フタロシアニンからなる有機半導体薄膜1の一方の面にインジウム電極薄膜2が密着して形成され、他方の面に金電極薄膜3が形成されて、インジウム電極2側がプラスにバイアスされるように有機半導体薄膜1に電圧が印加される。電極2側がプラスになるように電圧を印加し、有機半導体薄膜1が吸収できる波長の光を照射すると、有機半導体薄膜1と電極2の界面で光電流増倍現象が起こる。その状態で、このガスセンサーを酸素や水分の雰囲気下におくと、増倍による光電流が変化して酸素や水分を検知することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 光導電性有機半導体層を2枚の金属電極ではさんだサンドイッチ型セルを用い、次のステップ(A)から(C)を備えて被検ガスを検知することを特徴とするガス検知方法。
(A)前記電極により前記有機半導体層に電圧を印加した状態でその有機半導体層に光照射して有機/金属界面に増倍された光電流を発生させるステップ、(B)その状態で、光電流増倍が起こっている有機/金属界面に被検ガスを接触させるステップ、及び(C)前記有機半導体層を流れる光電流を計測し、前記被検ガス接触に伴う光電流の変化に基づいてガスを検知するステップ。
【請求項2】 有機半導体層を2枚の金属電極ではさんだサンドイッチ型セルを用い、次のステップ(A)から(C)を備えて被検ガスを検知することを特徴とするガス検知方法。
(A)前記電極により前記有機半導体層に電圧を印加して有機/金属界面に増倍された暗電流を発生させるステップ、(B)その状態で、暗電流増倍が起こっている有機/金属界面に被検ガスを接触させるステップ、及び(C)前記有機半導体層を流れる暗電流を計測し、前記被検ガス接触に伴う暗電流の変化に基づいてガスを検知するステップ。
【請求項3】 光導電性有機半導体層を2枚の金属電極ではさんだサンドイッチ型セルと、前記電極により前記有機半導体層に電圧を印加する電源装置と、前記有機半導体層に光を照射する光学系と、前記電源装置による電圧印加と前記光学系による光照射により光電流増倍が起こる有機/金属界面に被検ガスを接触させる開口部と、前記有機半導体層を流れる光電流を計測する電流計測回路とを備え、前記被検ガス接触に伴う光電流の変化に基づいてガスを検知することを特徴とする光電流増幅型ガスセンサー。
【請求項4】 前記有機半導体層がp型有機半導体層であり、前記電源装置は前記光電流増倍を起こさせるべき有機/金属界面の金属電極をプラス電圧側にバイアスするように電圧印加するものであり、このガスセンサーは前記光電流の増大から酸素又は水分を検知するものである請求項3に記載のガスセンサー。
【請求項5】 前記p型有機半導体層はフタロシアニン系顔料からなる請求項4に記載のガスセンサー。
【請求項6】 前記光電流増倍を起こさせるべき有機/金属界面の金属電極は仕事関数の小さな金属からなる請求項4又は5に記載のガスセンサー。
【請求項7】 前記光電流増倍を起こさせるべき有機/金属界面の金属電極はインジウムからなる請求項6に記載のガスセンサー。
【請求項8】 前記有機半導体層がn型有機半導体層であり、前記電源装置は前記光電流増倍を起こさせるべき有機/金属界面の金属電極をマイナス電圧側にバイアスするように電圧印加するものであり、このガスセンサーは前記光電流の減少から酸素を検知するものである請求項3に記載のガスセンサー。
【請求項9】 前記有機半導体層がペリレン系顔料又はナフタレン誘導体からなる請求項8に記載のガスセンサー。
【請求項10】 前記有機半導体層がn型有機半導体層であるナフタレン誘導体からなり、前記電源装置は前記光電流増倍を起こさせるべき有機/金属界面の金属電極をマイナス電圧側にバイアスするように電圧印加するものであり、このガスセンサーは前記光電流の減少から水分を検知するものである請求項3に記載のガスセンサー。
【請求項11】 前記光電流増倍を起こさせるべき有機/金属界面の金属電極は仕事関数の大きな金属からなる請求項8,9又は10に記載のガスセンサー。
【請求項12】 前記電源装置による印加電圧は、吸着したガス分子の数よりも大きな電子数の電流変化が起こるように設定されている請求項3から11のいずれかに記載のガスセンサー。
【請求項13】 有機半導体層を2枚の金属電極ではさんだサンドイッチ型セルと、前記電極により前記有機半導体層に電圧を印加する電源装置と、前記電源装置による電圧印加により電流増倍が起こる有機/金属界面に被検ガスを接触させる開口部と、前記有機半導体層を流れる暗電流を計測する電流計測回路とを備え、前記被検ガス接触に伴う暗電流の変化に基づいてガスを検知することを特徴とする電流増幅型ガスセンサー。
【請求項14】 前記有機半導体層は蒸着膜である請求項3から13のいずれかに記載のガスセンサー。
【請求項15】 前記有機半導体層は有機半導体を樹脂に分散させた樹脂分散有機半導体膜である請求項3から13のいずれかに記載のガスセンサー。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は有機半導体膜を2枚の金属電極で挟んだサンドイッチ型のセルを用いて雰囲気ガスを検知する方法とその方法を実現したガスセンサーに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、有機半導体を用いたガスセンサーは、有機半導体薄膜表面にくし形電極を形成し、有機半導体層の暗伝導度がガスの吸着によって変化することを利用してガス濃度の検知を行う電気抵抗式半導体ガスセンサータイプが通例となっていた。そのようなガスセンサーの例としては、フタロシアニン系薄膜の暗伝導度変化を利用したNO2ガスセンサーが知られている(例えば、M. Passard, A. Pauly, J. P. G ermain, C. Maleysson, Synthetic Metals, 80, 25 (1996)参照。)。
【0003】一方、本発明の基礎となる技術として、有機/金属界面で発現する光電流増倍現象がある(n型有機半導体に関しては、例えば、M. Hiramoto, T. Imahigashi, M. Yokoyama, Applied Physics Letters, 64, 187 (1994)、p型有機半導体に関しては、例えば、M. Hiramoto, S. Kawase, M. Yokoyama, Jpn. J. Appl. Phys., 35, L349 (1996)を参照。)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の有機半導体を用いたガスセンサーにおいては、吸着ガスによる暗伝導度の変化を吸着ガス検出に利用しているが、有機半導体の暗伝導度が通常非常に小さい上、電極間距離が通常100μm程度ある、くし型電極によって電流測定を行なうため、検知される電流の絶対値がナノアンペアオーダーの非常に微小な値となり、正確な測定を行ないにくいという欠点があった。また、暗伝導度変化測定は有機薄膜バルク全体の抵抗変化を測定しているため、分子の膜バルクへの拡散が律速となり、応答が遅いという欠点もある。そこで、本発明はガス検知の感度が向上し、かつ応答速度も速くなるガス検知方法とその方法を実施するガスセンサーを提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の電流増幅型ガスセンサーは、有機半導体層を2枚の金属電極ではさんだサンドイッチ型セルを用い、電圧印加時にセルを流れる有機/金属界面における光電流増倍にもとづく光電流の変化、又は光を照射しないときに生じる暗電流の変化を測定することでガスの検知を行うものである。
【0006】光電流の変化を利用する本発明の第1の方法は、光導電性有機半導体層を2枚の金属電極ではさんだサンドイッチ型セルを用い、次のステップ(A)から(C)を備えて被検ガスを検知するガス検知方法である。
(A)前記電極により有機半導体層に電圧を印加した状態でその有機半導体層に光照射して有機/金属界面に増倍された光電流を発生させるステップ、(B)その状態で、光電流増倍が起こっている有機/金属界面に被検ガスを接触させるステップ、及び(C)有機半導体層を流れる光電流を計測し、被検ガス接触に伴う光電流の変化に基づいてガスを検知するステップ。
【0007】光を照射しないときの暗電流の変化を利用する本発明の第2の方法は、有機半導体層を2枚の金属電極ではさんだサンドイッチ型セルを用い、次のステップ(A)から(C)を備えて被検ガスを検知するガス検知方法である。
(A)前記電極により有機半導体層に電圧を印加して有機/金属界面に増倍された暗電流を発生させるステップ、(B)その状態で、暗電流増倍が起こっている有機/金属界面に被検ガスを接触させるステップ、及び(C)有機半導体層を流れる暗電流を計測し、被検ガス接触に伴う暗電流の変化に基づいてガスを検知するステップ。
【0008】本発明は、有機/金属界面における光電流増倍又は暗電流増倍による注入電流の変化を利用してガスを検知するので、有機半導体の暗伝導度変化を測定する従来のガスセンサーに対し、検知される電流の絶対値が大きくなって感度が高まるとともに、界面での注入電流の変化であるために応答速度も速くなる。
【0009】
【発明の実施の形態】光電流の変化を利用する本発明の第1の方法を実現するための光電流増幅型ガスセンサーは、光導電性有機半導体層を2枚の金属電極ではさんだサンドイッチ型セルと、前記電極により有機半導体層に電圧を印加する電源装置と、有機半導体層に光を照射する光学系と、前記電源装置による電圧印加と前記光学系による光照射により光電流増倍が起こる有機/金属界面に被検ガスを接触させる開口部と、有機半導体層を流れる光電流を計測する電流計測回路とを備え、被検ガス接触に伴う光電流の変化に基づいてガスを検知する。
【0010】有機半導体にはp型とn型があり、本発明のガスセンサーはいずれの型の有機半導体によっても実現することができる。そのような有機半導体の例を図2に示す。もちろん、本発明で利用できる有機半導体はこれらに限定されるものではない。有機半導体層がp型有機半導体層である場合は、光電流増倍を起こさせるべき有機/金属界面の金属電極をプラス電圧側にバイアスするように電圧印加することにより、その光電流の増大から酸素又は水分を検知することができる。有機半導体層がp型有機半導体層である場合に、光電流増倍を起こさせるべき有機/金属界面の金属電極としては仕事関数の小さな金属からなるものが好ましい。そのような金属の一例として、インジウムを挙げることができる。
【0011】p型有機半導体には、フタロシアニン顔料とその誘導体(中心に種々の金属をもつMPc、金属をもたないH2Pcや、周りに種々の置換基の付いたもの)、キナクリドン顔料(DQ)、ポルフィリン、メロシアニン等とそれらの誘導体が挙げられる。
【0012】有機半導体層がn型有機半導体層である場合は、光電流増倍を起こさせるべき有機/金属界面の金属電極をマイナス電圧側にバイアスするように電圧印加する。n型有機半導体には、ペリレン顔料とその誘導体(窒素原子に付いている置換基の異なる誘導体は多種知られており、例えば、t−BuPh−PTC,PhEt−PTCなどがあり、高い光電変換能を持つIm−PTCもある。)、ナフタレン誘導体(ペリレン顔料のペリレン骨格がナフタレンになっているもので、例えばNTCDA)、C60等が挙げられる。
【0013】n型有機半導体としてペリレン系顔料やナフタレン誘導体を使用し、その光電流の減少から酸素を検知することができる。また、n型有機半導体としてナフタレン誘導体を使用し、その光電流の減少から水分を検知することができる。
【0014】n型有機半導体層を用いたガスセンサーでは、光電流増倍を起こさせるべき有機/金属界面の金属電極は、仕事関数の大きな金属からなるものが好ましい。電源装置による印加電圧は、吸着したガス分子の数よりも大きな電子数の電流変化が起こるように設定されていることが好ましい。
【0015】光照射をしない場合の暗電流の変化を利用する本発明の第2の方法を実現するための電流増幅型ガスセンサーは、有機半導体を2枚の金属電極ではさんだサンドイッチ型セルと、前記電極により有機半導体層に電圧を印加する電源装置と、この電源装置による電圧印加により電流増倍が起こる有機/金属界面に被検ガスを接触させる開口部と、有機半導体層を流れる光電流を計測する電流計測回路とを備え、被検ガス接触に伴う暗電流の変化に基づいてガスを検知するものである。暗電流の変化を利用する電流増幅型ガスセンサーに使用する有機半導体としては、上述のいずれの有機半導体も使用することができる。
【0016】有機半導体層の第1の形態は、有機半導体の蒸着膜である。有機半導体層の第2の形態は、有機半導体を樹脂に分散させた樹脂分散有機半導体膜である。有機半導体を分散させる樹脂としては、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどの汎用ポリマー、ポリビニルカルバゾール、ポリメチルフェニルシラン、ポリジメチルシランなどの導電性ポリマーを挙げることができる。これらの樹脂のうちのいくつかの化学式を図3に示した。樹脂分散有機半導体膜は、有機半導体と樹脂を溶媒中で混合した液を電極基板上にスピンコート法やバーコート法(基板上に塗布した分散液を、溝のついた金属棒によって薄く引き延ばす方法)によって塗布して成膜することにより形成することができる。
【0017】
【実施例】次に、本発明について図面を参照して詳細に説明する。
(実施例1)実施例1としてp型有機半導体を用いた例を説明する。図1は実施例1の電流増幅型ガスセンサー素子のサンドイッチセル構造を示す断面図を電気回路とともに示したガスセンサーデバイスの概略構成図である。1は有機半導体薄膜で、膜厚が約1000nmの銅フタロシアニン(CuPc:図2にMPcとして示された化学構造式で、中心の金属MがCuであるもの)蒸着膜である。2は有機半導体薄膜1の一方の面に密着して形成された金属電極薄膜で、膜厚が約100nmのIn(インジウム)着膜である。3は他方の金属電極薄膜で、膜厚が約40nmのAu(金)蒸着膜であり、有機半導体薄膜1のうちIn電極2が形成されている面とは反対側の面に形成されている。有機半導体薄膜1のうち、In電極2が設けられている側に光が照射され、被検ガスが接触する。4はガラス基板で、Au電極3を介してこのガスセンサー素子を支持している。5はこの素子に電圧印加するための電源で、In電極2側がプラス電圧側にバイアスされるように両電極薄膜2,3間に接続されている。6はこの素子を流れる電流をモニターするための電流計で、電源5とIn電極2との間に接続されている。7はこの素子の有機半導体薄膜1をIn電極2側から照射する単色光である。
【0018】この素子は、蒸着法により、ガラス基板4上にAu電極薄膜3を堆積し、その上に銅フタロシアニン薄膜1を堆積し、さらにその上にIn電極薄膜2を堆積することにより形成することができる。このガスセンサーにIn電極2がAu電極3に対してプラスになるように電圧を印加し、有機半導体薄膜1が吸収できる単色光として、波長570nmの光を照射すると、後述する機構によって光電流増倍現象がCuPc/In界面において起こる。そして、このガスセンサーを種々のガス雰囲気下において動作させると、増倍による光電流がガス濃度に応じて変化し、その光電流変化を電流計6で検出する。
【0019】次に、本発明の効果を実例を上げて述べる。図4に図1の素子に10Vの電圧を印加し、ロータリーポンプで真空排気後、導入した種々の酸素圧力における素子の光応答を示す。横軸は時間、縦軸は光電流量子収率(増倍率)で、素子を光電流として流れたキャリアの数を有機半導体薄膜1が実際に吸収したフォトン数で割って算出したものである。量子収率が例えば600であると言うことは、1個のフォトンによって600個のキャリアが素子を流れたことを意味する。これを光電流増倍現象と呼ぶ。CuPcからなる有機半導体薄膜1における光電流増倍現象は、本発明者らにより初めて観測されたものである。
【0020】図5は、このようにして測定した光電流量子収率を導入酸素圧力に対してプロットしたものである。図4および図5から、酸素圧の増加とともに増倍率が定量的に増加しており、また、応答も可逆であることから、酸素の検知に利用できることが分かる。印加電圧が大きいほど酸素導入による変化は大きくなり、感度が増大する。印加電圧10Vにおいて、1Torrから760Torrの酸素圧変化に対する光電流の増加量は約0.5mA/cm2という大きな値に達した。このような1cm2当たりミリアンペアに達する大きな電流量の変化は、くし形電極による抵抗変化測定では到底実現できない。さらに大きな電圧を印加すればこの値はさらに大きくなると期待できる。
【0021】図6に光電流増倍現象が起こっているときの、有機/金属界面、具体的にはCuPc/In界面のエネルギー図を示す。左図はロータリーポンプで排気した真空中におけるエネルギー図、右図は酸素を導入した際のエネルギー図である。有機半導体としてはp型のCuPcにおいては光電流増倍現象はプラスにバイアスされた金属電極との界面で起こる。1はCuPc、2はプラスに電圧印加されたIn電極、10は価電子帯、11は伝導帯、12は光生成した電子、13は有機/金属界面の電子トラップに蓄積された電子、14は有機半導体表面に吸着した酸素分子(O2)にトラップされた電子(O2-)、15は電子のエネルギー、16は金属電極から価電子帯へのホールのトンネル注入、17はトンネル注入されたホールである。
【0022】まず、真空中におけるCuPc/In界面の光電流増倍現象は、CuPc中で光生成した電子12がIn電極2近くのトラップ13(このトラップは有機/金属界面に存在する構造的不完全性に由来する空間的行き止まり(構造トラップ)と考えられる。)に捕獲されて蓄積し、界面に高電界が集中してかかり、最終的にホール17が符号16で示されるようにトンネル注入されることで起こる(光誘起ホール注入機構)。すなわち、フォトンは界面にトラップされる電子12のみを供給すればよく、一度トンネル注入がおこると大量のホールが素子に注入されるため、1個のフォトンに対して100個以上のキャリアが素子を流れる光電流増倍現象が起こる。
【0023】次に、酸素を導入すると、CuPc表面に酸素分子が吸着する。吸着酸素は電子を捕獲してO2-イオン14になるため、電子のトラップとして働くと考えられる。すなわち、酸素雰囲気下では、トラップ電子の数が増える結果、界面にますます電界が集中し、トンネル注入されるホールの数が劇的に増えて、増倍による光電流量の大きな増大、すなわち光電流量子収率(増倍率)の増大に至ると説明できる。
【0024】図7に図1のセルに5V電圧印加した際の、Ar,O2,Airガスに対する応答を示す。ロータリーポンプによる真空中でまず光照射し、次いで各ガスを1気圧導入した。不活性なアルゴンに対しては変化がない(ガス導入直後に一度電流が減少する理由は明らかではないが、それ以後もとの電流レベルに戻っている)。純酸素を導入した場合は、先に述べたように電流が増大する。
【0025】空気を導入した場合は、最も大きな増大が起こる。空気中の酸素は20%で酸素を入れた場合よりも酸素濃度が低いにもかかわらず大きな電流増大がおこるのは、空気中に含まれる水蒸気の影響による。これは吸着した水も酸素と同様に電子をトラップして増倍による注入電流を増大させることを意味しており、湿度の検出が可能なことを意味する。この結果は本素子が種々のガスに感度を持つことを示唆する。なお、酸素とは逆にホールをトラップする酸化されやすいガスの場合、増倍光電流が逆に減少する可能性がある。
【0026】以上説明したように、本発明において検出している注入電流は光電流増倍によって増幅された電流であるため、注入電流は吸着したガス分子によって1cm2当りミリアンペアオーダーという大きな電流の変化が得られることになる。原理的には、吸着したガス分子の数よりも大きな電子数の電流変化が起りうる。これは、ガス分子の数に対する素子を流れたキャリア数の比、すなわち、フォトンに対する光電流量子収率(増倍率)と同様の、吸着ガスの分子数に対する吸着ガス誘起電流の電子数の量子収率(ガス分子数に対する増倍率)ともいうべき値が定義できることを意味する。これはガス分子に対する増幅型検知といえる。従来の有機半導体の抵抗変化を利用した素子では、ガス分子1個は最大でも電子1つの変化しか起こり得ないので、このような増幅型検知は原理的に不可能である。増倍光電流はトラップ電荷を何千倍にも増幅して観測していることから、トラップとして働く吸着分子を高感度で検出できると言い換えてもよい。また、吸着ガスは有機薄膜表面に吸着すれば検知でき、バルクへのガス拡散は律速とならないため、ガスに対する応答速度を速くできる可能性が期待できる。
【0027】印加電圧をもっと大きくすると、マイナス側の電極から暗時に伝導帯に注入された電子によって図6と同様の機構が作動し、ホールが大量にトンネル注入されると予想される。このような暗時の増倍電流も同様に吸着酸素の影響を受けると考えられるため、本素子の高電圧動作においては、光を照射することなく、暗電流の変化を測定することでガスの検知を行うことが原理的に可能と考えられる。この場合、増倍の起こっていないマイナス側の電極金属は、電子を注入しやすい仕事関数の小さな金属が望ましい。
【0028】銅フタロシアニン以外のメタルフリーフタロシアニンやその他の金属が中心にはいったフタロシアニン顔料を使用してもよい。またp型の有機半導体であれば、同様の機構で酸素の検知は可能である。またIn以外の金属を使用してもよいが、光電流増倍現象はショットキー接合の形成される界面で起こるので、仕事関数の小さな金属を使用することが望ましい。
【0029】(実施例2)実施例2としてn型有機半導体を用いた例を図8に示す。有機半導体薄膜1aとしてにn型半導体性を示す膜厚が約500nmのペリレン顔料(Me−PTC:図2に化学構造式が示されたもの)蒸着膜または膜厚が約500nmのナフタレン誘導体(NTCDA:図2に化学構造式が示されたもの)蒸着膜を使用する。光が照射され、被検ガスが接触する側の金属電極2aとして膜厚が約20nmのAu蒸着膜を使用し、他方の金属電極3aとして膜厚が約60nmのITO(indium tin oxide)蒸着膜を用いる。
【0030】n型半導体の場合、光電流増倍現象はマイナスに電圧印加された電極と有機半導体との界面で起こる(後述)。そのため、Au電極2aをITO電極3aに対してマイナスに電圧印加できるように、Au電極2aとITO電極3aの間に電源5aを接続する。6は図1の実施例と同様に電流をモニタする電流計である。
【0031】この実施例において、Au電極2aをITO電極3aに対してマイナスに電圧印加した場合の、ロータリーポンプで排気した真空中と純酸素1気圧導入下における光電流増倍率の印加電圧依存性を図9に示す。n型有機半導体における増倍現象の場合、酸素導入はp型の場合と全く逆の効果となる。すなわち、Me−PTC,NTCDA双方の場合において、酸素導入によって増倍光電流は大きく抑制される。
【0032】図10に光電流増倍が起こっているときの、Me−PTCまたはNTCDA/Au、すなわち有機/金属界面のエネルギー図を示す。左図はロータリーポンプで排気した真空中におけるエネルギー図、右図は酸素を導入した際のエネルギー図である。半導体としてはn型のMe−PTC,NTCDAにおいては光電流増倍現象はマイナスにバイアスされた金属電極との界面で起こる。1aはMe−PTCまたはNTCDA、2aはマイナスに電圧印加されたAu電極、20は価電子帯、21は伝導帯、22は光生成したホール、23は有機/金属界面のホールトラップに蓄積されたホール、24は有機半導体表面に吸着した酸素分子(O2)にトラップされた電子(O2-)、25は電子のエネルギー、26は金属電極から伝導帯への電子のトンネル注入、27はトンネル注入された電子である。
【0033】n型半導体の場合、増倍現象は、p型の場合と裏返しの関係にあることが分かっている。すなわち、増倍時には、光生成したホール22の一部がマイナスにバイアスした金属電極2a近傍のトラップに捕獲されて蓄積する。その結果、有機薄膜1aと金属電極2aとの界面に高電界が集中してかかり、最終的に金属電極2aから電子が大量にトンネル注入されて増倍に至る(光誘起電子注入機構)。この場合、酸素が有機半導体1a表面に吸着して電子をトラップしてマイナスイオンになると、有機/金属界面における実効的なプラス電荷密度が減少して、増倍が抑制されると考えられる。この場合、酸化されやすいプラス電荷をトラップしてイオンになりやすいガス分子は増倍率を逆に増大させる可能性がある。
【0034】図9には水蒸気(真空排気後、つまり酸素がない条件下での飽和水蒸気圧)の効果も合わせて示してある。真空下と水蒸気雰囲気下を比較すると、NTCDAの場合(下図)、水の吸着は酸素と同様に増倍率を抑制していることが分かる。しかし、Me−PTCの場合(上図)、逆に、少しではあるが、増倍率を高める方向に働いている。水分子はホール、電子どちらか一方のみに働くトラップではないと考えられる。この素子も水蒸気に感度を持つことから、湿度センサーの可能性を示している。
【0035】実施例1と同様に、この場合も印加電圧をもっと大きくすると、プラス側の電極から暗時に価電子帯に注入されたホールによって図10と同様の機構が作動し、電子が大量にトンネル注入されると予想される。このような暗時の増倍電流も同様に吸着酸素の影響を受けると考えられるため、本素子の高電圧動作においては、光を照射することなく、暗電流の変化を測定することでガスの検知を行うことが原理的に可能と考えられる。この場合、増倍の起こっていないプラス側の電極金属は、ホールを注入しやすい仕事関数の大きな金属が望ましい。
【0036】
【発明の効果】以上説明したように本発明は、有機半導体を2枚の金属電極ではさんだサンドイッチ型セルを用い、有機/金属界面における光電流増倍又は暗電流増倍による注入電流の変化からガスを検知するようにしたので、検知される電流の絶対値が大きくなって感度を高めることができるとともに、界面での注入電流の変化を検出するので応答速度も速くすることができる。
【出願人】 【識別番号】396020800
【氏名又は名称】科学技術振興事業団
【出願日】 平成12年9月1日(2000.9.1)
【代理人】 【識別番号】100085464
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 繁雄
【公開番号】 特開2002−71638(P2002−71638A)
【公開日】 平成14年3月12日(2002.3.12)
【出願番号】 特願2000−265226(P2000−265226)