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【発明の名称】 電気化学計測用電極およびその製造方法
【発明者】 【氏名】河西 奈保子

【氏名】鳥光 慶一

【氏名】神保 泰彦

【氏名】丹羽 修

【氏名】林 勝義

【要約】 【課題】単数あるいは複数の任意の電極上のみに修飾物が修飾された、あるいは複数の電極のうちの任意の電極上に異なる修飾物が修飾された電気化学計測用電極およびその製造方法を提供する。

【解決手段】電極2が基板1上にアレイ状に配列され、該電極2部分のみが選択的に修飾物により修飾されている電気化学計測用電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】電極が基板上にアレイ状に配列され、該電極部分のみが選択的に修飾物により修飾されていることを特徴とする電気化学計測用電極。
【請求項2】上記電極は、異なる修飾物により修飾されている複数の群を有することを特徴とする請求項1記載の電気化学計測用電極。
【請求項3】上記修飾物は酵素であることを特徴とする請求項1または2記載の電気化学計測用電極。
【請求項4】上記修飾物は電子移動メディエータであることを特徴とする請求項1または2記載の電気化学計測用電極。
【請求項5】所定の溶液中で、基板上にアレイ状に配列された所定の電極に電流を流して、上記所定の電極部分のみを修飾物により選択的に修飾することを特徴とする電気化学計測用電極の製造方法。
【請求項6】所定の溶液中で、基板上にアレイ状に配列された所定の電極に電流を流して、上記所定の電極部分のみを修飾物により選択的に修飾する工程を所定の回数繰り返して、異なる修飾物により修飾された複数の電極群を形成することを特徴とする電気化学計測用電極の製造方法。
【請求項7】上記電極上に高分子を電気化学的に堆積させることにより、上記修飾物により修飾することを特徴とする請求項5または6記載の電気化学計測用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気化学計測用電極およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】電気化学的手法による溶液中あるいは気体中の特定の物質の検出は、装置が簡便かつ安価であるため広く使用されている。特に、pH電極やイオン電極のように汎用性の高い電極は、水質管理等の環境測定では不可欠である。
【0003】さらに、近年では電極の微小化に伴って(例えば、M. Morita, O. Niwa, T. Horiuchi, Electrochemical Acta, 42, 3177-3183, 1997)、極微小範囲における時間分解能の高い「その場」測定を行うことができるようになったため、電極は生体を対象にした測定にも用いられるようになった(例えば、K. Torimitsu, O.Niwa, Neuro Report, 8, 1353-1358, 1997)。電気化学的な測定法では生体組織や細胞に対するダメージを軽減することが可能であるため、同じ生体試料を長時間用いることができ、また繰り返し用いることが可能である。
【0004】さらに、微小電極を多数使用したアレイ型電極を用いた、電気化学的手法による生体多点計測の試みもなされている(N. Kasai, Y. Jimbo, O. Niwa, T. Matsue, K. Torimitsu, Abstract for International Meeting of ElectrochemicalSociety, 99-2, 1986, 1999)。アレイ型電極を用いた測定法は、同時に複数の微小領域における物質の濃度の変化を計測し、物質の分布の動的変化を得るのに極めてすぐれた手法である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】電気化学的検出において電極に特異性を与える際に頻繁に用いられる方法として、電極上を修飾物により修飾する方法がある。修飾物というのは、酵素、および酵素反応を効率よく検出するための電子移動メディエータの少なくとも一方である。
【0006】しかし、従来は、上記のような1つあるいは複数の微小電極上を修飾物により修飾する場合、「酵素、電子移動メディエータの少なくとも一方」(以下、「酵素/メディエータ」と記す)を望む領域のみを修飾することは困難であった。すなわち、酵素/メディエータを含む溶液を電極上のみに塗布することはできず、電極およびその周辺部全体に塗布するという方法で行っていた。
【0007】しかし、この方法では、各微小電極上を修飾する酵素/メディエータの量を制御したり、均一な修飾を行うことは困難である。また、異なる酵素/メディエータを複数の電極のうちの任意の電極上に修飾することは不可能である。また、修飾された電気化学的に活性な物質が電極間に位置している場合、条件によっては、その物質を通して電流が流れるなど電極間の相互干渉が発生する。さらに、修飾される酵素の絶対量が多いため、酵素によって測定溶液中の測定対象である基質が消費されて、溶液の濃度が低くなり、測定そのものの信頼性を損なうことがある。
【0008】そのため、単数あるいは複数の任意の電極上のみに酵素/メディエータを修飾する技術が必要不可欠の段階にきている。
【0009】本発明の目的は、上述した従来技術における問題点を解消するものであって、単数あるいは複数の任意の電極上のみに修飾物が修飾された電気化学計測用電極およびその製造方法を提供することにある。
【0010】また、本発明の別の目的は、複数の電極のうちの任意の電極上に、異なる修飾物が修飾された電気化学計測用電極およびその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために、本発明の電気化学計測用電極は、電極が基板上にアレイ状に配列され、該電極部分のみが選択的に修飾物により修飾されていることを特徴とする。
【0012】また、上記電極は、異なる修飾物により修飾されている複数の群を有することを特徴とする。
【0013】また、上記修飾物は酵素であることを特徴とする。
【0014】また、上記修飾物は電子移動メディエータであることを特徴とする。
【0015】また、本発明の電気化学計測用電極の製造方法は、所定の溶液中で、基板上にアレイ状に配列された所定の電極に電流を流して、上記所定の電極部分のみを修飾物により選択的に修飾することを特徴とする。
【0016】また、所定の溶液中で、基板上にアレイ状に配列された所定の電極に電流を流して、上記所定の電極部分のみを修飾物により選択的に修飾する工程を所定の回数繰り返して、異なる修飾物により修飾された複数の電極群を形成することを特徴とする。
【0017】また、上記電極上に高分子を電気化学的に堆積させることにより、上記修飾物により修飾することを特徴とする。
【0018】上記構成により、単数あるいは複数の任意の電極上のみに修飾物が修飾された電気化学計測用電極およびその製造方法を提供することができる。
【0019】また、複数の電極のうちの任意の電極上に、異なる修飾物が修飾された電気化学計測用電極およびその製造方法を提供することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】本発明は、電極に流れる電流を利用して電極上のみに効率よく酵素/メディエータを修飾することにポイントがある。つまり、電極に電位を印加する、あるいは電流を流すという至極簡便な方法により、電極表面で例えば高分子が電気化学的に、すなわち、酸化あるいは還元されて堆積する際に、同時に酵素/メディエータを電極上に固定する(下記実施例1〜4)。高分子とは、分子量が10000以上の分子で、主として共有結合で連なり、ある構造単位が規則的に繰り返された構造になっている化合物である。なお、本発明では、酵素/メディエータが結合しているような高分子を用いることも可能である(例えば、後述のポリビニルビピリジンは、西洋ワサビペルオキシダーゼという酵素と、オスミウムビピリジン([Os(bpy)Cl]2+/3+)という電子移動メディエータが共有結合で結合している)。
【0021】あるいは、電極表面で単分子(高分子ではない分子。低分子)が重合されて高分子になる際に同時に酵素/メディエータを取り込み、膜として電極表面に固定する。なお、本発明では、単分子あるいは高分子がメディエータとしての役割を担う場合もある。例えば後述のトルイジンブルーは単分子であるが、電子移動メディエータでもある(下記実施例5)。
【0022】本発明では、同一の酵素/メディエータを異なる電極上に修飾することにより、異なる領域における特定物質の分布の変化を観察することが可能である。また、異なる酵素/メディエータを異なる電極上に修飾することにより、同時に異なる物質を検出したり、濃度変化を観察することが可能である。前者の場合は、生体試料内の特定の物質の分布の変化に、後者の場合は、フローインジェクション法や高速液体クロマトグラフィなどと組み合わせ、均一の溶液中に含まれる複数の物質の分析にも使用することが可能である。
【0023】また、本発明では、電流量によって反応や重合の程度を制御できると同時に、固定される酵素/メディエータの量を制御することが可能である。また、電流を流していない電極には、高分子の生成・析出や酵素/メディエータの修飾も行われないため、酵素/メディエータを修飾させる電極を、非常に簡単な方法で任意に選択することも可能である。さらに、ある酵素/メディエータを含む溶液中で所定の電極群に電流を流してこれらの電極上にその酵素/メディエータを修飾させた後に、溶液を交換して別の酵素/メディエータを含む溶液中で、任意に選択した別の電流群に電流を流して、別の酵素/メディエータを修飾させることも可能である。また、修飾された修飾物である電気化学的に活性な物質は電極上にのみ存在するため、電極間の電流の相互干渉を低減できる。さらに、修飾された酵素の絶対量を少なくするように制御できるため、測定対象である基質の消費を極力抑えることが可能で、基質の濃度が低くなるのを抑制し、基質の濃度を正確に測定することができる。
【0024】本発明では、非常に微小な電極に対しても任意の電極上のみに、酵素/メディエータを精度良く修飾させることを可能にし、複数の物質を検出できる微小なセンサとしても極めて有効であり、また、特定の物質を異なる位置で同時に計測し、二次元あるいは三次元における濃度分布の変化を求めることも可能である。
【0025】
【実施例】以下、図面を用いて本発明の実施例について詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0026】実施例1図1は、本実施例にかかる酵素/メディエータを修飾する際に使用した電極(作用極)を説明する上面図である。
【0027】1は基板、2は電極(作用極)、3はリード部である。
【0028】本実施例では、基板(例えばガラス基板)1上に平板酸化インジウムスズ薄膜を形成した後、リソグラフィーにより一辺20μmの正方形の電極2からなる微小平板電極アレイを作製して使用した。電極2のリード部3は絶縁膜(図示省略)で完全に覆い、溶液とは接触しないようにした。本実施例では電極2以外の基板1上が覆われている。平板アレイ電極以外にも、一般的に用いられている円盤電極、平板電極の他、微小針型電極なども使用可能である。電極2の材料としては、酸化インジウムスズ以外にも金、白金等の金属や金属酸化物、炭素などを用いる場合もある。参照極あるいは対極は、基板1上に作用極と同様に作製される場合もある。
【0029】図2は、本実施例にかかる酵素/メディエータを修飾する際に使用した装置の概略構成を示す図である。
【0030】4はマルチポテンシオスタット、5はパーソナルコンピュータ、1は基板、6は測定用セル(底のない円筒状のガラスと基板1とが一体化され形成されている)、7は溶液、8は参照極、9は対極、10は倒立顕微鏡、11はCCD(チャージ カプルド デバイス)、12はシールドボックス、13はモニタ、14は接地である。電極(作用極)2およびリード部3は拡大して示した。
【0031】マルチポテンシオスタット4(北斗電工製)を用いて、測定用セル6内に設置した複数の電極2の電位をそれぞれ制御し、それぞれの電極2上を酵素/メディエータを修飾した。各々の電極2の電位等の制御、および電流値等のモニタリングは、パーソナルコンピュータ5によって行った。参照極8には銀/塩化銀電極を、対極9には白金線を用いた。本実施例では、3電極法(作用極、対極、参照極)を用い、作用極(電極2)が複数の場合を示したが、電流値が極微量の場合は、検出は2電極法(作用極と、対極を兼ねた参照極)でも行うことができる。必要であれば、電極2とマルチポテンシオスタット4との間に電流増幅器を用いる場合もある。
【0032】西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼと[Os(bpy)Cl]2+/3+(オスミウムビピリジン)を含有するポリビニルビピリジン溶液を含むリン酸緩衝液(pH7.4)を図2のセル6の中に入れ、電極2の電位を掃引して酵素(西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ)および電子移動メディエータ([Os(bpy)Cl]2+/3+)を電極2上に修飾した。なお、高分子であるポリビニルビピリジンは、西洋ワサビペルオキシダーゼという酵素と、[Os(bpy)Cl]2+/3+という電子移動メディエータが共有結合で結合している。電極2の電位を掃引する以外にも、電極2の電位を固定する、電極2に電位のステップを印加する、電極2に流れる電流を制御する、などの方法も有効である。
【0033】次に、図2に示す装置と同様の装置を用い、酵素/メディエータを修飾した電極2の過酸化水素に対するセンシング特性を検討した。セル6中の修飾溶液を測定溶液(pH7.4、HEPES緩衝液)に入れ替え、各電極2の電位を−100mVに固定し、過酸化水素を溶液に添加した際の各電極2における電流応答値(還元電流値)を測定した。その結果を図3に示す。図中の矢頭(黒色下向き三角)は、過酸化水素の添加を示し、それぞれ最終濃度80、200、320、460、580μモル/lを示す。
【0034】過酸化水素を溶液に添加すると、電極2上に修飾された酵素の西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼの酵素反応により、電極2はメディエータ[Os(bpy)Cl]3+)還元電流を検出することになる。つまり、過酸化水素が西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼにより酸化されて水分子を生成し、同時にメディエータ[Os(bpy)Cl]2+が酸化されてメディエータ[Os(bpy)Cl]3+を生成する。−100mVはメディエータ[Os(bpy)Cl]3+が十分還元される電位であるため、電極2でその還元電流の変化を測定することにより、過酸化水素の濃度を算出するというのが過酸化水素のセンシングの原理である。図3では、過酸化水素に対して還元電流値の増加が観察された。電極2間の応答は互いに独立であることを確認し、顕微鏡9およびモニタ12でも電極2上のみに酵素が均一に修飾されていることを確認した。また、異なる酵素を用いることにより、過酸化水素以外の物質も測定することが可能である。
【0035】実施例2本実施例では、図1で示した電極2と材料および寸法が同じ平板アレイ電極と、図2に示した装置を使用し、複数の電極2上に2種類の酵素を修飾した例を示す。
【0036】本実施例では、基板(ガラス基板)1上に平板酸化インジウムスズ薄膜を形成した後、リソグラフィーにより一辺20μmの正方形の電極2からなる微小平板電極アレイを作製して使用した。電極2のリード部3は絶縁膜(図示省略)で完全に覆い、溶液とは接触しないようにした。平板アレイ電極以外にも、一般的に用いられている円盤電極、平板電極の他、微小針型電極なども使用可能である。電極2の材料としては、酸化インジウムスズ以外にも金属や金属酸化物、炭素などを用いる場合もある。参照極8には銀/塩化銀電極を、対極9には白金線を用いたが、参照極8あるいは対極9は、基板1上に作用極(電極2)と同様に作製される場合もある。また、本実施例では、3電極法で作用極(電極2)が複数の場合を示したが、電流値が極微量の場合は、検出は2電極法でも行うことができる。必要であれば、電流増幅器を用いる場合もある。
【0037】電極2への酵素/メディエータの修飾方法は、以下の通りである。西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼと[Os(bpy)Cl]2+/3+を含有するポリビニルビピリジン溶液と、グルタミン酸オキシダーゼを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を図2のセル6中に入れ、電極2の電位を掃引して酵素(西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼとグルタミン酸オキシダーゼ)および電子移動メディエータ([Os(bpy)Cl]2+/3+)を電極2上に修飾した。
【0038】次に、セル6中の修飾溶液を測定溶液(pH7.4、HEPES緩衝液)に入れ替え、各電極2の電位を−100mVに固定し、グルタミン酸を溶液に添加した際の各電極2における電流応答値(還元電流値)を測定した。その結果を図4に示す。図中の黒い矢頭(黒色下向き三角)は、グルタミン酸の添加を示し、それぞれ最終濃度17、29、38、47μモル/lを示し、白い矢頭(白色下向き三角)は、最終濃度27μMのアスコルビン酸の添加を示す。
【0039】グルタミン酸の添加により、電極2はメディエータ[Os(bpy)Cl]3+の還元電流を検出する。つまり、グルタミン酸がグルタミン酸オキシダーゼにより酸化されて過酸化水素を生成し、その過酸化水素が西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼにより還元され、同時にメディエータ[Os(bpy)Cl]2+が酸化される。メディエータ[Os(bpy)Cl]3+の還元電流の変化を測定することにより、グルタミン酸の濃度を算出できる。この結果から、グルタミン酸の濃度の増加に応じた還元電流の増加が観測されることが分かった。妨害物質の1つであるアスコルビン酸に対する応答は小さく、また、アスコルビン酸存在下でもグルタミン酸の濃度変化を検出できることが確認された。各々の電極2間の応答は互いに独立であることを確認し、顕微鏡10およびモニタ13でも電極2上のみに酵素が均一に修飾されていることを確認した。
【0040】実施例3本実施例では、実施例2の方法により、複数の電極2上に酵素/メディエータを修飾し、それを生体試料測定に用いた例を示す。
【0041】図1で示した電極2と材料および寸法が同じ平板アレイ電極と、図2の装置を使用した。基板(ガラス基板)1上に平板酸化インジウムスズ薄膜を形成した後、リソグラフィーにより一辺20μmの正方形の電極2からなる微小平板電極アレイを作製して使用した。電極2のリード部3は絶縁膜(図示省略)で完全に覆い、溶液とは接触しないようにした。平板アレイ電極以外にも、一般的に用いられている円盤電極、平板電極の他、微小針型電極なども使用可能である。電極2の材料としては、酸化インジウムスズ以外にも金属や金属酸化物、炭素などを用いる場合もある。参照極8には銀/塩化銀電極を、対極9には白金線を用いたが、参照極8あるいは対極9は、基板1上に作用極(電極2)と同様に作製される場合もある。また、本実施例では、3電極法で作用極(電極2)が複数の場合を示したが、電流値が極微量の場合は、検出は2電極法でも行うことができる。必要であれば、電流増幅器を用いる場合もある。
【0042】図2のセル6中に、西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼと[Os(bpy)Cl]2+/3+を含有するポリビニルビピリジン溶液と、グルタミン酸オキシダーゼを含むリン酸緩衝液(pH7.4)を入れ、電極2の電位を掃引することにより酵素の西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼとグルタミン酸オキシダーゼ、および電子移動メディエータ[Os(bpy)Cl]2+/3+を電極2上に修飾した。
【0043】図5は、生体試料を測定する際に使用した装置の概略構成を示す図である。
【0044】15は海馬切片(スライス)、16はナイロンメッシュ、17はテフロン(登録商標)チューブである。
【0045】生後2日目のウィスタ(Wistar)系ラットの海馬切片15(400μm厚)を、電極2からなる電極アレイ上に静置し、ナイロンメッシュ16を用いて密着させた。測定は、HEPES緩衝溶液(pH7.4)中で行い、マルチポテンシオスタット4により電極2の電位−100mVで電流変化を観察した。グルタミン酸を放出させる刺激にはミューシモル(Muscimol)を用い、インジェクションポンプによりテフロンチューブ17から測定溶液中に注入した。
【0046】その結果、ミューシモル添加に対して、同一切片15内でも部位により異なるグルタミン酸の濃度変化を示すことが観察された。つまり、本実施例による電極2により、ラット海馬内の神経細胞間の情報伝達を担う代表的な神経伝達物質であるグルタミン酸のリアルタイム多点計測が可能となった。これにより、脳における記憶のメカニズムのみならず、グルタミン酸の生体内での作用に関する知見を得ることが可能となる。
【0047】実施例4本実施例では、酵素であるグルコースオキシダーゼおよび高分子であるポリビニルフェロセンを修飾した例を示す。
【0048】図1で示した電極2と材料および寸法が同じ平板アレイ電極と、図2の装置を使用した。基板(ガラス基板)1上に平板酸化インジウムスズ薄膜を形成した後、リソグラフィーにより一辺20μmの正方形の電極2からなる微小平板電極アレイを作製して使用した。電極2のリード部3は絶縁膜(図示省略)で完全に覆い、溶液とは接触しないようにした。平板アレイ電極以外にも、一般的に用いられている円盤電極、平板電極の他、微小針型電極なども使用可能である。電極2の材料としては、酸化インジウムスズ以外にも金属や金属酸化物、炭素などを用いる場合もある。参照極8には銀/塩化銀電極を、対極9には白金線を用いたが、参照極8あるいは対極9は、基板1上に作用極(電極2)と同様に作製される場合もある。また、本実施例では、3電極法で作用極(電極2)が複数の場合を示したが、電流値が極微量の場合は、検出は2電極法でも行うことができる。必要であれば、電流増幅器を用いる場合もある。
【0049】ポリビニルフェロセンおよびグルコースオキシダーゼを含むHEPES緩衝溶液(pH7.4)を図2のセル6内に入れ、複数の電極2の電位を掃引することにより、複数の電極2上にポリビニルフェロセンおよびグルコースオキシダーゼを修飾した。その後、セル6内の溶液をHEPES緩衝溶液(pH7.4)に交換し、電極2の電位を500mVに固定してグルコースの添加に対する各電極2の電流応答値(酸化電流値)を調べた。その結果を図6に示す。図中の矢頭(黒色下向き三角)は、グルコースの添加を示し、それぞれ最終濃度12、35、75、110μモル/lを示す。
【0050】図6に示すように、グルコースの添加に対して酸化電流の増加が観察された。グルコースは、グルコースオキシダーゼにより酸化され、同時にポリビニルフェロセン中のフェロセンが還元される。観測された電流は、還元体のフェロセンを各電極2上で酸化するために観察される酸化電流である。この結果から、各電極に高分子であるポリビニルフェロセンとグルコースオキシダーゼが修飾されたことが確認できた。
【0051】実施例5本実施例では、アレイ中の異なる電極2上に異なる酵素を修飾した例を示す。
【0052】図1で示した電極2と材料および寸法が同じ平板アレイ電極と、図2の装置を使用した。基板(ガラス基板)1上にリソグラフィーにより作製した一辺20μmの正方形の金の電極2からなる微小平板電極アレイを使用した。電極2のリード部3は絶縁膜(図示省略)で完全に覆い、溶液とは接触しないようにした。平板アレイ電極以外にも、一般的に用いられている円盤電極、平板電極の他、微小針型電極なども使用可能である。電極2の材料としては、金以外の金属や金属酸化物、炭素などを用いる場合もある。参照極8には銀/塩化銀電極を、対極9には白金線を用いたが、参照極8あるいは対極9は、基板1上に作用極(電極2)と同様に作製される場合もある。また、本実施例では、3電極法で作用極(電極2)が複数の場合を示したが、電流値が極微量の場合は、検出は2電極法でも行うことができる。必要であれば、電流増幅器を用いる場合もある。
【0053】単分子であるトルイジンブルーおよびグルコースオキシダーゼを含むHEPES緩衝溶液(pH7.4)を図2のセル6内に入れ、複数の電極2の電位を掃引し、その後さらにこれらの電極2の電位を1.2Vに固定することにより、複数の電極2(A群)上にグルコースオキシダーゼを修飾した。
【0054】続いて、セル6内の溶液をトルイジンブルーおよび西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼを含むHEPES緩衝溶液(pH7.4)に交換し、A群の電極2とは異なる複数の電極2(B群)の電位を掃引し、さらにこれらの電極2の電位を1.2Vに固定することにより、複数の電極2(B群)上に西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼを修飾した。
【0055】その後、セル6内の溶液をHEPES緩衝溶液(pH7.4)に交換し、電極2(A群及びB群)の電位を500mVに固定してグルコースおよび過酸化水素の添加に対する各電極2の電流応答値(酸化電流値)を調べた。その結果を図7に示す。図中の黒い矢頭(黒色下向き三角)は、グルコースの添加を示し、それぞれ最終濃度0.1、0.4、0.8ミリモル/lを示し、白い矢頭(白色下向き三角)は、過酸化水素の添加を示し、それぞれ最終濃度0.1、0.2、0.5ミリモル/lを示す。
【0056】グルコースの添加に対してA群の電極2において酸化電流の増加が観察されたが、B群の電極2ではほとんど電流値に変化が見られなかった。一方、過酸化水素を溶液中に添加した場合は、B群の電極2において酸化電流の増加が観察されたが、A群の電極2ではほとんど電流値に変化が見られなかった。このとき、グルコースはグルコースオキシダーゼにより酸化され、同時にトルイジンブルー分子が電子移動メディエータとなってグルコースオキシダーゼにより還元され、電極2上で酸化されるため、酸化電流が観察される。また、過酸化水素は西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼにより酸化され、同時にトルイジンブルー分子が電子移動メディエータとなって西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼにより還元され、電極2上で酸化されるため、酸化電流が観察される。
【0057】この結果から、A群、B群の電極2とも、電極2の電位を変化させることによって、電極2上にトルイジンブルーが析出したと同時にそれぞれの酵素を電極2上に修飾することができた。
【0058】上記各実施例における酵素/メディエータにより修飾した電気化学計測用電極は、微小電極の持つ優れた特性を生かしながら、酵素が有する特異性を有効に活用でき、さらに多点計測をも可能にする優れた手法である。微小電極上に酵素/メディエータを修飾した場合、任意の微小領域における特定物質の濃度変化を、濃度の増加、減少ともに感度良く検出することができる。
【0059】また、実施例3のように、生体試料等を対象にした場合は、測定時に生体試料に悪影響を与えることも少ないため、長時間の測定あるいは連続測定が可能である。複数の電極に修飾して計測した場合、特定の物質の分布や、刺激に対する分布の変化を把握することで、生体におけるその物質の作用やメカニズムを解明することが可能である。
【0060】また、実施例5のように、複数の微小電極上にそれぞれ異なる酵素/メディエータを修飾した場合は、電極という簡便な手法によるマルチセンシングが可能となり、例えば、フローインジェクションや高速液体クロマトグラフィの検出器として複数の物質を同時に電気化学検出することが可能である。
【0061】さらに、修飾された酵素の絶対量が少ないため、目的物質である基質の消費が抑えられ、正確な測定が可能となる。
【0062】このように、上記実施例においては、既存の微小電極アレイの電極のみに酵素/メディエータを修飾することで、簡便な方法で高性能な「その場」測定ができ、近年社会的に注目されている水質分析などの環境分野などでのリアルタイムマルチセンシングや、複数の細胞や生体組織を対象にした神経伝達物質の分布のリアルタイムモニタリングなどにきわめて有効であり、利用範囲が広い。
【0063】以上本発明を実施例に基づいて具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。例えば、実施例1〜4では、高分子が電気化学的に、すなわち、酸化あるいは還元されて堆積する際に、同時に修飾物である酵素/メディエータを電極上に修飾したが、実施例5のように、単分子(高分子ではない分子。低分子)を用いて修飾してもよい。具体的には、トルイジンブルー以外にもピロールやアニリンなどの単分子を電気化学的に電極表面に重合させるときに同時に酵素/メディエータを取り込むことが可能である。この場合、単分子はいわゆるバインダー(架橋剤、固定化剤、担体)的な役割を果たすこともあるし、さらにメディエータとして働く場合もある。単分子がメディエータとして働く場合は、メディエータとなる分子の修飾は不要である。
【0064】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、単数あるいは複数の任意の電極上のみに修飾物が修飾された電気化学計測用電極およびその製造方法を提供することができる。また、複数の電極のうちの任意の電極上に、異なる修飾物が修飾された電気化学計測用電極およびその製造方法を提供することができる。本発明では、簡便な方法で高性能な「その場」測定ができ、近年社会的に注目されている水質分析などの環境分野などでのリアルタイムマルチセンシングや、複数の細胞や生体組織を対象にした神経伝達物質の分布のリアルタイムモニタリングなどにきわめて有効であり、利用範囲が広い。
【出願人】 【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
【出願日】 平成12年9月1日(2000.9.1)
【代理人】 【識別番号】100075753
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 良彦 (外2名)
【公開番号】 特開2002−71620(P2002−71620A)
【公開日】 平成14年3月12日(2002.3.12)
【出願番号】 特願2000−265484(P2000−265484)