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【発明の名称】 鋼構造物の腐食速度のその場測定方法
【発明者】 【氏名】片山 英樹

【氏名】山本 正弘

【要約】 【課題】鋼構造物の様々な部位に絶縁層を介して、鋼製ピンとの間で交流測定を行うことにより、鋼構造物の部位別の腐食状況を連続的にかつリアルタイムに測定することを可能とする。

【解決手段】鋼構造物の一部に挿入するセンサー電極として、狭い幅の絶縁層を挟んで電気化学的性質の類似する鋼材料で製造されたピンを挿入し、鋼構造物本体と鋼製ピンとの間に電圧10mV以上50mV未満の交流を印加し、周波数0.01Hz以下及び10KHz以上の2点の交流抵抗値を測定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼構造物の一部にセンサー電極を挿入することにより2電極式で連続測定を行うことを特徴とする鋼構造物の腐食速度のその場測定方法。
【請求項2】 請求項1において、鋼構造物の一部に挿入するセンサー電極として、狭い幅の絶縁層を挟んで鋼構造物と電気化学的性質の類似する鋼材料で製造されたピンを挿入し、鋼構造物本体と鋼製ピンとの間に電圧10mV以上50mV未満の交流を印加し、周波数0.01Hz以下及び10KHz以上の2点の交流抵抗値を測定することを特徴とする鋼構造物の腐食速度のその場測定方法。
【請求項3】請求項2において、前記鋼製のピンの形状が直径1mm以上50mm未満の円筒状であることを特徴とする鋼構造物の腐食速度のその場測定方法。
【請求項4】請求項2又は3において前記狭い絶縁層の幅が10μm以上100μm以下であることを特徴とする鋼構造物の腐食速度のその場測定方法。
【請求項5】請求項2ないし4のいずれかにおいて、前記電気化学的性質の類似は、3%食塩水中における浸漬電位の差異が50mV未満であるとしたことを特徴とする鋼構造物の腐食速度のその場測定方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、鋼構造物の腐食速度のその場測定方法に関し、橋梁、ビルディングに代表される鋼構造物の腐食速度、特に環境因子の変化に伴い時々刻々と変化する腐食速度を連続的にかつリアルタイムに測定することのできる測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその解決課題】鋼構造物の大気環境中における腐食は様々な環境因子の影響を受けており、非常に複雑で時々刻々と変化する。そのため、腐食の状況を連続的にかつリアルタイムに測定することは、橋梁、ビルディングに代表される鋼構造物の腐食性や寿命を評価する上で非常に重要である。大気環境中における金属材料の耐食性評価は、JIS−Z2381に規定された切板試験片の大気暴露による評価が主流であるが、大気暴露試験は、年単位のような長期での耐食性の比較はできるものの、その間での腐食現象の変化を捉えることはできず、また、通常は暴露試験場で行うため、どこでもできるという試験ではなかった。
【0003】一方、構造物を考えた場合、その形状は様々であり、各部位によってミクロな環境が異なるため、その腐食も部位ごとによって異なり、従来の切り板試験片を用いた暴露試験では、構造物のすべての部位の腐食状況を把握することは不可能である。
【0004】腐食性の変化を捉える方法としては、例えば、特開平7−113740号公報に開示されているが、この方法はコンピュータ室などの非常に緩やかな腐食現象での腐食性を調べるものであり、屋外のような環境によっては大きく腐食するような場所における腐食を評価することは不可能である。
【0005】また、構造物の各部位を考慮して腐食現象をモニタリングする方法としては、たとえば、特開昭59−145698号公報に示されているものがある。この方法は実際の使用環境に同じ材料の試験片を設置し、実使用後に評価するという方法であり、従来の暴露試験と同様に時々刻々と変化する腐食現象を捉えることはできなかった。
【0006】これに対し、この出願の発明は、鋼構造物の様々な部位に絶縁層を介して、鋼製ピンとの間で交流測定を行うことにより、鋼構造物の部位別の腐食状況を連続的にかつリアルタイムに測定することを可能とする測定方法である。
【0007】
【課題を解決するための手段】この出願の発明は、鋼構造物の一部にセンサー電極を挿入するこよにより2電極式で連続測定を行う鋼構造物の腐食速度のその場測定方法(請求項1)を提供する。
【0008】そして、この出願の発明は、センサー電極として、狭い幅の絶縁層を挟んで電気化学的性質の類似する鋼材料で製造されたピンを挿入し、鋼構造物本体と鋼製ピンとの間に電圧10mV以上50mV未満の交流を印加し、周波数0.01Hz以下及び10KHz以上の2点の交流抵抗値を測定する鋼構造物の腐食速度のその場測定方法(請求項2)を、さらに、鋼製のピンの形状を直径1mm以上50mm未満の円筒状とした鋼構造物の腐食速度のその場測定方法(請求項3)を提供する。
【0009】また、この出願の発明は、前記狭い絶縁層の幅を10μm以上100μm以下としたり(請求項4)、前記電気化学的性質が類似し、3%食塩水中における浸漬電位の差異を50mV以内とした鋼構造物の腐食速度のその場測定方法(請求項5)をも提供する。
【0010】
【実施の形態】この出願の発明における鋼構造物は、鋼製の橋梁、鉄骨構造を有する建造物など、広く鋼を使用する人工構造物で、とりわけ腐食による劣化が危惧されるものを包含する。
【0011】この出願の発明は、鋼構造物の一部にセンサー電極を挿入することにより、2電極式で腐食速度を連続的に測定を行うことを特徴とする。
【0012】さらに、この出願の発明は、これらの鋼構造物の腐食速度を測定するために電気化学的性質の類似したピンを絶縁層を挟んで挿入することが特徴である。この際の絶縁層の材質は特に規定するものではないが、電気抵抗が106 Ω以上が望ましい。
【0013】この出願の発明では、鋼構造物本体と鋼製ピンとの間に電圧10mV以上50mV未満の交流を印加し、周波数0.01Hz以下及び10KHz以上の2点の交流抵抗値を測定することを特徴とするが、これは実施例2に示したように、周波数0.01Hz以下と10KHz以上での交流抵抗値の差と腐食速度との間に相関があるという発見に基づいている。
【0014】この際に電圧10mV未満では測定値の精度が劣り、50mV以上では鋼構造物と鋼製ピンのどちらかを分極することになり、それぞれの表面状態が変化してしまうため、腐食速度とは異なる別の反応に起因する抵抗値が得られる。
【0015】この出願の発明のピンの形状については、方形や楕円形など特に規定するものではないが、円筒形の場合、腐食速度の測定において電極形状による異方性がなく、より正確な測定が行えるという特徴がある。
【0016】直径の大きさは電極の相対する部分(周の長さ)に比例するが、直径1mm未満の場合、測定する面積が小さくなるため、交流抵抗値が不安定で測定値の精度が劣り、50mm以上では、電極表面での電流の分布が生じるため、腐食速度に対応する正確な抵抗値を得ることができない。
【0017】また、この出願の発明では、絶縁層の幅の下限は特に規定するものではないが、10μm未満の場合、加工上の問題から電極間の絶縁が非常に困難であり、また100μmより大きい場合では、実施例3に示したように測定値に絶縁層の抵抗値の影響が生じるため、100μm以下と規定した。
【0018】さらに、この出願の発明では、インピーダンスの測定において2電極式手法を採るため、鋼構造物もしくはピン電極のどちらか一方が腐食進行する場合、腐食速度に対応しない抵抗値が得られる。そのため、本手法ではピンの材質について鋼構造物の腐食挙動と同一なものとすることが特徴である。
【0019】電気化学的性質としては、3%食塩水中における浸漬電位の差異が50mV未満の場合、ほぼ類似した腐食挙動をとることから、ピンの材質について電気化学的性質を規定する。
【0020】以下、実施例にしたがい、この出願の発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
【実施例】(実施例1)この出願の発明における測定システムが図1、図2に示される。
【0022】鋼構造物の各部位(1)(1)の中央部にセンサー電極(2)を4フッ化エチレンを重合した合成樹脂製の絶縁層(3)を挟んで挿入し、電流電圧測定装置(4)によりセンサー電極(2)と鋼構造物(1)との間に電圧10mV以上50mV未満の正弦交流電圧を印加する。
【0023】電圧と2電極間で流れる電流を周波数応答解析装置(5)で各周波数に対する電圧と電流の振幅と位相差を求め、高周波数側(例えば10KHz)及び低周波数側(例えば0.01KHz)のインピーダンスを求め、その差の逆数からコンピュータを用いて鋼構造物の腐食速度を連続的にかつリアルタイムに得ることができる。
【0024】測定する周波数については、図3に示すように、硫酸ナトリウム水溶液中におけるインピーダンスの周波数特性から10KHz以上及び0.01KHz以下では周波数依存性が殆どないことがわかる。
【0025】サンプルセンサーを用いてこの測定システムにより実際の屋外環境で測定した結果の一部を表1に示す。システムの測定条件は正弦交流電圧10mV、測定周波数は10KHz及び0.01Hzである。このシステムにより時間に対する腐食速度の変化がリアルタイムに測定可能であることがわかる。
【0026】
【表1】

【0027】(実施例2)図4に、実測した腐食深さと腐食速度から計算した腐食深さについて比較したグラフを示す。実施例1で用いたサンプルセンサーにより、恒温恒湿槽内で3%NaCl水溶液による腐食試験を行いながら図1のシステムにより腐食速度のその場測定を行ったときの結果である。システムの測定条件は正弦交流電圧10mV、測定周波数は10kHz及び0.01kHzである。
【0028】計算による腐食深さは得られた腐食速度について測定時間の積分により計算した値であり、実測した腐食深さは腐食試験後に表面の凹凸を光学的に測定したときの値である。両者の値は比例関係にあり、実測した腐食量と本発明の測定方法により得られた腐食量とが非常によく一致することが判る。
(実施例3)挿入したピン(2)の形状及び絶縁層の幅に付いては、サンプルセンサーを用いて決定した。その結果を表2に示す。ピン(2)の直径が1mm未満の場合、測定電極の大きさが非常に小さいため、正弦交流電圧に対する測定電流が非常に小さくなり、測定値の精度が劣り、また、50mm以上では、大気腐食がμmオーダーの水膜上で進行することから、鋼構造物とピン電極間に流れる電流分布が不均一になりやすくなる。そのため、本発明のようにピン(2)の直径を1mm以上、50mm未満にする必要がある。
【0029】絶縁層(3)については、4フッ化エチレンを重合した合成樹脂を用いた。これは、実施例1で用いたサンプルセンサーにおいて、絶縁層の幅を100μm、500μm、1000μmにしたときのインピーダンスの値である。
【0030】測定条件は正弦交流電圧10mV、測定周波数は10kHz及び0.01kHzであり、恒温恒湿槽内を温度25°C、相対湿度95%に保った状態で5%NaCl水溶液で測定した。この恒温恒湿槽内の条件では、サンプルセンサー上に形成される水膜は肉眼で確認できるほど非常に厚い。10kHzのときのインピーダンス値において、絶縁層の幅が500μm、1000μmのときの値は、100μmのときの値よりも大きくなっており、絶縁層の幅に起因する抵抗が生じている。
【0031】一方、0.01Hzのときのインピーダンス値においては、腐食速度が0.01Hzのときのインピーダンス値と10kHzのときのインピーダンス値との差の逆数に比例することから、10kHzのときのインピーダンス値と比較して十分大きい必要がある。
【0032】
【表2】

【0033】表2において、その差は絶縁層の幅が100μmの場合、約550Ωを示したが、その他の腐食センサでは殆ど差がなかった。
【0034】絶縁層の幅の下限値については、10μm未満の場合、両電極間の抵抗が1KΩ以下になり絶縁が不十分であるため、腐食速度に対応しない抵抗値が得られる。
(実施例4)挿入したピンの材質については、本測定システムにおいて市販の炭素鋼製のピン及び市販のステンレス鋼製のピンを電極としたときの測定データを表3に示す。
【0035】市販の炭素鋼製のピンは用いた鋼構造物と同一の材質であり、ステンレス鋼製のピンとは3%食塩水中における浸漬電位の差異が50mV以上である。用いたピン電極は直径25mm、幅100μmとし、測定条件は正弦交流電圧10mV、測定周波数は10kHz及び0.01Hzとした。
【0036】
【表3】

【0037】ステンレス鋼製のピン電極を用いた場合、10kHzのときのインピーダンス値はほとんど変わらないが、 0.01Hzでは、ほぼステンレス鋼製ピン電極自体のインピーダンス値が測定されており、実際の鋼構造物の腐食速度より非常に小さい値が測定される。
【0038】一方、鋼構造物と類似した電気化学的性質をもつ市販の炭素鋼製のピン電極では、鋼構造物の正確な腐食速度が得られている【0039】
【発明の効果】この出願の発明によれば、構造物の様々な部位における腐食状況について、構造物を破壊することなく常にモニターすることができるので、従来型の暴露試験とは異なる新しい腐食性及び寿命評価法として期待できる。
【0040】従来、構造物の腐食を調査する場合、破壊した後に評価するという手法や部分的な採取により評価するという手法などをとるため、非常に莫大な労力と費用が掛かっていた。この出願の発明によれば、非破壊で構造物の腐食状況を連続的にモニタすることが可能であり、また、コンピュータを用いることにより、遠隔操作も可能であるから、従来と比較して非常に簡便にかつ最小限の労力で測定が可能となり、その経済的効果は極めて大きい。
【出願人】 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
【出願日】 平成12年8月31日(2000.8.31)
【代理人】 【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
【公開番号】 特開2002−71616(P2002−71616A)
【公開日】 平成14年3月12日(2002.3.12)
【出願番号】 特願2000−264416(P2000−264416)