トップ :: E 固定構造物 :: E04 建築物

【発明の名称】 トグル式制振構造
【発明者】 【氏名】斉藤 啓一

【要約】 【課題】容量の小さなダンパーを用いて日常的な比較的小さい振幅の振動を効果的に抑えることができ、しかも、簡素でスリムな構造によりそれを実現することができる制振構造を提供する。

【解決手段】トグル腕8,9同士を枢結しこれら腕8,9を「く」の字状の屈折状態にして用いられるトグル式増幅機構6,7が対で備えられ、これらトグル式増幅機構6,7の枢結部10,10同士が振動減衰用のダンパー11で連結され、振動が各トグル機構6,7による増幅よりも大きな増幅でダンパー11に伝えられるようになされている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 トグル腕同士を枢結しこれら腕を「く」の字状の屈折状態にして用いられるトグル式増幅機構が対で備えられ、これらトグル式増幅機構の枢結部同士が振動減衰用のダンパーで連結され、振動が各トグル機構による増幅よりも大きな増幅でダンパーに伝えられるようになされていることを特徴とするトグル式制振構造。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、トグル式制振構造に関する。
【0002】
【従来の技術】建物等の構造物の制振構造として従来より様々なものが提供されている。例えば、図5(イ)に示す制振構造は、左右の柱1,2と上下の梁3,4とで囲まれた開口部の対角同士を、斜め方向に向けた油圧ダンパー51で連結したものである。
【0003】また、図5(ロ)に示す制振構造は、左右の柱1,2と下梁4との境界部から上梁3の長さ方向中央部へと斜め方向に延びる山形ブレース52を設け、この山形ブレース52の頂部と、上梁3とを油圧ダンパー53で連結したものである。
【0004】更に、図5(ハ)に示す制振構造は、トグル腕54,54同士を枢結しこれら腕54,54を「く」の字状の屈折状態にしたトグル式増幅機構55を用いて振動を減衰させるもので、このトグル式増幅機構55の一方の腕先端を上梁3の長さ方向中央部に枢結すると共に、もう一方の腕先端を左側の柱1と下梁4との境界部に枢結し、そして、腕同士の枢結部56を、左側の柱1と上梁3との境界部に、油圧ダンパー57を介して連結したものである。このトグル式制振構造では、トグル式増幅機構55が、柱1,2と梁3,4とで囲まれる開口部内に左右対で備えられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図5(イ)に示す制振構造では、水平振動時のダンパー51のストローク変位量が建物の層間変位量よりも小さくなるため、日常的な比較的小さい振幅の振動を抑えるためには、ダンパー51として、小さなストロークでも大きな制振力を発揮することができる、容量の大きいダンパーを使用しなければならないという問題があった。
【0006】また、図5(ロ)に示す制振構造では、水平振動時のダンパー53のストローク変位量は建物の層間変位量と同じになるが、日常的な比較的小さな振幅の振動を効果的に抑えるためには、ダンパー53として、図5(イ)の場合のダンパー51ほどではないが、依然として、容量の大きいものを使用する必要があった。しかも、この制振構造では、水平振動時に山形ブレース52に曲げ応力が伝わるため、山形ブレース52の部材断面を大きくしておかなければならないという問題もあった。
【0007】更に、図5(ハ)に示すトグル式制振構造では、水平振動時のダンパー57のストローク変位量が建物の層間変位量よりも大きくなり、小さな振幅の水平振動を大きな振幅の振動に増幅して、この増幅された振動がダンパー57に伝えられるため、図5(ロ)の場合のダンパー53に比べ容量の小さいダンパーを使用することができるという効果が発揮されるものの、それにも限界があった。また、トグル式増幅機構55を対で備えさせ、併せて、ダンパー57も対で備えさせているため、構造が複雑であるという問題もあった。
【0008】本発明は、上記のような従来の問題点に鑑み、容量の小さいダンパーを用いて日常的な比較的小さい振幅の振動を効果的に抑えることができ、しかも、簡素でスリムな構造によりそれを実現することができる制振構造を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の課題は、トグル腕同士を枢結しこれら腕を「く」の字状の屈折状態にして用いられるトグル式増幅機構が対で備えられ、これらトグル式増幅機構の枢結部同士が振動減衰用のダンパーで連結され、振動が各トグル機構による増幅よりも大きな増幅でダンパーに伝えられるようになされていることを特徴とするトグル式制振構造によって解決される。
【0010】このトグル式制振構造は、対で備えさせたトグル式増幅機構の腕同士の枢結部間の間隔寸法の振動による変化量を、これら増幅機構の設置の仕方によって、個々の増幅機構における腕同士の枢結部の変位量よりも大きくすることができることに着目してなされたもので、そのような設置の仕方をした対のトグル式増幅機構の腕同士の枢結部をダンパーで連結して、振動の振幅を、各トグル式増幅機構による増幅よりも大きく増幅させてダンパーに伝えるようにしたものである。従って、このトグル式増幅機構によれば、振動の振幅を、従来のトグル式制振構造による場合よりも大きく増幅させてダンパーに伝えることができ、容量の小さいダンパーを用いて日常的な比較的小さな振幅の振動を効果的に抑えることができる。
【0011】しかも、トグル式増幅機構を用いて、トグル腕同士の枢結部同士をダンパーで連結したものであるから、振動時に腕に曲げ応力が作用することもなく、トグル腕として断面サイズの小さいスリムな腕を使用することができ、加えて、ダンパーは対のトグル式増幅機構に1つ備えさせればよく、簡素な制振構造を実現することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】図1に示す第1実施形態のトグル式制振構造は、建物に適用した場合のもので、1,2は左右の柱、3,4は上下階の梁であり、これら柱1,2、梁3,4に囲まれた内部にトグル式制振装置5が組み込まれている。
【0014】このトグル式制振装置5は、第1,第2の2つのトグル式増幅機構6,7を備えており、各トグル式増幅機構は、トグル腕8,9同士を枢結しこれら腕8,9を「く」の字状の屈折状態にして用いられるものである。第1、第2のトグル式増幅機構6,7は、それらの一方のトグル腕8,8の先端部がそれぞれ上梁3の長さ方向中間部に枢結され、第1トグル式増幅機構6におけるもう一方のトグル腕9の先端部は、上梁3との枢結部よりも左側に寄った位置において下梁4に枢結されている。また、第2トグル式増幅機構におけるもう一方のトグル腕9の先端部は、上梁3との枢結部よりも右側に寄った位置において下梁4に枢結されている。
【0015】そして、第1トグル式増幅機構6は、トグル腕8,9同士の枢結部10が、上梁3との枢結点と下梁4との枢結点とを結ぶ直線を挟んで右側に偏って位置するように「く」の字状に屈折されている。また、第2トグル式増幅機構7は、トグル腕8,9同士の枢結部10が、上梁3との枢結点と下梁4との枢結点とを結ぶ直線を挟んで同じく右側に偏って位置するように「く」の字状に屈折されている。
【0016】振動減衰用ダンパーとしての油圧ダンパー11は、1つ用いられ、第1,第2のトグル式増幅機構6,7の腕8,9同士の枢結部10,10同士を連結している。
【0017】上記のトグル式制振構造では、図2(イ)に示すように、水平振動によって上梁3が下梁4に対して相対的に右方向に水平変位をすると、第1トグル式増幅機構6は引っ張られて屈折を小さくしていき、第2トグル式増幅機構7は押されて屈折を更に大きくしていき、これによって、各トグル式増幅機構6,7の腕枢結部10,10間の間隔寸法は大きくなり、この間隔寸法の変化量は、振動による水平変位量よりも大である。これにより、水平振動は、増幅されてダンパー11に伝えられ、効果的に減衰していく。因みに、図面に示す形式の制振構造では、振動による右方向の変位量を、対のトグル式増幅機構6,7によって、2.2倍程度に増幅してダンパー11に伝えることができる。トグル腕の角度や取付け位置を選択することによって、より大きく増幅させることも可能である。
【0018】一方、図2(ロ)に示すように、水平振動によって上梁3が下梁4に対して相対的に左方向に水平変位をすると、第1トグル式増幅機構6は押されて屈折を大きくしていき、第2トグル式増幅機構7は引っ張られて屈折を小さくしていき、これによって、各トグル式増幅機構の腕枢結部10,10間の間隔寸法は小さくなり、この間隔寸法の変化量は、振動による水平変位量よりも大である。これにより、水平振動は、増幅されてダンパー11に伝えられ、効果的に減衰していく。因みに、図面に示す形式の制振構造では、振動による左方向の変位量を、対のトグル式増幅機構6,7によって、2.5倍程度に増幅してダンパー11に伝えることができる。トグル腕の角度や取付け位置を選択することによって更に大きく増幅させることも可能である。
【0019】図3(イ)に示す第2実施形態のトグル式制振構造では、第1、第2のトグル式増幅機構6,7の一方のトグル腕8,8の先端部が階上梁3の長さ方向中央ないしは中間部分に枢結されると共に、もう一方のトグル腕9,9の先端が階上梁3との枢結部の真下位置において階下梁4に枢結されている。そして、第1トグル式増幅機構6は、トグル腕8,9同士の枢結部10が、上梁3との枢結点と下梁4との枢結点とを結ぶ直線を挟んで左側に偏って位置するように「く」の字状に屈折され、第2トグル式増幅機構7は、トグル腕同士の枢結部10が、上梁3との枢結点と下梁4との枢結点とを結ぶ直線を挟んで右側に偏って位置するように「く」の字状に屈折されている。油圧ダンパー11は、同じく一つ備えられ、第1,第2のトグル式増幅機構6,7の腕8,9同士の枢結部10,10同士を連結している。
【0020】このトグル式制振構造では、図3(ロ)に示すように、垂直方向の振動によって上梁3が下梁4に対して相対的に上方に変位をすると、第1、第2の両トグル式増幅機構6,7がいずれも引っ張られて屈折を小さくしていき、これによって、各トグル式増幅機構の腕枢結部10,10間の間隔寸法は小さくなり、その寸法の変化量は、振動による垂直変位量よりも大である。これにより、垂直振動は、増幅されてダンパー11に伝えられ、効果的に減衰していく。因みに、同図に示す形式の制振構造では、振動による上方向の変位量を、対のトグル式増幅機構6,7によって、2.7倍程度に増幅してダンパー11に伝えることができる。
【0021】図4(イ)に示す第3実施形態のトグル式制振構造では、第1実施形態の制振構造において、第1トグル式増幅機構6のトグル腕8,9同士の枢結部10が、上梁3との枢結点と下梁4との枢結点とを結ぶ直線を挟んで左側に偏って位置するように「く」の字状に屈折されている。その他は、概ね第1実施形態と同様である。
【0022】このトグル式制振構造では、図4(ロ)に示すように、垂直方向の振動によって上梁3が下梁4に対して相対的に上方に変位をすると、第1、第2の両トグル式増幅機構6,7がいずれも引っ張られて屈折を小さくしていき、これによって、各トグル式増幅機構の腕枢結部10,10間の間隔寸法は小さくなり、その寸法の変化量は、振動による垂直変位量よりも大である。これにより、垂直振動は、増幅されてダンパー11に伝えられ、効果的に減衰していく。因みに、同図に示す形式の制振構造では、振動による上方向の変位量を、対のトグル式増幅機構6,7によって、2.2倍程度に増幅してダンパー11に伝えることができる。また、このトグル式制振構造では、振動による水平方向の変位に対しても、その変位量と同等程度ないしはそれを越える増幅で振動がダンパー11に伝えられる。
【0023】以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、第1,第2の対のトグル式増幅機構の設置状態における屈折角度は種々変更されてよいし、また、梁や柱への枢結位置も種々変更されてよいし、トグル式増幅機構として、長さ寸法の同じ腕同士を枢結したもののほか、長さ寸法を異にする腕同士を枢結したものが用いられてもよい。また、本発明のトグル式制振構造は、建物に限らず、各種構造物に広く用いることができるものであることはいうまでもない。また、本発明の制振構造が対象とする振動の方向は、上記の各実施形態で述べているような水平方向や垂直方向に限らず、種々の方向であってよい。また、本発明のトグル式制振構造は、図5(ハ)に示す従来のトグル式制振構造の場合よりも大きな増幅効果を得ることができるように構成することができるものであるが、本発明のトグル式増幅構造の趣旨からは、必ずしも上記の従来のトグル式制振構造による増幅効果との対比でそれを越える増幅効果を発揮する構造に構成されていることを要件とするものではなく、要は、発明の範囲内で、実際の振動を増幅してダンパーに伝えることができるものであればよい。
【0024】
【発明の効果】本発明のトグル式制振構造は、以上のとおりのものであるから、容量の小さいダンパーを用いて日常的な比較的小さい振幅の振動を効果的に抑えることができ、しかも、簡素でスリムな構造によりそれを実現することができる。
【出願人】 【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
【出願日】 平成12年6月26日(2000.6.26)
【代理人】 【識別番号】100104525
【弁理士】
【氏名又は名称】播磨 祐之
【公開番号】 特開2002−4629(P2002−4629A)
【公開日】 平成14年1月9日(2002.1.9)
【出願番号】 特願2000−191822(P2000−191822)