トップ :: E 固定構造物 :: E04 建築物

【発明の名称】 制振骨組構造及び建築物
【発明者】 【氏名】小坂 英之

【要約】 【課題】高層や中層などの建物の高さに拘わらず、建物の構造設計に制約を与えずに好適な制振効果を得ることができ、また必要なエネルギー吸収装置の数を極力少なくできて建設コストを低くすること。

【解決手段】高減衰骨組部F1の上階に配置され、複数階を有する高剛性骨組部F2と、を接合した制振骨組構造体Fであって、高減衰骨組部F1は、エネルギー吸収装置15を配設した骨組によって、所定の複数階に構成され、高剛性骨組部F2は、連層耐震壁11を配設した骨組によって構成され、高剛性骨組部F2の水平剛性を、高減衰骨組部F1の水平剛性より大きくした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 高減衰骨組部と、該高減衰骨組部の上階に配置され、複数階を有する高剛性骨組部と、を接合した制振骨組構造であって、前記高減衰骨組部は、エネルギー吸収手段を配設した骨組によって、所定の複数階に構成され、前記高剛性骨組部は、剛性手段を配設した骨組によって構成され、高剛性骨組部の水平剛性を、高減衰骨組部の水平剛性より大きくした、ことを特徴とする制振骨組構造。
【請求項2】前記高減衰骨組部と前記高剛性骨組部から成る組合せを、上下方向に複数組有する、ことを特徴とする請求項1に記載の制振骨組構造。
【請求項3】前記高減衰骨組部の階数は、構築される制振骨組構造の固有周期及び固有振動形に対応して設定される、ことを特徴とする請求項1または2に記載の制振骨組構造。
【請求項4】前記エネルギー吸収手段は、前記高減衰骨組部の上下階問に配設されたダンパーからなる、ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の制振骨組構造。
【請求項5】前記ダンパーは、粘性型ダンパー、粘弾性型ダンパー、履歴型ダンパーのいずれかである、ことを特徴とする請求項4に記載の制振骨組構造。
【請求項6】前記剛性手段は、耐震壁、ブレース、耐震問柱、制振壁のいずれか1つ以上によって構成された、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の制振骨組構造。
【請求項7】請求項1から6のいずれかに記載の制振骨組構造を有する建築物であって、複数階に亘って形成された住戸階と、前記住戸階の下階に形成された商業用途階と、を有し、前記住戸階と前記商業用途階とにより複合用途に供される、ことを特徴とする建築物。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数階を有する住戸階の下階に、店舗、事務所、ホテルなどの商業用途階を設けた複合用途に供される建築物に好適に用いられる、耐震性能に優れた制振骨組構造及び建築物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、建物における震動を制御する方法として免震構造及び制振構造という考え方があり、ともに様々な装置を利用して多くの実施例がある。
【0003】例えば免震とは、建物を積層ゴムで支える構成からなり、地震時にはこの積層ゴム部分の水平変形によりエネルギーを吸収し、建物に対する加速度を低減して地震の揺れをかわすものである。
【0004】また制振構造では、建物の層間(階と階の間)、外側、頂部等に種々のエネルギー吸収装置を設置して構成され、これらエネルギー吸収装置により地震の揺れを吸収するものである。エネルギー吸収装置には、壁を利用したタイプや、ブレース(筋交い)タイプ、などがある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、免震を高層建物(細高比が大きい低層建物でも同様)に適用する場合、大地震時に建物が大きく揺れて転倒しようとする力(転倒モーメント)が積層ゴムに作用する。即ち、積層ゴムに大きな引張力がかかるという問題がある。積層ゴムはこのような引張力に弱いので、積層ゴムにかかる長期の柱軸力を大きくしたり、積層ゴムの配置をできるだけ建物の外周側に配置する等により、上記引張力を低減させる工夫が施されている。しかし周知の如く、このような工夫を実現するには建物の構造設計に多くの制約を与えるものとなる。
【0006】また制振を採用する場合には、上記エネルギー吸収装置を建物の大部分の階に設置する必要があった。これは、地震時の建物はいろいろな振動モードで揺れるので、どのような振動モードでも効果的にエネルギーを吸収するためである。建物が高層になればなるほど、必要となるエネルギー吸収装置の数も多くなり、その分、建設コストも増加する。
【0007】更に建物が高層になればなるほど、建物の地震時に各階に生じる水平変形は、せん断変形に比べて曲げ変形の割合が大きくなる性質がある。従って、階と階の間にエネルギー吸収装置を設置するタイプの制振では、建物が高層化すればするほど制振効率が小さくなる。なお公知例として、高層建物の外部側に該建物の頂部と基部を結ぶ形で制振装置を設置し、曲げ変形に有効な構成としたものもある。しかし、この例では曲げ変形成分の制振にのみ有効であるので、せん断変形の割合いが大きな中層建物には適用できない。
【0008】そこで本発明は上記事情に鑑み、高層や中層などの建物の高さに拘わらず、建物の構造設計に制約を与えずに好適な制振効果を得ることができ、また必要なエネルギー吸収装置の数を極力少なくできて建設コストが低い制振骨組構造及び建築物を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明のうち請求項1は、高減衰骨組部(F1)と、該高減衰骨組部の上階に配置され、複数階を有する高剛性骨組部(F2)と、を接合した制振骨組構造(F)であって、前記高減衰骨組部は、エネルギー吸収手段(15)を配設した骨組によって、所定の複数階に構成され、前記高剛性骨組部は、剛性手段(11)を配設した骨組によって構成され、高剛性骨組部の水平剛性を、高減衰骨組部の水平剛性より大きくした、ことを特徴とする。
【0010】また本発明のうち請求項2は、前記高減衰骨組部と前記高剛性骨組部から成る組合せを、上下方向に複数組有する、ことを特徴とする。
【0011】また本発明のうち請求項3は、前記高減衰骨組部の階数は、構築される制振骨組構造の固有周期及び固有振動形に対応して設定される、ことを特徴とする。
【0012】また本発明のうち請求項4は、前記エネルギー吸収手段は、前記高減衰骨組部の上下階問に配設されたダンパーからなる、ことを特徴とする。
【0013】また本発明のうち請求項5は、前記ダンパーは、粘性型ダンパー、粘弾性型ダンパー、履歴型ダンパーのいずれかである、ことを特徴とする。
【0014】また本発明のうち請求項6は、前記剛性手段は、耐震壁、ブレース、耐震問柱、制振壁のいずれか1つ以上によって構成された、ことを特徴とする。
【0015】また本発明のうち請求項7は、請求項1から6のいずれかに記載の制振骨組構造を有する建築物(1)であって、複数階に亘って形成された住戸階と、前記住戸階の下階に形成された商業用途階と、を有し、前記住戸階と前記商業用途階とにより複合用途に供される、ことを特徴とする建築物である。
【0016】なお、括弧内の番号等は、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【0017】
【発明の効果】以上説明したように本発明のうち請求項1によると、地震発生時には主として高減衰骨組部で大きく揺れるようになり、高剛性骨組部に作用する地震力は小さくなることから制振(制震)効果を得ることができる。この制振効果を得るにあたって積層ゴム等を使用しないので、免震構造に固有な問題点である、積層ゴムにかかる長期の柱軸力を大きくしたり、積層ゴムの配置をできるだけ建物の外周側に配置する等の工夫は全く不要である。つまり高層建物であっても該建物の構造設計に制約を与えずに制振効果を得ることができる。
【0018】また、制振を得るにあたってエネルギー吸収手段は高減衰骨組部にだけ設置すればよいので、従来のように建物の大部分の階に設置する必要がない。即ち、必要なエネルギー吸収手段の数を極力少なくできて建設コストが低い。
【0019】更に、高剛性骨組部に比べて高減衰骨組部の水平変形が大きくなり、該高減衰骨組部に地震エネルギーを集中させることができる。これにより制振骨組構造全体の振動モードからは曲げ変形の割合が抑制される。つまりエネルギー吸収手段による制振効率は低下しない。建物を中層程度にした場合には、曲げ変形よりもせん断変形が卓越するので制振効率は当然ながら高いものとなる。つまり、高減衰骨組部、高剛性骨組部の階数、組合せ等を適宜設定することによって高層や中層などの建物の高さに拘わらず好適な制振効果を得ることができる。
【0020】また本発明のうち請求項2によると、高減衰骨組部と高剛性骨組部からなる組合せを上下方向に複数組有するので、制振骨組構造は、構築する建築物の用途に応じて多様な形態バリエーションを選択できることになる。
【0021】また本発明のうち請求項3によると、高減衰骨組部の階数の設定により、構築する建築物の用途に応じた固有周期及び固有振動形に関する多様な性状バリエーションを選択できることになる。
【0022】また本発明のうち請求項4によると、エネルギー吸収手段はダンパーからなるので効率的にエネルギーを吸収できる。更に本発明の請求項5によると一層有効な制振が実現する。
【0023】また本発明のうち請求項6によると、有効な剛性を呈する剛性手段となり、制振骨組構造の効果的な機能に寄与する。
【0024】また本発明のうち請求項7によると、高減衰骨組部側に商業用階を形成し、高剛性骨組部側には住戸階を形成することにより、店舗、事務所、ホテルなどを設置する商業用階には耐震壁等の剛性手段が無いほうが都合がよく、住戸を設置する住戸階には多くの壁などの剛性手段が必要となる、という事情に対応した複合用途の建築物を好適に実現できる。
【0025】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は本発明による制振骨組構造の一例を適用した建物本体の構造を模式的に示した図であり、(a)は側断面図、(b)は平断面図である。
【0026】建物本体1は図1に示すように柱梁構造体2を有しており、該柱梁構造体2は、充填鋼管コンクリート造の複数の柱3と、これら柱3によって支持された鉄骨造或いは鉄骨鉄筋コンクリート造の梁5と、により構成されている(但し上記の鋼管コンクリート、鉄骨、鉄筋などの建築構成要素は例示的なものに過ぎず、本発明がこれらの例に限定されるものではない。)。この梁柱構造体2には図示しない複数のスラブが設けられ、上下に隣接するスラブ間にはフロア6が形成されている。つまり建物本体1全体には上下複数階状にフロア6が形成されている。また梁柱構造体2には図示しない複数の外壁材が建物本体1の外壁をなす形で設置されている。
【0027】建物本体1の骨組である制振骨組構造体Fは、図1(a)に示すように最下階から所定階(図1では7階)までの複数階からなる高減衰骨組部F1と、該高減衰骨組部F1より上の全ての階の複数階からなる高剛性骨組部F2と、に区別されている。言い換えると、高減衰骨組部F1の上方に高剛性骨組部F2が配置されている。
【0028】高剛性骨組部F2の部分には例えば集合住宅として使用される住戸階が設置され、図1に示すように平断面視中央部がコア部10となっている。コア部10は、高剛性骨組部F2の上下全長に亘って形成された4方向の連層耐震壁11を有し、これら連層耐震壁11は平断面視矩形状をなす形で接合されている。これら連層耐震壁11に囲まれた部分(コア部10の内部)は図示しないエレベータシャフトや階段スペースとして利用されている。各フロア6では、コア部10の外側周囲に住戸用空間21が形成されている。住戸用空間21には、図示しない共用廊下及び複数の住戸が設置されている。
【0029】一方、高減衰骨組部F1の部分には例えばショッピングモール等として使用される商業用階が設置され、上述した高剛性骨組部F2の連層耐震壁11のような高剛性構造部材が設けられていない。その代わりに高減衰骨組部F1では、隣接階間(階と階の間)等に公知の制振装置であるエネルギー吸収装置15を設置している。この場合のエネルギー吸収装置15には、剛性のない粘性ダンパーや、剛性の比較的小さい粘弾性ダンパー、或いは降伏変位の小さい極低降伏点鋼ダンパーなどを採用する。このエネルギー吸収装置15の設置態様は、高減衰骨組部F1における上下階の層間水平変位エネルギーを吸収できるのであればどのように設置してもよい。
【0030】高減衰骨組部F1における各フロア6には店舗用空間20が形成されており、該店舗用空間20には図示しない店舗が設置されている。店舗用空間20には連層耐震壁11等の障害物が無いので、開放的な室内空間が確保されている。
【0031】建物本体1は以上のように構成されているので、高減衰骨組部F1は水平剛性が低く減衰性が高い構造(高減衰層)となり、高剛性骨組部F2は高減衰骨組部F1に対して相対的に水平剛性が数倍程度以上高い構造(高剛性層)となる。図2乃至図5は本実施形態による高層建物が1乃至4次モードにより振動する様子をそれぞれ示す図である。なお図2乃至図5で示す高減衰骨組部F1及び高剛性骨組部F2の階数は、図1で示すものと異なっているが、振動の様子を簡潔に表現し理解するためのものである。
【0032】建物本体1の制振骨組構造体Fは上述したように高減衰骨組部F1と高剛性骨組部F2とからなるので、大地震時には図2乃至図5に示すように、どのような振動モードであっても主として高減衰骨組部F1で大きく揺れるようになり、高剛性骨組部F2に作用する地震力は小さくなる。また、高減衰骨組部F1に作用する大地震時のエネルギーは、複数のエネルギー吸収装置15により効率的に吸収する。この場合、減衰定数は通常の5倍〜10倍以上の減衰定数を付与するように高減衰に設計しておく。これにより、大地震時においても高減衰骨組部F1は損傷しない。
【0033】固有周期に関する上記性質を利用して建物本体1の周期を調節することにより、高減衰骨組部F1の柱3および梁5の性能を安全に設計することができる。図3乃至図6は、一例として最下層から1/3程度まで連層耐震壁11を無くした場合の振動モードの解析例である。各振動モードを見ると上層に比べて下層の水平変形が現れており、想定通りこの高減衰層(高減衰骨組部F1)に地震エネルギーが集中することがわかる。また、振動モードからは曲げ変形の割合が比較的抑制されている。これらの図では変形を誇張して示したものであるので高減衰骨組部F1の変形が実際より過大となるように見えるが、高減衰骨組部F1にはエネルギー吸収装置15が設置してあるので部材の変形は比較的小さく弾性範囲内のものである。
【0034】建物の全階数における、高減衰骨組部と高剛性骨組部の階数の比率を調整することによって、建物本体1(制振骨組構造体F)の固有周期、固有振動形(固有モード)を最適に設定することができる。
【0035】図6は、10階からなる建物本体1において、高減衰骨組部の階数の変化が建物全体の固有周期に与える影響を検討したものである。図6の縦軸は固有周期、横軸は、最下階からの高減衰骨組部の階数を意味する。固有周期の単位は秒(sec)ではなく、横軸が0(高減衰骨組部は無く、高剛性骨組部は全階(10階)にわたって形成)の場合の固有周期を1となるように基準化(無次元化)したものである。図6は、具体的な振動モデルを想定して数値解析したものである。なお図6のうち実線は1次モード、破線は2次モード、一点鎖線は3次モードの場合をそれぞれ示している。
【0035】図6のA点〜D点を説明する。A点は、縦軸は1.0、横軸は0の点で、最も固有周期が短かい(短周期)。B点は、縦軸は約3.0、横軸は約3で、D点と同一の固有周期に相当する点であり、最下階から約3階にわたって高減衰骨組部が形成されている場合を示す。C点は、縦軸は約3.5、横軸は約6.5の点で、最も固有周期が長い(長周期)点であり、最下階から約6.5階にわたって高減衰骨組部が形成されている場合を示す。D点は、縦軸は約3.0、横軸は10で、全階(10階)に亘って高減衰骨組部が形成されていて、高剛性骨組部が無い場合である。
【0036】固有周期は、A点で最小値を示し、横軸が大きくなるに従って大きくなる(長周期化する)。固有周期は、B点を通過しても漸増し、C点で最大値となり、C点以降は減少し、D点となる。高減衰骨組部と高剛性骨組部を混在して配置したB点と、全階に亘って高減衰骨組部を配置したD点が、同一の固有周期を示す現象を示す。
【0037】高減衰骨組部の階数を変えることによって、固有周期はA点からD点の間を変化する。高減衰骨組部の階数を増大させることによって、最も短い固有周期を示すA点から、容易に長周期化することができる。
【0038】高減衰骨組部は複数階にわたって形成されるが、その所定の階数は、最適な固有周期、固有振動形を有するように設定することができる(請求項3)。
【0039】制振骨組構造体Fは、複数階を有する高減衰骨組部の上階に、複数階を有する高剛性骨組部を接合した同一架構面内で接合した複合骨組である(請求項1)。
【0040】高減衰骨組部は、エネルギー吸収手段を配設した骨組によって、制振構造に構成されている(請求項1)。
【0041】高剛性骨組部は、剛性手段を配設した骨組によって耐震構造に構成され、高剛性骨組部の水平剛性を、高減衰骨組部の水平剛性より大きくしている(請求項1)。
【0042】制振構造とは、構造物全体または一部などに、地震や強風時に作用し振動を生じる外力に有効に作用する所望の装置、機構を設けて、構造物(骨組)に生じる加速度や変形(特に、水平変形)を制御しようとする構造を言う。地震動(地震力)に対する制振構造を、特に、制震構造とも言う。
【0043】耐震構造とは、骨組を構成する柱、梁、耐震壁などの耐震要素の水平耐力、変形能力によって、地震力に対抗する構造を言う。
【0044】骨組とは、柱、梁、耐震間柱等の線材を組合せた架構を言う。柱、梁が格子状に配置されたラーメン構造が一般的であるが、ラーメン構造はこれに限定されず、任意正面形状の骨組、一部にトラス構造を含む骨組等であってもよい。
【0045】エネルギー吸収手段は、粘性型ダンパー、粘弾性型ダンパー、履歴型ダンバーなどのダンパーを、上下階の層間に配設して構成されている(請求項4、5)。高減衰骨組部は、骨組にエネルギー吸収手段を配設することによって、各階全体が高い減衰性を有するように構成される。
【0046】エネルギー吸収手段は、高減衰骨組部の減衰性を高めるために、上下階の層間に配設されたダンパーである。エネルギー吸収手段は地震時に振動エネルギーを吸収するダンパーであって、オイルダンパーのような粘性型あるいは粘弾性型ダンパー、鋼材などの復元力、または、摩擦などを利用した、履歴型ダンパーなどが使用される。ダンパーは、制振壁、ブレース、減衰装置(制振装置)として形成される。
【0047】高剛性骨組部の水平剛性を、高減衰骨組部の水平剛性より大きくしている(請求項1)。
【0048】骨組の水平剛性は、せん断剛性と曲げ剛性を組合わせて算定される。高剛性骨組部、高減衰骨組部の水平剛性とは、せん断剛性を意味する。しかし、高剛性骨組部、高減衰骨組部の曲げ水平変形、せん断変形を含んだ水平剛性(等価せん断剛性)として算定しても良い。
【0049】水平剛性倍率(=高剛性骨組部の水平剛性/高減衰骨組部の水平剛性)は、少なくとも1以上であることを要するが、水平剛性倍率が大きい程、高減衰骨組部が高剛性骨組部に対して発揮する制振機能が向上する。水平剛性倍率は、建物の設計条件によって個々に設定されるが、約5倍以上が望ましい。しかし、この数字も一応の目安に過ぎない。
【0050】剛性手段は、耐震壁、ブレース、耐震間柱、制振壁のいづれか1以上を備えている(請求項6)。
【0051】剛性手段は、高剛性骨組部の水平剛性、水平耐力を増大させるために、骨組に配設される耐震要素であって、耐震壁、ブレース、制振壁(制震壁)等の面部材を言う。
【0052】耐震壁とは任意の壁厚を有する面状の構造部材で、主として地震力などの水平力に対して有効に応力を分担する。構造種別は鉄筋コンクリート造が一般的であるが、その壁体内部に鉄骨ブレースを内蔵することもある。また、鉄骨製の耐震壁とすることもできる。
【0053】制振壁とは、略矩形の薄い鉄製の板状体であって、靭性に富む極低降伏点鋼によって形成されている。一般用鋼材の伸び性能は破断時で20%であるが、靭性鋼材である極低降伏点鋼の伸び性能は破断時で40%以上である。靭性鋼材の降伏点強度は一般用鋼材よりも小さい値を示す。すなわち、靭性鋼材は低い強度で降伏するが、降伏後破断まで靭性に富んだ性能を発揮する。板状体の制振壁は、鉛直方向、水平方向とも、所要間隔で補強リブを付設したパネル状に構成され、靭性の有る耐震壁として機能する。
【0054】本発明では、高減衰骨組部を、最下階から複数階にわたって配置し、複数階の高剛性骨組部を、高減衰骨組部の上階に連層的に配置する。ここで、最下階とは、高減衰骨組部と高剛性骨組部によって構成される制振骨組構造体の最下階の意味であり、図1、図2では1階に相当する。基礎構造部から直接に高減衰骨組部を立設する構造体の場合は、その構造体の最下階である。基礎構造部から任意の構造体(たとえば地下構造体)を立設し、その任意の下部構造体の上に高減衰骨組部を配置する場合には、高減衰骨組部の最下階(任意の下部構造体の直上階)が最下階となる。
【0055】高減衰骨組部は、各階全体が高い減衰性を有するように構成され、高剛性骨組部は、各階全体が高い水平剛性を有するように構成されていればよい。即ち、高減衰骨組部、高剛性骨組部であることは、各階ごとの階全体について、それぞれ、高減衰、高剛性であれば良い。
【0056】従って、高減衰骨組部、高剛性骨組部は、種々の構造形式、構造部材、制振装置などを採用して構成することができる。
【0057】建物の用途、階数、構造種別などの建物の設計条件によって、建物を構成する好適な骨組を選定する。更に、この骨組に最適な固有周期、固有振動形(固有モード)を得られるように、高減衰骨組部、高剛性骨組部の階数、上下方向(階数方向)の配置などを選択する。
【0058】骨組は、固有周期が長い程(長周期)、各階の応答値が小さくなることは理論的に認められている。骨組が全体として同一の固有周期であれば、基礎部の応答値(せん断力、転倒モーメントなど)は略同一になることが多い。さらに、骨組が全体として同一の固有周期であっても、水平剛性の階数方向の分布を変えると、各階の固有振動形は変化し、各階の応答値(せん断力、加速度など)は変化することがある。
【0059】高減衰骨組部の階数を調整することによって固有周期を長く(長周期)する効果は下記の通りである。
【0060】第一に、基礎部の応答値(せん断力、転倒モーメント)は低減され、建物を転倒させようとする曲げモーメントによって、基礎、杭に生じる鉛直力(引抜力又は圧縮力)は小さくなる。杭、基礎の構造は簡易化し、建物の高層化が促進される。
【0061】第二に、水平変位(基礎の固定点からの相対水平変位)が上階ほど「靭がしなるように急増する現象」は抑制される。上階程、水平変位における曲げ変形が減少するためである。
【0062】建物の最上階近傍であっても加速度を強少させることができるので、建物の全階にわたって、什器の転倒、損傷のおそれは格段に低くなる。
【0063】第三に、各階の応答値は小さくなる。応答値は、速度、加速度、せん断力、転倒モーメントなどがある。各階の加速度が滅少すれば、建物の室内に配設されている、家具、備品などの什器の転倒、損傷のおそれが低くなり、居住者に生じる不快な人体感覚は緩和される。
【0064】高減衰骨組部の階数を調整することによって上下方向(階数方向)の水平剛性の分布形、固有振動形を変えることができる。固有振動形を調節する効果は下記の通りである。
【0065】第一に、高減衰骨組部の階全体の水平剛性を、高剛性骨組部の階全体の水平剛性よりも小さくすることによって、高減衰骨組部は地震時に制振的性能を有する。
【0066】第二に、建物の最上階近傍であっても加速度を減少させることができるので、建物の全階にわたって、什器の転倒、損傷のおそれは格段に低くなる。
【0067】第三に、層間水平変位の分布形を調整することができるので、層間水平変位の階数方向のバラツキを緩和することができる。一部の階で、層間水平変位が急増する現象を抑制することができる。
【0068】第四に、同一の固有周期であっても、各階の応答値(せん断力、加速度など)は変化する。
【0069】以上のように本実施形態によると、主として高減衰骨組部F1で大きく揺れるようになり、高剛性骨組部F2に作用する地震力は小さくなることから制振効果を得ることができる。この制振効果を得るにあたって積層ゴム等を使用しないので、従来のように積層ゴムにかかる長期の軸力を大きくしたり、積層ゴムの配置をできるだけ建物の外周側に配置する等の工夫は全く不要である。つまり高層建物であっても該建物の構造設計に制約を与えずに制振効果を得ることができる。
【0070】また本実施形態によると、制振を得るにあたってエネルギー吸収装置15は高減衰骨組部F1にだけ設置すればよいので、従来のように建物の大部分の階に設置する必要がない。即ち、必要なエネルギー吸収装置15の数を極力少なくできて施工コストが低い。
【0071】更に本実施形態によると、高剛性骨組部F2に比べて高減衰骨組部F1の水平変形が大きくなり、該高減衰骨組部F1に地震エネルギーを集中させることができる。これにより、本来、曲げ変形が大きくなる高層建物であっても建物本体1全体の振動モードからは曲げ変形の割合が減少し、層全体の水平変形が減少する。つまりエネルギー吸収装置15は高層建物でも有効に機能する。建物を中層程度にした場合には、せん断変形が卓越するので制振効率は当然ながら高いものとなる。つまり、高層や中層などの建物の高さに拘わらず好適な制振効果を得ることができる。
【0072】また本実施形態によると、建物本体1の固有周期を調節できるので、例えばこの固有周期を長周期化することによって高剛性骨組部F2に入力される地震時の慣性力を大幅に低減可能である。
【0073】また本実施形態によると高減衰骨組部F1はショッピングモールとなっている。これは、高減衰骨組部F1には連層耐震壁11が無いので吹き抜けや開口を設けやすくショッピングモール等として利用するのに好適だからである。また高剛性骨組部F2は集合住宅となっている。これは、高剛性骨組部F2には連層耐震壁11があるので住宅を設置するのに好適だからである。但し、下層部にショッピングモールや中上層部に住宅を配置した複合用途は好ましい例に過ぎず、本発明はこの例だけには限定されない。例えば下層部及び中上層部には、住宅やショッピングモールの他、オフィス、ホテル、病院、学校などあらゆる目的に利用でる。更に下層部と中上層部とで同一用途の室内空間を形成してもよい。
【0074】なお上述した高剛性骨組部F2はコア部10を形成する連層耐震壁11により高剛性としたが、高剛性を実現できるのであれば他の構成でも構わない。例えば連層耐震壁はコア部を形成するのでなく戸境壁(図示せず)を形成する連層耐震壁としてもよい。図7は制振骨組構造についての別の実施形態を示す図である。この図7に示すように、連層耐震壁の代わりに耐震間柱12を採用することも可能である。またブレース等の構造部材(図示せず)を用いて高剛性を実現してもよい。
【0075】なお本発明は高剛性骨組部の下に高減衰骨組部を設けることにより、効果的な免震及び制振を実現するという考え方である。従って、高剛性骨組部と高減衰骨組部との配置態様は上述した実施形態に限定されるものではない。図8及び図9は制振骨組構造についての別の実施形態を示す図である。例えば図8に示すように、下から順に、高減衰骨組部、高剛性骨組部、高減衰骨組部、高剛性骨組部というパターンで、高剛性骨組部と高減衰骨組部とからなる組合せを上下方向に複数配置してもよい。或いは図9に示すように、下から順に、高剛性骨組部、高減衰骨組部、高剛性骨組部というパターンで、高剛性骨組部と高減衰骨組部とを配置してもよい。
【出願人】 【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井建設株式会社
【出願日】 平成12年6月20日(2000.6.20)
【代理人】 【識別番号】100083138
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 伸二 (外1名)
【公開番号】 特開2002−4628(P2002−4628A)
【公開日】 平成14年1月9日(2002.1.9)
【出願番号】 特願2000−184237(P2000−184237)