| 【発明の名称】 |
耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼およびその製造方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】岡 正春
【氏名】樽井 敏三
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| 【要約】 |
【課題】本発明は、1800MPa以上の引張強度を有し、かつ耐水素疲労特性に優れた高強度ばね用鋼、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】質量%で、C:0.4〜0.9,Si:0.5〜3.0%,Mn:0.1〜0.5%,Mo:0.4〜3.0%,V:0.02〜0.5%,P:0.02%以下、S:0.02%以下を含有し、かつ5≦(Mo/V)≦20を満足し、さらに必要に応じて、Cr:0.05〜3.0%,Ni:0.05〜5.0%,Cu:0.05〜2.0%,Al:0.005〜0.1%,Ti:0.005〜0.3%,Nb:0.005〜0.3%,B:0.0003〜0.05%,N:0.001〜0.05%,の1種または2種以上を含有し、かつ5≦(Mo/V)≦20を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼、および上記成分からなる鋼を焼き入れた後に、500℃以上で焼き戻すことを特徴とする耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼の製造方法。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 質量%で、C :0.4〜0.9%,Si:0.5〜3.0%,Mn:0.1〜0.5%,Mo:0.4〜3.0%,V :0.02〜0.5%,P :0.02%以下,S :0.02%以下,を含有し、かつ5≦(Mo/V)≦20を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼。 【請求項2】 さらに質量%で、Cr:0.05〜3.0%,Ni:0.05〜5.0%,Cu:0.05〜2.0%,の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼。 【請求項3】 さらに質量%で、Al:0.005〜0.1%,Ti:0.005〜0.3%,Nb:0.005〜0.3%,B :0.0003〜0.05%,N :0.001〜0.05%,の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼。 【請求項4】 疲労限界拡散性水素量が0.2ppm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼。 【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1項に記載のばね用鋼を製造する方法であって、請求項1〜3の何れか1項に記載の成分からなる鋼を焼き入れた後に、500℃以上で焼き戻すことを特徴とする耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼の製造方法。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等のエンジンの弁ばねや懸架ばね、スタビライザー、トーションバー等に用いられる1800MPa以上の引張強度を有し、かつ耐水素疲労特性に優れた高強度ばね用鋼及びその製造方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】ばねを製造するにあたっては、例えばJIS G 3560、3561及び4801等に規定されているばね用鋼を用いて熱間圧延した線材を、所定の線径まで引き抜き加工し、オイルテンパー処理後にばね加工する方法(冷間成形)、あるいは引き抜き加工後に加熱してばね加工し、焼入れ焼戻しを行う方法(熱間成形)等を採用するのが一般的である。近年、環境問題への対応のため炭酸ガス排出低減や燃費低減を目的に自動車の軽量化が望まれている。その一環として、焼入れ焼戻し後の引張強度を1800MPa以上に高めたばねが要望されている。しかしながら、一般にばねを高強度化すると、切欠き感受性が高まり環境の悪影響を受けやすくなる。特に腐食環境下では表面に腐食ピットが形成されるとこれが応力集中源となり、さらに腐食反応の進行に伴って発生する水素により脆化するため、疲労特性が劣化し早期折損を招くという問題があった。水素による脆化を防止する方法としては、結晶粒を微細化させる方法や、微細析出物を生成させる方法が考えられているが、いずれの方法も本発明者らの試験では大幅な耐水素疲労特性の改善には至っていない。 【0003】以上のように、従来の技術では、1800MPa以上の引張強度を有し、かつ耐水素疲労特性に優れた高強度ばねを製造することは困難であった。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記したような問題点を解決しようとするものであって、1800MPa以上の引張強度を有し、かつ耐水素疲労特性に優れた高強度ばね用鋼及びその製造方法を提供することを目的とする。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、まず焼入れ・焼戻し処理によって製造した種々の強度レベルのばね用鋼を用いて、水素疲労挙動を詳細に解析した。その結果、疲労限以下の応力で、疲労寿命が鋼材中の水素によって低下することを明らかにした。また、疲労寿命の低下は、外部環境から鋼材中に侵入し、鋼材中を室温で拡散しうる拡散性水素に起因して発生していることを明らかにした。拡散性水素は、鋼材を100℃/hourの速度で加熱した際に得られる温度-鋼材からの水素放出速度の曲線において、約100℃の温度にピークを有する曲線として測定できる(図1)。従って、環境から侵入した水素を鋼材中の何らかの部分に捕捉することによって拡散しないようにすれば、水素を無害化することが可能になり、疲労寿命低下が抑制される。そこで、耐水素疲労特性について、水素疲労が発生しない「疲労限界拡散性水素量」を求めることにより評価した。この方法は、電解水素チャージにより種々のレベルの拡散性水素量を含有させた後、回転曲げ疲労試験中に試料から大気中に水素が抜けることを防止するためにCdめっきを施し、その後、大気中で所定の荷重を負荷し、疲労破壊が発生しなくなる拡散性水素量を評価するものである。図2に拡散性水素量と疲労寿命の関係について解析した一例を示す。試料中に含まれる拡散性水素量が少なくなるほど疲労寿命が長くなり、拡散性水素量がある値以下では疲労破壊が発生しなくなる。この水素量を「疲労限界拡散性水素量」と定義する。疲労限界拡散性水素量が高いほど鋼材の耐水素疲労特性は良好であり、鋼材の成分、熱処理等の製造条件によって決まる鋼材固有の値である。 【0006】本発明者らは、成分の異なる種々の素材に対して上記の疲労限界拡散性水素量を求める手法により耐水素疲労特性について研究を重ねた結果、(Mo,V)2Cが水素トラップサイトとして非常に有効であり限界拡散性水素量を大幅に高めることを見出した。さらに研究を進めた結果、MoとVの添加比率(Mo/V)を5〜20とし、さらに粒界強度を低下させるMnを0.5%以下とすることにより、1800MPa以上の引張強度を有しかつ耐水素疲労特性に優れた鋼が得られることを知見した。 【0007】本発明はこのような知見に基づいて構成したものであり、(1)質量%で、C :0.4〜0.9%,Si:0.5〜3.0%,Mn:0.1〜0.5%,Mo:0.4〜3.0%,V:0.02〜0.5%,P:0.02%以下,S:0.02以下、を含有し、かつ5≦(Mo/V)≦20を満足し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼、(2)前記(1)記載の成分を含有し、さらに質量%で、Cr:0.05〜3.0%,Ni:0.05〜5.0%,Cu:0.05〜2.0%,の1種または2種以上を含有することを特徴とする耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼、(3)前記(1)又は(2)記載の成分を含有し、さらに質量%で、Al:0.005〜0.1%,Ti:0.005〜0.3%,Nb:0.005〜0.3%,B:0.0003〜0.05%,N:0.001〜0.05%、の1種または2種以上を含有することを特徴とする耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼、(4)疲労限界拡散性水素量が0.2ppm以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼、(5)前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の鋼を製造する方法であって、(1)〜(3)の何れか1項に記載の成分からなる鋼を焼き入れた後に、500℃以上で焼き戻すことを特徴とする耐水素疲労破壊特性に優れた高強度ばね用鋼の製造方法、を要旨とするものである。 【0008】 【発明の実施の形態】以下に、本発明における各要件の意義及び限定理由について具体的に説明する。 【0009】本発明者らは、0.6%C−0.5%Si−0.2%Mnをベース成分としMoとVの添加比率を種々に変えた鋼を焼入れ焼戻し処理により同一強度レベルに調質し、疲労限界拡散性水素量を測定した。MoとVの添加比率(Mo/V)と疲労限界拡散性水素量の関係を図3に示す。図3より、Mo/Vが5以上20以下のとき疲労限界拡散性水素量が大幅に向上することを知見した。従って、Mo/Vを5以上20以下とした。 【0010】限界拡散性水素量については0.2ppm未満であると、耐水素破壊特性が十分ではなく実際に使用される代表的な環境で水素疲労破壊を生じる場合があるため、0.2ppm以上とする。 【0011】次に、本発明における高強度ばね用鋼の成分限定理由について説明する。 【0012】C:Cは鋼の強度を増加させる元素として添加されるものである。0.4%未満ではばね鋼に必要な強度の確保が困難であり、0.9%を超える過剰の添加は靭性を著しく劣化させる。従って、C含有量は0.4〜0.9%とした。 【0013】Si:Siは脱酸剤として、また鋼の強度を増加させる元素として添加される。0.5%未満では強度を向上させる効果を有効に発揮させることができず、3.0%を超える過剰の添加は粗大な酸化物を形成して延性や靭性を劣化させる。従って、Si含有量は0.5〜3.0%とした。 【0014】Mn:Mnは焼入れ性を高めるために有効な元素であるが、一方で粒界を脆化させ耐水素疲労破壊特性を劣化させる有害な元素である。0.1%未満では焼入れ性を高める効果が発現されず、0.5%を超える過剰の添加は耐水素破壊疲労特性を劣化させる。従って、Mn含有量は0.1〜0.5%とした。より良好な耐水素疲労破壊特性を得るためには、Mn含有量を0.3%以下とすることが望ましく、0.2%以下とすればさらに望ましい。 【0015】Mo:MoはV、Cとともに(Mo,V)2Cを形成し拡散性水素をトラップすることにより耐水素疲労破壊特性を向上させる必須の元素であるが、0.4%未満ではその効果が発現されず、3.0%を超える過剰の添加は靭性を低下させるため、Mo含有量は0.4〜3.0%とした。 【0016】V:VはMo、Cとともに(Mo,V)2Cを形成し拡散性水素をトラップすることにより耐水素疲労破壊特性を向上させる必須の元素であるが、0.02%未満ではその効果が発現されず、0.5%を超える過剰の添加は靭性を低下させるため、V含有量は0.02〜0.5%とした。 【0017】P:Pは粒界に偏析して粒界強度を低下させ、靱性を劣化させる不純物元素であり、可及的低レベルが望ましいが、現状精錬技術の到達可能レベルとコストを考慮して、上限を0.02%とした。 【0018】S:Sは熱間加工性及び靭性を劣化させる不純物元素であり、可及的低レベルが望ましいが、現状精錬技術の到達可能レベルとコストを考慮して、上限を0.02%とした。 【0019】以上が本発明の基本成分であり、通常は上記以外はFe及び不可避的不純物からなるが、所望の強度レベルやその他の必要特性に応じて、Cr、Ni、Cu、Al、Ti、Nb、B、Nの1種または2種以上を添加しても良い。 【0020】Cr、Ni、Cu:Cr、Ni、Cuはいずれも耐食性及び強度を向上させる有効な元素である。この効果はそれぞれ0.05%未満では発現されず、Crは3%、Niは5%、Cuは2%を超える過剰添加は靭性を劣化させる。従って、Crの含有量を0.05〜3.0%、Niの含有量を0.05〜5.0%、Cuの含有量を0.05〜2.0%、とした。 【0021】Al:Alは脱酸剤として、またAlNを形成し結晶粒粗大化を抑制する効果があるが、0.005%未満ではその効果が発現されず、0.1%を超えて過剰添加すると靭性が劣化するため、Alの含有量を0.005〜0.1%とした。 【0022】Ti:TiはTiNを形成し結晶粒粗大化を抑制する効果があるが、0.005%未満ではその効果が発現されず、0.3%を超えて過剰添加すると靭性が劣化するため、Tiの含有量を0.005〜0.3%とした。 【0023】Nb:Nbは微細な炭窒化物を形成し結晶粒粗大化を抑制する効果があるが、0.005%未満ではその効果が発現されず、0.3%を超えて過剰添加すると靭性が劣化するため、Nbの含有量を0.005〜3%とした。 【0024】B:Bは自ら粒界に偏析することにより粒界結合力を向上させるとともにP、S及びCuの粒界偏析を抑制し、粒界強度を高め、遅れ破壊特性や靭性を向上させるのに有効な元素であり、また焼入れ性を高めるのに有効な元素でも有る。これらの効果は0.0003%未満では発現されず、0.05%を超えて過剰添加すると粒界に粗大な析出物が生成し熱間加工性や靭性が劣化するため、Bの含有量を0.0003〜0.05%とした。 【0025】N:Nは窒化物を形成し結晶粒粗大化を抑制する効果があるが、0.001%未満ではその効果が発現されず、0.05%を超えて添加すると靭性が劣化するため、N含有量を0.001〜0.05%とした。 【0026】次に製造条件の限定理由について述べる。 【0027】本発明においては、焼入れ焼戻し処理を施す際の焼戻し温度を500℃以上とすることが重要であり、その他の製造条件は特に制限する必要はない。これは焼戻し温度が500℃未満では水素トラップサイトとなる(Mo,V)2Cの析出量が十分に得られないために疲労限界拡散性水素量が低くなるためである。より好ましい条件は550℃以上である。焼戻し温度の上限は特に定める必要はないが、焼戻し温度が650℃以上になると析出物が粗大化し水素トラップサイトとしての効果が低下するため、650℃以下とすることが望ましい。 【0028】 【実施例】以下、実施例により本発明の効果をさらに具体的に説明する。 【0029】表1に示す組成を有する鋼を焼入れた後、表1に示す温度で焼戻しを行った。熱処理後の各鋼片の引張強度を表1に合わせて示す。いずれも1800MPa以上の引張強度が得られている。これらの鋼片の耐水素疲労破壊特性について前述した疲労限界拡散性水素量で評価した。なお、疲労試験を行う際の負荷応力は大気中疲労限の90%の条件で実施した。 【0030】 【表1】
表1より、本発明例(No.1〜5)ではいずれも疲労限界拡散性水素量が0.2ppm以上であり、耐水素疲労破壊特性が優れている。特に、焼戻し温度が550℃以上のもの(No.1,4,5)はいずれも疲労限界拡散性水素量が0.8ppm以上であり、耐水素疲労破壊特性が格段に優れている。一方、Mo量、V量、又は(Mo/V)のいずれか一つ以上が本発明の範囲から逸脱している比較例(No.6,7,8)ではいずれも疲労限界拡散性水素量が0.1ppm以下と低く、耐水素疲労破壊特性に劣ることがわかる。また、Mo量、V量、(Mo/V)は本発明の範囲内にあるがMn量が本発明で示した成分範囲から逸脱している比較例(No.9)では疲労限界拡散性水素量が0.1ppm以下と低く、耐水素疲労破壊特性に劣ることがわかる。また、焼戻し温度が本発明の範囲から逸脱している比較例(No.10)では疲労限界拡散性水素量が0.1ppm以下と低く、耐水素疲労破壊特性に劣ることがわかる。以上より、Mo,V、Mnの量を及びMoとVの添加比率(Mo/V)を本発明で示した範囲に特定し、本発明で示した焼戻し条件で製造することにより、1800MPa以上の引張強度を有しかつ耐水素疲労特性に優れた鋼が得られることが明らかである。 【0031】 【発明の効果】以上のように本発明によれば、1800MPa以上の引張強度を有し、かつ耐水素疲労特性に優れた高強度ばね用鋼及びその製造方法を提供する。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000006655 【氏名又は名称】新日本製鐵株式会社
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| 【出願日】 |
平成12年10月10日(2000.10.10) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100067541 【弁理士】 【氏名又は名称】岸田 正行 (外2名)
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| 【公開番号】 |
特開2002−115023(P2002−115023A) |
| 【公開日】 |
平成14年4月19日(2002.4.19) |
| 【出願番号】 |
特願2000−309210(P2000−309210) |
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