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【発明の名称】 高延性球状黒鉛鋳鉄とその鋳造方法
【発明者】 【氏名】鈴木 克美

【氏名】大場 義夫

【氏名】中島 範之

【要約】 【課題】伸び特性を特に向上させた高延性の球状黒鉛鋳鉄を提供する。

【解決手段】高延性の球状黒鉛鋳鉄であって、伸びが24〜35%である。そのうち、鋳放し材(肉厚25mmのY形供試材)の伸びが24〜30%で、熱処理材の伸びが30〜35%である。高延性の球状黒鉛鋳鉄を鋳造するにあたり、原料として還元鉄を用いる。還元鉄を用い電気炉にて球状黒鉛鋳鉄を鋳造するにあたり、鋳鉄溶湯にカルシウム化合物を添加して、スラグの粘性を下げる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 高延性の球状黒鉛鋳鉄であって、伸びが24〜35%であることを特徴とする高延性球状黒鉛鋳鉄。
【請求項2】 鋳放し材(肉厚25mmのY形供試材)の伸びが24〜30%である請求項1記載の高延性球状黒鉛鋳鉄。
【請求項3】 熱処理材の伸びが30〜35%である請求項1記載の高延性球状黒鉛鋳鉄。
【請求項4】 Mnを0.25質量%以下含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の高延性球状黒鉛鋳鉄。
【請求項5】 常温におけるシャルピー衝撃値が、鋳放し材で27J/cm2以上、熱処理材で29J/cm2以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の高延性球状黒鉛鋳鉄。
【請求項6】 高延性の球状黒鉛鋳鉄を鋳造するにあたり、原料として還元鉄を用いて、請求項1記載の球状黒鉛鋳鉄を得ることを特徴とする高延性球状黒鉛鋳鉄の鋳造方法。
【請求項7】 還元鉄を用い電気炉にて球状黒鉛鋳鉄を鋳造するにあたり、鋳鉄溶湯にカルシウム化合物を添加して、スラグの粘性を下げることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄の鋳造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は、高延性の球状黒鉛鋳鉄とその鋳造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】 鋳鉄として、黒鉛形態が球状の球状黒鉛鋳鉄が知られており、この球状黒鉛鋳鉄は、引張強さが400〜800MPaの範囲であって、引張強さが大きくなれば伸びが低く、逆に伸びを高くしようとすると引張強さが小さくなるという傾向を有している。
【0003】 そのうち、引張強さが改善されなくても伸び特性が特に優れた高延性の球状黒鉛鋳鉄は、自動車部品の中で、足まわり部品、例えばロアーアーム、アッパーアーム、ナックルハウジング、サスペンションなどで求められている。従来から、球状黒鉛鋳鉄について、伸びを大きくしようとする場合、成分組成のうちMnの含有量を下げることが知られているが、伸びはせいぜい20%程度であった。
【0004】 また、Mn含有量を下げるといっても、従来においては、有効な脱Mn法がないため、原材料としてMn含有量の低いものを使用することや、Mn含有量の低い材料で希釈することしか考えられなかったが、いずれも高純度銑鉄やベースメタルなどの低Mn鉄原料は高価であり、コスト的な問題があった。
【0005】 一方、ダクタイル鋳鉄は、通常鋼屑や鋳物用銑鉄を原料とするため、不可避的にMn含有量が0.25〜0.5質量%になり、また、近年、自動車重量の軽量化のために鋼板の高強度が要請されるのに伴い、Mn量を故意に0.6〜1.0質量%レベルに増加させることが行われている。その結果、球状黒鉛鋳鉄用資材として市場に出てくる鋼屑に含有されるMn量が必然的に多くなってくるという傾向があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】 したがって、本発明は上記した従来の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、伸び特性を特に向上させた高延性の球状黒鉛鋳鉄を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】 すなわち、本発明によれば、高延性の球状黒鉛鋳鉄であって、伸びが24〜35%であることを特徴とする高延性球状黒鉛鋳鉄が提供される。この球状黒鉛鋳鉄のうち、鋳放し材(肉厚25mmのY形供試材)の伸びは24〜30%で、また熱処理材の伸びは30〜35%であることが好ましい。本発明の球状黒鉛鋳鉄においては、Mnを0.25質量%以下含有することが好ましく、また、常温におけるシャルピー衝撃値が、鋳放し材で27J/cm2以上、熱処理材で29J/cm2以上であることが好ましい。
【0008】 また、本発明によれば、高延性の球状黒鉛鋳鉄を鋳造するにあたり、原料として還元鉄を用いて、伸びが24〜35%である高延性球状黒鉛鋳鉄を得ることを特徴とする高延性球状黒鉛鋳鉄の鋳造方法が提供される。さらに、本発明によれば、還元鉄を用い電気炉にて球状黒鉛鋳鉄を鋳造するにあたり、鋳鉄溶湯にカルシウム化合物を添加して発生するスラグの粘性を下げることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄の鋳造方法が提供される。
【0009】
【発明の実施の形態】 以下、本発明を詳しく説明する。本発明は、従来にない高い伸び特性を有する高延性の球状黒鉛鋳鉄を提供するものであり、具体的には、その伸びが24〜35%である高延性球状黒鉛鋳鉄である。このような高延性の球状黒鉛鋳鉄は、鋳鉄の難点ともいえる伸び値や衝撃値が改善されているため、例えば、自動車部品、電力部品及び建築部材などの技術分野において極めて有用である。
【0010】 本発明に係る球状黒鉛鋳鉄は、上記のように、その伸びが24〜35%、好ましくは28〜35%、特に好ましくは29〜35%という特性を有するものである。そして、本発明の球状黒鉛鋳鉄のうち、鋳放し材(肉厚25mmのY形供試材)の伸びは24〜30%、好ましくは26〜30%であり、熱処理材の伸びは30〜35%、好ましくは32〜35%である。なお、本発明に係る球状黒鉛鋳鉄の引張強さは多少低くなるものの、330〜400MPa程度であり、実用上十分な強度を備えている。ここで、球状黒鉛鋳鉄の引張強さ、及び伸びという機械的性質は、JIS Z2201で規定されている試験法に従って求めたものである。
【0011】 上記のような高延性の機械的性質を有する本発明の球状黒鉛鋳鉄は、成分的には、Mnを0.25質量%以下含有することが好ましく、Mnを0.05〜0.15質量%含有することがより好ましい。Mnの添加量を上記範囲とすることにより、球状黒鉛鋳鉄の引張強さは330〜400MPa程度であるが、24〜35%という従来にない高い伸び特性を有することができる。Mnの含有量が0.25質量%を超えると伸び特性が低下しはじめる。
【0012】 なお、本発明の高延性球状黒鉛鋳鉄の他の構成成分としては、特に限定されないが、Mnを0.25質量%以下とし、他の成分として、C 3.5〜3.7質量%、Si 2.4〜2.7質量%、P 0.05質量%以下、Mg 0.03〜0.05質量%の組成となるように注湯流接種などにて調整することが好ましい。その理由は下記の通りである。
(1)Cが3.5質量%未満では、炭化物が現れて伸びが著しく減少する。Cが3.7質量%を超えると、初晶黒鉛が浮上して介在してくる。
(2)鋳放し用としては、Siが2.4質量%未満では、炭化物が現れて伸びが著しく減少する。Siが2.7質量%を超えると、初晶黒鉛が浮上して介在してくる。なお、熱処理する場合は、炭化物が分解されて伸びが確保できるから、Si量を上記の値(2.4質量%)よりも低下させることができる。
(3)Pが0.05質量%を超えると、ステダイト相が現れて脆化する。
(4)Mgが0.03質量%未満では、黒鉛を球状化することができず、引張強さが確保できない。Mgが0.05質量%を超えると、炭化物が現れやすくなり、処理時のMg合金が高価で好ましくない。
【0013】 また、本発明の球状黒鉛鋳鉄は、常温におけるシャルピー衝撃値が、鋳放し材で好ましくは27J/cm2以上、熱処理材で好ましくは29J/cm2以上である。本発明の球状黒鉛鋳鉄は、上記のように特に伸び特性に優れるため、シャルピー衝撃値が所定以上に高くなると考えられる。ここで、球状黒鉛鋳鉄のシャルピー衝撃値は、JISで規定されたシャルピー試験法により求めたものである。
【0014】 さらに、本発明では、目標成分に調整した球状黒鉛鋳鉄溶湯を鋳型に注湯後、その後の冷却速度を制御することにより、所望の高延性の球状黒鉛鋳鉄を得るものであるが、その態様としては次の通り、各種の方法がある。
(1)肉厚が25mm以上の場合、鋳型内で自然放冷(鋳放し)させることで所望の高延性の球状黒鉛鋳鉄を得ることができる。
(2)薄い製品、例えば、肉厚が10mm以下の製品については速く冷却し過ぎて、パーライト組織が混在して、所望の伸び特性を有する鋳鉄が得られないので、鋳型を加熱することで冷却速度を制御して、肉厚が25mm以上の場合とほぼ同様の冷却スケジュールとすることで所望の高延性の球状黒鉛鋳鉄を得ることができる。
(3)また注湯後、パーライト変態前の温度域に焼きなまし炉に入れるか、流動層炉や高周波加熱などの加熱を加えることでパーライト組織を残留させないようにできれば、熱処理は不要である。
【0015】 上記した本発明に係る球状黒鉛鋳鉄は、次に示すように、従来公知の方法をベースとして製造することができる。従来公知の鋳鉄製造方法に基づいて説明すると、材料ヤードから銑鉄、鋼屑など各種の鉄合金を、配合成分量を考慮して配合し、これを原料として電気炉(低周波炉又は高周波炉)あるいはキュポラを用いて鋳鉄溶湯が溶製される。目標組成通りに溶製された溶湯は、次に保持炉に取り出され、この際、少量の特殊な物質を添加する接種、球状化などの溶湯処理が行われる。
【0016】 溶湯処理が行われた後、溶湯は取鍋から造型機により造型された鋳型に注湯されて鋳込まれ、鋳型内でそのまま凝固、冷却される。鋳型内の物品が冷却されると、次にシェイクアウトマシンまたはドラムクーラーで型ばらし及び冷却が行われた後、ショットブラストで物品の表面に付着した砂を除去し、鋳仕上げ工程に掛けられる。この鋳仕上げ工程において堰、ばり取りなどの仕上げが行われて製品たる鋳鉄が得られることになる。
【0017】 本発明では、上記した方法において、鋳鉄の原料として、還元鉄を用いたことを特徴としている。還元鉄は、Mnの含有量が0.02〜0.06質量%と低く、この還元鉄を鋳鉄原料として用いることにより、本発明に係る高延性の球状黒鉛鋳鉄を製造することができる。ここで、還元鉄を原料として用いるにあたり、電気炉を使用する場合には、鋳鉄溶湯を作製する際に生じてくるスラグが除去し難いので、粘性を下げて流動性を高めるため、石灰石(CaCO3)、螢石(CaF2)、消石灰(Ca(OH)2)、生石灰(CaO)などのカルシウム化合物をスラグに添加することが好ましい。スラグの粘性が低下して液状化したノロは、メタルポンプなどのポンプを使用して吸い上げ、鋳鉄溶湯と分離する。なお、電気炉を用いた溶解炉の炉壁には、マグネシア系などの塩基性ライニングを施すことが好ましい。
【0018】 一方、本発明の製造方法において、溶解炉としてキュポラを用いる場合には、通常スラグ分離を容易にするため、原料中に石灰石を配合しているので、配合量を増加することで解決でき、電気炉の場合のようなカルシウム化合物の添加は必要がない。なお、スラグが出にくいような場合には、原料としてのカルシウム化合物の添加量を増加して対応することができる。
【0019】
【実施例】 以下、本発明を実施例に基づき、更に具体的に説明する。
(実施例1)従来公知の鋳鉄製造方法をベースとし、原料として還元鉄を用い、電気炉にて球状黒鉛鋳鉄の溶湯を溶製した。すなわち、鋳鉄原料として還元鉄を用い、高周波炉にて、C 3.5〜3.7質量%、Si 2.4〜2.7質量%、Mn 0.1質量%、P 0.018〜0.022質量%、S 0.005〜0.008質量%、Mg 0.035〜0.043質量%に成分調整した球状黒鉛鋳鉄の溶湯を溶製した。高周波炉の炉壁には、マグネシアからなる塩基性ライニングを施したものを用い、溶湯上に出てきたスラグに石灰石を添加してスラグを液状化し、メタルポンプで吸い上げた。得られた球状黒鉛鋳鉄溶湯を、図1に示すY形供試材(B号)30用の鋳型に約1400℃で注湯し、鋳型内で常温まで自然放冷(鋳放し)した。
【0020】 得られたY形供試材(B号)30(JIS G 5502)の下部31から試験片を採取した。引張特性(引張強さ、0.2%耐力および伸び)については、JIS Z 2201の4号試験片で測定し、また、JISの3号試験片でシャルピー衝撃試験を行い、その結果を求めた。その結果をそれぞれ図2及び図3に示す。
【0021】(実施例2)実施例1と同じ成分の溶湯を用いて得られた鋳造物を、950℃で2時間熱処理することによりフェライト化した。得られた各試験片に対し、引張試験、及びシャルピー衝撃試験を行った。得られた引張特性及びシャルピー衝撃値の結果を図2及び図3に示す。
【0022】(実施例3)実施例2において、Siを1.8質量%として熱処理を行いフェライト化した。得られた引張特性及びシャルピー衝撃値の結果を図2及び図3に示す。
【0023】(実施例4)実施例2において、Siを1.4質量%として熱処理を行いフェライト化した。得られた引張特性及びシャルピー衝撃値の結果を図2及び図3に示す。
【0024】(比較例1)球状黒鉛鋳鉄の溶湯成分のうち、Mnを0.3質量%とした以外は実施例1と同一方法により、Y形供試材(B号)を鋳造し同様に試験片を採取して、その引張特性及びシャルピー衝撃値を測定した。得られた引張特性及びシャルピー衝撃値の結果を図2及び図3に示す。
【0025】(考察)上記の実施例1〜4及び比較例1の結果から明らかなように、実施例1〜4により得られた球状黒鉛鋳鉄は、引張強さが330〜400MPa、伸びが28〜32%となり、特に伸び特性に優れた機械的性質を有していることがわかる。また、実施例1〜4で得られた球状黒鉛鋳鉄のシャルピー衝撃値は、鋳放し材が、常温で27J/cm2、熱処理材が常温で29J/cm2を達成していた。
【0026】
【発明の効果】 以上説明したように、本発明によれば、引張強さは多少低くなるものの伸び特性が特に優れた高延性の球状黒鉛鋳鉄を提供することができる。
【出願人】 【識別番号】000116873
【氏名又は名称】旭テック株式会社
【出願日】 平成12年8月14日(2000.8.14)
【代理人】 【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平 (外1名)
【公開番号】 特開2002−60823(P2002−60823A)
【公開日】 平成14年2月28日(2002.2.28)
【出願番号】 特願2000−245704(P2000−245704)