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【発明の名称】 生態環境系の変化又は差異の検出方法
【発明者】 【氏名】杉森 美帆

【氏名】竹内 和久

【要約】 【課題】環境中の微生物の遺伝子塩基配列から、生態環境系の変化又は差異を検出する方法の提供。

【解決手段】環境中の微生物群から各16S rRNA遺伝子を抽出し、PCR法により増幅させ、増幅した遺伝子を変性剤の濃度勾配を有するアクリルアミドゲル中で分離し、該遺伝子の塩基配列を決定し、得られた塩基配列のデータとデータベースに記録されたデータとを対比することを特徴とする生態環境系の変化又は差異の検出方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 環境中の微生物群から各16S rRNA遺伝子を抽出し、PCR法により増幅させ、増幅した遺伝子を変性剤の濃度勾配を有するアクリルアミドゲル中で分離し、該遺伝子の塩基配列を決定し、得られた塩基配列のデータとデータベースに記録されたデータとを対比することを特徴とする生態環境系の変化又は差異の検出方法。
【請求項2】 生態環境系の汚染原因菌の検出方法である請求項1記載の生態環境系の変化又は差異の検出方法。
【請求項3】 アコヤガイの幼生斃死原因菌の検出方法である請求項1又は2記載の生態環境系の変化又は差異の検出方法。
【請求項4】 活性汚泥中の酸敗原因菌の検出方法である請求項1又は2記載の生態環境系の変化又は差異の検出方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、環境中の微生物の遺伝子塩基配列から、生態環境系の変化又は差異を検出する方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】古来から人間は、医薬、食品等の分野に微生物を利用してきた。特に、近年のバイオテクノロジーの進歩は、社会生活を豊かで快適なものとしている。その一方、生活排水、工場排水等による富栄養化のため、赤潮が発生する等微生物による環境破壊が深刻な社会問題となっている。
【0003】しかしながら、環境中の微生物は、培養が困難なものが多く、正確な群集構造の把握や、環境汚染原因菌の検出が困難な場合が多い。
【0004】ところで、近年のDNAの構造解析技術の急速な進展に伴い、微生物(例えば、大腸菌、枯草菌、ラン藻、超好熱菌、酵母など)、植物(例えばイネ、シロイヌナズナなど)、哺乳動物(例えばヒト、マウスなど)などの多くの生物種について、全ゲノムの塩基配列を決定するためのゲノムプロジェクトが世界各国で展開されている。そこから得られる塩基配列情報は着実に増加し、各種生物由来のゲノム塩基配列データベースが急ピッチに整備されている。従って、微生物のゲノムについても、急速に塩基配列情報が蓄積することが予想され、その情報に基づいて環境浄化への応用が期待されている。
【0005】本発明は、微生物が固有に有するDNAの構造を解析し、これをもとに生態環境系の変化又は差異を検出する方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、16S rRNA遺伝子の特定部分の塩基配列はほとんどすべての微生物に共通であることから、該部分をプライマーとして16S rRNA遺伝子をPCR法により増幅させ、増幅した遺伝子を変性剤の濃度勾配を有するアクリルアミドゲル中で分離し、該遺伝子の塩基配列を決定することによって、生態環境系の微生物群集構造を推定することができる。そして、かかる塩基配列のデータとデータベースに記録されたデータとを対比することによって、生態環境系の変化又は差異を検出することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】すなわち、本発明は、環境中の微生物群から各16S rRNA遺伝子を抽出し、PCR法により増幅させ、増幅した遺伝子を変性剤の濃度勾配を有するアクリルアミドゲル中で分離し、該遺伝子の塩基配列を決定し、得られた塩基配列のデータとデータベースに記録されたデータとを対比することを特徴とする生態環境系の変化又は差異の検出方法を提供するものである。かかる構成をとることにより、培養が困難な環境中の微生物を容易に検出することができ、生態環境系の変化又は差異を容易に検出することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の方法は、まず環境中の微生物群から各16S rRNA遺伝子(16S rDNA)を抽出、精製する。環境は、海、河川、湖沼、土壌、森林はもちろん、人間が人為的に作りあげた環境であってもよい。環境から採取したサンプルを常法に従い、濾過、培養、遠心、溶解等することにより、16S rRNAを抽出する。DNA精製は、例えばDNA精製用カラム等を用いて常法に従って行うことができる。
【0009】次いで、16S rRNA遺伝子をPCR法により増幅させる。16S rDNAの特定部分の塩基配列は、ほとんどすべての微生物に共通である。したがって、該特定の塩基配列をプライマーとして用いれば、上記環境から抽出、精製されたすべてのDNAを増幅することができる。かかるプライマーとしては、例えばフォワード側は配列番号1、リバース側は配列番号2で表されるものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。PCR反応は、常法に従って行うことができる。本発明においては、上記PCR法により増幅された遺伝子を、GCクランプを用いてさらに増幅させてもよい。
【0010】次いで、上記で得られた遺伝子を、変性剤濃度勾配電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis、以下「DGGE」という)に付し、分離する。上記で得られた各遺伝子は、塩基配列の長さはほぼ同じで、プライマー部分は同じ塩基配列を有するが、それ以外の部分については配列が異なる。一般に、遺伝子の長さが同じであると、電気泳動でそれらの遺伝子を分離することはできない。しかしながら、変性剤の濃度勾配を有するDGGEを用いれば、異なる塩基配列の遺伝子を異なるバンドとして検出することができる。変性剤としては、例えば尿素、ホルムアミド等が挙げられる。試薬、ゲルの作製、試料の挿入と泳動、染色、検出は、常法に従って行うことができる。
【0011】次いで、ゲル中からバンドを切り出し、各バンドについて塩基配列を決定する。すなわち、各バンドからDNAを例えばTE中に溶出させ、PCRを行い、その後常法に従って塩基配列を決定することができる。
【0012】このようにして得られた塩基配列のデータと、その環境の既知の塩基配列のデータベースとを対比する。これにより、その環境の微生物生態系の変化を検出することができる。あるいは、このようにして得られた塩基配列のデータと、他の環境の既知の塩基配列のデータベースとを対比する。これにより、その環境と他の環境の微生物生態系の差異を検出することができる。その環境又は他の環境の既知の塩基配列のデータベースは、予め該環境から微生物群をサンプリングし、上記と同様にして各16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定し、かかる塩基配列データを蓄積しておけばよい。
【0013】既知のデータベースにない塩基配列が検出された場合には、例えばGenBank、EMBL等を用いてその塩基配列を有する微生物を推定することができる。そして、該塩基配列の一部を固定したDNAチップ又はプライマーを用いてPCR増幅を行うことにより、該微生物の存在を確認することができる。DNAチップは、1cm2ほどの固体表面に数百から数十万のDNAプローブをアレイ状に配置したものであり、これを用いればサンプル中に目的の遺伝子が存在するか否かを瞬時に判断することができる。
【0014】本発明の方法は、生態環境系の汚染原因菌の検出に特に有効である。すなわち、その生態環境系に微生物に起因する汚染が生じた場合、そのような汚染が生じていない生態環境系と対比することにより、汚染原因菌を検出することができる。例えば、養殖中のアコヤガイの幼生が大量に斃死したとき、その原因が特定微生物の増殖によるものである場合には、該特定微生物を検出することができる。また、活性汚泥を利用したメタン発酵においては、酸敗がメタン発酵装置の安定運転を妨げる原因となっている。ここで、正常状態における塩基配列のデータベースを蓄積しておき、酸敗が発生したときの塩基配列のデータと対比することにより、酸敗関連微生物を検出することができる。メタン発酵装置運転中は、酸敗関連微生物の動向をPCR等でモニタリングし、検出された場合には発酵の負荷を減少させることで酸敗を防止し、安定運転を行うことが可能となる。
【0015】
【実施例】次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】実施例1アコヤガイの幼生大量斃死原因菌の推定アコヤガイの幼生が大量に斃死した海水中の微生物の塩基配列データと、かかる事象が生じていない海水(正常海水)中の塩基配列データベースとを対比してアコヤガイ幼生の大量斃死原因菌を推定した。
(1)DNAの抽出ISOPLANT(NIPPON GENE)を用いて行った。試薬、Buffer等は、特に記載がないものについてはキット添付のものを用いた。
■試薬の調製試薬1;1 Tris−HCl(pH8.0)
Tris(hydroxymethyl)aminomethane12.11g/100mL dH2O(メスアップ)。HClでpH8.0に調整後オートクレーブ処理。
試薬2;0.5 EDTAEDTANa2・2H2O 18.61g/100mL dH2O(メスアップ)。NaOHでpH8.0に調整後オートクレーブ処理。
試薬3;TE1 Tris−HCl(pH8.0)1mL0.5 EDTA 200μL/100mL dH2O(メスアップ)。
混合後オートクレーブ処理。
【0017】■操作アコヤガイ幼生大量斃死海水及び正常海水1Lをヌクレポアフィルター(口径0.2μm、直径47mm)で濾過した。次いでフィルターを50mL遠心管(Nalge Co.,NY,USA)に入れ、Solution Iを600μL加えて1〜2秒ボルテックスした。その後50℃で30分間インキュベートした。これに、Solution IIを300μL加えて5〜6秒ボルテックスした後、50℃で15分間インキュベートした。これにSolution IIIを300μL加えて1〜2秒ボルテックスした後、氷上に15分間静置した。これを12000×g、15分間、4℃の条件で遠心し、水相を1.5mLマイクロチューブに分取した。これに2〜2.5倍量のエタノールを加え、よく混合し、12000×g、10分間、4℃の条件で遠心した。これの上清を捨て、沈殿を75%エタノールでリンス後、試薬3 50μLに溶解させた。
【0018】(2)DNAの精製抽出したDNAは、DNA精製用カラムQIAGEN Genomic−tip(QIAGEN)により行った。試薬の調製、精製方法は、マニュアルに従った。
【0019】(3)PCR反応1試薬、Bufferは、AmpliTaq Gold(Perkin Elmer Applied Biosystems)に添付のものを用いた。
操作:チューブに以下の溶液を入れて混合した。
10×PCR Buffer 10μLGeneAmp dNTP MIX 10μLprimer forward 1μLprimer reverse 1μLtemplate DNA 10ngAmpliTaq Gold 0.5μL滅菌水総容量 100μL微生物の16S rRNAのV3領域を増幅させるため、プライマーセットとしては、フォワードプライマーを配列番号1(357f:<223>Artificial Sequence)、リバースプライマーを配列番号2(519r:<223>Artificial Sequence)を用いた。PCR反応は、Progene(EYELA)を用いて、以下の条件で行った。
プレヒート 95℃・10分サイクル反応(解離反応:95℃・1分、アニーリング反応:62℃・1分、伸長反応:72℃・1分)×25サイクル最終反応 72℃・10分【0020】(4)PCR反応2上記PCR1で得られたPCR反応物1μLをtemplateとし、プライマーセットとしては、以下のものを用いてPCR反応1と同様にしてPCR反応を行った。
フォワードプライマー:GCクランプ(配列番号3で表されるもの:<223>Artificial Sequence)+357fリバースプライマー:519r【0021】(5)DGGEDGGEは、D Code System(Bio−Rad)を用い、そのマニェアルに従って行った。
■試薬 50×TAE Tris 121g CH3COOH 28.55mL 0.5 EDTA(pH8.0) 50mL/500mL dH2■操作(ゲルの作製)アクリルアミド(アクリルアミド:ビス=37.5:1)9%、変性剤60%(100%変性剤:7M尿素、40%ホルムアミド)とアクリルアミド7%、変性剤40%、1×TAEを加え、脱気後10%過硫酸アンモニウムを0.7mL/100mLゲル溶液に加えた。次いで、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンを70μL/100mLゲル溶液に加えた。次いで、変性剤濃度勾配ができるように、ゲル作製装置を用いてガラス板の間にアクリルアミドゲル溶液を挿入した後コームをさし、ゲルを重合させた。
【0022】(試料の挿入と泳動)泳動槽に予め1×TAEを入れておき、60℃に保温した。ゲルプレートを泳動装置にセットし、コームを抜いたウェルをピペットで洗浄した。PCR反応2で増幅されたものに1/5容のdyeを加え、ウェルに挿入した。次いで、60℃で90V、900分間泳動を行った。
(染色及び検出)蒸留水で1万倍に希釈したSYBR Green I(MolecularProbes)で30分間染色し、254nmのUV照射により検出を行った。
【0023】結果:DGGEにより得られたバンドのうち、アコヤガイ幼生大量斃死海水において特徴的であるBand1,2,3について塩基配列を決定し、アコヤガイ幼生大量斃死原因菌の推定を行った。
(ゲルからの回収)ゲル中からBand1,2,3を切り出し、切り出したゲルをTE50μL中で1晩静置し、TE中にDNAを溶出させた。この1μL液をtemplateとして、PCR反応2と同様にしてPCR反応を行った。このPCR産物についてDGGE反応を行い、目的のBandであることを確認した。
(塩基配列解析)解析は、東洋紡ジーンアナリシスに依頼した。得られた塩基配列を配列番号4、5及び6に示す。
【0024】データベース検索アコヤガイ幼生大量斃死原因菌の推定は、塩基配列を既知の微生物の配列と比較することで行った。既知の微生物の配列との比較は、BLAST(basicalignment search tool)により、データベースとしては、GenBank及びEMBLを利用した。結果を以下に示す。
【0025】Band1Vibrio pectenicida 16S rRNA geneIdentity:165/176(93%)
Bacteria:Proteobacteria;gamma subdivision;Vibrionaceae;VibrioRef.:Lambert,C.,Nicolas,J.L.,Cilia,V. and Corre,S.,Vibrio pectenicida sp. nov.,a pathogen of scallop(Pectenmaximus)larvae,Int.J.Syst.Bacteriol.48Pt2,481−487(1988)
【0026】Band2Vibrio pectenicida 16S rRNA geneIdentity:172/176(97%)
Band3Vibrio pectenicida 16S rRNA geneIdentity:174/176(98%)
【0027】一例として、Band3の塩基配列とVibrio pectenicidaの塩基配列を、配列番号7、配列番号8(<223>:Vibrio pectenicida)、配列番号9、配列番号10(<223>:Vibrio pectenicida)、配列番号11、配列番号12(<223>:Vibrio pectenicida)に示す。
【0028】Band1、2、3とも、Vibrio pectenicida 16SrRNA geneと高い相同性を示したため、アコヤガイ幼生大量斃死原因菌は、Vibrio pectenicida又はその非常に近縁の種であると推定された。
【0029】
【発明の効果】本発明によれば、環境中の微生物の遺伝子塩基配列から、生態環境系の変化又は差異を検出することができる。
【配列表】
SEQUENCE LISTING<110>MITSUBISHI HEAVY INDUSTRIES,LTD<120>Method of detecting change or difference of ecological environment<130>200101092<160>12<210>1<211>20<212>DNA<213>Artificial Sequence<220><400>1actcctacgg gaggcagcag 20<210>2<211>19<212>DNA<213>Artificial Sequence<220><400>2ttaccgcggc kgctggcac 19<210>3<211>40<212>DNA<213>Artificial Sequence<220><400>3cgcccgccgc gcgcggcggg cggggcgggg gcacgggggg 40<210>4<211>177<212>DNA<213>Vibrio pectenicida<400>4tggggaatat tgcacaatgg gcgcaagcct gatgcagcca tgccgcgtgy atgaagaagg 60ccttckggtt gkaaagyact ttcagyagtg aggaaggcgg atgtgttaat agcatattca 120tttgacgtta gctgcagaag aagcaccggc taactccgtg ccagccgccg cggtaaa 177<210>5<211>177<212>DNA<213>Vibrio pectenicida<400>5tggggaatat tgcacaatgg gcgcaagcct gatgcagcca tgccgcgtgt atgaagaagg 60ccttcgggtt gtaaagyact ttcagcagtg aggaaggtgg atgtgttaat agcacattca 120tttgacgtta gctgcagaag aagcaccggc taactccgtg ccagccgccg cggtaaa 177<210>6<211>177<212>DNA<213>Vibrio pectenicida<400>6tggggaatat tgcacaatgg gcgcaagcct gatgcagcca tgccgcgtgt atgaagaagg 60ccttcgggtt gtaaagtact ttcagcagtg aggaaggtgg atgtgttaat agcgcattca 120tttgacgtta gctgcagaag aagcaccggc taactccgtg ccagccgccg cggtaaa 177<210>7<211>60<212>DNA<213>Vibrio pectenicida<400>7tggggaatat tgcacaatgg gcgcaagcct gatgcagcca tgccacgtgt atgaagaagg 60<210>8<211>60<212>DNA<213>Vibrio pectenicida<400>8tggggaatat tgcacaatgg gcgcaagcct gatgcagcca tgccgcgtgt atgaagaagg 60<210>9<211>60<212>DNA<213>Vibrio pectenicida<400>9ccttcgggtt gtaaagtact ttcagcagtg aggaaggtgg atgtgttaat agcgcattca 60<210>10<211>60<212>DNA<213>Vibrio pectenicida<400>10ccttcgggtt gtaaagtact ttcagcagtg aggaaggtgg atgtgttaat agcgcattca 60<210>11<211>56<212>DNA<213>Vibrio pectenicida<400>11tttgacgtta gctgcagaag aagcaccggc taactccgtg ccagcagccg cggtaa 56<210>12<211>56<212>DNA<213>Vibrio pectenicida<400>12tttgacgtta gctgcagaag aagcaccggc taactccgtg ccagccgccg cggtaa 56
【出願人】 【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
【出願日】 平成13年5月1日(2001.5.1)
【代理人】 【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴 (外3名)
【公開番号】 特開2002−325599(P2002−325599A)
【公開日】 平成14年11月12日(2002.11.12)
【出願番号】 特願2001−134701(P2001−134701)