| 【発明の名称】 |
尿毒症治療用化合物、その選別方法および該化合物を含有する尿毒症治療剤 |
| 【発明者】 |
【氏名】五十嵐 一衛
【氏名】上田 志朗
【氏名】柏木 敬子
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| 【要約】 |
【課題】腎不全症候群の主要症状である尿毒症の治療に使用し得る化合物の選別方法(スクリーニング方法)を提供することを基本的課題とし、さらに、当該方法の結果得られた化合物を有効成分として含有する尿毒症治療剤の提供。
【解決手段】アミンオキシダーゼを介する酸化的脱アミノ化により、生体内ポリアミンからアルデヒド体の生成の阻害を評価することからなる、尿毒症の治療に使用し得る化合物の選別(スクリーニング)方法であり、具体的には、生体内ポリアミンから生成されるアルデヒド体であるアクロレインの生成の阻害を評価することからなる、尿毒症の治療に使用し得る化合物の選別方法である。また、当該アクロレインの生成を阻害する化合物を含有する尿毒症治療剤である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 アミンオキシダーゼを介する酸化的脱アミノ化により、生体内ポリアミンからアルデヒド体の生成の阻害を評価することからなる、尿毒症の治療に使用し得る化合物の選別方法。 【請求項2】 生体内ポリアミンから生成されるアルデヒド体がアクロレインであり、当該アクロレインの生成の阻害を評価することからなる請求項1に記載の化合物の選別方法。 【請求項3】 請求項1または2に記載の選別方法の結果得られた、尿毒症治療用化合物。 【請求項4】 請求項3に記載の化合物を含有する尿毒症治療剤。 【請求項5】 アミンオキシダーゼを介する酸化的脱アミノ化により、生体内ポリアミンからアルデヒド体の生成を阻害する化合物を含有する請求項4に記載の尿毒症治療剤。 【請求項6】 生体内ポリアミンから生成するアルデヒド体が、アクロレインであり、当該アクロレインの生成を阻害する化合物を含有する請求項4に記載の尿毒症治療剤。
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【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、腎不全症候群の主要症状である尿毒症の治療に使用し得る化合物の選別方法、該選別方法の結果得られた化合物を含有する尿毒症治療剤に関する。 【0002】 【従来の技術】スペルミン(spermine)、スペルミジン(spermidine)等に代表されるポリアミンは、生体内アミンであり、細胞増殖必須因子である。この細胞増殖作用は、細胞内において核酸(RNA,DNA)との相互作用により誘起されている。しかしながら、細胞外に排出されると血清中に存在するアミンオキシダーゼにより酸化分解され、細胞毒性を示すことが知られているが、この毒性を示す物質の本体は明らかにされていない。 【0003】一方、慢性腎不全患者の血漿中にはポリアミンが蓄積しており、尿毒性を発揮し、ポリアミンが尿毒素の一原因物質であろうとされている。そのうえ、このポリアミンを透析により十分に取り除くことは困難であるといわれている(R.Campbellら;Adv.Polyamine Res.(Raven Press,NY):2,319−343(1978))。 【0004】特に、慢性腎不全患者における血漿中でのポリアミンの蓄積に伴う尿毒症を治療するためには、蓄積したポリアミン自体を取り除くことが困難な状況下においては、ポリアミンから誘導される毒性本体を明らかにし、かかる毒性本体の生成を阻害させる化合物を開発することが、より有効な尿毒症の治療薬の開発につながる。 【0005】かかる観点に立脚して本発明者らは、今回ポリアミンの細胞毒性機序と、腎不全患者におけるポリアミンの尿毒素としての関連性について検討を加え、その結果、アミンオキシダーゼにより酸化分解され、ポリアミンから生じるいくつかの生成物のなかでも、その毒性を発揮する本体は、アクロレインに代表されるアルデヒド体であることを確認した。そのうえ、このポリアミンによる毒性は、アミンオキシダーゼ阻害剤である、例えばアミノグアニジンを存在させると、毒性を示さなくなることを確認した。 【0006】このことは、ポリアミンからアミンオキシダーゼの酸化分解によりアルデヒト体の生成を阻害させる物質は、必然的にポリアミンの細胞毒性、あるいは尿毒素成分としてポリアミンによる尿毒症を治療し得る薬剤となり得ることを示すことに他ならない。しかしながら、これまでにかかる考え方に基づき、尿毒症の治療に有効な化合物をスクリーニングしようとした例はない。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】したがって本発明は、ポリアミンの毒性本体の生成を排除することにその基本を置く、腎不全症候群の主要症状である尿毒症の治療に使用し得る化合物の選別方法(スクリーニング方法)を提供することを基本的課題とし、さらに、当該スクリーニング方法の結果得られた化合物を有効成分として含有する尿毒症治療剤を提供することを課題とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】かかる課題を解決するための、本発明の第一の態様である請求項1に記載の発明は、アミンオキシダーゼを介する酸化的脱アミノ化により、生体内ポリアミンからアルデヒド体の生成の阻害を評価することからなる、尿毒症の治療に使用し得る化合物の選別方法、すなわちスクリーニング方法である。 【0009】そのなかでも、より具体的な請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の方法において、生体内ポリアミンから生成されるアルデヒド体がアクロレインであり、当該アクロレインの生成の阻害を評価することからなる、尿毒症の治療に使用し得る化合物の選別方法である。 【0010】すなわち、後記する実施例から明らかなように、ポリアミンからアミンオキシダーゼを介する酸化的脱アミノ化により生成する分解物のなかでも、アクロレインが最も強力な毒性物質の本体であることより、当該アクロレインの生成を阻害させる化合物が、最も効果的な尿毒症の治療薬となり得るものである。 【0011】さらに本発明の別の態様としての請求項3に記載の発明は、上記の選択方法の結果得られた尿毒症治療用化合物を提供し、また請求項4に記載の本発明は、かくして選択された化合物を含有する尿毒症治療剤を提供する。 【0012】より具体的な態様として、請求項5に記載の本発明は、アミンオキシダーゼを介する酸化的脱アミノ化により、生体内ポリアミンからアルデヒド体の生成を阻害する化合物を含有する尿毒症治療剤であり、最も具体的な請求項6に記載の本発明は、請求項5に記載の発明において、生体内ポリアミンから生成するアルデヒド体が、アクロレインであり、当該アクロレインの生成を阻害する化合物を含有する尿毒症治療剤である。 【0013】 【発明の実施の形態】以下に、生体ポリアミンの細胞毒性機序と、その細胞毒性本体の検討ならびに腎不全患者におけるポリアミンの尿毒素としての関連性について検討した試験の詳細およびその結果を記載することにより、本発明を詳細に説明する。 【0014】なお、以下の試験に使用した細胞、細胞培養の条件、ポリアミン含有量の測定方法、アミンオキシダーゼ活性のアッセイ方法、アクロレインの測定方法、DNA合成のアッセイ方法は、以下のとおりである。 【0015】1.試験に使用した細胞とその培養条件マウス乳癌(FM3A)細胞、マウス白血病(L1210)細胞およびNIH3T3細胞を用いて行った。その各細胞の培養条件は、以下のとおりである。 【0016】a.マウス乳癌(FM3A)細胞マウス乳癌(FM3A)細胞(5×104cells/ml)を、Ayusawaらの方法(Somatic Cell Genet.:7、27−42(1981))に従い、ストレプトマイシン50単位/ml、ペニシリンG100単位/mlおよび2%の加熱不活性化したウシ胎児血清(FCS)を含有するES培地(日水製薬社製)中で、37℃にて、5%炭酸ガス雰囲気下に培養した。なお、必要な場合には、1mMのアミノグアニジン(AG)を添加して、血清中のアミンオキシダーゼの働きを阻害させた。 【0017】b.マウス白血病(L1210)細胞マウス白血病(L1210)細胞(5×104cells/ml)を、ストレプトマイシン50単位/ml、ペニシリンG100単位/mlおよび10%の加熱不活性化したウシ胎児血清(FCS)を含有するRPMI1640培地中で、上記と同様に培養した。 【0018】c.NIH3T3細胞NIH3T3細胞(5×104cells/ml)は、2mMのグルタミン、50μg/mlのゲンタマイシンおよび10%のウシ胎児血清(FCS)を含有するDMEM培地中で、上記と同様に培養した。なおいずれの場合も、生存細胞数のカウントは、0.25%トリパンブルーの存在下に行った。 【0019】2.各種ポリアミンの測定上記の各細胞(6×106 cells)を、0.2N−過塩素酸水溶液の0.3mlで均一にホモジナイズした後、12,000×gにて10分間遠心分離を行った。得られた上清液を用い、ポリアミンの含有量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。なお、ポリアミン類としてN1−(またはN8−)アセチルスペルミジン、プトレスシン、スペルミジンおよびスペルミンのHPLC上のリテンションタイム(保持時間)は、それぞれ、6、9、15および25分であった。細胞の蛋白質の測定は、上記の遠心分離の結果得られた遠沈物を用いて、Lowryらの方法(J.Biol.Chem.:193,265−275(1951))に従って測定し、ポリアミンの量を、nmol/mg蛋白質の単位で表示する。 【0020】3.アミンオキシダーゼのアッセイ方法10mM−Tris塩酸塩(pH7.5)、0.2mMの基質(スペルミン、スペルミジン、プトレスシン、N1−アセチルスペルミジンおよびN8−アセチルスペルミジン)および0.03mlのウシ胎児血清の反応混合物0.15mlを、37℃にて、1,2または4時間培養した。0.02mlの反応混合物に、0.55mlの5%トリクロロ酢酸(TCA)溶液を加え、上記と同様に遠心分離した。得られた上清の一部(10μl)をポリアミンのアッセイに使用した。基質の分解は、インキュベーション時間中直線的な分解を示した。 【0021】4.アクロレインの測定アクロレインの測定は、Alarconの方法(Anal.Chem.:40,1704−1708(1968))に従って行った。30mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、0.2mMの基質(スペルミン、スペルミジン、プトレスシン、N1−アセチルスペルミジンおよびN8−アセチルスペルミジン)および0.05mlのウシ胎児血清の反応混合物0.4mlを37℃にて、2,4または6時間培養した。反応を、18mMのメタアミノフェノール、33mMの塩酸ヒドロキシルアミンおよび1.15N−塩酸を含有する混合試薬を添加することで終了させた。10分間煮沸した後、生成した沈殿を遠心分離により除去した。蛍光分析測定により、350nmでの波長の励起、および510nm波長での発光を測定した。 【0022】5.核酸(DNA)合成のアッセイ方法マウス乳癌(FM3A)細胞を上記した方法にしたがって24時間培養し、5分間300×gによる遠心分離で採取した。DNA合成は、細胞(5×105/ml;ES培地)を185kBq[3H]thymidine(248GBq/mmol)と共に2時間インキュベートし、DNA中へのトリチウムラベルチミジン([3H]thymidine)の取込み量で測定した。放射活性は、SeyfriedおよびMorrisの方法(Methods Enzymol.:94,373−389(1983))にしたがって測定した。 【0023】以下の試験において使用した各種材料は、以下のものである。カタラーゼは、ウシ肝臓由来(17,300単位/mg蛋白質)のものを、アルデヒドデヒドロゲナーゼはパン酵母菌由来(4.3単位/mg蛋白質)のものをシグマ社より購入した。また、N1−アセチルスペルミジンおよびN8−アセチルスペルミジンはシグマ社製のものを使用し、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドおよび過酸化水素はナカライテスク社から購入し、アクロレインおよび3−アミノプロパナ−ルジエチルアセタールは、東京化成社から購入した。 【0024】3−アミノプロパナールは、3−アミノプロパナ−ルジエチルアセタールよりIvanovaらの方法(J.Exp.Med.:188,327−340(1998))により調製し、イオン交換樹脂クロマトグラフィーによる精製を行うことなく、反応液を中性にした後、直ちに使用した。その他の試薬は特級品を使用した。 【0025】試験1:ウシ胎児血清(FCS)存在下での、各種ポリアミン、過酸化水素、各種アルデヒドについての毒性の比較の結果ポリアミン類[スペルミン(SPM)、スペルミジン(SPD)]が、FCSの存在下に細胞増殖を阻害することが知られているが、このスペルミンによる細胞増殖阻害効果を、FCSの存在下でスペルミンに晒したマウス乳癌(FM3A)細胞で検討した。その結果を図1に示した。図1Aに示した結果からも判明するように、FCSの存在下でスペルミンに晒したFM3A細胞には、細胞増殖阻害が認められており、この細胞増殖阻害の毒性は、アミンオキシダーゼによりスペルミンから生成した物質に起因しているものである。事実、アミンオキシダーゼ阻害剤であるアミノグアニジン(AG)を培地中に存在させると、スペルミンの細胞毒性効果はブロックされている。 【0026】ポリアミンは、アミンオキシダーゼにより、アミノアルデヒドと過酸化水素に分解され、この分解生成したアミノアルデヒドより、自発的にアクロレインが生ずる。したがって、ポリアミンによる細胞毒性は、この過酸化水素およびアクロレインのいずれか、あるいはその両者に原因するものであることが明らかとなった。 【0027】そこで、この細胞毒性を示す原因物質が、過酸化水素、アクロレインのいずれであるか、あるいは両者が共に細胞毒性を示す原因物質となるか否かを確認するために、以下の試験を行った。すなわち、培地に過酸化水素を添加し、添加しない場合との細胞増殖の比較を検討し、さらに、過酸化水素と共にカタラーゼを添加し、細胞増殖の推移を検討した。また、同様に、培地にアクロレインを添加し、添加しない場合との細胞増殖の比較を検討し、さらに、アクロレインと共にアルデヒドデヒドロゲナーゼを添加し、細胞増殖の推移を検討した。その結果を図1BおよびCに示した。 【0028】図1Bに示した結果からも明らかなように、0.2〜0.4mM濃度の過酸化水素の単独添加は細胞増殖を抑制したが、これにカタラーゼを添加すると、過酸化水素の細胞増殖抑制効果が阻害された。一方、図1Cに示した結果からも明らかなように、7.5〜15μM濃度のアクロレインの単独添加で細胞増殖を抑制したが、これにアルデヒドデヒドロゲナーゼを添加すると、アクロレインの細胞増殖抑制効果が阻害された。 【0029】さらに培地にスペルミンを添加し、これにカタラーゼ、あるいはアルデヒドデヒドロゲナーゼ、さらにはその両者を添加し細胞増殖を検討した。その結果を図1Dに示した。図中の結果からも明らかなように、カタラーゼではなく、アルデヒドデヒドロゲナーゼが、スペルミンの細胞増殖の毒性作用を抑制していることが判明した。 【0030】これら一連の試験の結果を総合的に判断すると、細胞増殖を阻害するスペルミンの濃度(15〜30μM)は、アクロレインの濃度(7.5〜15μM)よりも高いが、過酸化水素(0.2〜0.4mM)よりも低いものであり、さらにカタラーゼではなく、アルデヒドデヒドロゲナーゼが、スペルミンの細胞増殖の毒性作用を抑制していることから、スペルミンによる細胞増殖の阻害は、過酸化水素よりも、アクロレインで生じていることが明らかとなった。 【0031】次いで、アクロレインが細胞増殖の主な阻害物質であるか否かを明らかにするために、種々のアルデヒドについて検討した。細胞としてFM3A細胞を使用し、アルデヒド体としてホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドおよび3−アミノプロパナールを用い、同様の試験を行った結果、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドの0.25〜5mMの濃度が細胞増殖の阻害に必要であり、この濃度はスペルミンの濃度よりも高いものであった。しかしながら、3−アミノプロパナールは25〜50μMで細胞増殖を阻害し、これはスペルミンと同程度であった。また、これらのアルデヒドにアルデヒドデヒドロゲナーゼを添加すると、細胞増殖が再び行われた。これらの結果をまとめて図2A〜Dに示した。 【0032】使用したアルデヒド体のなかでも、3−アミノプロパナールのみがアクロレインを生成する。したがってこれらの結果から、アクロレインがスペルミンから生成する毒性の本体物質であり、アミノアルデヒド自体ではないことが強く示唆された。 【0033】そこでさらに、生体内アミンとして他の主要ポリアミンであるスペルミジンについての細胞増殖阻害効果を、FM3A細胞を用い、同様に検討した。その結果を図3に示した。図中に示した結果からも明らかなように、FM3A細胞の増殖の阻害には、スペルミジンの0.1〜0.15mMの濃度が必要であり、これはアミンオキシダーゼ阻害剤であるアミノグアニジン(AG)の添加で予防された。さらにアルデヒドデヒドロゲナーゼの添加は、スペルミジンの毒性効果を予防していた(図3B)。これに対し、カタラーゼの添加は、スペルミジンの毒性を中程度に予防したのみである。 【0034】血清中に存在するアミンオキシダーゼにより、N1−アセチルスペルミジンではなく、N8−アセチルスペルミジンから少量のアミノアルデヒド体が生成することが報告されている(W.A.Gahlら、Biochem.J.:202,603−611(1982))。この点は、今回の試験により、基質として添加したスペルミジンが、アミンオキシダーゼにより酸化分解で減少されている事実からも確認された。 【0035】そこで、N1−アセチルスペルミジンおよびN8−アセチルスペルミジンの両者を用いて、FM3A細胞に対する増殖阻害効果を検討した。その結果を示した図3Dからも判明するように、FM3A細胞の増殖は、N8−アセチルスペルミジンの0.3mMで明らかに阻害されたが、N1−アセチルスペルミジンの0.3mMでは阻害されなかった。この事実は、ポリアミンの一種であるスペルミジンの細胞毒性の作用は、スペルミンと同様に、アミンオキシダーゼによりアミノアルデヒドからアクロレインが生成し、そのアクロレインが細胞増殖に対し毒成分として作用することに主要原因があることが判明した。なお、他の生体アミンであるプトレスシンについても同様の試験を行ったが、プトレスシンの1〜3mM濃度は、細胞毒性を示さず、血清中のアミンオキシダーゼによる影響も受けなかった。 【0036】以上の試験結果から判断すると、ポリアミンの細胞増殖に対する毒性は、ポリアミンからアミンオキシダーゼによるアミノアルデヒドへの分解、さらにアミノアルデヒドからアクロレインの生成に主要因がある。したがって、細胞増殖におけるポリアミン蓄積と、ポリアミンのアミンオキシダーゼによる分解に対する阻害剤であるアミノグアニジンがポリアミンの蓄積にどのような影響を与えるかを、マウス乳癌(FM3A)細胞を用いて検討した。 【0037】すなわち、FM3A細胞の培養培地に、ポリアミンを外因的に添加し、さらにアミンオキシダーゼ阻害剤であるアミノグアニジン(AG)を添加した場合と、添加しない場合での、FM3A培養細胞中におけるポリアミンの蓄積、ならびに細胞増殖の指針であるDNA合成を検討した。その結果を下記の表1にまとめて示した。 【0038】 【表1】表1:ホ゜リアミンと共に、アニノク゛アニシ゛ンの存在/非存在下に培養したマウス乳癌(FM3A)細胞中のホ゜リアミン含有量とDNA合成 【0039】その結果から判明するように、培地中に、ポリアミンの一種であるスペルミンと共にアミンオキシダーゼ阻害剤であるアミノグアニジン(AG)を添加すると、細胞中でのスペルミンの蓄積が見られた。しかしながら、AGを添加しない培地にスペルミンを加えると、スペルミンの蓄積は観察されず、また、AGのみの単独添加ではポリアミンの蓄積量に変化を与えないものであった。 【0040】これら表中に示した結果からは、以下のことがいえる。すなわち、FM3A細胞の増殖に対し、外因的に添加されたスペルミン(30μM添加)は、アミンオキシダーゼにより分解された。一方、AGの添加あるいは不添加で培養した細胞中でのスペルミジンの蓄積は、外因的に添加したスペルミジン(0.15mM)の少量がアミンオキシダーゼにより分解を受けたことを示唆している。この結果は、細胞内でのスペルミンまたはスペルミジンの蓄積は、直接細胞増殖を阻害するものでなく、ポリアミンの細胞増殖に対する阻害は、細胞外でアミンオキシダーゼにより分解され、生成したアクロレインによることを支持している。 【0041】一方、細胞増殖の指針であるDNA合成阻害は、細胞増殖とパラレルであることが判明した。すなわち、AGを添加しない培地に30μMのスペルミンあるいは0.15mMのスペルミジンを加えると、DNA合成は顕著に阻害されている。 【0042】さらに本発明者らは、ウシ胎児血清(FCS)の存在下におけるスペルミンの毒性を、他の二つのセルラインとして、マウス乳癌(L1210)細胞およびNIH3T3細胞を用いて検討した。その結果を図4に示した。図中の結果からも判明するように、L1210およびNIH3T3細胞の増殖はスペルミン(7.5〜15μM)により阻害されている。この細胞増殖の阻害は、アルデヒドデヒドロゲナーゼの添加により回復したが、カタラーゼの添加では回復するものではなかった。 【0043】なお、この検討では、スペルミンの添加量に関しては、L1210およびNIH3T3細胞の増殖阻害には、FM3A細胞の増殖阻害よりも低濃度のものが必要であったが、これは、L1210およびNIH3T3細胞の培養に10%のFCSを使用し、FM3A細胞の培養に2%のFCSを使用した点に起因するものである。 【0044】試験2:ポリアミンおよび3−プロパナールからのアクロレイン生成と細胞毒性の関係に関する検討血清中に存在するアミンオキシダーゼにより、ポリアミンから生成するアクロレインが毒性の主要本体である点をさらに明確にするために、ポリアミン、ポリアミンアナログおよび3−アミノプロパナールからの、毒性本体であるアクロレインの生成を、ウシ胎児血清(FCS)の存在下に検討した。なお使用したポリアミンおよびポリアミンアナログとしては、スペルミン(SPM)、スペルミジン(SPD)、ストレプシン(SPD)、N1−アセチルスペルミジン(N1−AcSPD)およびN8−アセチルスペルミジン(N8−ACSPD)である。 【0045】その結果を図5Aに示した。図中の結果からも判明するように、アクロレインは、短時間のラグタイムの後、スペルミン、スペルミジンおよびN8−アセチルスペルミジンから分解生成し、N1−アセチルスペルミジンおよびプトレスシンからは生成しない。ラグタイムを通じて、アミノアルデヒドあるいはアミノジアルデヒドがアミンオキシダーゼにより生成する。アクロレインは、FCSの存在あるいは非存在下で、ラグタイムはなく3−アミノプロパナールより生成する。このことは、アクロレインは、3−アミノプロパナールより自発的に生成することを確認するものである。これらの結果から、スペルミン、スペルミジンおよびN8−アセチルスペルミジンの細胞毒性の程度は、これら化合物からのアクロレインの生成量とパラレルであることを示している。3−アミノプロパナールは、短時間で細胞へ傷害を与えるが、これはラグタイムなしにアクロレインを生成するからである。 【0046】大腸菌(Escherichia coli)に対しては、アミノアルデヒドの毒性は、アクロレインの毒性よりかなり低いものであると報告されている(B.W.Kimsら;Biochim.Biophys.Acta:228,235−244(1971))。スペルミンあるいは3−アミノプロパナールから時間と共にアクロレインが徐々に生成するものであるから(図5A)、動物細胞中においては、アミンオキシダーゼの存在下に細胞増殖を阻害するのに必要なスペルミンの濃度は、アクロレインの濃度より高いものであろうと予想される。しかしながら、細胞増殖阻害に必要なアクロレインの濃度(7.5〜15μM)と、スペルミンの濃度(15〜30μM)とは近似したものであった。 【0047】したがって、ウシ胎児血清(FCS)の存在下でのアクロレインの安定性を検討した。その結果を図5Bに示す。図中の結果からも判明するように、アクロレインの量は、培地中に添加させるFCSの量の上昇と共に、減少していった。15μMのアクロレインを添加して37℃にて2時間プレインキュベートした培地で細胞を培養した場合、アクロレインの細胞毒性は、アクロレインの低下に起因して、顕著に減少した。これらの結果は、細胞増殖の阻害の程度は、培地中におけるアクロレインの実際の量に依存していることを示している。 【0048】これまでに、ポリアミン(スペルミンおよびスペルミジン)から分解生成し、細胞増殖を阻害する多くの原因物質が報告されているが、その主要毒性物質が何であるかの報告はない。本発明者らの上記した試験例1および試験例2の結果から、アクロレインが最も活性の強い阻害物質(毒性物質)であることが確認された。アクロレインを生成しない他のアルデヒド体、および過酸化水素はアクロレインに比較して細胞増殖の阻害は弱いものであった。 【0049】なお、スペルミンが細胞増殖を阻害する濃度(15〜30μM)は、スペルミジンのそれ(0.1〜0.15mM)より顕著に低濃度である。特にスペルミジンについては、スペルミンの2倍程度の濃度で、同程度の結果を与えているが、これは、2分子相当量のアクロレインがスペルミンから、1分子相当量のアクロレインがスペルミジンから生成するからであるといえる。 【0050】アミンオキシダーゼによるスペルミンあるいはスペルミジンの酸化分解は、分子中の第2級アミンより、むしろ末端アミンで生じていると信じられている。したがって、スペルミン酸化物(アミノジアルデヒド)は、スペルミンからの生成物である。アクロレインは、アミノアルデヒドよりアミノジアルデヒドから生成し易いため、アクロレインは、スペルミジンよりもスペルミンからより効果的に生成するといえる。なお、本発明者らの結果では、ポリアミンの細胞毒性は、ポリアミンから生成するアクロレインの量とパラレルであることを示した。 【0051】試験例3:腎不全患者における血漿ポリアミン含有量の比較検討次いで本発明者らは、実際の腎不全患者における血漿ポリアミン含有量を検討した。すなわち、健常人、透析導入前の患者(moderate)、透析中の患者(severe)の3群に分け、採取した血液の血漿中のポリアミン含有量、およびそのアミンオキシダーゼ活性を比較した。 【0052】その結果を、下記の表2および表3にまとめて示した。 【0053】 【表2】表2:健常人および腎不全患者における血漿中ポリアミン含有量 【0054】 【表3】表3:健常人および腎不全患者における血漿中のアミンオキシタ゛ーセ゛活性 【0055】表2の結果から判明するように、透析導入前の患者(moderate)および透析中の患者(severe)の両者においては、健常人に比較して血漿中のポリアミン含有量として、そのなかでもスペルミン(SPM)の含有量が高いものであった。一方、血漿中のアミンオキシダーゼ活性に関しては、表3の結果からも判明するように、透析中の患者(severe)が一番強く、次いで透析導入前の患者(moderate)、健常人の順であった。この事実は、腎不全患者において、尿毒素としてアクロレインが主要原因物質であり、ポリアミンからの酸化分解生成に、アミンオキシダーゼが活発に作用している事実を反映するものであった。 【0056】以上に記載したように、本発明は、尿毒症治療に使用しうる化合物の選別(スクリーニング)方法を提供するものであり、かかる尿毒症の治療に有効に使用しうる化合物は、第一に、アミンオキシダーゼを介する酸化的脱アミノ化により、生体内ポリアミンから尿毒症の主要原因物質であるアルデヒド体、なかでもアクロレインの生成を阻害する化合物を選別すればよい。 【0057】そのような化合物は、具体的には、ポリアミンからアクロレインを生成させるアミンオキシダーゼの酸化的脱アミノ化反応を阻害し、結果的に血中アルデヒド体の生成を阻害する化合物、例えばアミノグアニジンあるいは、アミノグアニジンと同等の作用を示す化合物であってもよい。 【0058】かくして選別された血中アルデヒド体の生成を阻害する化合物は、尿毒症の治療薬として極めて有効なものとなる。かかる薬剤は、例えば経口的に投与することも可能であり、非経口的に投与し得る薬剤の形態であってもよい。 【0059】 【発明の効果】本発明により、腎不全症候群の主要症状である尿毒症の治療に使用し得る化合物を選別しうる方法が提供され、またかくして選別された結果、得られた化合物は、尿毒症治療剤として治療上極めて有効なものである。 【0060】また、本発明はこれまで腎不全患者において尿毒症の軽減が困難であった現状下で、簡便な尿毒症の軽減方法を提供するものであり、医療上の貢献度は多大なものであるといえる。
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| 【出願人】 |
【識別番号】501127833 【氏名又は名称】五十嵐 一衛
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| 【出願日】 |
平成13年3月29日(2001.3.29) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100083301 【弁理士】 【氏名又は名称】草間 攻
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| 【公開番号】 |
特開2002−281999(P2002−281999A) |
| 【公開日】 |
平成14年10月2日(2002.10.2) |
| 【出願番号】 |
特願2001−95942(P2001−95942) |
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