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【発明の名称】 フラボノイド化合物及びその製造方法
【発明者】 【氏名】三宅 義明

【氏名】大澤 俊彦

【氏名】湊 健一郎

【要約】 【課題】ナリンジンの利用範囲の拡大を図ることができるフラボノイド化合物及びその製造方法を提供する。

【解決手段】フラボノイド化合物は、下記化1で示される構造を有し、ナリンゲニンの8位又は6位に水酸基を備えた8−ヒドロキシナリンゲニン又は6−ヒドロキシナリンゲニンである。これらフラボノイド化合物は、ナリンジンをアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)にて微生物発酵処理することによって得られる。前記微生物発酵処理は、アスペルギルスとナリンジンを添加した培地を振盪培養し、アスペルギルスの栄養菌糸にナリンゲニンを生成させる菌糸培養工程と、アスペルギルスの栄養菌糸から胞子形成を進行させながら8−ヒドロキシナリンゲニン及び6−ヒドロキシナリンゲニンを生成させる胞子形成工程とから構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記化1で示される構造を有し、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)を用いてナリンジンを微生物発酵処理することによって得られることを特徴とするフラボノイド化合物。
【化1】

但し、R1は水素でR2は水酸基、又はR1は水酸基でR2は水素。
【請求項2】 請求項1に記載のフラボノイド化合物を製造するフラボノイド化合物の製造方法であって、ナリンジンをアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)にて微生物発酵処理することにより、前記ナリンジンを微生物変換してフラボノイド化合物を生成させることを特徴とするフラボノイド化合物の製造方法。
【請求項3】 前記微生物発酵処理は、ナリンジンとアスペルギルス・サイトイとを含む培地を振盪培養し、アスペルギルス・サイトイの栄養菌糸にナリンジンからナリンゲニンを微生物変換させる菌糸培養工程を行った後、アスペルギルス・サイトイの栄養菌糸から胞子形成を進行させつつ、前記培地中のナリンゲニンからフラボノイド化合物を微生物変換させる胞子形成工程を行うように構成したことを特徴とする請求項2に記載のフラボノイド化合物の製造方法。
【請求項4】 前記菌糸培養工程に先立って、アスペルギルス・サイトイを含む培地を振盪培養する予備培養工程を行うように構成したことを特徴とする請求項3に記載のフラボノイド化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、フラボノイド化合物及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、ナリンゲニンの配糖体であるナリンジンは、ザボン、夏みかん、グレープフルーツ等の柑橘類、特にそれら柑橘類の果皮やじょうのう膜に多く含まれるフラボノイドである。このナリンジンは、強い苦味を有していることから、主として飲料等に苦味を付与するために用いられている。また、このナリンジンは、抗腫瘍作用や抗炎症作用を有しているうえ、発癌物質によるラット乳癌の生成に対して抑制作用を有することが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】天然に多く存在するナリンジンの有効利用の一環として、ナリンジンを物質変換することにより、その利用範囲のより一層の拡大を見込める可能性が高い。特に、前記ナリンジンは体内への吸収性があまり高くなりことから、物質変換によって栄養的な観点からの価値の向上が期待される。
【0004】この発明は、前記ナリンジンのさらなる利用拡大を目指した鋭意研究の結果なされたものである。その目的とするところは、ナリンジンの利用範囲の拡大を図ることができるフラボノイド化合物及びその製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のフラボノイド化合物は、下記化2で示される構造を有し、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)を用いてナリンジンを微生物発酵処理することによって得られることを特徴とするものである。
【0006】
【化2】

但し、R1は水素でR2は水酸基、又はR1は水酸基でR2は水素。
【0007】請求項2に記載の発明のフラボノイド化合物の製造方法は、請求項1に記載のフラボノイド化合物を製造するフラボノイド化合物の製造方法であって、ナリンジンをアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)にて微生物発酵処理することにより、前記ナリンジンを微生物変換してフラボノイド化合物を生成させることを特徴とするものである。
【0008】請求項3に記載の発明のフラボノイド化合物の製造方法は、請求項2に記載の発明において実施され、前記微生物発酵処理は、ナリンジンとアスペルギルス・サイトイとを含む培地を振盪培養し、アスペルギルス・サイトイの栄養菌糸にナリンジンからナリンゲニンを微生物変換させる菌糸培養工程を行った後、アスペルギルス・サイトイの栄養菌糸から胞子形成を進行させつつ、前記培地中のナリンゲニンからフラボノイド化合物を微生物変換させる胞子形成工程を行うように構成したことを特徴とするものである。
【0009】なお、前記菌糸培養工程後の胞子形成工程は、そのまま振盪培養しても、静置培養に切り替えてもどちらでもよい。但し、静置培養する場合には、培地の深さを浅くして培地の体積に対する表面積の割合(比表面積)を大きくすることにより、培地全体を好気的条件に保ち、アスペルギルス・サイトイによる微生物変換効率を高めるように構成するのが好ましい。
【0010】請求項4に記載の発明のフラボノイド化合物の製造方法は、請求項3に記載の発明において実施され前記菌糸培養工程に先立って、アスペルギルス・サイトイを含む培地を振盪培養する予備培養工程を行うように構成したことを特徴とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、この発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。実施形態の第1のフラボノイド化合物は、下記化3で示される構造を有している。
【0012】
【化3】

この第1のフラボノイド化合物は、化学式がC15126で、分子量が約289のフラボノイド化合物(4',5,7,8-tetrahydroxyflavanone 又は 2,3-dihydro-5,7,8-trihydroxy-2-(4-hydroxyphenyl)-4H-1-benzopyran-4-one)である。このフラボノイド化合物は、上記化3で示される構造より、ナリンゲニン(naringenin;4',5,7-trihydroxyflavanone)の8位に水酸基を備えた有機化合物、いわゆる8−ヒドロキシナリンゲニン(8-hydroxynaringenin)である。
【0013】実施形態の第2のフラボノイド化合物は、下記化4で示される構造を有している。
【0014】
【化4】

この第2のフラボノイド化合物は、化学式がC15126で、分子量が約289のフラボノイド化合物(4',5,6,7-tetrahydroxyflavanone 又は 2,3-dihydro-5,6,7-trihydroxy-2-(4-hydroxyphenyl)-4H-1-benzopyran-4-one)である。このフラボノイド化合物は、上記化4で示される構造より、ナリンゲニン(naringenin)の6位に水酸基を備えた有機化合物、いわゆる6−ヒドロキシナリンゲニン(6-hydroxynaringenin)である。
【0015】これら8−ヒドロキシナリンゲニン及び6−ヒドロキシナリンゲニン(第1及び第2のフラボノイド化合物)は、いずれもメタノール、エタノール及びジメチルスルフォキシド(DMSO)に可溶で、若干溶解性が悪いが水にも可溶である。さらに、前記ナリンゲニンには抗酸化作用がほとんど見られないのに対し、第1及び第2のフラボノイド化合物は極めて高い抗酸化作用を発揮することができる。特に、前記8−ヒドロキシナリンゲニンは、6−ヒドロキシナリンゲニンよりもより一層高い抗酸化作用を発揮することができる。そして、この高い抗酸化作用を利用して、例えば食品や飲料等に添加して健康増進活性を有する健康食品や健康ドリンク等に利用することができる。このとき、これら第1及び第2のフラボノイド化合物は、生体内で活性酸素を消去して過酸化脂質の生成を抑制し、酸化ストレスに起因する癌、動脈硬化、糖尿病の合併症等の生活習慣病の予防に役立つ。
【0016】第1及び第2のフラボノイド化合物は、ナリンジン(naringin)をアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)にて微生物発酵処理することによって得られる。すなわち、これらフラボノイド化合物は、ナリンゲニンとネオヘスペリジオース(neohesheridiose)との配糖体であるナリンジンを含有する培地中でアスペルギルス・サイトイを培養し、そのアスペルギルス・サイトイにナリンジンを微生物変換させることにより、その培養上澄み液中に生成される。なお、このときの培養条件としては、アスペルギルス・サイトイの生育及び前記微生物変換を良好に行うために、20〜40℃の培養温度、好気的条件であるのが好ましい。
【0017】前記培地としては、ポテトデキストロース含有培地やツァペック培地等の糸状菌用培地又はオカラ等の有機物を含有する種々の液体培地が好適に使用される。さらに、ナリンジンから前記フラボノイド化合物を微生物変換させる目的以外の発酵を阻害するように、必要最小限の栄養素を含有する最小培地であるのが好ましく、例えばアルコール発酵しないように単糖類及び二糖類が培地中に含まれないようにするのが好ましい。また、前記培地は、培養開始時点では、アスペルギルス・サイトイの生育を良好にするために、pH3〜7の範囲内であるのが好ましい。
【0018】さらに、培地中にナリンジンを添加する際には、培地中におけるナリンジンの溶解性を高める目的で、低濃度の有機溶媒が含有されるのが好ましい。前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、DMSO等が挙げられる。この培地中の有機溶媒の含有量としては、好ましくは0.01〜5容量%、より好ましくは0.01〜0.1容量%である。この培地中の有機溶媒の含有量が0.01容量%未満の場合には、培地中に充分な量のナリンジンを溶解させることができない。逆に5容量%を越える場合には、アスペルギルス・サイトイの生育が阻害される。
【0019】一方、培地中に添加されるナリンジンの含有量としては、多量のフラボノイド化合物を効率よく得るために、その溶解限界としての飽和濃度まで含有させるのが好ましい。なお、前記飽和濃度は、前記有機溶媒の含有量と深く関連しているが、およそ1重量%以下である。また、培養開始時に培地中に添加されるアスペルギルス・サイトイの濃度としては、多量のフラボノイド化合物を短期間で効率よく得るために、2×106個/mL(cfu/mL)以上であるのが好ましい。
【0020】さらに、このアスペルギルス・サイトイによる微生物変換効率を高めるために、前記培地中でアスペルギルス・サイトイの栄養菌糸を振盪培養する菌糸培養工程を行った後、その栄養菌糸から胞子形成を進行させる胞子形成工程を行うように構成するのが好ましい。
【0021】なお、前記菌糸培養工程に先立って、アスペルギルス・サイトイが栄養菌糸を充分に形成できるようにするために、菌体のみを含有する培地を予備的に振盪培養(以下、予備培養工程と記載する)するように構成するのが好ましい。この予備培養工程は、ナリンジンの溶解性を高めるために培地中に同時に添加される有機溶媒によるアスペルギルス・サイトイの培養初期段階(増殖初期段階)での生育阻害を回避することにより、ナリンジンの微生物変換効率を高めるために行われる。
【0022】この予備培養工程は、アスペルギルス・サイトイの培養初期段階における生育阻害を確実に回避するために、好ましくはアスペルギルス・サイトイの栄養菌糸が培養液面の1/3以上占めるまで、より好ましくは1/3〜2/3程度占めるまで行うように構成される。この予備培養工程において、アスペルギルス・サイトイの栄養菌糸が培養液面の1/3〜2/3程度占めるまでの期間は概ね1〜2週間である。この予備培養工程期間が1週間未満では栄養菌糸が液面の1/3を占めるに至らない。逆に2週間を超える場合には、アスペルギルス・サイトイの栄養菌糸が容器全体に増殖してしまい、培地の栄養成分が欠乏するため、アスペルギルス・サイトイによりナリンジンの分解が早く進み、工程の制御が難しくなる。
【0023】菌糸培養工程は、培地中にナリンジンを添加してから後の工程であり、前記ナリンジンを含む培地中で好気的条件を保ちつつアスペルギルス・サイトイを振盪培養することにより、アスペルギルス・サイトイの栄養菌糸にナリンジンを微生物変換させる工程である。この工程において、アスペルギルス・サイトイの栄養菌糸は、ナリンジンを構成するナリンゲニンとネオヘスペリジオースとの結合を切断してナリンゲニンを生成するグリコシダーゼ反応を極めて効率的に行う。
【0024】なおこのとき、培地中に添加されるナリンジンの含有量は、前記溶解限界を超えて添加されても構わない。このとき、ナリンジン添加時点では溶解されずに培養容器の底部に沈澱していたナリンジンが振盪による撹拌作用により適宜培地中に溶解されて微生物発酵に利用され得る。さらに、培地中に溶解限界を超えてナリンジンを含有させた場合には、培養容器底部のナリンジンの沈澱を防ぐ目的で、50rpm/分程度で沈澱が消失するまで振盪培養するように構成するのが好ましく、その結果としてより多くのナリンゲニンを生成させることができる。
【0025】胞子形成工程は、前記菌糸培養工程後の培地をそのまま培地交換せずに静置培養又は振盪培養することによって、アスペルギルス・サイトイの栄養菌糸に胞子形成を進行させながら微生物変換を行わせる工程である。なお、菌糸培養工程から胞子形成工程に移行する段階は、菌糸培養工程が終了する前から胞子形成が始まる場合もあるため、明確には区別をすることはできないが、胞子が形成され始めたことを目視にて一応確認可能となることから、それを指標にして把握することができる。
【0026】この工程において、アスペルギルス・サイトイの栄養菌糸は、胞子形成を進行させながら、ナリンゲニンの8位又は6位に水酸基を付加させるヒドロキシラーゼ反応を行ってフラボノイド化合物を極めて効率的に生成させる。なお、この胞子形成工程では、通常8−ヒドロキシナリンゲニンと6−ヒドロキシナリンゲニンとが所定の比率で同時に生成される。これら8−ヒドロキシナリンゲニン及び6−ヒドロキシナリンゲニンの生成反応は、培養容器内における胞子形成過程の前期から中期にかけて最も効率的に行われ、収量も増加する。しかし、胞子形成が中期から完了する段階につれて、次第に8−ヒドロキシナリンゲニンと6−ヒドロキシナリンゲニンが分解され、含有量が減少する。このため、より大量の8−ヒドロキシナリンゲニンと6−ヒドロキシナリンゲニンを得るために、ナリンジン添加後からの培養日数が3〜10日で培養を停止するように構成するのが好ましく、ここで生成されたフラボノイド化合物を抽出するとよい。
【0027】また、この胞子形成工程において静置培養を行う場合には、振盪時の物理的刺激による胞子形成の抑制効果を容易に解消することができるため、胞子形成が速やかに行われ、8−ヒドロキシナリンゲニンと6−ヒドロキシナリンゲニンの収量のピークも早くでる。なお、この静置培養時には、培地の深さを浅くして培地の体積に対する表面積の割合(比表面積)を大きくすることにより、培地全体を好気的条件に保ち、アスペルギルス・サイトイの活動を活発化させてその微生物変換効率を高めるように構成するのが好ましい。
【0028】一方、胞子形成工程において振盪培養を行う場合には、培地の深さを適度に深くしても好気的条件を保つことが容易であり、さらに物理的刺激により胞子形成を遅らすことができるため、微生物変換が緩やかに行われ、8−ヒドロキシナリンゲニンと6−ヒドロキシナリンゲニンの収量のピークも静置培養より遅くなる。
【0029】本実施形態における振盪培養の振盪速度としては、50〜200rpm/分の範囲内であるのが好ましい。この振盪速度が50rpm/分未満の場合には、アスペルギルス・サイトイを含有した培地全体が好気的でないため、菌糸の増殖が充分にできない。逆に振盪速度が200rpm/分を越える場合には、培地の揺れが激しく、菌糸形成が充分にできない。
【0030】最後に、上記培養上澄み液又は前記胞子形成工程後の培地からフラボノイド化合物を抽出して精製する。このとき、前記培地をアスペルギルス・サイトイの細胞膜が破壊されない程度に遠心分離(3000rpm程度)して上澄み画分を得、その上澄み画分を疎水性カラムによる逆相液体クロマトグラフィーにより精製するとよい。なお、前記遠心分離後の沈澱画分にも比較的多量のフラボノイド化合物が含まれていることから、その沈澱画分にメタノールやエタノール等の有機溶媒を加えて充分に洗浄しながら抽出した後、その抽出液を逆相液体クロマトグラフィーにて精製するように構成するとよい。
【0031】さらに、8−ヒドロキシナリンゲニンと6−ヒドロキシナリンゲニンとは、極めて類似した性質を有していることから、前記逆相液体クロマトグラフィーにおいて著しく類似した溶出パターンを示す。このため、両者を互いに別々の画分に分離するために、必要に応じて諸条件を僅かに変更しつつ、逆相液体クロマトグラフィーその他の分離精製を行うように構成するのがより好ましい。
【0032】上記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。・ 実施形態の第1のフラボノイド化合物は、アスペルギルス・サイトイを用いてナリンジンを微生物発酵処理することによって得られたものであり、上記化3で示される構造を有する8−ヒドロキシナリンゲニンである。また、実施形態の第2のフラボノイド化合物は、アスペルギルス・サイトイを用いてナリンジンを微生物発酵処理することによって得られたものであり、上記化4で示される構造を有する6−ヒドロキシナリンゲニンである。これらのフラボノイド化合物は、ナリンジンを微生物変換することによって製造されたものであることから、天然に多く存在するナリンジンの有効利用を促進し、その利用範囲の拡大を図ることができる。
【0033】さらに、原料としてのナリンジンは、ザボン、夏みかん、グレープフルーツ等の果皮やじょうのう膜に多く含有されていることから、果汁を搾汁した後の残渣(廃棄物)を極めて有効に利用することができる。前記残渣は、ナリンジンが極めて高濃度に濃縮されているうえ、大量かつ安価に入手することが容易である。このため、これらフラボノイド化合物は、前記残渣を原料として使用することによって、極めて大量かつ安価に製造することが可能である。一方、これら第1及び第2のフラボノイド化合物については、植物(例えばコガネバナの葉)の抽出物から分離精製された文献や、植物の抽出物(例えばベニバナ色素のアグリコン)を酸で異性化することによって化学的に合成された文献等が知られている。しかしながら、これらの文献による方法では、大量のフラボノイド化合物を安価に得るのは著しく困難である。
【0034】加えて、これらのフラボノイド化合物は、ナリンゲニンの8位又は6位に水酸基が付加された構造を有することによって、ナリンジン及びナリンゲニンと比べて著しく高い抗酸化作用を発揮することができる。このため、生体内で活性酸素を消去して過酸化脂質の生成を抑制し、酸化ストレスに起因する癌、動脈硬化、糖尿病の合併症等の生活習慣病の予防に役立てることができる。
【0035】・ 実施形態の第1及び第2のフラボノイド化合物の製造方法は、ナリンジンをアスペルギルス・サイトイにて微生物発酵処理することにより、前記ナリンジンを微生物変換して得られるものである。このため、ナリンジンの利用範囲の拡大を図ることができるフラボノイド化合物を極めて容易に製造することができる。さらに、原料として柑橘類に含有されている天然成分であるナリンジンを用いるとともに、焼酎等の酒類の醸造に利用されるアスペルギルス・サイトイが用いられていることから、人体への摂取においてもほとんど問題がない。
【0036】加えて、前記微生物発酵処理において、アスペルギルス・サイトイとナリンジンとを含む培地を振盪培養する菌糸培養工程を行った後に胞子形成工程を行うように構成することによって、非常に簡単な作業工程で、第1及び第2のフラボノイド化合物を極めて効率的に製造することが可能となる。また、前記菌糸培養工程に先立って、予備培養工程を行うことによってアスペルギルス・サイトイの培養初期における生育阻害を回避して、ナリンジンの微生物変換効率を容易に高めることが可能である。
【0037】
【実施例】以下、前記実施形態を具体化した実施例について説明する。
<ナリンジン変換物の製造>ポテトデキストロース−ブロス培地(DIFCO社製)を複数個の三角フラスコ(容積500mL)に100mLずつ分取し、オートクレーブ滅菌(121℃、15分間)を行った。冷却した後に、2×108個/mL以上の濃度に調製したアスペルギルス・サイトイの胞子懸濁液を1.0mLずつ各フラスコに接種し、30℃の恒温室(大気と同じ成分の好気的条件)内において100rpm/分で振盪培養を行いながら栄養菌糸を育成させた。なお、前記アスペルギルス・サイトイは、(財)応用微生物学研究奨励会(通称IAM)より分譲を受けたアスペルギルス・サイトイ菌株(IAM No.2210)が用いられた。
【0038】10日間振盪培養を行って栄養菌糸を生育させた後、オートクレーブ滅菌(105℃、5分間)した10重量%のナリンジン(SIGMA社製)エタノール希釈液を5mLずつ加え、引続き同好気的条件下で振盪培養を行なって、さらに栄養菌糸からの胞子形成を進行させた。なお、このときの胞子形成の様子を経時的にモニタリングしたところ、ナリンジンを投入しておよそ5日経過後から胞子の形成が始まり、3週間後には培地の液面全体で胞子の形成が認められたことが分かった。
【0039】本実験では、ナリンジン投入後から1週間経過した時点(胞子が液面に出現しはじめた時期)、すなわち胞子形成の前期から中期と思われる時期のサンプルを採取した。そして、この採取されたサンプルを遠心分離(3000rpm、15分間)して不純物を沈澱除去した後、その上澄み液を分析用高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(島津製作所製のLC10A、カラムはYMC社製のA303)にて分析し、フラボノイド組成の変化を調べた。その結果、フラボノイド組成物全体に占めるナリンジン変換物のピークの割合はおよそ30%であることが分かった。
【0040】さらに、前記ナリンジン変換物を含有することが確認されたHPLC用サンプルの残りをエバポレーターにて濃縮した後、分取用HPLC(島津製作所製のLC8A、カラムはYMC社製のR353−151A、SH343−5)にて分画し、ナリンジン変換物の単離精製を行った。その結果、極めて近接した位置に2種類のナリンジン変換物のピークが確認された。これら2種類のナリンジン変換物のピークの割合は、およそ47.5%(第1のナリンジン変換物)及び33.2%(第2のナリンジン変換物)であった。
【0041】<構造決定>上記<ナリンジン変換物の製造>で得られた第1及び第2のナリンジン変換物の構造決定を行った。1H NMR及び13C NMRスペクトルは、内部標準としてDMSO−d6に溶解させたテトラメチルシラン(Tetramethylsilane;TMS)を用いてJEOL JNM−EX−400 NMR装置(1H NMRは400MHz、13C NMRは100MHz)で分析した。質量スペクトル(FAB-MS)は、JEOL JMS−DX−705Lで測定した。また、各ナリンジン変換物を薄層クロマトグラフィー(TLC)にて展開(展開溶媒は1−ブタノール/酢酸/水=4/1/5)し、そのRf値(移動率)を求めた。結果を表1〜表3に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

その結果、前記第1のナリンジン変換物は上記化3で示される構造を有する8−ヒドロキシナリンゲニンであり、第2のナリンジン変換物は上記化4で示される構造を有する6−ヒドロキシナリンゲニンであることが確認された。
【0045】さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。・ 前記微生物発酵処理を0.01〜5容量%の有機溶媒を含有する培地中で行うことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載のフラボノイド化合物の製造方法。このように構成した場合、アスペルギルス・サイトイの生育阻害を低減させつつ、比較的多量のナリンジンを培地中に溶解させて、その微生物変換効率を容易に高めることができる。
【0046】・ さらに前記微生物発酵処理後の培養上澄み液を、疎水性カラムを用いた逆相液体クロマトグラフィーにより精製することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載のフラボノイド化合物の製造方法。このように構成した場合、極めて容易にフラボノイド化合物を単離することができる。
【0047】・ 前記ナリンジンは、柑橘類の果皮又はじょうのう膜から抽出されたものであることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載のフラボノイド化合物の製造方法。このように構成した場合、フラボノイド化合物を大量かつ安価に製造することが容易である。
【0048】・ 上記化3で示される構造を有し、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)を用いてナリンジンを微生物発酵処理することによって得られることを特徴とするフラボノイド化合物。このように構成した場合、ナリンジンの利用範囲の拡大を図ることができる。
【0049】・ 上記化4で示される構造を有し、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)を用いてナリンジンを微生物発酵処理することによって得られることを特徴とするフラボノイド化合物。このように構成した場合、ナリンジンの利用範囲の拡大を図ることができる。
【0050】
【発明の効果】以上詳述したように、この発明によれば、次のような効果を奏する。請求項1に記載の発明のフラボノイド化合物によれば、ナリンジンの利用範囲の拡大を図ることができる。
【0051】請求項2から請求項4に記載の発明のフラボノイド化合物の製造方法によれば、ナリンジンの利用範囲の拡大を図ることができるフラボノイド化合物を容易に製造することができる。
【出願人】 【識別番号】591134199
【氏名又は名称】株式会社ポッカコーポレーション
【識別番号】391012224
【氏名又は名称】名古屋大学長
【識別番号】396020800
【氏名又は名称】科学技術振興事業団
【出願日】 平成13年3月28日(2001.3.28)
【代理人】 【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣 (外1名)
【公開番号】 特開2002−281995(P2002−281995A)
【公開日】 平成14年10月2日(2002.10.2)
【出願番号】 特願2001−93020(P2001−93020)