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【発明の名称】 微生物を用いたカルボン酸の製造方法
【発明者】 【氏名】タパン ダッタ

【氏名】原山 重明

【要約】 【課題】原料化合物から奇数個の炭素が減少したカルボン酸、γ位の炭素に二重結合を持つカルボン酸、安息香酸、1-シクロヘキセン-1-カルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸を製造する手段を提供する。

【解決手段】アルカニボラックス属などの微生物を原料となる化合物に作用させ、反応液から目的の物質を採取する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記の一般式(I):-C2n-C2m+14m+2-R (I)
(式中、Rはメチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を表し、Rはメチル基、ヒドロキシメチル基、アルデヒド基、又はカルボキシル基を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表す。)で示される化合物から下記の一般式(II):R-C2n-COOH (II)
で示されるカルボン酸を製造する方法であって、アルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物又はその培養物を一般式(I)で示される化合物に作用させ、反応液から一般式(II)で示されるカルボン酸を採取することを特徴とするカルボン酸の製造方法。
【請求項2】 一般式(I)で示される化合物を含む培地中でアルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物を培養することにより、前記微生物を一般式(I)で示される化合物に作用させることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】 下記の一般式(III):-C2k-CHCHCH-R (III)
(式中、Rはメチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を表し、Rはメチル基、ヒドロキシメチル基、アルデヒド基、又はカルボキシル基を表し、kは0以上の整数を表す。)で示される化合物から下記の一般式(IV):-C2k-CH=CHCHCOOH (IV)
で示される不飽和カルボン酸を製造する方法であって、アルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物又はその培養物を一般式(III)で示される化合物に作用させ、反応液から一般式(IV)で示される不飽和カルボン酸を採取することを特徴とする不飽和カルボン酸の製造方法。
【請求項4】 一般式(III)で示される化合物を含む培地中でアルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物を培養することにより、前記微生物を一般式(III)で示される化合物に作用させることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】 アルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物又はその培養物をシクロヘキシル基を置換基として持つ直鎖状アルカン、アルコール、アルデヒド、又はカルボン酸に作用させ、反応液から安息香酸を採取することを特徴とする安息香酸の製造方法。
【請求項6】 シクロヘキシル基を置換基として持つ直鎖状アルカン、アルコール、アルデヒド、又はカルボン酸を含む培地中でアルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物を培養することにより、前記微生物を前記化合物に作用させることを特徴とする請求項5記載の安息香酸の製造方法。
【請求項7】 アルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物又はその培養物を安息香酸に作用させ、反応液から1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸を採取することを特徴とする1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸の製造方法。
【請求項8】 安息香酸を含む培地中でアルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物を培養することにより、前記微生物を安息香酸に作用させることを特徴とする請求項7記載の1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、微生物を用いたカルボン酸の製造方法に関し、より詳しくは、アルカニボラックス(Alcanivorax)属などの微生物を用いて、1)原料化合物から奇数個の炭素が減少したカルボン酸を製造する方法、2)γ位の炭素に二重結合を持つカルボン酸を製造する方法、3)シクロヘキサンカルボン酸などから安息香酸を製造する方法、及び4)安息香酸からシクロヘキサンカルボン酸などを製造する方法などに関する。
【0002】
【従来の技術】アルカンあるいはアルキル側鎖を持つ炭化水素化合物(例えばアルキルベンゼン)の分解系路については多くの研究がある。n-アルカン分解の場合、先ず、アルカン末端のメチル基が酸化され、アルコール、アルデヒド、カルボン酸へと変化する。カルボン酸を持つ化合物は脂肪酸に他ならない。脂肪酸はCoA誘導体に変換された後、β酸化によって二炭素づつ鎖長を短かくしていく。
【0003】アルキル側鎖を持つ炭化水素化合物についても、その分解様式は上に述べたアルカンの分解様式に似ている。すなわちアルキル側鎖の末端メチル基が酸化され、オメガ末端(カルボキシル基と反応の端に位置する炭素)が様々な構造をもつ脂肪酸が生成する。そしてβ酸化によりその側鎖の炭素数が二つづつ減少していく。アルキル側鎖を持つ炭化水素化合物として、n-アルキルベンゼン、n-アルキルチオフェン及びn-アルキルシクロチオフェンの分解についての研究が行なわれている。これらの化合物は、完全無機化 (mineralization)される場合もあるし、最終代謝産物 (dead-end products)が蓄積する場合もある。
【0004】n-アルキルベンゼンは多くの菌類やバクテリアによって分解される(Fedorak,P. M., and D. W. S. Westlake. 1986. Appl. Environ. Microbiol. 51:435-437.; Sariaslani et al., 1974)。この際、ベンゼン側鎖の酸化が起り、n-アルキルベンゼンは、安息香酸あるいはフェニル酢酸へと変換される。この側鎖が受ける変換は、実質的にβ酸化である。そして、側鎖の炭素数が偶数か奇数かによって、出来てくる代謝中間物が異なってくる。アシネトバクター・ルォフイィ(Acinetobacter lwoffi)の場合、1-フェニルドデカン (C12の側鎖を持つ)はフェニル酢酸を経て完全分解される。一方、1-フェニルトリデカン (C13の側鎖を持つ)は、3-フェニルプロピオン酸よりtrans-桂皮酸に変換されるが、それ以降の代謝は見られない (Amund, O. O., and I. J. Higgins. 1985.. Antonie vanLeeuwenhoek 51:45-56.)。ノカルディア(Nocardia)sp.では、ドデシルベンゼンは、フェニル酢酸に変換され蓄積される (Davis, J. B., and R. L. Raymond. 1961. Appl. Microbiol. 9:383-388.)。
【0005】n-アルキルシクロヘキサンの代謝について、側鎖のアルキル基の炭素数が偶数であればシクロへキサン還の開裂が起こるが、それが奇数であればシクロへキサン酢酸が蓄積されることが報告されている (Beam, H. W., and J. J. Perry. 1974. J. Bacteriol. 118:394-399.)。
【0006】以上のように、長いアルキル側鎖をもつベンゼンあるいはシクロアルカン誘導体の分解は、アルキル側鎖のβ酸化によることが一般則として言える。このルールによれば、アルキル側鎖の長さによって、より正確には、アルキル側鎖の炭素数が偶数か奇数かによって、生成される代謝中間体が決められてくることになる(Trudgill, 1984)。
【0007】しかし、このルールの例外もあることが知られている。ボーヴェリア(Beauveria)、ペニシリウム(Penicillium)及びペシロミセス(Paecilomyces)といった菌類では、2-n-ドデシルテトラヒドロチオフェンよりテトラヒドロチオフェンカルボン酸及びテトラヒドロチオフェン酢酸が蓄積することが示されている(Fedorak, P. M., and D. W. S. Westlake. 1986. Appl. Environ. Microbiol. 51:435-437.)。類似の現象は、n-アルキルシクロへキサン、n-アルキルベンゼン及びn-アルキル硫酸ベンゼンでも観察されている(Beam, H. W., and J. J. Perry. 1974. J. Bacteriol. 118:394-399.; Fedorak, P. M., and D. W. S. Westlake. 1986. Appl. Environ. Microbiol. 51:435-437.; Rontani and Bonin, 1992;Sariaslani et al., 1974)。例えば、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa) W51D株の硫酸ドデシルベンゼン分解では、先ず脱硫が起り、次いで、アルキル側鎖の分解が起るが、その中間体として4-ヒドロキシプロピオン酸、4-ヒドロキシ桂皮酸、4-ヒドロキシ酢酸及び4-ヒドロキシ安息香酸の生成が認められた。このような中間体の生成はβ酸化のみでは説明がつかず、α酸化が併せて起っていることが示唆された (Rontani and Bonin, 1992)。
【0008】以上の様にβ酸化以外の代謝系路でアルカンあるいはアルキル側鎖が分解される可能性については以前より指摘がされている。そして、その反応様式としてはα酸化が提案されていた。しかしながら、後述するγ酸化の存在については、過去の研究で明らかにはされていなかった。
【0009】ところで、多くの微生物がシクロヘキサンカルボン酸を分解できることについては、既に多くの文献で示されている。例えば、シクロへキサンカルボン酸が、1-シクロヘキセンカルボン酸及びtrans-4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸を経由して分解される系路が知られている。この代謝系路で作られた4-ヒドロキシ安息香酸は、更にゲンチジン酸に変換され、その後は良く知られた芳香族化合物分解系路でCO2とH2Oへと完全分解される。一方、嫌気的条件下で、安息香酸が1-シクロヘキセン-1-カルボン酸に変換される系路が知られている。しかし、シクロヘキサンカルボン酸が安息香酸に変換される経路については知られていなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、アルカンあるいはアルキル側鎖は、脂肪酸あるいは脂肪酸アナログに変換された後、主にβ酸化で分解される。一方、β酸化に依らない代謝系路も存在することが多くの研究で示唆されていたが、その反応の実体は不明であった。本発明は、従来の説(例えばα酸化)とは異なる新たな反応形式が存在することを明らかにし、種々のバイオテクノロジーにこの代謝系路を利用することを図ることを目的とするものである。
【0011】また、シクロヘキサンカルボン酸の微生物分解は既に知られていたが、シクロヘキサンカルボン酸より安息香酸への変換反応は全く知られていなかった。本発明はこの新規な代謝系路を明らかにし、種々のバイオテクノロジーへの応用を図ることも目的とするものである。
【0012】
【課題を解釈するための手段】本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
1.アルカニボラックス属細菌は、アルカンあるいはアルキル側鎖を持つ化合物(アルキルシクロヘキサン、アルキルベンゼン等)を脂肪酸あるいは脂肪酸アナログに変換し、さらにβ酸化によって、炭素数が二つ減少した脂肪酸あるいは脂肪酸アナログに変換する。最終的にはこれらの基質はCO2とH2Oへと分解される。この細菌は、β酸化以外にも、奇数個の炭素が減少した脂肪酸を生成する代謝系路を持つ。脂肪酸のβ酸化における第一番目の反応は、β炭素の位置での不飽和結合の導入であるが、γ炭素の位置での不飽和結合の導入が起った代謝中間体の存在が確認された(図1、化合物6、8及び図2、化合物 f, hを参照)。すなわち、この菌においては、脂肪酸あるいは脂肪酸アナログのγ炭素に不飽和結合を導入し、奇数個の炭素が減少した脂肪酸あるいは脂肪酸アナログを生じる代謝系路が存在することを見出した。なお、このようなγ炭素に不飽和結合が導入された代謝中間体は、γ炭素が直接酸化されて生じたのか、あるいはβ酸化された代謝物から異性化反応により生じたのか、必ずしも明らかになっていないが、便宜上この反応を「γ酸化」と呼ぶことにする。
2.アルカニボラックス属細菌は、シクロヘキサンカルボン酸より1-シクロヘキセン-1-カルボン酸 (化合物12)を経由して安息香酸(化合物13)に変換する代謝系路を持っていることを見出した。また、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸(化合物14)を安息香酸に変換する代謝系路を持っていることを見出した。
【0013】本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
【0014】即ち、本発明の第一は、下記の一般式(I):-C2n-C2m+14m+2-R (I)
(式中、Rはメチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を表し、Rはメチル基、ヒドロキシメチル基、アルデヒド基、又はカルボキシル基を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表す。)で示される化合物から下記の一般式(II):R-C2n-COOH (II)
で示されるカルボン酸を製造する方法であって、アルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物又はその培養物を一般式(I)で示される化合物に作用させ、反応液から一般式(II)で示されるカルボン酸を採取することを特徴とするカルボン酸の製造方法である。
【0015】本発明の第二は、下記の一般式(III):-C2k-CHCHCH-R (III)
(式中、Rはメチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を表し、Rはメチル基、ヒドロキシメチル基、アルデヒド基、又はカルボキシル基を表し、kは0以上の整数を表す。)で示される化合物から下記の一般式(IV):-C2k-CH=CHCHCOOH (IV)
で示される不飽和カルボン酸を製造する方法であって、アルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物又はその培養物を一般式(III)で示される化合物に作用させ、反応液から一般式(IV)で示される不飽和カルボン酸を採取することを特徴とする不飽和カルボン酸の製造方法である。
【0016】本発明の第三は、アルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物又はその培養物をシクロヘキシル基を置換基として持つ直鎖状アルカン、アルコール、アルデヒド、又はカルボン酸に作用させ、反応液から安息香酸を採取することを特徴とする安息香酸の製造方法である。
【0017】本発明の第四は、アルカニボラックス属又はフンディバクター属に属する微生物又はその培養物を安息香酸に作用させ、反応液から1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸を採取することを特徴とする1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸の製造方法である。
【0018】
【発明の実施の形態】最初に本発明者により明らかにされた安息香酸合成系及びγ酸化系について図1及び図2を用いて説明する。
【0019】n-アルキルシクロヘキサンの主要な代謝系路はβ-酸化である。β-酸化の系路を黒の矢印で示す。アルキル側鎖の長さが奇数か偶数かによって、生成してくる代謝中間体は異なっている。基質がn-オクタデシルシクロヘキサン(化合物1)の場合、β-酸化によってシクロヘキサン酢酸(化合物9)が最終産物として蓄積される。基質がn-ノナデシルシクロヘキサン(化合物2)の場合、シクロヘキサンカルボン酸(化合物10)が生じ、さらに1-シクロヘキセン-1-カルボン酸(化合物12)を経て安息香酸(化合物13)へと変換される。1-シクロヘキセン-1-カルボン酸(化合物12)から安息香酸(化合物13)への変換は新規な代謝系路である。3-シクロヘキセン-1-カルボン酸 (化合物14)を基質としても安息香酸(化合物13)が生成される。この変換反応も新規である。
【0020】β-酸化では、β位の炭素に不飽和結合が導入される。例えば、4-シクロヘキサン酪酸(化合物3)、5-シクロヘキサンペンタン酸(化合物4)は、それぞれ4-シクロヘキサン-2-ブテン酸(化合物5)、5-シクロヘキサン-2-ペンテン酸(化合物7)に変換される。また、4-フェニル酪酸(化合物c)、5-フェニルペンタン酸(化合物d)は、それぞれ4-フェニル-2-ブテン酸(化合物e)、5-フェニル-2-ペンテン酸(化合物g)に変換される。
【0021】一方、本発明者により明らかにされたγ酸化では、γ位の炭素の位置に不飽和結合が導入される。例えば、4-シクロヘキサン酪酸(化合物3)、5-シクロヘキサンペンタン酸(化合物4)は、それぞれ4-シクロヘキサン-3-ブテン酸(化合物6)、5-シクロヘキサン-3-ペンテン酸(化合物8)に変換される。また、4-フェニル酪酸(化合物c)、5-フェニルペンタン酸(化合物d)は、それぞれ4-フェニル-3-ブテン酸(化合物f)、5-フェニル-3-ペンテン酸(化合物h)に変換される。
【0022】次に、上述の発明を各発明ごとに詳細に説明する。
(1)カルボン酸の製造方法(第一の発明)
原料とする化合物は下記の一般式(I)で表される。
-C2n-C2m+14m+2-R (I)
ここで、Rはメチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を表し、Rはメチル基、ヒドロキシメチル基、アルデヒド基、又はカルボキシル基を表し、nは0以上の整数を表し、mは1以上の整数を表す。
【0023】製造されるカルボン酸は下記の一般式(II)で表される。
-C2n-COOH (II)
及びnは一般式(I)と同様である。
【0024】原料とする化合物及び製造されるカルボン酸の具体例としては、例えば、表1に示すものが挙げられる。
【0025】
【表1】

一般式(II)で示されるカルボン酸は、特定の微生物又はその培養物を一般式(I)で示される化合物に作用させ、反応液から一般式(II)で示されるカルボン酸を採取することにより製造できる。
【0026】ここで使用する微生物としては、アルカニボラックス属又はフンディバクター属の微生物を例示することができ、これらの中でもアルカニボラックス属に属する微生物を使用するのが好ましく、アルカニボラックスsp. MBIC4326株を使用するのが最も好ましい。アルカニボラックスsp. MBIC4326株は、産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所に受託番号FERM P-17765として寄託されている(受託日:平成12年3月1日)。
【0027】微生物又はその培養物を一般式(I)で示される化合物に作用させる方法は、一般式(II)で示されるカルボン酸が生成され得る方法であれば特に限定されず、例えば、一般式(I)で示される化合物を含む培地中で微生物を培養する方法(発酵法)、一般式(I)で示される化合物と微生物の培養物を一定時間共存させる方法、微生物又はその培養物を担体に固定化し、その固定化微生物等が充填されたカラムに一般式(I)で示される化合物を含む溶液を流す方法などを挙げることができる。
【0028】発酵法において使用する培地としては、微生物が増殖することのできるものであればどのようなものでもよく、例えば、アルカニボラックス属に属する微生物であれば、表1に示した基質を含むBSM培地、M9培地などを使用することができる。表1に示した基質で生育できない場合、適当なC源、例えばn-ヘキサデカン、を上記の培地に添加すれば良い。培養条件は、微生物の種類に応じて決めればよく、例えば、アルカニボラックス属に属する微生物であれば20〜30℃で、振とう培養を行うのが好ましい。培養時間は、微生物の種類、培養条件、製造しようとするカルボン酸の種類に応じて決めればよい。例えば、アルカニボラックス属に属する微生物を20℃で振とう培養し、n-オクタデシルシクロヘキサンよりシクロヘキサンカルボン酸を製造する場合やn-ノナデシルシクロヘキサンよりシクロヘキサン酢酸を製造しようとする場合あるいは、5日間以上の培養が好適である。
【0029】一般式(II)で示されるカルボン酸の採取は、酸性条件化で有機溶媒抽出し、酸性条件化での再結晶化あるいはクロマトグラフィー等の常法に従って行うことができる。
(2)不飽和カルボン酸の製造方法(第二の発明)
原料とする化合物は下記の一般式(III)で表される。
-C2k-CHCHCH-R (III)
ここで、Rはメチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基を表し、Rはメチル基、ヒドロキシメチル基、アルデヒド基、又はカルボキシル基を表し、kは0以上の整数を表す。
【0030】製造される不飽和カルボン酸は下記の一般式(IV)で表される。
-C2k-CH=CHCHCOOH (IV)
及びkは一般式(III)と同様である。
【0031】原料とする化合物及び製造されるカルボン酸の具体例としては、例えば、表2に示すものが挙げられる。
【0032】
【表2】

一般式(IV)で示される不飽和カルボン酸は、特定の微生物又はその培養物を一般式(III)で示される化合物に作用させ、反応液から一般式(IV)で示される不飽和カルボン酸を採取することにより製造できる。
【0033】ここで使用する微生物としては、アルカニボラックス属又はフンディバクター属の微生物を例示することができ、これらの中でもアルカニボラックス属に属する微生物を使用するのが好ましく、アルカニボラックスsp. MBIC4326株を使用するのが最も好ましい。
【0034】微生物又はその培養物を一般式(III)で示される化合物に作用させる方法は、一般式(IV)で示される不飽和カルボン酸が生成され得る方法であれば特に限定されず、例えば、一般式(III)で示される化合物を含む培地中で微生物を培養する方法(発酵法)、一般式(III)で示される化合物と微生物の培養物を一定時間共存させる方法、微生物又はその培養物を担体に固定化し、その固定化微生物等が充填されたカラムに一般式(III)で示される化合物を含む溶液を流す方法などを挙げることができる。
【0035】発酵法において使用する培地としては、微生物が増殖することのできるものであればどのようなものでもよく、例えば、アルカニボラックス属に属する微生物であれば、適当なC源、例えばn-ヘキサデカンと表2に示した基質を添加したBSM培地、M9培地などを使用することができる。培養条件は、微生物の種類に応じて決めればよく、例えば、アルカニボラックス属に属する微生物であれば20〜30℃で、振とう培養を行うのが好ましい。培養時間は、微生物の種類、培養条件、製造しようとする不飽和カルボン酸の種類に応じて決めればよい。例えば、アルカニボラックス属に属する微生物を20℃で振とう培養し、4-フェニル酪酸より4-フェニル-2-ブテン酸を製造する場合、あるいは5-フェニルペンタン酸より5-フェニル-3-ペンテン酸を製造する場合、1日から5日程度の培養が好適である。
【0036】一般式(IV)で示される不飽和カルボン酸の採取は、酸性条件化で有機溶媒抽出し、酸性条件化での再結晶化あるいはクロマトグラフィー等の常法に従って行うことができる。
(3)安息香酸の製造方法(第三の発明)
本発明の安息香酸の製造方法は、特定の微生物を原料化合物に作用させ、反応液から安息香酸を採取することを特徴とするものである。
【0037】原料化合物としては、シクロヘキシル基を置換基として持つ直鎖状アルカン、アルコール、アルデヒド、カルボン酸を使用することができる。シクロヘキシル基を置換基として持つ直鎖状アルカン等としては、n-テトラデデシルシクロヘキサン、n-ペンタデシルシクロヘキサン、n-オクタデシルシクロヘキサン、n-ノナデシルシクロヘキサン、及びこれらの直鎖状アルカンから誘導されるアルコール、アルデヒド、カルボン酸などを例示することができる。
【0038】また、原料化合物としては、1-シクロヘキセン-1-カルボン酸、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸も使用することができる。
【0039】使用する微生物としては、アルカニボラックス属又はフンディバクター属の微生物を例示することができ、これらの中でもアルカニボラックス属に属する微生物を使用するのが好ましく、アルカニボラックスsp. MBIC4326株を使用するのが最も好ましい。
【0040】微生物又はその培養物を原料化合物に作用させる方法は、安息香酸が生成され得る方法であれば特に限定されず、例えば、原料化合物を含む培地中で微生物を培養する方法(発酵法)、原料化合物と微生物の培養物を一定時間共存させる方法、微生物又はその培養物を担体に固定化し、その固定化微生物等が充填されたカラムに原料化合物を含む溶液を流す方法などを挙げることができる。
【0041】発酵法において使用する培地としては、微生物が増殖することのできるものであればどのようなものでもよく、例えば、アルカニボラックス属に属する微生物であれば、上記のn-アルキルシクロヘキサンを基質として添加したBSM培地、M9培地などを使用することができる。培養条件は、微生物の種類に応じて決めればよく、例えば、アルカニボラックス属に属する微生物であれば20〜30℃で、振とう培養を行うのが好ましい。培養時間は、微生物の種類、培養条件、原料化合物の種類に応じて決めればよい。例えば、アルカニボラックス属に属する微生物を20℃で振とう培養し、n-テトラデデシルシクロヘキサン、n-ペンタデシルシクロヘキサン、n-オクタデシルシクロヘキサン、n-ノナデシルシクロヘキサンを原料とする場合5日間程度の培養が好適である。
【0042】安息香酸の採取は、酸性条件化で有機溶媒抽出し、酸性条件化での再結晶化あるいはクロマトグラフィー等の常法に従って行うことができる。
(4)1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸の製造方法(第四の発明)
本発明の1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸の製造方法は、特定の微生物を安息香酸に作用させ、反応液から1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸を採取することを特徴とするものである。
【0043】使用する微生物としては、アルカニボラックス属又はフンディバクター属の微生物を例示することができ、これらの中でもアルカニボラックス属に属する微生物を使用するのが好ましく、アルカニボラックスsp. MBIC4326株を使用するのが最も好ましい。
【0044】アルカニボラックス属等の微生物を用いて安息香酸を1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸に変換するには、第三の発明で用いた代謝系路の逆反応を用いれば良い。具体的には、反応液中に基質として安息香酸を高濃度(例えば100 mM)加え、かつ、アルカニボラックス属が増殖できる炭化水素、例えばn-ヘキサデカン、を加えれば良い。高濃度の安息香酸の存在下で、平衡は、安息香酸より1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸が合成される方向にシフトする。一方、この反応は還元反応であり、NADHあるいはNADPHといった還元型補酵素の供給が必要となる。この還元力は、n-ヘキサデカンなどの酸化で製造することが出来る。この条件化で、安息香酸は1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸に変換される。
【0045】微生物又はその培養物を安息香酸に作用させる方法は、1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸が生成され得る方法であれば特に限定されず、例えば、安息香酸を含む培地中で微生物を培養する方法(発酵法)、安息香酸と微生物の培養物を一定時間共存させる方法、微生物又はその培養物を担体に固定化し、その固定化微生物等が充填されたカラムに安息香酸を含む溶液を流す方法などを挙げることができる。
【0046】発酵法において使用する培地としては、微生物が増殖することのできるものであればどのようなものでもよく、例えば、アルカニボラックス属に属する微生物であれば、適当なC源を含むBSM培地、M9培地などを使用することができる。培養条件は、微生物の種類に応じて決めればよく、例えば、アルカニボラックス属に属する微生物であれば20〜30℃で、振とう培養を行うのが好ましい。培養時間は、微生物の種類、培養条件に応じて決めればよい。
【0047】1-シクロヘキセン-1-カルボン酸又はシクロヘキサンカルボン酸の採取は、酸性条件化で有機溶媒抽出し、酸性条件化での再結晶化あるいはクロマトグラフィー等の常法に従って行うことができる。
【0048】
【実施例】〔実施例1〕BSM培地(1g/l NH4NO3, 30g/l NaCl, 0.5g/l MgSO4・7H2O, 0.3g/l KCl, 1.5g/l K2HPO4, 23.8g/l HEPES, 0.02g/l ferric citrate, 0.2g CaCl2・2H2O (pH 7.5))に、n-オクタデシルシクロヘキサン又はn-ノナデシルシクロヘキサンを1g/lになるように加えた後、アルカニボラックスsp. MBIC4326株を接種し、培養を行った。培養は、20℃で20日間、振とうしながら行った。
【0049】培養終了後、pHを7に合わせ、培地の半分の容量のクロロホルムで3回抽出を行った。ついで、培地をpH2にしたのち、培地と等量ので3回抽出を行った。両者を合わせ、ロータリーエバポレーター中で乾個し、少量のジクロロエタンに溶解した。Supelcoのboron trifluoride (BF3)/methanol 溶液を用い、カルボン酸のメチルエステルを作った。GC/MSによる分析は、Dutta, T. K., and S. Harayama. 2001. Environ. Sci. Technol. 35:102-107 (2001).及びDutta, T. K., and S. Harayama. 2000. Env. Sci. Technol. 34:1500-1505.に記載の方法に従って行った。分析には、島津製作所製のQP-5000Aを使用し、シリカキャピラリーカラムはJ&W Scientificのものを使った(DB-5, 30 m × 0.25 mm)。測定条件は以下の通り。
注入量 :1 μL注入口温度 :300℃検出器 :水素炎イオン検出器(FID)
検出器温度 :300℃インターフェース :300℃カラム温度 :50℃ (2分),50 〜 300℃ (6℃/分),300℃(16分)
キャリアーガス :ヘリウム(1.7 mL/分)
検出は、全イオン検出法およびSIM(selected ion-monitoring)検出法両者で行った。それぞれのサンプルについては、最低三回の測定を行った。GC/MSによる分析結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

表3に示すように、n-オクタデシルシクロヘキサンを基質とした場合にシクロヘキサンカルボン酸が中間代謝物として検出され、n-ノナデシルシクロヘキサンを基質とした場合にシクロヘキサン酢酸が中間代謝物として検出された。β酸化によっては、n-オクタデシルシクロヘキサン、n-ノナデシルシクロヘキサンからはそれぞれシクロヘキサン酢酸、シクロヘキサンカルボン酸しか得られない(図1の黒矢印)。従って、表3の結果は、アルカニボラックスsp. MBIC4326株がβ酸化以外の酸化系を持つことを示唆する。β酸化以外の代謝系路の存在は、幾つかの研究グループ、例えばRontaniとBonin (1992)によって観察されている。彼等はn-ウンデシルシクロへキサン及びn-ドデシルシクロへキサンが、海洋性アルカリゲネス(Alcaligenes)属細菌によって共にシクロへキサンカルボン酸(化合物10)及びシクロヘキサン酢酸(化合物9)に変換されることを見出した。この現象を説明するため、この菌にはβ酸化とα酸化の代謝系路が存在するのであろうと彼等は推測しているが、後述する実施例4の結果を考慮すると、彼らの推論は誤っている可能性が高い。
【0051】また、表3には、1-シクロヘキセン-1-カルボン酸及び安息香酸の検出も示されていることから、アルカニボラックスsp. MBIC4326株はシクロヘキサンカルボン酸を安息香酸に変換する代謝系を持つものと推定される。シクロへキサンカルボン酸の代謝は、他の菌でも観察されている。RotaniとBonin (1992)は、シクロへキサンカルボン酸が、1-シクロヘキセン-1-カルボンを経てピメリン酸 (pimelic acid)に変換されることを見出している。また、BlakleyとPapish (1982)も、類似の代謝系路を見出している(Blakley, E. R., and B. Papish. 1982. Can.J. Microbiol. 28:1324-1329.)。これらの代謝系路アルカニボラックスsp. MBIC 4326株との代謝系路では、シクロへキサンカルボン酸(化合物10)が1-シクロヘキセン-1-カルボン(化合物12)に変換される反応が共通であるが、それ以降の代謝系路は異なっている。
〔実施例2〕BSM培地に、n-ウンデシルベンゼン又はn-ヘキサデシルベンゼンを1g/lになるように加えた後、アルカニボラックスsp. MBIC4326株を接種し、培養を行い、培地中に蓄積された中間代謝物の分析を行った。菌株の培養及び中間代謝物の分析は実施例1と同様に行った。
【0052】分析結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

表4に示すように、n-ウンデシルベンゼンを基質とした場合にフェニル酢酸が検出され、n-ヘキサデシルベンゼンを基質とした場合に安息香酸が検出された。実施例1の場合と同様β酸化によってはこれらの中間代謝物は得られない。従って、表4の結果も、アルカニボラックスsp. MBIC4326株がβ酸化以外の酸化系を持つことを示唆する。
〔実施例3〕BSM培地に、n-ヘキサデカンを0.5g/lになるように加えた後、アルカニボラックスsp. MBIC4326株を接種し、20℃で7日間培養を行った。その後、種々の化合物を培地に1g/lになるように加え、一定期間培養後に培地中に蓄積される中間代謝物をGC/MSにより分析した。GC/MSによる分析は、実施例1と同様に行った。この結果を表5に示す。
【0054】
【表5】

表5に示すように、4-シクロヘキサン酪酸を添加した場合の主な中間代謝物は、シクロヘキサン酢酸であったが、少量のシクロヘキサンカルボン酸、4-シクロヘキサン-2-ブテン酸、4-シクロヘキサン-3-ブテン酸なども検出された。これらの中間代謝物のうち、シクロヘキサン酢酸及び4-シクロヘキサン-2-ブテン酸はβ酸化による産物であるが、シクロヘキサンカルボン酸及び4-シクロヘキサン-3-ブテン酸はβ酸化によっては得られないものである。
【0055】5-シクロヘキサンペンタン酸を添加した場合も同様にβ酸化だけでは得られない中間代謝物が検出された。即ち、検出された中間代謝物のうち、シクロヘキサンカルボン酸、3-シクロヘキサンプロピオン酸、5-シクロヘキサン-2-ペンテン酸はβ酸化による産物であるが、シクロヘキサン酢酸、5-シクロヘキサン-2-ペンテン酸はβ酸化によっては得られないものである。
【0056】以上のことから、表5の結果もアルカニボラックスsp. MBIC4326株がβ酸化以外の酸化系を持つことを示唆するものである。
【0057】一方、5-シクロヘキサンペンタン酸を添加した場合には、中間代謝物として1-シクロヘキセン-1-カルボン酸、安息香酸が検出された。また、シクロヘキサンカルボン酸を添加した場合にも、1-シクロヘキセン-1-カルボン酸、安息香酸が検出された。これらの結果は、表3に示す結果と同様、アルカニボラックスsp.MBIC4326株はシクロヘキサンカルボン酸を安息香酸に変換する代謝系を持つことを示唆する。
〔実施例4〕BSM培地に、n-ヘキサデカンを0.5g/lになるように加えた後、アルカニボラックスsp. MBIC4326株を接種し、20℃で7日間培養を行った。その後、4-フェニル酪酸又は5-フェニルペンタン酸を培地に1g/lになるように加え、一定期間培養後に培地中に蓄積される中間代謝物をGC/MSにより分析した。GC/MSによる分析は、実施例1と同様に行った。この結果を表6に示す。
【0058】
【表6】

表6に示すように、4-フェニル酪酸を添加した場合、4-フェニル-3-ブテン酸、即ち、γ位の炭素に二重結合が導入された物質が検出された。この事実を考慮すると、炭素数が奇数個減少したカルボン酸の生成は、RotaniとBoninが提案したようなα酸化によるものではなく、「γ酸化反応」中間体を経由して起こっているものと推定される。このγ酸化反応生成物(例えば4-フェニル-3-ブテン酸)は、γ位の炭素に直接不飽和結合を導入することによっても起こるし、β酸化で生じた4-フェニル-2-ブテン酸が異性化(isomerization)することによっても作られる。
【発明の効果】本発明により、原料化合物から奇数個の炭素が減少したカルボン酸を製造することができるようになる。また、γ位の炭素に二重結合を持つ不飽和カルボン酸も製造できるようになる。更に、種々の物質を原料として安息香酸、1-シクロヘキセン-1-カルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸も製造できるようになる。
【出願人】 【識別番号】591001949
【氏名又は名称】株式会社海洋バイオテクノロジー研究所
【出願日】 平成13年3月29日(2001.3.29)
【代理人】 【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一 (外1名)
【公開番号】 特開2002−281992(P2002−281992A)
【公開日】 平成14年10月2日(2002.10.2)
【出願番号】 特願2001−94918(P2001−94918)