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【発明の名称】 反応性置換基を有する生分解性重合体
【発明者】 【氏名】白浜 博幸

【氏名】安田 源

【氏名】馬場 栄一

【要約】 【課題】本発明は、成形性が良好で各種の利用形態に応じた機能性を有し、生分解性に優れた生分解性重合体を提供することを目的とする。

【解決手段】発明者らは側鎖に水酸基等の置換基を有するポリラクチド系高分子の研究を行なった結果、このような反応性に富む置換基(官能基)を持つ生分解性重合体が高い生分解性を示すことを見出し、このような反応性に富む置換基(官能基)を持つ生分解性重合体を安定に製造する方法を見出すことにより、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、ラクチドと水酸基、アミノ基及びカルボキシル基から成る群から選択される少なくとも1種の反応性置換基を有するε−カプロラクトンとを開環重合して得られる生分解性共重合体、及びラクチドとフェノール性水酸基を有するデプシペプチドとを開環重合して得られる生分解性共重合体を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ラクチドと水酸基、アミノ基及びカルボキシル基から成る群から選択される少なくとも1種の反応性置換基を有するε−カプロラクトンとを開環重合して得られる生分解性共重合体。
【請求項2】 前記ラクチドがL−ラクチドであり、前記反応性置換基が水酸基である請求項1に記載の生分解性共重合体。
【請求項3】 水酸基、アミノ基及びカルボキシル基から成る群から選択される少なくとも1種の反応性置換基を有するε−カプロラクトンを開環重合して得られる生分解性重合体。
【請求項4】 下記一般式
(式中、nは正数を表し、mは0以上の正数を表す。)で表される生分解性重合体。
【請求項5】 水酸基、アミノ基及びカルボキシル基から成る群から選択される少なくとも1種の反応性置換基を有し、かつ該反応性置換基が保護されたε−カプロラクトンとラクチドとを開環重合させ、該反応性置換基を脱保護することにより生分解性共重合体を製造する方法。
【請求項6】 前記生分解性共重合体が下記一般式
(式中、n及びmは正数を表す。)で表される請求項5に記載の生分解性共重合体の製法。
【請求項7】 水酸基、アミノ基及びカルボキシル基から成る群から選択される少なくとも1種の反応性置換基を有し、かつ該反応性置換基が保護されたε−カプロラクトンを開環重合させ、該反応性置換基を脱保護することにより生分解性重合体を製造する方法。
【請求項8】 ラクチドとフェノール性水酸基を有するデプシペプチドとを開環重合して得られる生分解性共重合体。
【請求項9】 前記ラクチドがL−ラクチドである請求項8に記載の生分解性共重合体。
【請求項10】 下記化学式
(式中、n及びmは正数を表す。)で表される生分解性共重合体。
【請求項11】 請求項10に記載の生分解性共重合体をポリイソシアネートで架橋させた重合物。
【請求項12】 保護されたフェノール性水酸基を有するデプシペプチドとラクチドとを開環重合させ、該フェノール性水酸基を脱保護することにより生分解性共重合体を製造する方法。
【請求項13】 前記生分解性共重合体が下記化学式
(式中、n及びmは正数を表す。)で表される請求項12に記載の生分解性共重合体の製法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は反応性置換基を有する生分解性共重合体に関し、より詳細にはラクチド、特にL−ラクチドと反応性置換基を有するε−カプロラクトン等の環状化合物とを開環重合させて得られる生分解性共重合体に関する。
【0002】
【従来の技術】生分解性重合体は、手術用の糸などの医療用材料や、除草剤などの農薬組織体として利用されている。また近年、自然環境中に放置された時に酵素や微生物によって分解される点が環境保全面から注目され、研究が進められている。生分解性重合体は、種々の製品形状に加工するための成形性が良好である必要がある。また環境放置型重合体の場合は、生分解速度も速いことも求められている。従来の代表的な生分解性重合体に脂肪族ポリエステルがある。脂肪族ポリエステルは生体適合性があり、分解物が無害である点において優れている。代表的な脂肪族ポリエステルであるポリカプロラクトンは、比較的早い生分解速度をもっており、さらに柔軟性(耐衝撃性)に優れているが、機械的強度に劣り、また融点が約60℃と低く成形性に劣るという課題がある。
【0003】また、同じく脂肪族ポリエステルであるポリラクチドは、機械的性質が優れている反面、生分解速度が緩慢であり、固くて脆い、成形加工が困難などという課題がある。ポリラクチドの成形性を改良するための技術としては、例えば特開平7−53685号には、L−ラクチドをアゼライン酸・エチレングリコールとの共重合体とすることによって、L−ラクチドの重合体(融点181℃)に比べて融点が140℃に下がり、押し出し加工における粘度が低下して成形性が改良される技術が開示されている。しかし、この公報には、生分解速度についての記載はなく、改善の余地があると考えられる。また、ポリラクチドの生分解速度を改良するための技術としては、例えば特開平7−304835号には、ε−カプロラクトンとオキセタンないしジメチルトリメチレンカーボネートからなるブロック共重合体が汚泥中ないし酵素を使った分解実験において易生分解性(分解速度に優れる特性)であることが示されている。しかし、この共重合体は、側鎖に官能基をもっていない。
【0004】また、デプシペプチドを用いて生分解速度を改良するための技術として、特許登録第2559208号には、側鎖にアルキル基等の各種の基を持ったデプシペプチド重合体が示されている。しかし、この重合体は、既存の医療材料よりも分解速度を遅くしようとするものであり、側鎖に官能基をもっていない。一方、リシンやアスパラギン酸に基づくデプシペプチドとL−ラクチドとの共重合体が生分解性を示す報告もなされており、ラクチド共重合体の側鎖にアミノ基やカルボキシル基を導入すると生分解性を有することが示されており、更にこのような官能基を導入するために重合時にベンジル基等で保護し、重合後に脱保護する方法も開示されている(T. Ouchi, et. al. J. Polym. Sci.: Part A: Polym. Chem. 1997 35, 377-383)。また、セリンに基づくデプシペプチドとL−ラクチド又はε−カプロラクトンとの共重合体が生分解性を示す報告もなされており、側鎖に水酸基を導入すると生分解性を有することが示されている(G. John, et. al. J. Polym. Sci.: Part A: Polym. Chem. 1997 35, 1901-1907)。
【0005】生分解性重合体が側鎖に官能基を持っていると、その官能基を用いた種々の修飾が可能なので、生分解生重合体としての利用範囲を広げることができる。即ち機能性の高い生分解性重合体が得られる。発明者らは、この視点から、側鎖に置換基を有する高分子の研究を行なっているが、従来の置換基は反応性が乏しく、反応性に富む置換基(官能基)を持つ生分解性重合体はまだ知られていなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記課題を解決して、成形性が良好で各種の利用形態に応じた機能性を有し、生分解性に優れた生分解性重合体を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】発明者らは側鎖に水酸基等の置換基を有するポリラクチド系高分子の研究を行なった結果、このような反応性に富む置換基(官能基)を持つ生分解性重合体が高い生分解性を示すことを見出し、このような反応性に富む置換基(官能基)を持つ生分解性重合体を安定に製造する方法を見出すことにより、本発明を完成するに至った。
【0008】即ち、本発明の目的は、ラクチドと水酸基、アミノ基及びカルボキシル基から成る群から選択される少なくとも1種の反応性置換基を有するε−カプロラクトンとを開環重合して得られる生分解性共重合体を提供することにある。前記ラクチドがL−ラクチドであり、前記反応性置換基が水酸基であってもよい。本発明の別の目的は、水酸基、アミノ基及びカルボキシル基から成る群から選択される少なくとも1種の反応性置換基を有するε−カプロラクトンを開環重合して得られる生分解性重合体を提供することにある。また、本発明の生分解性重合体は、下記一般式
で表されてもよい。式中、nは正数を表し、mは0以上の正数を表すが、これらは単に量的関係を示すものであり共重合物としてブロックやランダムの何れをも含むことを意味する。本発明のまた別の目的は、水酸基、アミノ基及びカルボキシル基から成る群から選択される少なくとも1種の反応性置換基を有し、かつ該反応性置換基が保護されたε−カプロラクトンとラクチドとを開環重合させ、該反応性置換基を脱保護することにより生分解性共重合体を製造する方法を提供することである。前記生分解性共重合体は下記一般式
(式中、n及びmは正数を表す。)で表されてもよい。本発明の更に別の目的は、水酸基、アミノ基及びカルボキシル基から成る群から選択される少なくとも1種の反応性置換基を有し、かつ該反応性置換基が保護されたε−カプロラクトンを開環重合させ、該反応性置換基を脱保護することにより生分解性共重合体を製造する方法を提供することである。
【0009】本発明のまた別の目的は、ラクチドとフェノール性水酸基を有するデプシペプチドとを開環重合して得られる生分解性共重合体を提供することである。前記ラクチドがL−ラクチドであってもよい。本発明の生分解性共重合体は、下記化学式
で表されてもよい。式中、n及びmは正数を表すが、これらは単に量的関係を示すものであり共重合物としてブロックやランダムの何れをも含むことを意味する。このようなフェノール性水酸基を含有する生分解性共重合体をポリイソシアネートで架橋させることにより、分解性や薬剤等の含浸性等を改善することも可能である。ポリイソシアネートとしてはNCO基を複数含む通常のいかなるポリイソシアネートを使用することができ、架橋反応においては適宜公知の触媒を使用してもよい。この発明の更に別の目的は、保護されたフェノール性水酸基を有するデプシペプチドとラクチドとを開環重合させ、該フェノール性水酸基を脱保護することにより生分解性共重合体を製造する方法を提供することである。前記生分解性共重合体が下記化学式
(式中、n及びmは上記と同様である。)で表されてもよい。
【0010】発明者らは、予め反応性置換基を保護したカプロラクトンを元にして共重合体を作り、その後脱保護する方法によって、反応性置換基をもつカプロラクトン共重合体を合成することに成功した。反応性置換基をもつカプロラクトン単量体、保護された反応性置換基をもつカプロラクトン単量体、及びそれらの重合体・共重合体は従来知られていなかった新物質である。また、この共重合体は、実験によって、置換基を持たない従来のカプロラクトン重合体よりも早い生分解速度を示し、置換基の部分に各種の化学修飾を施すことが容易であるから、高機能をもつ生分解性共重合体として利用できる。このような置換基の中で反応性に優れているものの一つとして親水性の水酸基があり、この反応性置換基をもつε−カプロラクトンと、L−ラクチドとの共重合体とすることにより、海水中で良好な生分解速度が得られる。反応性置換基を保護したカプロラクトン共重合体は160℃程度の融点を持ち、熱的特性に優れている。カプロラクトンとラクチドとの割合を変えて製造することによって、生分解速度の異なる種々の共重合体が同じ成分から合成できる。保護された反応性置換基を有するカプロラクトンは、本発明の共重合体を製造する原料として有用である。また、上記カプロラクトンを脱保護して得られる、反応性置換基を有するカプロラクトン単量体は、生分解性塗料への応用が可能である。
【0011】また、発明者らは、予めフェノール性水酸基を保護したデプシペプチドで重合体を作り、その後脱保護する方法によって、フェノール性水酸基をもち高分子量のデプシペプチド重合体を合成することに成功した。このデプシペプチドと、L−ラクチドとの共重合体とすることにより、反応性の高い共重合体を得ることができる。フェノール性水酸基をもつデプシペブチド共重合体は従来知られていなかった新物質である。この新物質は、海水中でラクチド重合体よりも早い生分解速度を示し、置換基の部分に各種の化学修飾を施すことが容易であるから、高機能をもつ生分解性共重合体として利用できる。また、上記共重合体は、イソシアネートなどの架橋剤と反応させることにより水酸基同士が架橋した架橋構造をもつ共重合体とすることができる。反応性置換基を保護したデプシペプチド共重合体は130〜150℃程度の融点を持ち、成形性に優れている。デプシペプチドとラクチドとの割合を変えて製造することによって、生分解速度の異なる種々の共重合体が同じ成分から合成できる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、カプロラクトンを用いた生分解性共重合体について説明する。本発明において、反応性置換基を有するカプロラクトンとは、ε−カプロラクトンの環状部の水素をイオン性又は親水性の官能基で置換したものをいう。また、反応性置換基を有するカプロラクトンが開環重合した生分解性共重合体には、反応性置換基を有するカプロラクトンのみの重合体(単独重合体)も合まれる。同様に水酸基をもつε−カプロラクトンとより成る生分解性共重合体には、水酸基をもつε−カプロラクトンの単独重合体も合まれる。本発明においてラクチドとはα‐ヒドロキシ酸を2分子脱水して生ずる環状ジエステル化合物の総称であり、L−ラクチドとはL−乳酸を一般に減圧下で加熱して得られる化合物(C)をいう。また、デプシペプチドとはペプチド結合以外にエステル結合やチオエステル結合を含むペプチドのことをいう。本発明において反応性置換基とは例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等をいう。保護とは、上記反応性置換基をベンジル基等と結合させて不活性にする処理をいい、保護された反応性置換基とは、イオン性及び親水性を持たない置換基をいう。
【0013】1.保護された反応性置換基をもつカプロラクトン単量体の合成機能性や生分解性を高めるために導入する反応性置換基は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、などがある。本発明の共重合体を得るための出発原料としてのカプロラクトンの単量体は、反応性置換基がある状態では重合反応が困難なので、単量体の反応性置換基は、反応性を低くしておくことが好ましい。このために、まず、ベンジル基(以下、「Bzl」と略す。)で保護された反応性置換基を有するカプロラクトンの単量体を合成する。ベンジル基で保護された反応性置換基を持つ物質としては、水酸基をもつものとして、4−ベンジルオキシカプロラクトン(以下、「4BOCL」と略し、ベンジル基を脱保護したものを「HCL」と略す。)(a)が、カルボキシル基をもつものとしては、2−ベンジルオキシカルボニルカプロラクトン(b)、及び2−ベンジルオキシカルボニルメチルカプロラクトン(c)がある。
【0014】

【0015】(a)の合成は、ケトン基を一つ保護した1,4−シクロヘキサンジオンモノエチレンケタールを還元し、ベンジルブロミドを反応させ、酸素原子挿入反応で環状ケトンをラクトンに変換する方法が適用でき、(b)の合成は、ピメリン酸ジエチルを環状化させてベンジルアルコールとエステル交換反応を行ない、同様にラクトンに変換する方法が、(c)の合成は、ε−カプロラクトンにブロモ酢酸ベンジルを反応させる方法が適用できる。
【0016】2.単独及び共重合体の合成本発明の中間物質であるところの保護された反応性置換基を有するカプロラクトンの単独及び共重合体は、保護された反応性置換基をもつカプロラクトンの単量体を開環重合させて得る。共重合させる相手物質は、カプロラクトンの機械的強度や熱的特性が劣る点を改善でき、共重合可能な有機物から選択する。このような物質の代表的なものとしては、L−ラクチド(以下、「L−LA」と略す。)が好ましい。重合反応の触媒としては、有機スズ化合物、有機アルミニウムと水、有機ランタノイド化合物の単体及びそれらの化合物より選ぶことが好ましい。
【0017】本発明の生分解性共重合体において、保護された状態における(L−LA/4BOCL)の組成比、すなわち脱保護された状態における(L−LA/4HCL)の組成比は、用途・環境に応じて任意モル比(100/0)〜(0/100)である。好ましくは(80/20)〜(20/80)である。4BOCL及び4HCLのモル比が80%を超えると極端に熱成形性が低下する。4BOCL及び4HCLが20%未満であると、4BOCL及び4HCLを共重合した効果が現われにくい。組成比は共重合体の仕込み割合で変更できる。本発明の生分解性共重合体において、分子量(Mn)は、用途に応じて数千〜数十万の範囲が適切である。好ましくは1万〜20万である。分子量が1万未満であると粉末体としては使えるが強度のあるフィルム状には成形し難く、20万を超えると粘度が高くなりすぎて成形性が低下する。分子量の調整には、温度条件、触媒量などの合成条件を変更して行なう。
【0018】3.脱保護反応反応性置換基を保護しているベンジル基の脱保護には、テトラヒドロフラン(THF)に溶解させてパラジウム/活性炭触媒を使う方法、チオアニソール/トリフルオロ酢酸を用いる方法、トリフルオロメタンスルホン酸−チオアニソール/トリフルオロ酢酸を用いる方法、などが適用できる。重合体にした後の脱保護は、温度条件・触媒量などを調節して、主鎖の開裂を極力減らし、脱保護が十分に行なえるようにする。保護された単量体の場合は、強酸の開裂による脱保護が可能であり、上記重合体の方法でも脱保護が可能である。
【0019】4.ミクロスフィアの合成本発明の共重合体は、機能性高分子:例えばドラッグデリバリーシステム(DDS)等への応用が考えられる。この場合、細かな粒子の形状が好都合である。微粒子形状の一つであるミクロスフィアにするには、脱保護して得られた共重合体を有機溶媒に溶解し、超音波によって水に分散する方法(O/Wエマルジョン法)によって得ることができる。本発明の共重合体は、親水性をもっているので、水への分散が良好となり、サブミクロン単位の微粒子が製造可能である。水への分散時に界面活性剤を用いるとさらに分散が良好となる。
【0020】次に、デプシペプチドを用いた生分解性共重合体について説明する。本発明の生分解性共重合体において、反応性置換基を有するデプシペプチドとは、開環した炭化水素側鎖にイオン性又は親水性の置換基を持つものをいう。また本発明において高分子量とは数平均分子量で2万以上の高分子化合物をいう。また、デプシペプチドを開環重合させた生分解性共重合体には、デプシペプチドのみの重合体(単独重合体)も合まれる。
【0021】1.保護された反応性置換基をもつデプシペプチドの合成機能性や生分解性を高めるために導入する反応性置換基は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、などがある。本発明の共重合体を得るための出発原料としてのデプシペプチドの単量体は、反応性置換基がある状態では重合反応が困難なので、まずベンジル基で保護された反応性置換基を持つデプシペプチドの単量体を合成する。この反応の一例を下式に示す。
【0022】

【0023】α−アミノ酸であるL−チロシンのフェノール性水酸基をベンジル基で保護し、得られたO−ベンジル−Lチロシン[Tyr(Bzl)]とD,L−2ブロモプロピオニルブロミド(ヒドロキシ酸誘導体)とのSchotten−Baumann反応によって直鎖状のD,L−2ブロモプロピオニルチロシン(Bzl)(ベンジル基で保護されたD,L−2ブロモプロピオニルチロシン)を合成する。続いて、このものの分子内脱塩環化反応を行ない、環状デプシペプチド単量体L−3−(O−ベンジル)−チロシル−D,L−6−メチル−2,5−モルホリンジオン(以下、「L−BTMO」と略し、ベンジル基を脱保護したものを「L−TMO」と略す。)を得る。デプシペプチドを構成するアミノ酸としては、上記のチロシンのほかにセリン、システインとすることもできる。
【0024】2.共重合体の合成共重合体は、反応性置換基をもつデプシペプチドを開環重合させて得る。共重合させる相手物質には、分解によっても無害である脂肪族ポリエステルがあり、ラクチドやε−カプロラクトンが好ましい。重合反応の触媒としては、有機スズ化合物、有機アルミニウムと水、有機ランタノイド化合物の少なくとも一つ、又はこれらの組合わせが適用できる。本発明の生分解性共重合体において、(L−LA/L−BTMO)の組成比、すなわち後述する(L−LA/L−TMO)の組成比は、用途・環境に応じて任意(100/0)〜(0/100)である。好ましくは(96/4)〜(70/30)である。L−BTMOが30モル%を超えると組成物が固くて脆くなりシート・フィルムなど有形の成形品が得られ難くなる。L−BTMOが4モル%未満であると、融点の低下が小さくなり、成形条件に制約を受けることがある。組成比は共重合体の仕込み割合で変更できる。本発明の生分解性共重合体において、分子量(Mn)は、用途に応じて数千〜数十万の範囲が適切である。好ましくは2万〜20万である。分子量が2万未満であると粘度が小さくなり、20万を超えると粘度が高くなりすぎて、いずれも成形性が低下する。分子量の調整には、温度条件などを変更して行なう。
【0025】3.脱保護反応フェノール性水酸基を保護しているベンジル基は、トリフルオロ酢酸(TFA)にチオアニソールを共存させておくことにより、脱保護することができる。トリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA)−チオアニソール/TFA系でも脱保護が可能である。
4.ミクロスフイアの合成アミノ酸ユニット含有重合体は、機能性高分子の一つであるドラッグデリバリーシステム(DDS)等への応用が考えれる。この場合、細かな粒子形状が好都合である。一つの微粒子形状であるミクロスフィアは、脱保護して得られた重合体を有機溶媒に溶解し、超音波によって水に分散する(O/Wエマルジョン法)ことによって得ることができる。本発明の共重合体は、親水性基を有しているので、水中への分散が良好となり、サブミクロン単位の微粒子が製造可能である。
【0026】
【実施例】実施例1〜3、比較例1〜34−ベンジルオキシカプロラクトンの合成ケトン基を一つ保護した1,4−シクロヘキサンジオンモノエチレンケタールをTHF中で水素化アルミニウムリチウムにより還元し、8−ヒドロキシ−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカンを収率69%で得た。反応の進行はIRスペクトルの変化[1712cm−1(CO)→3411cm−1(OH)]によって確認した。得られたアルコールをTHF中で水素化ナトリウムによってアルコキシドイオンを生成させ、ベンジルブロミドを4当量加え、室温で24時間反応させることによって、8−ベンジルオキシ−1,4−ジオキサスピロ[4.5]デカンを収率93%で得た。この反応は二分子求核置換反応(S2)機構であるため、反応基質であるベンジルブロミドを過剰量加えることによって反応性を向上させた。次に保護されたケトンすなわちケタールを酸で一晩処理することによってケトンに戻した。4−ベンジルオキシシクロヘキサノンが収率83%で得られた。反応の進行はIRスペクトルのCO伸縮ピーク(1712cm−1)の出現により確認した。最後に、ジクロロメタン中、メタクロロ過安息香酸(MCPBA)によって室温で16時間、酸素原子挿入反応(Baeyer−Vi11iger反応)を行ない、環状ケトンをラクトンに変換し、目的物質である4−ベンジルオキシカプロラクトン(4BOCL)を収率83%で得た。反応の進行はIRスペクトルのCO伸縮ピークのシフト[1712cm−1(CO)→1737cm−1(COO)]により確認した。
【0027】4BOCL単独及び共重合体の合成次に、上記で得られた4−ベンジルオキシカプロラクトン(4BOCL)の単独重合体(実施例3)及び4BOCLとL−ラクチド(L−LA)との共重合体[P(L−LA/4BOCL)]を合成し、共重合体の仕込み比率は、4BOCLが60%と50%の2水準で行なった(実施例1及び2)。合成条件は、アルゴン雰囲気下、触媒にはオクチル酸スズ[Sn(Oct)]を全モノマー量に対して0.2モル%用い、オイルバス中120℃で15時間反応とした。比較例として、L−ラクチド(L−LA)と、ε−カプロラクトン(CL)とを合成して共重合体[P(L−LA/CL)]を得た(比較例1及び2)。合成条件は、上記と同じ条件とした。他の比較例として、市販の2種類の単独重合体:ポリラクチド[P(L−LA)]、及びポリカプロラクトン[P(CL)]も準備した(比較例3)。
【0028】物性値の測定重合体の物性値の測定は、数平均分子量Mn、分子量分布の指標(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で行ない、ガラス転移点(Tg)及び融点(Tm)は、示差走査熱量測定法(DSC)で行なった。上記の共重合体及び比較例の重合体の物性値を測定した結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

実施例1及び2の共重合体P(L−LA/4BOCL)は、比較例1の重合体P(L−LA)にくらべ、融点が低下している。これは、熱加工における粘度が低下して押し出し加工が容易になることを示している。また、比較例3の重合体P(CL)よりも高い融点を持ち、成形性が改善されている。
【0030】生分解性の測定次に、実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた共重合体及び単独重合体の10mm×10mm×0.5mmのフィルムを、沖合い約30mにある海面網生簀内の水深1.5mに沈め、水温13℃〜28℃での海水による分解性を評価した。なお実施例1〜2の共重合体P(L−LA/4BOCL)64、P(L−LA/4BOCL)48は、下式で示す脱保護反応を行なって供試した。
【0031】

【0032】P(L−LA/4BOCL)重合体3gを100mLのTHFに溶解させ、水素雰囲気下で活性炭にパラジウム(Pd 10重量%)を担持した触媒(Pd/C触媒)1.25gをこれに加えた。反応混合物を3日間室温で攪拌することにより、ベンジル基の脱保護を行ない、水酸基へと変換した。脱保護反応後、Pd/C触媒をろ過により除去し、ろ液(重合体溶液)の中に10倍量のジエチルエーテルを添加すると、目的の水酸基を有し、脱保護された共重合体[P(L−LA/4HCL)]が収率90%で沈殿物として得られた。脱保護反応の進行はH NMRスペクトルを測定することによって確認した。
【0033】図1に実施例1〜2及び比較例1〜3の各種重合体の分解速度を示す。図1に見られるように、実施例1の脱保護された共重合体P(L−LA/4HCL=36/64)の海水による分解性は、市販のポリラクチドやポリラクトン(比較例1,3)よりもかなり優れており、比較例2のラクチドとカプロラクトンの共重合体P(L−LA/CL:36/64)よりも優れていることがわかる。また、実施例1〜2の脱保護された共重合体のP(L−LA/4HCL=36/64)とP(L−LA/4HCL=52/48)との生分解速度の差に見られるように、単量体のモル比を変えることにより共重合体の分解性を自由に変えることができる。従って、目的とする分解環境に合わせた分解速度を持つ共重合体が得られる。さらに、実施例の脱保護された共重合体は、水酸基(官能性反応基)を有するため、官能性反応基を利用して薬剤などの化学修飾も簡便に行なうこともでき、新規な機能を持つ共重合体を容易に得ることができる。
【0034】実施例4〜6(1)デプシペプチド単量体の合成初めにチロシンの水酸基の保護を行なう。L−チロシン(L−Tyr)36g(0.2モル)と、硫酸銅(CuS0・5H0)25g(0.1モル)を1M NaOH水溶液200mLに懸濁して2時間攪拌した。メタノール1.2Lを加えた後、ベンジルブロミド(Bzl−Br)25mLと2M NaOH 100mLを数回に分けて加え、さらに3時間攪拌した。得られた沈殿を濾取し、メタノール:水(1:1)で洗う。これを乳鉢内で1M HC1で何度もこねて脱銅する。生成物を濾取し、水、希NHOH、アセトン、次いでエーテルで洗って真空乾燥した。精製は、80%酢酸から再結晶するとO−ベンジル−L−チロシン[Tyr(Bzl)]が針状晶として得られた。
【0035】次にTyr(Bzl)17.5g(0.064モル)を0.5M NaOH128mL(0.064モル)水溶液中で攪拌し、約5℃に冷却する。Tyr(Bzl)が完全に溶解するまで1M NaOHを加えた後、D,L−ブロモプロピオニルブロミド7.37mL(0.071モル)と1M NaOH 90mL(0.090モル)を交互に約30分かけて滴下した。反応溶液が常にアルカリ性であることを確認しながら、10時間反応を行なった。反応終了後に5N HC1を加え、薄い黄色の生成物を沈殿させた(pH3)。この生成物を吸引濾取し、真空乾燥後、エーテルを溶媒に用いてソックスレー抽出により精製した。ソックスレー抽出後も溶液が黄色であったため、溶液と生成物を遠心分離機にかけデカンテーションを行なった。NMRによりD,L−ブロモプロピオニルブロミドTyr(Bzl)の生成を確認した。続いて、上記生成物28.1g(0.069モル)をジメチルホルムアミド(DMF)150mLに溶解し、NaHCO4.99g(0.059モル)を加えて、60℃で24時間還流して分子内脱塩環化反応させ、デプシペプチド単量体(L−BTMO)を得た。DMFを完全に減圧留去した後、過剰量のクロロホルムを加え脱塩した。得られた黄色の生成物を酢酸エチル/トルエン混合溶媒で3回再結晶して、白色の環状デプシペプチド単量体(L−BTMO)を得た。生成はNMRで確認した。
【0036】(2)デプシペプチド単量体の単独重合体の合成L−BTMOの単独重合は、アルゴン雰囲気下、触媒にはオクチル酸スズ(II)[Sn(Oct)]を全単量体量に対して0.2モル%用いた。L−BTMO及びSn(Oct)(乾燥トルエン溶液)をシュレンクチューブ(重合容器)に加えた後、系内を真空にしてトルエンを留去、容器を封管し、オイルバス中160℃で48時間反応させた。生成物をクロロホルムに溶解し、メタノールで再沈して精製した。生成はNMRで確認した。
【0037】(3)L−ラクチド(L−LA)/L−BTMO共重合体の合成と熱特性実施例として、色々に組成比を変えたL−LA/L−BTMO共重合体の合成を、アルゴン雰囲気下、触媒にはオクチル酸スズ(II)[Sn(Oct)]を全単量体量に対して0.2モル%用いて行なった(実施例4〜6)。L−BTMO及びSn(Oct)(乾燥トルエン溶液)をシュレンクチューブに加えた後、系内を真空にしてトルエンを留去、容器を封管し、オイルバル中130℃で8時間反応させた。得られた共重合体のH NMRにより解析した共重合体の単量体モル比、収率、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定結果[数平均分子量(Mn)、分子量分布の指標:重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]、示差走査熱量計を用いて測定したガラス転位点(Tg)及び融点(Tm)を表2に示す。また、比較例として、市販のポリラクチド[P(L−LA)]及びポリカブロラクトン[P(CL)]の特性も併せて表2に記載した(比較例1,3)。
【0038】
【表2】

表2に見られるように、実施例4〜6は比較例1のP(L−LA)の融点とさほど変わらず、比較例3のP(CL)の融点よりもかなり高く、熱加工性が優れている。
【0039】(4)L−LA/L−BTMOの脱保護副反応を抑制するために導入しておいたベンジル保護基の除去を行った。0.5M チオアニソール/TFAを用いて、氷水中で1時間、室温で30分脱保護反応を行ない、目的のL−3−チロシル−D,L−6−メチル−2,5−モルホリンジオン共重合体[P(L−LA/L−TMO)]を得た。保護基の除去の確認はNMRにより行なった。脱保護反応によって、幾分分子量は低下し、分子量分布が広がるが、融点、融解熱、ガラス転位点などの熱特性には殆ど変化が見られなかった。
【0040】(5)L−LA/L−TMO共重合体の酵素分解性生分解の速度を評価するために、タンパク質加水分解酵素として知られているプロティナーゼK(Tritirachium album由来、活性20IU和光純薬工業(株)製)を用いて酵素分解性を調べた。分解液作成用の水は蒸留後、さらにイオン交換した純水を使用した。酵素をGoodの緩衝液(Tricine[N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン];pH8.0)にサンプル管瓶内で溶解し、分解試験温度(37℃)に達するまで恒温槽中に放置した。各重合体サンプル(フィルム状)をポリエチレンシートメッシュ(網目約1×1mm)内に入れ、上記酵素分解液中で分解試験を開始した。分解はサンプル管瓶を往復振とう(100回/秒)しながら行った。分解性は所定の時間浸漬した重合体をイオン交換水でよく洗浄し、乾燥させた後、重量減少により評価した。評価結果を図2に示す。図2に見られるように、実施例4、6のL−LA/L−TMO共重合体の酵素分解性も比較例1のP(L−LA)よりかなり優れている。また、実施例4〜6のようにL−LA/L−TMO共重合体の組成比を変えることで、酵素分解性を変化させることも可能である。
【0041】実施例7イソシアネートによる架橋構造体の生成実施例4で用意した共重合体[P(L−LA/L−BTMO)3.7]0.1gをクロロホルムに溶解後、ヘキサメチレンジイソシアネート(OCN(CHNCO)0.01mLを加え、徐々に昇温・減圧操作を行ない70℃、50mmHgで1時間反応させた。得られた共重合体はクロロホルムに可溶であったがH NMR測定の結果、ウレタン結合由来のピークの出現や、ベンゼン環ピークのシフトから図3に示すような3次元的な架橋構造ができていることが考えられる。この架橋構造を持つ生分解性共重合体は、直鎖状の架橋剤を用いているため、追加のベンゼン環をもつ架橋構造にくらべてより分解性に優れ、薬剤等の含浸性に優れた機能性共重合体とすることができる。
【0042】
【発明の効果】(1)反応性置換基を有するので、薬剤などの化学修飾が容易に行なえる生分解性重合体である。
(2)土壌・水中の微生物や酵素によって迅速に分解されるので、環境を汚染しないクリーンプラスチックとして利用できる。生体適合性に優れているので、体内で分解代謝されるバイオマテリアルとして利用できる。
(3)熱可塑性をもち、熱押しによる成形が容易である。
【出願人】 【識別番号】396020800
【氏名又は名称】科学技術振興事業団
【出願日】 平成13年2月13日(2001.2.13)
【代理人】 【識別番号】100087631
【弁理士】
【氏名又は名称】滝田 清暉 (外1名)
【公開番号】 特開2002−234934(P2002−234934A)
【公開日】 平成14年8月23日(2002.8.23)
【出願番号】 特願2001−34940(P2001−34940)