トップ :: C 化学 冶金 :: C08 有機高分子化合物;その製造または化学的加工;それに基づく組成物




【発明の名称】 アクリル系ブロック共重合体、制振材用組成物及びアクリル系ブロック共重合体の製造方法
【発明者】 【氏名】山▲崎▼ 博

【氏名】▲吉▼田 雅年

【要約】 【課題】幅広い温度範囲に渡って常に一定以上の制振性能を示し、各種の分野で幅広く適用させることができるアクリル系ブロック共重合体、該アクリル系ブロック共重合体を含む制振材用組成物、及び、該アクリル系ブロック共重合体を容易かつ効率よく生産できる製造方法を提供する。

【解決手段】異なる組成の2組以上の単量体成分を3価以上の多価メルカプタン類の存在下で重合反応に付してなるアクリル系ブロック共重合体であって、損失正接(tanδ)が−50〜150℃の間で、温度幅90℃以上に渡って0.3以上であり、該アクリル系ブロック共重合体を構成する繰り返し単位は、全繰り返し単位を100重量%とすると、(メタ)アクリル系単量体により形成される繰り返し単位が55重量%以上であるアクリル系ブロック共重合体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 異なる組成の2組以上の単量体成分を3価以上の多価メルカプタン類の存在下で重合反応に付してなるアクリル系ブロック共重合体であって、損失正接(tanδ)が−50〜150℃の間で、温度幅90℃以上に渡って0.3以上であり、該アクリル系ブロック共重合体を構成する繰り返し単位は、全繰り返し単位を100重量%とすると、(メタ)アクリル系単量体により形成される繰り返し単位が55重量%以上であることを特徴とするアクリル系ブロック共重合体。
【請求項2】 異なる組成の2組以上の単量体成分を3価以上の多価メルカプタン類の存在下で重合反応に付してなるアクリル系ブロック共重合体であって、該異なる組成の2組以上の単量体成分は、各単量体成分を重合した場合に得られる各重合体の計算上のガラス転移点の最大差が130〜200℃であり、該アクリル系ブロック共重合体は、最初に重合反応に付する単量体成分の重量が全単量体成分の総重量100重量%に占める割合の35〜65重量%であり、最初に重合反応に付した単量体成分の重合率が45%以内である間に、最初に重合反応に付した単量体成分とは異なる次の単量体成分を重合反応に付することを必須として得られることを特徴とするアクリル系ブロック共重合体。
【請求項3】 請求項1又は2記載のアクリル系ブロック共重合体を含んでなる制振材用組成物であって、該アクリル系ブロック共重合体の含有量は、該制振材用組成物を100重量%とすると、10重量%以上であることを特徴とする制振材用組成物。
【請求項4】 異なる組成の2組以上の単量体成分を3価以上の多価メルカプタン類の存在下で重合反応に付する重合反応工程を含んでなるアクリル系ブロック共重合体の製造方法であって、該異なる組成の2組以上の単量体成分は、各単量体成分を重合した場合に得られる各アクリル系重合体の計算上のガラス転移点(Tg)の最大差が130〜200℃であり、計算上のTgが50℃以上となる重合体が得られる単量体成分の重量が全単量体成分の総重量100重量%に占める割合の35〜65重量%であり、該重合反応工程は、最初に重合反応に付する単量体成分の重合率が45%以内である間に、最初に重合反応に付した単量体成分とは異なる次の単量体成分を重合反応に付することを必須として行われることを特徴とするアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アクリル系ブロック共重合体、該アクリル系ブロック共重合体を含む制振材用組成物及びアクリル系ブロック共重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】制振材用組成物は、振動の伝達により機器類や建築物等に破壊や損傷等の不具合が生じることを避けるために用いられる制振材料を形成する組成物であり、例えば、ゴムやアスファルト系のシートを形成する組成物や塗料として用いられている他、サンドイッチ鋼板を形成するための樹脂組成物等としても適用されている。このような制振材用組成物から形成される制振材料は、通常では高分子材料を必須として構成され、高分子材料の粘弾性特性による内部摩擦を利用して外部からの振動エネルギーを吸収し、熱エネルギーに変換して振動を減衰させることにより、制振性能を発揮することができる。
【0003】ところで、このような制振材用組成物では、高分子材料のガラス転移点(Tg)領域において最も高いエネルギー吸収効果を示すため、これにより制振材料の粘弾性特性を発揮する温度範囲が決まってしまい、Tg領域以外の広い温度範囲に渡って高い制振性能を発揮することは難しいという問題があった。制振性能を発揮することができる温度範囲が広いと、様々な環境条件下で高い制振性能を発揮することができることから、例えば、自動車や建築物、船舶、電気・電子機器等の各種の分野で幅広く適用させることが可能となる。
【0004】特開平5−272588号公報には、Tgが−10〜40℃の間の2種類の高分子を複合化し、充填材を添加した制振材が開示され、特開平9−111132号公報には、Tgが−10〜50℃の間の異なるコア(芯部)を有する2種類の芯−殻型複合体微粒子と、特定のTgを有する重合体微粒子を含んでなる水性樹脂分散液が開示されている。しかしながら、これらの技術では、実用的な温度において制振性能を示す温度範囲が狭いうえに耐熱性が充分ではなく、また、高分子の複合化の製造工程が煩雑で不経済であるという問題があった。
【0005】特表平7−505431号公報には、フォトイニファター重合体を用いた紫外線硬化性アクリレート感圧接着剤組成物に関し、フォトイニファター重合体が単独重合体又はランダム共重合体の場合に優れた制振性能を示すことが開示されている。しかしながら、製造工程が複雑であり、また、得られるフォトイニファター重合体が高価となるという問題があった。更に、フォトイニファター重合体の機械的物性を向上させることにより各種の分野で幅広く適用させるための工夫の余地があった。
【0006】特開平6−287253号公報には、Tgが50℃以上であるスチレン系又は(メタ)アクリル系ブロックと、Tgが30℃以下である(メタ)アクリル系ブロックとから形成される(メタ)アクリル系ブロック共重合体が開示されている。しかしながら、各ブロックのTgが離れている場合にはその中間温度領域での制振性能が劣り、各ブロックのTgが近い場合には低温側か高温側の制振性能が劣ることになり、広い温度範囲に渡って高い制振性能を発揮させるための工夫の余地があった。更に、ここで開示されている重合体はジブロック構造であり、トリブロック構造、星型ブロック構造及びマルチブロック構造を有するブロック重合体に比較すると、機械的物性に劣るものであった。
【0007】特開平5−125252号公報には、ビニル芳香族化合物重合体ブロックと、共役ジエンの(共)重合体ブロックと、ビニル芳香族化合物と共役ジエンのうちビニル芳香族化合物が漸増するテーパーブロックを有するトリブロック共重合体等やその水素添加物に、軟化剤、粘着剤及び充填剤を配合した制振・遮音材用組成物に関し、−50〜80℃の温度範囲において高い制振性能を示すことが開示されている。しかしながら、トリブロック共重合体が二重結合を有する構造であり、その水素添加物でも残存二重結合を有するため、耐熱性、耐候性が充分ではなく、これらの基本性能を充分に向上させることにより各種の分野で幅広く適用させるための工夫の余地があった。
【0008】特開平4−312238号公報には、低Tg成分を先に重合し、次いで高Tg成分を2段階滴下することにより得られるグラフト重合体に関し、ジエン系ゴムの存在下でアクリル系乳化重合を行うことにより、得られるグラフト重合体の低温での耐衝撃性が向上することが開示されている。しかしながら、このグラフト重合体では、ランダム共重合体であるため制振性能や機械的強度が充分ではなく、また、乳化重合を行う場合には製造工程が煩雑で不経済であるという問題があった。
【0009】特開平8−188631号公報には、多価メルカプタンを使用し、共重合体部分の組成が連続的に変化している熱可塑性付加重合体に関し、ブロック重合体でありながら相分離を起こさずに機械的強度等の機能性を高めることができることが開示されている。しかしながら、この熱可塑性付加重合体では、共重合体部分がハード成分及びソフト成分により構成されてはいるが、開示されているハード成分が30%の重合体では、ハード成分が不足しているために重合体の凝集力が不足しており、制振性能及び機械的物性に改良の余地があった。更に、ハード成分が50%の重合体も開示されてはいるが、この重合体では、重合で用いたソフト成分のTgが−19℃と高めであるために、重合体のTg範囲が0〜85℃となり、優れた制振性能を示す温度範囲、すなわちtanδが0.3以上を示す温度範囲が、5〜90℃と比較的高温の環境下のみであった。そのためより低温環境下でも優れた制振性能を示す重合体を得るためには、更に工夫が必要とされた。更に、この重合体ではハード成分の50%がスチレンで構成されているが、スチレンを重合で用いると連鎖移動が激しいためにブロックポリマーの生成効率が悪く、制振性能及び機械的物性が向上しにくいという欠点もあった。以上のごとく特開平8−188631号公報に開示された技術では、広い温度範囲に渡って高い制振性能を発揮させるための工夫の余地があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記に鑑み、幅広い温度範囲に渡って常に一定以上の制振性能を示し、各種の分野で幅広く適用させることができるアクリル系ブロック共重合体、該アクリル系ブロック共重合体を含む制振材用組成物、及び、該アクリル系ブロック共重合体を容易かつ効率よく生産できる製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、異なる組成の2組以上の単量体成分を3価以上の多価メルカプタン類の存在下で重合反応に付してなるアクリル系ブロック共重合体であって、損失正接(tanδ)が−50〜150℃の間で、温度幅90℃以上に渡って0.3以上であり、上記アクリル系ブロック共重合体を構成する繰り返し単位は、全繰り返し単位を100重量%とすると、(メタ)アクリル系単量体により形成される繰り返し単位が55重量%以上であるアクリル系ブロック共重合体である。
【0012】本発明者等は、制振性能を示す高分子材料についての種々検討するうち、動的粘弾性測定における損失正接(tanδ)が高分子材料の制振性能の指針となることにまず着目し、また、制振性能を示す高分子材料としてアクリル系ブロック共重合体が好適であることにも着目し、tanδにより示される特性を特定し、かつ、アクリル系ブロック共重合体の繰り返し単位の構成を特定することにより、各種の分野で幅広く適用させることができる制振材用組成物とすることができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また、アクリル系ブロック共重合体のブロック鎖のガラス転移点(Tg)を連続的に又は段階的に変化させると、tanδにより示される特性を所望どおりとすることができることも見いだし、本発明に到達したものである。以下に、本発明を詳述する。
【0013】本発明のアクリル系ブロック共重合体は、異なる組成の2組以上の単量体成分を3価以上の多価メルカプタン類の存在下で重合反応に付してなるアクリル系ブロック共重合体であって、損失正接(tanδ)が−50〜150℃の間で、温度幅90℃以上に渡って0.3以上である。アクリル系ブロック共重合体とは、(メタ)アクリル系単量体を必須とする単量体成分により形成されるブロック共重合体を意味する。
【0014】本明細書中において、2組以上の単量体成分における1組とは、1種又は2種以上の単量体により構成される1つの単量体成分という意味である。また、異なる組成の2組以上の単量体成分とは、少なくとも2組の異なる単量体成分を用いることを意味し、例えば、単量体成分を3組以上用いる場合には、1つの組と他の1つの組とが同じ単量体成分である組み合わせがあってもよく、そのような組み合わせがなくてもよい。
【0015】本発明では、高分子材料の制振性能を示す指標として損失正接(tanδ)を用いる。損失正接(tanδ)とは、動的粘弾性測定により得られ、損失弾性率を貯蔵弾性率で除することにより得られる値である。tanδの値は、弾性率を損失させた割合が大きいほど大きくなる。弾性率を損失させることは、すなわち制振することであるから、tanδの値が大きいほど制振性能が優れていることになる。なお、動的粘弾性の測定方法としては、具体的には、レオメトリックスファーイースト社製の動的粘弾性測定器「RDAII」(商品名)を用い、周波数10Hz、ひずみ0.2%、昇温速度3℃/分で測定する方法等が好適に適用される。
【0016】上記損失正接(tanδ)が−50〜150℃の間で、温度幅90℃以上に渡って0.3以上であるとは、例えば、横軸に温度を、縦軸にその温度におけるtanδをプロットしたtanδ曲線において、下記(1)及び(2)に記載する2通りの場合を意味する。
(1)tanδが0.3以上である温度幅が連続して90℃以上に渡る場合。
(2)tanδが0.3以上である温度幅が不連続で複数あるが、複数のtanδが0.3以上である温度幅の合計が90℃以上に渡る場合。
【0017】上記(1)の場合の具体例としては、例えば、tanδが増加していき−20℃で0.3を超え、80℃まで連続して0.3以上である場合等が挙げられる。この場合、tanδが−20〜80℃の間で、温度幅100℃に渡って0.3以上である。tanδ曲線の形状としては特に限定されず、例えば、単調増加してもよく、途中から減少してもよく、何度も増減を繰り返してもよい。
【0018】上記(2)の場合の具体例としては、例えば、tanδ曲線が増加していき−20℃で0.3を超え、その後減少して30℃で0.3未満となり、再び増加して50℃で0.3を超え、100℃まで0.3以上となる場合等が挙げられる。この場合、tanδが−20〜30℃及び50〜100℃の間で、温度幅50℃と50℃との合計100℃に渡って0.3以上である。tanδ曲線の形状としては上記(1)の場合と同様に特に限定されるものではない。
【0019】上記(1)及び(2)の場合において、−50〜150℃の間の全ての温度で満遍なく制振性能が求められるときには、(1)の場合が好ましく、また、ある特定の温度範囲での制振性能が特に強く要望され、その他の温度範囲の制振性能はある程度でよいときには、(2)の場合が好ましい。
【0020】本発明では、アクリル系ブロック共重合体において、tanδが−30〜130℃の間で、温度幅100℃以上に渡って0.3以上であることが好ましい。より好ましくは、tanδが−30〜110℃の間で、温度幅110℃以上に渡って0.3以上である。最も好ましくは、tanδが−30〜150℃の間で、温度幅110℃以上に渡って0.5以上である。また、0℃以下の温度範囲で0.3以上となる部分が含まれていると好ましく、0.4以上となる部分が含まれていると更に好ましく、0.5以上となる部分が含まれていると特に好ましい。
【0021】本発明のアクリル系ブロック共重合体を構成する繰り返し単位は、全繰り返し単位を100重量%とすると、(メタ)アクリル系単量体により形成される繰り返し単位が55重量%以上である。55重量%未満であると、アクリル系ブロック共重合体の耐熱性や耐候性等の基本性能が低下することになる。より好ましくは、70重量%以上であり、更に好ましくは、90重量%以上である。
【0022】本発明のアクリル系ブロック共重合体を製造する方法としては、異なる組成の2組以上の単量体成分を用いて3価以上の多価メルカプタン類の存在下で重合反応に付する方法であれば特に限定されるものではない。最も簡便な手法としては、以下に述べるように製造することが最も好適である。
【0023】本発明はまた、異なる組成の2組以上の単量体成分を3価以上の多価メルカプタン類の存在下で重合反応に付してなるアクリル系ブロック共重合体であって、上記異なる組成の2組以上の単量体成分は、各単量体成分を重合した場合に得られる各重合体の計算上のガラス転移点の最大差が130〜200℃であり、上記アクリル系ブロック共重合体は、最初に重合反応に付する単量体成分の重量が全単量体成分の総重量100重量%に占める割合の35〜65重量%(好ましくは、40〜60重量%、更に好ましくは、43〜57重量%)であり、最初に重合反応に付した単量体成分の重合率が45%以内(好ましくは、20〜40%)である間に、最初に重合反応に付した単量体成分とは異なる次の単量体成分を重合反応に付することを必須として得られるアクリル系ブロック共重合体でもある。このようなアクリル系ブロック共重合体では、ガラス転移点(Tg)を連続的に又は段階的に変化させたブロック鎖を有することになることから、幅広い温度範囲に渡って常に一定以上の制振性能を示し、各種の分野で幅広く適用させることが可能である。
【0024】本明細書中において、単量体成分を重合した場合に得られる重合体の計算上のガラス転移点(Tg)とは、単量体成分Aが単量体A1、A2、・・、Anを含んでなる場合に、下記式■から求められる計算値を意味する。
【0025】
1/TgA =(a1 /100)×(1/TgA1)+(a2 /100)×(1/TA2)+・・+(an /100)×(1/TgAn式中、TgA は、単量体成分Aを重合して得られる重合体の計算上のTg(K)を表す。a1 、a2 、・・、an は、単量体成分を100重量%として、単量体A1、A2、・・、Anの重量%を表す。すなわちA1+A2+・・+Anは100重量%である。TgA1、TgA2、・・、TgAnは、単量体A1、A2、・・、Anの単独重合体のTg(K)を表す。また、各単量体成分を重合した場合に得られる各重合体の計算上のTgの最大差が130〜200℃であるとは、異なる組成の2組以上の単量体成分において、最も高いTgを有する重合体が得られる単量体成分AのTgA と、最も低いTgを有する重合体が得られる単量体成分BのTgB の差が130℃〜200℃あるということである。例えば、単量体成分A、B、Cをそれぞれ重合した場合に得られる重合体の計算上のTgが100℃、50℃、−50℃であれば、計算上のTgの最大差はA−C間の150℃である。A−B間(50℃)やB−C間(100℃)の差については特に限定されるものではなく、上述した3組以上の単量体成分を用いる場合と同様にすることが好ましい。
【0026】上記アクリル系ブロック共重合体において、ブロック鎖のTgが連続的に又は段階的に変化することになる理由としては、次の(イ)及び(ロ)の2点が挙げられる。すなわち(イ)重合系中の単量体組成が連続的に又は段階的に変化しながら重合が進行することにより、様々な単量体組成から形成されるブロック鎖が生じること、(ロ)用いる各単量体成分のうち少なくとも異なる組成の2組の単量体成分から得られる各重合体のTgが異なることから、(イ)のように単量体組成が変化すると同時に、生成するブロック鎖のTgが連続的に又は段階的に変化したブロック共重合体が得られることになる。
【0027】上記ブロック鎖のTgが連続的に又は段階的に変化したブロック共重合体が、幅広い温度範囲に渡って常に一定以上の制振性能を示すことになる理由としては、Tgが異なるブロック鎖がそれぞれのTgに近い温度範囲で振動エネルギーをよく吸収する、すなわちtanδが大きい値を示すため、ブロック重合体のTgの分布が幅広ければ、それだけ幅広い温度範囲でtanδが大きい値を示すためである。また、重合体が吸収できるエネルギーの振動数は、重合体の運動性によって変化する。重合体の運動性はTgと密接な関係があり、一般的にはTgの高い重合体ほど運動性が悪く、Tgの低い重合体ほど運動性が良い。従って、上記のようにブロック鎖のTgが連続的に変化したブロック共重合体は、各ブロック鎖の運動性に応じた振動数のエネルギーを吸収することができるので、例えば10〜500Hz等の様々な振動数の振動を吸収することが可能となる。
【0028】上記アクリル系ブロック共重合体では、損失正接(tanδ)が−50〜150℃の間で、温度幅90℃以上に渡って0.3以上であることが好ましい。これにより、幅広い温度範囲に渡って常に一定以上の制振性能を示すことがより確実にできることとなる。また、アクリル系ブロック共重合体を構成することになる単量体としては各種の単量体を用いることができるが、アクリル系ブロック共重合体を構成する繰り返し単位として、上述したのと同様に、全繰り返し単位を100重量%とすると、(メタ)アクリル系単量体により形成される繰り返し単位が55重量%以上であることが好ましい。これにより、アクリル系ブロック重合体の耐熱性や耐候性等の基本性能が優れたものとなり、自動車や建築物、船舶、電気・電子機器等の各種の分野で幅広く適用させることがより確実にできることとなる。
【0029】上記アクリル系ブロック共重合体を得る場合において、上記(1)のように連続して一定以上のtanδ曲線を示すブロック重合体とするためには、単量体成分を滴下しながらの重合の工程で、単量体成分を滞りなく滴下し、滞りなく重合を進行させるようにすることが好ましい。また、上記(2)のように不連続なtanδ曲線を示すブロック重合体を得るためには、例えば、滴下する単量体成分の滴下を途中で中断してしばらく重合を進行させ、その後再び滴下を開始するという手法で重合を行うことが好ましい。このようにすれば、重合系の組成変化が不連続となり、生成するブロック鎖の組成が不連続となって、ブロック鎖のTgの分布が不連続となるので、tanδ曲線も不連続となるのである。
【0030】上記(メタ)アクリル系単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等のアルコキシアルキルエステル基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の炭素原子数1〜30のアルキルエステル基を有する(メタ)アクリル系単量体;ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等のジ(メタ)アクリル系単量体等の1種又は2種以上が挙げられる。これら(メタ)アクリル系単量体の中でも、ジ(メタ)アクリル系単量体の使用重量が、全単量体重量100重量%の0.1〜10重量%、好ましくは0.2〜2重量%であると、架橋によって重合体の凝集力が高まり、制振性能及び機械的物性が向上するので望ましい。
【0031】上記(メタ)アクリル系単量体により形成される繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、例えば、以下に記載するような(メタ)アクリル系単量体と共重合可能な単量体の1種又は2種以上から形成される繰り返し単位等が挙げられる。α−メチルスチレン、ビニルトルエン、スチレン等に代表されるスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系単量体;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル、フマル酸のジアルキルエステル、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル、マレイン酸のジアルキルエステル、イタコン酸、イタコン酸のモノアルキルエステル、イタコン酸のジアルキルエステル等の不飽和カルボン酸やそのエステル;(メタ)アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ビニルケトン、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール等。ただし、スチレンは連鎖移動を起こしやすいので、多量に用いるとブロックポリマーの生成効率が下がり、制振性能及び機械的物性が向上しにくい場合がある。スチレンの使用重量は、全単量体重量100重量%の0〜30重量%、好ましくは0〜20重量%であることが望ましい。
【0032】上記アクリル系ブロック共重合体を得るには、異なる組成の2組以上の単量体成分を用いるのであるが、各単量体成分を重合した場合に得られる各重合体の計算上のTgの最大差が130℃以上であると、幅広いTg分布を有し、広い温度範囲で制振性能を示す重合体が得られることになる。また、200℃を超えると、異なる組成の2組以上の単量体成分を調製しにくくなる。より好ましくは、130〜180℃であり、更に好ましくは、150〜180℃である。このような異なる組成の2組以上の単量体成分の好ましい形態としては、例えば、単量体成分を重合した場合に得られる重合体の計算上のTgが−20℃(253K)以下となる1組と、単量体成分を重合した場合に得られる重合体の計算上のTgが70℃(343K)以上となる他の1組とを必須とすることが好ましい。このような2組の単量体成分におけるTgの差がアクリル系ブロック共重合体を得るために用いる異なる組成の2組以上の単量体成分におけるTgの最大差となるように設定することが好適である。また、上記異なる組成の2組の単量体成分の他に3組目の単量体成分を用いる場合には、3組目の単量体成分を重合した場合に得られる重合体の計算上のTgとしては特に限定されず、例えば、上記異なる組成の2組の単量体成分をそれぞれ重合した場合に得られる各重合体の計算上のTgの中間付近となるように設定することが好ましい。更に、4組目の単量体成分を用いる場合には、最も低いTgとなる単量体成分と2番目に低いTgとなる単量体成分のTgの差、2番目に低いTgとなる単量体成分と3番目に低いTgとなる単量体成分のTgの差、及び、3番目に低いTgとなる単量体成分と最も高いTgとなる単量体成分のTgの差のそれぞれが均等となるように設定することが好ましい。5組以上の単量体成分を用いる場合も同様である。
【0033】上記アクリル系ブロック共重合体を得るために用いる異なる組成の2組以上の単量体成分における各単量体成分は、各単量体成分を100重量%とすると、(メタ)アクリル系単量体を55重量%以上含む単量体成分であることが好ましい。最も好ましくは、80重量%以上である。
【0034】上記重合体の計算上のTgが少なくとも−20℃(253K)以下となる単量体成分の例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等の1種又は2種以上により構成される単量体成分等が挙げられる。また、上記重合体の計算上のTgが少なくとも70℃(343K)以上となる単量体成分の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル等の1種又は2種以上により構成される単量体成分等が挙げられる。更に、特に好ましい単量体成分の組み合わせを挙げるとすれば、アクリル酸ブチルを主成分とする単量体成分とメタクリル酸メチルを主成分とする単量体成分の組み合わせ、アクリル酸2−エチルヘキシルを主成分とする単量体成分とメタクリル酸メチルを主成分とする単量体成分の組み合わせ、アクリル酸2−エチルヘキシルを主成分とする単量体成分とメタクリル酸シクロヘキシルを主成分とする単量体成分の組み合わせが挙げられる。
【0035】上記アクリル系ブロック共重合体を得るための好ましい重合形態としてはラジカル重合であり、中でも、溶液重合や塊状重合が好ましい。これにより、均質なブロック重合体を得やすくすることができる。上記アクリル系ブロック共重合体のブロック構造としては、例えば、トリブロック構造、星型ブロック構造及び、ジ(メタ)アクリル系単量体や各種架橋剤を用いた場合等にこれら各種ブロック構造が結合して得られるマルチブロック構造等が挙げられる。これらの中でも、星型ブロック構造及び、星型ブロック構造が結合したマルチブロック構造であることが好ましい。星型ブロック構造及びそのマルチブロック構造が好ましい理由は、ブロック効率が良くなるために機械的物性に優れたものとなるからである。星型ブロック構造及びそのマルチブロック構造であって、各ブロック鎖のTgが連続的又は段階的に変化したものとなることによって、広い温度範囲において優れた制振性を示し、機械的物性も最も優れているものとなるのである。また、星型ブロック構造が4価の多価メルカプタンを用いた重合によって得られたものであると好ましい。
【0036】上記アクリル系ブロック共重合体の分子量としては、例えば、重量平均分子量が10000〜1000000であることが好ましい。10000未満であると、アクリル系ブロック共重合体が機械的強度や耐熱性に劣るおそれがあり、1000000を超えると、成型加工性、塗工性等の点で不都合が生じるおそれがある。より好ましくは、50000〜500000であり、このようなアクリル系ブロック共重合体は、機械的強度、耐熱性、成型加工性、塗工性のいずれの点においても非常に優れたものとなる。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(ゲル浸透クロマトグラフィー、GPC)によって、標準ポリスチレン換算として求められるものを意味する。
【0037】上記アクリル系ブロック共重合体の透明性については、透明であっても不透明であってもよい。また、上記アクリル系ブロック共重合体に各種添加剤等を添加したアクリル系ブロック共重合体組成物についても同様に、透明であっても不透明であってもよい。透明であるか不透明であるかを区別する基準としては、例えば、平行光線透過率で区別するとすれば、平行光線透過率が80%以上であると透明であり、平行光線透過率が80%未満であると不透明である。アクリル系ブロック共重合体では、各ブロック鎖の相溶性が充分ではない場合や、一定限度以上の架橋が施されている場合には、不透明となることもある。
【0038】本発明は更に、上記アクリル系ブロック共重合体を含んでなる制振材用組成物であって、上記アクリル系ブロック共重合体の含有量は、上記制振材用組成物を100重量%とすると、10重量%以上である制振材用組成物でもある。10重量%未満であると、制振材用組成物から形成される制振材料の制振性能が充分とはならないことになる。好ましくは、30重量%以上であり、より好ましくは、50重量%以上であり、最も好ましくは、80重量%以上である。このような制振材用組成物において、アクリル系ブロック共重合体は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0039】上記制振材用組成物は、必須成分であるアクリル系ブロック共重合体のみを含んでいてもよいが、必要に応じて他の成分を1種又は2種以上含んでいてもよい。上記他の成分としては、例えば、天然ゴム;スチレン−ブタジエンゴム等の各種合成ゴム;ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリエステル等の各種合成樹脂;スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体等の各種熱可塑性エラストマー;アスファルト等の瀝青物質;グラファイト、マイカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、クレー等の各種充填材;天然繊維、合成繊維、ガラス繊維、金属繊維等の各種繊維;フタル酸オクチル等の各種可塑剤;シリコンオイル、プロセスオイル等の各種オイル;リン酸系難燃化剤、臭素系難燃化剤、三酸化アンチモン等の各種難燃化剤等が挙げられる。
【0040】本発明の制振材用組成物の中で上記他の成分が占める重量割合としては、制振材用組成物を100重量%とすると、90重量%未満となる。90重量%以上であると、アクリル系ブロック共重合体が少なくなり過ぎるため、制振性能が充分に発揮されないこととなる。より好ましくは、70重量%未満であり、更に好ましくは、50重量%未満であり、最も好ましくは、20重量%未満である。
【0041】本発明の制振材用組成物はまた、必要に応じて各種架橋剤を1種又は2種以上含んでいてもよい。このような架橋剤としては、例えば、ジエポキシ化合物、ジイソシアネート化合物等の各種多官能化合物;酸化亜鉛、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の各種金属架橋剤;テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(商品名「アデカスタブLA−57」、旭電化工業社製)等の分子中に2個以上のヒンダードアミノ基を有する化合物等が挙げられる。このような架橋剤を用いると、重合体が架橋されることによって制振性能及び機械的物性が向上するのである。
【0042】上記架橋剤を使用する場合には、上記アクリル系ブロック共重合体中に上記架橋剤と結合することのできる官能基が必要となる。その組み合わせとしては特に限定されず、例えば、架橋剤としてジエポキシ化合物、各種金属架橋剤、ヒンダードアミノ基を有する化合物等が使用される場合には、アクリル系ブロック共重合体がカルボキシル基を有するようにすることが好ましい。また、架橋剤としてジイソシアネート化合物が使用される場合には、アクリル系ブロック共重合体が水酸基を有するようにすることが好ましい。
【0043】本発明の制振材用組成物の中で上記架橋剤が占める重量割合としては、制振材用組成物を100重量%とすると、50重量%未満とすることが好ましい。50重量%を超えると、制振材用組成物が硬くなりすぎて振動エネルギーを吸収しにくくなるおそれがある。より好ましくは、30重量%未満であり、更に好ましくは、20重量%未満である。
【0044】本発明の制振材用組成物の使用形態としては特に限定されず、例えば、各種基材に対してスプレー塗布したり、シート状にして各種基材に貼り付けたり、部材と部材の間に挿入したりする形態等が挙げられる。本発明の制振材用組成物から形成される制振材料の厚みとしても特に限定されず、目的に応じて適宜選択されることになるが、通常では1μm〜10cmで用いることとなる。上記各種基材や部材としては特に限定されず、例えば、各種鋼鈑等の金属板、各種合板、石膏板、各種樹脂板、繊維強化樹脂板、セメント製品、コンクリート製品、モルタル製品等を用いることができる。
【0045】本発明はそして、異なる組成の2組以上の単量体成分を3価以上の多価メルカプタン類の存在下で重合反応に付する重合反応工程を含んでなるアクリル系ブロック共重合体の製造方法であって、上記異なる組成の2組以上の単量体成分は、各単量体成分を重合した場合に得られる各アクリル系重合体の計算上のガラス転移点(Tg)の最大差が130〜200℃であり、計算上のTgが50℃以上となる重合体が得られる単量体成分の重量が全単量体成分の総重量100重量%に占める割合の35〜65重量%であり、上記重合反応工程は、最初に重合反応に付する単量体成分の重合率が45%以内である間に、最初に重合反応に付した単量体成分とは異なる次の単量体成分を重合反応に付することを必須として行われるアクリル系ブロック共重合体の製造方法でもある。
【0046】上記3価以上の多価メルカプタン類としては特に限定されず、例えば、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)等のトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の水酸基を3個以上有する化合物とカルボキシル基を有するメルカプタン類とのポリエステル化物;トリチオグリセリン等のメルカプト基を3個以上有する化合物;多価エポキシ化合物に硫化水素を付加させた化合物;多価カルボン酸のメルカプトエタノールエステル化物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも最も好ましくは、4価のメルカプタン類であるペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)である。4価のメルカプタン類であると、アクリル系ブロック共重合体の生成効率が高くなり、また、星型構造を有するブロック共重合体が得られることになる。このようなメルカプタン類の使用量としては、生成するアクリル系ブロック共重合体の分子量が好適な範囲となることから、全単量体成分100重量%に対して、0.1〜10重量%とすることが好ましい。
【0047】上記アクリル系ブロック共重合体の製造方法における重合反応工程で用いる単量体としては、上述したのと同様であり、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、ジアクリレート、スチレン系モノマー等の1種又は2種以上が挙げられ、生成するアクリル系ブロック共重合体の全繰り返し単位を100重量%とすると、(メタ)アクリル系単量体により形成される繰り返し単位が55重量%以上となるように設定することが好ましい。また、好ましい重合形態も上述したのと同様であり、溶液重合や塊状重合である。重合装置としては特に限定されず、例えば、槽型反応器、管式反応器、キャスト重合、注形重合等を用いることが簡便であり好ましい。
【0048】上記重合反応工程では、重合温度として、例えば、−100〜200℃とすることが好ましい。より好ましくは、簡便な設備で経済的に製造できることから、50〜150℃とすることである。また、開始剤を用いることは必須ではない。例えば、高温で重合を行う場合等では、開始剤を使用せずに、単量体成分及びメルカプタン類の熱重合のみでアクリル系ブロック共重合体を製造することができるためである。一方、一般的なアゾ系開始剤や過酸化物系開始剤を用いて重合を行ってもよい。このような開始剤としては、例えば、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)やベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】上記アクリル系ブロック共重合体の製造方法において、本発明の作用効果を奏するために最も肝要なことは、次の(ハ)、(ニ)及び(ホ)の3点が挙げられる。すなわち(ハ)各単量体成分を重合した場合に得られる重合体のガラス転移点(Tg)の最大差が130℃以上となるような異なる組成の2組以上の単量体成分を用いること、(ニ)最初に重合反応に付する単量体成分の重量が全単量体成分の総重量100重量%に占める割合の35〜65重量%であること、(ホ)最初に重合反応に付した単量体成分の重合率が45%以内である間に、最初に重合反応に付した単量体成分とは異なる次の単量体成分を重合反応に付することである。このような3点の要件を必須として重合反応工程が行われることになる。
【0050】上記重合反応工程においては、最初に重合反応に付する単量体成分の重合率(以下、「初期重合率」ともいう)が45%以内である間に、最初に重合反応に付した単量体成分とは異なる次の単量体成分を重合反応に付することになる。初期重合率が45%を超えると、最初に重合反応に付する単量体成分と、それ以外の滴下する単量体成分との混合物が重合して生成する中間的なTgを有する共重合体ブロック鎖が少なくなり、その温度領域での制振性能が低下することになる。また、最初に重合反応に付する単量体成分が高いTgを有する重合体ブロック鎖を生成する場合には、初期重合率が10%以上であることが好ましい。この場合に、初期重合率が10%未満であると、高いTgを有するブロック鎖が少なくなり過ぎるため、アクリル系ブロック共重合体の凝集力が弱くなり、制振材料の機械的強度や制振性能等が低下するおそれがある。より好ましくは、20〜40%である。なお、初期重合率は、最初に重合反応に付する単量体成分の重量をT1 とし、このうち重合した単量体成分の重量をT2 とすると、(T2 /T1 )×100により求めることができる。
【0051】上記重合反応工程では、単量体成分を重合系に滴下することにより重合反応に付することが好ましいが、滴下時間としては、例えば、30〜600分とすることが好ましい。30分より速く滴下すると、通常の速度で重合が進行している場合、中間的なTgを有するブロック鎖が生成するための時間が少な過ぎることになり、また、最初に重合反応に付する単量体成分と次に滴下する単量体成分との混合物に近い成分から形成されるブロック鎖だけが多量に生成することとなる。すなわち重合系中の単量体組成を連続的に又は段階的に変化させながら重合を進行させることができなくなるため、アクリル系ブロック共重合体のTgの温度幅が狭くなることにより使用温度範囲が狭くなるおそれがある。
【0052】上記重合反応工程においては、異なる組成の2組以上の単量体成分を用いるのであるが、このような異なる組成の2組以上の単量体成分の形態としては、上述したのと同様である。また、異なる組成の2組以上の単量体成分を、重合した場合に得られる重合体の計算上のTgが高い方の単量体成分(A)と、重合した場合に得られる重合体の計算上のTgが低い方の単量体成分(B)とに分けると、単量体成分(A)と単量体成分(B)との重量割合(A)/(B)としては、35/65〜65/35であり、更に好ましくは、40/60〜60/40である。(A)/(B)が50/50に近いほど高い側のTgから低い側のTgまでの各Tgを有するブロック鎖を万遍なく生成させることが容易となる。なお、単量体成分(A)と単量体成分(B)とに分けるには、例えば、重合した場合に得られる重合体の計算上のTgが50℃以上である単量体成分をすべて単量体成分(A)とし、重合した場合に得られる重合体の計算上のTgが50℃未満である単量体成分をすべて単量体成分(B)として分けることが好ましい。単量体成分(A)及び(B)を50/50に近い割合で用い、なおかつ初期重合率を45%以下にすることによって初めて、幅広い温度範囲で高いtanδを示す重合体が得られるのである。
【0053】上記異なる組成の2組以上の単量体成分を重合反応に付する順序としては特に限定されないが、例えば、最も高いTgを有する重合体が得られる単量体成分を最初に重合反応に付することが好ましい。これにより、Tgが最も高いブロック鎖を所定量生成させやすくなり、アクリル系ブロック共重合体中にTgが最も高いブロック鎖がある程度以上存在することに起因して、重合体全体としての凝集力が高まり、機械的強度や耐熱性等が向上することとなる。また、最も低いTgを有する重合体が得られる単量体成分を最後に滴下して重合反応に付することが好ましい。これにより、Tgが最も低いブロック鎖を所定量生成させやすくなり、アクリル系ブロック共重合体中にTgが最も低いブロック鎖がある程度以上存在することに起因して、重合体全体としての柔軟性が高まり、耐寒性が向上することとなる。
【0054】上記アクリル系ブロック共重合体の製造方法では、損失正接(tanδ)が−50〜150℃の間で、温度幅90℃以上に渡って0.3以上である本発明のアクリル系ブロック共重合体を容易かつ効率よく生産できることになる。従って、このような製造方法により、幅広い温度範囲に渡って常に一定以上の制振性能を示し、各種の分野で幅広く適用させることができる本発明のアクリル系ブロック共重合体の作用効果をより充分に発揮させることができることになる。
【0055】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中、特に断りのない限り、「部」は、「重量部」を意味する。
【0056】実施例1容量2Lのガラス製反応器に、メタクリル酸メチル(MMA)267.3部、アクリル酸(AA)2.7部及び酢酸エチル240部からなる単量体成分(A1)を仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら、90℃の湯浴で加熱した。内部の温度が一定となったところで、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.6部、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)6.0部及び酢酸エチル30部からなる開始剤溶液を5分間かけて投入し、重合を開始させた。
【0057】重合開始60分後、重合率が31.1%となったところで、アクリル酸ブチル(BA)326.7部、AA3.3部、酢酸エチル300部からなる単量体成分(B1)の滴下を開始し、引き続き重合を進行させた。重合開始180分後(滴下開始120分後)に滴下を終了し、そのまま重合を進行させた。重合開始210分後及び重合開始240分後のそれぞれに、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.6部及び酢酸エチル15部からなる熟成用開始剤溶液を投入し、更に重合を進行させた。
【0058】重合開始360分後に冷却することによって重合を完了し、アクリル系ブロック共重合体溶液を得た。このときの重合率は96.0%であった。得られたアクリル系ブロック共重合体について、下記の方法により分子量測定、動的粘弾性測定及び引っ張り試験を行った。結果を表1に示す。
【0059】分子量測定東ソー社製の高速GPCシステム「HLC−8120GPC」(商品名)を用い、展開溶媒としてTHFを用い、アクリル系ブロック共重合体の0.1%THF溶液を注入して測定した。数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を表1に示す。
【0060】動的粘弾性測定得られたアクリル系ブロック共重合体溶液を200℃の減圧乾燥器で6時間乾燥させ、厚さ4mmの泡のないシートを得た。このシートを100℃でプレス成型して2mmのシートとし、これから直径7.9mmの試験片をくり抜いた。この試験片をレオメトリックス ファーイースト社製の動的粘弾性測定器「RDAII」(商品名)の試料台に接着し、周波数10Hz、ひずみ0.2%、昇温速度3℃/分で測定した。tanδの温度範囲を表1に示す。
【0061】引っ張り試験JIS K6251「加硫ゴムの引っ張り試験方法」に準じて測定した。すなわち、ダンベル状2号形の試験片を上述した厚さ2mmのシートから3個くり抜き、23℃、65%RHの雰囲気下で、引っ張り速度500mm/分で試験し、引っ張り強度及び伸びの平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0062】実施例2容量2Lのガラス製反応器に、MMAを267.3部、AAを2.7部及び酢酸エチル240部からなる単量体成分(A2)を仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら、90℃の湯浴で加熱した。内部の温度が一定となったところで、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.6部、PETG6.0部及び酢酸エチル30部からなる開始剤溶液を5分間かけて投入し、重合を開始させた。
【0063】重合開始60分後、重合率が34.3%となったところで、BA326.7部、AA3.3部、酢酸エチル300部からなる単量体成分(B2)の滴下を開始し、引き続き重合を進行させた。重合開始180分後(滴下開始120分後)に滴下を終了し、そのまま重合を進行させた。重合開始210分後及び重合開始240分後のそれぞれに、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.6部及び酢酸エチル15部からなる熟成用開始剤溶液を投入し、更に重合を進行させた。重合開始360分後に冷却することによって重合を完了し、アクリル系ブロック共重合体溶液を得た。このときの重合率は96.0%であった。実施例1と同様にして重合体の乾燥、GPC測定、動的粘弾性測定及び引っ張り試験を行った。結果を表1に示す。
【0064】実施例3容量2Lのガラス製反応器に、MMAを264.6部、AAを2.7部、テトラエチレングリコールジアクリレートを2.7部及び酢酸エチル240部からなる単量体成分(A3)を仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら、90℃の湯浴で加熱した。内部の温度が−定となったところで、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.6部、PETG6.0部及び酢酸エチル30部からなる開始剤溶液を5分間かけて投入し、重合を開始させた。
【0065】重合開始60分後、重合率が34.3%となったところで、BA326.7部、AA3.3部、酢酸エチル300部からなる単量体成分(B3)の滴下を開始し、引き続き重合を進行させた。重合開始180分後(滴下開始120分後)に滴下を終了し、そのまま重合を進行させた。重合開始210分後及び重合開始240分後のそれぞれに、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.6部及び酢酸エチル15部からなる熟成用開始剤溶液を投入し、更に重合を進行させた。重合開始360分後に冷却することによって重合を完了し、アクリル系ブロック共重合体溶液を得た。このときの重合率は96.0%であった。実施例1と同様にしてアクリル系ブロック共重合体の乾燥、GPC測定、動的粘弾性測定及び引っ張り試験を行った。結果を表1及び図1に示す。
【0066】実施例4実施例3のアクリル系ブロック共重合体溶液50部に、ヒンダードアミンであるアデカスタブLA−57(商品名、旭電化工業社製)0.7部を添加、混合した後に、実施例1と同様にして乾燥することによって、アクリル系ブロック共重合体を含んでなる制振材用組成物(イオン架橋物)を得た。この架橋体について、実施例1と同様にして乾燥、GPC測定、動的粘弾性測定及び引っ張り試験を行った。結果を表1に示す。
【0067】比較例1実施例1と同様の装置に、スチレン250部、MMA250部、酢酸ブチル250部からなる単量体成分(比較A1)を仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら110℃のオイルバスで加熱した。温度が一定となったところで、ジペンタエリスリトールヘキサキスチオプロピオネート10部及び酢酸ブチル50部を投入して重合を開始させた。重合開始20分後、重合率が5.5%となったところで、アクリル酸エチル475部及びメタクリル酸25部からなる単量体成分(比較B1)を滴下し始め、そのまま重合開始200分まで180分間かけて滴下しながら重合を進行させた。滴下終了後、更に3時間重合を続けてから冷却し、ブロック共重合体溶液を得た。実施例1と同様にしてブロック共重合体の乾燥、GPC測定、動的粘弾性測定及び引っ張り試験を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】実施例1〜4で示した重合工程によって、表1に示すような物性を示すアクリル系ブロック共重合体を容易に得ることができた。実施例1及び実施例2のアクリル系ブロック共重合体は、制振性能の指標であるtanδが0.3以上となった温度幅が比較例1のブロック共重合体より50℃以上も広くなっており、制振材として使用できる温度範囲が大幅に広がったという点で、実用性が著しく向上している。実施例3及び実施例4のアクリル系ブロック共重合体は、tanδが0.3以上となった温度幅が更に広がり、引っ張り強度も増大しているので、更に実用性が向上している。
【0070】
【発明の効果】本発明のアクリル系ブロック共重合体は、上述の構成よりなるので、幅広い温度範囲に渡って常に一定以上の制振性能を示すことから、制振材料として使用できる温度範囲を大幅に広げることができるという点で、制振材料の実用性を著しく向上させることができ、自動車や建築物、船舶、電気・電子機器等の各種の分野で幅広く用いることができるブロック共重合体である。また、本発明のアクリル系ブロック共重合体の製造方法により、本発明のアクリル系ブロック共重合体を容易かつ効率よく生産できることができる。
【出願人】 【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
【出願日】 平成12年12月28日(2000.12.28)
【代理人】 【識別番号】100086586
【弁理士】
【氏名又は名称】安富 康男 (外1名)
【公開番号】 特開2002−201244(P2002−201244A)
【公開日】 平成14年7月19日(2002.7.19)
【出願番号】 特願2000−402624(P2000−402624)