トップ :: B 処理操作 運輸 :: B60 車両一般




【発明の名称】 乗員保護装置
【発明者】 【氏名】後藤 恒徳

【氏名】本澤 養樹

【要約】 【課題】衝突時における乗員減速度の好適な低減を実現し、コンパクトな車体寸法と乗員の傷害値低減を両立する。

【解決手段】エアバッグ装置11のケーシング11cの下部にピストン13aを連結し、シート4を後退可能な駆動シリンダ15を設け、ピストンを受容する受圧シリンダ13と駆動シリンダ15とを配管14を介して連結し、配管14内に作動流体Lを充填する。衝突時にエアバッグ装置が作動した際のケーシングの変位によりピストンが押し下げられて、駆動シリンダによりシートを後退させ、緩衝部材16に衝当させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 車体に対して変位可能に支持されかつ着座した乗員を拘束するシートベルトを備えたシートと、前記シートを後退方向へ駆動するためのシート駆動手段と、前記シートの後退方向移動量を規制するストッパと、エアバッグ装置と、衝突時の発生ガス圧による前記エアバッグ装置の変位を前記シート駆動手段の駆動力に変換するべく前記エアバッグ装置と前記シート駆動手段との間に設けられた伝達手段とを有することを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】 前記シート駆動手段が前記シートに結合された駆動ピストンを有し、前記伝達手段が、前記エアバッグ装置の変位を前記駆動ピストンの変位として伝達するための流体装置からなることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】 前記流体装置が、前記エアバッグ装置の変位により容積変化するポンプ手段を有し、前記ポンプ手段により作動流体を押し出して、該押し出された作動流体により前記シート駆動手段を作動させることを特徴とする請求項2に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、乗員保護装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車の衝突時の乗員保護効果を高めるために、車体の居住空間以外の部分の衝突時の変形モードを適切に設定して車体の居住空間部分の減速度を低減すると共に、居住空間にまで変形が及ばないようにした車体構造が種々提案されている(特開平7−101354号公報など参照)。
【0003】一方、衝突時における乗員の傷害の程度に影響するものとしては、一般に、乗員の加(減)速度の最大値である。したがって、衝突時の傷害を低減するためには、乗員の減速度(前方衝突時)を小さくすれば良いが、乗員の減速度はシートベルト等の拘束装置から加わる力によって生じる。ここで、シートベルトがばねとして機能するため、慣性力で乗員が前方へ移動し、シートベルトの伸びが最大に達したところで乗員減速度がピークに達することになるが、この乗員減速度のピーク値は、慣性力による乗員の移動量が大きいほど高くなり、一般に車体の平均減速度よりも高くなると言われている。
【0004】車体減速度と乗員減速度との関係を、ばね(拘束装置)と質量(乗員の質量)とで構成する系に対しての入出力とみなせば、ばねの伸びの最大値とその時刻とが車体減速度の波形(時間変化)に支配されることが分かる。したがって、衝突時における乗員減速度を小さくするには、車体の平均減速度を小さくするだけではなく、ばね(シートベルト)のオーバシュートがなるべく小さくなるように車体減速度の波形を調整する必要がある。
【0005】従来の車体構造において、衝突反力発生部材(サイドビームなど)と各コンポーネントとの間で構成されるクラッシャブルゾーンを車体前部に配置し、この部分を変形させることで衝突エネルギの吸収を行い、各部の寸法設定などにより反力特性を変えることで車体減速度の波形を調整しているものがある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】乗員の傷害低減を行う上で車体減速度の波形は重要な要素であるが、そのような目的に合致した乗員減速度を小さく抑えられる車体減速度の波形としては、図7の実線に示されるように、初期に平均減速度よりも大きい減速度を一定時間(短時間)発生し、続けて逆向きの減速度を一定時間(短時間)発生した後に、平均的な減速度で減速するような波形が考えられる。このような車体の減速度の波形では、車体の減速に要する距離(ダイナミックストローク)が同一の一定減速度(矩形波)の場合よりもより一層乗員減速度が小さくなることが、本出願の発明者らが行ったシミュレーションで確認されている。
【0007】ところで、従来の車体構造におけるクラッシャブルゾーンにあっては、衝突開始時には必ず強度の低い部分から変形し、しかる後に強度の高い部分の変形が起こるために、衝突反力すなわち車体減速度が初期には小さく後半に大きくなるような波形となるので、乗員の減速度低減に対しては効果が十分であるとは言えなかった。この問題を解決するために、従来は、サイドビームの圧壊を利用して一定の反力を得る方法や、サイドビームに隔壁を複数箇所に設けることで安定した反力を維持する方法(特開平7−101354号)などが提案されている。
【0008】しかしながら、それらの方法では、車体の減速度を一定減速度(矩形波)に近付けることはできても、図7で示したような、より効果的な減速度波形を得ることは極めて困難であった。乗員の減速度を、上記従来のものにおけるよりも小さくするためには、図7に示したような車体減速度波形を発生させることが求められる。さらに、近年の車体軽量化・部品汎用性向上の要求に伴い車体コンパクト化及び軽量化することが望ましいことから、上記構造の更なる改善が望まれる。
【0009】本発明は、このような知見に基づいて案出されたものであり、その目的は、衝突時における乗員減速度の好適な低減を実現し、コンパクトな車体寸法と乗員の傷害値低減を両立し得る自動車の乗員保護装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】このような目的を果たすために、本発明においては、車体(2)に対して変位可能に支持されかつ着座した乗員(5)を拘束するシートベルト(6)を備えたシート(4)と、前記シート(4)を後退方向へ駆動するためのシート駆動手段(15)と、前記シート(4)の後退方向移動量を規制するストッパ(16)と、エアバッグ装置(11)と、衝突時の発生ガス圧による前記エアバッグ装置(11)の変位を前記シート駆動手段(15)の駆動力に変換するべく前記エアバッグ装置(11)と前記シート駆動手段(15)との間に設けられた伝達手段(13・14・L)とを有するものとした。
【0011】これによれば、エアバッグ装置により衝突時に発生する発生ガス圧を利用して、シートベルト一体シートを衝突開始直後には後退させ、衝突中盤以降には前進させることができ、そのようにすることにより乗員の減速度の増大を抑制しかつシートの減速度を乗員の減速度と略一致させるように調節することができるため、早期に車体とシートおよび乗員との減速度を互いに略等しくすることができることから、新たなエネルギ源を付加することなく、安価な方法でシートベルト一体シート部に最適な減速度波形を創出して乗員減速度を大幅に低減でき、乗員保護装置を設けた車体のコンパクト化を促進し得る。
【0012】また、前記シート駆動手段(15)が前記シート(4)に結合された駆動ピストン(15a・15b)を有し、前記伝達手段が、前記エアバッグ装置(11)の変位を前記駆動ピストン(15a・15b)の変位として伝達するための流体装置(14・L)からなることによれば、簡単な構造でエアバッグ装置の変位をシートに伝達することができる。
【0013】さらに、前記流体装置が、前記エアバッグ装置(11)の変位により容積変化するポンプ手段(12・17)を有し、前記ポンプ手段(12・17)により作動流体(L)を押し出して、該押し出された作動流体(L)により前記シート駆動手段(15)を作動させることによれば、エアバッグ装置の変位を好適にシート駆動手段に伝達することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下に添付の図面に示された具体例に基づいて本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】図1は、本発明に基づく乗員保護装置を示す概念的な側面図であり、図2はその模式的透視斜視図である。図に示されるように、車体の前後方向に延在するメインフレーム1と、メインフレーム1の車室部分に一体結合されたフロア2と、メインフレーム1に対して衝突時に後方への移動が可能になるようにフロア2上に固設されたシートレール3を介して支持されたシート4とが設けられている。シート4には、シート4に対する乗員5の移動を拘束するためのシートベルト6が設けられており、本シート4はシートベルト一体型シートとして構成されている。なお、シート4は、初期状態にあってはシートレール3に対して最前に位置している。
【0016】メインフレーム1のエンジンルーム部分1aは、薄肉鋼板材により筒状に形成されているものであって良く、車体の前後方向に延在しかつ衝突時の衝撃力により車体前方側部分から圧縮変形する衝撃吸収部材として設けられている。そのエンジルーム部分1aの車体前端にはフロントバンパビーム8が結合されている。
【0017】車室前方にはエアバッグ装置11が設けられている。このエアバッグ装置11は、図3に示されるように、インストルメントパネル21に取り付けられたリテーナ22を内に折り畳まれて受容されているバッグ11aと、リテーナ22に一体的に組み付けられたハウジング23内に受容されたインフレータ11bとを有している。
【0018】エアバッグ装置11の下方には、リテーナ22にブラケット24を介して吊り下げられた状態でポンプ手段としての受圧シリンダ13が組み付けられている。この受圧シリンダ13内には、エアバッグ装置11のハウジング23の図における下部に一体に形成されたロッド23aの突出端に設けられたピストン13aが同軸的に変位可能に設けられていると共に、そのピストン13aにより密封されて作動流体Lが充填されている。そして、受圧シリンダ13には配管14の一端が接続されており、その配管14の他端が、シート4の下側のフロア2上にシート4の変位方向に合わせて設けられた駆動シリンダ15に接続されている。このようにして、伝達手段が構成されている。
【0019】駆動シリンダ15には同軸的に変位し得る駆動ピストン15aが設けられており、そのピストンロッド15bがシート4の底面に固設されたブラケット4aに結合されている。また、受圧シリンダ13のピストン13aから配管14を介して駆動シリンダ15の駆動ピストン15aに至る間には作動流体Lが充填されている。そして、シート4の後退方向であって上記ブラケット4aから所定長離隔した位置にはブラケット4aに対向するストッパとしての緩衝部材16がフロア2上に固設されて配設されている。
【0020】なお、車体前部の適所(例えばフロントバルクヘッド)に設置したECU12内に例えば加速度(減速度)センサからなる衝突センサ(図示せず)を設け、その衝突センサにより衝突を検出したらECU12から作動信号がインフレータ11bに出力され、それによりインフレータ11bから高圧の発生ガスが放出されてバッグ11aが膨張するようになっている。
【0021】次に上記本発明装置の作動要領について、路上構築物に車両が正面衝突した場合を想定し、図4を参照して以下に示す。
【0022】図4(a)に示される衝突開始直後(第1段階)には、車体が衝突した瞬間にメインフレーム1に発生する衝突荷重によってフロア2が減速を開始する。さらに、衝突荷重によってメインフレーム1のエンジンルーム部分1aが、上記したように車体前方側部分から圧縮変形することから、そのバンパビーム8との結合部から圧縮変形する(図7の区間a参照)。
【0023】この第1段階では、上記したようにシートベルト一体シート4に、車体減速度にシート4の後退に伴う減速度が付加されるので、車体の車室(フロア2)部分よりも大きな減速度が発生する。また、シートベルト6に生じる荷重が素早く立ち上がり、乗員5の減速度も早期に発生する。衝突したことをECU12が衝突センサにより判断したら、上記したようにECU12からインフレータ作動信号が出力されてインフレータ11bから高圧の発生ガスが放出され、バッグ11aが展開し始める。
【0024】同時に、上記高圧の発生ガスによりエアバッグ装置11のハウジング23が、バッグ11aの展開に対する反作用を受けて図3に併せて示されるように下方(矢印Aの向き)に変位(リテーナ22とハウジング23との間はシールされている)して、ピストン13aが押し下げられる。すると、ピストン13aによる荷重が作動流体Lに加わって駆動ピストン15aに伝達されるため、駆動ピストン15aが変位する。これにより、シートベルト一体シート4が車室(フロア2)に対して後方に加速する(図の矢印B)。すなわち、シート4には車室よりも大きな減速度が発生し、シートベルト6の荷重が従来よりも早く立ち上がり、乗員5の減速度も早期に発生する。
【0025】なお、受圧シリンダ13は、バッグ11aが展開する際に破損などが発生せず、作動流体Lの漏れを防止しかつ発生ガス圧を十分に保持し得るように設計されている。また、作動流体Lにあっては、長期の保存に耐え、両ピストン13a・15a間の容積及び圧力変化を迅速に伝達するために、物性が安定していて非圧縮性の流体が望ましい。例えばブレーキ作動用の植物油であって良い。
【0026】図4(b)に示される衝突中盤(第2段階)では、メインフレーム1のエンジンルーム部分1aの圧縮変形が進行すると共に、バッグ11aが乗員5に向けて大きく展開する。また、上記した作動流体Lの駆動シリンダ15内への流入(図の矢印C)により駆動ピストン15aの変位が進行し、シート4は、車室に対して相対的に後方へ移動して緩衝部材16に衝当する。シート4は車室に対して相対速度を持っているので、緩衝部材16の変形荷重によって、衝突減速度とは反対方向の減速度すなわち加速度(図の矢印D)がシート4に発生する(図7の区間b参照)。
【0027】なお、シート4の加速度発生が終了する(車室に対する相対速度が0となる)時点で、乗員6の速度・減速度がシート4の速度・減速度と略一致するように(図7の区間c参照)、シートベルト6の特性や、受圧シリンダ13及び駆動シリンダ15の構造や、緩衝部材16の特性などが適宜設計されているものとする。
【0028】図4(c)に示される衝突終盤(第3段階)では、車体前部の変形がさらに進むと共に、大きく膨張したバッグ11aにより乗員5の飛び出しを抑制する。また、シート4は、緩衝部材16に規制されて車室に対して相対的な移動を停止し、衝突終了まで一体となって減速を続ける(図7の区間d参照)。なお、緩衝部材16は、塑性変形の際に所定の荷重を発生するように、例えばアルミニウムハニカム材などで形成されている。
【0029】この第3段階までに乗員の速度及び減速度とシート4及び車体とが一致しているので、乗員は、シート4及び車体と相対運動を生じず、車体(シート4)と一体となって減速を続ける。すなわち、乗員5は、シート4に押し付けられることがなく、シート4から一定距離だけ離れて留まった状態になるライドダウン状態になる。このライドダウン効果を最大限利用することができるため、乗員5の減速度を十分に低く保つことができる。
【0030】また、図5に本発明に基づく第2の実施の形態を示す。なお、図5は前記図1に対応するものであり、前記図示例と同様の部分には同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0031】この図示例にあっては、ポンプ手段として前記受圧シリンダ13に代えて受圧ブラダー17を適用したものであり、前記と同様に組み付けられている。この受圧ブラダー17は、内部に作動流体Lを充填された容易に変形可能な袋状をなし、かつ高い圧力に耐えられる材質、例えば金属メッシュで補強されたエンジニアリングプラスチックなどで制作されているものとする。
【0032】また、作動要領については、前記と同様に路上構築物に車両が正面衝突した場合を想定し、図4(a)〜(c)にそれぞれ対応する図6(a)〜(c)に示されるようになる。図において、エアバッグ装置11のハウジング23の下部に受圧ブラダー17の一部(図における頂部)が当接しており、上記発生ガスによりハウジング23が下方に変位することにより、受圧ブラダー17が図(b)に示されるように凹設され、それにより受圧ブラダー17の容積が減少し、内部の作動流体Lが配管14に押し出される。他の作動及び作用効果については前記と同様である。
【0033】
【発明の効果】このように本発明によれば、シートを衝突開始直後には車体に対して後方へ移動させ、衝突中盤以降には前方へ移動させることができ、そのようにすることによりシートの減速度を乗員の減速度と略一致させるように調節することができ、衝突時に乗員に作用する前方への慣性力の増加を打ち消し、早期に車体とシートおよび乗員との減速度を互いに略等しくして、衝突時における乗員減速度の好適な低減を実現し得ると共に、これらのプロセスにおいてエアバッグ装置の衝突時の発生ガスによる変形を有効に利用し、新たなエネルギ源を付加することなく、安価な方法でシートベルト一体シート部に最適な減速度波形を創出し、乗員減速度を大幅に低減する機能を有している。そして、簡単な構造でシートの上記運動を実現できるため、乗員保護装置を設置するために車室が狭くなることをできるだけ防止でき、乗員保護装置を設けた車体のコンパクト化を促進し得る。
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【出願日】 平成12年11月6日(2000.11.6)
【代理人】 【識別番号】100089266
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 陽一
【公開番号】 特開2002−144992(P2002−144992A)
【公開日】 平成14年5月22日(2002.5.22)
【出願番号】 特願2000−337041(P2000−337041)