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【発明の名称】 トロリ線の機械インピーダンスの測定方法
【発明者】 【氏名】臼田 隆之

【氏名】池田 充

【氏名】網干 光雄

【要約】 【課題】パンタグラフの接触力と車体の上下振動とに基づき、トロリ線の機械インピーダンスを走行中の車体上で測定することができる方法を提供する。

【解決手段】走行中の車両のパンタグラフ接触力と、パンタグラフのある車両の車体上下加速度から、両者の間の周波数応答関数H(ω)をH(ω)=Wc/Wpにより求める。この式において、Wcはパンタグラフ接触力と車体上下加速度とのクロススペクトルを表し、Wpはパンタグラフ接触力のパワースペクトルを表す。そして、予め求めた上下加速度に対する接触力の周波数応答関数H´(ω)の計算結果と、走行中の車両における実測データを用いた車体上下加速度とパンタグラフ接触力の周波数応答関数H(ω)の計算結果との誤差が最小となるような、トロリ線の機械インピーダンスを推定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 トロリ線からパンタグラフを介して電車に給電する電気鉄道におけるトロリ線の機械インピーダンスの測定方法であって;前記パンタグラフの動作性を予め測定しておき、前記電車を走らせながら、前記トロリ線と前記パンタグラフとの接触力を測定するとともに、該電車の車体加速度を測定し、それらの測定データから前記トロリ線の機械インピーダンスを求めることを特徴とするトロリ線の機械インピーダンスの測定方法。
【請求項2】 トロリ線からパンタグラフを介して電車に給電する電気鉄道におけるトロリ線の機械インピーダンスの測定方法であって;前記パンタグラフを下側から加振した際の、該パンタグラフの動特性を同定しておき、架線の機械インピーダンスを与えれば、車体上下加速度と接触力との周波数応答関数H´(ω)が求まるようにしておき、前記電車を走らせながら、前記トロリ線と前記パンタグラフとの接触力を測定するとともに、該電車の車体上下加速度を測定し、これら接触力と車体上下加速度とのクロススペクトルを、該接触力のパワースペクトルで割ることにより周波数応答関数H(ω)を求め、この周波数応答関数H(ω)と前記周波数応答関数H´(ω)との誤差が最小となるように前記トロリ線の機械インピーダンスを求めることを特徴とするトロリ線の機械インピーダンスの測定方法。
【請求項3】 前記周波数応答関数H(ω)を、トロリ線1単位(1ドラム区間)内で平均化することを特徴とする請求項2記載のトロリ線の機械インピーダンスの測定方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気鉄道におけるトロリ線の機械インピーダンスを測定する方法に関する。特には、走行中の車両上でトロリ線の機械インピーダンスを求めることができる方法に関する。
【0002】
【背景技術及び発明が解決しようとする課題】現状の営業用の電気鉄道においては、トロリ線からパンタグラフを介して車体に電力を送る方式が一般的である。トロリ線とパンタグラフの舟体との接触力は、トロリ線の高さ変動や車両・パンタグラフの振動等によって変動する。この接触力の変動が大きすぎると、パンタグラフの舟体がトロリ線から離れる離線が生じるおそれがある。離線が頻発すると、トロリ線とパンタグラフの舟体の間にスパークが生じて、摺り板の損傷が進み、問題となる。離線に至らない場合でも、パンタグラフの接触力の変動は極力小さい方がよい。
【0003】そこで、電車の走行中におけるトロリ線とパンタグラフとの接触力を測定し、得られた測定結果を離線の抑制対策の参考としたいとの要請がある。あるいは、このような接触力の測定技術は、離線の抑制対策だけではなく、パンタグラフの集電性能の評価や、トロリ線の設備診断方法の1つとして活用することも考えられている。
【0004】このようなパンタグラフの接触力測定技術としては、例えば特願平11−191611号や特願2000−122299号を挙げることができる。特願平11−191611号のパンタグラフの接触力測定方法は、パンタグラフの舟体の慣性力を舟体の摺り板を含む2ヶ所の縦断面間の弾性変形を考慮した上で求め、この慣性力を別途求めた舟体にかかっている力から差し引きすることにより、舟体の上下方向の接触力を求めるものである。
【0005】特願2000−122299号のパンタグラフの接触力測定方法は、パンタグラフの舟体の慣性力を舟体の摺り板を含む2ヶ所の縦断面におけるねじりモーメントと、これらの縦断面間に作用する回転慣性とに基づいて舟体のねじりモーメントを求め、このねじりモーメントに基づきトロリ線と舟体との間に働く前後方向の接触力をも求めるものである。なお、本明細書においては、通常、「舟体」は摺り板を含む広い意味で用いる。
【0006】これらの接触力測定技術により、トロリ線とパンタグラフの舟体との接触力(上下方向及び前後方向)をより正確に求めることが可能となった。ところで、最近では、このようなパンタグラフの接触力と、車体の上下振動との関係が注目されている。そこで、これら接触力と上下振動とに基づき、走行中の車体上においてトロリ線の機械インピーダンスを求めることができれば、従来、地上において行われていたトロリ線の張力等の測定作業が不要になり、トロリ線の保守作業等が著しく簡易になる。さらに、トロリ線の機械インピーダンスは、各トロリ線1単位(1ドラム区間)毎に異なると考えられる。従来は、トロリ線の張力等の測定作業を各ドラム区間毎に行っていたが、これは非常に労力のかかる作業であった。走行中の車体上でトロリ線の機械インピーダンスを求めることができれば、各ドラム区間毎に個別に行っていた作業も不要になる。
【0007】本発明は、このような動向の下でなされたものであって、パンタグラフの接触力と車体の上下振動とに基づき、トロリ線の機械インピーダンスを走行中の車体上で測定することができる方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本発明の第1態様のトロリ線の機械インピーダンスの測定方法は、トロリ線からパンタグラフを介して電車に給電する電気鉄道におけるトロリ線の機械インピーダンスの測定方法であって; 前記パンタグラフの動作性を予め測定しておき、 前記電車を走らせながら、前記トロリ線と前記パンタグラフとの接触力を測定するとともに、該電車の車体加速度を測定し、それらの測定データから前記トロリ線の機械インピーダンスを求めることを特徴とする。
【0009】また、本発明の第2態様のトロリ線の機械インピーダンスの測定方法は、トロリ線からパンタグラフを介して電車に給電する電気鉄道におけるトロリ線の機械インピーダンスの測定方法であって; 前記パンタグラフを下側から加振した際の、該パンタグラフの動特性を同定しておき、架線の機械インピーダンスを与えれば、車体上下加速度と接触力との周波数応答関数H´(ω)が求まるようにしておき、 前記電車を走らせながら、前記トロリ線と前記パンタグラフとの接触力を測定するとともに、該電車の車体上下加速度を測定し、これら接触力と車体上下加速度とのクロススペクトルを、該接触力のパワースペクトルで割ることにより周波数応答関数H(ω)を求め、 この周波数応答関数H(ω)と前記周波数応答関数H´(ω)との誤差が最小となるように前記トロリ線の機械インピーダンスを求めることを特徴とする。
【0010】本発明のトロリ線の機械インピーダンスの測定方法においては、前記周波数応答関数H(ω)をトロリ線1単位(1ドラム区間)内で平均化することが好ましい。この場合、平均化により誤差を小さくできるので、周波数応答関数H(ω)をより正確に求めることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、通常の鉄道車両の技術におけるのと同様に、レールの長手方向(車両の進行方向)を前後方向、軌道面におけるレール長手方向と直角の方向を左右方向、軌道面に垂直な方向を上下方向と呼ぶ。また、具体的な数値例は、現状のJRの新幹線の一般的な数値である。
【0012】まず、図4及び図5を参照して、電気鉄道の菱形パンタグラフの周辺構造の典型例について説明する。図4は、本実施例におけるパンタグラフの舟体の詳細を示す模式的斜視図である。図5は、本実施例におけるパンタグラフの支持構造の詳細を示す模式的側面断面図である。
【0013】トロリ線1は、直径約15mmの銅線である。トロリ線には、交流25kVの電圧が印加される。トロリ線は、約5mおきに吊架線(図示されず)によって吊られている。吊架線は、約50mおきに柱(図示されず)によって支えられている。トロリ線1単位(1ドラム区間)当たりの長さは約1.5kmである。
【0014】この例の菱形パンタグラフの舟体12は、左右方向に沿って延びている。舟体12は、図4に示すように、前後方向に離れて1本ずつ計2本(12A、12B)設けられているものが多いが、1本の舟体のみで構成されるものもある。この例の舟体12は、幅40mm、長さ1.2m、重さ3.5kgの中空の箱状部材である。舟体12はアルミニウム合金製である。停車時に舟体12がトロリ線1に押し当てられる力(静押上力)は50〜70Nである。
【0015】舟体12の上表面には、摺り板14が取り付けられている。摺り板14は、鉄系や銅系の焼結合金製、あるいはカーボン系材料からなる。この摺り板14は4分割されており、中央の2つが主摺り板で、左右両端の2つが補助板である。主として主摺り板がトロリ線1に直接接触する。摺り板14は、トロリ線1との接触により経時摩耗するので、定期的に交換する。
【0016】舟体12の左右両端部寄りの底面には、図5に示すように、ロッド22が固定されている。ロッド22は、舟体12底面から下方に垂下している。ロッド22の下端には、ストッパ22aが形成されている。舟支え18には、前後2つのスリーブ18a、18bが一体に形成されている。これらスリーブ18a、18bは、上下方向に開口している。前側のスリーブ18aには前側の舟体のロッド22が嵌合しており、後側のスリーブ18bには後側の舟体のロッド22が嵌合している。そして、ロッド22とスリーブ18a、18b間の隙間には、リニアベアリング24が介装されている。このリニアベアリング24により、舟支え18がロッド22に沿って上下に摺動する。舟支え18は、ロッド22のストッパ22aにより抜け止めされている。
【0017】舟体12底面と舟支え18間において、ロッド22外周には復元ばね15が配置されている。復元ばね15は、ゴム製ばねあるいはコイルばねである。舟支え18は、この復元ばね15を介して舟体12を支持する。舟支え18の下には、パンタグラフ全体を昇降するリンク状の枠組26が設けられている。同枠組26は、菱形パンタグラフのリンクであって、コイルばねあるいはエアシリンダ(図示されず)等によって上下に昇降する。例えば、パンタグラフを使用しない時は、枠組26は折り畳まれて下がり、舟体12はトロリ線1から離れる。
【0018】次に、図1〜図3を参照して、本発明に係るトロリ線の機械インピーダンスの測定方法について説明する。図1は、本実施例におけるパンタグラフ−トロリ線系のモデル図である。図2は、本実施例におけるパンタグラフの加振試験装置の模式図である。図3は、新幹線パンタグラフを用いたモデル計算結果と、走行中の新幹線の実測データのそれぞれから、車体上下加速度に対してのパンタグラフ接触力の周波数応答を計算した結果を示すグラフである。
【0019】まず、図1のパンタグラフ−トロリ線系を、上述した図5の菱形パンタグラフと対応付けて説明する。トロリ線1のモデルはダッシュポット50である。これは、未知の機械インピーダンスとして考えることも可能である。舟体12(摺り板14を含む)のモデルは、質量m1の質点60である。これらダッシュポット50と質点60間に働く力f0が、パンタグラフの接触力に相当する。
【0020】復元ばね15(ロッド22、舟支え18を含む)のモデルは、ばね機構70である。このばね機構70は、ばね71とダッシュポット72からなる。ばね71のばね定数k1と、ダッシュポット72の減衰係数c1は、既知の加振試験により予め決定されている(一例k1=10kN/m、c1=70Ns/m)。枠組26のモデルはリンク機構80である。このリンク機構80は、質量m2、長さl2の上枠81と、質量m3、長さl3の下枠82と、これら上下枠81、82間のダッシュポット83とからなる。ダッシュポット83の減衰係数c2は、後述する加振試験により同定する。
【0021】このようなパンタグラフ−トロリ線系において、リンク機構80の動作性は、図2に示す加振試験装置により予め測定される。この図に示す加振試験装置は基台90を備えている。この基台90は車体に相当し、図示されぬ加振手段により揺動可能である。基台90上には、2つのガイシ91と加速度計95が配置されている。この加速度計95により、基台90を加振した際の加振加速度が検出される。
【0022】基台90上の両ガイシ91間には、支持台92が架設されている。この支持台92上には、菱形のパンタグラフ93が配置されている。このパンタグラフ93は、実際の電車に搭載される菱形パンタグラフか、あるいはそれと同一形状のものである。パンタグラフ93の上方には、固定梁94が配置されている。パンタグラフ93と固定梁94間には、ロードセル96が配置されている。このロードセル96により、パンタグラフ93の固定梁94との接触力が検出される。
【0023】次に、図1のモデルにおいて、車体上下変位に対応する、下枠82下端を加振した際の運動について説明する。図1のパンタグラフ−トロリ線系のモデルの運動は、ラグランジュの方程式に基づく次の運動方程式により説明される。この運動方程式は、上枠81及び下枠82の剛体の角運動量を考慮した上で次のように求められる。
【0024】まず、パンタグラフ−トロリ線系のモデルにおける運動エネルギT、ポテンシャルエネルギU及び逸散エネルギDは、それぞれ以下のように求めることができる;
【数1】

【0025】次いで「数1」のT、U及びDの各式により、次の運動方程式が得られる;
【数2】

【0026】なお、「数2」の行列Mにおける成分m22、m23、m32、m33は、上下枠81、82の等価的な質量から求められる定数である。これらの値とダッシュポット83の減衰係数c2は、図2に示す加振試験装置を用いた加振試験により同定する。図1のモデルでは、トロリ線のモデルを無限長の弦と見なしており、トロリ線の総線密度Σρ(単位kg/m)及び総張力ΣT(単位N)を、それぞれトロリ線のモデルの線密度及び張力としている。このとき、トロリ線を機械インピーダンスに相当するダッシュポット50の減衰係数c0と見なして計算を行う。減衰係数c0は、c0=2(Σρ・ΣT)1/2により求める。
【0027】ここで、一例として、新幹線用パンタグラフPS203を用いて行った加振試験に基づく、上下加速度に対しての接触力の周波数応答関数H´(ω)の計算に用いた値について述べる。加振試験により同定したパンタグラフの定数は、m22=8.3kg、m23=4.0kg、m32=4.0kg、m33=5.3kg、c2=59.5Ns/mであり、架線の機械インピーダンスをc0=966.9Ns/mとして、計算した場合の周波数応答の計算結果は、図3に実線で示す曲線の通りとなる。
【0028】次に、走行中の車両において測定した実測データに基づく周波数応答を計算する。走行中の車両のパンタグラフ接触力f0(t)と、そのパンタグラフのある車両の車体上下加速度d23(t)/dt2から、両者の間の周波数応答関数H(ω)を次式により求める;
H(ω)=Wc/Wp但し、この式において、Wcはパンタグラフ接触力f0(t)と車体上下加速度d23(t)/dt2とのクロススペクトルを表し、Wpはパンタグラフ接触力f0(t)のパワースペクトルを表す。
【0029】ここで、クロススペクトルWcは、パンタグラフ接触力f0(t)のフーリエ変換F0(ω)と、車体上下変位x3(t)のフーリエ変換X3(ω)の複素共役X3(ω)-との積F0(ω)・X3(ω)-を意味する。一方、パワースペクトルWpは、パンタグラフ接触力f0(t)のフーリエ変換F0(ω)と、このフーリエ変換F0(ω)の複素共役F0(ω)-との積F0(ω)・F0(ω)-を意味する。
【0030】そして、図1のパンタグラフ−トロリ線系のモデルを用いた上下加速度に対する接触力の周波数応答関数H´(ω)の計算結果と、走行中の車両における実測データを用いた車体上下加速度とパンタグラフ接触力の周波数応答関数H(ω)の計算結果との誤差が最小となるような、トロリ線の機械インピーダンスを推定する。なお、実測データから周波数応答関数H(ω)を計算する際には、トロリ線1単位(1ドラム区間)でデータの平均化を行う。これにより、より正確な周波数応答関数(ω)の値を求めることができる。
【0031】次に、図3を参照しつつ、新幹線用パンタグラフPS203を用いて行った加振試験に基づく周波数応答関数H´(ω)の計算結果と、新幹線における実測データに基づく周波数応答関数H(ω)の計算結果について説明する。なお、新幹線における実測データから周波数応答関数H(ω)を計算する際に、この例では約300回の平均化を行っている。
【0032】図3では、実線がモデルの周波数応答関数H´(ω)を示し、破線が実測データの周波数応答関数H(ω)を示す。この図においては、概ね両者は一致していると思われるが、周波数が2.5Hz以上となるに連れて、両者の値が異なってくる。この要因としては、H´(ω)の計算においてトロリ線を1本の無限長の弦として運動していると仮定しているためと思われる。
【0033】このように、本発明によれば、走行中の車体上においてトロリ線の機械インピーダンスを測定することができる。このため、従来、地上において行われていたトロリ線の張力等の測定作業が不要になるので、トロリ線の保守作業等が著しく簡易になる。
【0034】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、走行中の車両上でトロリ線の機械インピーダンスを求める方法を提供できる。
【出願人】 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
【出願日】 平成12年12月11日(2000.12.11)
【代理人】 【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温 (外1名)
【公開番号】 特開2002−178796(P2002−178796A)
【公開日】 平成14年6月26日(2002.6.26)
【出願番号】 特願2000−375657(P2000−375657)