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【発明の名称】 電動車両の加速制御装置
【発明者】 【氏名】松山 公久

【要約】 【課題】モータやインバータあるいはバッテリ等を大型化したりコストを上昇させることなく、制御プログラムの設定によりモータ出力の安全マージン領域を有効利用して、モータ等の性能を維持したまま劣化等を来たすことなく、十分な加速性能が得られる電動車両の加速制御装置を提供する。

【解決手段】モータと、車両コントローラと、バッテリとを有し、前記モータは走行時の最大電流値が設定された電動車両の加速制御装置において、前記車両コントローラは、加速状態識別手段を有し、加速状態を識別したときに、前記最大電流値より大きい電流を所定時間通電するブースト制御を行う。
【特許請求の範囲】
【請求項1】モータと、車両コントローラと、バッテリとを有し、前記モータは走行時の最大電流値が設定された電動車両の加速制御装置において、前記車両コントローラは、加速状態識別手段を有し、加速状態を識別したときに、前記最大電流値より大きい電流を所定時間通電するブースト制御を行うことを特徴とする電動車両の加速制御装置。
【請求項2】前記加速状態識別手段は、車速検出手段を含み、所定の速度以下のときの加速時に前記ブースト制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の電動車両の加速制御装置。
【請求項3】前記加速状態識別手段は、スロットル開度検出手段を含み、スロットル開度の変化量が所定値以上のときに前記ブースト制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の電動車両の加速制御装置。
【請求項4】前記加速状態識別手段は、モータ回転数検出手段を含み、所定のモータ回転数以下のときの加速時に前記ブースト制御を行うことを特徴とする請求項1、2または3に記載の電動車両の加速制御装置。
【請求項5】前記加速状態識別手段は、トルク検出手段を含み、所定のトルク以上のときの加速時に前記ブースト制御を行うことを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の電動車両の加速制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電動車両の加速制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】電動車両では、一般にスロットル開度に比例した電流をモータに通電してモータを駆動し走行する。このとき、モータに通電する電流については、使用時の最大電流値が設定され、この最大電流値以下の電流値を通電してモータを駆動制御する。この最大電流値は、モータ能力やモータ駆動用のインバータあるいはバッテリ等を考慮し、これらに安全マージンを見込んで設定される。したがって、最大電流値は、モータの駆動限界電流値より安全マージンを見込んだ小さい値である。通常使用時には、この最大電流以下となるように車両コントローラ等の制御回路の制御プログラムを設定することによりモータへ通電する電流値が制御される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、加速時にはモータの出力を高めるために大きな電流を必要とする。このような加速時においても最大電流値以下で駆動制御しなければならない。このため、安定した加速性能を確保するためには最大電流値を大きくする必要がある。しかしながら、最大電流値を大きくするためには、モータやインバータおよびバッテリを最大電流値に見合うように変更しなければならず、構造的に大型化し高価なものとなる。また、通常走行時のモータ出力を高めるために、必要最小限の加速感が得られる範囲でモータ出力を最大電流値付近に設定した場合には、加速時の電流値が不足して十分な加速性能が得られず、ふらついて不安定な走行状態となる場合がある。
【0004】本発明は上記従来技術を考慮したものであって、モータやインバータあるいはバッテリ等を大型化したりコストを上昇させることなく、制御プログラムの設定によりモータ出力の安全マージン領域を有効利用して、モータ等の性能を維持したまま劣化等を来たすことなく、十分な加速性能が得られる電動車両の加速制御装置の提供を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明では、モータと、車両コントローラと、バッテリとを有し、前記モータは走行時の最大電流値が設定された電動車両の加速制御装置において、前記車両コントローラは、加速状態識別手段を有し、加速状態を識別したときに、前記最大電流値より大きい電流を所定時間通電するブースト制御を行うことを特徴とする電動車両の加速制御装置を提供する。
【0006】この構成によれば、加速時に最大電流値を超える電流をモータ性能の劣化を来たさない程度の所定の短時間だけ通電することにより、モータの安全マージン領域の出力を有効に利用して加速時の出力を確保でき、加速時のためにだけ必要な出力を確保するために高出力のモータを用いることなく、小型、低コストで十分な加速性能が得られ、加速時のふらつきをなくし常に安定した走行状態を維持することができる。
【0007】好ましい構成例では、前記加速状態識別手段は、車速検出手段を含み、所定の速度以下のときの加速時に前記ブースト制御を行うことを特徴としている。
【0008】この構成によれば、モータのエンコーダあるいは車軸等に設けた車速センサ等により車速を検出し、発進時あるいは低速時にスロットル開度が急激に開かれる等により加速状態が検出されると、モータを劣化させず且つ加速に必要な所定の短時間だけ最大電流値以上の電流をモータに通電する。これにより、出力を高め加速動作を円滑に行う。
【0009】別の好ましい構成例では、前記加速状態識別手段は、スロットル開度検出手段を含み、スロットル開度の変化量が所定値以上のときに前記ブースト制御を行うことを特徴としている。
【0010】この構成によれば、スロットル開度変化により運転者の意思に応じた加速状態が検出され、これに基づいて最大電流値以上の電流が通電され十分な加速性能が得られる。
【0011】別の好ましい構成例では、前記加速状態識別手段は、モータ回転数検出手段を含み、所定のモータ回転数以下のときの加速時に前記ブースト制御を行うことを特徴としている。
【0012】この構成によれば、特に低速時の加速性能が向上する。
【0013】別の好ましい構成例では、前記加速状態識別手段は、トルク検出手段を含み、所定のトルク以上のときの加速時に前記ブースト制御を行うことを特徴としている。
【0014】この構成によれば、加速時にトルクに応じたモータ制御を行うことができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明が適用される小型電動スクータの外観図である。
【0016】電動スクータ1は、車体を構成するメインフレーム2を備え、その前部にヘッドパイプ3を挿通してフロントフォーク4が備わり、このフロントフォーク4に前輪5が装着される。車体中央部のメインフレーム2から後方に向けてスイングアーム6がスイングピボット7を介して揺動可能に取付けられる。スイングアーム6は、後輪8の車軸13に装着したホイールモータユニット9と一体的に結合され駆動ユニット12を構成する。このホイールモータユニット9内に車両駆動用の動力源となるホイールモータ(不図示)や変速装置(不図示)等が組込まれている。ホイールモータユニット9は、サスペンションピボット10を介してショックアブソーバ11の下端部に連結される。ショックアブソーバ11の上端部は、車体後端のメインフレーム2に取付けられる。これにより、ホイールモータを組込んだ後輪(駆動輪)8がメインフレーム2に対し揺動可能に支持される。
【0017】フロントフォーク4を介して前輪5を操舵するハンドル14のグリップ根元部分に変速操作スイッチ15が備わる。この変速操作スイッチ15は、手動変速および手動変速のいずれか一方を選択する変速切換スイッチ28(図2)と、手動変速が選択された場合に高速段側にシフトさせるシフトアップスイッチ29(図2)と、低速段側にシフトさせるシフトダウンスイッチ30(図2)とにより構成される。
【0018】前輪5の車軸部分に車速センサ16が装着される。車体中央部のシート19の下側にバッテリ17が収納される。車体後部のシート19の下側にモータや変速機を制御するプログラムを備えた制御回路等からなる車両コントローラ18が備わる。
【0019】図2は、本発明に係る電動車両の構成図である。前輪5の車軸に車速センサ16が設けられ、スピードメータ20に車速が表示されるとともに、車速信号が車両コントローラ18に入力される。車両コントローラ18にはさらに、モータ21をオンオフするメインスイッチ22、フラッシャやホーン等の各種スイッチ類23、スロットル24およびトルクセンサ25が接続される。スイッチ類23には、ブレーキが操作されたときにオンとなるブレーキスイッチおよび定速走行制御の場合の一定速度を設定するための車速設定スイッチ等も含まれる。モータ21は、後輪8のハブ内に装着されたホイールインモータである。モータ21には出力制御を行うインバータ回路等からなるパワーモジュール26が接続される。パワーモジュール26は、車両コントローラ18内に組込まれてもよい。
【0020】モータ21の電流信号は、パワーモジュール26を介して車両コントローラ18に入力される。モータ21は変速機27を介して車両を駆動する。変速機27は車両コントローラ18により自動シフト制御あるいは変速操作スイッチ15(図1参照)により手動制御される。変速操作スイッチ15は、変速切換えスイッチ28、シフトアップスイッチ29およびシフトダウンスイッチ30により構成される。モータ21にはエンコーダ31が備わり、磁極位置信号が車両コントローラ18に送られ、モータの回転数が検出される。また、モータ温度検出信号が車両コントローラ18に入力される。
【0021】車両にはバッテリ32が備わり、バッテリ管理コントローラ33を介してメインスイッチ22のオン信号により放電してモータ21を駆動する。バッテリ32は車載または外部の充電器34により充電可能である。バッテリ32には冷却ファン35が備わり、車両コントローラ18によりオンオフ制御される。
【0022】図3は、2段変速機の構成図であり、(A)は2速ギヤの断面図、(B)は全体構成図である。アクチュエータ36によりドッグギヤ37を2速ギヤ38に差込み、1速から2速への変速を行って高速で駆動する。2速から1速への変速は、アクチュエータ36によりドッグギヤ37を2速ギヤ38から抜くことにより、1速ギヤ39のみを介して後輪8が低速で駆動される。
【0023】図4は変速マップのグラフである。横軸はモータ回転数、縦軸はスロットル開度を示す。グラフaは2速から1速への変速時を示し、グラフbは1速から2速への変速時を示す。すなわち、1速から2速への変速動作はグラフbのマップに基づいて自動変速され、2速から1速への変速動作はグラフaのマップに基づいて自動変速される。
【0024】図5は本発明に係る電動車両の加速制御装置のブースト制御動作のフローチャートである。
【0025】ステップS1:スロットルセンサにより、スロットル開度を検出する。
ステップS2:スロットル開度に応じた出力が得られるように、モータに通電する電流指令値を算出する。
【0026】ステップS3:車速センサあるいはモータのエンコーダ等から車速を検出し、車速が所定値未満かどうかを判別する。車速が所定値未満の低速運転の場合に且つ他の条件(ステップS4〜S7)が満たされた場合にブースト制御(ステップS7)を行う。これは、高速運転のときは、モータへの通電電流値が大きくなって最大電流値に近づいているため、マージンの電流領域を利用しても大きな加速出力が得られないためである。
【0027】ステップS4:スロットル開度変化を検出し加速状態かどうかを判別する。スロットル開度変化が所定量以上であれば、すなわち速い速度でスロットルが開かれたときに加速状態と判別して他の条件が満たされればブースト制御を行う。
【0028】ステップS5:モータ回転数を検出し、発進時や低速走行時等の所定値未満の回転数のときに他の条件が満たされればブースト制御を行う。
【0029】ステップS6:トルクセンサによりモータのトルクを検出し、所定値以上かどうかを判別する。トルクが所定値以上のときに他の条件が満たされれば十分な加速出力が得られるようにブースト制御を行う。
【0030】ステップS7:加速に必要な短時間(例えば1〜2秒)のブースト時間が経過したかどうかを判別する。ブースト時間経過前であればブースト時間が経過するまでブースト制御を続行する。
【0031】ステップS8:スロットル開度に対応したモータへの電流指令値に対し、加速状態に対応したブースト電流を付加する。このとき、モータへの通電電流値は、最大電流値を超えた電流値となってもよい。このように、最大電流値を越えた電流を通電するように車両コントローラ等のプログラムを設定しておく。これにより、モータの出力が向上し十分な加速性能が得られる。
【0032】ステップS9:通常の最大電流値以下の電流でモータを駆動制御する。なお、上記フローにおいて、車速判別(ステップS3)、スロットル開度変化判別(ステップS4)、モータ回転数判別(ステップS5)およびトルク判別(ステップS6)は、すべて行う必要はなく、いずれか1つ又はいずれか2つ又は3つを組合せて行ってもよい。
【0033】図6は後輪駆動力特性のグラフであり、横軸は車速、縦軸は後輪駆動力を示す。グラフaは1速時の特性、グラフbは2速時の特性、グラフcは本発明の加速制御を行った場合の特性を示す。本発明の加速制御により、1速時の低速領域における駆動力が向上している。
【0034】図7は、距離に対する到達時間のグラフである。グラフaは加速制御をしない場合、グラフbは加速制御をした場合のグラフである。加速制御をすることにより、到達時間が短縮されている。
【0035】
【発明の効果】以上説明したように、本発明では、加速時に最大電流値を超える電流をモータ性能の劣化を来たさない程度の所定の短時間だけ通電することにより、モータの安全マージン領域の出力を有効に利用して加速時の出力を確保でき、加速時のためにだけ必要な出力を確保するために高出力のモータを用いることなく、小型、低コストで十分な加速性能が得られ、加速時のふらつきをなくし常に安定した走行状態を維持することができる。
【出願人】 【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
【出願日】 平成13年6月4日(2001.6.4)
【代理人】 【識別番号】100100284
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 潤
【公開番号】 特開2002−369316(P2002−369316A)
【公開日】 平成14年12月20日(2002.12.20)
【出願番号】 特願2001−167548(P2001−167548)