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【発明の名称】 電気自動車
【発明者】 【氏名】上地 健介

【要約】 【課題】電動機に異常な発熱が生じるのを防止すると共に電気自動車のエネルギ効率を向上させる。

【解決手段】制動時には、まず、駆動頻度が低いと共に駆動軸からモータへの動力の伝達効率が高い後輪用モータのトルク指令Tmr*をバッテリ充電制限値Winの制限の範囲内で設定し(S108)、その後、設定した後輪用モータトルク指令Tmr*とバッテリ充電制限値Winとを用いた制限下で前輪用モータのトルク指令Tmf*を設定して(S110〜S114)、前輪用モータおよび後輪用モータを回生制御する(S118)。この結果、駆動頻度の高い方のモータの発熱を抑制することができると共に電気自動車のエネルギ効率を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 車軸からの動力を用いて発電可能な複数の電動機を備える電気自動車であって、前記車軸に制動力の付与を指示する制動力指示手段と、該制動力の付与の指示がなされたとき、前記複数の電動機のうち駆動頻度の少ない電動機を優先して回生制御する制動時制御手段と、を備える電気自動車。
【請求項2】 車軸からの動力を用いて発電可能な複数の電動機を備える電気自動車であって、前記車軸に制動力の付与を指示する制動力指示手段と、該制動力の付与の指示がなされたとき、前記複数の電動機のうち前記車軸から伝達される動力の伝達効率が高い電動機を優先して回生制御する制動時制御手段と、を備える電気自動車。
【請求項3】 車軸からの動力を用いて発電可能な複数の電動機を備える電気自動車であって、前記車軸に制動力の付与を指示する制動力指示手段と、該制動力の付与の指示がなされたとき、前記複数の電動機のうち冷却性能が高い電動機を優先して回生制御する制動時制御手段と、を備える電気自動車。
【請求項4】 請求項1ないし3いずれか記載の電気自動車であって、前記複数の電動機は、異なる二つの車軸からの動力を用いて発電可能な少なくとも二つの電動機を含み、前記制動時制御手段は、前記少なくとも二つの電動機を優先順位をもって回生制御する手段である電気自動車。
【請求項5】 前記少なくとも二つの電動機のうちの一方の電動機は、車両の発進時および/またはスリップ時にのみ駆動制御される電動機である請求項4記載の電気自動車。
【請求項6】 請求項4または5いずれか記載の電気自動車であって、前記異なる二つの車軸の各々に制動力を作用させる制動力作用手段と、前記制動力指示手段により前記車軸に制動力の付与の指示がなされたとき、前記異なる二つの車軸に作用させる制動力を所定比をもって配分する制動力配分手段と、を備え、前記制動時制御手段は、前記複数の電動機の回生制御による制動力と前記制動力作用手段による制動力との和が前記所定比となるよう前記複数の電動機と前記制動力作用手段とを制御する手段である電気自動車。
【請求項7】 請求項1ないし6いずれか記載の電気自動車であって、前記複数の電動機により回生された電力を用いて充電可能な二次電池と、該二次電池の状態を検出する電池状態検出手段と、該検出された二次電池の状態に基づいて該二次電池の充電可能最大電力を設定する充電可能最大電力設定手段と、を備え、前記制動時制御手段は、前記複数の電動機の回生制御により生じる回生電力が前記充電可能最大電力設定手段により設定された充電可能最大電力以下となるよう該複数の電動機を回生制御する手段である電気自動車。
【請求項8】 請求項7記載の電気自動車であって、ブレーキペダルの踏み込み状態を検出するブレーキペダル踏み込み状態検出手段と、該検出されたブレーキペダル踏み込み状態に基づいて前記複数の電動機の回生要求トルクを演算する回生要求トルク演算手段と、を備え、前記制動時制御手段は、前記回生要求トルク演算手段により演算された回生要求トルクにより前記複数の電動機が回生制御されたときに生じる回生電力が前記充電可能最大電力を超えるとき、該複数の電動機の回生制御により生じる回生電力が該充電可能最大電力以下となるよう該複数の電動機を回生制御する手段である電気自動車。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気自動車に関し、詳しくは、車軸からの動力を用いて発電可能な複数の電動機を備える電気自動車に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の電気自動車としては、制動時に制動トルクを所定比をもって前後輪に分配し、分配されたトルクの一部または全部を前後輪の車軸に配置された電動機を回生制御することによって得るものが種々提案されている。制動時に制動トルクを所定比をもって前後輪に分配するのは、主に制動時における車両の安定性を考慮するためであり、所定比は車両の特性や制動時の車両の状態などによって定められる。電動機の回生制御に伴って得られる電気エネルギは二次電池に蓄えられ、電気自動車の駆動時におけるエネルギなどとして用いられる。このため、制動時には、できるだけ多くの電気エネルギを回収するよう電動機の回生制御がなされることが多い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、複数の電動機を備える電気自動車では、単に多くの電気エネルギを回収するためだけに電動機を回生制御すると、電動機の駆動頻度が多くなり異常な発熱を伴う場合が生じる。電動機の異常な発熱は、その後の車両の駆動時における電動機の使用を制限するものとなり、また、電動機の耐久性に大きな影響を与える。
【0004】本発明の電気自動車は、電動機に異常な発熱が生じるのを防止することを目的の一つとする。また、本発明の電気自動車は、エネルギ効率を向上させることを目的の一つとする。さらに、本発明の電気自動車は、電動機の高い耐久性を維持することを目的の一つとする。
【0005】なお、出願人は、異なる車軸に取り付けられた二つの電動機を回生制御することにより駆動時における内燃機関の余力を用いて二次電池を充電する際に、電動機の温度を考慮して二つの電動機のトルク配分を決定するものを提案している(特願平8−148678号)。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】本発明の電気自動車は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0007】本発明の第1の電気自動車は、車軸からの動力を用いて発電可能な複数の電動機を備える電気自動車であって、前記車軸に制動力の付与を指示する制動力指示手段と、該制動力の付与の指示がなされたとき、前記複数の電動機のうち駆動頻度の少ない電動機を優先して回生制御する制動時制御手段と、を備えることを要旨とする。
【0008】この本発明の第1の電気自動車では、制動力の付与の指示がなされたときには、車軸からの動力を用いて発電可能な複数の電動機のうち駆動頻度の少ない電動機を優先して回生制御するから、駆動頻度の高い電動機の発熱を防止することができる。
【0009】本発明の第2の電気自動車は、車軸からの動力を用いて発電可能な複数の電動機を備える電気自動車であって、前記車軸に制動力の付与を指示する制動力指示手段と、該制動力の付与の指示がなされたとき、前記複数の電動機のうち前記車軸から伝達される動力の伝達効率が高い電動機を優先して回生制御する制動時制御手段と、を備えることを要旨とする。
【0010】この本発明の第2の電気自動車では、制動力の付与の指示がなされたときには、車軸からの動力を用いて発電可能な複数の電動機のうち車軸から伝達される動力の伝達効率が高い電動機を優先して回生制御するから、全体としてのエネルギ効率を向上させることができる。
【0011】本発明の第3の電気自動車は、車軸からの動力を用いて発電可能な複数の電動機を備える電気自動車であって、前記車軸に制動力の付与を指示する制動力指示手段と、該制動力の付与の指示がなされたとき、前記複数の電動機のうち冷却性能が高い電動機を優先して回生制御する制動時制御手段と、を備えることを要旨とする。
【0012】この本発明の第3の電気自動車では、制動力の付与の指示がなされたときには、車軸からの動力を用いて発電可能な複数の電動機のうち冷却性能が高い電動機を優先して回生制御するから、冷却性能の低い電動機の発熱を防止することができる。
【0013】こうした本発明の第1ないし第3のいずれかの電気自動車において、前記複数の電動機は異なる二つの車軸からの動力を用いて発電可能な少なくとも二つの電動機を含み、前記制動時制御手段は前記少なくとも二つの電動機を優先順位をもって回生制御する手段であるものとすることもできる。ここで、「異なる二つの車軸」には、前輪に接続された前車軸と後輪に接続された後車軸とが含まれる。
【0014】この異なる二つの車軸を備える態様の本発明の第1ないし第3のいずれかの電気自動車において、前記少なくとも二つの電動機のうちの一方の電動機は、車両の発進時および/またはスリップ時にのみ駆動制御される電動機であるものとすることもできる。
【0015】また、異なる二つの車軸を備える態様の本発明の第1ないし第3のいずれかの電気自動車において、前記異なる二つの車軸の各々に制動力を作用させる制動力作用手段と、前記制動力指示手段により前記車軸に制動力の付与の指示がなされたときに前記異なる二つの車軸に作用させる制動力を所定比をもって配分する制動力配分手段と、を備え、前記制動時制御手段は前記複数の電動機の回生制御による制動力と前記制動力作用手段による制動力との和が前記所定比となるよう前記複数の電動機と前記制動力作用手段とを制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、所定比をもって配分された制動力を異なる二つの車軸に作用させることができると共に電気エネルギを回収することができる。
【0016】本発明の第1ないし第3のいずれかの電気自動車において、前記複数の電動機により回生された電力を用いて充電可能な二次電池と、該二次電池の状態を検出する電池状態検出手段と、該検出された二次電池の状態に基づいて該二次電池の充電可能最大電力を設定する充電可能最大電力設定手段と、を備え、前記制動時制御手段は前記複数の電動機の回生制御により生じる回生電力が前記充電可能最大電力設定手段により設定された充電可能最大電力以下となるよう該複数の電動機を回生制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、二次電池をより適正な電力を用いて充電することができるから、過電力による二次電池の充電を防止することができる。この態様の本発明の電気自動車において、ブレーキペダルの踏み込み状態を検出するブレーキペダル踏み込み状態検出手段と、該検出されたブレーキペダル踏み込み状態に基づいて前記複数の電動機の回生要求トルクを演算する回生要求トルク演算手段と、を備え、前記制動時制御手段は前記回生要求トルク演算手段により演算された回生要求トルクにより前記複数の電動機が回生制御されたときに生じる回生電力が前記充電可能最大電力を超えるときに該複数の電動機の回生制御により生じる回生電力が該充電可能最大電力以下となるよう該複数の電動機を回生制御する手段であるものとすることもできる。
【0017】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。図1は、本発明の一実施例である電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22のクランクシャフト24にプラネタリギヤ26を介して接続された前輪用モータMGfと、デファレンシャルギヤ32を介して左右前輪30に接続された前輪用駆動軸34にエンジン22および前輪用モータMGfからの出力を変速して出力する変速機28と、デファレンシャルギヤ42を介して左右後輪40に接続された後輪用駆動軸44に出力可能な後輪用モータMGrと、電気自動車20全体をコントロールする電気自動車用電子制御ユニット70とを備える。
【0018】エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)23による燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU23は、電気自動車用電子制御ユニット70と通信しており、電気自動車用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを電気自動車用電子制御ユニット70に出力する。
【0019】プラネタリギヤ26は、外歯歯車のサンギヤと、このサンギヤと同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤと、サンギヤに噛合する第1ピニオンギヤと、この第1ピニオンギヤとリングギヤと噛合する第2ピニオンギヤと、第1ピニオンギヤと第2ピニオンギヤとを自転かつ公転自在に保持するキャリアとからなる周知の遊星歯車機構として構成されており、サンギヤにはエンジン22のクランクシャフト24が、キャリアには前輪用モータMGfの回転軸がそれぞれ連結されている。なお、プラネタリギヤ26のキャリアとリングギヤはそれぞれクラッチにより変速機28の入力軸に接続できるようになっており、両クラッチを接続状態とすることにより、サンギヤとリングギヤとキャリアの3つの回転要素による差動を禁止して一体の回転体、即ちエンジン22のクランクシャフト24と前輪用モータMGfの回転軸と変速機28の入力軸とを一体の回転体とすることができるようになっている。なお、プラネタリギヤ26には、リングギヤをケースに固定してその回転を禁止する図示しないブレーキも設けられている。
【0020】前輪用モータMGfと後輪用モータMGrは、共に例えば発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、それぞれインバータ52とインバータ54とを介してバッテリ60と電力のやりとりを行なう。前輪用モータMGfと後輪用モータMGrは、共にモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)59により駆動制御されており、モータECU59には、前輪用モータMGfや後輪用モータMGrを駆動制御するために必要な信号、例えば前輪用モータMGfや後輪用モータMGrの回転子の回転位置を検出する図示しない回転位置検出センサからの信号や図示しない電流センサにより検出される前輪用モータMGfや後輪用モータMGrに印加される相電流などが入力されており、モータECU59からは、インバータ52やインバータ54へのスイッチング制御信号が出力されている。なお、モータECU59は、電気自動車用電子制御ユニット70と通信しており、電気自動車用電子制御ユニット70からの制御信号によって前輪用モータMGfや後輪用モータMGrを駆動制御すると共に必要に応じて前輪用モータMGfや後輪用モータMGrの運転状態に関するデータ、例えば各モータの回転数Nf,Nrなどを電気自動車用電子制御ユニット70に出力する。実施例の電気自動車20では、前輪用モータMGfは、発進時やスリップ時の他、運転者から要求される駆動力に応じてエンジン22と共に駆動力を出力するよう駆動制御され、バッテリ60の残容量(SOC)が少ないときにはバッテリ60を発電するよう回生制御される。一方、後輪用モータMGrは、車両の発進時とスリップ時と制動時にのみ後輪用駆動軸44に駆動力や制動力を出力するよう制御され、その他のときには駆動力や制動力を出力しないよう制御される。
【0021】バッテリ60は、充放電可能な二次電池、例えばニッケル水素系の二次電池やリチウムイオン系の二次電池などとして構成されており、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリ用ECU)61により管理されている。バッテリECU61には、バッテリ60の端子間に設置された電圧センサ62からの端子間電圧やバッテリ60からの電力ラインに取り付けられた電流センサ64からの充放電電流,バッテリ60に取り付けられた温度センサ66からのバッテリ温度Tbなどが入力されている。バッテリECU61では、バッテリ60を管理するデータの一つとして電流センサ64により検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)を演算している。なお、バッテリECU61は、電気自動車用電子制御ユニット70と通信しており、電気自動車用電子制御ユニット70からの制御信号に基づいてバッテリ60の状態に関するデータ、例えばバッテリ温度Tbや残容量(SOC)などのデータを電気自動車用電子制御ユニット70に出力する。
【0022】変速機28は、例えばベルト式の無段変速機や有段変速機として構成されており、入力軸の動力を無段階または有段階に変速して前輪用駆動軸34に出力する。変速機28は、変速機用電子制御ユニット(以下、変速機ECUという)29による制御を受けている。なお、変速機ECU29も電気自動車用電子制御ユニット70と通信しており、電気自動車用電子制御ユニット70からの制御信号によって変速機28を制御すると共に必要に応じて変速機28の状態に関するデータを電気自動車用電子制御ユニット70に出力する。
【0023】左右前輪30および左右後輪40には、油圧により作動する周知の油圧ブレーキ31,41が取り付けられており、油圧ブレーキ用アクチュエータ88を駆動制御することによりその制動トルクが調節できるようになっている。
【0024】電気自動車用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。電気自動車用電子制御ユニット70には、シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ80からのシフトポジションSPやアクセル開度センサ82からのアクセル開度A,ブレーキペダルの踏み込み状態を検出するブレーキペダル踏み込み状態検出センサ84からのブレーキペダル踏み込み状態BS,車速センサ86からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ブレーキペダル踏み込み状態検出センサ84としては、ブレーキペダルの踏み込み力であるブレーキ踏力を検出するセンサやブレーキペダルのポジションを検出するブレーキペダルポジションセンサなどを挙げることができ、いずれかのうちの一つまたは複数を用いるものとしてもよい。なお、ブレーキ踏力を検出するセンサとしては、ブレーキマスタシリンダの油圧を検出すると共に検出したブレーキマスタシリンダの油圧をブレーキ踏力に変換するものを用い留ことができる。電気自動車用電子制御ユニット70からは、プラネタリギヤ26に取り付けられた図示しないクラッチやブレーキへの駆動信号や油圧ブレーキ用アクチュエータ88への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。また、電気自動車用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU23や変速機ECU29,モータECU59,バッテリECU61と通信ポートを介して接続されており、各ECUと各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0025】次に、こうして構成された実施例の電気自動車20の動作、特に制動時の動作について説明する。図2は、電気自動車用電子制御ユニット70により実行される制動時処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、8msec毎)に繰り返し実行される。
【0026】この制動時処理ルーチンが実行されると、電気自動車用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、ブレーキペダル踏み込み状態検出センサ84により検出されるブレーキペダル踏み込み状態BSを読み込むと共に通信によりバッテリECU61から残容量(SOC)やバッテリ温度Tb、モータECU59から前輪用モータMGfの回転数Nfや後輪用モータMGrの回転数Nrなどを読み込む処理を実行する(ステップS100)。続いて、読み込んだブレーキペダル踏み込み状態BSと予め設定されている前後トルク比Rfrとから前後輪の制動要求トルクTf,Trを設定する(ステップS102)。ここで、前後トルク比Rfrは、前後輪に制動トルクを作用させたときに車両が安定して停止するよう設定された前後輪トルク比であり、車両の特性などに基づいて、例えば前輪用トルク:後輪用トルクが7:3のように設定される。また、ブレーキペダル踏み込み状態BSは運転者が欲する制動力を表わすものであるから、制動要求トルクTf,Trはブレーキペダル踏み込み状態BSと前後トルク比Rfrに基づいて求めることができる。実施例では、ブレーキペダル踏み込み状態BSと制動要求トルクTf,Trとの関係を予め設定してマップとしてROM74に記憶しておき、ブレーキペダル踏み込み状態BSが与えられたときにマップから対応する制動要求トルクTf,Trを導出するものとした。なお、制動要求トルクTf,Trは、前輪と後輪に要求される制動トルクである。
【0027】続いて、設定した制動要求トルクTf,Trに基づいて計算される値と前輪用モータMGfや後輪用モータMGrの最小定格値Tfmin,Trminとのうち大きい方、即ち式(1)および式(2)にモータ要求トルクTmf,Tmrを計算する(ステップS104)。ここで、式(1)および式(2)中、kfおよびkrは前輪用駆動軸34や後輪用駆動軸44への制動要求トルクTf,Trにおける前輪用モータMGfおよび後輪用モータMGrにより受け持たれるべき前輪用駆動軸34および後輪用駆動軸44上のトルクを設定するための係数であり、GfおよびGrは前輪用駆動軸34に対する前輪用モータMGfの回転軸のギヤ比および後輪用駆動軸44に対する後輪用モータMGrの回転軸のギヤ比であり、ηfおよびηrは前輪用モータMGfと変速機28の効率および後輪用モータMGrの効率である。したがって、式(1)および式(2)の右辺は、前輪用駆動軸34や後輪用駆動軸44への制動要求トルクTf,Trにおける前輪用モータMGfおよび後輪用モータMGrにより受け持たれる各モータのトルク計算値と最小定格値とのうち大きい方、即ち、トルク計算値も最小定格値も負の値となるから、絶対値の小さい方を意味する。
【0028】
【数1】
Tmf=max(kf・Tf・ηf/Gf,Tfmin) (1)
Tmr=max(kr・Tr・ηr/Gr,Trmin) (2)
【0029】次に、バッテリ60の残容量(SOC)とバッテリ温度Tbとからバッテリ充電制限値Winを設定する(ステップS106)。このバッテリ充電制限値Winは、バッテリ60の性能や状態により定まるものであり、実施例では残容量(SOC)とバッテリ温度Tbとバッテリ充電制限値Winとの関係を予め実験などにより求めてマップとしてROM74に記憶しておき、残容量(SOC)とバッテリ温度Tbとが与えられたときにマップから対応するバッテリ充電制限値Winを導出するものとした。
【0030】そして、設定したバッテリ充電制限値Winとモータ要求トルクTmrとに基づいて次式(3)により後輪用モータトルク指令Tmr*を設定し(ステップS108)、設定した後輪用モータトルク指令Tmr*とバッテリ充電制限値Winとモータ要求トルクTmfとに基づいて前輪用モータトルク指令Tmf*を設定する(ステップS110〜S114)。
【0031】
【数2】
Tmr*=max(Tmr,Win/Nr) (3)
【0032】式(3)から解るように、ステップS108はモータ要求トルクTmrをバッテリ充電制限値Winで制限する処理である。前輪用モータトルク指令Tmf*は、上述の式(3)で求めた後輪用モータトルク指令Tmr*に後輪用モータMGrの回転数Nrを乗じて後輪用モータパワーPrを計算すると共に(ステップS110)、バッテリ充電制限値Winから後輪用モータパワーPrを減じて前輪用モータパワーPfを計算し(ステップS112)、この計算した前輪用モータパワーPfを前輪用モータMGfの回転数Nfで除した値とモータ要求トルクTmfとのうち大きい方(その絶対値が小さい方)を選択することにより設定される(ステップS114)。したがって、前輪用モータトルク指令Tmf*の設定処理は、後輪用モータトルク指令Tmr*とバッテリ充電制限値Winとによりモータ要求トルクTmfを制限することによって設定する処理となる。上述したように、実施例では、まず後輪用モータトルク指令Tmr*を設定した後に前輪用モータトルク指令Tmf*を設定する。即ち、後輪用モータトルク指令Tmr*を前輪用モータトルク指令Tmf*に優先して設定している。これは、前輪用モータMGfに比して駆動頻度の低い後輪用モータMGrを制動時には優先して回生制御することに相当する。また、図1の構成図から解るように、前輪用モータMGfはプラネタリギヤ26と変速機28を介して前輪用駆動軸34に接続されているのに対して後輪用モータMGrは直接後輪用駆動軸44に接続されている。このため、制動時における駆動軸からモータへの動力の伝達効率は前輪用モータMGfに比して後輪用モータMGrの方が高いものとなる。この結果、後輪用モータトルク指令Tmr*を前輪用モータトルク指令Tmf*に優先して設定する処理は、駆動軸からモータへの動力の伝達効率が高い方を優先して回生制御することにもなる。
【0033】前後輪のモータ要求トルクとバッテリ充電制限値Winとの関係を図3に示す。図中直線Wは、バッテリ充電制限値Winを前輪用駆動軸34や後輪用駆動軸44へトルク換算したときの前輪用駆動軸34と後輪用駆動軸44のトルク和が一定、即ちパワーがバッテリ充電制限値Winで一定となる関係を示している。なお、図3中では、制動力を考えているから各値は全て負の値となるが、説明の容易のために第3象限にあるべきものを第1象限として示した。この図3を用いてステップS108〜S114の処理を説明すると次のようになる。まず、ステップS108では、モータ要求トルクTmrが図中の直線Wと後輪モータ要求トルク軸との交点より右側にあるか否かを判定し、左側にあるとき、即ちモータ要求トルクTmrの方が大きい(絶対値が小さい)ときには、モータ要求トルクTmrを後輪用モータトルク指令Tmr*として設定し、右側にあるとき、即ちモータ要求トルクTmrの方が小さい(絶対値が大きい)ときには、バッテリ充電制限値Winを後輪用モータMGrの回転数Nrで除した値を後輪用モータトルク指令Tmr*として設定する。図中、Tmr1およびTmr2はいずれも直線Wと横軸との交点より左側にあるから、その値がそのまま後輪用モータトルク指令Tmr*に設定される。ステップS110〜S114は、設定された後輪用モータトルク指令Tmr*とバッテリ充電制限値Winとから計算されるトルクとモータ要求トルクTmrとの大きさを比較する処理であり、例えば後輪用モータトルク指令Tmr*に図中のTmr1が設定されているときには、Tmr1と直線Wとから導き出されるTmf3とTmf1との大きさ比較がなされ、その絶対値が小さいTmf3が前輪用モータトルク指令Tmf*として設定され、後輪用モータトルク指令Tmr*に図中のTmr2が設定されているときには、Tmr2と直線Wとから導かれるTmf4との大きさ比較がなされ、その絶対値が小さいTmf2が前輪用モータトルク指令Tmf*として設定される。即ち、ステップS104で計算されたモータ要求トルクTmf,Tmrのポイントが、例えば図中のポイントAのときには、直線W上のポイントBとして後輪用モータトルク指令Tmr*および前輪用モータトルク指令Tmf*が設定され、図中のポイントCのときには、そのポイントCのまま後輪用モータトルク指令Tmr*と前輪用モータトルク指令Tmf*とが設定される。このことは、ステップS104で計算されたモータ要求トルクTmf,Tmrのポイントが図中の直線Wの上側にあるか下側にあるかによりバッテリ充電制限値Winの制限を受けるか否かが決定され、バッテリ充電制限値Winの制限を受けるときには、直線W上のポイントであれば如何なるポイントであってもよいが、実施例では後輪用モータMGrを前輪用モータMGfに優先するよう後輪用モータトルク指令Tmr*と前輪用モータトルク指令Tmf*とを設定している。なお、実施例とは逆に、前輪用モータMGfを後輪用モータMGrに優先して前輪用モータトルク指令Tmf*と後輪用モータトルク指令Tmr*とを設定するには、図中のポイントAの場合、ポイントBとして設定せずに、ポイントDとして設定すればよい。
【0034】このように後輪用モータMGrを前輪用モータMGfに優先して後輪用モータトルク指令Tmr*と前輪用モータトルク指令Tmf*とを設定すると、次式(4)および式(5)に示すように、ステップS102で設定した制動要求トルクTf,Trから両モータトルク指令Tmf*,Tmr*にギヤ比Gf,Grと効率ηf,ηrの逆数とを乗じたものを減じて油圧ブレーキ31,41により作用させるべきトルクとしての油圧ブレーキトルクTbf,Tbrを設定する(ステップS116)。
【0035】
【数3】
Tbf=Tf−Tmf*・Gf/ηf (4)
Tbr=Tr−Tmr*・Gr/ηr (5)
【0036】こうして両モータトルク指令Tmf*,Tmr*と油圧ブレーキトルクTbf,Tbrとを設定すると、両モータMGf,MGrから両モータトルク指令Tmf*,Tmr*の制動トルクが出力されるよう両モータMGf,MGrを回生制御すると共に油圧ブレーキ31,41により油圧ブレーキトルクTbf,Tbrの制動トルクが作用するよう油圧ブレーキ31,41を制御して(ステップS118)、本ルーチンを終了する。なお、両モータMGf,MGrの回生制御は、通信により両モータトルク指令Tmf*,Tmr*をモータECU59に出力することによってモータECU59により行なわれ、油圧ブレーキ31,41の制御は、油圧ブレーキトルクTbf,Tbrに対応する油圧が油圧ブレーキ31,41に作用するよう油圧ブレーキ用アクチュエータ88を駆動制御することにより行なわれる。
【0037】以上説明した実施例の電気自動車20によれば、制動時には駆動頻度の低い後輪用モータMGrを前輪用モータMGfに優先して回生制御を行なうから、駆動頻度の高い前輪用モータMGfの発熱を抑制することができると共に後輪用モータMGrを有効に利用することができる。また、実施例の電気自動車20によれば、制動時には駆動軸からモータへの動力の伝達効率が高い後輪用モータMGrを前輪用モータMGfに優先して回生制御を行なうから、エネルギをより有効に利用することができると共に車両全体としての効率を向上させることができる。したがって、前輪用モータMGfや後輪用モータMGrの高い耐久性を維持することができる。しかも、バッテリ60の残容量(SOC)に基づいてバッテリ充電制限値Winにより回生電力を制限するから、過大電力によってバッテリ60に損傷を与えたり性能を低下させることを防止することもできる。
【0038】実施例の電気自動車20では、制動時に駆動頻度が低いと共に駆動軸からモータへの動力の伝達効率が高い後輪用モータMGrを前輪用モータMGfに優先して回生制御したが、駆動頻度が同様になるよう前輪用モータMGfと後輪用モータMGrとが駆動制御される電気自動車では駆動軸からモータへの動力の伝達効率が高い方のモータを優先して回生制御すればよく、駆動軸からモータへの動力の伝達効率が同様の電気自動車では駆動頻度が低いモータを優先して回生制御すればよい。また、駆動頻度を駆動軸からモータへの動力の伝達効率に優先して制動時に優先して回生制御するモータを決定するものとしてもよいし、逆に駆動軸からモータへの動力の伝達効率を駆動頻度に優先して制動時に優先して回生制御するモータを決定するものとしても構わない。
【0039】実施例の電気自動車20では、駆動頻度と駆動軸からモータへの動力の伝達効率とによって制動時に優先すべきモータを決定するものとしたが、前輪用モータMGfの冷却性能と後輪用モータMGrの冷却性能とを比較し、制動時には冷却性能が優れているモータを優先して回生制御するものとしてもよい。こうすれば、冷却性能の優れていない方のモータの発熱を抑制することができる。
【0040】実施例の電気自動車20では、左右後輪40にデファレンシャルギヤ42と後輪用駆動軸44とを介して後輪用モータMGrを取り付けるものとしたが、左右後輪40の各々に直接モータを取り付けるものとしてもよい。この場合、左右後輪40の各々に取り付けられた各モータに対して同様にトルク指令を設定すればよい。
【0041】以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【出願人】 【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
【出願日】 平成13年5月14日(2001.5.14)
【代理人】 【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
【公開番号】 特開2002−345105(P2002−345105A)
【公開日】 平成14年11月29日(2002.11.29)
【出願番号】 特願2001−142652(P2001−142652)