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【発明の名称】 電動走行装置
【発明者】 【氏名】守田 信稔

【氏名】田崎 愛眞郎

【要約】 【課題】環境温度に影響を受けにくく、かつ、制御性のよい走行装置を提供。

【解決手段】架台を走行させるための複数の車輪を有する車輪部と、車輪部を駆動する電動駆動装置300と、車輪部に方向変更動作を行わせる操舵機構400と、走行および操舵についての操作信号を受け付ける操作装置600と、受け付けた操作信号に基づいて電動駆動装置300および操舵機構400の動作を制御する制御装置700とを備える。制御装置700は、操舵についての操作信号に基づいて、車輪部の操舵角度を決定して、角度指令を操舵機構400に与え、走行についての操作信号に基づいて速度指令を求め、さらに、速度指令について、操舵角度に対応する架台の回転半径と、各車輪部の補正すべき位置から回転中心までの距離との比に基づいて補正して、各補正位置ごとの速度指令を算出して、当該補正位置に関係する車輪を駆動する電動駆動装置300に与える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 作業機を搭載して自走する電動走行装置であって、作業機を搭載する架台と、前記架台を支持し前記架台を走行させるための複数の車輪を有する車輪部と、前記車輪部を駆動する電動駆動装置と、前記車輪部に方向変更動作を行わせる操舵機構と、走行および操舵についての操作信号を受け付ける操作装置と、前記操作装置により受け付けた走行および操舵についての操作信号に基づいて前記電動駆動装置および操舵機構の動作を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記操舵についての操作信号に基づいて、車輪部の操舵角度を決定して、角度指令を前記操舵機構に与え、かつ、走行についての操作信号に基づいて、前記電動駆動装置に対する速度指令を求め、さらに、前記速度指令について、操舵角度に対応する架台の回転半径と、各車輪部の補正すべき位置から回転中心までの距離との比に基づいて補正して、各補正位置ごとの速度指令を算出して、当該補正位置に関係する車輪を駆動する電動駆動装置に速度指令として与えることを特徴とする電動走行装置。
【請求項2】 請求項1に記載の電動走行装置において、前記電動駆動装置は、サーボモータと、エンコーダと、サーボモータを駆動するサーボドライバとを有し、前記サーボドライバは、前記速度指令およびエンコーダにより検出されたサーボモータの回転速度とに基づいて、サーボモータを駆動することを特徴とする電動走行装置。
【請求項3】 請求項2に記載の電動走行装置において、前記サーボドライバは、前記制御装置からの速度指令が“0”である場合に、サーボモータを回転速度“0”の状態に維持する制御を行うことを特徴とする電動走行装置。
【請求項4】 請求項1、2および3のいずれか一項に記載の電動走行装置において、常用ブレーキ装置をさらに備え、前記常用ブレーキ装置は、前記速度指令が“0”の時、車輪について制動を行うものであることを特徴とする電動走行装置。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれか一項に記載の電動走行装置において、パーキングブレーキ装置をさらに備え、該パーキングブレーキ装置は、前記操作装置から停止指令が送られたとき作動し、車輪について制動を行うものであることを特徴とする電動走行装置。
【請求項6】 請求項5に記載の電動走行装置において、前記制御装置は、前記操作装置から停止指令が送られたとき、当該停止指令が解除されるまで、当該操作装置からの走行についての操作指令について、速度指令が“0”であるとして扱うことを特徴とする電動走行装置。
【請求項7】 請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動走行装置において、前記車輪部は、それぞれ駆動車軸および従動車軸の2軸を複数組有し、前記駆動車軸および前記従動車軸の両端部にそれぞれ車輪を有することを特徴とする電動走行装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、作業機を搭載して自走する走行装置に係り、特に、クレーンを搭載して自走する電動走行装置に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば、港に接岸した大型船舶に対して荷物を載せたり降ろしたりする場合には、ジブクレーンが使用される。このジブクレーンは、これまでは、埠頭に固定的に配置されていた。そのため、接岸可能ないずれの領域でも荷役が可能となるよう、多くの台数が配置されていた。しかし、現実には、すべてのクレーンを同時に使用することは稀であることから、固定的な配置は、無駄が多いという問題があった。また、メンテナンスの際には、その位置では、荷役ができないという問題もある。
【0003】そこで、ジブクレーンを可搬型とすることが考えられた。このようにすることで、ジブクレーンを、走行装置に搭載して、荷役の必要な領域に移動させて荷役を行わせることが可能となる。その結果、荷役の程度に応じて、必要なジブクレーンを集中して使用するという融通性を持たせることができ、港湾設備について、無駄な設備投資を減らして、効率的に荷役作業が行えるという利点が期待できる。
【0004】ところで、このような大型のクレーンを搭載して移動する走行装置は、自重だけでも数百トンになり得る。そこで、走行装置の原動機としてどのようなものを用いるかが問題となる。通常、この種の大型走行装置の場合、原動機として油圧モータが使用されている。これは、油圧モータの回転差や過負荷が油の特性で吸収され、過負荷に対して弾力性があるからである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、油圧モータを使用した走行装置では、作動油の温度により作動油の粘度やパッキングの寿命等が影響を受けるので、周囲温度により作動油の温度を管理する必要がある。例えば、1日あたりの総走行距離が1500mである場合には、運行総時間は2時間と見込まれているが、寒冷期には、運行前のウォーミングが作動油の温度管理上から終日必要となる。また、定期的に作動油の交換が必要であり、保守点検も複雑で故障対策費用も高くなる。
【0006】一方、制御性や応答性は作動油の特性からタイムラグが大きいので、その操作には技量を要する。また、効率が悪いので、消費エネルギが大きい。
【0007】本発明の目的は、環境温度に影響を受けにくく、かつ、制御性のよい走行装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、作業機を搭載して自走する電動走行装置であって、作業機を搭載する架台と、前記架台を支持し前記架台を走行させるための複数の車輪を有する車輪部と、前記車輪部を駆動する電動駆動装置と、前記車輪部に方向変更動作を行わせる操舵機構と、走行および操舵についての操作信号を受け付ける操作装置と、前記操作装置により受け付けた走行および操舵についての操作信号に基づいて前記電動駆動装置および操舵機構の動作を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記操舵についての操作信号に基づいて、車輪部の操舵角度を決定して、角度指令を前記操舵機構に与え、かつ、走行についての操作信号に基づいて、前記電動駆動装置に対する速度指令を求め、さらに、前記速度指令について、操舵角度に対応する架台の回転半径と、各車輪部の補正すべき位置から回転中心までの距離との比に基づいて補正して、各補正位置ごとの速度指令を算出して、当該補正位置に関係する車輪を駆動する電動駆動装置に速度指令として与えることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明に係る実施形態の電動走行装置に、作業機としてジブクレーンを搭載した自走式ジブクレーン車の構成を示す。また、図2〜図7に、本実施形態の電動走行装置の各部の構成を示す。
【0010】この自走式ジブクレーン車は、ジブクレーン1と、これを搭載する架台100と、架台100を支持すると共に、架台100を走行させるための車輪部200(図2、図3参照)とを備える。また、図1には示されていないが、車輪部200を駆動する電動駆動装置300(図2、図4、図7参照)と、車輪部200に方向変更動作を行わせる操舵機構400(図4、図7)と、車輪部200の制動を行う制動装置500(図6、図7参照)と、走行およびステアリングについての操作を受け付ける操作装置600(図4、図7参照)と、操作装置600により受け付けた走行およびステアリングについての操作に基づいて電動駆動装置300および操舵機構400の動作を制御する制御装置700(図4、図7参照)とを備える。
【0011】ジブクレーン1は、ジブ2と、これを介して荷物9を、吊り上げ、つり下げする吊り索3と、図示していないウインチと、ジブ2を旋回させる旋回部4と、オペレータが搭乗してジブクレーンを操作するオペレータキャビン5と、それらを支持する支持塔6とを有する。
【0012】架台100は、図1、図2および図3に示すように、デッキ110と、それを支持するフレーム120と、フレーム120に車軸を取り付ける車軸取付部130と、アウトリガ170とを有する。車軸取付部には、車軸支持部140を介して車軸が取り付けられる。車軸支持部140は、前後に一つずつ車軸(駆動車軸221および受動車軸222)を支持する。
【0013】アウトリガ170は、架台100の外側4箇所に配置され、クレーン作業時に、脚部179を降下すると共に、架台100を押し上げて、車輪部200を地面から浮かせる。このアウトリガ170は、図4に示すように油圧で作動するシリンダ171を有し、制御装置700と、電磁比例弁用アンプ150と電磁比例弁160とで制御され、脚部179を昇降させる。なお、シリンダ171への油圧配管174に逆止弁172が設けられ、これにより、架台100を押し上げた状態をロックすることができる。また、アウトリガ170には、リミットスイッチ180が設けられている。このリミットスイッチ180で、架台100が十分に押し上げられたことを検知して、アウトリガ170の動作を停止させる。また、制御装置700は、アウトリガ170を元に戻す指示を出力して、逆止弁172によるロックを解除し、電磁比例弁560に対して、脚部179を引き上げるように、シリンダ171における油圧のかけ方を変える。
【0014】車輪部200は、図2に示すように、16輪の車輪210と、それぞれ2個の車輪210が両端に装着される、4軸の駆動車軸221と、それぞれ2個の車輪210が両端に装着される、4軸の従動車軸222と、各駆動車軸221に設けられる差動装置230とを有する。なお、本明細書では、図2に示すように、説明の便宜上、各車軸にA〜Hまでの符号を付してある。この符号により説明すると、架台110の一端側に、駆動車軸221AおよびEの一列、従動車軸222BおよびFの一列、従動車軸222CおよびGの一列、および、駆動車軸221DおよびHの一列が順に並ぶ。
【0015】本実施形態では、駆動車軸221を架台100の外側に配置し、従動車軸222を内側に配置している。このように、対称的に配置することで、走行装置としての前後の区別をなくし、いずれに進行する場合にも、また、方向変更を行う場合にも、同じように動作することが保証できる。また、外側に駆動車軸221を配置することで、メンテナンスを容易にする効果もある。なお、本実施形態では、従動車軸を備えているが、すべてを駆動車軸とすることもできる。車輪210は、搭載する作業機に合わせて決定される。本実施形態の自走式ジブクレーンの場合には、例えば、直径が1600mm程度の大きさのものが用いられる。
【0016】図2において、Xはジブクレーンの旋回中心点である。また、図2において、Yはジブクレーン車の総重心を示している。
【0017】電動駆動装置300は、図2および図6に示すように、前述した各駆動車軸221ごとに設けられる。すなわち、差動装置230に駆動力が伝達され、この差動装置230を介して駆動車軸221が駆動される。すなわち、各駆動車軸221は、それぞれに取り付けられている電動駆動装置300により個別に駆動される。
【0018】各電動駆動装置300は、図7に示すように、サーボドライバ310と、駆動車軸221を駆動するサーボモータ320と、サーボモータ320の回転速度を検知するエンコーダ330とを有する。この他に、図示していないが、減速機を有する。この減速機は、サーボモータ320の回転速度を減速して、差動装置230に伝達する。
【0019】サーボドライバ310は、制御装置700から個別に出力される速度指令に従って、サーボモータ320を目的の回転速度で駆動するための駆動電力を出力する。エンコーダ330は、サーボモータ320の回転速度を検出して、サーボドライバ310にフィードバックする。サーボドライバ310は、フィードバックされた回転速度信号と速度指令との偏差に対応する駆動電力をサーボモータ320に出力する。サーボモータ320は、本実施形態では、ACサーボモータを用いている。サーボドライバ310には、電源装置900(図4参照)から交流電力が供給される。また、前記サーボドライバ310は、制御装置700からの速度指令が“0”である場合に、サーボモータ320を静止状態に保持する。したがって、速度指令が“0”である場合に、積極的に移動しないようにトルクを発生するため、制動作用を有するともいえる。
【0020】操舵機構400は、大きく分けると、制御装置700を含めた制御系と、後述する主油圧ユニット810を含めた油圧系と、車輪の向きを機械的に変更する機構部分とで構成される。具体的には、図7に示すように、各車軸221、222毎に設けられる油圧式操舵装置430と、これを動作させる電磁比例弁420と、制御装置700からの角度指令を受けて、電磁比例弁420を操作する信号を出力する電磁比例弁用アンプ410と、車輪の操舵角を検出する舵角センサ440とを有する。
【0021】油圧式操舵装置430は、図4、図6に示すように、各車軸221、222毎に設けられる一対の操舵シリンダ431および432と、車輪210に接続され、車輪の向きを変える一対のアーム450と、同じ車軸221に装着された車輪210における対向するアーム450を、ピン460を介して連結する連接棒470とを有する。
【0022】操舵シリンダ431は、油圧配管433に接続されるポート4311および4312とを有する。これらのポート4311および4312への油圧のかけ方に応じて、ピストン軸4313が変位する。図6に示す例では、車輪210を図面の右側に引きつけるように変位している。なお、このシリンダ431と対をなす、図6には図示していない舵角シリンダ432は、前述した舵角シリンダ431とは、図6上では、同方向にピストン軸を変位させるよう作用する。ピストン軸4313は、ピン460を介してアーム450に連結されている。
【0023】連接棒470は、前述した舵角シリンダ431、432とは逆方向に変位する。すなわち、同じ駆動車軸221に装着された車輪210は、図6に示す矢印の方向にそれぞれ力が加わり、曲げられることとなる。曲げ角度は、制御装置700からの角度指令に応じて決まる舵角シリンダ431でのピストン軸4313の変位量に対応する。
【0024】電磁比例弁用アンプ410は、舵角センサ440からの舵角検出信号と角度指令との偏差に応じた操作信号を出力する。したがって、油圧式操舵装置430による操舵動作は、フィードバック制御されて、目的の変位角度となるまで行われる。
【0025】舵角センタ440は、例えば、ポテンショメータにより構成され、角度変位を検出して、例えば、電圧信号として出力する。
【0026】制動装置500は、電磁比例弁用アンプ510および電磁比例弁520によって制御される常用ブレーキ装置530と、電磁比例弁用アンプ550および電磁比例弁560によって制御されるパーキングブレーキ装置570との2系統を有する。いずれも油圧式である。もちろん、空気圧式とすることもできる。
【0027】常用ブレーキ装置530は、本実施形態では、図6に示すように、ディスク531と、それを締め付けるパッド532と、図示しない油圧シリンダとを有するディスクブレーキで構成される。この常用ブレーキ装置530は、すべての車輪210について設けられている。そして、本実施形態では、特別なブレーキ操作は行わず、操作装置600においてジョイスティック610が中立位置にあり、変位信号が”0”の場合に、自動的にブレーキが作動するように制御される。
【0028】パーキングブレーキ570は、図6に示すように、駆動車軸221ごとに設けられる。すなわち、差動装置230と電動駆動装置300との間に配置され、電動機からの出力軸を固定する。具体的には、例えば、油圧式ドラムブレーキにより構成される。このパーキングブレーキ570は、前述した常用ブレーキ530とは異なり、それ自身について、独立の制動指令を受けて作動する構成となっている。
【0029】操作装置600は、本実施形態では、架台100と別に設けられる。図4に示すように、コネクタ601、602により架台100側に配置される制御装置700と接続される。このコネクタ601は、架台100の複数箇所に設けることができる。それにより、オペレータの都合のよい位置において、操作装置600を架台に接続することができる。もちろん、架台100上に設けることもできる。また、制御装置700と無線により通信を行うようにしてもよい。無線で通信を行う場合には、バッテリ等の電源を設ける。
【0030】操作装置600は、図7に示すように、走行およびステアリングについての操作を行うためのジョイスティック610と、当該電動走行装置のモードの切り換えを行うための切換スイッチ620と、制御装置700の動作を開始させる起動スイッチ631、走行停止を指示する停止スイッチ632、走行停止指示を解除する停止解除スイッチ633、灯火をオンオフする灯火スイッチ634と、ホーンを鳴動させる635とを有する。また、アウトリガを動作させるスイッチとして、アウトリガ下降スイッチ641と、アウトリガ上昇スイッチ642とを有する。アウトリガ下降スイッチ641は、アウトリガ170の脚部179を下降させるための指示を受け付ける。これにより、架台100を相対的に上昇させ、車輪部200を地面から浮かせることができる。アウトリガ上昇スイッチは、アウトリガ170の脚部179を上昇させるための指示を受け付ける。これにより、架台100を相対的に下降させ、車輪部200を地面に接地させることができる。操作装置600は、制御装置700に接続される。
【0031】ジョイスティック610は、ゲームのコントローラなどで用いられるような構造を有し、円錐状の空間内でスティック611を自在に変位させて、その変位に応じた信号を取り出す装置である。もちろん、ここでは、ゲーム装置のような小さなものではなく、堅牢に設けられている。しかし、動作原理としては、格別に変わるところはない。したがって、産業機器において「ジョイスティック」という名称は、不似合いのように思えるが、その機能の理解が容易であるため、本明細書では「ジョイスティック」という名称を用いることとする。もちろん、他の名称を排除するものではない。
【0032】ジョイスティック610は、スティック611(図4)と、このスティックが、スティックの基点を頂点とする円錐状の空間内で任意に傾けることができる支持構造(図示せず)と、スティック611の傾き方向(基準位置からの角度変位量)および傾き角を検出するセンサ(図示せず)と、センサの出力信号を処理するためのコンピュータ(図示せず)とを備えている。このコンピュータは、前記センサによって検出された信号を、例えば、極座標(r、θ)に変換して、スティックの傾きと方位とを、円錐底面に射影された半径と、角度θとして表す変換処理を行うと共に、これらの値をディジタルデータに変換して出力する。このような構造により、スティック611を円錐状の範囲内の空間で自在に動かして、その変位に応じた操作指示を取り出すことができる。具体的には、傾き角、および、スティックの傾き方向を、極座標(r、θ)の値として取得する。傾き方向は、当該電動走行装置を進行させたい方向を示す信号に割り当てられ、操舵のためのステアリング情報として用いる。一方、傾き角は、走行速度を表す信号に割り当てられ、走行速度を決定するための情報として用いられる。
【0033】ここで、ジョイスティック610におけるスティック611の変位空間について予め定義しておく。ここでは、円錐状空間の底面を360°の角度で変位方向を表すものとし、ジョイスティックの0°を、架台100の一端側と対応付け、ジョイスティックの180°を架台100の他端側と対応付ける。すなわち、架台100の座標系における方位として、傾き方向(変位方向)を基準位置(0°)からの角度θで表現する。そして、90°と270°と頂点とを含む面で二分割される空間の内、0°側の空間を前進側とし、180°側の空間を後進側とする。これはあくまでも便宜上の定義である。そもそも、本実施形態の走行装置は、前後の区別がないので、前進側、後進側の意味も相対的なものに過ぎない。前後の区別がある場合には、それにしたがって、前進側と後進側とを定義することとなる。なお、本実施形態では、変位方向を角度で表記しているが、これに限られない。例えば、時計の文字盤による表記であってもよい。
【0034】切換スイッチ620は、電動走行装置のモードの切換を行う。本実施形態では、切換の対象となるモードとして、運行モードとメンテナンスモードの切換、および、回転モードと斜行モードとの切換が用意されている。
【0035】制御装置700は、コンピュータにより構成され、予め定められたプログラムにしたがって各種制御を実行する。この制御装置700は、図7に示すように、中央処理ユニット(CPU)710と、リードオンリメモリ(ROM)720と、ランダムアクセスメモリ(RAM)730と、記憶装置740と、入出力インタフェース750と、モニタパネル760とを有する。記憶装置740は、例えば、ハードディスク装置で構成され、CPU710が実行するプログラム、データ等が格納される。
【0036】この制御装置700は、図4および図7に示すように、電動駆動装置300と、操舵機構400と、制動装置500と、油圧ユニット800(主油圧ユニット810、副油圧ユニット820)と接続され、これらの動作を制御する。一方、操作装置600と接続され、操作装置600からの操作指示信号に応じて、各種制御を実行する。また、電源装置900から直流電力の供給を受ける。
【0037】制御装置700が実行する処理は、例えば、図8に示すように、複数の処理プログラムを有し、それらの実行条件が満たされている場合、順次実行する。すなわち、制御装置700が起動されたときに行う初期設定処理711と、メンテナンスが必要な場合に行うメンテナンス処理712と、異常が発見された場合、停止が指示された場合に行う停止処理713と、アウトリガについての処理を行うアウトリガ処理714と、操作装置からの操作指示信号の受け付け処理を行う操作受付処理715と、操舵機構400による方向転換を処理する操舵制御処理716と、電動駆動装置300の動作を制御する走行制御処理717と、灯火・ホーンについての処理を行う灯火・ホーン処理718と、モニタパネルへの表示処理を行うモニタパネル処理719とがプログラムとして記憶装置740に用意されている。CPU710は、記憶装置740に格納されるプログラムを起動時にRAM730にローディングして実行する。この処理手順を図9に示す。
【0038】モニタパネル760は、例えば、液晶表示装置で構成される。このモニタパネル760は、オペレータに見易い位置に配置される。なお、操作装置600に取り付ける構成としてもよい。そのようにすると、操作装置600で操作しながら、各種表示を見ることが可能となる。
【0039】油圧ユニット800は、図4に示すように、本実施形態では、2系統備えている。すなわち、主油圧ユニット810と、副油圧ユニット820とを有する。主油圧ユニット810は、アウトリガ170の電磁比例弁160に、操舵機構400の電磁比例弁420に、常用ブレーキ装置530の電磁比例弁520にそれぞれ接続され、アウトリガ170、油圧式操舵装置430、常用ブレーキ装置530をそれぞれ駆動する。一方、副油圧ユニット820は、パーキングブレーキ装置570の電磁比例弁560に接続され、パーキングブレーキ570を駆動する。副油圧ユニット820を設けている理由は、常用ブレーキ装置530とパーキングブレーキ装置570とを別系統の油圧で駆動するためである。これにより、制動装置の安全性を高めている。もちろん、一つの油圧ユニットですべてを駆動するようにすることも可能である。また、副油圧ユニット820で常用ブレーキ装置530を駆動し、主油圧ユニット810でパーキングブレーキ装置570を駆動するようにしてもよい。
【0040】主油圧ユニット810は、図4および図5に示すように、モータ始動盤811と、これにより始動される電動モータ812と、電動モータ812で駆動される油圧ポンプ813と、油圧タンク814と、油圧配管815とを有する。副油圧ユニット820についても、ほぼ同様の構成である。したがって、重複した説明はくり返さない。もちろん、本実施形態体では、主油圧ユニット810は、多くの駆動対象を有するため、その容量が副油圧ユニット820に比べて、大きいことはいうまでもない。
【0041】電源装置900は、本実施形態では、ディーゼル発電セット910と、電力の主たる供給先を走行装置側とクレーン側との間で切り換える切換盤920とを有する。ディーゼル発電セット910は、交流発電機(図示せず)と、これを駆動するディーゼルエンジンとを有し、例えば、460V60Hzの交流電力を出力する。また、整流器(図示せず)を備え、例えば、DC24Vを出力する。なお、発電セット910は、ディーゼル発電機に限られない。例えば、マイクロタービンとそれにより駆動される発電機を備えるものであってもよい。
【0042】以上のように構成される本実施形態の電動走行装置の動作について、走行、ステアリング動作を中心に、図9を参照して説明する。
【0043】まず、前提として、操作装置600、制御装置700等の、電力を使用して動作する装置に電源装置900から電力が供給され、動作可能な状態にあるものとする。また、油圧ユニット800についても、動作可能な状態にあるものとする。この状態で、操作装置600において起動スイッチ631が押されると、起動指示が制御装置700に送られる。制御装置は、起動されると、システムの初期化処理を行う。また、図8に示す各種プログラムのローディングを行う。この後、図9に示す処理を開始する。
【0044】CPU710は、切換スイッチ620からの信号を調べ、運行モードかメンテナンスモードかを判断する(ステップ1001)。メンテナンスモードである場合には、装置の運行を行わず、ステップ1031に飛び、操舵中立点の設定処理(ステップ1031)、各軸走舵角調整(ステップ1032)、および、アラームモニタの設定、調整(ステップ1033)を行う。処理が終了すると、ステップ1001に戻る。
【0045】一方、ステップ1001において、運行モードである場合、装置の運転を行う処理に進む。まず、装置に異常が発生していないかを調べる。例えば、各種センサからの信号、アラーム等の信号に基づいて、予め定めたチェック手順に従って、異常の有無を調べる。また、停止スイッチ632が押されていないかを調べる(ステップ1002)。これにより、異常がなく、また、停止スイッチ632が押されていない場合には、操舵制御処理に進む。
【0046】一方、異常がある場合、停止スイッチ632が押されている場合には、停止処理に移る(ステップ1021)。ここでは、まず、ジョイスティック610からの信号のうち、傾き角度に対応する極座標の成分であるrの大きさを表す信号を現在の値の如何によらず“0”として、各サーボドライバ310に速度指令“0”を出力する。その結果、サーボドライバ310は、サーボモータを回転速度“0”の状態とするよう制御する。また、速度指令“0”の信号を制動指令として電磁比例弁用アンプ510にも出力する。その結果、電磁比例弁520を操作して、主油圧ユニット810により、すべての油圧式常用ブレーキ装置530が作動して、ブレーキパッド532によりディスク531が挟み込まれて制動がかかる。なお、速度指令“0”は、制御装置700において、停止解除の信号を受け取るまで保持する。したがって、既に、速度指令が“0”となっている場合には、この処理をパスする。
【0047】また、異常/停止の場合、CPU710は、パーキングブレーキが未作動であれば、パーキングブレーキを作動させるパーキングブレーキ作動指令を出力する。このパーキングブレーキ作動指令は、電磁比例弁用アンプ550に送られ、電磁比例弁560を操作して、副油圧ユニット820の油圧によりすべてのパーキングブレーキ装置570のブレーキを作動させる。なお、既に、パーキングブレーキ装置570が作動状態にある場合には、この処理はパスされる。なお、この停止処理1021に処理が移っている場合には、前述したように、速度指令“0”が維持される。したがって、誤って、ジョイスティック610に触れて、スティック611を変位させたとしても、その信号は処理されないため、電動駆動装置300が駆動されることはない。これは、停止解除スイッチ632で、停止が解除されない限り、継続する。なお、停止解除スイッチ632により停止が解除された場合には、次の運行処理に進む。
【0048】次に、アウトリガ下降スイッチ641または上昇スイッチ642が押されたかを調べ、押された場合には、対応する処理を行う(ステップ1022)。ただし、既にいずれかが行われている場合、それと反対の指示であるときのみ、処理を行う。すなわち、本実施形態では、アウトリガ処理は、停止処理が行われている場合にのみ実行できるようになっている。したがって、アウトリガ処理を行っている間に、誤ってジョイスティック610を変位させてしまっても、その信号は処理されないため、電動駆動装置300、操舵装置400がそれに起因して動作することはない。
【0049】これらの処理を終わった後、モニタパネル処理に移る(ステップ1013)。すなわち、この場合には、パーキングブレーキが作動している旨の表示、アウトリガ処理が継続中である旨の表示、アウトリガが下降された状態にある旨の表示等をモニタパネル760に行う。
【0050】一方、ステップ1002において、異常でも停止でもない場合には、正常な運行であるとして、次の処理に移る。まず、ジョイスティック610のスティック611の変位を示す信号(r、θ)を調べ、スティック611の傾き方向、すなわち、変位している方位を示す角度θを取得する(ステップ1004)。すなわち、操舵角を取得する。
【0051】次に、切換スイッチ620からの信号を調べ、操舵モードが斜行か回転かを調べる(ステップ1004)。ここで、斜行とは、例えば、図11に示すように、操舵の対象となる前後の車輪210、本実施形態ではすべての車輪210が、同じ方向に傾きを持つ、すなわち、前後同相となる状態で走行する場合を指す。この斜行によれば、架台100の向きは変わらずに、その位置が斜め方向に移動することとなる。一方、回転は、例えば、図10に示すように、操舵の対象となる前後の車輪210、本実施形態ではすべての車輪210が、架台100の一端側と他端側とで、車輪の傾き方向が逆になるよう操舵される。すなわち、前後逆相となる状態で走行する場合である。
【0052】次に、指定されたモードにおいて、A〜Hの各車軸の中心位置での操舵角を、ジョイスティック610からの方向変更における目的の方位(基準点からの変更角度)を示す信号である極座標の成分θに基づいて計算する(ステップ1005、1006)。例えば、30°の方位にジョイスティックのスティック611が傾いている場合であって、斜行モードの場合には、すべての車軸について、同じ演算結果である角度指令を出力する。一方、回転モードの場合には、前方となる側の車軸、例えば、A、B、E、Fについては、演算結果の角度指令を出力し、後方となる側の車軸、例えば、C、D、G、Hについては、前記車軸とは、基準点の0°を挟んで対称的な角度指令を演算して出力する。
【0053】また、ジョイスティック610からの方向変更を示す信号が、0°側に属するか180°側に属するかを判定し、前進か後進かを決定する。直前の例では、30°であるので、前進と判断し、進行方向を示す信号として、前進であることを示す信号を出力する。この信号は、走行制御に用いられる。一方、ジョイスティック610からの方向変更を示す信号が、例えば、150°である場合、180°側に属するため、後進と判断する。その結果、進行方向を示す信号として、前進であることを示す信号を出力する。この場合には、回転の方向が変わるだけで、回転半径は、30°の場合と同じとなる。
【0054】なお、ジョイスティック610において、スティック611は、円錐状空間において任意の位置に倒すことができる。しかし、車輪部210には、最小回転半径があり、それより小さい半径では回転できない。したがって、スティック611の操作範囲には、不感帯が存在する。
【0055】次に、CPU710は、ブレーキ解除指令を出力する(ステップ1008)。これにより、常用ブレーキ装置530およびパーキングブレーキ装置570の両者の電磁比例弁用アンプ510および550に、ブレーキ解除指令が送られる。その結果、パーキングブレーキ装置570および常用ブレーキ装置530の順でそれぞれブレーキが外されることとなり、車輪210は回転可能となる。なお、パーキングブレーキ570については、既に、解除されている場合には、処理をパスする。
【0056】次に、ジョイスティック610から、スティック611の傾き角度を示す信号、極座標成分rを取得する。また、前述した進行方向を示す信号、および、各軸への角度指令を参照する。そして、スティック611の傾き角度に応じた走行速度を計算して、各電動駆動装置に対する速度指令を生成する。rの大きさに対する架台100の速度v0の大きさとの関係は、架台の最高速度vmaxを、例えば、(1km/h)とすると、0〜1km/hを、r=0〜rmaxに配分して、予めrの大きさに対応した速度の値をテーブルにして持つことで、速度指令を生成することができる。また、比例配分の式を用意して、その都度、計算して求めてもよい。なお、速度指令は、架台の回転方向とは無関係に、スティック611の傾きに応じた極座標成分rの大きさで決めるものとする。もちろん、これに限定されない。
【0057】ここで、架台100が直進する場合、および、斜行の場合には、車輪部210のすべての車輪が同じ方向に同距離移動する。ところが、回転する場合には、回転中心に近い車輪と、遠い車輪とは、円周が異なるため、回転速度を変える必要がある。そのため、前述した速度指令についても、回転モードで、方向変更が指示されている場合には、速度指令について補正演算をおこなう必要がある。
【0058】図12は、この補正演算の考え方を示すものである。補正演算や各車軸の中心を基準として考える。図12では、一つの車軸を例としているが、他のいずれの車軸についても同様である。
【0059】まず、架台100の平均速度v0を求める。これは、速度指令の平均値により求めることができる。次に、架台100の中心O’を原点とする座標系での座標値を(xi、yi)、架台100の中心O’と回転中心Oとの距離をr0、回転中心Oと車軸の中心との距離をriとし、角度指令に対応する、与えられたステアリング角(方向を変更しようとする方位の基準点からの角度)をθiとすると、θi=tan1{yi/(r0−xi)}……(1)
となる。また、車軸の走行速度をviとすると、viは、vi=(ri/r0)v0……(2)
となる。そして、riが(yi/sinθi)であることを考慮して、vi=(yi/sinθi)(1/r0)v0……(3)
となる。
【0060】この関係は、他の車軸についても同様である。したがって、CPU710は、与えられた速度指令v0について、前記(3)式を用いて、各駆動車軸221毎にその中心点での補正された速度viを求める。
【0061】また、各駆動車軸221では、その中心での速度指令viが与えられる。しかし、厳密には、各車軸221についてもその両端の車輪210間には距離があり、回転時に内外輪差を生じる。本実施形態では、これについては、差動装置230により吸収することとしている。
【0062】以上により、速度指令viが求まると、それを対応するサーボドライバ310に送って、サーボモータ320を駆動し、適切な回転速度でそれぞれの駆動車軸221の各車輪210を駆動する。その結果、架台100は、目的の方向に円滑に回転することができる。
【0063】次に、灯火スイッチ634およびホーンスイッチ635の状態を調べ、それらについて操作がなされていれば、対応する処理を行う(ステップ1011)。例えば、灯火の点灯および消灯、ホーンの鳴動等を行う。その後、モニタパネル760に、現在速度、運行モード等の表示等の表示制御を行う(ステップ1012)。
【0064】このようにして、一連の処理が終わり、当該制御装置700の動作終了の指示がなされるまで、ステップ1001からの処理をくり返す(ステップ1013)。
【0065】以上の実施形態では、作業機としてジブクレーンを搭載した場合について述べたが、本発明はこれに限られない。他の作業機を搭載する走行装置であっても適用可能である。
【0066】以上述べたように、油圧モータに代えて電動機を使用し、内外輪差を補正して架台を駆動するので、制御性および応答性が向上させることができる。また、走行装置に油圧を用いないことにより、使用環境の影響を少なくすることができる。
【0067】
【発明の効果】本発明によれば、環境温度に影響を受けにくく、かつ、制御性のよい走行装置を実現することができる。
【出願人】 【識別番号】591267350
【氏名又は名称】トモエ電機工業株式会社
【出願日】 平成13年1月17日(2001.1.17)
【代理人】 【識別番号】100087170
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和子 (外1名)
【公開番号】 特開2002−218608(P2002−218608A)
【公開日】 平成14年8月2日(2002.8.2)
【出願番号】 特願2001−9087(P2001−9087)