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【発明の名称】 ハイブリッド車両の制御装置
【発明者】 【氏名】田中 寛之

【氏名】宮本 勝彦

【氏名】村上 信明

【氏名】五島 賢司

【要約】 【課題】本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関し、加速走行状態から定速走行状態へ移行する際に、燃費を悪化させることなく無段変速機のレシオの変化に起因する車両の突き出し感を抑制できるようにする。

【解決手段】車両1が加速走行状態から定速走行状態へ移行する際には、上記移行に先行して上記移行時におけるプライマリ軸3aのプライマリ回転速度を予測し、さらに、予測されたプライマリ回転速度の変化量に応じてモータ3の回生量を設定しておき、変速比制御手段11により無段変速機4のレシオを小側に制御するとともに、設定された回生量に基づき回生制御手段10によりモータ3を作動させ、上記レシオの小側への制御に伴いエンジン2や無段変速機4のプーリ等、プライマリ軸3aと一体回転する回転系から放出される慣性エネルギをモータ3に吸収させるようにする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンと、発電機として作動しうるモータと、該エンジン及び該モータにより駆動される回転軸をプライマリ軸として有する無段変速機とを備えたハイブリッド車両の制御装置において、車両の加速走行状態から定速走行状態への移行時に該無段変速機のレシオを小側に制御する変速比制御手段と、車両の加速走行状態から定速走行状態への移行時における該プライマリ軸のプライマリ回転速度を上記移行に先行して予測するプライマリ回転速度予測手段と、該プライマリ回転速度予測手段により予測されたプライマリ回転速度の変化量に応じて該モータの回生量を設定する回生量設定手段と、該回生量設定手段で設定された回生量に基づき該モータを作動させ、該変速比制御手段による上記レシオの小側への制御に伴い該プライマリ軸と一体回転する回転系から放出される慣性エネルギを該モータに吸収させる回生制御手段とを備えたことを特徴とする、ハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エンジン,モータ及び無段変速機を組み合わせてなる駆動系を備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、エンジンにモータを組み合わせ、エンジン出力及び/又はモータ出力により走行可能としたハイブリッド車両が実用化されている。この種の車両では、一般にCVT(無段変速機)が変速機として用いられており、エンジン,モータの各出力トルク及びCVTレシオ(プライマリプーリとセカンダリプーリとのレシオ)の統合制御によって車速の制御が行われている。
【0003】例えば、図7は車両が加速走行から定常走行に移行する際の従来のエンジン,モータ及びCVTの各制御方法を示すものである。図7中の各図は図7(g)に示すように車速を変化させる場合に対応しており、まず、アクセルペダルが踏み込まれて加速区間Aに突入すると、図7(c)に示すようにエンジンの出力トルクはアクセルペダルの踏み込み量に応じて増大され、また、加速区間Aの初期区間ではモータのトルクが補助トルクとして出力される。さらに、図7(e)に示すようにCVTレシオも次第に大側(即ち、フルロー側)に制御されていき、エンジン及びモータから出力されるトルクが増幅される。そして、アクセルペダルの踏み込みが弛められ、加速区間Aから定常走行移行区間Bに車両の走行状態が移行したところで、図7(c)に示すようにエンジンの出力トルクが減少されていき、さらに、図7(e)に示すようにCVTレシオも次第に小側(即ち、オーバードライブ側)に制御されていく。
【0004】定常走行移行区間Bへの移行に伴いCVTレシオを小側に制御するのはCVTによるエンジントルクの増幅を抑制するためであるが、CVTレシオの変化率が大きい場合、CVTプーリ,エンジン等のCVTのプライマリ軸と連結された回転体(以下、CVTプーリ等という)の回転は強制的に低下させられ、この回転の低下に伴いCVTプーリ等に蓄えられた慣性エネルギは短時間で放出されることになる。CVTプーリ等から放出された慣性エネルギは、図7(b)に示すように慣性トルクとして車両の駆動輪に作用し、図7(a)に示すように車両加速度の一時的な上昇を招き、ドライバにいわゆる突き出し感を与えてしまう。
【0005】このような車両の突き出し感はドライバに違和感を与えるものであり好ましくない。そこで、従来の制御方法では、車両の突き出し感を抑制するため、図7(e)中に2点鎖線で示すように定常走行移行区間Bへの移行後はCVTレシオの変化を緩慢にさせていた。このようにCVTレシオが緩慢に変化することにより、図7(b)中に2点鎖線で示すように定常走行移行区間Bへの移行時に作用する慣性トルクは低減し、図7(a)に2点鎖線で示すように車両加速度の急変が防止されて突き出し感が抑制される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のようにCVTレシオの変化を緩慢にすると、図7(f)中に2点鎖線で示すように、CVTレシオを大きく変化させる場合(実線で示す)に比べてエンジン回転速度の低下が遅れ、定常走行移行区間Bへの移行後もエンジン回転速度が高い状態で維持されてしまう。このため、従来の制御方法では、車両の突き出し感は抑制できるものの、図7(d)中に2点鎖線で示すように、CVTレシオを大きく変化させる場合(実線で示す)に比べて燃料消費量が多くなり、燃費が悪化してしまう。
【0007】そこで、本出願にかかる発明者らは本発明の創案過程において、CVTのプライマリ回転速度の変化量に基づき車両の加速走行状態から定速走行状態への移行を判断し、CVTレシオの小側への制御に合わせてモータを発電機として作動させ、モータにより慣性エネルギを吸収することによって突き出し感を抑制するようにした制御方法を発明した。しかしながら、上記発明では、実際のプライマリ回転速度の変化量を検出してからモータによる慣性エネルギの吸収を開始するため、■プライマリ回転速度の検出、■モータに吸収させる吸収量の演算、■モータへの吸収指令、■モータによる吸収開始という一連の制御フローの中で制御系の遅れ時間が発生した場合、慣性エネルギの放出にモータによる吸収が間に合わない場合がある。
【0008】本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、加速走行状態から定速走行状態へ移行する際に、燃費を悪化させることなく無段変速機のレシオの変化に起因する車両の突き出し感を確実に抑制できるようにした、ハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明のハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、発電機として作動しうるモータと、該エンジン及び該モータにより駆動される回転軸をプライマリ軸として有する無段変速機とを備えたハイブリッド車両を制御する制御装置として構成され、車両が加速走行状態から定速走行状態へ移行する際には、プライマリ回転速度予測手段により上記移行に先行して上記移行時における該プライマリ軸のプライマリ回転速度を予測し、さらに、回生量設定手段により該プライマリ回転速度予測手段によって予測されたプライマリ回転速度の変化量に応じて該モータの回生量を設定しておき、上記移行時には、変速比制御手段により該無段変速機のレシオを小側に制御するとともに、回生制御手段により該回生量設定手段で設定された回生量に基づき該モータを作動させ、上記レシオの小側への制御に伴い該エンジンや該無段変速機のプーリ等、該プライマリ軸と一体回転する回転系から放出される慣性エネルギを該モータに吸収させるようにしたことを特徴としている。
【0010】好ましくは、プライマリ回転速度の制御目標値に一次遅れフィルタ処理を施すことによって、プライマリ回転速度の予測値を得るようにする。このような手法により、簡単、且つ低コストでプライマリ回転速度を予測することができるようになる。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。ここで、図1〜図6は、本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車両の制御装置について示したものである。なお、ここでは本発明をパラレル式のハイブリッド車両の制御装置に適用した場合について説明する。
【0012】図1の全体構成図に示すように、本実施形態にかかるハイブリッド車両1の駆動系は、エンジン2,モータ3及びCVT(無段変速機)4を組み合わせて構成されている。ここでは、エンジン2は一般的な内燃機関として構成され、モータ3は電力供給を受けるとモータとして作動し、回転駆動力を受けると発電機として作動しうるモータ兼発電機として構成されている。また、CVT4は図示しないプライマリプーリとセカンダリプーリとを無端ベルトで連結したベルト式CVTとして構成され、プライマリプーリの有効径を油圧で調整することによりレシオが調節されるようになっている。
【0013】本ハイブリッド車両1は上述のようにパラレル式ハイブリッド車両として構成されているので、エンジン2の出力軸2aは第1クラッチ5を介してモータ3の出力軸3aに接続され、この出力軸3aがCVT4のプライマリ軸となっている(以下、プライマリ軸3aと表記する)。これにより、エンジン2の回転,モータ3の回転の一方或いは双方を出力軸3aを介して選択的にCVT4に入力できるようになっている。CVT4は、第2クラッチ6,デフギヤ7を介して左右の駆動輪8,8に連結されており、エンジン2及び/又はモータ3からCVT4に入力された回転は、CVT4のレシオに応じて適宜減速された後、第2クラッチ6及びデフギヤ7を介して左右の駆動輪8,8に伝達されるようになっている。
【0014】一方、車室内には、図示しない入出力装置,制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等),中央処理装置(CPU)及びタイマカウンタ等を備えたSMU(システムマネージメントユニット)10が設置されている。SMU10は、後述する各種センサからの情報に基づいてエンジン2及びモータ3からなるパワーユニット等のシステム全体を総合制御する装置である。SMU10の入力側には、少なくともプライマリプーリの回転速度(エンジン2の回転速度に対応)NPを検出するプライマリ回転速度センサ12,アクセルペダルの開度θAを検出するアクセル開度センサ13,セカンダリプーリの回転速度〔車両の走行速度(車速)に対応〕NSを検出するセカンダリ回転速度センサ14等の各種センサが接続されている。
【0015】SMU10では、これら各種センサからの検出情報や予め記憶された制御マップ等に基づいて、スロットル開度や燃料噴射量等を制御してエンジン2の出力トルクを制御したり、供給電力値を制御してモータ3の出力トルクを制御したり、さらに、車両の運転状態に応じてモータ3の作動状態を発電機に切り換えた場合には、発電機の負荷トルクを制御して発電量を制御したりするようになっている。
【0016】また、車室内には、SMU10と同様に入出力装置,記憶装置,中央処理装置,タイマカウンタ等を備えたCVT−ECU11も設置されている。CVT−ECU11はCVT4のレシオ制御を行う装置であり、その入力側にはSMU10と同様にプライマリ回転速度センサ12,アクセル開度センサ13及びセカンダリ回転速度センサ14等の各種センサが接続されている。
【0017】CVT−ECU11では、アクセル開度θA及び車速VSを用いて図示しないマップから要求軸トルクを求め、さらに、図示しない別のマップから要求軸トルクに応じた目標プライマリ回転速度NPOCVTを設定するようになっている。この目標プライマリ回転速度NPOCVTはCVT制御のためのものであり、エンジン2,モータ3等を制御するための目標プライマリ回転速度NPOはSMU10で別に設定されるようになっている。このようにCVT−ECU11,SMU10のそれぞれが別々に目標プライマリ回転速度を設定するのは、演算速度に余裕をもたせるためと、制御対象に応じた設定とするためであり、CVT−ECU11で設定される目標プライマリ回転速度NPOCVTは、CVTレシオの急変を避けるためにSMU10で設定される目標プライマリ回転速度NPOとは異なりフィルタ処理により鈍らされたものとなっている。なお、目標プライマリ回転速度NPOCVTはSMU10で設定された目標プライマリ回転速度NPOをCVT−ECU11内でフィルタ処理することによって求めても良い。
【0018】さらに、CVT−ECU11では、検出した実プライマリ回転速度NPと設定した目標プライマリ回転速度NPOCVTとの偏差に基づきCVTの変速デューティを設定し、設定した変速デューティに応じて図示しない油圧制御弁を駆動してプライマリプーリのプーリ径を調整するようになっている。なお、変速デューティは変速停止時には中立値(50%付近)に設定されており、CVTレシオを大側(フルロー側)に制御するときには大側に補正され、CVTレシオを小側(オーバードライブ側)に制御するときには小側に補正されるようになっている。
【0019】次に、本発明の要部について説明すると、本制御装置は、加速走行状態から定速走行状態への移行の際に、車両の突き上げ感を抑制しながらCVTレシオを速やかに小側に制御できるようにするべく構成されたものである。特に、本制御装置は、慣性エネルギが放出される要因となるプライマリ回転速度の変化を先行して予想することによって、確実に突き上げ感を抑制できるようにしたものである。
【0020】このため、本制御装置は、加速走行状態から定速走行状態への移行時にCVTレシオを小側に制御する変速比制御手段と、上記移行時におけるプライマリ回転速度を上記移行に先行して予測するプライマリ回転速度予測手段と、予測されたプライマリ回転速度の変化量に応じてモータ3の回生量を設定する回生量設定手段と、設定された回生量に基づきモータ3を作動させ、加速走行状態から定速走行状態への移行に伴ないエンジン2,プーリ等のプライマリ軸3aと一体回転する回転体から放出される慣性エネルギをモータ3に吸収させる回生制御手段とを備えている。ここではCVT−ECU11が変速比制御手段として機能し、SMU10がプライマリ回転速度予測手段,回生量設定手段及び回生制御手段として機能している。
【0021】まず、CVT−ECU11による変速比制御の流れを簡単に説明する。車両の加速状態においてドライバがアクセルペダルの踏み込み量を弛めると、アクセル開度θAの低下に伴い図示しないマップから求められる要求軸トルクは低下し、要求軸トルクに基づき図示しない別のマップから設定される目標プライマリ回転速度NPOCVTも低下する。これにより実プライマリ回転速度NPと目標プライマリ回転速度NPOCVTとの間に負の偏差(偏差=NPOCVT−NP)が生じ、この偏差に応じて変速デューティは中立値から小側に補正される。このようにCVT−ECU11によって変速デューティが小側に補正されることにより、CVTレシオは変速デューティの補正量に応じて小側に制御されていく。
【0022】一方、SMU10による回生制御の流れは図2〜図4を用いて説明される。まず、図2のブロック図は回生制御に関連するSMU10の機能を示したものである。即ち、図2に示すようにSMU10はその機能要素として仮想プライマリ回転速度設定部20及びモータトルク設定部30を備えている。さらに、仮想プライマリ回転速度設定部20は、第1LPF(ローパスフィルタ)21,オンオフスイッチ22,第2LPF23,第3LPF24,保持器25及び切換スイッチ26から構成され、モータトルク設定部30は、吸収トルク演算器31,勾配制限器32,加算器33,最大トルク制限器34から構成されている。
【0023】図3のフロチャート及び図4のタイムチャートに示すように、SMU10では、まず、図示しないマップを用いてアクセル開度θA及び車速VSから要求軸トルクを求め、さらに別のマップを用いて要求軸トルクに応じた目標プライマリ回転速度NPOを設定する(ステップS10)。この目標プライマリ回転速度NPOはエンジン2,モータ3等の制御目標値としても用いられ、実プライマリ回転速度NPの信号変化に対して約200〜300ms先行して変化する。逆に言えば、目標プライマリ回転速度NPOに対して実プライマリ回転速度NPは約200〜300msの追従遅れがある。
【0024】設定された目標プライマリ回転速度NPOの信号は、仮想プライマリ回転速度設定部20において第1LPF21によってフィルタ処理(ノイズ処理)される(ステップS20)。第1LPF21は一次遅れフィルタであり、フィルタゲインは例えば0.7に設定されている。この第1LPF21によるフィルタ処理によって目標プライマリ回転速度NPO信号からノイズが除去され、図4(d)に示すように減速判定用の目標プライマリ回転速度NPO1が得られる。
【0025】次に、仮想プライマリ回転速度設定部20は、フィルタ処理により得られた目標プライマリ回転速度NPO1の所定時間(サンプリング時間)当たりの変化量ΔNPO1を演算し、変化量ΔNPO1が所定値(負の値)よりも小さいか否かを判定する(ステップS30)。変化量ΔNPO1が所定値よりも小さいときは車両1が減速しているものと判定され、オンオフスイッチ22はオンにされる。一方、変化量ΔNPO1が所定値以上のときにはオフにされる。
【0026】ステップS30においてオンオフスイッチ22がオンにされた場合〔図4(d)中の時点t1〕、目標プライマリ回転速度NPO1の信号は、さらに第2LPF23によってフィルタ処理される(ステップS40)。この第2LPF23も一次遅れフィルタであり、フィルタゲインは第1LPF21よりも大きく、例えば0.7305に設定されている。第2LPF23によるフィルタ処理によって目標プライマリ回転速度NPO1信号はさらに鈍らされ、図4(d)に示す仮想プライマリ回転速度設定用の信号(目標プライマリ回転速度NPO2)が得られる。
【0027】上述のLPF21,23のフィルタゲインは、ここで得られる目標プライマリ回転速度NPO2がCVT−ECU11で得られる目標プライマリ回転速度NPOCVTに相当するように設定されている。したがって、得られた目標プライマリ回転速度NPO2と実プライマリ回転速度NPとに基づき、CVT−ECU11と同様にCVTレシオの制御に用いる変速デューティ補正量を求めることができる。SMU10は、図4(c)に示すようにこの変速デューティ補正量をCVT−ECU11とは別個に演算し(ステップS50)、得られた変速デューティ補正量が所定値(負の値、例えば−3%)よりも小さいか否かを判定する(ステップS60)。そして、変速デューティ補正量が所定値以上のときには、SMU10は切換スイッチ26を保持器25側に切り換え、変速デューティ補正量が所定値よりも小さいときには切換スイッチ26を第3LPF24側に切り換える。
【0028】切換スイッチ26が保持器25側に切り換えられているときには、目標プライマリ回転速度NPO2信号は第2LPF23から保持器25に入力される。保持器25に入力された目標プライマリ回転速度NPO2信号は入力当初の値でホールドされ、この一定値が仮想プライマリ回転速度NPIとして後述するモータトルク設定部30へ出力される〔図4(d)中の区間tt1〕(ステップS70)。
【0029】一方、切換スイッチ26が第3LPF24に切り換えられたときには〔図4(d)中の時点t2〕、目標プライマリ回転速度NPO2信号は第2LPF23から第3LPF24に入力される。第3LPF24は一次遅れフィルタであり、そのフィルタゲインは1に近い大きい値(例えば0.97)に設定されている。このため、第3LPF24に入力された目標プライマリ回転速度NPO2信号は、第3LPF24によるフィルタ処理によって大きく鈍らされる。そして、図4(d)に示すようにホールド値から低回転側に向けてテーリングされながら、仮想プライマリ回転速度NPIとして後述するモータトルク設定部30へ出力される〔図4(d)中の区間tt2〕(ステップS80)。
【0030】上記のようにして得られた仮想プライマリ回転速度NPI信号は、図4(d)に示すように実プライマリ回転速度NPに対して先行(約70〜100msec)して変化する。この実プライマリ回転速度NPに対する仮想プライマリ回転速度NPIの先行時間は、図4(b)中に二点鎖線で示す実プライマリ回転速度NP変化量ΔNPを検出してからモータ3による吸収を開始するまでの制御系の遅れ時間よりも大きいか略同等である。したがって、実プライマリ回転速度NPの代わりに仮想プライマリ回転速度NPIに基づきモータ3を発電機として作動させることで、一連の制御フローの中で遅れ時間が発生した場合でも確実に慣性エネルギを吸収することが可能になる。
【0031】そこで、SMU10は、モータトルク設定部30の吸収トルク演算器31において、仮想プライマリ回転速度NPIに基づき慣性補償のための吸収トルク(負の値)を演算する(ステップS90)。具体的には、まず、図4(b)中に実線で示すように仮想プライマリ回転速度NPIの所定時間(サンプリング時間)当たりの変化量ΔNPIを演算し、得られた変化量ΔNPIを用いて下式により吸収トルクを演算する。なお、下式において、イナーシャ係数とは、エンジン2,プライマリプーリ等のCVT4のプライマリ軸3aと一体回転する回転体全体に対応する慣性係数である。
【0032】吸収トルク = 慣性係数×ΔNPI/サンプリング時間【0033】上記の処理により図4(a)中に実線で示すような吸収トルク信号が得られる。この吸収トルク信号は、次に勾配制限器32に掛けられて勾配制限が行われる。吸収トルクの上昇率(絶対値の上昇率)はモータ3の発電性能による制約があり、モータ3の発電性能を越えて吸収トルクを上昇させることはできない。そこで、吸収トルク演算器31で演算された吸収トルクの変化率(勾配)がモータ3の発電性能を越える場合には、勾配制限器32によって吸収トルクの勾配はモータ3の発電性能に応じた上限値に制限される。
【0034】勾配制限器32により処理された吸収トルクは加算器33に入力される。加算器33には、この吸収トルクとは別に、車両1の運転状態に応じて要求される通常のモータトルクも入力されている。即ち、SMU10は、上記の処理により得られる吸収トルクとは別に、車両1に駆動力が要求される場合やエンジン2による走行では効率が良くない場合等では、正のモータトルクを設定してモータにトルクを出力させ、減速時や下り坂等のブレーキ力が必要になる場合やSOC(バッテリ残存容量)低下により発電が要求される場合等では、負のモータトルクを設定してモータ3を発電機として作動させ、モータ3にトルクを吸収させている。加算器33では、この通常処理により設定されたモータトルクに上記の吸収トルクを加算し、総合的なモータ要求トルクとして出力している。
【0035】加算器33で得られたモータ要求トルクは、さらに、最大トルク制限器34によって処理される。即ち、モータ3が吸収できるトルクにはモータ3の発電性能による制約があり、モータ3の発電性能を越えてトルクを吸収することはできない。そこで、加算器33で得られたモータ要求トルクがモータ3の発電性能を越える場合には、最大トルク制限器34によってモータ3の発電性能に応じたトルク値にモータ要求トルクが制限される。SMU10は、このようにして最終的に得られたモータ要求トルク〔図4(a)中に2点鎖線で示す〕に基づきモータ3を制御する(以上、ステップS100)。
【0036】以上のような制御により、本制御装置によれば車両の加速走行状態から低速走行状態への移行時において次のような作用及び効果が得られる。以下、図5,図6を参照しながら本制御装置の作用及び効果について説明する。なお、図5において2点鎖線は本制御装置による制御結果を示し、実線は従来の制御装置による制御結果を示している。
【0037】図5(f)に示すように、アクセルペダルが踏み込まれて加速走行状態に突入すると、図5(b)に示すようにエンジン2の出力トルクはアクセルペダルの踏み込み量応じて増大され、同時にモータ3のトルクも補助トルクとして出力される。さらに、図5(c)に示すようにCVT4のレシオも次第に大側(即ち、フルロー側)に制御されていき、エンジン2及びモータ3から出力されるトルクが増幅される。
【0038】そして、アクセルペダルの踏み込みが弛められ定常走行状態への移行を開始したところで、図5(b)に示すようにエンジンの出力トルクが減少されていき、さらに、CVT−ECU11により変速デューティが小側に補正されることに伴ない、図5(c)に示すようにCVTレシオも変速デューティ補正量に応じて小側に制御されていく。このようにCVTレシオが小側に制御されることにより、従来は図5(a)中に実線で示すようにホイールトルクが瞬間的に上昇し、ドライバに突き出し感を与えていた。
【0039】しかしながら、本制御装置では、上述したように実プライマリ回転速度NPと略相似形で且つ先行して変化する仮想プライマリ回転速度NPIの変化に基づきモータ3の吸収トルクを設定し、図5(b)に示すようにCVTレシオの小側への変化に合わせてモータ3を発電機として作動させている。したがって、CVTレシオが急激に低下したときにはエンジン2,プーリ等のプライマリ軸3aと連結された回転体から慣性エネルギが放出されるが、本制御装置では、放出された慣性エネルギを確実にモータ3により吸収し、回生エネルギに変換することができる。図5(b)中において、従来のモータトルクの時間変化(実線)と本制御装置にかかるモータトルクの時間変化(2点鎖線)とで囲まれた領域が、モータ3により取得された回生エネルギの量(発電量)に相当している。
【0040】このようにエンジン2等から放出された慣性エネルギが発電機としてのモータ3により吸収されることにより、本制御装置によれば、図5(a)中に2点鎖線で示すようにホイールトルクの瞬間的な上昇、即ち突き出しトルクの発生を抑えることができ、ドライバに与える車両の突き出し感を抑制することが可能になる。特に、本制御装置では、制御目標値である目標プライマリ回転速度NPOから実プライマリ回転速度NPと略相似形の仮想プライマリ回転速度NPIを演算することにより、実プライマリ回転速度NPの変化を先行して予測してモータ3を作動させているので、一連の制御フローの中で制御系に遅れ時間が発生した場合でも確実に慣性エネルギを吸収することが可能になる。
【0041】また、図6は実プライマリ回転速度NPの減少勾配(変速スピード)に対する突き出しトルク(突き出し感に対応)の関係を、モータ3による慣性補償のない従来の制御とモータ3による慣性補償のある本制御装置の制御とで比較したものであるが、図6に示すように、本制御装置によれば、従来よりも突き出しトルクを大幅に低減できるだけでなく、突き出しトルクが発生しない限界変速スピードを従来よりも大幅に高く設定できることが分かる。つまり、本制御装置によれば、突き出し感を発生させることなく従来よりも加速走行状態から定速走行状態への移行をより速やかに行うことが可能になる。
【0042】また、本制御装置によれば、突き出し感が抑制されることによりCVTレシオを大きく変化させることができるので、エンジン回転速度(プライマリ回転速度)を低下させて燃料消費量を低減することができるとともに、特にSOCが低い場合には、モータ3による回生エネルギの取得によってさらに燃費を向上させることができる。
【0043】以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施しうるものである。例えば、上述の実施形態では、処理能力に余裕を持たせるために2つの制御装置(SMU10,CVT−ECU11)を用いてエンジン2,モータ3及びCVT4等の制御を行っているが、処理能力に余裕がある場合には、1つの制御装置で全ての制御を行うことも勿論可能である。また、加速走行状態から定速走行状態への移行に限定されず、加速走行状態から減速走行状態への移行、定常走行状態から減速走行状態への移行等、レシオが大から小へ変化する場合に広く適用することが可能である。
【0044】また、上述の実施形態では、目標プライマリ回転速度NPO2から仮想プライマリ回転速度NPIを演算するにあたり、保持器25によるホールド後、一次遅れフィルタ(第3LPF24)を用いて仮想プライマリ回転速度NPIをテーリングさせているが、メモリに目標プライマリ回転速度NPO2の形状を記憶しておき、ホールド後に記憶した形状を出力して目標プライマリ回転速度NPO2の形状(テーリングの形状)を再現するようにしてもよい。ただし、この場合には複数のメモリが必要になるため、コスト的には本実施形態のように一次遅れフィルタを用いるのが有利である。
【0045】さらに、本発明は、パラレル式のハイブリッド車両の制御装置に限定されず、シリーズ式のハイブリッド車両の制御装置にも適用することができる。また、本発明は、ベルト式のCVTを備えたハイブリッド車両に限定されるものではなく、トロイダル型のCVT等、他の形式のCVTを備えたハイブリッド車両の制御装置にも広く適用できるものである。
【0046】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、車両の加速走行状態から定速走行状態への移行時におけるプライマリ回転速度を上記移行に先行して予測し、予測されたプライマリ回転速度の変化量に応じてモータの回生量を設定し、設定された回生量に基づきモータを作動させることにより、制御系に遅れ時間が発生した場合でも、無段変速機のレシオの小側への制御に伴い無段変速機のプライマリ軸と一体回転する回転系から放出される慣性エネルギをモータによって確実に吸収することができるので、レシオの変化速度を速くした場合でもレシオの変化に起因する車両の突き出し感を抑制することができ、レシオの変化を緩慢にする必要がなく燃費の悪化を防止することができるという効果がある。
【出願人】 【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
【出願日】 平成12年11月7日(2000.11.7)
【代理人】 【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
【公開番号】 特開2002−152908(P2002−152908A)
【公開日】 平成14年5月24日(2002.5.24)
【出願番号】 特願2000−339647(P2000−339647)