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【発明の名称】 被覆焼結体工具
【発明者】 【氏名】矢崎 逸夫

【氏名】香川 直宏

【要約】 【課題】耐剥離性や耐チッピング性に優れる被覆高圧相型窒化硼素焼結体が求められていた。

【解決手段】TiCNO被膜の(111)結晶面を成長させ,かつ(200)結晶面の成長を抑制させて,その方位面の結晶粒を小さくすることにより被膜に圧縮応力を残留させる作用をし,その結果,被膜の強度を高める作用が強くなったものである。さらに(111)結晶面を優先成長させることにより,高圧相型窒化硼素焼結体と被膜の密着性を高める効果を得ることが可能となり優れた切削性能が得られるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】高圧相型窒化硼素を20%以上含有し、残部がTi、Zr、Hf、Al、Si、V、Nb、Ta、Mo、W、Co、Mnおよびそれら金属の炭化物、窒化物、酸化物、硼化物の中から選ばれる1種以上からなる硬質焼結体の表面に,セラミックスの被膜が被覆された被覆工具において,該被膜は,金属成分としてTiを主成分とした炭化物,窒化物,酸化物,硼化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種の単層もしくは多層でなる1〜10μmの膜厚さでなる硬質膜において,該硬質膜は,Cu−Kα線のX線回折線ピ−クによる(111)面の強度をh(111)とし,(200)面の強度をh(200)とすると,h(111)/h(200)の比が2以上60以下であることを特徴とする被覆焼結体工具。
【請求項2】上記硬質膜の少なくとも一層は,Tiを主成分とする炭酸窒化物からなることを特徴とする請求項1記載の被覆焼結体工具。
【請求項3】上記硬質膜は,Ti (CaNbOc)zと表記した場合に,a+b+c=1,0.05<a<0.9,0.1<b<1.0,0.01≦c≦0.2,0.8≦z≦1.2であることを特徴とする請求項2記載の被覆焼結体工具。
【請求項4】上記硬質膜は,切削工具として使用した場合のすくい面における被膜厚さをdr,逃げ面における被膜厚さをdfとしたときに,0.3<dr/df<0.8を満足することを特徴とする請求項3記載の被覆焼結体工具。
【請求項5】上記硬質膜は,被膜の平均値として1.5〜3.0GPaの残留圧縮応力を持つことを特徴とする請求項4記載の被覆焼結体工具。
【請求項6】上記硬質膜のCu−Kα線のX線回折線ピ−クによる(200)面の半値幅が0.5〜1.2からなり,かつ(200)面の半値幅が(111)面の半値幅よりも大きいことを特徴とする請求項1、2、3、4、5いずれか記載の被覆焼結体工具。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,基体上に結晶配向させた硬質膜を被覆した被覆焼結体工具に関し,具体的には,旋削工具,フライス工具,ドリルなどの切削工具として適する被覆焼結体工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から高圧相型窒化硼素焼結体の基体上に,周期律表4a,5a,6aの炭化物,窒化物,酸化物,硼化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種の単層もしくは多層でなる硬質膜が被覆された被覆工具が検討され,実用化されている。
【0003】特開昭59-8679号公報では,高圧相型窒化硼素焼結体に周期律表第4a族,5a族金属の炭化物,窒化物,酸化物,硼化物またはこれらの複合化合物またはアルミナからなる被膜により被覆された例が開示されている。
【0004】特開2000-44370号公報では,高圧相型窒化硼素焼結体にアルミナを被覆しその粒径などを規定することにより性能向上を図っている.ここには中間層または最外層としてTiCxNyOzを用いることが開示されている。
【0005】超硬合金などに硬質膜を成膜し,切削性能を向上する技術は公知であるが,その中でも被膜の結晶配向性に注目した技術としては,次のようなものがある。
【0006】特開平8-281502では被膜の残留応力に注目し,(111)面からの回折強度(200)からの回折強度に対してある範囲である被膜中に残留圧縮応力が生じ易いと述べている。
【0007】特開平2-159363号公報には,超硬合金の基体表面にイオンプレ−ティングにより被覆した基体表面に接するTiの化合物膜でなる第1層がCu−Kα線によるX線回折において,(111)結晶面が最も高く,かつ半価幅が最も狭い回折ピ−クが現れるという被覆超硬合金切削工具について開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】特開昭59-8679では,被膜の膜質などに関しては言及が無く,この場合は耐剥離性や耐チッピング性に問題が生じる可能性が高い.また,特開平8-281502や特開平2-159363では主として超硬合金基体に被覆した場合について述べており,高速切削などの基板の塑性変形が生じる領域では十分な切削性能が得られない。
【0009】特開2000-44370では,被膜の膜質に関する言及があるがアルミナに関するものにとどまっている.アルミナは切削工具用被覆材料として優れた材料特性を持っているが,現在の技術では唯一熱CVD法によってのみ工業化されており,成膜時の温度が1000℃を超える高温となるために,高圧相型窒化硼素焼結体を母材とした場合には基板へのダメージが避けられず,所期の性能が得られない.また,TiCxNyOzを中間層として用いることが開示されているが,これは基板に含まれるアルミナまたは上層であるアルミナ被膜との密着性改善をねらったものであり,高圧相型窒化硼素そのものとの耐剥離性向上に関する言及が無い。また,TiCxNyOzの膜質には言及していないため,その効果も安定しては期待できない。
【0010】特開平8-281502や特開平2-159363号公報など,多くの公報は,主として超硬合金を基板とした技術であり,これらの場合には,高速切削や硬質材料の切削などの刃先が塑性変形するような条件では十分な性能を発揮しないことはいうまでもない.また,これらの公報で開示されている技術はあくまでも基板として主として超硬合金を用いることを前提で考案されたものであり,とくにその密着性に関する考察は高圧相型窒化硼素焼結体を基板として用いる場合とはまったく異なるものである。
【0011】本発明は,超硬合金基板を用いた場合には塑性変形が生じ短寿命となるような切削領域において,被膜剥離やチッピングが生じないような高性能の被覆焼結体工具を提供しようとするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者らは,高圧相型窒化硼素焼結体上への硬質膜被覆に関して検討していたところ,被覆条件により硬質膜の結晶を特定方向に配向させることにより,基板と被膜の密着性が飛躍的に向上するとともに,硬質膜に圧縮応力が適度に残存し,被覆焼結体工具の強度および耐摩耗性が向上するという知見を得て,本発明を完成するに至ったものである。
【0013】具体的には,本発明の結晶配向性被覆工具は,高圧型窒化硼素焼結体の基体上に,セラミックスの被膜が被覆された被覆工具であって,該被膜は,金属元素としてTiを主成分とする炭化物,窒化物,炭酸化物,窒酸化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種の単層もしくは多層の硬質膜でなり,該硬質膜は,,Cu−Kα線のX線回折線ピ−クによる(111)面の強度をh(111)とし,(200)面の強度をh(200)とすると,h(111)/h(200)の比を2以上60以下とすることにより,高性能な被覆焼結体工具を得ることができることが明らかになった.h(111)/h(200)の比が2より小さくては所望の密着性が得られず、60より大きくては被膜中の残留応力増大による被膜自身の破壊が生じ易くなるために、2以上60以下と定めた。
【0014】本発明の被覆工具における基体は,高圧型窒化硼素を20%以上含有し,それを金属やセラミックスをバインダーとして超高圧・高温下で焼結した,高圧型窒化硼素焼結体工具である.
【0015】この基体上に被覆する硬質膜は,具体的には,例えばTiC,(Ti,Zr)C,(Ti,Hf)C,TiN,(Ti,Zr)N,(Ti,Hf)N,(Ti,Hf)(CN),(Ti,Zr)(CO),(Ti,Zr,Hf)(NO),Ti(CNO)などを挙げることができる.また該硬質被膜はこれらの中でも被膜の耐酸化性や経済性から、Tiの炭酸窒化物が好ましく,それらの中でもさらに、Ti(CaNbOc)zと表記した場合,a+b+c=1,0.05<a<0.9,0.1<b<1.0,0.01≦c≦0.2,0.8≦z≦1.2と示される組成であることで適用切削領域が広くなるため好ましい。
【0016】この硬質膜は,被膜の強度および耐摩耗性,並びに被覆工具全体の寿命を高めるために,0.5〜15μmの膜厚でなることが好ましく,特に1〜10μmの膜厚でなることが好ましい。
【0017】切削工具としての性能を十分に発揮させるためには,切削工具として使用した場合のすくい面における被膜厚さをdr,逃げ面における被膜厚さをdfとしたときに,0.3<dr/df<0.8 を満足するように膜厚を設定することが好ましく,また被膜の平均値として1.5〜3.0GPaの残留圧縮応力を持つことが被覆焼結体工具の強度向上という観点から好ましい。
【0018】また、Cu−Kα線のX線回折線ピ−クによる((200)面の半値幅が0.5〜1.2からなり,かつ(200)面の半値幅が(111)面の半値幅よりも大きい硬質膜とすることによって、耐欠損性を損なわずに耐摩耗性を向上させるため好ましい。これは、結晶配向している(111)面の結晶性が優れると共に残留応力のばらつきが小さくすることを限定するものであり、(200)面の半価幅は、0.5より狭くては衝撃的な応力が緩和されないため、耐欠損性が不十分であり、1.2より広くては、耐摩耗性の劣る被膜しか得られないため、0.5から1.2と限定した。さらに、(111)面は、本発明の配向性を有する被膜においては、耐摩耗性に直接寄与する結晶面であるため、(200)面の半価幅が(111)面よりも広いことを特徴としたものである。
【0019】本発明の結晶配向性被覆工具は,従来から使われている基体の表面に従来から行われている物理蒸着法(PVD法),化学蒸着法(CVD法)またはプラズマCVD法を応用して作製することができる.特に,硬質膜は,PVD法により作製すると硬質膜の構成の調整が容易になることから,好ましいことである.したがって,本発明の結晶配向性被覆工具は,PVD法により作製した硬質層のみでなる被膜構成,またはPVD法,CVD法もしくはプラズマCVD法により作製した従来の被覆層とPVD法により作製した硬質膜とを組み合わせて作製した被膜構成にすることが好ましいことである。
【0020】硬質膜を作製するには,具体的には,基体を被覆処理前に予備加熱,イオンボンバ−ド処理などによる基体表面に付着している不純物の除去,硬質膜を構成するための前駆体物質を蒸発させる速度,反応容器内のガス流量および圧力,被覆時の基体へのバイアス電圧を調整することが重要である。
【0021】
【作用】本発明の結晶配向性被覆工具は,主として基体の熱膨張係数と被膜の熱膨張係数との関係から基体の材質に大きく影響されるが,特に高圧相型窒化硼素焼結体でなる基体の場合には,(111)結晶面を成長させて,かつ(200)結晶面の成長を抑制させて,その方位面の結晶粒を小さくした硬質膜が被膜に圧縮応力を残留させる作用をし,その結果,硬質膜の強度を高める作用が強くなっているものである.さらに(111)結晶面を優先成長させることにより,高圧相型窒化硼素焼結体と被膜の密着性を高める効果を得ることができる.これは高圧相型窒化硼素焼結体の(220)面が被膜の(222)面と近い格子面間隔を持っているためであり,それによりミスフィットが少なく界面近くのひずみが少ない状態で成膜を行うことが可能となり,その結果優れた耐剥離性を得ることができる.また,被膜の成長とともに被膜には圧縮応力が生じ,界面には残留応力が少なく被膜表面側には圧縮応力が働くという応力状態を得ることが可能になる.この残留圧縮応力は被覆工具の強度という観点から有利に働く作用も併せ持つものである。
【0022】
【実施例】
【実施例1】60%cBN−30TiN−10Al組成の高圧型窒化硼素焼結体工具(形状:SNGA120408)を基体として,この基体表面を従来から行われているようなアルカリ洗剤および有機溶媒による洗浄および乾燥を施した後,PVD反応容器内に設置し,プラズマ電流:240A,圧力:1.5×10-3Torr,Arガス流量:100sccm,時間:60〜90minの条件で予備加熱し,次にプラズマ電流:100A,圧力:1.1×10-3Torr,Arガス流量:70sccm,基体バイアス:−250V,時間:30minの条件でイオンボンバ−ド処理を施した.その後,被覆工程(Ti蒸発プラズマ電流:250A,時間:90min,N2流量100sccm,Ar流量 70sccm,C2H2流量 5sccm,成膜圧力 8.0×10-3torr,その他の変動条件は表1に記載)を経て基体表面に炭酸窒化チタンの被膜を被覆して本発明品1〜14および比較品15〜23の被覆工具を得た。
【0023】
【表1】成膜条件
【0024】こうして得た本発明品1〜4および比較品1〜3の被膜をCuタ−ゲット(Niフイルタ−使用)Kα線によるX線回折,SEM(走査型電子顕微鏡)およびEDSにより調査した.またX線法を用いて被膜残留応力を測定した.その結果得られたそれぞれの被膜の(111)面および(200)面の強度比(h(111)/h(200)),すくい面と逃げ面の膜厚比(dr/df),被膜組成および被膜残留応力値、X線回折における(111)、(200)各結晶面の半価幅を表2に記した。
【0025】
【表2】試料特性値
【0026】次に,本発明品1〜14および比較品15〜23を用い,被削材:SCM415浸炭焼入鋼(HRC60〜62),切削速度:150m/min,切込み:0.25mm,送り:0.1mm/rev.,切削時間20minの条件で,乾式旋削を行い,その時の平均逃げ面摩耗量および仕上げ面粗さを求めて表3に示した。
【0027】
【表3】切削試験結果
【0028】
【発明の効果】実施例の切削試験結果からも明らかなように、本発明の高圧相型窒化硼素を20%以上含有し、残部がTi、Zr、Hf、Al、Si、V、Nb、Ta、Mo、W、Coおよびそれら金属の炭化物、窒化物、酸化物、硼化物の中から選ばれる1種以上からなる硬質焼結体の表面に,セラミックスの被膜が被覆された被覆工具において,該被膜は,金属成分としてTiを主成分とした炭化物,窒化物,酸化物,硼化物およびこれらの相互固溶体の中から選ばれた少なくとも1種の単層もしくは多層でなる1〜10μmの膜厚さでなる硬質膜において,該硬質膜は,Cu−Kα線のX線回折線ピ−クによる(111)面の強度をh(111)とし,(200)面の強度をh(200)とすると,h(111)/h(200)の比が2以上60以下である被覆焼結体工具は、耐摩耗性と被削材の面粗さの加工精度に極めて優れるものであることが明らかになった。これは、密着性が向上したことによって被膜の剥離を減少させたことによるものである。
【出願人】 【識別番号】000221144
【氏名又は名称】東芝タンガロイ株式会社
【出願日】 平成13年5月23日(2001.5.23)
【代理人】
【公開番号】 特開2002−346811(P2002−346811A)
【公開日】 平成14年12月4日(2002.12.4)
【出願番号】 特願2001−153263(P2001−153263)