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【発明の名称】 耐久性に優れる水素吸蔵合金とその製造方法
【発明者】 【氏名】永田 辰夫

【氏名】上仲 秀哉

【要約】 【課題】比較的低温で水素の吸収・放出が起こり、水素吸収量の大きい比較的安価なTi含む水素吸蔵合金の耐酸化性および耐久性を、その水素吸収量を著しく低下させずに改善する。

【解決手段】Ti−Cr− (Mo−Nb−Fe) 系の水素吸蔵合金に、無電解めっきまたはメカニカルアロイング等によりCuおよびNiを順に被覆し、 400〜1000℃で熱処理して、合金表面に、TiNi等のTi−Ni金属間化合物を含むNi付加層と、その内側のCuを含む層を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 Tiを含む水素吸蔵合金であって、表面に少なくとも1種のTi−Ni金属間化合物を含むNi付加層と、その内側のCuを含む層とを有することを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】 前記Tiを含む水素吸蔵合金の主相が体心立方晶で、主相の平均結晶粒径が100 μm以下である、請求項1記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】 前記Tiを含む水素吸蔵合金の主相が下記一般式(a) で示される組成を持つ、請求項2記載の水素吸蔵合金。
Tia Crb Moc Nbd e f ‥‥ (a)上記式中、Aは、Mn、Fe、Co、Cu、V、Zn、Zr、Ag、Hf、Ta、W、Al、Si、C、N、P、およびBから選ばれた1種または2種以上の元素を表し、Mは、1種または2種以上の希土類元素を表し、a+b+c+d+e+f=1、 0.2≦a≦0.7 、0.1 ≦b≦0.7 、 0.01≦c+d≦0.4 、0.01 ≦e≦0.3 、 0.001≦f≦0.03。
【請求項4】 前記Ti−Ni金属間化合物の少なくとも一部がTiNiである請求項1ないし3のいずれかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】 Ti含有水素吸蔵合金の表面にCuを被覆し、次にNiを被覆した後、400 ℃以上、1000℃以下の温度で熱処理を施すことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項6】 Ni被覆量に対するCu被覆量の質量比が1以下である請求項5記載の水素吸蔵合金の製造方法。
【請求項7】 Ni被覆量とCu被覆量の合計質量が、NiとCuを被覆した後の水素吸蔵合金の質量に対して1%以上、20%以下である、請求項5または6記載の水素吸蔵合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水素吸収量 (水素吸蔵能力) が高く、しかも繰り返し水素吸収放出による特性劣化が少なく、室温近傍の温度で利用可能で、比較的安価といった特徴を持つ、耐久性に優れた水素吸蔵合金とその製造方法に関する。これらの特徴を持つ本発明の水素吸蔵合金は、特に水素ガス貯蔵・輸送用、水素ガス分離・精製用、さらには熱輸送システムや冷却システム、静的コンプレッサー、水素ガスを燃料とする燃料電池などに最適である。
【0002】
【従来の技術】水素ガスは、燃焼すると水になり、化石燃料のように炭酸ガスや硫黄酸化物を生成することがないため、クリーンなエネルギー源として注目されている。
【0003】水素ガスの貯蔵・輸送は、一般に圧縮高圧ガスとして行われている。これは、液体水素の貯蔵には−253 ℃の低温貯蔵容器が必要であり、液体水素の蒸発損失も大きい上、水素の液化に多量のエネルギーが必要であるため、窒素のように液化して貯蔵するのが困難であるからである。しかし、高圧水素ガスの貯蔵には、重くて嵩張る耐圧容器が必要であり、しかも圧縮しても体積が 200分の1程度にしかならず、非効率的である。
【0004】そこで、冷却・加熱により水素ガスを可逆的に吸収・放出できる水素吸蔵合金を水素ガスの貯蔵・輸送に利用することが検討されてきた。水素吸蔵合金は、単位体積当たりの水素ガスの貯蔵密度が高圧水素ガス容器より大きく、水素吸蔵合金を利用することにより、軽量かつ小体積の水素ガス貯蔵容器を作ることができ、水素ガスの輸送も容易になる。また、容器内の水素ガス圧力は低圧であることから、扱いが容易である。
【0005】水素の貯蔵・輸送を目的とする水素吸蔵合金は従来より開発されており、小規模な水素の貯蔵には既に利用されている。また、ガソリンの代替燃料として水素ガスを利用する低公害水素自動車や燃料電池自動車の研究も進んでおり、これにもFeTi系をはじめとする各種の水素吸蔵合金が水素貯蔵デバイスとして検討されている。
【0006】ほかに、水素吸蔵合金の実用化が期待される用途には他に次のようなものがある。水素吸蔵合金の水素の吸収 (水素化物の生成) と放出 (水素化物の分解) は、熱の放出と吸収を伴う可逆反応である。この反応を利用して、熱エネルギーの貯蔵・輸送システムや冷却システムに応用することができる。
【0007】また、低温で水素ガスを吸収させた水素吸蔵合金を高温に加熱すると、高圧の水素ガスが放出される。これは熱エネルギーを機械エネルギーに変換する機能を果たし、熱駆動型の静的水素コンプレッサやアクチュエータとして利用可能である。
【0008】さらに、水素吸蔵合金の水素ガスの吸収・放出速度は、水素ガス以外のガスの吸収・放出速度より大きい。また、水素の同位体間でも吸収・放出速度に差がある。従って、水素吸蔵合金を用いることにより、混合ガスからの高純度水素ガスの分離、不純水素ガスの精製、あるいは水素の同位体の分離が可能である。
【0009】このように水素吸蔵合金には幅広い用途があるが、どの用途に対しても、水素吸収量が最も重要な特性である。また、上記の用途はいずれも比較的多量の水素吸蔵合金を必要とするので、水素吸蔵合金を繰り返し使用しても機能低下が少なく、耐久性に優れていることと、合金の価格が比較的安価であることも重要である。さらに用途によっては室温近傍の比較的低い温度 (例、150 ℃以下) で水素の吸収・放出が起こることも求められる。
【0010】例えば、実用化が先行したLaNi5 またはMmNi5 で代表されるAB5 型の水素吸蔵合金は高価であるので、水素吸蔵合金の使用量が少ないNi−水素電池等の小型二次電池用には使用できても、水素ガス貯蔵用といった大量の水素吸蔵合金が必要な用途には、価格面から使用が困難である。また、水素吸収量もそれほど多くない。
【0011】特開平4−210446号公報には、TiCr2 合金のCrの一部をMoまたはMoとFeで置換したTi−Cr−Mo系およびTi−Cr−Mo−Fe系水素吸蔵合金が大きな水素吸収量を有することが開示されている。また、特開昭61−176067号公報には、Ti−Cr合金にAl、Si、各種遷移金属、アルカリ土類金属等を添加した水素吸蔵合金が、充放電によるサイクル寿命が長く、放電容量の大きい水素吸蔵電極として機能することが開示されている。
【0012】特開平7−252560号公報には、Ti−Cr合金に、V、Nb、Mo、Ta、Wの1種以上とZr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuの1種以上を添加した、体心立方構造の結晶構造を持つ水素吸蔵合金が開示されている。この水素吸蔵合金は、水素吸収量が多く、常温で可逆的に水素を吸収・放出できると説明されている。
【0013】特開平7−268513号および同7−268514号の各公報には、Ti−V系合金からなる母相の周囲に、第2相のTi−Ni合金相またはAB2 型ラーベス合金相が三次元網目骨格を形成している組織を持つ水素吸蔵合金が開示されている。この母相と第2相との粒界が合金の水素との反応性を向上させるため、母相に若干の酸化があっても、この粒界相を介して水素ガスの吸収・放出が可能であると説明されている。
【0014】特開昭60−190570号公報には、水素吸蔵合金に湿式無電解メッキによりCuおよび/またはNiを被覆することで、雰囲気中の不純物ガスによる汚染の影響を小さくでき、初期活性化が不要ないし軽減できることが記載されている。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】水素吸蔵合金の水素ガスの吸収と放出は、それぞれ体積の膨張と収縮を伴う化学反応である。実用的な反応速度を得るには、水素吸蔵合金を粉末状で使用して表面積を増大させる必要がある。しかし、使用中に合金の体積の膨張と収縮が繰り返されると、内部歪みにより粉末に亀裂が入り、やがて細かな粒子に割れて粉末が微粉化する。微粉化が進行すると、容器に取り付けられたフィルター等の閉塞により水素ガスが容易に流れなくなったり、微粉が水素ガスの流れに混じってガス配管内に移動する。従って、この微粉化が水素吸蔵合金の長期繰り返し水素吸収・放出寿命 (即ち、耐久性) 低下の大きな原因となる。
【0016】例えば、特開平4−210446号公報に記載のTi−Cr−Mo系およびTi−Cr−Mo−Fe系合金や、特開昭61−176067号公報に記載のTi−Cr−第3成分系合金は、水素の吸収・放出に伴う微粉化が起こり易い上、活性化が必要であったり、水素吸収量は大きいが放出量が十分ではない、といった問題を有し、実用化への大きな障害となっている。
【0017】特開平7−252560号公報に記載の水素吸蔵合金は、1200〜1400℃という高温に保持して体心立方晶の単相組織とした後、直ちに水冷により急冷することにより製造されるので、結晶粒が粗大化することがあり、材料自体の強度が弱くなり、微粉化し易い。また、大型インゴットを溶製した場合には、水冷でも十分な冷却速度が得られず、TiCr2 を主体とする第2相の粗大析出物が生成し、水素吸収量も低下する。
【0018】特開平7−268513号および同7−268514号の各公報に記載の水素吸蔵合金は、第2相のTi−Ni合金相またはAB2 型ラーベス合金相を、主相の周囲で三次元網目構造を形成するほど多量に析出させるため、合金全体の水素吸収量が低下し、第2相を起点とした微粉化の問題も避けられない。
【0019】水素吸蔵合金の耐酸化性も重要な特性である。水素吸蔵合金は大気中に放置されると表面が酸化し、酸化膜が形成される。特に、Ti合金は酸化膜が形成され易い。この酸化膜は水素吸収の障害となり、水素吸蔵能力を低下させる。そのため、水素吸蔵合金は、使用前に酸化膜を除去するため活性化処理が必要となることが多い。この活性化処理は、水素吸蔵合金を耐圧容器に入れ、数MPaという高圧の水素ガスを高温で1日〜数日間作用させることにより行われ、容器と処理のどちらにも費用がかかる。従って、活性化処理が不要となるような、空気中に放置しても酸化しにくい水素吸蔵合金が求められている。
【0020】特開昭60−190570号公報に記載の無電解メッキによる水素吸蔵合金の金属被覆は、この要請に応えたもので、水素吸蔵合金の耐酸化性の向上には有効である。しかし、被覆金属が水素吸蔵能力を全く持たないCuやNiであるため、被覆金属の分だけ水素吸収量が減少する。
【0021】本発明は、水素ガスの貯蔵・輸送、水素ガスの精製・分離、熱輸送・冷却システム、水素コンプレッサーなどの用途に適用可能な、高い水素吸蔵能力を持ち、微粉化しにくく、長期繰り返し水素吸収・放出寿命 (耐久性) に優れ、室温近傍の比較的低い(150℃以下の) 温度で使用でき、かつ大気中に放置しても水素吸蔵特性の劣化の少ない、比較的安価な水素吸蔵合金を提供することを課題とするものである。
【0022】
【課題を解決するための手段】本発明者らは先に、Tiを含む体心立方晶型の水素吸蔵合金に、Ni被覆を施した後で熱処理して、Ti−Ni金属間化合物を含むNi付加層を表面に形成することにより、上記課題を解決できる水素吸蔵合金が得られることを見出した。その後さらに研究を重ねた結果、Ni被覆の前にCu被覆を行い、Ni付加層の内側にCuを含む層を形成すると、水素吸蔵合金の耐久性がさらに向上することが判明した。
【0023】ここに、本発明は、Tiを含む水素吸蔵合金であって、表面に少なくとも1種のTi−Ni金属間化合物を含むNi付加層と、その内側のCuを含む層とを有することを特徴とする水素吸蔵合金である。Ti−Ni金属間化合物は、好ましくは少なくとも一部がTiNiである。
【0024】前記Tiを含む水素吸蔵合金は、好ましくは主相が体心立方晶で、主相の平均結晶粒径が100 μm以下であり、より好ましくは下記一般式(a) で示される組成を持つ:Tia Crb Moc Nbd e f ‥‥ (a)上記式中、Aは、Mn、Fe、Co、Cu、V、Zn、Zr、Ag、Hf、Ta、W、Al、Si、C、N、P、およびBから選ばれた1種または2種以上の元素を表し、Mは、1種または2種以上の希土類元素を表し、a+b+c+d+e+f=1、 0.2≦a≦0.7 、0.1 ≦b≦0.7 、 0.01≦c+d≦0.4 、0.01 ≦e≦0.3 、 0.001≦f≦0.03。
【0025】一般式(a) で示される組成を持つ体心立方晶の結晶格子を構成しているのは、Ti、CrとMoおよび/またはNbであり、その一部がA元素、特にFeを含むA元素で置換された固溶体である。
【0026】本発明の水素吸蔵合金は、Ti含有水素吸蔵合金の表面にCuを被覆し、次にNiを被覆した後、400 ℃以上、1000℃以下の温度で熱処理を施すことを特徴とする方法により製造することができる。この方法において、好ましくは、Ni被覆量に対するCu被覆量の質量比が1以下であり、Ni被覆量とCu被覆量の合計質量は、NiとCuを被覆した後の水素吸蔵合金の質量に対して1%以上、20%以下である。
【0027】本発明の水素吸蔵合金は、Ti−Ni金属間化合物を含むNi付加層を表面に有している。このNi付加層は耐酸化性に優れ、かつ水素吸蔵能を有するので、水素吸収量をほとんど低下させずに、水素吸蔵合金を酸化から効果的に保護することができる。そして、Ni付加層の内側にCuを含む層を有することで、水素吸収・放出に伴う体積変化による応力がCuを含む層により緩和され、Ni付加層の剥離・亀裂等の破壊を防ぐことができ、水素吸蔵合金の耐久性が一段と向上する。
【0028】
【発明の実施の形態】本発明の水素吸蔵合金の母体(即ち、表面のNi付加層とその内側のCuを含有する層を除いた部分)は、Tiを含む水素吸蔵合金であればよいが、好ましくは上記一般式(a) で示される組成を有するTi−Cr− (Mo−Nb−Fe) 系の合金である。また、この水素吸蔵合金の母体は、主相が体心立方晶で、その平均結晶粒径が100μm以下と微細であることが好ましい。
【0029】Tiを含む水素吸蔵合金は、大気中に放置しておくと、室温近傍の温度 (例、80℃) で測定した水素吸収量が減少することがある。これは、この合金を大気中に放置すると表面が酸化し、この酸化膜が障害となって低温での水素吸収量が減少するためと考えられる。このように大気放置により水素吸収量が低下した水素吸蔵合金は、高圧水素ガス中 (例、20MPa)で500 ℃まで加熱して活性化させると水素吸収量が増加し、以前の水素吸収量を回復する。しかし、この活性化処理は費用がかかる。
【0030】水素吸蔵合金を利用した装置では、装置の製作過程で大気との接触を完全に避けることはできず、上記の活性化処理を避けるには、大気と接触しても酸化しないように、Tiを含む水素吸蔵合金の耐酸化性を改善する必要がある。
【0031】本発明では、水素吸蔵合金の表面をNiで被覆した後、熱処理を施して、Ni被覆層を母材のTiを含む水素吸蔵合金から拡散してくる合金元素、特にTiと反応させることにより、合金表面にTi−Ni金属間化合物を含むNi付加層を形成する。このNi付加層は耐酸化性に優れる上、被覆したままのNi被覆層とは異なり、水素吸蔵能力を持つので、水素吸収量をほとんど低下させずに、水素吸蔵合金に耐酸化性を付与することができる。
【0032】しかし、Tiを含む水素吸蔵合金の表面に上記のNi付加層を形成するだけでは、水素吸収・放出を繰り返すことにより水素吸収量が低下する場合がある。これは、水素吸蔵合金は水素の吸収・放出により膨張・収縮をするが、水素吸蔵合金とNi付加層の膨張率が異なり、かつNi付加層の変形能が小さいため、膨張・収縮によってNi付加層に亀裂が生じたり局所的に剥離が生ずるためである。
【0033】この点について検討した結果、Ni被覆の前にCu被覆を行って、Ni付加層の内側にCuを含む層を形成することにより、水素吸蔵合金とNi付加層の膨張率の差をCuを含む層が緩和し、水素の吸収・放出を繰り返してもNi付加層に亀裂や剥離が生じず、水素吸収量が低下しないことが分かった。
【0034】Ni付加層の形成には、熱処理中に水素吸蔵合金のTiをNi被覆まで拡散させてNi被覆中のNiの少なくとも一部をTi−Ni金属間化合物に転化させる必要があるが、このTiの拡散は、合金とNi被覆との間に介在するCu被覆によって妨げられず、Cu被覆が無い場合と同様の熱処理により、Ti−Ni金属間化合物を含むNi付加層を形成できる。
【0035】この熱処理中に、Cu被覆中のCuの少なくとも一部も、水素吸蔵合金中のTiやNi被覆中のNiと反応し、CuとTi、Ni等との金属間化合物または固溶体になる。Cu被覆が熱処理を受けて変化した層を、本発明ではCuを含む層という。このCuを含む層は、純粋なCu層 (即ち、Cu被覆) に比べて、水素の移動を妨げず、しかも水素吸収量を低下させない。
【0036】Ni付加層のNi濃度およびCuを含む層のCu濃度は、いずれも連続的に変化していても良い。その場合、Ni付加層とCuを含む層との境界が明確にならなくてもよい。表面側のNiをCuより多く含んでいる部分をNi付加層とし、それより内側のCuをNiより多く含んでいる部分をCuを含む層とする。
【0037】本発明の水素吸蔵合金を製造するには、まず母体となるTi含有水素吸蔵合金にCuを被覆する。次に、このCu被覆の上に、Niを被覆する。必要であれば、被覆前に、水素吸蔵合金をフッ酸、塩化水素酸などの非酸化性の酸で酸洗処理して、合金表面の酸化層を除去してもよい。Cu被覆とNi被覆の後で熱処理を行って、前述したように、水素吸蔵合金からCu被覆を経由してTiをNi被覆中に拡散させ、Ni被覆をTi−Ni金属間化合物を含むNi付加層に変化させると同時に、Cu被覆もTiやNiとの化合または固溶によりCuを含む層に変化させる。水素吸蔵合金が上記一般式(a) で示される組成を持つ場合、生成したNi付加層は母材合金からCrを取り込んでおり、Ti−Niの2元系金属間化合物よりさらに耐酸化性に優れたものとなる。
【0038】CuおよびNiの被覆方法は、物理的な方法 (例えば、Cu微粉末あるいはNi微粉末と合金とを混合する方法、ボールミル等で混合するメカニカルアロイング等) 、化学的な方法 (電解めっき、無電解めっき等) のいずれでもよい。めっき法の場合には、被めっき材が粉末であることから、無電解めっきの方が容易であり、市販の無電解めっき液を利用してCuあるいはNi被覆を行うことができる。
【0039】また、電解Niめっき液または無電解Niめっき液にCuイオンを含有させ、このめっき液を用いて水素吸蔵合金に電解めっきまたは無電解めっきを行うことにより、NiイオンとCuイオンのイオン化傾向の差から、1回のめっき処理により、内側にCuを含む層、表面にNiを含む層を形成することができる。
【0040】Ni被覆については、ニッケルカルボニル[Ni(CO)4] ガスを用いた気相反応法により行うこともできる。この場合、水素吸蔵合金の表面温度をNi(CO)4 の分解温度以上に保ち、この分解温度より低温のNi(CO)4 ガスを合金と接触させる。合金に接触したNi(CO)4 ガスは分解してNiとCOガスになり、Niが合金に付着し、合金表面がNiで被覆される。Ni(CO)4 ガスの温度が前記分解温度以上であると、合金と接触する前に分解してしまい、Ni被覆を行うことができない。Ni(CO)4 ガスの分解温度は文献により約50〜200 ℃の範囲のまちまちの温度が報告されている。本発明者らが行った実験では、合金の表面温度が 100〜200 ℃程度の温度であると、上記の気相反応法によるNi被覆が達成された。Ni(CO)4 ガスの温度は50℃より低温とすることが好ましい。
【0041】Ni(CO)4 ガスは、好ましくはCOガスとの混合ガスとして使用する。この混合ガス中のNi(CO)4 ガスの割合は20〜90体積%とすることが好ましい。Ni(CO)4 ガスの割合が90%より多いと、粉末表面と接触する前に熱分解が起こることがあり、20%未満ではNi被覆層の形成に長時間を要し、実用的ではない。Ni(CO)4 ガスに加えて、Fe(CO)4 、Mo(CO)4 、Cr(CO)4 、W(CO)4 等の他の金属カルボニルガスを少量混合して用いると、熱処理後に形成されるNi付加層の耐酸化性をさらに改善することができる。この場合の、Ni(CO)4 以外の他の金属カルボニルガスの割合は、全体の5〜50体積%の範囲内とすることが好ましい。
【0042】Cu被覆とNi被覆の割合は、Ni被覆に対するCu被覆の質量比は1以下となるようにすることが好ましい。この質量比が1を超えると、Cu被覆が厚すぎて、熱処理の際のNi被覆へのTiの拡散が十分に行われず、Ti−Ni金属間化合物の生成が不十分となって、水素吸収量が低下することがある。
【0043】また、Cu被覆とNi被覆の合計質量は、水素吸蔵合金の粉末平均粒径によっても異なるが、CuとNiを被覆した後の水素吸蔵合金の質量に対して1%以上、20%以下の範囲が好ましい。1%より少ないと、本発明で目的とする耐酸化性・耐久性の改善が不十分となる。20%より多いと、水素吸蔵合金の割合が低下し、全体として水素吸収量が低下する。 -被覆後の熱処理は、合金の酸化を防止するため、真空中または不活性ガス中で行うことが好ましい。熱処理条件は、この熱処理中に母材合金の主相の平均結晶粒径が100 μmを超えることのないように設定する。この観点から、熱処理温度は 400〜1000℃の範囲が好ましい。熱処理温度が1000℃を越えると、主相の体心立方晶や第2相の析出物の粗大化が進み、水素吸収量が低下したり、水素吸収・放出の繰り返しで微粉化し易くなる。一方、400 ℃未満ではTi−Ni金属間化合物の生成反応が進みにくい。好ましい熱処理温度は 450〜900 ℃である。熱処理温度が900 ℃を越えると、熱処理時間が長過ぎた時にTiが多量に拡散してTi2Ni の生成が進み、本発明の効果がやや低減することがある。熱処理時間は、10時間以上で、かつ上記の粗大化が起こらないように設定するのがよい。熱処理時間が10時間より短いと、Ni付加層の内部にNiを含む面心立方構造(fcc) の相が残り、水素の拡散を妨げてしまう恐れがある。
【0044】Ni付加層は、熱処理中に生成したTi−Ni金属間化合物を含有する。Ti−Ni金属間化合物にはTi2Ni 、TiNi、TiNi3 の3種類があり、そのうちTiNiのみが体心立方晶の結晶構造をとる。従って、水素吸蔵合金の主相が体心立方晶である場合には、Ni付加層は同じ結晶構造のTiNiを主体とすることが好ましく、特にNi付加層の70体積%以上をTiNiが占めることが好ましい。それにより、Ni付加層の水素透過性が良好となり、またNi付加層と合金主相との整合性が良くなるので、水素の吸蔵・放出時に合金母体に体積変化 (変形) が起こっても、Ni付加層の剥離がより起こりにくくなる。この効果は、TiNiがNi付加層の70体積%以上を占めると特に顕著となる。Ni付加層中のTiNiの体積割合は、熱処理条件 (温度、時間) により調整することができる。
【0045】Ni付加層中のNi濃度は、表面から内部に向かって傾斜的に減少していることが好ましい。このようなNi濃度分布は、上述したような水素吸蔵合金にCu、Niを被覆し、熱処理をする方法では自然に得られる。Ni濃度がステップ状に変化すると、水素の吸収・放出時の体積変化の際にその部分が起点となってNi付加層が破壊され易くなるが、Ni濃度を傾斜的に変化させることで、Ni付加層の破壊が起こりにくくなり、Ni付加層による耐酸化性向上効果が持続するようになる。
【0046】本発明の水素吸蔵合金の組成は、Tiを含有していれば特に制限されない。即ち、合金表面にNi付加層とその内側のCuを含む層を形成することによる耐久性の改善は、Tiを含有する水素吸蔵合金に対して一般的に得られる。
【0047】しかし、特に改善された耐久性は、主相が体心立方晶で、その平均結晶粒径が100 μm以下と微細である合金、および/または上記一般式(a) で示される組成を持つ合金、の場合に得られる。従って、母体のTiを含有する水素吸蔵合金はこのようなものであることが好ましい。
【0048】微細な体心立方晶の主相を有するTi含有水素吸蔵合金は、ロール急冷法、ガスアトマイズ法、回転電極法といった、結晶粒の成長が起きにくい急冷凝固法等で合金を製造することにより得ることができる。
【0049】急冷凝固法等で得られた、主相が体心立方晶で、その平均結晶粒径が100 μm以下と微細なTi−Cr− (Mo−Nb−Fe) 系の水素吸蔵合金は、水素平衡圧 (水素吸収・放出反応の平衡ガス圧) が大気圧に近い0.1 MPa となる温度が150 ℃以下と低く、かつ150 ℃以下の温度範囲で、多量の水素を吸収することができ、さらに微粉化しにくいため、耐久性に優れている。
【0050】しかし、合金組成が同じでも、溶解後の凝固が遅い方法で製造した水素吸蔵合金は、そのままでは水素吸収量や耐久性が低い。これは、凝固速度が低下すると、水素吸収量の少ないTiCr2 を主体とする第2相が、凝固中にかなりの割合で析出するためである。この第2相の析出物は、水素吸収量を低下させるだけでなく、水素平衡圧を低下させて吸収した水素の可逆的な放出を不可能にし、さらに析出物が粒界破壊の起点となるため、微粉化を起こし易くする。
【0051】一般式(a) で示される組成を持つ水素吸蔵合金は、Ti−Cr− (Mo−Nb) 系の合金に、A元素と、M元素とを添加した化学組成を持つ。これらA、M両元素の添加により、Ti−Cr− (Mo−Nb) 系の元合金とほぼ温度・圧力で水素ガスを吸収・放出する特性を維持し、かつ急冷凝固法等により上記第2相の形成を抑えると、水素吸収量をさらに増大させることができる。その理由は完全に解明されたわけではないが、次のように考えられる。
【0052】A元素 (Mn、Fe、Co、Cu、V、Zn、Zr、Ag、Hf、Ta、W、Al、Si、C、N、P、B) は、主相の体心立方晶を構成するTi、Mo、Nb、Crと置換して格子寸法を拡大することで、合金自体の水素吸収量を高めていると予想される。これらの元素も、溶解後の凝固速度や溶体化処理時の冷却速度が遅いと、TiまたはCrとの金属間化合物や、炭化物、ホウ化物を形成しやすく、水素吸収量が低下する。従って、高い水素吸収量を得るには、このような化合物の晶出または析出を抑制するために、凝固時あるいは溶体化処理時に急冷を行う。それにより、このような化合物が起点となる微粉化も抑制される。
【0053】M元素 (希土類元素) は、主相の体心立方晶にはほとんど存在せず、合金中に含まれる不純物酸素と酸化物を形成して存在すると考えられる。不純物酸素は主相の体心立方晶の金属原子間に侵入する状態で存在しているが、これらの元素が侵入する位置は、水素を吸蔵させた場合に水素原子が侵入する位置でもある。従って、この不純物酸素は水素侵入サイトを塞いでしまい、水素吸収量を減少させる原因となる。酸素と化合しやすい希土類金属を添加すると、不純物酸素が主相の外に追いやられ、水素吸収量が増加するものと推定される。
【0054】この水素吸蔵合金の化学組成は、150 ℃以下の低温および大気圧近傍で高い水素吸収量を得るように検討して決定された。次にその理由を説明する。なお、各元素の量はいずれも原子比であり、合計が1である。
【0055】チタン (Ti)Ti量が増えると、合金主相である体心立方晶の格子寸法が拡大し、水素吸収量が増加する。高い水素吸収量を得るには、0.2 以上のTiが必要であり、Ti量がこれより少ないと、水素吸収量が低くなる。チタンが多いほど水素吸収量は増大するが、それに伴って水素平衡圧が低下し、室温・大気圧近傍で利用することができなくなる。
【0056】この合金は、水素平衡圧を上昇させる元素としてCrを含有するが、Ti量が0.7を越えると、Crを添加しても水素平衡圧を大気圧近傍まで上昇させることができなくなる。また、Ti量が多すぎると、微粉化が起こり易くなり、耐久性が低下する。
【0057】水素吸収量と耐久性のバランスの観点から、Ti量は 0.2以上、0.7 以下とし、好ましくは0.3 以上、0.45以下、より好ましくは0.3 以上、0.4 以下である。
クロム (Cr)Cr量が増えると水素吸収量は増加するが、その程度はTiほど大きくないので、Cr添加の主目的は水素平衡圧の制御にある。従って、Cr量は、Ti量や目的とする使用温度および水素平衡圧により変化する。しかし、Cr量が0.1 未満では、Ti量が0.2 の場合に室温での水素平衡圧が大気圧よりかなり低くなり、室温近傍で可逆的に水素を吸収・放出できなくなる。
【0058】一方、Crが0.7 を超えると、第2相として析出するTiCr2 相の量が増加し、水素吸収量が低下するだけでなく、微粉化が起こり易くなり耐久性も低下する。水素吸収量と耐久性のバランスの観点から、Cr量は 0.1以上、0.7 以下とし、好ましくは0.2 以上、0.6 以下である。
【0059】モリブデン (Mo) 、ニオブ (Nb)Ti−Crの2元系では、第2相としてTiCr2 が多く生成するので、水素吸収量と繰り返し水素吸収・放出に対する寿命が低下し、水素平衡圧が低すぎて室温近傍での利用も困難になる。そのため、Moおよび/またはNbを添加する。Mo、Nbの添加により、主相の体心立方晶相が多くなり、水素吸収量が増加する。Mo、Nbの量は、その合計原子比が0.01以上、0.4 以下の範囲で、水素解離平衡圧が1MPa 以下になるように調整することが好ましい。
【0060】なおMoは0.01〜0.15の範囲内の原子比が好ましい。Moの原子比が0.01未満になると、特に表面にNiを被覆した後、 400〜1000℃での熱処理時に母材の体心立方構造の崩壊が進行することがある。Moの原子比が0.15を超えると、合金の水素平衡圧が高くなりすぎることがある。
【0061】A元素 (Mn、Fe、Co、Cu、V、Zn、Zr、Ag、Hf、Ta、W、Al、Si、C、N、P、B)これらの添加元素は、主相の体心立方晶を構成するTi、Cr、Mo、Nbのいずれかの元素と置換し、格子寸法を拡大して水素吸収量を増加させるのに効果的な元素である。
【0062】個々の2元系状態図から予想されるように、これらの元素はTiまたはCrとの金属間化合物や、炭化物、ホウ化物を形成しやすいため、あまり多量には添加できない。A元素の量が0.3 より多くなると、水素を吸収しない上記の金属間化合物等が多く形成されるため、かえって合金全体の水素吸収量が減少する。一方、A元素の量が0.01より少ないと、添加による水素吸収量の増加が認められない。金属間化合物等の形成量と水素吸収量とのバランスから、A元素の量は0.01以上、0.3 以下とし、好ましくは0.03以上、0.2 以下である。
【0063】A元素のうち、Feは、主相の体心立方構造を安定化させる効果がある。この効果を得るためには、A元素の少なくとも一部としてFeを原子比0.01以上で含有させることが好ましい。しかし、Feの原子比が0.15より多くなると、第2相が生成し、水素吸収量が低下する。従って、Feの原子比は0.01〜0.15の範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.10である。
【0064】また、A元素のSiは、熱処理時に結晶粒成長を抑制する効果がある。この効果を得るためには、A元素のうち少なくとも一部としてSiを原子比0.001 以上で含有させることが好ましい。しかし、Siの原子比が0.012 より多くなると、析出物を形成して水素吸収量が低下する。従って、Siの原子比は 0.001〜0.012 の範囲とすることが好ましく、より好ましくは 0.001〜0.010 である。
【0065】A元素がFeを含有する場合、原料の一部としてFe−Mo合金を使用すると、高融点のMoを低温で溶解できる上、高価な純Moを使用する必要がなくなり、合金製造コストを大幅に下げることができる。
【0066】M元素 (希土類元素)希土類元素 (Sc、Yおよびランタノイド元素を含む) は、合金の主相の水素侵入サイトに存在する不純物酸素と化合物を形成させるために添加する。従って、M元素の量は合金中の不純物酸素量によって決まる。不純物の多い原料を用いるとM元素を多く添加する必要があり、不純物の少ない原料を用いるとM元素は少ない量でよい。
【0067】安価な原料を使用しても、製造される合金の不純物酸素量は通常は1wt%以下であるが、スクラップ等を利用した場合は2wt%以上になこともある。希土類元素は一般に酸素とM2 3 型の酸化物を形成するため、不純物酸素と原子比で同等量程度添加すれば十分である。そのため、M元素の量の上限を0.03とした。これより多くM元素を添加しても、水素吸収量はあまり増加せず、過剰のM元素を増やすだけでコスト増大につながる。一方、M元素の量が0.001 以下では、充分に不純物酸素を除去できず、水素吸収量が増加しない。
【0068】以上より、M元素の量を0.001 以上、0.03以下とするが、上に説明したように、この量は合金の不純物酸素量、従って、使用する原料の純度により、この範囲内で増減させる。このように、高価なM元素の添加量は非常に少ないので、その添加によるコスト増大はわずかである。また、M元素は主相の粒界で酸化物を形成するが、その量が上記のようにわずかであるので、それによる水素吸収量の低下は、M元素の添加による水素吸収量の増大に比べて少ない。さらに、M元素の酸化物は、熱処理中の結晶粒度の粗大化を抑える効果を有しているため、M元素添加によって熱処理温度を、Ti−Cr− (Mo−Nb) 合金の場合より高くすることができる。従って、熱処理時間を短くすることができる。
【0069】希土類元素は、純金属として精製されたLa、Ce等の元素を単独添加することも可能であるが、数種類のランタノイド系金属を含むミッシュメタルと呼ばれる比較的安価な合金を用いると、本発明の水素吸蔵合金の製造コストはさらに低下する。
【0070】平均結晶粒径上記組成の水素吸蔵合金は、もともと水素吸収量の多い体心立方晶を主相とするTi−Cr− (Mo−Nb) 系合金に、A元素とM元素を添加して水素吸収量をさらに増大させ、好ましくはA元素としてFeを添加し合金を安定化したものである。
【0071】しかし、一般式(a) で示される化学組成を持っていても、合金の水素吸収量は、その主相の平均結晶粒径により変化する。この平均結晶粒径は合金製造時の凝固速度や溶体化処理時の冷却速度によって決まり、例えば凝固速度が遅いため主相の平均結晶粒径が100 μmを超えると、同じ組成であっても水素吸収量は低下する。
【0072】これは、合金製造時の凝固速度または溶体化処理時の冷却速度が低下すると、TiCr2 や、前述したA元素との金属間化合物、炭化物、ホウ化物等の析出物の量が増大し、これら析出物は水素吸収量が少ないか、0であるので、これら析出物量が増えると合金全体としての水素吸収量は低下するためである。また、TiCr2や他の析出物の量が増えると、体心立方晶の主相中のTi、Cr量が低下するため、主相の水素吸収量が減少するだけでなく、主相Cr量が減少することにより水素平衡圧が低下し、吸収した水素を放出できなくなる。
【0073】さらに、合金製造時の凝固速度や溶体化処理時の冷却速度が遅くなって主相の平均結晶粒径が100 μmを超えると、繰り返し水素吸収・放出をした時の微粉化が顕著になり、耐久性の低下が著しいことが判明した。微粉化の原因は、上記のTiCr2 やA元素との金属間化合物等の析出物を起点とする粒界破壊であると推定され、このような析出物の量が増えると微粉化の起点が多くなって微粉化が起こり易くなる。
【0074】そのため、本発明の水素吸蔵合金では、合金の主相の平均結晶粒径は100 μm以下であることが好ましい。それにより、TiCr2 やA元素との金属間化合物等のような析出物の生成量が著しく低減するため、水素吸収量が多くなり、体心立方晶金属の理論上の最大水素吸収量に近いH/M=1.80以上の高い水素吸収量を示す合金が得られる。同時に繰り返し水素吸収・放出時の微粉化が起こりにくくなり、代表的な希土類系水素吸蔵合金であるMmNi5 系金属間化合物より著しく優れた耐久性を示すようになる。
【0075】本発明の水素吸蔵合金のこのような特性をさらに改善するには、主相の平均結晶粒径は60μm以下であることが好ましい。また、第2相として形成されるTiCr2 やA元素との金属間化合物等の析出物の平均結晶粒径が5μm以下であると微粉化が生じにくくなり、さらに2μm以下であるとほとんど微粉化しないことが判明した。
【0076】主相の平均結晶粒径が100 μm以下の本発明の水素吸蔵合金は、前述したように急冷凝固法等により製造できる。急冷凝固法は、所定組成を生ずるように原料を溶解し、次いで急冷凝固させる方法であり、その具体的な急冷手段は、上記の平均結晶粒径を持つ合金が得られる限り限定されない。採用可能な急冷手段としては、回転電極法、回転ドラムあるいはロール上に合金溶湯を注湯する方法 (単ロール急冷法あるいは双ロール急冷法等) 、水冷銅板上へ薄く鋳込む方法、ガスアトマイズ法等が挙げられる。
【0077】これらの方法のうち、回転電極法とガスアトマイズ法は、ほぼ球形の水素吸蔵合金を製造することができ、粉砕工程が不要となる上、粉末形状が実質的に球形であるので充填密度を高くすることができ有利である。他の方法の場合には、必要に応じて得られた水素吸蔵合金を粉砕し、平均粒径が100 μm以下の粉末にする。粉砕方法としては、水素化粉砕、機械粉砕のいずれも採用可能であり、両者を併用してもよい。
【0078】また、この水素吸蔵合金は、適当な溶製法により所定組成の水素吸蔵合金の鋳塊を作製し、この鋳塊に適当な溶体化処理を施した後、必要に応じて、平均粒径100 μm以下に粉砕することによっても製造できる。溶体化処理は、合金を体心立方晶の単相となる高温の温度域で保持した後、急冷する処理である。本発明の水素吸蔵合金の場合、この温度域は 900〜1400℃である。保持時間は一般に 0.5〜10時間の範囲内であり、処理雰囲気は通常は真空または不活性ガス雰囲気である。高温保持後の急冷は、添加元素によっても異なるが、保持温度から400 ℃までの冷却速度が10℃/分以上となるように行う。
【0079】
【実施例】Arガスアトマイズ法 (10 kg/ch) を用いて、母体となる水素吸蔵合金を作製した。合金溶湯の調製に用いた原料は、軽元素 (Si、C、N、P、B) については、TiまたはCrとの化合物(TiC、TiB2等) であり、他の元素については純度99wt%または98wt%の金属であった。作製した水素吸蔵合金の化学組成は、Ti=0.35、Mo=0.10、Nb=0.05、Cr=0.40、A=0.09、M=0.01に統一した (但し、A、Mの元素種類は変動) 。
【0080】得られたガスアトマイズ粉末に対して、Ar雰囲気中で1000℃×10 hr の溶体化処理を行った。得られた水素吸蔵合金粉末から、径が 200〜400 μmの粉末を篩いで選別した。この合金の主相は、X線回折法で体心立方晶であることを確認した。また、合金の組織観察から測定した主相の平均粒径は40μmであった。
【0081】得られた水素吸蔵合金の粉末表面に、最初にCuを被覆した。その被覆には、無電解CuめっきまたはCu粉末のメカニカルアロイングを用いた。その後、Niを無電解NiめっきまたはNi粉末のメカニカルアロイングにより被覆した。CuまたはNiのメカニカルアロイングにはボールミルを使用し、粒径1μm程度のCu粉末またはNi粉末を用いた。無電解Niめっき液は市販品を用いた。
【0082】上記のようにCu被覆とNi被覆を施した後、水素吸蔵合金をアルゴン雰囲気中で熱処理して、Ni付加層とCuを含む層とを形成した。Ni付加層におけるTi−Ni金属間化合物の形成の有無は、X線回折法により確認した。また、比較例として、表面被覆を行わない水素吸蔵合金、Ni付加層だけを表面に形成した合金、およびCu被覆とNi被覆後に熱処理を行わない合金も作製した。
【0083】これらの水素吸蔵合金の初期水素吸収量を、ジーベルツ型の水素吸収・放出試験装置を用いて、活性化原点法により測定した。測定は、試験合金を容器に入れ、真空排気して原点を決定した後、3.0 MPa の水素圧下 300〜500 ℃に加熱して活性化処理してから行った。なお、機械的粉砕における合金表面の酸化の影響を除くため、活性化処理の前に試験合金を5vol%弗化水素酸水溶液で酸洗した。
【0084】測定に用いた水素放出−吸収サイクルは、温度60℃で、水素圧を3.0 MPa から0.1 MPa まで下げる水素ガス放出と、温度20℃で水素圧を0.1 MPa から3.0 MPaまで加圧する水素ガス吸収とからなる。初期水素吸収量は、1サイクル目の水素ガス放出時に水素放出曲線を作製して、圧力1MPa での水素吸収量の値を求め、この水素量を合金を構成する金属原子数に対する吸収された水素原子数の比であるH/Mに換算したものである。
【0085】各水素吸蔵合金の耐酸化性を評価するため、試験合金に対して上記の水素放出−吸収サイクルを100 サイクル繰り返し、100 サイクル目の水素吸収量を1サイクル目と同様に求めた。次に、100 サイクル目の水素放出後に、400 ℃で30分間の脱水素処理を行った。こうして100 サイクル後に脱水素した試験合金を、気温25℃、湿度65%の恒温恒湿の大気雰囲気に1週間放置してから、ジーベルツ型の水素吸収放出試験装置を用いて、真空で80℃まで加熱したのち、80℃で2.5MPaの水素ガスを吸収させた。吸収完了後、20℃で2.5 MPa の水素ガスを吸収させた。吸収完了後、温度60℃で水素圧を2.5 MPa から0.1 MPa まで下げて、水素ガスを放出させ、圧力1MPa での水素吸収量を求めた。この大気放置後の水素吸収量と100 サイクル目の水素吸収量から、大気放置後の水素吸収量の低下率を次式により算出した。この低下率が10%以内であると、耐酸化性は良好であると判断できる。
【0086】
水素吸収量低下率(%) =[(A−B)/A]×100A=100 サイクル目の水素吸収量B=大気放置後の水素吸収量これらの測定結果を、合金組成と一緒に表1に示す。
【0087】
【表1】

表1からわかるように、本発明に従ってCu被覆とNi被覆を順に施した後、熱処理して、合金表面にTi−Ni金属間化合物を含むNi付加層と、その内側のCuを含む層を形成した水素吸蔵合金は、未被覆のNo.11 の試験合金に比べて、初期水素吸収量はさほど低下していない。即ち、Ni被覆層とCuを含む層で水素吸蔵合金を保護しても、水素吸収が著しく阻害されることはない。
【0088】未被覆のNo.11 の水素吸蔵合金では、100 サイクル後に1週間大気放置し活性化せずに測定した水素吸収量の低下率が35%と大きく、耐酸化性が著しく劣っていた。これに対し、本発明のNi付加層とその内側のCuを含む層を有する水素吸蔵合金は、この水素吸収量の低下率が5〜9%と小さく、耐酸化性が著しく改善されていた。
【0089】一方、比較例において、水素吸蔵合金の表面にNi付加層だけを形成したNo.12の試験合金は、初期水素吸収量は良好であるが、耐酸化性の改善が不十分で、水素吸収量の低下率が10%を大きく超えた。
【0090】また、Cu被覆とNi被覆を順に施したものの熱処理しなかったNo.13 の試験合金は、初期水素吸収量が低かった。即ち、例えば、無電解めっきのままで熱処理しないと、Cu被覆およびNi被覆が水素の吸収を阻害する傾向があることがわかる。熱処理して、NiおよびCuを母体の水素吸蔵合金から拡散してくるTi等と反応させると、この水素吸収の阻害がかなり解消され、水素吸収量が増大する。また、この熱処理しなかった試験合金は、耐酸化性の改善効果も不十分であった。
【0091】
【発明の効果】Tiを含む水素吸蔵合金の表面にNi付加層とその内側のCuを含む層とを設けてなる本発明に係る水素吸蔵合金は、母体の水素吸蔵合金の水素吸蔵特性を実質的に保持したまま、その耐酸化性が著しく改善されている。そのため、この水素吸蔵合金を大気中で取り扱っても表面がほとんど酸化されず、かつ水素の吸収・放出を繰り返しても水素吸収量の低下が小さいので、取扱いが非常に容易になり、費用のかかる活性化処理が不要となるか、軽減される。
【0092】また、合金組成物を上記一般式(a) で示される組成にすると、室温近傍の比較的低い温度 (例、150 ℃以下) で水素の吸収・放出が起こる合金とすることができるので、各種用途に使い易く、かつ比較的安価である。
【0093】本発明の水素吸蔵合金は、水素ガス貯蔵・輸送、水素ガス分離・精製用、熱輸送システムや冷却システム、静的コンプレッサー、水素ガスを燃料とする燃料電池といった用途に最適である。
【出願人】 【識別番号】000002118
【氏名又は名称】住友金属工業株式会社
【出願日】 平成12年8月11日(2000.8.11)
【代理人】 【識別番号】100081352
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 章一
【公開番号】 特開2002−60804(P2002−60804A)
【公開日】 平成14年2月28日(2002.2.28)
【出願番号】 特願2000−244375(P2000−244375)