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【発明の名称】 超硬工具
【発明者】 【氏名】秀島 保広

【氏名】錦織 良治

【氏名】堀越 康弘

【要約】 【課題】超硬工具の寿命向上を実現すること。

【解決手段】本発明の超硬工具(例えばプレス型に使用するパンチ)は、WCの粉末をCoで焼結成形した超硬合金より製造され、その製造品に窒化または軟窒化による表面処理が施されている。超硬合金に窒化処理(または軟窒化処理)を施すと、合金の表面からN原子等が拡散浸透し、不純物の成分が窒化されて硬化作用を発現する。その結果、WC-Co 間の結合力が強化されることにより、表面硬度が向上し、且つ圧縮応力の増加により、耐摩耗性及び疲労強度を改善できる。但し、硬さに対する表面処理の効果は、超硬合金に含まれるCoの含有量によって異なり、期待される効果を得るためには、Co含有量に適正範囲が存在するものと考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】WC(炭化タングステン)の粉末をCo(コバルト)で焼結成形した超硬合金より製造され、その製造品に窒化または軟窒化による表面処理が施されていることを特徴とする超硬工具。
【請求項2】請求項1に記載した超硬工具は、Co含有量が8重量%であることを特徴とする超硬工具。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、超硬合金より製造される超硬工具に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、例えばプレス型に用いられるパンチの寿命向上を図る手段として、パンチに使用される金属素材の特性(耐摩耗性、表面硬度等)を向上させるために窒化処理(または軟窒化処理)が行われることがある。窒化処理は、Fe, Cr,Al, Moと言った金属元素と窒素とが反応して窒化物を生成する。しかし、それら元素の存在しない超硬合金に適用された実績はない。そこで、超硬合金より製造される工具(例えば刃具、パンチ等)は、加工条件を考慮して硬度及び靱性に優れた材料を選定し、更にTiC, TiN, TiCN, DLC といった表面処理(コーティング等)を活用することで寿命向上が図られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、硬度が上がれば、素材としての抗拆力、耐衝撃性が劣り、チッピング等の問題が発生するため、一般的には、抗拆力、耐衝撃性を考慮して若干低い硬度の材料を選定してきた。また、表面処理等により表面硬度アップや摩擦係数を下げる効果を付加する場合においも、特に硬度の高い超硬合金では素地との十分な密着性が得られず、加工途中に表面処理が剥離し、狙いとする寿命向上の効果が得られていない。以上のことから、これまで超硬合金を使用した工具は、その硬さを活用するものの十分に寿命向上させる手段が知られていなかった。本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、超硬工具の寿命向上を実現することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の超硬工具は、WC(炭化タングステン)の粉末をCo(コバルト)で焼結成形した超硬合金より製造され、その製造品に窒化または軟窒化による表面処理が施されていることを特徴とする。WCとCoを焼結した超硬合金には、WC, Co以外に微量ながら不純物が存在する。この超硬合金に窒化処理または軟窒化処理を施すと、合金の表面からN原子等が拡散浸透し、不純物の成分が窒化されて硬化作用を発現し、その結果、WC-Co 間の結合力が強化されるものと推定できる。これにより、超硬工具の表面硬度が向上し、且つ圧縮応力の増加により、耐摩耗性及び疲労強度を改善できる。
【0005】但し、硬さに対する表面処理の効果は、超硬合金に含まれるCoの含有量によって異なり、期待される効果を得るためには、Co含有量に適正範囲が存在するものと考えられる。本願発明者の測定結果によれば、Co含有量8重量%で最も高い効果(表面硬度の向上)を得ることができた。更に、超硬合金のCo含有量が所定量(例えば8重量%)を超えると、表面処理(窒化処理、軟窒化処理)によって表面粗度が上昇する(表面が粗くなる)ため、その上に必要なコーティングを施す場合に、コーティング層との密着性を大幅に改善できる効果が得られる。
【0006】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施例の超硬工具は、WCの粉末をCoで焼結成形した超硬合金より製造されるもので、例えば切削工具やプレス型の部品(パンチ、ダイ)等であり、窒化処理(または軟窒化処理)が施されている。窒化処理は、ガス雰囲気中にて窒素を素材(超硬合金)中に拡散浸透させ、素材中の含有元素(WC, Co以外に存在する微量成分:Fe, Mo等)と化合して窒化物を生成することにより、素材表面に硬化層を形成するものである。
【0007】この表面処理の効果について説明する。
1)超硬素材の表面硬度Co含有量の異なる3種類の超硬素材を準備し、それぞれ表面処理を実施する前と実施した後で、各素材の表面から0.01mm毎に内部硬度を測定した。なお、硬度測定に使用した3種類の超硬素材は、Co含有量6重量%のV10種、Co含有量8重量%のV30種、Co含有量13重量%のV50種である(図1参照)。この硬度測定の結果、図1に示す様に、V30種の超硬素材が最も効果を発揮し、表面付近の硬度はV10種の超硬素材と同レベルまで上昇した。また、V50種の超硬素材は、処理表面から0.06mmまでの深さで効果が得られた。これに対し、V10種の超硬素材では、期待した効果は得られなかった。
【0008】2)面粗度・摩耗a)上記3種類の超硬素材に対し、それぞれ表面処理を実施する前と実施した後で、各素材の面粗度を測定した。面粗度を測定した結果、図2(b)に示す様に、V10種では表面処理後の方が面粗度が向上している(面粗度を示す数値が小さくなっている)が、V30及びV50種では表面処理後の方が面粗度が悪化している(面粗度を示す数値が大きくなっている)。
【0009】b)上記3種類の超硬素材に対し、それぞれ表面処理を実施する前と実施した後で、ピン−ディスク式摩耗試験を実施した。試験方法は、図2(a)に示す様に、ディスク1(超硬素材)の表面に荷重を付加したピン2(SK材)を一定速度で所定時間回転させ、ディスク表面とピン2の摩耗状況を確認する。この摩耗試験の結果、図2(c)に示す様に、V10種では表面処理後の方がピン2の摩耗量が増加(処理前の約2.5倍)しているが、V30及びV50種では表面処理後の方がピン2の摩耗量が低減(処理前の約1/3)している。
【0010】また、V30種においては、表面処理前のディスク表面には摩耗が生じたが、表面処理後のディスク表面には摩耗が見られなかった。上記の結果、V30及びV50種では、表面処理によってディスク表面の面粗度が悪化(数値が上昇)しているにも係わらず、ピン2の摩耗量が低減していることから、ディスク表面の潤滑性が向上しているものと推定される。これは、Co含有量が多いほど、面粗度を示す数値が大きくなっていることから、素材表面のCo成分がガス中に遊離した結果であると考えられる。
【0011】続いて、上述のV30種の超硬素材より製造された超硬工具(プレス型のパンチ)を使用して表面処理の効果を調査した。なお、使用する超硬工具は、スタータのアーマチャコアに用いられるラミネーションコア3を成形するプレス型(図3参照)に用いられるもので、図4(a)に示す様に、ラミネーションコア3のスロット3aを打ち抜くためのパンチ4である。なお、アーマチャコアは、同形状にプレス成形された複数枚のラミネーションコア3を重ね合わせて構成される。
【0012】[調査結果1]
評価方法:プレス型に使用される21本のパンチ4のうち、1本に表面処理を実施したパンチ4を組み込み、その表面処理の有無による差異を比較した。但し、100万ショットをインターバルショット数として再研磨(再研磨量:0.2mm)する。インターバルショット数:製品品質上問題となるバリが発生するショット数。
評価項目:インターバルショット毎のパンチ先端の摩耗、チッピング量を測定する。パンチ4の測定部位は、図4(a)に示す様に、摩耗が発生しやすい2箇所(■、■)を選定した。
【0013】測定の結果、図4(b)に示す様に、表面処理を施していないパンチは、インターバルショット毎に摩耗量が増加し、且つパンチ側面(測定部位■)にダレが発生した。その結果、700万ショットの時点では、パンチ側面のダレ量(0.58mm)が大きく、完全に除去するには研磨量約0.6mm必要となる。これに対し、表面処理を施したパンチ4は、パンチ側面にダレが発生することはなく、且つ摩耗量もインターバルショット毎に増加することなく略安定(平均摩耗量:0.16mm)し、研磨量0.2mmで摩耗部位を完全に除去できる。上記の様に、表面処理の有無によってパンチ先端部の摩耗量に大差が生じ、表面処理の実施によりパンチ4の摩耗量減少に優れた効果が得られた。
【0014】[調査結果2]
評価方法:21本全てに表面処理を実施したパンチと、21本全てに表面処理を実施していないパンチとで、それぞれ表面処理の有無によるパンチ側面のダレ量の推移を調査した。なお、インターバルショット数を200万ショットとする。
評価項目:インターバルショット毎のパンチ刃先の摩耗量、パンチ側面のダレ量を測定する。
【0015】測定の結果、図5に示す様に、表面処理を施していないパンチでは、摩耗量が大きいため、インターバルショット毎の再研磨量が大きくなり、且つ1000万ショット毎にパンチ側面のダレを除去する必要が生じる。その結果、300万ショットで全研磨量がパンチ4の有効刃長さ(8mm)に到達する。これに対し、表面処理を施したパンチ4では、上記の[調査結果1]に示した様に、パンチ側面のダレが発生しないため、インターバルショット毎に0.2mm研磨するだけで常にパンチ刃先を最良な状態に維持することができる。その結果、8000万ショットまでパンチの寿命を延ばすことができ、表面処理の無いパンチと比較すると、約2.7倍の寿命延長を実現できる。
【0016】上記の様に、超硬合金への窒化処理によって素材の特性(表面硬度、耐摩耗性等)が向上する調査結果が得られたことにより、今まで実績が無かった超硬合金への窒化処理に対する期待及び需要が増大する可能性が高い。ここで、Fe, Cr, Al, Moを含有していない超硬合金でも窒化処理による効果が得られたことに対し考察した結果、推論ではあるが以下のように考えることができる。超硬合金は、WCとCoの焼結体であるが、微量ながらCoに不純物(Fe, Mo等)が含まれている。この超硬合金に窒化処理を実施すると、図6(a)に示す様に不純物の成分(Fe, Mo等)が窒化されて効果作用を発現するものと推定できる。その結果、WC-Co 間の結合力が強化されて耐摩耗性が向上し、且つ窒化された成分が潤滑性能も有するものと考えられる。
【0017】また、Co含有量が多い程、面粗度を示す数値が大きくなる理由は、素材表面のCo成分がガス中に遊離するものと考えられる。従って、Co含有量が少ないV10種の超硬素材は、図6(b)に示す様に、Co成分の遊離によって硬いWCが多く露出するため、被加工物(実施例ではピン2)側を摩耗しやすくなる。一方、Co含有量が多いV50種の超硬素材は、図6(c)に示す様に、潤滑性のある成分がCoと共に残りやすいため、表面処理によって面粗度を示す数値が大きくなっているにも係わらず、窒化された成分の影響で潤滑性が向上するものと思われる。但し、硬度については、微量成分による硬化作用よりもCoの延性の影響が大きく、それほど硬度は向上しない。
【0018】(本実施例の効果)超硬合金により製造された超硬工具に窒化処理(または軟窒化処理)を施すことにより、耐摩耗性及び疲労強度を改善でき、超硬工具の寿命を大幅に延長することができる。特に、実施例で説明したラミネーションコア3等のプレス成形品は、コストの約50%を型費が占めているため、工具(パンチ4)の寿命向上により型費の低減が可能となる。また、超硬合金のCo含有量が所定量(例えば8重量%)を超えると、窒化処理によって面粗度が上昇するため、その上に必要なコーティングを施す場合に、コーティング層との密着性を大幅に改善できる効果が得られる。
【出願人】 【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
【識別番号】593222366
【氏名又は名称】有限会社カナック
【出願日】 平成13年1月12日(2001.1.12)
【代理人】 【識別番号】100080045
【弁理士】
【氏名又は名称】石黒 健二
【公開番号】 特開2002−210525(P2002−210525A)
【公開日】 平成14年7月30日(2002.7.30)
【出願番号】 特願2001−5391(P2001−5391)