トップ :: B 処理操作 運輸 :: B05 霧化または噴霧一般;液体または他の流動性材料の表面への適用一般




【発明の名称】 塗布部材の製造方法及び装置
【発明者】 【氏名】川竹 洋

【氏名】橋本 和幸

【要約】 【課題】限界塗布速度を向上しながら縦スジ欠点等を生じない塗布部材の製造方法及び装置を提供する。

【解決手段】一対のリップ先端部間の吐出口から被塗布部材の表面に塗膜を形成する塗布装置において、下流側リップの先端部を上流側リップの先端部よりも水に対する接触角度を大きくしたこと、又は下流側リップ先端部の外側面の傾斜角度αを60°<α≦90°にしたこと、又は下流側リップの先端部を上流側リップの先端部よりも0.05〜0.3mm短くしたことを特徴とする。この塗布装置を使用して塗布液を被塗布部材に塗布する際、塗膜の厚みTを該被塗布部材Aと最大長のリップ先端部とのクリアランスHに対する比(T/H)を0.1〜1.0の範囲になるように塗布部材を製造する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 一対のリップ先端部の間に塗布液の吐出口を形成し、該吐出口に対して相対移動する被塗布部材の表面に塗膜を形成する塗布部材の製造装置において、前記塗膜の形成側に位置する下流側リップの先端部を、上流側リップの先端部よりも水に対する接触角度を大きくした塗布部材の製造装置。
【請求項2】 前記下流側リップ先端部と上流側リップ先端部との前記接触角度の差が20°以上である請求項1に記載の塗布部材の製造装置。
【請求項3】 一対のリップ先端部の間に塗布液の吐出口を形成し、該吐出口に対して相対移動する被塗布部材の表面に塗膜を形成する塗布部材の製造装置において、前記塗膜の形成側に位置する下流側リップ先端部の外側面が、前記被塗布部材の塗膜形成方向に対してなす傾斜角度αを60°<α≦90°の範囲にした塗布部材の製造装置。
【請求項4】 一対のリップ先端部の間に塗布液の吐出口を形成し、該吐出口に対して相対移動する被塗布部材の表面に塗膜を形成する塗布部材の製造装置において、前記塗膜の形成側に位置する下流側リップの先端部を上流側リップの先端部より0.05〜0.3mm短くした塗布部材の製造装置。
【請求項5】 前記下流側リップの先端部表面の前記被塗布部材の相対移動方向への長さL1 が、0.01〜0.5mmである請求項1〜4のいずれかに記載の塗布部材の製造装置。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載の装置を使用し、前記吐出口から塗布液を被塗布部材に塗布する際、その塗膜の厚みTと、前記被塗布部材から最大長のリップ先端部までのクリアランスHとの比(T/H)が、0.1〜1.0の範囲になるようにする塗布部材の製造方法。
【請求項7】 前記塗布液の粘度と表面張力および塗布速度から、下記式 Ca=(粘度×塗布速度)/(表面張力) ・・・・(1)
により無次元数で表されるキャピラリ数Caを0.01〜0.5の範囲にする請求項6に記載の塗布部材の製造方法。
【請求項8】 前記クリアランスHを0.02〜0.3mmにする請求項6又は7に記載の塗布部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塗膜を有する塗布部材の製造方法及び装置に関し、さらに詳しくは、塗布速度を高速にしながら縦スジ欠点を生じない生産性に優れた塗布部材の製造方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】被塗布部材の表面に塗膜を形成する塗布装置には種々の種類のものがある。これらの中でも、特に一対のリップの先端部間に塗布液の吐出口を形成し、その吐出口と被塗布部材との間に一定のクリアランスを設け、吐出口から吐出した塗布液を塗膜に形成するようにした方式のものは、高品質な塗膜を形成できるため多く使用されている。
【0003】しかしながら、上記方式の塗布装置は、クリアランスに形成される塗布液の液溜まり(この液溜まりを「塗布ビード」という)の安定性により、塗膜の品質が大きく影響されやすいという問題がある。特に、生産性向上のため塗布速度を増大すると、塗布ビードの大きさが相対的に小さくなり、やがて被塗布部材の随伴空気が吐出口を塞ぐようになる。このように随伴空気が吐出口を塞ぐときの塗布速度を限界塗布速度といい、塗膜面には品質上重大な欠陥である縦スジ欠点が発生する。
【0004】従来、上記縦スジ欠点の対策としては、塗布ビードの上流側を減圧にして随伴空気が吐出口を塞がないようにする方法とか、リップ先端部の改良により、吐出口よりも上流側のクリアランスに塗布ビードを安定保持し、随伴空気が吐出口を塞ぎにくくする方法等が提案されている。
【0005】しかし、前者の塗布ビード上流側を減圧にする方法は、塗布ビードを安定にする条件範囲が狭いため、塗膜厚みの精度や塗膜表面の平滑性が高度に要求される用途の塗布部材には適用が難しいという問題がある。
【0006】一方、後者のリップ先端部を改良する方法には、例えば特表平9−511682号公報に記載されるように、塗膜が形成される下流側リップの先端部をシャープにすること、すなわち、図6に示すように、下流側リップ先端部63tの下端面70の塗膜形成方向の長さL1 を短くし、シャープにすることが提案されている。
【0007】上記提案のように、下流側リップ先端部63tの下端面70の塗膜形成方向の長さL1 を短くするほど、塗布ビードBの下流側リップ先端部63tの外側面71からの液離れ点Eが吐出口78に近づくため、その近づいた分、塗布ビードBが吐出口78より上流側に移動し、吐出口78が被塗布部材Aの随伴空気によって塞がれにくくなる効果が認められる。しかしながら、下流側リップ先端部63tにおける長さL1 が短くシヤープになると、下流側リップ先端部の外側面71の上方側に塗布液が濡れ拡がるようになり、液離れ点Eが吐出口78から離れる傾向が生ずる。その結果、下流側リップ先端部63tにおける長さL1 を短くすることちよる効果が十分でなくなったり、さらには、塗布液が濡れ拡がった箇所に滞留が起こるようになり、その滞留した塗布液が経時的に劣化するため、新たな塗布欠陥を生ずるという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上述した従来の問題を解消し、限界塗布速度を向上しながら縦スジ欠点等を生じない塗布部材の製造方法及び装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達成するため、一対のリップ先端部の間に塗布液の吐出口を形成し、該吐出口に対して相対移動する被塗布部材の表面に塗膜を形成する塗布部材の製造装置を前提として、それぞれ次のような構成を特徴とする三つの異なる発明を提供する。
【0010】第一の発明は、前記塗膜の形成側に位置する下流側リップの先端部を、上流側リップの先端部よりも水に対する接触角度を大きくしたことを特徴とするものである。その接触角の差としては、20°以上にすることが好ましく、さらに好ましくは40°以上にするのがよい。
【0011】このように下流側リップの先端部の方を上流側リップの先端部よりも水に対する接触角度を大きくしたので、塗布液の濡れ広がり方が上流側リップ側には拡大し、下流側リップ側では抑制されるため、塗布ビードを全体的に上流側リップ側へシフトさせる。したがって、被塗布部材の随伴空気を吐出口へ近づけ難くし、限界塗布速度を向上させることができる。また、下流側リップ先端部の外側面からの塗布液の液離れ点を吐出口側へ近づけるため、下流側リップ先端部の外側面における塗布液滞留を防止し、その滞留塗布液の劣化に起因する塗膜欠陥を防止することができる。
【0012】第二の発明は、前記塗膜の形成側に位置する下流側リップ先端部の外側面が、前記被塗布部材の塗膜形成方向に対してなす傾斜角度αを60°<α≦90°の範囲にしたことを特徴とするものである。
【0013】このように下流側リップ先端部の外側面の傾斜角度αを60°よりも大きくすると、下流側リップ先端部の外側面での塗布ビードの濡れ拡がりが抑制されるため、液離れ点Eが吐出口側へ近づくように低くなり、第一の発明と同様の効果を得ることができる。
【0014】第三の発明は、前記塗膜の形成側に位置する下流側リップの先端部を、上流側リップの先端部よりも0.05〜0.3mm短くしたことを特徴とするものである。
【0015】このように下流側リップの先端部を上流側リップの先端部よりも上記範囲で短くしたことによって、下流側リップ先端部の外側面での塗布ビードの濡れ拡がりを抑制することができるため、液離れ点Eが吐出口側へ近づくように低くなり、第一や第二の発明と同様の効果を得ることができる。
【0016】上述した第一の発明〜第三の発明は、それぞれ個別に使用してもよいが、これら三つの発明から2以上を適宜組合せるようにしてもよい。例えば、第一の発明と第二の発明の組合せ、第一の発明と第三の発明の組合せ、第二の発明と第三の発明の組合せ、或いは第一の発明、第二の発明及び第三の発明の組合せなどである。
【0017】また、本発明に係る塗布部材の製造方法は、上記各製造装置を使用し、次の通り実施することを特徴とする。
【0018】前記吐出口から塗布液を被塗布部材に塗布する際に、その塗膜の厚みTと、前記被塗布部材から最大長のリップ先端部までのクリアランスHとの比(T/H)が、0.1〜1.0の範囲になるようにするものである。
【0019】このようにクリアランスHに対する塗膜の厚みTの比(T/H)を0.1〜1.0の範囲にすることで、限界塗布速度を高くしながら、長時間にわたり高品質の塗膜をもつ塗布部材を効率よく製造することができる。
【0020】また、上記塗布部材の製造方法においては、前記塗布液の粘度および表面張力と塗布速度から、次式1 Ca=(粘度×塗布速度)/(表面張力) ・・・・(1)
により算出される無次元数のキャピラリ数Caを、0.01〜0.5の範囲にすることが好ましい。さらに好ましくは、リップ先端部と被塗布部材とのクリアランスHを、0.02〜0.3mmの範囲に設定することが、塗布速度の向上と高品位な薄膜の形成に一層好適な条件になる。
【0021】
【発明の実施の形態】本発明において塗布部材とは、被塗布部材の表面に塗膜が形成されたものをいう。その代表例として、例えば、記録媒体用のベースフィルム、印刷版材、光学フィルタ、カラー液晶ディスプレイ用のカラーフィルタ、プラズマディスプレイ用の背面板などの電子情報部材を挙げることができる。
【0022】被塗布部材としては、連続形態のものでは、シート形態のものであれば特に限定はされない。例えば、樹脂フィルムなどのウェブ、アルミニウム箔等の金属箔などを挙げることができ、また枚葉形態のものでは、ガラス基板、金属板などを挙げることができる。
【0023】塗膜の形成に使用される塗布液としては、流動性をもつ液状体であれば特に限定はされない。例えば、感光性着色塗布液、レジスト、表面保護液、帯電防止液或いは滑性用塗布液などを挙げることができ、水や有機溶媒に高分子材料や無機物を溶解若しくは微分散させたものが多く使用される。
【0024】以下、本発明を、図に示す実施形態を参照しながら説明する。
【0025】図1は、本発明の塗布部材の製造装置に使用されるダイについて、部品を分離状態にして例示したものである。
【0026】塗布液吐出用のダイ1は、上流側リップ2と下流側リップ3との間にスペーサ4を介在させ、その両リップ2,3の先端部2t,3t間に塗布液を吐出するスリット状の吐出口8を形成するよう重ねられ、その状態でボルト5により締め付け固定されている。下流側リップ3の内面には、中央に塗布液の供給口6が設けられ、その供給口6から左右両側にマニホールド7が延長するように設けられている。
【0027】スペーサ4は、その厚みによって吐出口8のスリット幅を規制するため、両端を残して中央が切り欠かれた形状になっている。スペーサ4は必ずしも独立部品である必要はなく、上流側リップ2又は/及び下流側リップ3の連結面に段差加工により一体形成されていてもよい。
【0028】図2は、上述したダイの構成において、その吐出部分を前述した本発明における第一の発明を構成するようにしたものである。
【0029】図2において、ダイ1は、上流側リップ2及び下流側リップ3の先端部2t,3t間にスリット状の吐出口8を形成し、その下方にクリアランスHを介して被塗布部材Aを配置している。被塗布部材Aは、裏面側をロール(図示せず)に支持されて矢印方向に移動するようになっている。或いは、支持板(図示せず)に支持された状態でダイ1又は/及びこの支持板を移動させ、結果として矢印方向に相対移動されるものであってもよい。吐出口8から被塗布部材Aの表面に吐出された塗布液は、吐出口8の周辺に塗布ビードBを形成しつつ厚さTの塗膜Fを形成されるようになっている。
【0030】上記構成のダイ1において、上流側リップ2と下流側リップ3とは、例えばステンレス鋼、セラミック(アルミナ、SiC等)、超硬合金などの比較的親水性を有する材料から形成され、さらに下流側リップ3の先端部3tには、その下端面10と外側面11とに撥水層Dがメッキまたはコーティングされている。その撥水層Dは、例えば、ポリ四フッ化エンチレンなどのフッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂等の撥水性樹脂、又はこれら撥水性樹脂を分散共析させた材料から形成されている上記のように撥水層Dで被覆された下流側リップ3の先端部3tは、上流側リップ2の先端部2tよりも水に対する接触角度が大きい特性になっている。このように下流側リップ先端部3tと上流側リップ先端部2tとの間に与える接触角度の差としては、20°以上が好ましく、さらに好ましくは30°以上にするのがよい。また、親水性を有する材料としては、水との接触角度が50°以下、さらに好ましくは40°以下になるものがよい。
【0031】接触角度の差を生じさせる撥水層Dの厚みは特に限定されないが、2〜50μmの範囲が好ましい。撥水層Dが2μm未満では耐久性に欠け、また50μmよりも厚いと、撥水層Dの厚みむらが大きくなるため、下流側リップ先端部3tの加工精度の維持が難しくなる。また、下流側リップ先端部3tに撥水層Dが形成できない場合には、上流側リップ先端部2tの表面粗さを下流側リップ先端部3tの表面粗さよりも粗くすることで、下流側リップ先端部3tが上流側リップ先端部2tよりも水に対する接触角度を大きくすることができ、本発明の効果を奏することは可能である。
【0032】上述のように水に対する接触角度に差があるため、上流側リップ先端部2tは下流側リップ先端部3tよりも高い濡れ性を有している。そのため塗布ビードBの塗布液は、被塗布材料Aの移動方向(矢印方向)に逆らって、上流側リップ先端部3t側へ濡れ拡がりやすくなり、下流側リップ先端部3tの外側面11上の液離れ点Eを吐出口8に近い位置にする。その結果、塗布ビードBは吐出口8を中心にやや上流側にシフトして安定化するため、被塗布材料Aの随伴気流が吐出口8を塞ぐようになるまでの塗布速度の大きさ、すなわち限界塗布速度を上昇させることができる。
【0033】本発明において、水に対する接触角度の差は、上述したように20°以上が好ましく、より好ましくは30°以上が好適である。このように接触角度に差を設けることにより、塗布ビードBが変動しても、液離れ点Eを吐出口8付近に安定化させ、限界塗布速度を向上するだけでなく、塗布ビードBに滞留する塗布液の劣化も抑制することができるから、長期間にわたり高品位の塗膜を形成することができる。
【0034】本発明において、接触角度の測定に使用する水とは、特に限定されるものではなく、例えば一般の水道水でよい。また、水道水の無機イオン、有機物、1μm以上のコロイドや微粒子などの汚染物を分離、除去したRO水(逆浸透膜で濾過した水)、RO水をさらに活性炭やイオン交換樹脂などによって精製された電導度が0.08〜0.3μS/cm程度の純水などを使用してもよい。
【0035】また、接触角度の測定法としては、被測定物表面に上記水を2〜5μL程度滴下し、20秒後に水滴の球面と被測定物表面とがなす角度(被測定物表面の真横方向からみたときの接触角度)を、米国Ast Products社製接触角度測定装置VCA Optimaで、室温23±2℃、湿度60±10%の環境下に測定した値を基準とする。
【0036】撥水層Dの被覆方法は、特に限定されるものでなく、前述したコーティングやメッキ法以外に、焼き付け、焼き入れ、プラズマ処理など、撥水性材料に応じて適切なものを使用すればよい。また、撥水層Dは、必ずしも下流側リップ先端部3tの全表面に設ける必要はなく、例えば、下流側リップ先端面部3tの下端面10の長さL1 が0.5mm以下と非常に短く、シャープな場合には、撥水層Dは外側面11だけに設けても、上記効果が損なわれることはない。
【0037】図3に示すダイは、第一の発明に係る他の実施形態を示す。
【0038】この実施形態では、上流側リップ2および先端部2tを、ステンレス鋼や超硬合金などの親水性材料から構成し、他方、下流側リップ先端部3tを下流側リップ3の本体とは別部材にして着脱自在に構成し、その別部材をセラミックなどの撥水性材料にしたものである。このような構成により、下流側リップ先端部3tが上流側リップ先端部2tよりも水に対する接触角度が大きくなり、図2の実施形態の場合と同様の効果を奏するようになっている。
【0039】図4は、本発明において、前述した第二の発明の実施形態を例示したものである。
【0040】図4に示すダイ1は、下流側リップ先端部3tの外側面11が、被塗布部材Aの移動方向(矢印方向)に対する傾斜角αが、60°>α≧90°の範囲の傾斜面を形成している。
【0041】下流側リップ先端部3tの外側面11の傾斜角度αが、上記のような範囲であることにより、塗布ビードBの塗布液が先端部3tの外側面11に対して上方へ濡れ拡がらないように抑制することができる。したがって、外側面11に対する塗布液の液離れ点Eが吐出口8の付近に維持されるため、限界塗布速度を向上させることができる。また、塗布液の滞留が抑制されるため、滞留による塗布液の劣化を防止することができる。
【0042】傾斜角度αが60°以下の場合には、塗布ビードBが変動したときの反動によって、塗布液が下流側リップ先端部3tの外側面11の上方へ濡れ拡がり、液離れ点Eを吐出口8付近に維持できなくなる。したがって、上述した限界塗布速度の向上効果などを得ることが難しくなる。
【0043】傾斜角度αは大きいほど塗布液の濡れ広がりを抑制し、最大90°までにすることができる。しかし、下流側リップ先端部3tの下端面10の被塗布部材Aの移動方向への長さL1 が0.5mm以下である場合、特に0.2mm以下のシャープな形状にした場合には、先端部3tの剛性を維持するために、傾斜角度αは80°以下にすることが好ましい。
【0044】この第二の発明においては、下流側リップ先端部3tの外側面11の吐出方向の長さL2 は、0.1mm以上にすることが好ましい。長さL2 が0.1mm未満であると、塗布ビードBが変動した場合、その反動で塗布液が外側面11に濡れ拡がりやすくなり、塗布液の液離れ点Eを吐出口8の近傍に安定化させることが難しくなる。特に粘度や表面張力が低く、濡れ性の良い塗布液を塗布する場合には、上記の長さL2 は0.2mm以上にすることが好ましい。
【0045】長さL2 の上限は特に限定するものではないが、下端面10の長さL1 が0.5mm以下、特に0.2mm以下である場合には、下流側リップ先端部3tの剛性を確保するためにも、0.5mm以下にすることが好ましい。
【0046】図5は、本発明において前述した第三の発明の実施形態を例示する。
【0047】図5に示すダイ1は、下流側リップ先端部3tが上流側リップ先端部2tよりも、0.05〜0.3mmの範囲で短くなっている。すなわち、被塗布部材Aから遠ざかる方向に、距離L3 だけ後退した状態になっている。
【0048】短縮する距離L3 を、上述の範囲にすると、塗布ビードBの塗布液が下流側リップ先端部3tの外側面11に濡れ拡がらなくなるため、塗布液の液離れ点Eが下流側リップ先端部3tの下端面10の領域までピニングされ、塗布ビードBを全体的に吐出口8を中心から上流側にシフトするようになるため、限界塗布速度を向上することが容易になる。
【0049】短縮距離L3 が0.05mm未満であると、塗布ビードBが変動したとき、反動で液離れ点Eが不安定になりやすく、塗布ビードBを吐出口8の付近に維持することが難しくなる。逆に、0.3mmを超えると、吐出口8のスリット長手方向の両端部において塗布ビードBが不安定になり、塗膜Fの幅方向の変動が大きくなるため、塗布部材の品質が低下する。特に、塗布液の粘度や表面張力が低い場合には、塗布ビードBの両端部の挙動と液離れ点Eの安定性を確保するため、短縮距離L3 は、0.1〜0.2mmの範囲に設定することが好ましい。
【0050】上述した第一の発明乃至第三の発明において、下流側リップ先端部3tの下端面10の長さL1 は、0.01〜0.5mmにすることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜0.2mmの範囲にするのがよい。この下端面10の被塗布部材Aの移動方向への長さL1 が上記範囲であることにより、塗布操作の条件範囲を広くすることができ、一層限界塗布速度の向上を容易にすることができる。
【0051】また、下流側リップ先端部3tの下端面10と外側面11は、縁部(エッジ)を0.005〜0.05mmの範囲で平面又は円弧状に面取りすることが好ましい。この面取りは、特に高品位の塗膜が要求される用途の塗布部材を製造する場合に好適である。
【0052】さらに、本発明において、上流側リップ先端部2tの下端面12の長さ(すなわち、被塗布部材Aの移動方向の長さ)は特に限定されないが、好ましくは下流側リップ先端部3tの下端面10の長さL1 よりも長くするとよい。さらに好ましくは、上流側リップ先端部2tの下端面12の長さは、塗布ビードBが大きく形成された場合にも安定保持を可能にし、さらには、クリアランスHの設定作業を容易にするためにも、0.5mm以上にするのがよい。
【0053】上述した第一の発明乃至第三の発明は、それぞれ単独の使用によって上述した本発明の効果を奏するが、必要に応じて第一の発明乃至第三の発明を適宜2以上組み合わせるようにしてもよい。すなわち、第一の発明と第二の発明との組合せ、第一の発明と第三の発明との組合せ、第二の発明と第三の発明との組合せ、第一の発明、第二の発明及び第三の発明の組合せなどである。このような組合せによって、本発明の効果を一層顕著にすることができる。
【0054】次に、上述したダイを使用して塗布部材を製造する方法は、ダイ1の吐出口8を被塗布部材Aに対面させ、その被塗布部材Aを相対移動させるようにする。相対移動は、ダイ1や被塗布部材Aのいずれか一方を移動させてもよく、或いはダイ1と被塗布部材Aとの両方を移動させてもよい。このようにダイ1と被塗布部材Aとを相対移動させながら、吐出口8から塗布液を被塗布部材Aの表面に吐出して塗膜Fを形成する。
【0055】このような塗布液の塗布操作を行う際、上下流一対のリップ先端部2t,3tの最下端面から被塗布部材AまでのクリアランスHに対し、塗膜Fに形成された後の厚みTとの比(T/H)を、0.1〜1.0の範囲、好ましくは0.2〜0.5の範囲にする。クリアランスHと塗膜厚さTとの比(T/H)を上述の範囲にすることにより、上述した限界塗布速度の向上を可能にするとともに、塗布ビードBの滞留による塗布液の劣化を抑制することができ、塗布部材の製造効率を向上することができる。
【0056】上記比(T/H)が0.1未満であると、塗布ビードの形成自体が困難なため、限界塗布速度の向上効果は小さく、逆に比(T/H)が1よりも大きいと、限界塗布速度は向上するものの、下流側リップ先端部3tの外側面11に塗布液が溢れるようになるため、塗布ビードの下流側における塗布液の劣化を防止できなくなり、製品欠陥を生じやすくなる。 また、本発明の塗布部材の製造方法においては、塗布液の粘度と表面張力および塗布速度から、下記式(1)で無次元数として算出されるキャピラリ数Caを、0.01〜0.5の範囲にすることが好ましい。
【0057】
Ca=(粘度×塗布速度)/(表面張力) ・・・・(1)
このキャピラリ数Caが0.01よりも小さいと、塗布ビードへの表面張力の作用が大きくなりすぎて、液離れ点Eを吐出口8の近辺に安定させることが困難になる。また、0.5よりも大きいと、表面張力に対して粘性力の作用が支配的となり、表面張力の作用を利用する本発明の効果を奏しにくくなる。
【0058】キャピラリ数Caの算出に使用する塗布液の粘度は、回転式のシェアレート/シェアストレスタイプの粘度計により、せん断速度が50(1/S)のときに測定した粘度(Pa・s)を標準値とする。また、表面張力は、ペンダントドロップ画像分析とラプラス方程式を用いた絶対値カーブフィッティングにより少なくとも3回算出した値の平均値(N/m)を標準値として使用するものとする。これら塗布液の物性測定において、塗布液の温度は23±3℃に設定するものとする。
【0059】さらに、上記比(T/H)を上記設定範囲にするとき、クリアランスHは0.02〜0.5mmの範囲にすることが好ましい。さらに好ましくは、0.05〜0.2mmの範囲に設定することにより、限界塗布速度の向上効果と塗膜の高品位化を両立させることができる。
【0060】クリアランスHが0.02mmより小さい場合には、塗布厚みTを薄くしながら限界塗布速度を向上することができるものの、機械精度や振動によって塗膜の品位を低下させる恐れがある。逆に、0.5mmよりも大きい場合には、塗布ビードを形成できる塗布厚みTが厚くなりすぎるため、後に続く乾燥工程において塗膜むらを生じやすくなり、塗膜の品位が低下するようになる。
【0061】
【実施例】実施例1〜5,比較例1〜3下流側リップ先端部の長さL1 を0.05mm、外側面の傾斜角αを45°とする点を共通にし、かつ上流側リップ先端部および下流側リップ先端部の表面材質を表1のように変えて、両先端部間の接触角差(=下流側リップ先端部の接触角−上流側リップ先端部の接触角)を異ならせ、下記の塗布条件で塗布液の塗布を行ったときの限界速度(縦スジが発生するまでの速度)と塗布欠陥(所定塗布面積当たりの欠点数)を測定し、それぞれ下記定義による限界速度向上率と塗布欠陥減少率にした結果を総合評価と共に表1に示した。
【0062】〔塗布条件〕
塗布液の概略組成:(固形分)ノボラック樹脂、ポリウレタン、架橋剤、染料(溶剤) テトラヒドロフラン塗布液の粘度: 10Pa・s塗布液の表面張力: 30N/mクリアランスH: 100μm(上流側リップ先端部および下流側リップ先端部とも)
塗布厚みT: 30μm被塗布部材: アルミニウム箔【0063】〔限界速度向上率〕比較例2の限界速度に対する向上率として表した。
〔塗布欠陥減少率〕比較例2の塗布欠陥に対する減少率として表した。
【0064】〔総合評価の基準〕
◎: 塗膜品位・生産性(塗布速度)ともに非常に良好である。
○: 塗膜品位・生産性(塗布速度)ともに良好である。
△: 塗膜品位・生産性(塗布速度)の少なくとも一方が不十分なレベルで使用し難い。
×: 塗布装置として使用できない。
【0065】
【表1】

【0066】表1中の表面材質は次の通りである。
シリコーン: 東レ・ダウコーニング(株)製「SR2410レジン」
フッ素樹脂: デュポン社製テトラフルオロエチレン樹脂ニッケルメッキ: 具体的にはフッ素樹脂粒子含有無電解ニッケルメッキで、日本カニゼン(株)「カニフロンS」
【0067】実施例6〜11,比較例4〜6上流側リップ先端部および下流側リップ先端部を共にステンレス鋼で形成し、下流側リップ先端部の長さL1 と外側面の傾斜角αとを表2に記載のように異ならせた場合について、実施例1と同一の塗布条件で塗布液を塗布したときの限界速度向上率と塗布欠陥減少率の結果を調べ、総合評価と共に表2に示した。
【0068】なお、限界速度向上率と塗布欠陥減少率は、それぞれ比較例4を基準に計算したものである。
【0069】
【表2】

【0070】実施例12〜14,比較例7〜9上流側リップ先端部および下流側リップ先端部を共にステンレス鋼で形成し、下流側リップ先端部の長さL1 を0.05mm、外側面の傾斜角αを45°にする点を共通にし、下流側リップ先端部を上流側リップ先端部よりも後退させた(短くした)長さを、表3のように異ならせたときの限界速度向上率と塗布欠陥減少率と塗布幅変動とを調べ、総合評価と共に表3に示した。
【0071】なお、限界速度向上率と塗布欠陥減少率は、それぞれ比較例7を基準に計算したものである。また、塗布条件は、クリアランスHを上流側リップ先端部において100μmになるように設定した以外は、実施例1と同一にした。
【0072】
【表3】

【0073】
【発明の効果】上述したように本発明によれば、塗布ビードをダイの吐出口近傍に安定化させることができるため、被塗布部材の随伴空気を吐出口へ近づけ難くし、限界塗布速度を向上させることができる。また、下流側リップ先端部の外側面からの塗布液の液離れ点を吐出口側へ近づけるため、下流側リップ先端部の外側面における塗布液の滞留を抑制し、その滞留による塗布液の劣化から起こる塗膜欠陥を防止することができる。
【出願人】 【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
【出願日】 平成13年2月27日(2001.2.27)
【代理人】 【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一 (外2名)
【公開番号】 特開2002−248399(P2002−248399A)
【公開日】 平成14年9月3日(2002.9.3)
【出願番号】 特願2001−52638(P2001−52638)